赤ちゃんはね、キャベツ畑でセ○クスすれば出来るの
ゆゆこ
「な、何ですかこれは……」
目を覚ました射命丸文はその光景を見て愕然とした。
(思い出せ私……ッ! 私は昨日一体何を――)
文は人差し指を額につけると、二日酔いで痛む脳細胞にムチを打ち、なんとか昨日のことを思い出そうとした。
そう、全ては昨晩に起きたはずのことなのだ。
二日前、「鍋食いてぇ……」と、突然の鍋欲に駆られた博麗の巫女こと博麗霊夢が、幻想郷中に使者を解き放った。
使者の名前は霧雨魔理沙、そして伊吹萃香。
そして両者とも無類の宴会好きである。
二人は知り合いの家屋の戸を叩いては「鍋するぞ! とっとと具材持ってこい! もし持ってこなかったら手前が鍋の具じゃ、ガハハハ!」と山賊か借金の取立てのようなパワープレイで続々と参加者を集めていった。
まあ、もちろん彼らは霊夢の為に動いたのではなく、ただ単に自分達が呑みたいだけであったが、彼らが動いたことによって、あっという間に参加者は膨れ上がった。
そして、その中に彼女、射命丸文の名前もあった。
「えっと、それで……確か、朝まで飲み比べて死ぬほど食べて……それからどうしたっけ……」
ズキズキと痛む頭が昨日の壮絶さを語っている。
というか、彼女の目の前には死屍累々とばかりに、飲んだくれた者共の亡骸が部屋に所狭しと倒れている。そして、どいつもこいつもめちゃくちゃ酒臭い。奴隷船貿易や戦禍の病院もまっつぁおの人口密度と騒然さである。
宴会が始まると、みんなが持ち寄った具材をいくつかの鍋に分けて入れた。人数が人数なので、鍋の中身も様々十人十色。几帳面な奴らが作った鍋はやたらと彩が良く、適当な性格な奴らが作った鍋は異様にカオスな様態を晒していた。
特にその中で異彩を放っていたのは、謎の糸を引くキノコ鍋やら肉しか入ってない鍋。肉しか入ってない鍋は何の肉が入っていたかは語られていない。
『どんだけ肉食系女子なんだ……』と、文もそればかりは遠慮した。
と、まあ色々あったのだが、これはこれで中々楽しい宴会ではあった。
外は寒かったが、室内は人口密度と鍋とアルコールのせいで熱いくらいだった。開幕直後に氷の妖精チルノが具材と間違えられ鍋に放り込まれるなんてアクシデントもあったが、それはそれで盛り上がったものだ。ひどい話である。
そして、ここまでが文の覚えている昨日の記憶だった。
だが、問題はその先にあるのだ。しかし、いくら唸ってみてもさっぱり思い出せない。
「どうしよう……これ……」
そう、彼女が頭を悩ませていたのは、彼女の膝の上に乗っている『卵』だった。
そう、目を覚ました彼女の膝の上には、両手のひらより大きな一つの卵が置かれていたのだ。
(何かの間違いだと思いたい……)
というか、何かの間違いだろう。
なんで、この歳で子持ちにならないといけないのか……と文は思った。いや、まあ妖怪だから歳のことはアレなのだが、少なくとも自分が昨夜何か過ちを犯したとは思えない。
と、混乱していたが、冷静によく考えたら、そもそも妊娠して生まれるまで半日は短すぎることに気づいた。
「ああ、やっぱり違いますよね。多分この卵も昨日誰かが鍋に入れようとして持ってき――」
文は自分を納得させようとそう呟いた瞬間だった。
ゴトッ ゴトッ
「ひっ!? こ、こいつ! 動くぞ!」
文は驚いて危うく卵を落としそうになった。
しかし、驚くのは無理もない、その卵は突然激しく揺れたのだ。
となると、これはおそらく有精卵。食用ではないことが分かる。
「つ、つまりは本当に何かの卵で、もうすぐ何かが生まれてくる……!!? とりあえず落ち着け私! ヒッヒッフー!」
それに気づいた時、今自分が何かとんでもない状況に陥ってしまっていることに気づいた。動揺のあまり、思わずラマーズ呼吸法だ。
そう、この持っている卵は本物で、自分は烏天狗。何がマズいかって、この状況を見られたら色々誤解されかねない。
(新聞屋である自分がこんなスキャンダルを犯したと知られたら……)
文は背筋に冷たいものが走った。
「マズいですよ! 早く何とかしないと、このままじゃみんなに誤解を――」
ポン
その瞬間、彼女の肩に何かが触れた。
「え?」
その時の表情はえらく間抜けだっただろう。文は顔を上げて、ぎこちなく振り向いた。
すると、そこには何人もの昨晩の宴会の参加者が立っており、何故かみんな笑みを浮かべて文を見下ろしていた。
「あ、あやや……これはこれは皆さんおはようございます……」
文はこれまたぎこちなく言った。
と、先ほど文の肩を叩いた少女、霊夢が言った。
「文……」
彼女はほっこりと笑顔を浮かべている。
「式はうちで挙げてね」
「ちがーーーーーーーーーーーーーーう!!」
文は全力で否定した。ほら見たことか、速攻で誤解される羽目になった。
「あんたも苦労してるのね……格安で引き受けるからさ、ね?」
そう言いながらもいくつかのプランのパンフレットを出して文に勧める。いつの間にかそんなプランを作っていたのか。そして霊夢の目は漫画のように¥のマークになっている。やはり金目当てである。
「だから、ちがいますって!! 朝起きたらいきなりあったんですって!!」
文はそう何度も必死に弁明するが、みんな聞き耳を持っている様子ではない。
「こういうのは早くやっといたほうがいいって。ほら、案ずるより産むが安しっていうでしょ?」
「もう産まれてるんですよ!」
「ほら、やっぱりあんたの子なのね!? みなさーん! この子認知しましたよー! おめでたですよー!」
霊夢がそう叫ぶと周りの人達は拍手する。それにしてもみんなノリノリである。退屈な幻想郷だ、こんな風な事件が起きるとみんな飛びつく。更にいつも事件の話題を広げる文が張本人なのだ、みんな乗り気なのは間違いない。
「しまった!? なんという誘導尋問!」
文は失言したことを悔いた。
と、それを見て少し満足したのか霊夢は言った。
「ふ、まあ、冗談はこれまでにして、これはどうしたの? これ本物の卵?」
霊夢はそう言うと、文の持っていた卵をヒョイと手にとった。文はツッコミをしすぎて疲れたのか肩を落として答える。
「ええそうなんです……霊夢さん、これどうしましょう……?」
「んなん私の知ったことじゃないわよ。全く、うちは託児所じゃないのよ、まあ確かに子供みたいな奴は毎日来るけどさ」
「失礼だな、誰が子供だ」
と、霊夢の言葉を受けて後ろから黒いエプロンドレスを着た少女が現れた。彼女の名前は霧雨魔理沙。昨日の宴会ではしゃぎすぎたのか髪の毛が多少ボサボサになっている。
「あら魔理沙いたの?」
「ああ、昨日からな。いや、それより今日は赤飯でも持ってくるべきだったか?」
魔理沙はそう言うと霊夢の持っている卵と文を見た。
「だから違うんですって!! はぁ……なんでこんなことに……」
何度目か分からないが文は言った。
と、その卵を見て魔理沙は興味津々そうに言った。
「んーまあ、それがお前の子供にしろそうでないにしろ、どんな、生き物が生まれてくるか気になるな……そんな卵見たことないからなぁ……」
魔理沙は今まで見たことのある卵の記憶と照らし合わせながら、考えていた。しかし、その手のひらより大きな卵は見たことがなかった。
「気になるわねー妖怪の卵なんて初めて見たもの」
霊夢もまたそんな卵を見たことないので少し興味があった。まあ、最も妖怪が本当に生まれてくるのであれば、即座に退治しないといけないのが巫女の辛いところなのであるが。
その卵はいまだにゴトゴトと揺れていた。まるでいますぐにでも、殻を割ってが出てきそうなそんな雰囲気だ。少なくとも、生まれてくるのもの時間の問題に思えた。
「……気になる」
と、魔理沙は服の下に手を入れると何かを取り出した。
「ちょ、ちょっと待ってください!? なんですか! その手に持ったノミと金槌は!? 何をするつもりなんですか!?」
文は魔理沙の突然の凶行に驚愕した。彼女が持っている装備からして、無理矢理にでも卵の殻を破こうとしているらしい。
「ちょっとだけ、ちょっとだけでいいから! さきっちょだけ! 今夜だけだから!」
よく見ると魔理沙の目はグルグルと回っており正気を失っていた。どうやら二日酔いと昨日のキノコ鍋が効いているらしい。
「やめてください! 大きな声出しますよ!」
文はまるで痴漢にあった人かのように叫び、魔理沙から卵を話した。
と、その時、外から声がした。
「なんなんですか……騒がしいですね……」
そう言って中に入ってきたのは、ふた振りの剣を腰に携えた少女、魂魄妖夢だった。
「ああ、妖夢か」
そう、彼女は昨夜、遅くまで飲もうとした主を諌め、宴会から連れて帰ったのだった。それ故、彼女はこの惨状を知らないので、大いに驚いている。
それと同時に、現在の部屋に倒れる死屍累々の面々を見て、『ああ、帰ってよかった……』と安堵の表情を浮かべている。
「んで、妖夢は何しに来たの? 何か昨日忘れ物でも?」
霊夢は妖夢に向かって聞いた。そもそも妖夢は白玉楼で庭師をしており、何か目的がないとこちらに出向くことは少ない。
すると、妖夢は困ったように首を捻りながら言った。
「いえそれが……私にもよく分からないんですよ……。なんでも幽々子様が『何だか博麗神社から美味しい予感がするわ』と言ってですね……」
と、その時だった。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
「うっ!」
それは今までかつてない、威圧感、覇気――そして恐怖だった。
そして、ある人物の声が彼女達の背後から聞こえてきた。
「妖夢喜びなさい、今日は烏身(カラスミ)料理よ」
文は弾かれたかのように素早くそちらを向く。そして、そこに立つ人物を見て息を飲んだ。
「――西行寺幽々子……ッ!」
そう、そこにいたのは水色の着物を着た女性、西行寺幽々子だった。彼女はまさに何か獲物を見つけた時のように嬉しそうに文の方を見ている。表情は優しいが、その目は明らかに冷たく、殺気を放っていた。
「どうでも良いけど『カラス貝』と『ムール貝』って何が違うのかしら? まあ、美味しければどっちでもいいけど」
彼女はそんなことを呟いた。意味不明な言葉が今では逆に怖い。
「おやおや、西行寺の当主様がどうしたんですか? 私に何か用でしょうか?」
文は勇気を振り絞りそう言う。しかし、その手の震えだけは隠せない。すると、一段と笑顔になった幽々子は言う。
「鳥が卵持ってくるなんて良い時代になったものね、そんなにとじて欲しいのかしら? 親子丼って欲しいわけね、美味しそうね(食欲的な意味で)」
その言葉が意味していることはみんなすぐに分かる。
「しかも『きんしんそーかん』ってマニアックすぎるわよ」
「っていうかこの卵は私の子供じゃないです!」
「ふ~ん、なら合法ね」
幽々子がそう言って一歩前に踏み出した瞬間だった。
文は羽を広げると、地面を蹴り上げ宙を舞った。
(ヤバい。絶対、あの人はヤバい……ッ!)
50%は冗談だろうが、950%は本気である。100%なんてとうの昔に振り切れている。しかし、逃げ足なら負けはしない。今すぐこの場所から脱出することが先決だろう。
と、そんな風に全力で逃げた文を見て、幽々子は何かを呟いた。
「残念ね。魔理沙やっちゃって」
「おうさ。その代わり殻を剥くのは私にさせてくれ」
そう言うと、既に頭がどうにかしちゃっている魔理沙はゴソゴソと何かを取り出すと、その照準を文に合わせた。
「!?」
文は突然、背後から轟音を立てて飛んでくる物に気づいた。
そして、後ろを振り向くと、一発の何やら鉄の塊が自分目掛けて飛んでくるのを見た。
「ひぶっ!? うわああっ!!」
それは文の頭にスコーンと当たると爆発した。その衝撃で彼女は地面に墜落した。
「あだだだ……ちょ、ちょっと何ですかその武器は……!? 妖怪の私でなかったら死んでますよ!!」
文はふらつく体を起こすと、魔理沙の持つ武器を見て言った。
「ん~今丁度八卦炉は香霖にメンテに出しててな。まあ代わりの武器を借りてきた。なんかブラックホークとか落とせるらしい。黒い鷹が落とせるなら、烏にも有効だろう?」
「そんな無茶苦茶な――」
文は卵が無事か確認した。だが、何とか無事なようで、彼女はほっとした矢先の出来事だった。
「じゅるり」と言った喉を鳴らす音が後ろから聞こえた気がした。
「ひっ!?」
幽々子の手は文の肩をガッチリと掴んでいた。
「鴨がネギ背負って、ついでに小脇に鍋と豚肉と鶏肉と白菜と――」
彼女の目はマジだった。しかし、それにはあまりにも計画的すぎる発言だ。それにその量は小脇に抱えられる量ではない。というか、その量は明らかに寄せ鍋する気である。
「そして最後にカレールーを……そぉい!」
「カレーにする気だ!?」
やはり、彼女は今正気ではない。しかし、彼女を止めることの出来る人物はここにはいなかった。みんな、素知らぬ顔、関わらないように顔を背けている。
(こ、これはマズいのでは……)
文は卵を隠し、何とか守ろうとする。しかし、幽々子はジリジリと近寄り捕食の体勢をとった。
「じゃ、安心した所で――って痛っ!?」
「!?」
それは突然の出来事だった。突如、空間に断層が走ったかと思うと、その中から扇子を持った一本の手が現れ、幽々子の額をペチリと叩いた。
「はい、そこまで」
その空間の断裂から女の声が聞こえた。
二人が驚いていると、その断層は更に広がり、中から一人の女性が出てきた。彼女の名前は八雲紫、スキマ妖怪だ。
「ゆ、紫!? 何するのよ!?」
その突然の邪魔者の登場に幽々子は噛み付く。いや、本当に噛み付かんばかりの勢いだ。すると紫は、はぁ……とため息をついた。
「全く意地汚いんだから……。まあ、いいわ。今日の本題はこっちにあるんだから」
そう言うと、紫は硬直している文の方を向いた。彼女の視線は文が抱えている卵に向けられている。
「うっ……」
文はその視線に気づくと、紫から見えないように、後ろに卵を隠した。しかし、それを見て紫は微笑む。
「大丈夫、大丈夫。取って喰やしないわ。だけど、少し話を聞いてもらえる?」
紫はそう言った。だが、胡散臭い紫の言うことだ、文にはそう簡単には信用できない。
「……紫、あの卵は一体何なの?」
すると、その場に駆けつけた霊夢が聞いた。
紫は霊夢の方をチラリと見ると、口を開いた。
「あれはね、『向こうの世界』で絶滅しそうなある生き物の卵なのよ」
「向こうの世界の……?」
そこにいたみんなはその言葉を上手く飲み込めない。
しかし、紫は続けて言う。
「そうよ。今、向こうの世界では今、多くの生物種が絶滅にひんしているわ。それは乱獲されたり、環境破壊が進んだりして生態系のバランスが崩れてしまったからなの。そこで、私ちょっと色々試そうと思って持ってきたのだけど――」
「ふーん、じゃあその卵は鳥類なのか。いや、亀みたいな両生類って言うのも考えられるな」
その話に興味を持ったのか、魔理沙が楽しげに聞いた。
「いいえ、違うわ」
「え?」
すぐさま紫がその言葉を否定したので魔理沙は驚いた。
「この生物の絶滅しそうな理由はね。主なものは環境破壊なんだけど、もう一つの理由は『育児放棄』なの」
「「『育児放棄』?」」
「そう、哺乳類は母親の体内である程度育って出てくる。しかし、まだその状態では不完全で、親から餌をもらったり、守って貰わないと生きていけない。だけど、この生物は親が子供を育児しないことが多いのよ。その結果、子供が生まれてすぐに死んでしまって数が減っているというわけ。そこで私は『胎生と卵生の境界』弄って件の生き物を卵生にしてみたの」
「ああ、分かった。子供を卵生にすることで、放棄されてもしばらくは生かそうっていう算段だな」
「そうよ。ある程度、少なくとも自分で餌が取れるまで卵のまま成長させれば、親から育児放棄を受けても大丈夫だと私は考えたわ。まあ、最もこの作戦は失敗で、逆に外敵から襲われ易くなってしまったのだけどね」
紫は言った。そう、卵は動けないのだ。もし肉食の動物に見つかってしまえば、殻を破かれてすぐに食べられてしまうだろう。
それにあれだけ大きな卵よ。いくらなんでも目立ちすぎる。
「そこで、どうしようかなと考えていたんだけど、昨日途中、神社に寄った時にちょうどいい適任がいたから預けてみたのよ。んで、それが貴方」
紫は再び文の方を向いた。文は反射的にビクッと体を震わせる。
「うわー、つまりは母性本能を利用して卵を守らせようって算段ね。エグいことこの上なしだわ……流石は妖怪」
霊夢は合点がいったようで、冷たく言い放つ。
「まあ、そう言わないでちょうだい。けど、一日母親体験は出来たみたいね。あんなにも必死に守っちゃって。やはり烏天狗と言えども、自分の子供には優しいのね」
「ち、がっ! 違いますっ!」
文は顔を赤くして、必死に否定する。
と、そのとき、妖夢がポンと手を叩き能天気に言った。
「え、赤ちゃんですか? おめでとうございます!」
「い、いや、違うんだけど……」
そうだった、妖夢はこの現状を知らなかったのである。文はもう何度目になるのか、呆れて言った。と言うか、妖夢はさっきまでの紫の言葉をちゃんと聞いて理解していたのか怪しい。
「なんだ、無性卵じゃないの……」
すると、幽々子は残念そうにその場を去ろうとした。ようやく、危機が去ったと、文は安堵した。
が、ここにとんでもないことを吹き込む奴がいた。魔理沙である。
「あー、まだ生まれてない有精卵も食べられると聞いた。なんでもホビロンって言って珍味らしいぜ」
それを聞いてピタリと幽々子の動きが止まった。
「ほほう」
キリキリとぜんまい仕掛けのように幽々子は再び文の方を向く。
「やめい!」
同時に、再び紫の張り手が幽々子の頭を直撃した。
と、紫は妖夢を見て、ニヤリと笑ったかと思うと彼女に向かって聞いた。
「妖夢、貴方、どうやったら赤ちゃんが出来るか知ってる?」
「え、もちろん知ってますよ! バカにしないでください!」
そう言うと、妖夢はぷりぷりと怒りながら言った。
「確か『切腹したら子供が出来る』って」
「何よその血なまぐさい方法……」
接吻したらならわかるが、流石にその言葉にドン引きだ。まあ、人によっては出産時に腹を切る人はいるが。
「幽々子、ちゃんと教えてあげなさい」
すると、紫がそう言うと幽々子が「任せろ」とばかりに笑顔で妖夢に言った。
「はーい。妖夢、教えてあげる。赤ちゃんはねコウノトリがね……」
「セッ○スして出来るの」
「微妙に生々しい!? っていうか、それなら生物はみんなコウノトリなのかよ!?」
周りにいた人達はみんなツッコミを入れた。その理論はダーウィンもビックリの進化論だ。
「まあ、百合の世界ではよくあることよね」
「ねーよ!」
「以上、西行寺流やさしい性教育でした」
優しいというより、やらしいと言ったほうが正しい表現だろう。
と、みんなが呆れた表情で幽々子を見ていた時だった。
パキン
「た、卵が!?」
そう、突然卵の殻にヒビが入り、パキパキと割れだしたのだ。
みんなすぐさま注目し、近寄る。
「あら、本来ならもっと大きなってから生まれるはずだったんだけど、境界を弄る加減を少し間違ったかしら」
紫は小さく呟いた。しかし、卵はみるみるうちに割れていき、間もなくして、その中から一匹の動物が現れた。それは白と黒のしましまの動物で、見た目熊のようだった。
「なんだ、魔理沙の子供か……式はうちでやってね」
霊夢は魔理沙に向かってそう言った。
「違うぜっ!?」
魔理沙は突然の母親の矛先が向いたので驚きの声を上げた。
しかし、霊夢はそれを無視して紫に聞く。
「これ何?」
「これはパンダという生物よ。好物は竹の葉っぱだから、ちょっと永遠亭に解き放とうと考えてるんだけど……」
紫はしれっとそう言った。突然現れた謎の生物に、明らかにイナバ達が驚く姿が目に浮かぶ。
「けど、こんなちっちゃいときから竹なんて食べるの?」
「いえ、子供の時はミルクからよ。一応哺乳類だし」
「よし、けーねでも呼んでいっちょ、乳をひねり出そう!」
そんな風にみんなワイワイとはしゃぎだした。パンダの赤ちゃんのその愛くるしい姿にみんなの母性本能がくすぐられていた。
その中でも文はずっと一緒にいたためか、その動物にやたらとなつかれていた。
「ふふ、『母は強し』ってやつね」
遠巻きにその光景を見ていた幽々子は妖夢に向けてか、独り言のように言った。
「ゆゆこ様……」
妖夢はその主の姿を見てフッと笑った。すると、続けて幽々子は口を開く。
「母は『つよし』、つまり、父親は『たけし』ね」
「は、何言ってるんですか!? そう言う意味の言葉じゃないですから! っていうか、同性愛!?」
「息子はボブ」
「なんで急に外人!? 何その複雑な家庭環境!」
「じゃあ、キャベツさん太郎?」
「それはお菓子ですよね!?」
「悲しい話よね。ああ、お菓子で思い出したけど、今日の晩ご飯だけど、いっぱいの目玉焼きをご飯に乗せて王蟲ライスってのは?」
「気味悪いわ!」
「あらあら妖夢、気味と玉子の黄身をかけてるのね、んふっ! かけるのはご飯の上にだけにしなさい」
「(斬ろうかな、この主人……)」
そんなこんなの騒動で一日が終わった。
その後、その愛くるしい生物は大きくなった後、元いた『向こうの世界』に戻された。
文は気丈を張っていたが、悲しげにその子供に手を振った。
愛情を持って育てられた仮の我が子が、ちゃんと愛情を持って子供を育てられることを信じて。
(おわり)
展開がリズミカルでとても良かった。
王蟲ライス…食べてみようかな
恐縮ですがコメントを返させていただきます
>2.清香月
読んでくださいましてありがとうございます
書いている際はリズム調節が難しかったのですが、そのように評価していただけて幸いです
>3.名前が無い程度の能力
テンポ良くすることを重点に置いていたのでそう言ってもらえると嬉しいです
ありがとうございます
>4.奇声を発する程度の能力
読んでくださいましてありがとうございます
クスリとでも笑ってもらえたら光栄です
>12.名前が無い程度の能力
あ、RPG!!!!!
映画、もしくはCAPCOMのヘリの落ちる率は異常ですね
>18.名前が無い程度の能力
ありがとうございます
大変励みになります
>20.名前が無い程度の能力
ありがとうございます
王蟲ライスは卵のせいでカロリーが大変なことになりそうですね
>23.名前が無い程度の能力
ありがとうございます
思わず最後は爽やかめに終わりましたけど、思えば最初の一文が酷すぎましたね…
しかも微妙にいい話にしようとしてからに