カレーうどんは世界を救う。
鈴仙は心からそう思った。
カレーうどんへの感謝の念を胸いっぱいに、鈴仙は数日前の出来事を振り返った。
~カレーうどんげ~
「鈴仙、ちょっと」
「あ、姫様」
そろそろ昼食の仕度でも始めようかと思っていた頃、鈴仙は自分の主である蓬莱山輝夜に声をかけられた。
このタイミングでの声掛けとなると、恐らく昼食のリクエストだろう。
そう思って鈴仙は特に構えることなくそれに応対した。
「昼食の準備はまだよね」
「えぇ、これからです。今日は何にしましょうか?」
「カレーうどんが食べたいわ」
「カレーうどんですか。たまにはいいですね。それじゃあさっそく作りは――」
「カレーうどんを食べに行きたいわ」
「――じめま……はい?」
思いもよらぬ言葉に耳を疑う。
「今、なんと?」
「だから、外にカレーうどんを食べに行きたいって言ったのよ」
「誰がですか?」
「私に決まってるじゃない」
「いつ行くの?」
「今でしょ! って何言わせるのよ! あぁもう!」
じれったく思ったのか、輝夜はがしがしと頭を掻いた。
「人間の里に美味しいって評判のうどん屋さんが出来たって聞いたのよ。しばらく外にも出てないし、奢ってあげるからついてきなさい」
「え、姫様の奢りですか? やったー!」
奢りと聞いては行かない手はない。
鈴仙は嬉々として輝夜の誘いに乗った。
残りの住人の昼食を用意しなかったことに対する永琳のお仕置きのことなど頭の隅に追いやって。
鈴仙たちがやってきたのは、うどん処『葉月』
吟味された食材と卓越した腕前で人里の人気を博している新進気鋭のうどん屋である。
のれんを掻き分けると、店の中は大勢の人間で賑わっていた。
「わあ、さすがに混んでますね」
「そうねぇ、待たされちゃうかしら」
「まぁ人気のお店らしいですから、多少はしょうがないですよ」
「私、姫なんだけど」
「じゃあお忍びってことで我慢してください」
「むー」
そんな会話をしていると、奥からパタパタと給仕がやってきた。
「いらっしゃいませー! おまたせしてすみません」
「全くだわ」
「あはは、ごめんなさい。なんだかとっても忙しくって」
「この私を待たせるなん」
「姫様」
「むぎゅう」
鈴仙にほっぺたをつねられた輝夜は素直に黙った。
「二名様ですか?」
「はい」
「では、こちらへどうぞー!」
笑顔で席へ促される。
この賑わいに対して、店員の数が足りているとは思えない。給仕の額に浮かぶ玉のような汗がその証左だろう。それでも明るく、楽しそうに仕事をする給仕を見て鈴仙は「人気の理由は、味だけの問題じゃないのかも」などと思った。
席に通され一息ついた二人は、特に示し合わせたわけではないが、黙って品書きを見始めた。
「鈴仙、うどん屋あるあるを思いついたわ」
「なんですか?」
「鈴仙と二人でカレーうどんを食べようと人里のうどん屋に入って、頼むものは決まっているのにお品書きを見ちゃう」
「えらく限定的ですね……あるあるって言うんですかそれ?」
「言うのよ、今に限っては」
「え、いつって言いました?」
「今でしょ! ってネタの天丼はやめなさい。ここはうどん屋よ」
「失礼しました……上手いですね」
「美味いかどうかは、食べてから」
そんなくだらないやり取りをしつつ、カレーうどんを二つ注文する。しばらくすると先ほどの給仕の女性がお盆に湯気の立つどんぶりを二つ持ってきた。
「はい、おまたせしました。お熱いのでお気を付けてくださいね?」
「はーい」
マニュアルがあるのかないのかは知る由もないが、親切な一言がなんとも暖かい。根拠はないが、味にも期待が持てた。
「わは、おいしそ~」
「いい匂いね」
「そうですねー。さ、食べましょ食べましょ」
どんぶりを目の前に、鈴仙と輝夜は「いただきます」と合掌した。
アツアツのどんぶりを両手で持ち、鼻先に近づけるとふわりと湯気が面前に立ち込める。スパイスの利いたカレー独特の香りになんとも食欲を刺激させられる。まずは一口汁を口に含む。――瞬間、香りは一気に口の中にひろがり、鼻から突き抜けた。あとからじわりと温かみのある味わいがやさしくひろがっていく。カツオ、ニボシといった魚介の味わいと醤油の合わさった和風出汁。それがカレーのスパイシーな風味と合わさって見事な調和を魅せている。
一口で鈴仙は確信した。
この店は本物だと。店主の葉月は只者ではないと。
たったの一口でここまでの感動を与えてくれるカレーうどん。麺に手を出したらどうなってしまうのだろう?
鈴仙の胸は期待と不安でいっぱいだった。
麺を掴み、持ち上げる。輝くほどに美しい白の麺に、どろりとした濃厚なカレーの汁が絡みつく。堪らず口に運ぶ。ちゅるんと啜られた麺からは汁が一滴二滴、鈴仙の胸元を汚した。流れるようになめらかに、ちゅるちゅると口に啜られた麺を咀嚼する。するとどうだろう、カレーの強烈な香りと和風出汁の味わいの奥からもう一つ、“甘味”がやってきたのだ。噛めば噛むほどに溢れ出てくる小麦粉本来の甘味が、カレーと一緒に煮込まれてなお失われずに自己主張している。鈴仙はある種の感動を覚えながら、豚肉に手を伸ばす。肉は柔らかければ上質なものであり、味のランクも高いというのが一般的な認識だ。鈴仙はここで常識を覆される体験をした。肉が固い。しかし、それが狂おしいほどに美味しいのだ。使われているのは身と脂がはっきりと分かれている筋張った豚肉だ。決して高級品とは言えない代物だろう。けれど、だからこそ肉本来の旨みがその肉の中に留まっており、噛むことで初めてそれが外に出る。筋張った肉は何度も噛まないととてもではないが飲み込めない。だがそうすることによって肉から出る肉汁がカレーの汁と合わさりワンランク上の味わいを演出してくれるのだ。さらには忘れたころに口の中に入ってくるネギの存在。これが夏場に於ける一陣の風のような清涼感をもたらしてくれている。
――美味い。
熱々なカレーうどんだったが、火傷すらいとわないと思えるほどに美味い。
弾力のある麺を唇で感じ、口いっぱいに含み、わしわしと咀嚼する。十分に麺の甘味がひろがったところでお椀に口をつけ香り深い汁を、一気に流し込む!
口で、鼻で、胃で。箸を持つ手ですら幸せを感じる。
見事な――誠に見事なカレーうどんだった。
「うん……まぁあ!!」
鈴仙の額はじっとりと汗ばんでいる。
しかしそれを気にする様子もなく、幸せそうに、本当に幸せそうにうどんを啜る。胸元なんてカレーの汁が飛びまくっている。
「はぁー、すっごく美味しいですね、姫様! ……姫様?」
鈴仙は無言の輝夜を不審に思った。見ると肩をぷるぷると震わせている。
「ひ、姫様? どうしたんですか?」
「鈴仙……決めたわ……」
「へ? 決めたって、何を?」
「私――この店で働くわ!」
「へぇあ……」
「なんとも気の抜けた返事ね」
「は、はた……ちょ、えええ!?」
「まぁ、時間差攻撃」
「攻撃はしてませんが」
「つばが飛んだ」
「それは失礼を」
追いつかない思考を必死に回し言葉を紡ぐ。
「え、は、働くって、姫様がですか?」
「そうよ。私はここのカレーうどんに感銘を受けたわ。この味を知って、はいさよならじゃ、余りにも惜しいわ」
「惜しい」
「残念と言っても過言ではないわ」
「残念」
「えぇ。何としても自分のものにしたいわ。そして、それを人々に提供したいのよ」
「心意気は立派ですが、働くということは簡単ではありません。頭にTHEが付くほど立派なニートではありませんか」
「まぁ、立派だなんて」
「褒めてませんが」
「喜んでもないわよ」
ピキッ。
「こほん……。とにかく、姫様に務まるとは思えませんが」
「鈴仙」
輝夜は真剣な表情で話し始めた。
「私はね、鈴仙。生まれてこの方、ずっと姫だったわ。人々の寵愛を一身に受け、数知れない求愛を排してきた」
「自慢話ですか?」
「いいえ、真面目な話よ。私は――今まで誰かに何かを与えることをしたことがなかった。与えるということを許されなかった」
悲しげな表情で輝夜は首を振る。
「いえ、それは言い訳ね。その気もなかったに違いないわ。鈴仙、わかる? 私はそんな自分を変えたい。変わりたいのよ」
「……」
「たかがカレーうどん、されどカレーうどん。私は感動したわ。里の一角にある、永遠亭に比べたらなんとも小さなこの店で、こんなにも大きな感動を与えられる、この仕事に。鈴仙、私は試してみたい。不変である私が、変わることに挑戦してみたいの! 幻想郷なら、それを許してくれる気がするから……」
「姫様……」
輝夜が本気だということを感じた鈴仙は、静かにうなづいた。
「……わかりました。そこまで言うのならもはや留め立てはしません。店主は私が何としても説得してみせます!」
「鈴仙……」
「姫様、私は感動しました。普段ちゃらんぽらんしてても、腐っても姫。最終的には人の上に立つ人物なんですね。心ゆくまで修業してください!」
「多少引っかかるけど、まぁいいわ。ありがとう鈴仙。私、頑張るわ!」
「今の姫様なら、途中で投げ出すなんてこともないでしょう。応援してます!」
「当然よ! そんなことになったら、鼻からカレーうどんを啜ってあげるわ!」
斯して、輝夜はうどん処『葉月』で働くことになったのである。
鈴仙は輝夜の自立を嬉しく思い、確かな満足を胸に家路へと就いた。
カレーうどんは世界を救う。
鈴仙はこの三日間、そのことばかり思っていた。
店に向かう道中、季節の移り変わりを感じることができる。
着けば人との会話、つながりができる。
食べれば口に幸せを、お腹に満足を。店側は客の笑顔を、金銭を得ることができる。
さらには就職が決まるなんていうオマケ付きだ。
――行ってよかったなぁ。
あの空気やカレーうどんの味を思い出すように鈴仙は目を瞑り、想いを馳せる。
「今度、私も本格的に作ってみようかなぁ……なんてね」
そんなことを考えつつ、鈴仙は輝夜の鼻にカレーうどんを流し込んだ。
おしまい
鈴仙は心からそう思った。
カレーうどんへの感謝の念を胸いっぱいに、鈴仙は数日前の出来事を振り返った。
~カレーうどんげ~
「鈴仙、ちょっと」
「あ、姫様」
そろそろ昼食の仕度でも始めようかと思っていた頃、鈴仙は自分の主である蓬莱山輝夜に声をかけられた。
このタイミングでの声掛けとなると、恐らく昼食のリクエストだろう。
そう思って鈴仙は特に構えることなくそれに応対した。
「昼食の準備はまだよね」
「えぇ、これからです。今日は何にしましょうか?」
「カレーうどんが食べたいわ」
「カレーうどんですか。たまにはいいですね。それじゃあさっそく作りは――」
「カレーうどんを食べに行きたいわ」
「――じめま……はい?」
思いもよらぬ言葉に耳を疑う。
「今、なんと?」
「だから、外にカレーうどんを食べに行きたいって言ったのよ」
「誰がですか?」
「私に決まってるじゃない」
「いつ行くの?」
「今でしょ! って何言わせるのよ! あぁもう!」
じれったく思ったのか、輝夜はがしがしと頭を掻いた。
「人間の里に美味しいって評判のうどん屋さんが出来たって聞いたのよ。しばらく外にも出てないし、奢ってあげるからついてきなさい」
「え、姫様の奢りですか? やったー!」
奢りと聞いては行かない手はない。
鈴仙は嬉々として輝夜の誘いに乗った。
残りの住人の昼食を用意しなかったことに対する永琳のお仕置きのことなど頭の隅に追いやって。
鈴仙たちがやってきたのは、うどん処『葉月』
吟味された食材と卓越した腕前で人里の人気を博している新進気鋭のうどん屋である。
のれんを掻き分けると、店の中は大勢の人間で賑わっていた。
「わあ、さすがに混んでますね」
「そうねぇ、待たされちゃうかしら」
「まぁ人気のお店らしいですから、多少はしょうがないですよ」
「私、姫なんだけど」
「じゃあお忍びってことで我慢してください」
「むー」
そんな会話をしていると、奥からパタパタと給仕がやってきた。
「いらっしゃいませー! おまたせしてすみません」
「全くだわ」
「あはは、ごめんなさい。なんだかとっても忙しくって」
「この私を待たせるなん」
「姫様」
「むぎゅう」
鈴仙にほっぺたをつねられた輝夜は素直に黙った。
「二名様ですか?」
「はい」
「では、こちらへどうぞー!」
笑顔で席へ促される。
この賑わいに対して、店員の数が足りているとは思えない。給仕の額に浮かぶ玉のような汗がその証左だろう。それでも明るく、楽しそうに仕事をする給仕を見て鈴仙は「人気の理由は、味だけの問題じゃないのかも」などと思った。
席に通され一息ついた二人は、特に示し合わせたわけではないが、黙って品書きを見始めた。
「鈴仙、うどん屋あるあるを思いついたわ」
「なんですか?」
「鈴仙と二人でカレーうどんを食べようと人里のうどん屋に入って、頼むものは決まっているのにお品書きを見ちゃう」
「えらく限定的ですね……あるあるって言うんですかそれ?」
「言うのよ、今に限っては」
「え、いつって言いました?」
「今でしょ! ってネタの天丼はやめなさい。ここはうどん屋よ」
「失礼しました……上手いですね」
「美味いかどうかは、食べてから」
そんなくだらないやり取りをしつつ、カレーうどんを二つ注文する。しばらくすると先ほどの給仕の女性がお盆に湯気の立つどんぶりを二つ持ってきた。
「はい、おまたせしました。お熱いのでお気を付けてくださいね?」
「はーい」
マニュアルがあるのかないのかは知る由もないが、親切な一言がなんとも暖かい。根拠はないが、味にも期待が持てた。
「わは、おいしそ~」
「いい匂いね」
「そうですねー。さ、食べましょ食べましょ」
どんぶりを目の前に、鈴仙と輝夜は「いただきます」と合掌した。
アツアツのどんぶりを両手で持ち、鼻先に近づけるとふわりと湯気が面前に立ち込める。スパイスの利いたカレー独特の香りになんとも食欲を刺激させられる。まずは一口汁を口に含む。――瞬間、香りは一気に口の中にひろがり、鼻から突き抜けた。あとからじわりと温かみのある味わいがやさしくひろがっていく。カツオ、ニボシといった魚介の味わいと醤油の合わさった和風出汁。それがカレーのスパイシーな風味と合わさって見事な調和を魅せている。
一口で鈴仙は確信した。
この店は本物だと。店主の葉月は只者ではないと。
たったの一口でここまでの感動を与えてくれるカレーうどん。麺に手を出したらどうなってしまうのだろう?
鈴仙の胸は期待と不安でいっぱいだった。
麺を掴み、持ち上げる。輝くほどに美しい白の麺に、どろりとした濃厚なカレーの汁が絡みつく。堪らず口に運ぶ。ちゅるんと啜られた麺からは汁が一滴二滴、鈴仙の胸元を汚した。流れるようになめらかに、ちゅるちゅると口に啜られた麺を咀嚼する。するとどうだろう、カレーの強烈な香りと和風出汁の味わいの奥からもう一つ、“甘味”がやってきたのだ。噛めば噛むほどに溢れ出てくる小麦粉本来の甘味が、カレーと一緒に煮込まれてなお失われずに自己主張している。鈴仙はある種の感動を覚えながら、豚肉に手を伸ばす。肉は柔らかければ上質なものであり、味のランクも高いというのが一般的な認識だ。鈴仙はここで常識を覆される体験をした。肉が固い。しかし、それが狂おしいほどに美味しいのだ。使われているのは身と脂がはっきりと分かれている筋張った豚肉だ。決して高級品とは言えない代物だろう。けれど、だからこそ肉本来の旨みがその肉の中に留まっており、噛むことで初めてそれが外に出る。筋張った肉は何度も噛まないととてもではないが飲み込めない。だがそうすることによって肉から出る肉汁がカレーの汁と合わさりワンランク上の味わいを演出してくれるのだ。さらには忘れたころに口の中に入ってくるネギの存在。これが夏場に於ける一陣の風のような清涼感をもたらしてくれている。
――美味い。
熱々なカレーうどんだったが、火傷すらいとわないと思えるほどに美味い。
弾力のある麺を唇で感じ、口いっぱいに含み、わしわしと咀嚼する。十分に麺の甘味がひろがったところでお椀に口をつけ香り深い汁を、一気に流し込む!
口で、鼻で、胃で。箸を持つ手ですら幸せを感じる。
見事な――誠に見事なカレーうどんだった。
「うん……まぁあ!!」
鈴仙の額はじっとりと汗ばんでいる。
しかしそれを気にする様子もなく、幸せそうに、本当に幸せそうにうどんを啜る。胸元なんてカレーの汁が飛びまくっている。
「はぁー、すっごく美味しいですね、姫様! ……姫様?」
鈴仙は無言の輝夜を不審に思った。見ると肩をぷるぷると震わせている。
「ひ、姫様? どうしたんですか?」
「鈴仙……決めたわ……」
「へ? 決めたって、何を?」
「私――この店で働くわ!」
「へぇあ……」
「なんとも気の抜けた返事ね」
「は、はた……ちょ、えええ!?」
「まぁ、時間差攻撃」
「攻撃はしてませんが」
「つばが飛んだ」
「それは失礼を」
追いつかない思考を必死に回し言葉を紡ぐ。
「え、は、働くって、姫様がですか?」
「そうよ。私はここのカレーうどんに感銘を受けたわ。この味を知って、はいさよならじゃ、余りにも惜しいわ」
「惜しい」
「残念と言っても過言ではないわ」
「残念」
「えぇ。何としても自分のものにしたいわ。そして、それを人々に提供したいのよ」
「心意気は立派ですが、働くということは簡単ではありません。頭にTHEが付くほど立派なニートではありませんか」
「まぁ、立派だなんて」
「褒めてませんが」
「喜んでもないわよ」
ピキッ。
「こほん……。とにかく、姫様に務まるとは思えませんが」
「鈴仙」
輝夜は真剣な表情で話し始めた。
「私はね、鈴仙。生まれてこの方、ずっと姫だったわ。人々の寵愛を一身に受け、数知れない求愛を排してきた」
「自慢話ですか?」
「いいえ、真面目な話よ。私は――今まで誰かに何かを与えることをしたことがなかった。与えるということを許されなかった」
悲しげな表情で輝夜は首を振る。
「いえ、それは言い訳ね。その気もなかったに違いないわ。鈴仙、わかる? 私はそんな自分を変えたい。変わりたいのよ」
「……」
「たかがカレーうどん、されどカレーうどん。私は感動したわ。里の一角にある、永遠亭に比べたらなんとも小さなこの店で、こんなにも大きな感動を与えられる、この仕事に。鈴仙、私は試してみたい。不変である私が、変わることに挑戦してみたいの! 幻想郷なら、それを許してくれる気がするから……」
「姫様……」
輝夜が本気だということを感じた鈴仙は、静かにうなづいた。
「……わかりました。そこまで言うのならもはや留め立てはしません。店主は私が何としても説得してみせます!」
「鈴仙……」
「姫様、私は感動しました。普段ちゃらんぽらんしてても、腐っても姫。最終的には人の上に立つ人物なんですね。心ゆくまで修業してください!」
「多少引っかかるけど、まぁいいわ。ありがとう鈴仙。私、頑張るわ!」
「今の姫様なら、途中で投げ出すなんてこともないでしょう。応援してます!」
「当然よ! そんなことになったら、鼻からカレーうどんを啜ってあげるわ!」
斯して、輝夜はうどん処『葉月』で働くことになったのである。
鈴仙は輝夜の自立を嬉しく思い、確かな満足を胸に家路へと就いた。
カレーうどんは世界を救う。
鈴仙はこの三日間、そのことばかり思っていた。
店に向かう道中、季節の移り変わりを感じることができる。
着けば人との会話、つながりができる。
食べれば口に幸せを、お腹に満足を。店側は客の笑顔を、金銭を得ることができる。
さらには就職が決まるなんていうオマケ付きだ。
――行ってよかったなぁ。
あの空気やカレーうどんの味を思い出すように鈴仙は目を瞑り、想いを馳せる。
「今度、私も本格的に作ってみようかなぁ……なんてね」
そんなことを考えつつ、鈴仙は輝夜の鼻にカレーうどんを流し込んだ。
おしまい
スパゲッティならまだしも、カレーうどんは物理的に無理ゲーだろうなあw
最後の一行でワロタ。だろうと思ったよww
いつもながらちょっとずつ実験的な要素を入れていらっしゃる
楽しめました
最後の一行テラ噴いたw姫様死んじゃうwリザレクっちゃうw
姫様は毎朝そうやって起こさないと遅刻するだけで、ちゃんと働いている……よね?
しかしうどん屋も葉月なのかww
にやけてしまうような飯テロ、ごちそうさまでした!
こんな微妙な時間に読むんじゃなかった。カレーうどん食べたい…昼まで持たないって…(白目
うどんげも食いたい
SS読む作業を止めて何か食べたくなってきたぞ。
>1
それでも姫様ならやってくれるはずです!
>2
それだけが取り柄ですので。
>3
姫様は落としやすいですよねぇ(´ω`)
>4
並大抵のことじゃあ姫様は変えられません。
>奇声を発する程度の能力さん
カレーうどんをどうぞ!
>7
流行り廃りはどうしてもありますからねー。
旬なネタは使えるうちに使っておきたいです。
>9
鈴仙だってキレるときはキレます(*'-')
>12
安心と信頼のなんとやら!
>こーろぎさん
丸亀製麺のカレーうどん、結構美味しいですよ!
>つくねさん
だとしたらそれはあなたのせいです!
>16
こんなこともあろうかと、日々イメトレでもしてたのだと思います!
>20
描写されていないだけで、実は店主はそうかもしれません!
>27
夜中に起きてる子は悪い子なので、注意書きはいらないのです!
>29
幻想郷の外食産業は葉月グループが掌握してます!
>36
実は奥にいます!
>白銀狼さん
だから奥にいますってば!
カレーうどんってたまに食べると美味しいですよね~。
>41
お粗末さまでした!
>48
千吉ってカレーうどん専門店が、その食べ方を推奨してますね。
あそこは結構美味しかったです!
>49
前者はどうぞご自由に!
後者はどうぞ数ある旦那さん方を打倒してから!
>3さん
そういう時は、我慢しちゃだめ!