「フラン。あなたもそろそろ、補助翼なしで飛べるようになりなさい」
妹を自室へ呼び出したレミリアは、開口一番にそう言った。
フランドールは床のやわらかさが自分の部屋とまったく同じものだと感じながら、姉の言葉の意味するところを考えた。
それまでのフランドールにとって、飛行とはレミリアに抱きかかえられながらふわふわ浮かぶことを意味していた。そうやって姉とおしゃべりをしながら、屋敷の中を散策する補助翼飛行が彼女のお気に入りの遊びだった。
そのすてきな時間がなくなってしまう。
「まだいいでしょ、お姉さま。ね? ね?」
おそろしい未来を想像したフランドールはたまらず、精いっぱいの誠実な態度でお願いした。
理想的な角度から放たれる上目使いとさりげないストマックブローを織り交ぜた懇願は、ひたむきな気持ちとこの世が弱肉強食であることを相手に嫌というほど理解させる。
「えい。お願い、お姉さま。えい」
「ふふ、フランったら体重の乗ったいいパンチをうぐ、持ってるのね。でも、やめてね。お姉ちゃんのお腹はそんなに丈夫にできてないから。牛乳飲んでも痛くなるくらいだからね」
「じゃあ、お姉さまに牛乳を飲ませてからお願いすればいいのね?」
悪意の定向進化を遂げた新人類のような邪悪さを漂わせるフランドールの発言に、レミリアは震え上がった。
「こ、紅魔館はテロには屈しない」
「へえ、いいんだ? お腹がゴロゴロなって神様にお祈りしたくなるくらい痛くなってもいいんだ? 牛乳に含まれる乳糖が小腸で分解されずにお姉さまの大腸にたっぷり流れ込んでもいいんだね?」
「ふん、なんとでも言うがいい。たとえお腹が痛くなったとしても、サンクチュアリ(トイレットルーム)が私を守ってくれるわ」
「屋敷のトイレはぜんぶドアと壁を壊してフルオープンの快適な空間を演出、開放感あるスペースで体にたまったモノも解放できるコンセプトを実現しておいたんだけど、それでもいいんだね?」
「要求をのみます」
「お姉さま大好き!」
拳と脅迫の果てにおとずれる和解。話し合えばわかりあえると、フランドールはあらためてコミュニケーションの重要性をかみ締める。一方レミリアも、真綿で首を絞められるような交渉から解放された自由をかみ締めていた。
以降、百年ほどレミリアの説得は続いたが、そのたびにフランドールは涙目とあどけないハイキックでごまかしたり、寂しげな視線と偶然をよそおったローリングエルボーで話題の転換を図るなど、巧妙な話術と惜しみない腕力でもって今日まで逃げ続けてきたのだった。
だが、これでいいのだろうか。
フランドールは自室のベッドの上で物思いにふけっていたとき、ふとした拍子にそう考えるようになった。
それも無理からぬ話だ。彼女はもう四百歳なのだ。人間なら補助輪なしで自転車を乗りこなすし、覚りなら補助電源なしでサードアイを稼働させる年頃だ。
ならば、自分も羽ばたくときなのではないか。
フランドールの胸のうちに、焦燥にも似た思いが浮かび上がる。そして、同時にある衝動が全身を駆け巡った。
それは、成長したいという願望だ。二輪となった自転車を軽やかにあやつる少年や、単三電池の束縛から抜け出した覚りのような、精神の飛躍を成し遂げたい。そうすれば、そうすれば……。
そこまで考えて、フランドールは首を傾げた。
成長すれば……なんなのだろう。その後になにが待っているのか、まるでわからない。知らないのだ。だというのに、経験を積み重ねて、心をひとつ上の段階に押し上げたいと、かすかに願っている自分がいる。その願いは煙のように揺らいでいて、突き動かすような力はない。むしろ、やっぱり飛びたくなんてないと考え直してさえいる。本当にあるのかどうかも確かでない、意識の底で横たわっているような欲望だ。
胸のうちで巻き起こる渦が、フランドールにはそう見えた。
「一回くらい、やってみようかな。飛ぶ練習」
フランドールは自然とそんなことを口にしていた。
どうやら自分は、飛行の練習というのをやりたくなってみたらしい。今はそうでもないけれど、少なくともさっきまではそうだった。ちょっとくらい試してみてもいいじゃない。
意思とは裏腹に乗り気でない体をそのようになだめた後、フランドールはキングサイズのベッドから勢いよく飛び降りた。
そして、部屋の中央に陣取る。姉とおそろいの蝙蝠のような羽を広げて、赤褐色の皮膜をぴんと張った。それから、一生懸命にぱたぱたと翼を動かしだした。
ぱたぱた。
ぱたぱた。
ぱたぱたぱた。
「うーん、飛べる気がしないよ……」
ぽつりとつぶやく。
しばらく翼をはためかせていたフランドールだったが、その体はわずかばかりも浮かなかった。
「こんなに羽ばたいてるのに少しも飛べないなんて。やっぱり、わたしが一人で飛ぶのはまだ早いってことかなぁ」
言いながらもなお、フランドールは自分の羽をぱたぱたと揺らす。
その様は、小動物のようなうっとりとする愛らしさをふりまいて見る者の頬を緩ませるが、羽ばたきから生み出される時速二百九十五キロメートルの風速が小動物のイメージを粉々に打ち砕いていた。
羽ばたくだけで警戒規模のハリケーンを生み出すフランドールの姿はどう控えめに見ても小動物系ではなく神話生物系女子でしかなく、その二つの翼の間に生じる暴風域の圧倒的破壊空間はまさに異次元的風嵐の小宇宙である。
今や暴風はフランドールの部屋のすべてに行き届き、置かれている調度品の寿命をすさまじい勢いで削り取っていた。
そのときだ。
おや、とフランドールは不思議そうに自分の体を見下ろした。そして、まじまじとその異物を見つめた。
「なぁにこれ。鎖?」
フランドールの視線の先、足首からひざにかけて透き通るように白い鎖のようなものが巻きついていた。彼女は翼を休めることなく、その鎖をじっと眺めた。
縛られているという感覚はなく、手を近づけても触れることができない。重さもまったく感じない、奇妙な鎖だった。
だが、それが足に絡んでいるという事実がフランドールに存在しない重みを与えていた。
いつから巻きついていたのか、誰の仕業なのか、考えるべき疑問はいくらかあった。しかし、フランドールの頭の中では、すぐれた直感がありふれた思考を差し置いて、星のきらめきのように一つの真実を飛来させた。
「もしかして、この鎖のせいで飛べないのかな」
結論として、フランドールの推測は正しかった。
彼女は、暴風を生み出す背中の翼をなおも働かせたまま、その白い鎖を壊そうとする。冷たい金属の光沢を放っている鎖がいかに強固であろうと、彼女はそのもっとも脆い点を見つけ出し、ちいさな手の中で握りつぶすことができるのだ。
彼女はえいや、とその鎖を破壊した。
その瞬間、鎖は正体をあらわし、フランドールは地上から『射出』された。
「うわ、わ、わ、わ、わ、わ、あ、あ、あ」
惑星が持つ引力。
その鎖から解き放たれたフランドールは、はじめのうちこそ悲鳴らしい驚きの声をあげていたが、やがて口から吐き出されるものは空気だけになった。弾丸のようにきりもみ回転をしながら、自室の天井に迫っていく。
ここで天井にぶつかっていれば、重力の枷がふたたびフランドールを捕らえ、大地へと引き寄せたのだが、実際にそうはならなかった。衝突のショックに身構えた彼女が思わず拳を握り締めたことで、天井はあっけなく崩壊したのだ。
フランドールはそのまま自室を抜け、館の一部を同じ要領で通過して、冬の夜空へと打ち出された。
眼下に広がる暗がり、肺を満たす冷たい空気、土と葉の複雑な香り。屋敷の外という未知の世界がフランドールを迎え入れる。しかし、彼女に好奇の目を輝かせる余裕はなかった。
飛行練習で生じた暴風と能力による破壊の反作用が、爆発的な推進力となってフランドールを途方もない速度で押し上げていったのだ。そのすぐ後を重力の鎖が追いかけるが、お互いの距離が縮まることはなく、ストローの中のオレンジジュースのようにどこまでも昇り続ける。
やがて、フランドールは宇宙に到達した。
「あ、あ、あ……あれ? ここ、どこかな。もしかして屋敷のお外?」
視界がゆるやかに流れるようになったので、フランドールはようやく辺りを見回した。そこには、果てのない暗がりと散りばめられた輝きがあった。
まったく知らない光景だ。屋敷の中じゃない。きっと、ここが外なんだ!
はじめてのお出かけだ、とフランドールは宇宙空間を遊泳しながら喜んだ。あまりの嬉しさに呼吸ができず息苦しいことや、しゃべっているのに実際に声が出ないこと、空気抵抗による摩擦の影響で洋服が燃えてしまい今は全裸であることなども気にならなかった。そういった現実的な問題など、フランドールの笑顔の前では風に吹かれる塵のように消え去るのだ。
だが、無視できない問題もある。それはフランドールがフランドールであるために起きてしまった。
宇宙遊泳を続けていた彼女は、目の前に置かれた巨大な球体が端からうっすらと光りだしたのを見て取った。
やがて、光は徐々にその勢力を増やし、青い肌をして真っ白な煙をまとった球体はひとつの輝く熱源をゆっくりと産み落とした。
太陽だ。
「……あ」
球体の後ろに隠れていた太陽が、フランドールの前に姿を見せる。
フランドールは、とっさに翼で顔と体を包み込んだ。
だが、わずかばかり遅かった。真空状態でも干からびることのなかったフランドールの血液は、沸騰を始めて泡立ち、血管を導火線のように焦がしていく。翼も太陽光の直射を浴びて、燃えることなくとろとろに溶けていった。羽には次々と穴が開き、そこから肌を突き刺す光が襲う。
その穴はみるみるうちに大きくなり、ついには皮膜が完全になくなってしまい、フランドールの翼は枯れ枝のようにやせ細った。
太陽は無慈悲に水気のある肌を焼いていく。
フランドールは身を丸めて目を閉ざした。脳裏には姉の姿が浮かび、それが消え去るともうなにも残らなかった。
そして、フランドールの意識はそこでぷつりと途切れたのだ。
「ん?」
フランドールのおおきな目がぱちりと開く。
「あれ、お家の中? さっきまで外に……ん、でもわたし、屋敷から出たことってない、よね?」
自分に問うようにフランドールは言った。
彼女の記憶は、震えるほど美しく、おそろしいほど冷たい、広大で真っ黒な水の中を泳いでいたと訴えていた。しかし、視界には見慣れた屋敷の光景が広がっているだけだ。
夢でも見ていたのだろうか。日の光が全身を貫く、とびっきりの悪夢を。
それとも気のせいなのかな、とフランドールは頭をゆらしてウーンとうなった。それでも、彼女の望む答えは浮かばない。
ふと、何気なく振り返ると、チョコレート色の立派な扉が目の前にあった。
「あ、ここ、お姉さまの部屋」
レミリアの部屋の前に立っている。フランドールはそれを知った瞬間、先ほどまで姉と話をしていたことを思い出した。
呼び出されて、自分一人で飛べるように練習しなさい、と言いつけられた。そして、そのことで姉と喧嘩別れをしてきたのだ。
フランドールの胸のうちに熱いものがこみ上げる。熱した鉄のような怒りが、彼女の舌の上から飛び出した。
「もう、もう! バカ、バカ、お姉さまのバカ!」
途端に、フランドールはぷりぷりしだした。
いかにも、わたしは不機嫌ですと辺りに知らしめるように、廊下を踏み鳴らそうと大股で歩いていく。
しかし、フランドールのちいさな足は真っ赤な絨毯に受け止められ、足音のひとつも立たせられなかった。コルクウールの複雑な繊維は、彼女の怒りに理解を示さず、ただひたすらになだめるだけだ。
「なによ。わたしが怒ってないみたいじゃない」
むっとしたフランドールは足音のかわりに、ぷんぷん、と今の気分を声に出してみた。
ぷんぷん。
ぷんぷん。
ぷんぷんぷん。
おおっ、とフランドールは感にたえないようにうなった。
ぷんぷんというただ単調なだけの音だというのに、口ずさんでいくうちに自然と沈んでいた気分が高揚していく。
『ぷ』という儚くも鮮烈な破裂音。そして、『ぷ』でふわふわと浮いてしまった舌をそっと受け止めてくれる『ん』の安心感。これらの繊細な調和に、フランドールの幼いながらも優れた感性は見事に気づいてみせたのだ。
ぷんぷんの魅力にとりつかれたフランドールの唇は、今や八ビートを刻んでいた。
ノリノリだ。
「ぷんぷん。ぷんぷん。ぷんぷんぷんぷんぷん」
次第にそのリズムは激しくなっていき、ついに十六ビートにまで到達した。
その口の動きは常人の視認を許さず、声が周回遅れで聞こえてくるとフランドール本人の間で話題になっている。これほどの稼働能力を持つ彼女の唇は、お友達との楽しいおしゃべりというイベントを夢見て、およそ四百年を費やした会話のイメージトレーニングと発声練習による努力の賜物であったのだ。
しかし、そんなフランドールの洗練された発声技術は、途中で舌を思いきり噛むという失態によりあっけなく幕を閉じる。涙目となった彼女の機嫌は、ふたたび荒れ果てることになった。
「いたぁ……舌、いったぁ……これ、ぜったいお姉さまのせいだ、いたぁい」
舌の痛みにたえながら、フランドールは不機嫌の原因であるレミリアの顔を思い浮かべた。
すると、頭上に浮かんでいたレミリアは、好き勝手にしゃべり出した。
『だから、言ってるでしょう? 美鈴はべつの仕事で手がはなせないの。練習の付き添いならほかのメイドにしておきなさい』
つい先ほども聞かされた言葉だった。
フランドールはピンク色のほっぺを膨らませ、文句をぶつけるために頭の中の姉を自分の前に立たせた。
正面からこちらを見やるレミリアの姿は、数分前と変わらぬ穏やかな目をしている。その表情は、この世の正しさを自分のポケットにしまっているとでも言っているようだった。
気に入らない。自分はこんなにも腹を立てているというのに。
フランドールは、やはり先ほど姉の部屋でそうやったように歯をむき出した。
体が過去を再現すると、頭もそれに引き寄せられる。自然と彼女の記憶は、そのときなんと言い返したのかを思い起こしていた。
『ほかのじゃ、いや。美鈴がいいって言ってるでしょ』
フランドールの声がずいぶんと頑なな調子だったので、レミリアはわかりやすく微笑んだ。
『どうして? ほかのメイドじゃあ、いけないのかしら』
『うん』
フランドールが短く答えた。
レミリアはしばらく間をあけてからもう一度言った。
『どうして?』
フランドールは初め、目線をあからさまにそらしていた。だが、レミリアが黙ったままでいるのをみて、しぶしぶといったようにぷっくりとした唇の間から声をこぼした。
『ほかのメイドはわたしのこと、妹様って呼ぶから』
『まあ』
レミリアは口元に手を添えた。
『あなた、名前で呼んでほしいわけ?』
『妹扱いされたくないの!』
『あなたは私の妹じゃない』
『わたしはお姉さまの妹だけど、メイドたちの妹じゃあないもの。妹って呼んでいいのはお姉さまだけのはずよ』
わかるでしょ? とフランドールはそれを視線にこめて姉を見つめた。
レミリアはちいさく頷いた。しかし、フランドールの期待に応えられないということは、その表情が雄弁に語っていた。
『でもねぇ。美鈴は忙しいのよ。ほかのメイドを取りまとめたりもしているし、私の着替えも手伝わせてるし、庭の手入れもさせてるし、家事全般やらせてるし、屋敷の警備もさせてるし、どこかに置き忘れたグングニルの捜索も任せてるし』
『働かせすぎ』
フランドールは自分の生活基盤が苛酷な労働環境によって支えられている事実を知り、少しばかり憂鬱になった。
だが、レミリアは違った。紅魔館の火元責任者である紅美鈴メイド長が、無類の世話好きであることを知っていたからだ。
そもそも紅美鈴はレミリアに雇われたのではない。彼女は旅する妖怪であったが、たまたま紅魔館の近くにまでやってきたとき、レミリアの妙なところで世話がやける性質を持ち前の嗅覚で探り当て、本人の承諾も得ないまま屋敷にもぐりこんだのだ。場の空気を読み、パーフェクトコミュニケーションを連発する紅美鈴は即日でメイド長の地位を築き上げた。そして、いつの間にかメイドたちに采配をふるい、毎日存分にお世話ができる立場を確立したのだ。
その手腕には雇い主でないレミリアも、誰? アイツ誰? と心の中で繰り返しながら、私の目に狂いはなかったと自慢げに言ったものだった。
『だから美鈴はダメなの、ね、わかって?』
『お姉さまばっかりずるいよ。わたしには美鈴と一緒に飛ぶ練習もさせてくれないのに、お姉さまはあのパチュリーって子といっつも遊んでばかりじゃない!』
フランドールの言葉に、レミリアは露骨にうろたえだした。
『え、いや、ほら、ノーレッジはまだ十歳だし』
パチュリー・ノーレッジちゃんは、類まれなる魔術の才能を持ち、アンニュイな雰囲気から無自覚の色気を垂れ流している可愛らしい幼女である。
ごく一般的な農家の家庭に生まれたにもかかわらず、畑で採れた有機野菜と畑の土をこね合わせてホムンクルスを作り出すなど魔女っ娘としてメキメキと頭角をあらわしていたが、その才に目をつけたレミリアに屋敷の知識人として招かれた経緯がある。
おいしいケーキがあるんだけどお家に来ない? と言って十歳の少女を連れて行く手口は完全に誘拐行為でしかなかったが、レミリアはスカウトだと言ってゆずらなかった。
『そうだよ、十歳だよ! 若くて優秀な魔女を客人にしたって言ってたけど、いくらなんでも若すぎでしょ! お姉さまの痴人! 光源氏! ロリータブリーダー!』
『若い芽を伸ばすのは年長者の役目なのよ』
『お姉さまが伸ばしてるのは芽じゃなくて食指でしょ』
『ハハハ、こやつめ』
フランドールは腕にうなりをつけて、朗らかに笑うレミリアの腹部に拳を叩き込んだ。
『その上手いこと言ったねって言いたげにニヤニヤするの、やめてよね。殴るよ?』
『お姉ちゃん、知らなかったわ。思いっきり体重乗せて鳩尾に抉りこむように拳を打ち込むのは、殴るって言わないのね』
『今のは撫でただけです』
『あなたのそういう控え目なところ、好きよ』
『わたしも、下半身が生まれたてのバンビみたいになってるのに気丈に振る舞うお姉さまの健気なところは好きだよ』
フランドールの重すぎる一撃により、レミリアの足はすでに笑ってる状態を通り越して抱腹絶倒していた。小刻みに震える足で懸命に立ち続けようとするその様は、アルプスの少女に罵倒された興奮から思わず立ち上がった令嬢を想起させる。
頼りなさ過ぎる下半身のまま、涼やかな顔をして冷静な口調で話すレミリア。その姿を眺めていたフランドールの頭上では、下半身は別の生き物、というよくわからないフレーズが浮かんでいた。だが、レミリアの一声で、彼女の頭上を漂っていたものはすべて吹き飛んだ。
とにかく、とレミリアは結論付ける。
『飛行の練習はちゃんとするのよ。付き添いがほしいなら、ほら、そこのメイドたちにしてもらいなさい』
レミリアの指差す先をたどって、フランドールが後ろを見やる。すると、ドアから顔だけを覗かせてこちらの様子をうかがっていた妖精たちと目があった。
瞬間、はじけ飛んだように妖精たちは頭を引っ込め、きゃあきゃあと騒ぎながらドアの向こう側へと去ってしまった。
『みんな、あなたのことを気にしてるってことを覚えておいてほしいものね』
『それはわたしが妹だからじゃないの』
『だったらあなたのことなんか放っておいて、私だけに跪いていればいいんじゃない?』
レミリアは含み笑いをした。
軽やかな笑い声が、フランドールの耳に響く。響く。響いて、そして、消えない。
フランドールはそこで思い起こすのをやめた。
記憶の中の笑い声が鎮静の役割を果たしたのか、彼女は幾分か気を落ち着かせていた。そして、しばらく黙ったまま廊下を歩き続けたが、曲がり角のところで一度振り返った。
給仕服の妖精たちがいた。妖精たちは仕掛けばねのように飛び上がり、それからすぐにきゃっきゃっと声をあげながら散っていった。
飛ぶ練習をしよう。
フランドールの足は力強い勢いで、自室へと向かっていた。
飛べるようになったら、みんなと空をお散歩したい。楽しげに笑いあう光景を脳裏に浮かべ、彼女は飛行の練習を始めた。
自室に戻ったフランドールは早速、翼を思いっきり羽ばたかせる。
だが、羽ばたきは微風となるばかりで、蝙蝠のような形をした羽はいつまでたってもフランドールを喜ばせなかった。
なにがいけないのだろう。飛ぶときの姿勢? 羽ばたきの力不足?
そんなものじゃない、とフランドールはかぶりを振った。
彼女は原因こそわかっていないが、思いついたものがどれも飛べない理由ではないと確信していた。もちろん、その根拠も定かではない。ある種の予知めいた感覚だった。
「あ、これ……なんだろう、鎖かな」
そして、やはりフランドールは正しかった。
飛ぼうと翼を動かすと、決まって鎖のようなものが彼女の足に巻きつき、地面に縛り付けるのを見つけたのだ。
これだ、これが自分の邪魔をしている。わたしの敵だ、とフランドールはそのミルク色の鎖を睨みつけた。それに彼女が、その鎖を敵視したのは飛ぶのに邪魔だからというだけではなかった。
鎖を下半身に絡めたフランドール。
その姿は一見すると、ファッションを頑張りすぎて腕にシルバーを巻くに飽き足らず足にまで巻きつける徹底したアウトロー精神の持ち主であるように見えるが、フランドールほどの可愛らしさが伴うとそこに妖しげな身震いを催すようになるのだ。
フランドールも幼いとはいえ、鎖で緊縛されている少女がそこにいるというだけでこの世のあらゆる光景がいかがわしくなる事実を知らぬわけがなかった。このままでは紅魔館という建物自体が妖艶さを放ち、付近の景観を阻害すると近隣住民の間で問題になり、訴訟沙汰になるかもしれない。
倫理的な危機感がフランドールを突き動かしていた。この鎖はなにものなのか、なぜ巻きついているのか、そのような疑問など彼女には考える暇もなかった。
躊躇することなく、フランドールは白い鎖を破壊した。
「わっ」
フランドールが口に出来たのはその一言だけだった。
彼女がちいさな手のひらをキュッと握ると、鎖は粉々に砕け散り、その残骸がすさまじい速度で落ちていった。鎖の破片だけではない。視界に映るすべてのものがフランドールを置き去りにして、無限の落下を繰り返した。
自分の部屋が、真っ赤な屋敷が、取り囲む自然がフランドールを見上げた。そのまま、落ちていったものは夜の暗がりに飲み込まれた。夜は貪欲にフランドールの視界を飲み干し、やがて彼女の周りに残ったものは、あまりに大きくなった夜の体と、その上に点在する無数の真っ白な輝きだった。このとき、フランドールは宇宙という外の世界に足を踏み入れたのだ。
落下が止んだのを知ったフランドールは、あちらこちらへと視線を動かす。その瞳は、見たこともない美しさを前にして、きらめていた。
そのうち、フランドールのくるくると回る首が、喉をさらす形でぴたりと止まる。
「空、きれい……」
フランドールは静かに言った。
飛べなかった自分が、空の視点を、外の世界を見ている。その事実が彼女の心臓を烈しく撃った。
フランドールの心は、踊るような鼓動を立てている。湧き出る嬉しさがこぼれているのだ。彼女の全身を夢のような心地が包み、唇には幸福が宿った。
その幸福はフランドールの精神に作用し、彼女の取り巻くあらゆる問題を跳ね除けた。
たとえば、宇宙空間であるためにフランドールは呼吸が出来ずにいた。だが、お出かけをしているという喜びが、彼女を無酸素の境地に至らせた。おまけに、彼女には酸素がなくとも可愛らしさがある。だから、なんの問題もない。可愛いは法則であり、宇宙の理すら捻じ曲げる。
しかし、フランドールが愛らしい吸血鬼であることは変えようのない事実であった。
吸血鬼の天敵である太陽光は、フランドールの背後にあった惑星の影からゆっくりと、けれど確実に忍び寄っていた。
宇宙空間をふわふわと漂っていたフランドールは、楽しさのあまりすぐに気づけなかった。彼女の蝙蝠羽を太陽の舌先は、猛烈な勢いで舐め溶かしていたのだ。
やがて、何の気なしに後ろを見やったフランドールは、口をぽっかり開けて仰天した。
「わっ、わっ、羽がないよ! わたしの羽!」
その声には先ほどまでのはしゃいでいたときの火照りが残っているようで、実に楽しげな調子だった。
しかしそのうち、フランドールの声音は宇宙にいながら重力の手ほどきを受けたように低くなった。
「え、え……ええ? あれ、羽……えっと、どこかに落としちゃった、かな」
姉とお揃いだった羽。それが今や、やせ細った骨のように色気をなくしていた。フランドールの背中にあるのは、皮膜をなくし、もはや飛ぶことも適わない萎れた翼だ。
こんなものを背負って、果たして帰れるのだろうか。流麗な輪郭が持つ強さを失った翼で家に帰ることなど、果たして。フランドールの脳裏にそうした不安がよぎり、ちいさな体はおそろしい寒さに打ち震えた。
深い、ねっとりとした暗がりが、フランドールの心に染み込む。意識は無限に引き伸ばされ、途方もない堕落の感覚が彼女の体内に広がっていた。
同時に、太陽はフランドールの薄い皮膚を無遠慮に剥ぎ取っていた。だが、その痛苦が彼女を襲うことはなかった。際限のない悲しみに打ちのめされ、彼女はその身を焼かれながらも、意識が途切れる最後まで痛みを感じることはなかった。
フランドールのまぶたの裏に、レミリアが描かれ、それから世話焼きのメイド長と姉の連れてきた幼い魔女の姿が浮かび、自分と同じくらいの身長のメイドたちまで現れた。
記憶の中の彼女たちは宇宙のように優しく、太陽のように暖かい笑みを向けていた。
フランドールはぱちりと一度だけ目を開ける。そこに願っていた家族の姿はなかった。
どれだけ漂流していたのだろう。太陽も、すぐ近くにあったあの大きな球体も、そこにはなかった。
あるのは、鬱金色のちいさな球体だった。フランドールが薄目でそれを眺めていると、球体はだんだんと成長し、大きくなっていく。
吸い寄せられているのだ。その惑星が望んでいるように、フランドールとの距離は縮まっていく。
フランドールの視界はもうほとんどが自分の髪色に染まっていた。
そこで、まぶたは自然と落ちた。目の前が、今まで見たこともないほど黒く塗りつぶされていく。体をぐったりと投げ出したまま、フランドールの意識は眠るように沈んでいった。
「ねえ、ちょっと。あなた、聞いてる?」
フランドールが顔を上げると、レミリアがいた。
姉がいる、とフランドールがみとめると、彼女の視界はようやく、ここがレミリアの部屋なのだと教えてくれた。
「え? あれ? ここ……」
「どうしたの。なんだか上の空だったみたいね。昨日はちゃんと眠れたのかしら」
「眠る……ええ、夢なの? うそぉ」
どうも少しの間、夢を見ていたらしい。
……本当に?
フランドールにはそうは思えなかった。それどころか、何度もこうした疑問にぶつかっているようにすら感じる。
もしかしたら、これが夢なのかもしれない。本当はまだお外で眠っているだけで、覚めるのをじっと待っているのかも。
フランドールはレミリアのほっぺを、ちょんとつまんだ。そこにレミリアがいたからだ。
むちむちとした張りのある肌の感触が、つまんだ指から伝わってくる。おまけとばかりに引っ張ってみると、面白いようにほっぺは伸びた。
「ひはひ」
レミリアが嫌がるので、フランドールはすぐに指を離した。
レミリアはほっぺを手でさすりながら、この子寝ぼけてるのかしら、と怪訝な視線を向けた。その表情は、彼女の眉がわずかにその均整を崩していたため、フランドールを無性に悲しくさせた。
ねえ、とレミリアは言った。
「私の話、ちゃんと聞いてたんでしょうね。きちんと、飛べるようにならないとダメよ」
「うん」
「いい子ね」
フランドールが素直に頷いたのを見て、レミリアは彼女のおでこにキスをした。
ふわりと、部屋のものとは別の空気がフランドールの前に流れ込む。血と乳の香りが彼女の鼻腔を刺激した。
フランドールが姉から離れると、レミリアはまだ足りないとでも言うかのように一息にまくしたてた。
「いい? 自分の部屋で練習するのよ。あそこなら、あなたのがんばりも受け止めてくれるわ。練習前にトイレには行っておくのよ。休憩もしっかり取らないといけないわ。付き添いはいらない? 必要なら適当にメイドをつかまえていいからね。美鈴はダメよ。あいつの世話好きはもう病気だから。一服盛られて動けないようにされて食事からトイレまで介護されるわよ」
「美鈴のことは初耳なんだけれど、なんでお姉さまはそれを知ってるの?」
「……」
「お姉さま?」
「この前、ノーレッジがそう言っていたのよ。彼女も十歳とはいえ、赤ん坊ではないんだからされるがままなんて災難よね」
レミリアの言葉を聞いて、フランドールは優しい目を姉に向けた。
その慈愛の視線に気づいたレミリアは、フランドールに誤魔化しを通用させるために、パチュリーからの伝え聞きという体裁で自らの介護体験談を次々と披露していく。トイレでなかなか大物が出てこなかったとき美鈴に指で、という話を聞かされたところでフランドールの涙腺は決壊し、姉の尊厳を守るために部屋を大急ぎで出て行った。
しかし、自室へ戻ったフランドールは実のところ、飛行練習をするか決めかねていた。
飛べるようになって、なにがあるというのだろう。自分一人で飛べるくらい、大人になれば一人前と認めてもらえるのだろうか。
お出かけをしたりすることができるのかもしれない。成長すれば。
成長すれば、自分だけの力で飛ぶことができれば、与えられた地下の部屋から飛び出し、屋敷を抜け、外の世界へと羽ばたけるかもしれない。
外の世界へ。知識としてしか知らないはずの、その光景を思い描いていたところで、フランドールのきらめく瞳に突如、暗雲が広がった。
外に出てみたい。かつてのフランドールが期待に胸を躍らせ、姉にそう願ったとき、どうなったか。
自分がどういう立場かを思い知らされたのだ。
「わたしが飛べるようになっても、お姉さまは屋敷から出してくれないよね」
フランドールは自分に言い聞かせるようにつぶやいた。口に出した途端に、彼女の芽生えだしていた自立心はすっかり萎れてしまった。
だが、これは当然のことだ。なぜなら、フランドールの世界の根底には彼女の姉が息づいているのだから。
姉の言いつけは、フランドールの中で絶対の地位を確立している。それは、フランドールが地下にある頑丈な部屋を与えられたときからだ。生まれついての破壊に特化した能力を持つ彼女は、そのコントロールが不安定なために軟禁という処置が姉により取られた。
しかし、フランドールに不満はなかった。いつも姉が会いに来てくれるし、いくらでも遊んでくれる。彼女の精神は、レミリアによって満たされていた。
レミリアは、フランドールが安らぐままに身を横たわらせる心の土壌だ。やわらかく、血と乳の香りをまとわせるその大地に、フランドールは絶対の信頼を置いている。思うままに体を任せられる存在であり、その心地よさにフランドールはいつしか自分の足で立つことを忘れてしまっていた。
フランドールの恐怖や不安もそこにある。言ってしまえば、彼女は姉にべったりと甘え続けたくて、自分が成長を見せてしまえばその時間が終わってしまうと思っていた。彼女の無意識は、レミリアに自分はもう必要ないと思わせてしまうことを恐れていたのだ。
姉に幽閉されているという現状も、フランドールにとっては都合のいい建前に過ぎない。願うならずっと子供のままでいたかった。
それが彼女の欲望の底だ。
だが、とフランドールはここで初めて思い悩んだ。
普段の彼女なら、やはりこのままでいいと決め付けるだろう。
だが、今のフランドールは違った。まさに今、この瞬間、彼女は自分の弱さをむざむざと見せ付けられていたのだから。
「この鎖……これが、きっと、わたしの……」
ひとまず形だけでもと飛行のまねごとをしていたフランドールは、自分の足にまとわりついている、汚れなどまったくない、まぶしいほどに白い鎖を目にしたのだ。
フランドールを飛ばせまいと、地に縛り付ける白い鎖。その色は彼女の幼さであり、その重みが彼女の弱さを示していた。
どれだけ翼を力強く羽ばたかせたところで、フランドール本人が飛びたくないと無意識のうちに体を強張らせていたのだから、飛べるはずがなかったのだ。
鎖はフランドールの精神の象徴だった。その幼い欲望を見せ付けられ、問題を自覚しないわけにはいかなかった。
フランドールは、心の一番やわらかいところにある、哀れなほどに脆弱な、成長したいという願いが自分の中で確かに息づいていることを知った。
そうだ。成長したいんだ。フランドールは確かめるように自分に言い聞かせた。
大切なのは精神を高みへと押し上げることだ。高く、高く、空の果てまで。
姉のような高みへ上り詰めて、二人で肩を並べる方が寄りかかるよりずっといい。
「わたしがずっと寄りかかっていたら、お姉さまも疲れちゃうもの」
もうフランドールに迷いはなかった。
鎖は誇るように純白の身を輝かせている。フランドールは目を細めながら、まさにその鎖が以前の自分だと痛感した。
だが、それもこれでおわりだ。
「さよなら」
フランドールは拳を強く強く、握り締めた。そのちいさな手の中で、彼女の欲望がミシリと悲鳴をあげた。
そして、翼をひとたび羽ばたかせると、フランドールの体はすさまじい勢いで飛んでいった。
飛べる。フランドールは羽を自在にあやつり、自分の意思で飛んでいることを確信した。大気をつんと尖った鼻先で真っ二つに引き裂きながら、空の果てを手繰り寄せる。
次第に辺りの黒さは煮詰められ、ますます濃くなり、フランドールは夜の向こう側に足を踏み入れた。
「外! わたし、外にいるわ! 屋敷の中から、外に出たのよ!」
フランドールは歓喜の声をあげた。
地上から広大な宇宙へと進出したの彼女の精神は、偉大なる飛躍を成し遂げた。閉じこもっていた心は、殻を破り、外の世界へと羽ばたいていったのだ。
同時に今のフランドールには、覚悟があった。成熟しつつある精神を抱えている彼女のきらめく心は、何物にもさえぎることの出来ない、ひとつの輝きを見せていた。
フランドールが見下ろす惑星の輪郭が、少しずつ崩れていく。太陽の魔の手が、彼女の翼に迫りつつあった。
羽で全身を覆ったフランドールは、身をまるめるとそのまま動かなかった。彼女の輝ける精神は、太陽光に羽の皮膜と溶かされ、全身を焼かれ、暗闇に飲み込まれようとする意識をわずかながらも照らし続けた。気の遠くなるような痛みも、思い描いた愛おしい家族の皆になぐさめてもらった。
こうして、フランドールはその意識を保ったまま、宇宙を漂流し続けた。
やがて、鬱金色の球体が見えた。フランドールがそのままじっとしていると、球体は視界におさまらないほど大きくなった。そのうち、もはや慣れてしまった浮遊感が急速に失われていき、久しく忘れていた落下の感覚が彼女を襲った。球体はもう鬱金色の壁となっていて、彼女は思わず目を硬くつむった。
次の瞬間、あらゆる音がいっぺんにやってきたかのように、すさまじい大音量がフランドールの耳の中で炸裂した。
接地したフランドールは、細かくてちいさなオレンジ色の砂で口をいっぱいにしながら、何百メートルという地面を全身で掘り起こした。やがて、巻き上げた砂埃が止んだが、それでもフランドールは動かなかった。夢をたっぷりと見続けた後に起きたときの、ぐったりとした疲労感がフランドールの筋肉に残っていたのだ。
それでも、目を動かすくらいのことは出来る。フランドールはうつ伏せのまま、周囲を見渡した。
そこは大きすぎる砂場のようなところだった。空は澄んでいるがやはり黒く、星が点々とくっついている。見たことのない青黒い光源も浮いていて、太陽の仲間のようなものなのかもしれない、とフランドールは考えた。その太陽は実に奇妙で、吸血鬼のフランドールが浴びても痛くもない、涼やかな光を放つのだった。
そして、地上にも見るべきものはない。薄いオレンジ色をした砂が、どこまでも敷き詰められている。その上に鉱石のようなものがいくらか転がっている。それだけだ。
そのためだろう。フランドールが砂を踏みしめる音を聞いたとき、何事かと目を見開いた。
「あれ、きれいな石……自分で転がってるの?」
口の中でもごもごとフランドールは言った。
砂地に埋もれていた色とりどりの鉱石が、風もないのに一人でに転がっていた。黄色やオレンジ色がほとんどだったが、中には薄い緑色のものや、濃い赤色のものもいた。それらが、フランドールの周囲を取り囲んだ。
寝そべっていたフランドールはそのままの体勢で、鉱石の正体を見極めるつもりでいた。起き上がる体力もあまり残っていないのだ。
八面体の鉱石はそれぞれ、ぴんと真っ直ぐに立ち上がったかと思うと、その澄んだ鉱石の中にある、もやのようなものを外に噴出した。もやはゆらゆらと鉱石の頭上を漂い、それからゆっくりと人型になっていった。
その人型のシルエットがだんだん見知ったものに整えられていくのを見て、フランドールは首筋のところまで電気が走ったような感じになった。彼女はこのとき、自分を取り巻く事態の正体を見通すことが出来たのだ。
フランドールはすぐに目を閉ざした。この意識が沈み、浮き上がった頃にはわかる。そう考えていた。
自分の予想があたっているかどうか、その正解が。
やがて、フランドールの意識は本人の手から遠のいていった。
フランドールが目を開けると、正面にはレミリアがいた。
「だから、あなたも一人で飛べるようになった方がいいと思うのよ。わかる?」
レミリアは自分の言葉の効果を確かめるようにフランドールを見つめた。
だが、フランドールはまるで聞いていなかった。やっぱりそうだ、姉に飛行の練習をするようにと言われたここからだ、と彼女は自分の胸のうちにうなずいた。
「聞いてる? ねえ、あなた、ちゃんと私の話を」
「ねえ」
不満げな声音をさせたレミリアの言葉をさえぎって、フランドールは話しかけた。
レミリアは少し驚いてみせた後に、なによ、と返した。
「よく出来てると思うよ、それ。わたしが覚えている通り」
「……なに?」
「でも、ダメだったね。肝心のところが足りてないんだもの。すぐにわからなかったわたしが言えたことじゃないけれど」
「ちょっと、あなた。いったい何の話をしているのよ。わかるように言いなさい」
うろたえるレミリアを前にして、フランドールはにこりと笑った。そして、右手を彼女に向けて突き出した。
「あなたは偽者ってことよ。わたしの名前も知らないお姉さま?」
かつての枷であった鎖を断ち切ったように、フランドールは拳を握りしめた。
パリン。
薄氷を砕いたような軽やかな音が響き渡った。
レミリアの姿が霧のように薄らいでいく。レミリアだけではない。部屋も、屋敷も、周囲の光景はどんどん崩れ、その正体をあらわにした。
「ほら、やっぱり。きれいな石だね。見た目も、中身も」
鮮やかな緑色の鉱石が足元に転がっているのを見て、フランドールは言った。
フランドールがいる場所は、記憶にもよく残っているあの薄いオレンジ色の砂漠だった。辺りはどこまでも続いていく砂地と、彼女を囲むように点在する八面体の鉱石があるだけだ。
ほかの鉱石は、その上に人型のもやを漂わせている。その姿はフランドールには馴染み深い、家族の姿をしていた。美鈴メイド長、魔女のノーレッジに妖精メイドまで全部そろっている。鉱石はその挙動も、今や全員が一致していて、レミリアの姿をしていた鉱石のようにおろおろと震えるばかりだ。
そんな鉱石の一団を眺めて、フランドールは楽しそうに言った。
「夢じゃないんだから、覚めるわけもないよねぇ。わたしが何度も実演していたんだもの。疲れるわけだよね。そうやって、外敵をやっつけてきたの?」
鉱石のもやたちは、アアアとうめいたり、ウウウと喉を震わせるだけで、誰もフランドールの質問には答えなかった。
気にせず、フランドールは口上を続けた。
「わたしの記憶を読み取って、見た目とか性格を真似してたのかな。すごいね。だけど、わたしの名前を知ってるのはわたしだけ。あなたたちって真似してる人のことしかわからないんでしょ? わたしの真似をするわけにはいかないから仕方ないけどね」
微笑みながら、フランドールはゆっくりと鉱石に歩み寄る。体力もわずかばかり戻ってきていた。鉱石は恐怖の硬直に襲われていて、どれも逃げようとはしなかった。
フランドールがもやに向かって拳を作る。
もやは体の中心から風が吹き出たように散り散りになり、空気の中に溶けていった。そのもやの下にあった鉱石は、澄んだような青色になっていた。
フランドールは目を輝かせた。
「きれい! あなたたち、いろんな色になれるの?」
そこらに散らばる鉱石を手当たり次第、フランドールは破壊していった。もやを壊す前に鉱石を踏みつけると、もやが消えるが鉱石も黒ずんでいくので、彼女はもやだけを壊していった。
大抵のもやは人型を保つのもやっとで、その表情は諦念や絶望に彩られている。それらを破壊すると、鉱石は藍色や紫色になる。鉱石はその感情により、色を変えているようだった。
緑、青、藍、紫、と鮮やかな色の鉱石を手にしてフランドールはご機嫌だ。それらを眺めているうちに、彼女の頭にすばらしいアイデアが浮かび上がった。
「もう少しだけ色をそろえれば、虹みたいになるよね。この宝石、わたしのなくなっちゃった羽の代わりにならないかな。うん、虹の翼なんて、とってもステキ!」
フランドールは目を光らせ、残ったもやを狩りつくすことにした。
破壊を続けているうちに、理不尽な暴力に怒りを覚えたものや、恐慌のあまりに気がおかしくなってしまったもやから、鮮血のように惚れ惚れとする赤色の鉱石と、自分の髪色のように明るい黄色の鉱石を手に入れた。
残るはオレンジ色だけだった。だが、鉱石も残すところ、あとふたつとなっていた。
「うーん、あとひとつだけなんだけどなぁ」
恐怖に打ち震える鉱石のもやを前に、フランドールは考え込んだ。
色々とこれまでの鉱石で試してみたが、まだこのもやたちの出会ってない感情があっただろうか。フランドールはなんとか思い出そうとした。
早く翼をそろえないと、空を飛べない。そうしないとお家に帰られない。フランドールは、望郷に駆られる気持ちをだんだん抑えきれなくなっていた。
そのとき、ふと頭の片隅に浮かんだのは、愛しい家族みんなの笑顔だった。早く会いたい、みんなのにこやかな笑み。
「あ、そうだ。あなたたちの笑ったところ、見たことなかったね」
フランドールの言葉に鉱石はビクリと震えた。
残ったふたつのもやは少女らしい人型であったが、その可愛らしい顔が浮かべているのは恐ろしさだけだった。
フランドールはそのもやの少女たちに顔を近づけた。
「ね、笑ってよ?」
もやの少女たちは、もうほとんど泣いていた。
その涙も、フランドールが記憶する妖精メイドの泣き方だ。この鉱石が流しているものじゃない。フランドールにはそう思えた。
「笑って、笑ってみせて? とびっきりの、可愛い笑顔をさ」
フランドールの言葉がどんどん重さを増していくように感じ、もやの少女たちは精いっぱい顔を引きつらせた。
湿ったほっぺを持ち上げ、唇をうすく引き結び、健康的な白い歯を見せる。
そして、笑い声をあげて、訴えたのだ。笑ってます。私たちは今、笑ってます、と。
「エ、エヘ……ヒグゥ、グスッ……エヘ、ヘ」
「ウ、アァ、ヒ、ヒィ、ヒヒ、ヒ」
「うん。可愛い。やっぱり女の子は、笑顔が一番可愛いよ」
もやの少女たちの必死の笑みに、フランドールも同じくまぶしい笑みで答えた。
それから、フランドールは両の手を握り、もやの少女たちを破壊した。
フランドールがぱちりと目を開けると、そこは自室の天井だった。
天井は、真ん中に大きな穴がぽっかり開いてしまっている。
「あ、飛び出したときに壊したままだった。どうしようかな」
あまり困ってない表情で、フランドールは言葉をこぼした。
宝石の翼はフランドールに異常な飛行速度と、特大の疲労を与えた。あのオレンジ色の砂漠から、記憶を頼りに屋敷まで戻ってくるのはあっという間だったが、眠りにつくのも同じ速さだった。彼女は自室に戻って早々、泥のように眠り、今ようやく起きたのだ。
「フラン! フランはいる!?」
そこにレミリアが叫びながら入ってきた。
「フラン、大丈夫!? ケガはしてないかしら!? なんか屋敷の床とか壁の風通しが抜群によくなってるんだけど、どうなってるのよ!」
館の惨状に、妹の危機かと危ぶんだレミリア。それを見て、フランドールはお出かけしたのは短い間だけだったんだと理解した。
妹の無事を確認したレミリアは、すっかり気を落ち着かせていた。だが、彼女がフランドールの背中にある翼を見るや、目をまるくした。
「フラン! あなた、その翼はいったいどうしたの? お姉ちゃんとおそろいだったじゃないの!」
フランドールの翼は、骨ばった翼に虹色の宝石を吊るしたものだった。羽を震わせると、カシャンとグラスを打ち合わせたような心地の良い音が聞こえる。
フランドールは思案した。姉にあのことをすべて話すべきだろうか。
だけど、飛べるようになったのはいいとしても、無断でお出かけしてしまったことは事実である。そのことまで話したら怒られるだろうことはフランドールにも想像がついた。だが、姉には嘘をつきたくもない、とも彼女は思っていた。
「お姉さま、この羽はね」
フランドールは、レミリアの前に立って言った。
飛行の練習をしたこと。飛べるようになったこと。無断で外出してしまい、危ない目にあったこと。それらを一言にこめて、フランドールは言った。
「いめちぇん」
レミリアは卒倒した。
妹を自室へ呼び出したレミリアは、開口一番にそう言った。
フランドールは床のやわらかさが自分の部屋とまったく同じものだと感じながら、姉の言葉の意味するところを考えた。
それまでのフランドールにとって、飛行とはレミリアに抱きかかえられながらふわふわ浮かぶことを意味していた。そうやって姉とおしゃべりをしながら、屋敷の中を散策する補助翼飛行が彼女のお気に入りの遊びだった。
そのすてきな時間がなくなってしまう。
「まだいいでしょ、お姉さま。ね? ね?」
おそろしい未来を想像したフランドールはたまらず、精いっぱいの誠実な態度でお願いした。
理想的な角度から放たれる上目使いとさりげないストマックブローを織り交ぜた懇願は、ひたむきな気持ちとこの世が弱肉強食であることを相手に嫌というほど理解させる。
「えい。お願い、お姉さま。えい」
「ふふ、フランったら体重の乗ったいいパンチをうぐ、持ってるのね。でも、やめてね。お姉ちゃんのお腹はそんなに丈夫にできてないから。牛乳飲んでも痛くなるくらいだからね」
「じゃあ、お姉さまに牛乳を飲ませてからお願いすればいいのね?」
悪意の定向進化を遂げた新人類のような邪悪さを漂わせるフランドールの発言に、レミリアは震え上がった。
「こ、紅魔館はテロには屈しない」
「へえ、いいんだ? お腹がゴロゴロなって神様にお祈りしたくなるくらい痛くなってもいいんだ? 牛乳に含まれる乳糖が小腸で分解されずにお姉さまの大腸にたっぷり流れ込んでもいいんだね?」
「ふん、なんとでも言うがいい。たとえお腹が痛くなったとしても、サンクチュアリ(トイレットルーム)が私を守ってくれるわ」
「屋敷のトイレはぜんぶドアと壁を壊してフルオープンの快適な空間を演出、開放感あるスペースで体にたまったモノも解放できるコンセプトを実現しておいたんだけど、それでもいいんだね?」
「要求をのみます」
「お姉さま大好き!」
拳と脅迫の果てにおとずれる和解。話し合えばわかりあえると、フランドールはあらためてコミュニケーションの重要性をかみ締める。一方レミリアも、真綿で首を絞められるような交渉から解放された自由をかみ締めていた。
以降、百年ほどレミリアの説得は続いたが、そのたびにフランドールは涙目とあどけないハイキックでごまかしたり、寂しげな視線と偶然をよそおったローリングエルボーで話題の転換を図るなど、巧妙な話術と惜しみない腕力でもって今日まで逃げ続けてきたのだった。
だが、これでいいのだろうか。
フランドールは自室のベッドの上で物思いにふけっていたとき、ふとした拍子にそう考えるようになった。
それも無理からぬ話だ。彼女はもう四百歳なのだ。人間なら補助輪なしで自転車を乗りこなすし、覚りなら補助電源なしでサードアイを稼働させる年頃だ。
ならば、自分も羽ばたくときなのではないか。
フランドールの胸のうちに、焦燥にも似た思いが浮かび上がる。そして、同時にある衝動が全身を駆け巡った。
それは、成長したいという願望だ。二輪となった自転車を軽やかにあやつる少年や、単三電池の束縛から抜け出した覚りのような、精神の飛躍を成し遂げたい。そうすれば、そうすれば……。
そこまで考えて、フランドールは首を傾げた。
成長すれば……なんなのだろう。その後になにが待っているのか、まるでわからない。知らないのだ。だというのに、経験を積み重ねて、心をひとつ上の段階に押し上げたいと、かすかに願っている自分がいる。その願いは煙のように揺らいでいて、突き動かすような力はない。むしろ、やっぱり飛びたくなんてないと考え直してさえいる。本当にあるのかどうかも確かでない、意識の底で横たわっているような欲望だ。
胸のうちで巻き起こる渦が、フランドールにはそう見えた。
「一回くらい、やってみようかな。飛ぶ練習」
フランドールは自然とそんなことを口にしていた。
どうやら自分は、飛行の練習というのをやりたくなってみたらしい。今はそうでもないけれど、少なくともさっきまではそうだった。ちょっとくらい試してみてもいいじゃない。
意思とは裏腹に乗り気でない体をそのようになだめた後、フランドールはキングサイズのベッドから勢いよく飛び降りた。
そして、部屋の中央に陣取る。姉とおそろいの蝙蝠のような羽を広げて、赤褐色の皮膜をぴんと張った。それから、一生懸命にぱたぱたと翼を動かしだした。
ぱたぱた。
ぱたぱた。
ぱたぱたぱた。
「うーん、飛べる気がしないよ……」
ぽつりとつぶやく。
しばらく翼をはためかせていたフランドールだったが、その体はわずかばかりも浮かなかった。
「こんなに羽ばたいてるのに少しも飛べないなんて。やっぱり、わたしが一人で飛ぶのはまだ早いってことかなぁ」
言いながらもなお、フランドールは自分の羽をぱたぱたと揺らす。
その様は、小動物のようなうっとりとする愛らしさをふりまいて見る者の頬を緩ませるが、羽ばたきから生み出される時速二百九十五キロメートルの風速が小動物のイメージを粉々に打ち砕いていた。
羽ばたくだけで警戒規模のハリケーンを生み出すフランドールの姿はどう控えめに見ても小動物系ではなく神話生物系女子でしかなく、その二つの翼の間に生じる暴風域の圧倒的破壊空間はまさに異次元的風嵐の小宇宙である。
今や暴風はフランドールの部屋のすべてに行き届き、置かれている調度品の寿命をすさまじい勢いで削り取っていた。
そのときだ。
おや、とフランドールは不思議そうに自分の体を見下ろした。そして、まじまじとその異物を見つめた。
「なぁにこれ。鎖?」
フランドールの視線の先、足首からひざにかけて透き通るように白い鎖のようなものが巻きついていた。彼女は翼を休めることなく、その鎖をじっと眺めた。
縛られているという感覚はなく、手を近づけても触れることができない。重さもまったく感じない、奇妙な鎖だった。
だが、それが足に絡んでいるという事実がフランドールに存在しない重みを与えていた。
いつから巻きついていたのか、誰の仕業なのか、考えるべき疑問はいくらかあった。しかし、フランドールの頭の中では、すぐれた直感がありふれた思考を差し置いて、星のきらめきのように一つの真実を飛来させた。
「もしかして、この鎖のせいで飛べないのかな」
結論として、フランドールの推測は正しかった。
彼女は、暴風を生み出す背中の翼をなおも働かせたまま、その白い鎖を壊そうとする。冷たい金属の光沢を放っている鎖がいかに強固であろうと、彼女はそのもっとも脆い点を見つけ出し、ちいさな手の中で握りつぶすことができるのだ。
彼女はえいや、とその鎖を破壊した。
その瞬間、鎖は正体をあらわし、フランドールは地上から『射出』された。
「うわ、わ、わ、わ、わ、わ、あ、あ、あ」
惑星が持つ引力。
その鎖から解き放たれたフランドールは、はじめのうちこそ悲鳴らしい驚きの声をあげていたが、やがて口から吐き出されるものは空気だけになった。弾丸のようにきりもみ回転をしながら、自室の天井に迫っていく。
ここで天井にぶつかっていれば、重力の枷がふたたびフランドールを捕らえ、大地へと引き寄せたのだが、実際にそうはならなかった。衝突のショックに身構えた彼女が思わず拳を握り締めたことで、天井はあっけなく崩壊したのだ。
フランドールはそのまま自室を抜け、館の一部を同じ要領で通過して、冬の夜空へと打ち出された。
眼下に広がる暗がり、肺を満たす冷たい空気、土と葉の複雑な香り。屋敷の外という未知の世界がフランドールを迎え入れる。しかし、彼女に好奇の目を輝かせる余裕はなかった。
飛行練習で生じた暴風と能力による破壊の反作用が、爆発的な推進力となってフランドールを途方もない速度で押し上げていったのだ。そのすぐ後を重力の鎖が追いかけるが、お互いの距離が縮まることはなく、ストローの中のオレンジジュースのようにどこまでも昇り続ける。
やがて、フランドールは宇宙に到達した。
「あ、あ、あ……あれ? ここ、どこかな。もしかして屋敷のお外?」
視界がゆるやかに流れるようになったので、フランドールはようやく辺りを見回した。そこには、果てのない暗がりと散りばめられた輝きがあった。
まったく知らない光景だ。屋敷の中じゃない。きっと、ここが外なんだ!
はじめてのお出かけだ、とフランドールは宇宙空間を遊泳しながら喜んだ。あまりの嬉しさに呼吸ができず息苦しいことや、しゃべっているのに実際に声が出ないこと、空気抵抗による摩擦の影響で洋服が燃えてしまい今は全裸であることなども気にならなかった。そういった現実的な問題など、フランドールの笑顔の前では風に吹かれる塵のように消え去るのだ。
だが、無視できない問題もある。それはフランドールがフランドールであるために起きてしまった。
宇宙遊泳を続けていた彼女は、目の前に置かれた巨大な球体が端からうっすらと光りだしたのを見て取った。
やがて、光は徐々にその勢力を増やし、青い肌をして真っ白な煙をまとった球体はひとつの輝く熱源をゆっくりと産み落とした。
太陽だ。
「……あ」
球体の後ろに隠れていた太陽が、フランドールの前に姿を見せる。
フランドールは、とっさに翼で顔と体を包み込んだ。
だが、わずかばかり遅かった。真空状態でも干からびることのなかったフランドールの血液は、沸騰を始めて泡立ち、血管を導火線のように焦がしていく。翼も太陽光の直射を浴びて、燃えることなくとろとろに溶けていった。羽には次々と穴が開き、そこから肌を突き刺す光が襲う。
その穴はみるみるうちに大きくなり、ついには皮膜が完全になくなってしまい、フランドールの翼は枯れ枝のようにやせ細った。
太陽は無慈悲に水気のある肌を焼いていく。
フランドールは身を丸めて目を閉ざした。脳裏には姉の姿が浮かび、それが消え去るともうなにも残らなかった。
そして、フランドールの意識はそこでぷつりと途切れたのだ。
「ん?」
フランドールのおおきな目がぱちりと開く。
「あれ、お家の中? さっきまで外に……ん、でもわたし、屋敷から出たことってない、よね?」
自分に問うようにフランドールは言った。
彼女の記憶は、震えるほど美しく、おそろしいほど冷たい、広大で真っ黒な水の中を泳いでいたと訴えていた。しかし、視界には見慣れた屋敷の光景が広がっているだけだ。
夢でも見ていたのだろうか。日の光が全身を貫く、とびっきりの悪夢を。
それとも気のせいなのかな、とフランドールは頭をゆらしてウーンとうなった。それでも、彼女の望む答えは浮かばない。
ふと、何気なく振り返ると、チョコレート色の立派な扉が目の前にあった。
「あ、ここ、お姉さまの部屋」
レミリアの部屋の前に立っている。フランドールはそれを知った瞬間、先ほどまで姉と話をしていたことを思い出した。
呼び出されて、自分一人で飛べるように練習しなさい、と言いつけられた。そして、そのことで姉と喧嘩別れをしてきたのだ。
フランドールの胸のうちに熱いものがこみ上げる。熱した鉄のような怒りが、彼女の舌の上から飛び出した。
「もう、もう! バカ、バカ、お姉さまのバカ!」
途端に、フランドールはぷりぷりしだした。
いかにも、わたしは不機嫌ですと辺りに知らしめるように、廊下を踏み鳴らそうと大股で歩いていく。
しかし、フランドールのちいさな足は真っ赤な絨毯に受け止められ、足音のひとつも立たせられなかった。コルクウールの複雑な繊維は、彼女の怒りに理解を示さず、ただひたすらになだめるだけだ。
「なによ。わたしが怒ってないみたいじゃない」
むっとしたフランドールは足音のかわりに、ぷんぷん、と今の気分を声に出してみた。
ぷんぷん。
ぷんぷん。
ぷんぷんぷん。
おおっ、とフランドールは感にたえないようにうなった。
ぷんぷんというただ単調なだけの音だというのに、口ずさんでいくうちに自然と沈んでいた気分が高揚していく。
『ぷ』という儚くも鮮烈な破裂音。そして、『ぷ』でふわふわと浮いてしまった舌をそっと受け止めてくれる『ん』の安心感。これらの繊細な調和に、フランドールの幼いながらも優れた感性は見事に気づいてみせたのだ。
ぷんぷんの魅力にとりつかれたフランドールの唇は、今や八ビートを刻んでいた。
ノリノリだ。
「ぷんぷん。ぷんぷん。ぷんぷんぷんぷんぷん」
次第にそのリズムは激しくなっていき、ついに十六ビートにまで到達した。
その口の動きは常人の視認を許さず、声が周回遅れで聞こえてくるとフランドール本人の間で話題になっている。これほどの稼働能力を持つ彼女の唇は、お友達との楽しいおしゃべりというイベントを夢見て、およそ四百年を費やした会話のイメージトレーニングと発声練習による努力の賜物であったのだ。
しかし、そんなフランドールの洗練された発声技術は、途中で舌を思いきり噛むという失態によりあっけなく幕を閉じる。涙目となった彼女の機嫌は、ふたたび荒れ果てることになった。
「いたぁ……舌、いったぁ……これ、ぜったいお姉さまのせいだ、いたぁい」
舌の痛みにたえながら、フランドールは不機嫌の原因であるレミリアの顔を思い浮かべた。
すると、頭上に浮かんでいたレミリアは、好き勝手にしゃべり出した。
『だから、言ってるでしょう? 美鈴はべつの仕事で手がはなせないの。練習の付き添いならほかのメイドにしておきなさい』
つい先ほども聞かされた言葉だった。
フランドールはピンク色のほっぺを膨らませ、文句をぶつけるために頭の中の姉を自分の前に立たせた。
正面からこちらを見やるレミリアの姿は、数分前と変わらぬ穏やかな目をしている。その表情は、この世の正しさを自分のポケットにしまっているとでも言っているようだった。
気に入らない。自分はこんなにも腹を立てているというのに。
フランドールは、やはり先ほど姉の部屋でそうやったように歯をむき出した。
体が過去を再現すると、頭もそれに引き寄せられる。自然と彼女の記憶は、そのときなんと言い返したのかを思い起こしていた。
『ほかのじゃ、いや。美鈴がいいって言ってるでしょ』
フランドールの声がずいぶんと頑なな調子だったので、レミリアはわかりやすく微笑んだ。
『どうして? ほかのメイドじゃあ、いけないのかしら』
『うん』
フランドールが短く答えた。
レミリアはしばらく間をあけてからもう一度言った。
『どうして?』
フランドールは初め、目線をあからさまにそらしていた。だが、レミリアが黙ったままでいるのをみて、しぶしぶといったようにぷっくりとした唇の間から声をこぼした。
『ほかのメイドはわたしのこと、妹様って呼ぶから』
『まあ』
レミリアは口元に手を添えた。
『あなた、名前で呼んでほしいわけ?』
『妹扱いされたくないの!』
『あなたは私の妹じゃない』
『わたしはお姉さまの妹だけど、メイドたちの妹じゃあないもの。妹って呼んでいいのはお姉さまだけのはずよ』
わかるでしょ? とフランドールはそれを視線にこめて姉を見つめた。
レミリアはちいさく頷いた。しかし、フランドールの期待に応えられないということは、その表情が雄弁に語っていた。
『でもねぇ。美鈴は忙しいのよ。ほかのメイドを取りまとめたりもしているし、私の着替えも手伝わせてるし、庭の手入れもさせてるし、家事全般やらせてるし、屋敷の警備もさせてるし、どこかに置き忘れたグングニルの捜索も任せてるし』
『働かせすぎ』
フランドールは自分の生活基盤が苛酷な労働環境によって支えられている事実を知り、少しばかり憂鬱になった。
だが、レミリアは違った。紅魔館の火元責任者である紅美鈴メイド長が、無類の世話好きであることを知っていたからだ。
そもそも紅美鈴はレミリアに雇われたのではない。彼女は旅する妖怪であったが、たまたま紅魔館の近くにまでやってきたとき、レミリアの妙なところで世話がやける性質を持ち前の嗅覚で探り当て、本人の承諾も得ないまま屋敷にもぐりこんだのだ。場の空気を読み、パーフェクトコミュニケーションを連発する紅美鈴は即日でメイド長の地位を築き上げた。そして、いつの間にかメイドたちに采配をふるい、毎日存分にお世話ができる立場を確立したのだ。
その手腕には雇い主でないレミリアも、誰? アイツ誰? と心の中で繰り返しながら、私の目に狂いはなかったと自慢げに言ったものだった。
『だから美鈴はダメなの、ね、わかって?』
『お姉さまばっかりずるいよ。わたしには美鈴と一緒に飛ぶ練習もさせてくれないのに、お姉さまはあのパチュリーって子といっつも遊んでばかりじゃない!』
フランドールの言葉に、レミリアは露骨にうろたえだした。
『え、いや、ほら、ノーレッジはまだ十歳だし』
パチュリー・ノーレッジちゃんは、類まれなる魔術の才能を持ち、アンニュイな雰囲気から無自覚の色気を垂れ流している可愛らしい幼女である。
ごく一般的な農家の家庭に生まれたにもかかわらず、畑で採れた有機野菜と畑の土をこね合わせてホムンクルスを作り出すなど魔女っ娘としてメキメキと頭角をあらわしていたが、その才に目をつけたレミリアに屋敷の知識人として招かれた経緯がある。
おいしいケーキがあるんだけどお家に来ない? と言って十歳の少女を連れて行く手口は完全に誘拐行為でしかなかったが、レミリアはスカウトだと言ってゆずらなかった。
『そうだよ、十歳だよ! 若くて優秀な魔女を客人にしたって言ってたけど、いくらなんでも若すぎでしょ! お姉さまの痴人! 光源氏! ロリータブリーダー!』
『若い芽を伸ばすのは年長者の役目なのよ』
『お姉さまが伸ばしてるのは芽じゃなくて食指でしょ』
『ハハハ、こやつめ』
フランドールは腕にうなりをつけて、朗らかに笑うレミリアの腹部に拳を叩き込んだ。
『その上手いこと言ったねって言いたげにニヤニヤするの、やめてよね。殴るよ?』
『お姉ちゃん、知らなかったわ。思いっきり体重乗せて鳩尾に抉りこむように拳を打ち込むのは、殴るって言わないのね』
『今のは撫でただけです』
『あなたのそういう控え目なところ、好きよ』
『わたしも、下半身が生まれたてのバンビみたいになってるのに気丈に振る舞うお姉さまの健気なところは好きだよ』
フランドールの重すぎる一撃により、レミリアの足はすでに笑ってる状態を通り越して抱腹絶倒していた。小刻みに震える足で懸命に立ち続けようとするその様は、アルプスの少女に罵倒された興奮から思わず立ち上がった令嬢を想起させる。
頼りなさ過ぎる下半身のまま、涼やかな顔をして冷静な口調で話すレミリア。その姿を眺めていたフランドールの頭上では、下半身は別の生き物、というよくわからないフレーズが浮かんでいた。だが、レミリアの一声で、彼女の頭上を漂っていたものはすべて吹き飛んだ。
とにかく、とレミリアは結論付ける。
『飛行の練習はちゃんとするのよ。付き添いがほしいなら、ほら、そこのメイドたちにしてもらいなさい』
レミリアの指差す先をたどって、フランドールが後ろを見やる。すると、ドアから顔だけを覗かせてこちらの様子をうかがっていた妖精たちと目があった。
瞬間、はじけ飛んだように妖精たちは頭を引っ込め、きゃあきゃあと騒ぎながらドアの向こう側へと去ってしまった。
『みんな、あなたのことを気にしてるってことを覚えておいてほしいものね』
『それはわたしが妹だからじゃないの』
『だったらあなたのことなんか放っておいて、私だけに跪いていればいいんじゃない?』
レミリアは含み笑いをした。
軽やかな笑い声が、フランドールの耳に響く。響く。響いて、そして、消えない。
フランドールはそこで思い起こすのをやめた。
記憶の中の笑い声が鎮静の役割を果たしたのか、彼女は幾分か気を落ち着かせていた。そして、しばらく黙ったまま廊下を歩き続けたが、曲がり角のところで一度振り返った。
給仕服の妖精たちがいた。妖精たちは仕掛けばねのように飛び上がり、それからすぐにきゃっきゃっと声をあげながら散っていった。
飛ぶ練習をしよう。
フランドールの足は力強い勢いで、自室へと向かっていた。
飛べるようになったら、みんなと空をお散歩したい。楽しげに笑いあう光景を脳裏に浮かべ、彼女は飛行の練習を始めた。
自室に戻ったフランドールは早速、翼を思いっきり羽ばたかせる。
だが、羽ばたきは微風となるばかりで、蝙蝠のような形をした羽はいつまでたってもフランドールを喜ばせなかった。
なにがいけないのだろう。飛ぶときの姿勢? 羽ばたきの力不足?
そんなものじゃない、とフランドールはかぶりを振った。
彼女は原因こそわかっていないが、思いついたものがどれも飛べない理由ではないと確信していた。もちろん、その根拠も定かではない。ある種の予知めいた感覚だった。
「あ、これ……なんだろう、鎖かな」
そして、やはりフランドールは正しかった。
飛ぼうと翼を動かすと、決まって鎖のようなものが彼女の足に巻きつき、地面に縛り付けるのを見つけたのだ。
これだ、これが自分の邪魔をしている。わたしの敵だ、とフランドールはそのミルク色の鎖を睨みつけた。それに彼女が、その鎖を敵視したのは飛ぶのに邪魔だからというだけではなかった。
鎖を下半身に絡めたフランドール。
その姿は一見すると、ファッションを頑張りすぎて腕にシルバーを巻くに飽き足らず足にまで巻きつける徹底したアウトロー精神の持ち主であるように見えるが、フランドールほどの可愛らしさが伴うとそこに妖しげな身震いを催すようになるのだ。
フランドールも幼いとはいえ、鎖で緊縛されている少女がそこにいるというだけでこの世のあらゆる光景がいかがわしくなる事実を知らぬわけがなかった。このままでは紅魔館という建物自体が妖艶さを放ち、付近の景観を阻害すると近隣住民の間で問題になり、訴訟沙汰になるかもしれない。
倫理的な危機感がフランドールを突き動かしていた。この鎖はなにものなのか、なぜ巻きついているのか、そのような疑問など彼女には考える暇もなかった。
躊躇することなく、フランドールは白い鎖を破壊した。
「わっ」
フランドールが口に出来たのはその一言だけだった。
彼女がちいさな手のひらをキュッと握ると、鎖は粉々に砕け散り、その残骸がすさまじい速度で落ちていった。鎖の破片だけではない。視界に映るすべてのものがフランドールを置き去りにして、無限の落下を繰り返した。
自分の部屋が、真っ赤な屋敷が、取り囲む自然がフランドールを見上げた。そのまま、落ちていったものは夜の暗がりに飲み込まれた。夜は貪欲にフランドールの視界を飲み干し、やがて彼女の周りに残ったものは、あまりに大きくなった夜の体と、その上に点在する無数の真っ白な輝きだった。このとき、フランドールは宇宙という外の世界に足を踏み入れたのだ。
落下が止んだのを知ったフランドールは、あちらこちらへと視線を動かす。その瞳は、見たこともない美しさを前にして、きらめていた。
そのうち、フランドールのくるくると回る首が、喉をさらす形でぴたりと止まる。
「空、きれい……」
フランドールは静かに言った。
飛べなかった自分が、空の視点を、外の世界を見ている。その事実が彼女の心臓を烈しく撃った。
フランドールの心は、踊るような鼓動を立てている。湧き出る嬉しさがこぼれているのだ。彼女の全身を夢のような心地が包み、唇には幸福が宿った。
その幸福はフランドールの精神に作用し、彼女の取り巻くあらゆる問題を跳ね除けた。
たとえば、宇宙空間であるためにフランドールは呼吸が出来ずにいた。だが、お出かけをしているという喜びが、彼女を無酸素の境地に至らせた。おまけに、彼女には酸素がなくとも可愛らしさがある。だから、なんの問題もない。可愛いは法則であり、宇宙の理すら捻じ曲げる。
しかし、フランドールが愛らしい吸血鬼であることは変えようのない事実であった。
吸血鬼の天敵である太陽光は、フランドールの背後にあった惑星の影からゆっくりと、けれど確実に忍び寄っていた。
宇宙空間をふわふわと漂っていたフランドールは、楽しさのあまりすぐに気づけなかった。彼女の蝙蝠羽を太陽の舌先は、猛烈な勢いで舐め溶かしていたのだ。
やがて、何の気なしに後ろを見やったフランドールは、口をぽっかり開けて仰天した。
「わっ、わっ、羽がないよ! わたしの羽!」
その声には先ほどまでのはしゃいでいたときの火照りが残っているようで、実に楽しげな調子だった。
しかしそのうち、フランドールの声音は宇宙にいながら重力の手ほどきを受けたように低くなった。
「え、え……ええ? あれ、羽……えっと、どこかに落としちゃった、かな」
姉とお揃いだった羽。それが今や、やせ細った骨のように色気をなくしていた。フランドールの背中にあるのは、皮膜をなくし、もはや飛ぶことも適わない萎れた翼だ。
こんなものを背負って、果たして帰れるのだろうか。流麗な輪郭が持つ強さを失った翼で家に帰ることなど、果たして。フランドールの脳裏にそうした不安がよぎり、ちいさな体はおそろしい寒さに打ち震えた。
深い、ねっとりとした暗がりが、フランドールの心に染み込む。意識は無限に引き伸ばされ、途方もない堕落の感覚が彼女の体内に広がっていた。
同時に、太陽はフランドールの薄い皮膚を無遠慮に剥ぎ取っていた。だが、その痛苦が彼女を襲うことはなかった。際限のない悲しみに打ちのめされ、彼女はその身を焼かれながらも、意識が途切れる最後まで痛みを感じることはなかった。
フランドールのまぶたの裏に、レミリアが描かれ、それから世話焼きのメイド長と姉の連れてきた幼い魔女の姿が浮かび、自分と同じくらいの身長のメイドたちまで現れた。
記憶の中の彼女たちは宇宙のように優しく、太陽のように暖かい笑みを向けていた。
フランドールはぱちりと一度だけ目を開ける。そこに願っていた家族の姿はなかった。
どれだけ漂流していたのだろう。太陽も、すぐ近くにあったあの大きな球体も、そこにはなかった。
あるのは、鬱金色のちいさな球体だった。フランドールが薄目でそれを眺めていると、球体はだんだんと成長し、大きくなっていく。
吸い寄せられているのだ。その惑星が望んでいるように、フランドールとの距離は縮まっていく。
フランドールの視界はもうほとんどが自分の髪色に染まっていた。
そこで、まぶたは自然と落ちた。目の前が、今まで見たこともないほど黒く塗りつぶされていく。体をぐったりと投げ出したまま、フランドールの意識は眠るように沈んでいった。
「ねえ、ちょっと。あなた、聞いてる?」
フランドールが顔を上げると、レミリアがいた。
姉がいる、とフランドールがみとめると、彼女の視界はようやく、ここがレミリアの部屋なのだと教えてくれた。
「え? あれ? ここ……」
「どうしたの。なんだか上の空だったみたいね。昨日はちゃんと眠れたのかしら」
「眠る……ええ、夢なの? うそぉ」
どうも少しの間、夢を見ていたらしい。
……本当に?
フランドールにはそうは思えなかった。それどころか、何度もこうした疑問にぶつかっているようにすら感じる。
もしかしたら、これが夢なのかもしれない。本当はまだお外で眠っているだけで、覚めるのをじっと待っているのかも。
フランドールはレミリアのほっぺを、ちょんとつまんだ。そこにレミリアがいたからだ。
むちむちとした張りのある肌の感触が、つまんだ指から伝わってくる。おまけとばかりに引っ張ってみると、面白いようにほっぺは伸びた。
「ひはひ」
レミリアが嫌がるので、フランドールはすぐに指を離した。
レミリアはほっぺを手でさすりながら、この子寝ぼけてるのかしら、と怪訝な視線を向けた。その表情は、彼女の眉がわずかにその均整を崩していたため、フランドールを無性に悲しくさせた。
ねえ、とレミリアは言った。
「私の話、ちゃんと聞いてたんでしょうね。きちんと、飛べるようにならないとダメよ」
「うん」
「いい子ね」
フランドールが素直に頷いたのを見て、レミリアは彼女のおでこにキスをした。
ふわりと、部屋のものとは別の空気がフランドールの前に流れ込む。血と乳の香りが彼女の鼻腔を刺激した。
フランドールが姉から離れると、レミリアはまだ足りないとでも言うかのように一息にまくしたてた。
「いい? 自分の部屋で練習するのよ。あそこなら、あなたのがんばりも受け止めてくれるわ。練習前にトイレには行っておくのよ。休憩もしっかり取らないといけないわ。付き添いはいらない? 必要なら適当にメイドをつかまえていいからね。美鈴はダメよ。あいつの世話好きはもう病気だから。一服盛られて動けないようにされて食事からトイレまで介護されるわよ」
「美鈴のことは初耳なんだけれど、なんでお姉さまはそれを知ってるの?」
「……」
「お姉さま?」
「この前、ノーレッジがそう言っていたのよ。彼女も十歳とはいえ、赤ん坊ではないんだからされるがままなんて災難よね」
レミリアの言葉を聞いて、フランドールは優しい目を姉に向けた。
その慈愛の視線に気づいたレミリアは、フランドールに誤魔化しを通用させるために、パチュリーからの伝え聞きという体裁で自らの介護体験談を次々と披露していく。トイレでなかなか大物が出てこなかったとき美鈴に指で、という話を聞かされたところでフランドールの涙腺は決壊し、姉の尊厳を守るために部屋を大急ぎで出て行った。
しかし、自室へ戻ったフランドールは実のところ、飛行練習をするか決めかねていた。
飛べるようになって、なにがあるというのだろう。自分一人で飛べるくらい、大人になれば一人前と認めてもらえるのだろうか。
お出かけをしたりすることができるのかもしれない。成長すれば。
成長すれば、自分だけの力で飛ぶことができれば、与えられた地下の部屋から飛び出し、屋敷を抜け、外の世界へと羽ばたけるかもしれない。
外の世界へ。知識としてしか知らないはずの、その光景を思い描いていたところで、フランドールのきらめく瞳に突如、暗雲が広がった。
外に出てみたい。かつてのフランドールが期待に胸を躍らせ、姉にそう願ったとき、どうなったか。
自分がどういう立場かを思い知らされたのだ。
「わたしが飛べるようになっても、お姉さまは屋敷から出してくれないよね」
フランドールは自分に言い聞かせるようにつぶやいた。口に出した途端に、彼女の芽生えだしていた自立心はすっかり萎れてしまった。
だが、これは当然のことだ。なぜなら、フランドールの世界の根底には彼女の姉が息づいているのだから。
姉の言いつけは、フランドールの中で絶対の地位を確立している。それは、フランドールが地下にある頑丈な部屋を与えられたときからだ。生まれついての破壊に特化した能力を持つ彼女は、そのコントロールが不安定なために軟禁という処置が姉により取られた。
しかし、フランドールに不満はなかった。いつも姉が会いに来てくれるし、いくらでも遊んでくれる。彼女の精神は、レミリアによって満たされていた。
レミリアは、フランドールが安らぐままに身を横たわらせる心の土壌だ。やわらかく、血と乳の香りをまとわせるその大地に、フランドールは絶対の信頼を置いている。思うままに体を任せられる存在であり、その心地よさにフランドールはいつしか自分の足で立つことを忘れてしまっていた。
フランドールの恐怖や不安もそこにある。言ってしまえば、彼女は姉にべったりと甘え続けたくて、自分が成長を見せてしまえばその時間が終わってしまうと思っていた。彼女の無意識は、レミリアに自分はもう必要ないと思わせてしまうことを恐れていたのだ。
姉に幽閉されているという現状も、フランドールにとっては都合のいい建前に過ぎない。願うならずっと子供のままでいたかった。
それが彼女の欲望の底だ。
だが、とフランドールはここで初めて思い悩んだ。
普段の彼女なら、やはりこのままでいいと決め付けるだろう。
だが、今のフランドールは違った。まさに今、この瞬間、彼女は自分の弱さをむざむざと見せ付けられていたのだから。
「この鎖……これが、きっと、わたしの……」
ひとまず形だけでもと飛行のまねごとをしていたフランドールは、自分の足にまとわりついている、汚れなどまったくない、まぶしいほどに白い鎖を目にしたのだ。
フランドールを飛ばせまいと、地に縛り付ける白い鎖。その色は彼女の幼さであり、その重みが彼女の弱さを示していた。
どれだけ翼を力強く羽ばたかせたところで、フランドール本人が飛びたくないと無意識のうちに体を強張らせていたのだから、飛べるはずがなかったのだ。
鎖はフランドールの精神の象徴だった。その幼い欲望を見せ付けられ、問題を自覚しないわけにはいかなかった。
フランドールは、心の一番やわらかいところにある、哀れなほどに脆弱な、成長したいという願いが自分の中で確かに息づいていることを知った。
そうだ。成長したいんだ。フランドールは確かめるように自分に言い聞かせた。
大切なのは精神を高みへと押し上げることだ。高く、高く、空の果てまで。
姉のような高みへ上り詰めて、二人で肩を並べる方が寄りかかるよりずっといい。
「わたしがずっと寄りかかっていたら、お姉さまも疲れちゃうもの」
もうフランドールに迷いはなかった。
鎖は誇るように純白の身を輝かせている。フランドールは目を細めながら、まさにその鎖が以前の自分だと痛感した。
だが、それもこれでおわりだ。
「さよなら」
フランドールは拳を強く強く、握り締めた。そのちいさな手の中で、彼女の欲望がミシリと悲鳴をあげた。
そして、翼をひとたび羽ばたかせると、フランドールの体はすさまじい勢いで飛んでいった。
飛べる。フランドールは羽を自在にあやつり、自分の意思で飛んでいることを確信した。大気をつんと尖った鼻先で真っ二つに引き裂きながら、空の果てを手繰り寄せる。
次第に辺りの黒さは煮詰められ、ますます濃くなり、フランドールは夜の向こう側に足を踏み入れた。
「外! わたし、外にいるわ! 屋敷の中から、外に出たのよ!」
フランドールは歓喜の声をあげた。
地上から広大な宇宙へと進出したの彼女の精神は、偉大なる飛躍を成し遂げた。閉じこもっていた心は、殻を破り、外の世界へと羽ばたいていったのだ。
同時に今のフランドールには、覚悟があった。成熟しつつある精神を抱えている彼女のきらめく心は、何物にもさえぎることの出来ない、ひとつの輝きを見せていた。
フランドールが見下ろす惑星の輪郭が、少しずつ崩れていく。太陽の魔の手が、彼女の翼に迫りつつあった。
羽で全身を覆ったフランドールは、身をまるめるとそのまま動かなかった。彼女の輝ける精神は、太陽光に羽の皮膜と溶かされ、全身を焼かれ、暗闇に飲み込まれようとする意識をわずかながらも照らし続けた。気の遠くなるような痛みも、思い描いた愛おしい家族の皆になぐさめてもらった。
こうして、フランドールはその意識を保ったまま、宇宙を漂流し続けた。
やがて、鬱金色の球体が見えた。フランドールがそのままじっとしていると、球体は視界におさまらないほど大きくなった。そのうち、もはや慣れてしまった浮遊感が急速に失われていき、久しく忘れていた落下の感覚が彼女を襲った。球体はもう鬱金色の壁となっていて、彼女は思わず目を硬くつむった。
次の瞬間、あらゆる音がいっぺんにやってきたかのように、すさまじい大音量がフランドールの耳の中で炸裂した。
接地したフランドールは、細かくてちいさなオレンジ色の砂で口をいっぱいにしながら、何百メートルという地面を全身で掘り起こした。やがて、巻き上げた砂埃が止んだが、それでもフランドールは動かなかった。夢をたっぷりと見続けた後に起きたときの、ぐったりとした疲労感がフランドールの筋肉に残っていたのだ。
それでも、目を動かすくらいのことは出来る。フランドールはうつ伏せのまま、周囲を見渡した。
そこは大きすぎる砂場のようなところだった。空は澄んでいるがやはり黒く、星が点々とくっついている。見たことのない青黒い光源も浮いていて、太陽の仲間のようなものなのかもしれない、とフランドールは考えた。その太陽は実に奇妙で、吸血鬼のフランドールが浴びても痛くもない、涼やかな光を放つのだった。
そして、地上にも見るべきものはない。薄いオレンジ色をした砂が、どこまでも敷き詰められている。その上に鉱石のようなものがいくらか転がっている。それだけだ。
そのためだろう。フランドールが砂を踏みしめる音を聞いたとき、何事かと目を見開いた。
「あれ、きれいな石……自分で転がってるの?」
口の中でもごもごとフランドールは言った。
砂地に埋もれていた色とりどりの鉱石が、風もないのに一人でに転がっていた。黄色やオレンジ色がほとんどだったが、中には薄い緑色のものや、濃い赤色のものもいた。それらが、フランドールの周囲を取り囲んだ。
寝そべっていたフランドールはそのままの体勢で、鉱石の正体を見極めるつもりでいた。起き上がる体力もあまり残っていないのだ。
八面体の鉱石はそれぞれ、ぴんと真っ直ぐに立ち上がったかと思うと、その澄んだ鉱石の中にある、もやのようなものを外に噴出した。もやはゆらゆらと鉱石の頭上を漂い、それからゆっくりと人型になっていった。
その人型のシルエットがだんだん見知ったものに整えられていくのを見て、フランドールは首筋のところまで電気が走ったような感じになった。彼女はこのとき、自分を取り巻く事態の正体を見通すことが出来たのだ。
フランドールはすぐに目を閉ざした。この意識が沈み、浮き上がった頃にはわかる。そう考えていた。
自分の予想があたっているかどうか、その正解が。
やがて、フランドールの意識は本人の手から遠のいていった。
フランドールが目を開けると、正面にはレミリアがいた。
「だから、あなたも一人で飛べるようになった方がいいと思うのよ。わかる?」
レミリアは自分の言葉の効果を確かめるようにフランドールを見つめた。
だが、フランドールはまるで聞いていなかった。やっぱりそうだ、姉に飛行の練習をするようにと言われたここからだ、と彼女は自分の胸のうちにうなずいた。
「聞いてる? ねえ、あなた、ちゃんと私の話を」
「ねえ」
不満げな声音をさせたレミリアの言葉をさえぎって、フランドールは話しかけた。
レミリアは少し驚いてみせた後に、なによ、と返した。
「よく出来てると思うよ、それ。わたしが覚えている通り」
「……なに?」
「でも、ダメだったね。肝心のところが足りてないんだもの。すぐにわからなかったわたしが言えたことじゃないけれど」
「ちょっと、あなた。いったい何の話をしているのよ。わかるように言いなさい」
うろたえるレミリアを前にして、フランドールはにこりと笑った。そして、右手を彼女に向けて突き出した。
「あなたは偽者ってことよ。わたしの名前も知らないお姉さま?」
かつての枷であった鎖を断ち切ったように、フランドールは拳を握りしめた。
パリン。
薄氷を砕いたような軽やかな音が響き渡った。
レミリアの姿が霧のように薄らいでいく。レミリアだけではない。部屋も、屋敷も、周囲の光景はどんどん崩れ、その正体をあらわにした。
「ほら、やっぱり。きれいな石だね。見た目も、中身も」
鮮やかな緑色の鉱石が足元に転がっているのを見て、フランドールは言った。
フランドールがいる場所は、記憶にもよく残っているあの薄いオレンジ色の砂漠だった。辺りはどこまでも続いていく砂地と、彼女を囲むように点在する八面体の鉱石があるだけだ。
ほかの鉱石は、その上に人型のもやを漂わせている。その姿はフランドールには馴染み深い、家族の姿をしていた。美鈴メイド長、魔女のノーレッジに妖精メイドまで全部そろっている。鉱石はその挙動も、今や全員が一致していて、レミリアの姿をしていた鉱石のようにおろおろと震えるばかりだ。
そんな鉱石の一団を眺めて、フランドールは楽しそうに言った。
「夢じゃないんだから、覚めるわけもないよねぇ。わたしが何度も実演していたんだもの。疲れるわけだよね。そうやって、外敵をやっつけてきたの?」
鉱石のもやたちは、アアアとうめいたり、ウウウと喉を震わせるだけで、誰もフランドールの質問には答えなかった。
気にせず、フランドールは口上を続けた。
「わたしの記憶を読み取って、見た目とか性格を真似してたのかな。すごいね。だけど、わたしの名前を知ってるのはわたしだけ。あなたたちって真似してる人のことしかわからないんでしょ? わたしの真似をするわけにはいかないから仕方ないけどね」
微笑みながら、フランドールはゆっくりと鉱石に歩み寄る。体力もわずかばかり戻ってきていた。鉱石は恐怖の硬直に襲われていて、どれも逃げようとはしなかった。
フランドールがもやに向かって拳を作る。
もやは体の中心から風が吹き出たように散り散りになり、空気の中に溶けていった。そのもやの下にあった鉱石は、澄んだような青色になっていた。
フランドールは目を輝かせた。
「きれい! あなたたち、いろんな色になれるの?」
そこらに散らばる鉱石を手当たり次第、フランドールは破壊していった。もやを壊す前に鉱石を踏みつけると、もやが消えるが鉱石も黒ずんでいくので、彼女はもやだけを壊していった。
大抵のもやは人型を保つのもやっとで、その表情は諦念や絶望に彩られている。それらを破壊すると、鉱石は藍色や紫色になる。鉱石はその感情により、色を変えているようだった。
緑、青、藍、紫、と鮮やかな色の鉱石を手にしてフランドールはご機嫌だ。それらを眺めているうちに、彼女の頭にすばらしいアイデアが浮かび上がった。
「もう少しだけ色をそろえれば、虹みたいになるよね。この宝石、わたしのなくなっちゃった羽の代わりにならないかな。うん、虹の翼なんて、とってもステキ!」
フランドールは目を光らせ、残ったもやを狩りつくすことにした。
破壊を続けているうちに、理不尽な暴力に怒りを覚えたものや、恐慌のあまりに気がおかしくなってしまったもやから、鮮血のように惚れ惚れとする赤色の鉱石と、自分の髪色のように明るい黄色の鉱石を手に入れた。
残るはオレンジ色だけだった。だが、鉱石も残すところ、あとふたつとなっていた。
「うーん、あとひとつだけなんだけどなぁ」
恐怖に打ち震える鉱石のもやを前に、フランドールは考え込んだ。
色々とこれまでの鉱石で試してみたが、まだこのもやたちの出会ってない感情があっただろうか。フランドールはなんとか思い出そうとした。
早く翼をそろえないと、空を飛べない。そうしないとお家に帰られない。フランドールは、望郷に駆られる気持ちをだんだん抑えきれなくなっていた。
そのとき、ふと頭の片隅に浮かんだのは、愛しい家族みんなの笑顔だった。早く会いたい、みんなのにこやかな笑み。
「あ、そうだ。あなたたちの笑ったところ、見たことなかったね」
フランドールの言葉に鉱石はビクリと震えた。
残ったふたつのもやは少女らしい人型であったが、その可愛らしい顔が浮かべているのは恐ろしさだけだった。
フランドールはそのもやの少女たちに顔を近づけた。
「ね、笑ってよ?」
もやの少女たちは、もうほとんど泣いていた。
その涙も、フランドールが記憶する妖精メイドの泣き方だ。この鉱石が流しているものじゃない。フランドールにはそう思えた。
「笑って、笑ってみせて? とびっきりの、可愛い笑顔をさ」
フランドールの言葉がどんどん重さを増していくように感じ、もやの少女たちは精いっぱい顔を引きつらせた。
湿ったほっぺを持ち上げ、唇をうすく引き結び、健康的な白い歯を見せる。
そして、笑い声をあげて、訴えたのだ。笑ってます。私たちは今、笑ってます、と。
「エ、エヘ……ヒグゥ、グスッ……エヘ、ヘ」
「ウ、アァ、ヒ、ヒィ、ヒヒ、ヒ」
「うん。可愛い。やっぱり女の子は、笑顔が一番可愛いよ」
もやの少女たちの必死の笑みに、フランドールも同じくまぶしい笑みで答えた。
それから、フランドールは両の手を握り、もやの少女たちを破壊した。
フランドールがぱちりと目を開けると、そこは自室の天井だった。
天井は、真ん中に大きな穴がぽっかり開いてしまっている。
「あ、飛び出したときに壊したままだった。どうしようかな」
あまり困ってない表情で、フランドールは言葉をこぼした。
宝石の翼はフランドールに異常な飛行速度と、特大の疲労を与えた。あのオレンジ色の砂漠から、記憶を頼りに屋敷まで戻ってくるのはあっという間だったが、眠りにつくのも同じ速さだった。彼女は自室に戻って早々、泥のように眠り、今ようやく起きたのだ。
「フラン! フランはいる!?」
そこにレミリアが叫びながら入ってきた。
「フラン、大丈夫!? ケガはしてないかしら!? なんか屋敷の床とか壁の風通しが抜群によくなってるんだけど、どうなってるのよ!」
館の惨状に、妹の危機かと危ぶんだレミリア。それを見て、フランドールはお出かけしたのは短い間だけだったんだと理解した。
妹の無事を確認したレミリアは、すっかり気を落ち着かせていた。だが、彼女がフランドールの背中にある翼を見るや、目をまるくした。
「フラン! あなた、その翼はいったいどうしたの? お姉ちゃんとおそろいだったじゃないの!」
フランドールの翼は、骨ばった翼に虹色の宝石を吊るしたものだった。羽を震わせると、カシャンとグラスを打ち合わせたような心地の良い音が聞こえる。
フランドールは思案した。姉にあのことをすべて話すべきだろうか。
だけど、飛べるようになったのはいいとしても、無断でお出かけしてしまったことは事実である。そのことまで話したら怒られるだろうことはフランドールにも想像がついた。だが、姉には嘘をつきたくもない、とも彼女は思っていた。
「お姉さま、この羽はね」
フランドールは、レミリアの前に立って言った。
飛行の練習をしたこと。飛べるようになったこと。無断で外出してしまい、危ない目にあったこと。それらを一言にこめて、フランドールは言った。
「いめちぇん」
レミリアは卒倒した。
姉妹をはじめ、あいつ誰?なメイド長、リアルロリ魔女といい、どのキャラも好きでした。
面白かったです。
咲夜さん、いや咲夜ちゃんも同じ要領でスカウトされるんでしょうか…。
面白かったがなんかスッキリしない
美鈴のそれはお世話というよりヤンデレ的な……
とても面白かったです。
このフランは名前に6とか入ってそう
タイトルからあとがきまで、面白かったです。
あと、キャラ描写というか言い回し(?)が一々面白いw
リスペクトしたのか、影響されたのか、たまたま似ていたのかは分かりませんが、向こうの作品を私が個人的に敬愛しているが故に、この作品のギャグ部分に対して、終始「劣化コピー」と言う印象しか抱けませんでした。
別にこちらの作品が格別劣っているとか、つまらないという訳では全く無いのですが、同じサイトにの過去の有名な作家様に文体が似ているというのは、作為無作為に関わらず、マイナスな印象を与えてしまう可能性があるので、このサイトに投稿する際は、出来るだけ注意して被らない方が良いのでは、と思いました。
長々と批判をしてしまいましたが、それらの先入観無しなら非常に面白い作品だと思えたと思います。失礼しました。
このSSにも似たものを感じましたが、理解しやすかったのでもっと混沌としてた方が味があったかも、とちょっとだけ残念な気持ちになりました。面白かったです
文中の小ネタは冴えてたけれど
何気に文章がこなれてるところがツボッた
滑ってるわけでもなく、かといって面白いわけでもなく
ただただ何とも言えない感じ。
60点以下はつけられないけど以上もつけられない。
あと少し文章に品がないかなとは感じました。
その辺の露悪趣味も作者さんの持ち味なんでしょうが、
中途半端に隠そうとしているところがなんとも・・・
おもしろかったです。
でも面白かったからそれもまた良し!
色々とシュールな感じで楽しめましたw
得体のしれないものを見たような、そんな感覚です。