草木も眠る丑三つ時、生暖かく心地いい風がどんよりと吹くなか私は人里の大通りを歩いていた。この時間になると人影など見当たらない。夜は妖怪がうろつき恐れられているからだ。静かな夜はものを考えるのにちょうどいい。特に室内にこもりっきりで難問に取り組み、煮詰まっていた時ならなおさらだ。
賢者と呼ばれようと、悩みがないわけではない。私が三日三晩考え、なお答えが出ない問題は、人間と妖怪のかかわりについてだった。
幻想郷を結界で閉じたことで妖怪の割合が増えた。そうするとこれまでの襲う、襲われる、退治する、退治されるといった争いと離れた場所でお互いに接するものが現れる。そう、これからは人間ともある程度友好的な関係を築かなければならない。
一方で人間と争い、一方で酒を酌み交わす。それは可能なのだろうか。藍にも相談してみたがうまくいっていないようだ。どうしたらいいのか……。
「そこのねーちゃん、これ買ってくんないか?」
その時、声をかけられた。考え事に熱中していて気付かなかったが、道の端に青年が立っていた。年は10代後半だろうか。自信にあふれた表情でこちらを見ている。
「あら、こんばんは。こんな時間にうろついていると妖怪に襲われちゃうわよ」
「あんたがその妖怪だろ。それよりこれだよ」
彼は私が妖怪だということをわかっていて話し掛けているようだ。差し出されたものは1本の日傘だった。
「外の世界から流れた物らしいんだが、誰も買わなくて困ってんだ。あんたになら似合いそうだしどうだい?質は俺が保証するぜ」
「残念だけど、その傘を買う理由がありませんので。」
「理由ならあるさ。あんたと俺の間に縁ができる。あんたの手助けをしてやるよ」
「手助け……ですか?」
「ああ。まだ丁稚奉公だけど、見る目だけはあるって褒められてんだ。あんたは里を良い方へ変えようとしている。だが何か足りない。違うか?」
「……続けて」
「外から干渉を続けるには限界がある。それも妖怪がやるならなおさらだ。しかし、内側に協力者がいれば状況は変わる」
なるほど、この青年の言うことも一理ある。彼は里の者、敵である妖怪が言うことと彼が言うことなら後者の方が信用される。しかし……。
「……理由を聞かせてもらってもいいかしら?」
妖怪と手を組むことは彼にとってデメリットだ。一時的とはいえ結果が出るまで、里からの評判は下がるだろう。なぜ妖怪の側に着こうとするのか……。
「きれいなお姉さんが困った顔をしていらっしゃったので、でいいかい?」
「あら、ありがとう」
「わが故郷のために一肌脱ごうと」
「ダウト」
「あんたら妖怪の持つ珍妙な道具にひかれたのさ」
「すこしは近づいたかしら……。けどそれではないわね。」
彼からは霊力や法力、魔力の類を一切感じない。肉付きも平均的で、特に優れている様子もない。妖具や宝具を手に入れても使いこなすことなどできないだろう。それなのに妖怪を前にこの態度、よほど自信があるのだろう。そこまで考えを進め、彼の狙いに気付くことができた。
「そう、あなたの目的は腕試し、いえ、文字通りにするのであれば口試しね?」
「それと目試しもな」
不敵な笑みを浮かべ彼は笑った。
「俺は見るだけでそいつの人となりが何となく理解できる。相手が何を求めているのかもだ。実に商売向きだ。だが所詮それだけ、その程度でしかない。商売には相手に薦めることも必要だ。技術があればそこらの石ころを売りつけることだってできる。実に面白え!俺は自分の目が、口がどこまで通じるのかを知りたいんだ!」
なんと面白いことをいう男だろう。人間同士の商いに飽きて、妖怪相手に商談を持ち出すとは。しかもその根本にある理由が里のためなどではなく自分のため!傲岸不遜も甚だしい。だからこそ、この人間は光り輝いていた。妖怪という強大な存在にひるまず恐れず、非力な身でありながら対等に話し合う。妖怪に打ち勝つすべを持たぬが故、口だけで妖怪に勝つ。向かう方向が違えどこれはまさしく、私が望み求めた人と妖怪の在り方だった。
「さあ!この傘、買ってくれるな!お前の理想の実現を100年は早めてやるぜ!!」
「……その言葉に偽りはないわね?しくじったらただじゃすまないわよ?」
「望むところだ!魑魅魍魎に森羅万象を売りつけようぞ!」
「その意気やよし!言い値で買いましょう!」
「商談成立だな、まいどあり!」
こうして、私は彼との縁を買った。その数日後、里には竜神様が妖怪に作らせた(と謂われる)石像が里に設置された。
「とりあえず出だしはこんなもんだろう。後は月に数回、像の管理とか適当な理由つけて妖怪をよこしな」
「竜神様の名を使うなんてあなたも怖いもの知らずねえ。その度胸、英雄と呼ぶに値するわ」
「おいおい、おれは英雄なんかじゃねえよ。ただの商人さ」
「ならそれでいいわ。さて、次はどうするのかしら、ただの商人さん?」
こうして人里は少しずつ、だが急速に妖怪を受け入れ始めたのだ。
賢者と呼ばれようと、悩みがないわけではない。私が三日三晩考え、なお答えが出ない問題は、人間と妖怪のかかわりについてだった。
幻想郷を結界で閉じたことで妖怪の割合が増えた。そうするとこれまでの襲う、襲われる、退治する、退治されるといった争いと離れた場所でお互いに接するものが現れる。そう、これからは人間ともある程度友好的な関係を築かなければならない。
一方で人間と争い、一方で酒を酌み交わす。それは可能なのだろうか。藍にも相談してみたがうまくいっていないようだ。どうしたらいいのか……。
「そこのねーちゃん、これ買ってくんないか?」
その時、声をかけられた。考え事に熱中していて気付かなかったが、道の端に青年が立っていた。年は10代後半だろうか。自信にあふれた表情でこちらを見ている。
「あら、こんばんは。こんな時間にうろついていると妖怪に襲われちゃうわよ」
「あんたがその妖怪だろ。それよりこれだよ」
彼は私が妖怪だということをわかっていて話し掛けているようだ。差し出されたものは1本の日傘だった。
「外の世界から流れた物らしいんだが、誰も買わなくて困ってんだ。あんたになら似合いそうだしどうだい?質は俺が保証するぜ」
「残念だけど、その傘を買う理由がありませんので。」
「理由ならあるさ。あんたと俺の間に縁ができる。あんたの手助けをしてやるよ」
「手助け……ですか?」
「ああ。まだ丁稚奉公だけど、見る目だけはあるって褒められてんだ。あんたは里を良い方へ変えようとしている。だが何か足りない。違うか?」
「……続けて」
「外から干渉を続けるには限界がある。それも妖怪がやるならなおさらだ。しかし、内側に協力者がいれば状況は変わる」
なるほど、この青年の言うことも一理ある。彼は里の者、敵である妖怪が言うことと彼が言うことなら後者の方が信用される。しかし……。
「……理由を聞かせてもらってもいいかしら?」
妖怪と手を組むことは彼にとってデメリットだ。一時的とはいえ結果が出るまで、里からの評判は下がるだろう。なぜ妖怪の側に着こうとするのか……。
「きれいなお姉さんが困った顔をしていらっしゃったので、でいいかい?」
「あら、ありがとう」
「わが故郷のために一肌脱ごうと」
「ダウト」
「あんたら妖怪の持つ珍妙な道具にひかれたのさ」
「すこしは近づいたかしら……。けどそれではないわね。」
彼からは霊力や法力、魔力の類を一切感じない。肉付きも平均的で、特に優れている様子もない。妖具や宝具を手に入れても使いこなすことなどできないだろう。それなのに妖怪を前にこの態度、よほど自信があるのだろう。そこまで考えを進め、彼の狙いに気付くことができた。
「そう、あなたの目的は腕試し、いえ、文字通りにするのであれば口試しね?」
「それと目試しもな」
不敵な笑みを浮かべ彼は笑った。
「俺は見るだけでそいつの人となりが何となく理解できる。相手が何を求めているのかもだ。実に商売向きだ。だが所詮それだけ、その程度でしかない。商売には相手に薦めることも必要だ。技術があればそこらの石ころを売りつけることだってできる。実に面白え!俺は自分の目が、口がどこまで通じるのかを知りたいんだ!」
なんと面白いことをいう男だろう。人間同士の商いに飽きて、妖怪相手に商談を持ち出すとは。しかもその根本にある理由が里のためなどではなく自分のため!傲岸不遜も甚だしい。だからこそ、この人間は光り輝いていた。妖怪という強大な存在にひるまず恐れず、非力な身でありながら対等に話し合う。妖怪に打ち勝つすべを持たぬが故、口だけで妖怪に勝つ。向かう方向が違えどこれはまさしく、私が望み求めた人と妖怪の在り方だった。
「さあ!この傘、買ってくれるな!お前の理想の実現を100年は早めてやるぜ!!」
「……その言葉に偽りはないわね?しくじったらただじゃすまないわよ?」
「望むところだ!魑魅魍魎に森羅万象を売りつけようぞ!」
「その意気やよし!言い値で買いましょう!」
「商談成立だな、まいどあり!」
こうして、私は彼との縁を買った。その数日後、里には竜神様が妖怪に作らせた(と謂われる)石像が里に設置された。
「とりあえず出だしはこんなもんだろう。後は月に数回、像の管理とか適当な理由つけて妖怪をよこしな」
「竜神様の名を使うなんてあなたも怖いもの知らずねえ。その度胸、英雄と呼ぶに値するわ」
「おいおい、おれは英雄なんかじゃねえよ。ただの商人さ」
「ならそれでいいわ。さて、次はどうするのかしら、ただの商人さん?」
こうして人里は少しずつ、だが急速に妖怪を受け入れ始めたのだ。
ある程度の質が要求されるここへの投稿は焦らない方が自分のためでもあります
…要は男の素性と能力について説明不足もいいとこなんですこれ
幻想郷で何の根拠もなく大妖怪相手にこの態度だと寿命が200年あっても持たないかと
内容がもっと膨らませた作品を投稿される予定があればまた読んでみたいです。
もうちょっと長く読んでみたかった感。