妖夢「幽々子様、食べすぎですよ……」 幽々子「そこに飯があるのがいけないのよ」
私、魂魄妖夢は白玉楼という楼閣で、西行寺幽々子という亡霊に仕えている。
私は祖父の代からこの白玉楼に住み込みで働いている。 庭師兼、剣術指南役の私は、その役に恥じぬように、切れない物があんまりない程度に剣術を心得ている。
幼い頃は、ご飯の後に剣術の指南を祖父によくしてもらった。 ご馳走様の後の、"さぁやるぞ"という祖父の声が懐かしい。
"武人たるもの礼儀も弁えよ"などと言われ、剣術以外でも礼儀作法をうるさく言われたものだ。
そんな私の昔から今までのずっとの悩みは、幽々子様は食べ過ぎるという事だ。
庭師兼剣術指南役の私が、何故食事などという管轄外の事をやっているか? 細かい事は気にしてはいけない。
この前の幽々子様の食事は、表面はパリパリ、中はふっくらして、塩をたっぷり振りかけた鱒の塩焼きに、
新鮮な豚の肉を使った、濃い味付けの、キャベツの千切りにニンジンを少し添えた物を添えた豚のしょうが焼き。
ワカメと豆腐だけの具に、朝早くに起きてじっくりと取った出汁を使った味噌汁に、
幽々子様が紫様に一度食べさせた物がひどく気に入ったのか、ここ最近毎日私に作らせるハンバーグ。
デザートには見るだけで気持ち悪くなるほどの、大きな皿一面に敷き詰められたおはぎ。
米にも気を使い、ぬか臭くならないように全体に均等に水を当てて、丁寧に研ぎ、じっくりと時間をかけて炊く。
全ての料理が五人前分。 それをニ分も足らずに食べる。
ノンストップというレベルではなく、瞬きをした瞬間、鱒はその身の3分の1を失っていた。
さらにこれは朝食で、昼食、夕食となればその量は更に増える。
あまりにも負担がかかりすぎるので、一度幽々子様に食べ過ぎだと注意する事にしたが……
「食べすぎですよ、幽々子さま……」
「そこに飯があるのがいけないのよ」
だったら作らせるなと言いたいが、そこは仕える身である以上ぐっと我慢する。
しかしその我慢が致命的なミスだと気が付いたのは、ついさっきの事だった。
今朝、いつもなら朝ごはんの時間には起きるであろう幽々子様が、何時まで経っても自室から出てくる気配がなかった。
体調でも崩したのだろうか? いや亡霊はそもそも体調を崩すのだろうか。
私は半霊半人なので、体調が優れない事もある。 永琳に"やさしさ"を抜かれたバファ〇ンを処方された事だってある。
あれはひどく苦かった。 どのくらい苦いかって、恋人に"別れよう"と言われた時くらい苦かった。
話が脱線したので少し戻そう。 兎に角、私は幽々子様が出てこないのを不審に思い、自室の扉の前まで来た。
「幽々子さま? いるんですか? 朝ごはんが冷めてしまいますよ?」
ノックをしても、声をかけても返事が無かった。 ただの屍と化しているのだろうかと思った。
ザオ〇クでもかけたら復活するのだろうか? いやいやMPがもったいないしザオ〇ルでもいいか。
いっそその辺に落ちている葉っぱでも食わせれば復活するとか?
そもそも屍以前に幽々子様は亡霊なのだが。
って何を考えているのだろうか私は。 兎に角、今は幽々子様の安全確認が第一だ。
「幽々子さまぁ~? あ・さ・ご・は・ん! が冷めてしまいますよー!」
"朝ごはん"を強く強調しても反応しない。 いつもの幽々子様なら、"Time is deliciousness."とか言って青いハリネズミもびっくりの速度で出てくるのに。
多分エメラルドでも使ってなんちゃらコントロールとか言って瞬間移動しているのだろうか。 いやそれよりも速い。
いやそんな事より、その幽々子様がご飯なのに出てこないという事は、幽々子様になんらかの危険が迫っている可能性が高い。
そう考えると私は強い不安に襲われ、"開けますよ?"の一言もなしに、柄に手を添えて、扉をバンッと勢いよく開いた。
「……妖夢」
幽々子様と思われるラーメン一郎だか三郎だかもビックリ仰天な大きな肉の塊が、横たわっていて、今に至る。
その声は、前までは女子高生ほどに若く、しかし仙人のように俗世とは離れた、美しい声が、"ふぅぐぅたくぅ~ん"とか言って家内がおっかなくてねぇとか寒いシャレを言いそうなくらいに野太かった。
あれ? おかしいよね? だって幽々子様ってほら、ナイスボデェといいますか、ダイナマイツボデェといいますか。 兎に角世の男達の欲望を掻き立てるには十分のプロポーションを保っているはず。
それが、何でこんな肉の塊が幽々子様の自室に横たわっているのだろうか……と、何を考えているのだろう私は。
とりあえずここは尋ねるべきだ。そうするべきだ。
「あの……幽々子さま……ですか?」
「そ……そうでごわす」
こんな時に何冗談を言っているのだろうかこの主は。
とりあえず、頭の中を整理してみる事にする。 まず、何故朝ごはんになっても幽々子様は出てこなかったか。
今目の前にいる幽々子様を見れば、大体想像がつく。 恐らく動けなかったのだろう……
そもそも何故一日でこんなにも太ったか。 いやそもそも亡霊は太るのか。 いやいやそもそもの話亡霊は栄養を摂取する必要はあるのだろうか……
いや娯楽のような物なのだろうか。 だとしたら亡霊はうんちしないの? アイドルはうんちしない的な……
と。 また脱線した。 兎に角、幽々子様は動けなかったに違いない。
とりあえず私は柄においてある手に気づき、それから手を離した。
その手をそのまま顎に持って行き、言いたい事をどれから切り出そうかと、思わず"う~ん"と唸ってしまう。
とりあえずさしあたっての最優先事項は、コレだろう。
「……言いたい事は沢山あるのですけれどね」
「うん」
「……ダイエット、始めましょう?」
「……うん」
今の幽々子様なら弾幕をその身一つで跳ね返しかねない。 打ち返しせずとも、セルフ打ち返しが出来る。
多分北斗なんちゃら拳を使わなくとも、今の幽々子様は脂肪の塊だ。
多分シャウッ! ってやっても切れないと思う。 内臓まで届かないと思う。
それと視覚的にあまりにも酷すぎる。 いくら美形といえど、ここまで太ってしまったら流石に目も当てられない。
多分"レ〇プマーン!"とか叫ぶと登場してくるあの人でも、"流石にこのターゲット相手に依頼は受けれない"とか言いそうだ。 ぼかぁそう確信するよ。
世にはデブ専とかいう趣向もあるらしいが、その人たちも今の幽々子様を見たらその考えを改め――
「あ、でも」
「……なんですか?」
「朝ごはんは食べるよ」
食べるのかよ。 食・べ・る・の・か・よ。 TA☆BE☆RU☆NO☆KA☆YO。 Do you need breakfast? Oh yes.
もう貴方についている脂肪だけで私は半年は生きていける自信がありますよ幽々子様。
いや流石にショックを覚えて、そこは朝ごはんも喉を通らないとか、そういうのが世の乙女達の反応だと思うといいますか。
たとえ生命活動の根本ともいえる食事だろうと、乙女達にはそれ以上に美という――ん?
そういえば……そう。 さしあたっての疑問があった。
「あの、幽々子さま?」
「なぁに妖夢?」
いや物凄い太い声で"なぁに妖夢"とか言われても……いや今はそれじゃない。
「亡霊はご飯を食べる必要はあるんでしょうか?」
「ないよ」
ないのかよ。 な・い・の・か・よ。 Do you need breakfast? No, but I like breakfastってか。
「だったらわざわざ食べる事もないじゃないですか……なんで食べようとするんですか?」
「毒を喰らわば皿までって言うじゃない?」
貴方の場合本当に皿まで食べそうです。 アイスクリームとかコーンどころか付いている紙まで食べそう。
だがまぁ、食事が娯楽というのも分かる気がする。 なんだかんだ言って人間食事は大切なのだ。
何も食べずに生活できるものの、口に何かを入れたい気持ちは分かる。
ならおいしい内に食べていただこう。 それが、私の勤め以上に、私の誠意なのだから。
「……じゃあ行きましょうか。 ほら、立ってください」
「立てないの」
……ああ、そういえばそうだった。
この人が何故こちらに来なかったかって、そりゃこれなかったからだ。
といっても、見ただけでも"この人をおぶれば死ぬ"というのが分かる。 私の本能が告げている。
奇麗さっぱり強制スクロールの画面端にウメハラと戦ったくらいの勢いで置いていかれてしまう。
画面端ィ! バーストは……そもそもする余裕がないだろう。
とりあえずご飯をこっちに持ってこよう。
「幽々子さま、あの……申し訳ないのですが……お、重そうなので……」
「分かってるわ妖夢。 だから――」
とりあえず今の自分の状態を自覚しているらしい。
これで一安心だ。 さぁ、早速下に行ってご飯を――
「引きずって頂戴」
「え!?」
え? ……え? い、いやその、引きずる?
いや、なんでご飯を持って来てもらってここで食べようっていう発想にならないの?
「あ、あの幽々子さま? こちらにご飯を持っていくという事もでき――」
「それじゃダメなのよ妖夢」
「ダメ……?」
「ご飯っていうのはね、魂を頂く物なの。
ちゃんと、礼儀作法にのっとって、食卓の前まで行って、そこで"魂を、頂きます"と言うの。
ただ利便性だけを求めて、適当な場所で、"頂きます"と言わずにただ魂を貪るようなヤツは、飯を食べる資格なんてないのよ」
なるほど、それが幽々子様の宗教か。 素晴らしい考えだ。 だがしかし、先ほど言った事から推測して答えは――
「あの、幽々子様、そりゃ同意しますけど、貴方娯楽でご飯食べてるんですよね?」
「そうよ」
「あの、娯楽で魂を貪るって……それは……」
「……ご飯、持ってきて頂戴」
聖書にはしるされていないけど、"娯楽で魂を頂くのはちょっと……"ねぇ。 とまぁ主の許しも頂いた事だし、私は食卓からご飯を持ってくる事にした。
と言っても、幽々子様の食べる量の食事を運ぶのは中々の重労働だった。
何往復かして、やっとご飯を全て持って来たのだが、何故か幽々子様は往復する間には、ご飯に手を付けていなかった。
先ほどの信念が絡んでいるのだろうか? といっても、先ほど言ったとおり娯楽でご飯を食べるというのは……
「さっき言った事に反論するとね、妖夢」
「え? 反論……ですか?」
突然の幽々子様の反論宣言。 それは、"娯楽でご飯を食べている"と言った事に関連した物なのだろうか。
「生命ってのは、ご飯を食べなきゃ生きていけないの。
例えば貴方は、1年間レタスだけを食べ続けろと言われて、食べ続けられる?」
1年間レタスだけとは……ベジタリアンもいい所だ。
栄養面もそうだが、とても精神面で持つとは思えない。
「……いいえ」
「そうよね。 つまり、ご飯っていうのは、"精神"を保つ為にも食べる物なの」
「せ、精神……ですか」
精神。 さっき少しだけ考えた事を言われて、なんだか幽々子様がこちらの考えを見透かしているようで少し動揺する。
だがしかし成る程、幽々子様の言いたい事が少しずつ分かってきた気がする。
「子供が生まれて、その子供は自分の部屋を与えられて、その部屋で毎日一人でご飯を食べる。
それはまだいい方で、ご飯が作れなくてお金を渡されて、"じゃんくふぅど"とか言う物ばかり毎日、一人で食べている子がいる。
そんな事も外の世界ではよくあるって紫が言ってたわ。
でもね、ご飯っていうのは、一人で食べる物と限定されているわけではないけど、皆で食べる物ではないというわけではないの。
ご飯というのが目的化してはダメなの。 ご飯は、私達に様々な素晴らしい贈り物をしてくれているの」
「贈り物……」
「そう。 贈り物。
それは栄養だったり、家族の絆だったり、温もりだったり、時に恋人さえプレゼントしてくれる。
……貴方は、頂きますは誰に言ってると思う?」
「魂……ですよね?」
「それもあるけど、私の言う頂きますは、妖夢。 貴方にも言っているの」
「……私に?」
「そう。 命を頂きます。 そして、貴方の愛を頂きます。
妖夢も分かるんじゃないかしら?」
……分かる気がする。 いや、分かる。
だって幽々子様への愛がなければ私は、"おいしい内に食べていただこう"なんて考えないのだから。
「ご飯がくれる最高の贈り物、それは私は、"愛"だと思っているわ」
そう、その"愛"という言葉が耳に入った途端、私は突然、既視感に襲われた。
いや、既視感ではなく、これは既視だ。
「鼻につく奇麗事に聞こえるかもしれないけど、妖夢。 貴方はこの言葉を誰よりも理解しているはず」
――武人たるもの、礼儀を弁えよ
祖父のその言葉の先にあったであろう物を、記憶を必死に探る。
そうだ。 あの時、祖父は――
「じゃあ、そろそろ頂くわね、妖夢」
やはり、私はこの人には敵わないな。 なんとなく、笑顔でご飯を食べる幽々子様を見て、そう思った。
人よりも少し長い人生の中で、私は祖父から人よりも長くそれを教わったはずなのに、
剣術の事ばかりに夢中になって、この人みたいに私はそれを考えていなかった。
最高の贈り物。 きっとそれは、幽々子様から私へもプレゼントされているのだろう。
そう思うと、なんだか"ごちそうさま"と言いたくなってくる。
この人は、ご飯を食べるだけではない。 そのご飯を通じて、大切な――
「ってもう食べ終わってるんですか幽々子さま!?」
気が付いた頃には、目の前の皿は全て平らげられてしまっていた。
いやちょっとまって。 私さっきの思考にそれほどの時間を使ってはいないし、
何より焼き魚五匹、刺身三人前、おはぎ五十個、味噌汁丼三杯、ハンバーグ二人前をこんなにも速攻で食べれる物なの?
いや食べれる物か……それを何より見てきたのは私なのだから。
「フフフ、Time is deliciousnessよ妖夢」
「はぁ……なんというか、相変わらずなんですね。
……美味しかった、ですか?」
なんとなく聞いた問いを、幽々子様は最初意外に思ったのか、聞いた途端にきょとんとした顔になった。
でも、少ししてすぐにいつもの笑顔になって、"うん"と言ってくれた。
「美味しかったわ、妖夢。 ごちそうさま」
私、魂魄妖夢は白玉楼という楼閣で、西行寺幽々子という亡霊に仕えている。
私は祖父の代からこの白玉楼に住み込みで働いている。 庭師兼、剣術指南役の私は、その役に恥じぬように、切れない物があんまりない程度に剣術を心得ている。
幼い頃は、ご飯の後に剣術の指南を祖父によくしてもらった。 ご馳走様の後の、"さぁやるぞ"という祖父の声が懐かしい。
"武人たるもの礼儀も弁えよ"などと言われ、剣術以外でも礼儀作法をうるさく言われたものだ。
そんな私の昔から今までのずっとの悩みは、幽々子様は食べ過ぎるという事だ。
庭師兼剣術指南役の私が、何故食事などという管轄外の事をやっているか? 細かい事は気にしてはいけない。
この前の幽々子様の食事は、表面はパリパリ、中はふっくらして、塩をたっぷり振りかけた鱒の塩焼きに、
新鮮な豚の肉を使った、濃い味付けの、キャベツの千切りにニンジンを少し添えた物を添えた豚のしょうが焼き。
ワカメと豆腐だけの具に、朝早くに起きてじっくりと取った出汁を使った味噌汁に、
幽々子様が紫様に一度食べさせた物がひどく気に入ったのか、ここ最近毎日私に作らせるハンバーグ。
デザートには見るだけで気持ち悪くなるほどの、大きな皿一面に敷き詰められたおはぎ。
米にも気を使い、ぬか臭くならないように全体に均等に水を当てて、丁寧に研ぎ、じっくりと時間をかけて炊く。
全ての料理が五人前分。 それをニ分も足らずに食べる。
ノンストップというレベルではなく、瞬きをした瞬間、鱒はその身の3分の1を失っていた。
さらにこれは朝食で、昼食、夕食となればその量は更に増える。
あまりにも負担がかかりすぎるので、一度幽々子様に食べ過ぎだと注意する事にしたが……
「食べすぎですよ、幽々子さま……」
「そこに飯があるのがいけないのよ」
だったら作らせるなと言いたいが、そこは仕える身である以上ぐっと我慢する。
しかしその我慢が致命的なミスだと気が付いたのは、ついさっきの事だった。
今朝、いつもなら朝ごはんの時間には起きるであろう幽々子様が、何時まで経っても自室から出てくる気配がなかった。
体調でも崩したのだろうか? いや亡霊はそもそも体調を崩すのだろうか。
私は半霊半人なので、体調が優れない事もある。 永琳に"やさしさ"を抜かれたバファ〇ンを処方された事だってある。
あれはひどく苦かった。 どのくらい苦いかって、恋人に"別れよう"と言われた時くらい苦かった。
話が脱線したので少し戻そう。 兎に角、私は幽々子様が出てこないのを不審に思い、自室の扉の前まで来た。
「幽々子さま? いるんですか? 朝ごはんが冷めてしまいますよ?」
ノックをしても、声をかけても返事が無かった。 ただの屍と化しているのだろうかと思った。
ザオ〇クでもかけたら復活するのだろうか? いやいやMPがもったいないしザオ〇ルでもいいか。
いっそその辺に落ちている葉っぱでも食わせれば復活するとか?
そもそも屍以前に幽々子様は亡霊なのだが。
って何を考えているのだろうか私は。 兎に角、今は幽々子様の安全確認が第一だ。
「幽々子さまぁ~? あ・さ・ご・は・ん! が冷めてしまいますよー!」
"朝ごはん"を強く強調しても反応しない。 いつもの幽々子様なら、"Time is deliciousness."とか言って青いハリネズミもびっくりの速度で出てくるのに。
多分エメラルドでも使ってなんちゃらコントロールとか言って瞬間移動しているのだろうか。 いやそれよりも速い。
いやそんな事より、その幽々子様がご飯なのに出てこないという事は、幽々子様になんらかの危険が迫っている可能性が高い。
そう考えると私は強い不安に襲われ、"開けますよ?"の一言もなしに、柄に手を添えて、扉をバンッと勢いよく開いた。
「……妖夢」
幽々子様と思われるラーメン一郎だか三郎だかもビックリ仰天な大きな肉の塊が、横たわっていて、今に至る。
その声は、前までは女子高生ほどに若く、しかし仙人のように俗世とは離れた、美しい声が、"ふぅぐぅたくぅ~ん"とか言って家内がおっかなくてねぇとか寒いシャレを言いそうなくらいに野太かった。
あれ? おかしいよね? だって幽々子様ってほら、ナイスボデェといいますか、ダイナマイツボデェといいますか。 兎に角世の男達の欲望を掻き立てるには十分のプロポーションを保っているはず。
それが、何でこんな肉の塊が幽々子様の自室に横たわっているのだろうか……と、何を考えているのだろう私は。
とりあえずここは尋ねるべきだ。そうするべきだ。
「あの……幽々子さま……ですか?」
「そ……そうでごわす」
こんな時に何冗談を言っているのだろうかこの主は。
とりあえず、頭の中を整理してみる事にする。 まず、何故朝ごはんになっても幽々子様は出てこなかったか。
今目の前にいる幽々子様を見れば、大体想像がつく。 恐らく動けなかったのだろう……
そもそも何故一日でこんなにも太ったか。 いやそもそも亡霊は太るのか。 いやいやそもそもの話亡霊は栄養を摂取する必要はあるのだろうか……
いや娯楽のような物なのだろうか。 だとしたら亡霊はうんちしないの? アイドルはうんちしない的な……
と。 また脱線した。 兎に角、幽々子様は動けなかったに違いない。
とりあえず私は柄においてある手に気づき、それから手を離した。
その手をそのまま顎に持って行き、言いたい事をどれから切り出そうかと、思わず"う~ん"と唸ってしまう。
とりあえずさしあたっての最優先事項は、コレだろう。
「……言いたい事は沢山あるのですけれどね」
「うん」
「……ダイエット、始めましょう?」
「……うん」
今の幽々子様なら弾幕をその身一つで跳ね返しかねない。 打ち返しせずとも、セルフ打ち返しが出来る。
多分北斗なんちゃら拳を使わなくとも、今の幽々子様は脂肪の塊だ。
多分シャウッ! ってやっても切れないと思う。 内臓まで届かないと思う。
それと視覚的にあまりにも酷すぎる。 いくら美形といえど、ここまで太ってしまったら流石に目も当てられない。
多分"レ〇プマーン!"とか叫ぶと登場してくるあの人でも、"流石にこのターゲット相手に依頼は受けれない"とか言いそうだ。 ぼかぁそう確信するよ。
世にはデブ専とかいう趣向もあるらしいが、その人たちも今の幽々子様を見たらその考えを改め――
「あ、でも」
「……なんですか?」
「朝ごはんは食べるよ」
食べるのかよ。 食・べ・る・の・か・よ。 TA☆BE☆RU☆NO☆KA☆YO。 Do you need breakfast? Oh yes.
もう貴方についている脂肪だけで私は半年は生きていける自信がありますよ幽々子様。
いや流石にショックを覚えて、そこは朝ごはんも喉を通らないとか、そういうのが世の乙女達の反応だと思うといいますか。
たとえ生命活動の根本ともいえる食事だろうと、乙女達にはそれ以上に美という――ん?
そういえば……そう。 さしあたっての疑問があった。
「あの、幽々子さま?」
「なぁに妖夢?」
いや物凄い太い声で"なぁに妖夢"とか言われても……いや今はそれじゃない。
「亡霊はご飯を食べる必要はあるんでしょうか?」
「ないよ」
ないのかよ。 な・い・の・か・よ。 Do you need breakfast? No, but I like breakfastってか。
「だったらわざわざ食べる事もないじゃないですか……なんで食べようとするんですか?」
「毒を喰らわば皿までって言うじゃない?」
貴方の場合本当に皿まで食べそうです。 アイスクリームとかコーンどころか付いている紙まで食べそう。
だがまぁ、食事が娯楽というのも分かる気がする。 なんだかんだ言って人間食事は大切なのだ。
何も食べずに生活できるものの、口に何かを入れたい気持ちは分かる。
ならおいしい内に食べていただこう。 それが、私の勤め以上に、私の誠意なのだから。
「……じゃあ行きましょうか。 ほら、立ってください」
「立てないの」
……ああ、そういえばそうだった。
この人が何故こちらに来なかったかって、そりゃこれなかったからだ。
といっても、見ただけでも"この人をおぶれば死ぬ"というのが分かる。 私の本能が告げている。
奇麗さっぱり強制スクロールの画面端にウメハラと戦ったくらいの勢いで置いていかれてしまう。
画面端ィ! バーストは……そもそもする余裕がないだろう。
とりあえずご飯をこっちに持ってこよう。
「幽々子さま、あの……申し訳ないのですが……お、重そうなので……」
「分かってるわ妖夢。 だから――」
とりあえず今の自分の状態を自覚しているらしい。
これで一安心だ。 さぁ、早速下に行ってご飯を――
「引きずって頂戴」
「え!?」
え? ……え? い、いやその、引きずる?
いや、なんでご飯を持って来てもらってここで食べようっていう発想にならないの?
「あ、あの幽々子さま? こちらにご飯を持っていくという事もでき――」
「それじゃダメなのよ妖夢」
「ダメ……?」
「ご飯っていうのはね、魂を頂く物なの。
ちゃんと、礼儀作法にのっとって、食卓の前まで行って、そこで"魂を、頂きます"と言うの。
ただ利便性だけを求めて、適当な場所で、"頂きます"と言わずにただ魂を貪るようなヤツは、飯を食べる資格なんてないのよ」
なるほど、それが幽々子様の宗教か。 素晴らしい考えだ。 だがしかし、先ほど言った事から推測して答えは――
「あの、幽々子様、そりゃ同意しますけど、貴方娯楽でご飯食べてるんですよね?」
「そうよ」
「あの、娯楽で魂を貪るって……それは……」
「……ご飯、持ってきて頂戴」
聖書にはしるされていないけど、"娯楽で魂を頂くのはちょっと……"ねぇ。 とまぁ主の許しも頂いた事だし、私は食卓からご飯を持ってくる事にした。
と言っても、幽々子様の食べる量の食事を運ぶのは中々の重労働だった。
何往復かして、やっとご飯を全て持って来たのだが、何故か幽々子様は往復する間には、ご飯に手を付けていなかった。
先ほどの信念が絡んでいるのだろうか? といっても、先ほど言ったとおり娯楽でご飯を食べるというのは……
「さっき言った事に反論するとね、妖夢」
「え? 反論……ですか?」
突然の幽々子様の反論宣言。 それは、"娯楽でご飯を食べている"と言った事に関連した物なのだろうか。
「生命ってのは、ご飯を食べなきゃ生きていけないの。
例えば貴方は、1年間レタスだけを食べ続けろと言われて、食べ続けられる?」
1年間レタスだけとは……ベジタリアンもいい所だ。
栄養面もそうだが、とても精神面で持つとは思えない。
「……いいえ」
「そうよね。 つまり、ご飯っていうのは、"精神"を保つ為にも食べる物なの」
「せ、精神……ですか」
精神。 さっき少しだけ考えた事を言われて、なんだか幽々子様がこちらの考えを見透かしているようで少し動揺する。
だがしかし成る程、幽々子様の言いたい事が少しずつ分かってきた気がする。
「子供が生まれて、その子供は自分の部屋を与えられて、その部屋で毎日一人でご飯を食べる。
それはまだいい方で、ご飯が作れなくてお金を渡されて、"じゃんくふぅど"とか言う物ばかり毎日、一人で食べている子がいる。
そんな事も外の世界ではよくあるって紫が言ってたわ。
でもね、ご飯っていうのは、一人で食べる物と限定されているわけではないけど、皆で食べる物ではないというわけではないの。
ご飯というのが目的化してはダメなの。 ご飯は、私達に様々な素晴らしい贈り物をしてくれているの」
「贈り物……」
「そう。 贈り物。
それは栄養だったり、家族の絆だったり、温もりだったり、時に恋人さえプレゼントしてくれる。
……貴方は、頂きますは誰に言ってると思う?」
「魂……ですよね?」
「それもあるけど、私の言う頂きますは、妖夢。 貴方にも言っているの」
「……私に?」
「そう。 命を頂きます。 そして、貴方の愛を頂きます。
妖夢も分かるんじゃないかしら?」
……分かる気がする。 いや、分かる。
だって幽々子様への愛がなければ私は、"おいしい内に食べていただこう"なんて考えないのだから。
「ご飯がくれる最高の贈り物、それは私は、"愛"だと思っているわ」
そう、その"愛"という言葉が耳に入った途端、私は突然、既視感に襲われた。
いや、既視感ではなく、これは既視だ。
「鼻につく奇麗事に聞こえるかもしれないけど、妖夢。 貴方はこの言葉を誰よりも理解しているはず」
――武人たるもの、礼儀を弁えよ
祖父のその言葉の先にあったであろう物を、記憶を必死に探る。
そうだ。 あの時、祖父は――
「じゃあ、そろそろ頂くわね、妖夢」
やはり、私はこの人には敵わないな。 なんとなく、笑顔でご飯を食べる幽々子様を見て、そう思った。
人よりも少し長い人生の中で、私は祖父から人よりも長くそれを教わったはずなのに、
剣術の事ばかりに夢中になって、この人みたいに私はそれを考えていなかった。
最高の贈り物。 きっとそれは、幽々子様から私へもプレゼントされているのだろう。
そう思うと、なんだか"ごちそうさま"と言いたくなってくる。
この人は、ご飯を食べるだけではない。 そのご飯を通じて、大切な――
「ってもう食べ終わってるんですか幽々子さま!?」
気が付いた頃には、目の前の皿は全て平らげられてしまっていた。
いやちょっとまって。 私さっきの思考にそれほどの時間を使ってはいないし、
何より焼き魚五匹、刺身三人前、おはぎ五十個、味噌汁丼三杯、ハンバーグ二人前をこんなにも速攻で食べれる物なの?
いや食べれる物か……それを何より見てきたのは私なのだから。
「フフフ、Time is deliciousnessよ妖夢」
「はぁ……なんというか、相変わらずなんですね。
……美味しかった、ですか?」
なんとなく聞いた問いを、幽々子様は最初意外に思ったのか、聞いた途端にきょとんとした顔になった。
でも、少ししてすぐにいつもの笑顔になって、"うん"と言ってくれた。
「美味しかったわ、妖夢。 ごちそうさま」
無理矢理いい話にした感が強すぎて、なのに妖夢が幽々子の話に何も疑問を抱いてないのが読了感を悪くしてる気がする。
ということでこの点数。
若本さんは好きです、大好きです
デブ役に定評のある高橋広樹とか飯塚昭三とか書いてたら100点入れてた
妖忌は妖夢の祖父ではないでしょうか?
父の代から使えてる。だと、妖忌があぶれてしまいますし、公式描写が一切ない妖夢の父を書く必要性もないので、多分妖忌が妖夢の父親と勘違いして覚えてるのかなぁと。
きつねぇさん、ハッと思って確認してみたところ、その通りでした。
ご指摘の通り、誤字じゃなくて、誤解になりますね……ご指摘感謝します。
ご指摘を受けて、"父"の文字を、"祖父"に修正しました。
そこまでの集中をしながら読んでいただき、本当に感謝します。
これからもどうぞよろしくお願いします。
いやなに、別に悪いって訳じゃあないんですが。でも個人的には気になってしまうというか、食傷気味というか、うん。一読者の意見なので聞き流して頂いても構わないです。
もっとそのいい話を全部ぶち壊す系のどんでん返しを期待していただけに、残念。
あと無駄なパロディは使わないほうがいいと思いますよ。