注意!
以下の場合、戻ることをおすすめ致します。
・百合が苦手、もしくはダメな方。
・キャラ崩壊を見たくない方。
・「このカップリングじゃないと認めない!」という方。
さらに、視点がコロコロ変わります。
大丈夫な方は、本文をどうぞ。
「う…ん………」
心地よい微睡から、現実へと向かう。
本来ならまだ眠っているところだけど、今日は別。
何て言ったって、本日は乙女にとって大切な日。
そう―――バレンタイン。
寝起き特有の気だるさを感じながら、準備を済ませる。
そしていつものように霊夢の所に行こうとして……止まる。
どうせなら、他の人たちの様子も見て回ろうかしら。
だって今日はバレンタイン。気になるじゃない。
そうと決まったら、後は行動するのみ。
最初は…そうねぇ……よし、幽々子の所へ行ってみましょうか。
◇◆◇
Stage1~恋咲白玉楼~
◇◆◇
「よ~うむ!」
「何ですか、幽々子様」
妖夢を呼ぶと、すぐに来てくれた。
用なんて一つしかないのだけれど、わざと意地悪に聞いてみる。
「ねえ、私に何か渡すもの、あるんじゃなぁい?」
「えっ…べ、別にありませんけど………?」
あらあら、顔真っ赤。可愛いわ~妖夢。
隠してるつもりなのかしら?…バレバレなのに。
……もっと意地悪、したくなっちゃうじゃない。
「え~。だったら、その手に持っているものは何かしら?」
「ふぇっ!?う…うぅ……ち、チョコレート、です…。どうぞ…」
「ふふっ……。ありがと、妖夢」
段々声が小さくなっていって、おずおずとチョコを手渡された。
ああ……。どうしようかしら、この子。可愛すぎるわ。
手元には、チョコ。今日はバレンタイン。
……いいこと、思いついた。
「ねえ、妖夢……」
「な、何です…――んんっ!?」
吐息が、重なる。
口の端から零れたチョコが、妖夢の白い喉を伝っていくのを、
だんだん溶けてきた思考の中で、ただただ綺麗だと思った。
「……私からの、チョコレート」
「幽々子様……」
「チョコは、まだまだあるわよ…?」
「はい……」
またチョコをひとかけら、口に含み―――。
◇◆◇
あっまぁぁぁぁい!!甘すぎて胸焼けしそうよ!
相変わらずの甘々っぷりね。まったく、幽々子ったら……。
さて、そろそろ次の場所へ行きましょうか。
次は…永遠亭かしら?
……って、あら?
バレンタインだというのに、またあの二人は戦ってるの?
…面白そうだし、ちょっと覗いてみましょうか。
◇◆◇
Stage2~Love Phenix~
◇◆◇
まったく。バレンタインだっていうのに、何でいつもと同じなのよ。
本当なら、永遠亭に連れて行くはずだったのに。
いきなり仕掛けられたら、戦うしかないじゃないの。
……それにしても。
「……どうしたの?何か動き、悪いんじゃない?」
「な、何でもない……」
さっきから何かがおかしい。
いつもみたいな動きのキレがないし、炎も心なしか弱い気がする。
加えてこの返答。流石に少し心配になってくる。
「ちょっと、本当にどうしたのよ。いつもなら『それは貴様の方だ、輝夜!』とか言うくせに」
「そ、そんなに私は口が悪いか……?」
「………は?」
え?なんでそんなしおらしくなってるの?
………ああ、もう!何か調子狂うわねぇ!
そっちから仕掛けてくせに何なのよ!?
「……もうやめ。ちょっとついてきなさい、妹紅」
「あ、ちょ、輝夜?」
当初の予定とは違うけどいいわ。
このまま連れていっちゃえ。
~永遠亭~
「か、輝夜!その……」
「何よ?」
「い、いや、何でもない……」
私の部屋に案内しても、妹紅はやっぱり変だった。
来る途中もこんな感じのやりとりが何回もあった。
そのたびに「何でもない」と、話が続かない。
「……妹紅」
「な、何だ……?」
「言いたいことがあるなら、ハッキリ言いなさい!」
「う…あ、ああ……」
そう言うと、妹紅は視線を彷徨わせ、そして。
覚悟したのか、私の目を真っ直ぐ見つめてきた。
「…輝夜!渡したいものが、ある」
ポケットから、箱を取り出した妹紅。
確かそっち側は、炎を出していない―――。
「……これ、チョコレート?」
「ほ、他の何に見える!!」
「あ、ありがと……」
何この状況。顔が熱い。
私から渡そうと思っていたのに。逆だとこんなにも……。
ふと妹紅を見ると、バチッと視線が絡んだ。
「あ、う…も、妹紅は、何で私にチョコを?」
「き、今日は、好きな人にチョコをあげる日だろう?だから……」
「へ……?」
つまり、所謂「友チョコ」じゃなくて、本命………?
気付いた途端、更に顔が熱くなる。
そっか、つまり……。
「相思相愛、ってわけね……」
「え……?」
「はい、これ」
「チョコ、レート……」
ハート形のチョコは、私の想い。
ちゃんと受け取ってくれたかしら?
「さ、溶ける前に食べましょう?」
「……そうだな!」
二人で食べたチョコは、何よりも甘く―――。
◇◆◇
スキマを静かに閉じる。……はぁ。
どこもかしこもイチャついてくれちゃって!
甘すぎるわよ!完全に胸焼けよ、これ!
次はどこにしようかしら。……甘すぎるのは勘弁よ。
でも、もう場所は限られてくるのよね……。
……紅魔館に、行ってみましょうか。
◇◆◇
Stage3~チョコより溶けた・・・~
◇◆◇
今日はバレンタイン。……楽しみだわ。
お嬢様と妹様と、パチュリー様と美鈴に。
昨日のうちから仕込んでおいて、最高の出来上がり。
そしてお嬢様方のには、あの薬師特製の薬を……。
ふふ……。うふふふふ………!
「あのー……咲夜さん?」
「……美鈴、どうしたの?」
「い、いえ、お嬢様方が呼んでますが……」
「そう。すぐに行くから、先に行っててちょうだい」
「は、はい!」
何故か美鈴が全速力で走り去っていったが気にしない。
せっかくの時間を邪魔されたからって、怒ってたりしない。うん。
「さて、行きましょうか」
やっとね……。楽しいパーティーの始まりよ!
「お嬢様方、チョコレートですわ!私の気持ちと一緒に受け取ってくださいませ!!」
「あら。ありがとう、咲夜」
「おいしい~!」
ああ……。なんて可愛らしいお嬢様方。
その口元についたチョコ、舐めとって差し上げたいわ……!
でも、それをしたら薬の餌食。ここは耐えるのよ。
さあ、見せてください。そのあられもない、そのお姿を……!
……って、おかしいわね。効いてないのかしら?
即効性の薬だって言っていたから、すぐに効くはずなのだけれど……。
「………っ!?」
と。後ろから。
何か熱っぽい視線が約二つ。
果てしなく嫌な予感しかしない。
「咲夜……」
「咲夜さん……」
恐る恐る振り向くと、そこには理性を失くした瞳。
美鈴とパチュリー様が、フラフラと近づいてくる。
チョコはもう、なくなっていた。
「あああぁぁぁあああ!!?」
「あらあら……。あ、フラン。貴女に私から…はい、チョコ」
「これって本命?」
「他の何があるのかしら?……愛してるわ、フラン」
「嬉しいわ、お姉様……。あっ……私からも、はい」
「本命で、いいのよね?」
「もちろんよ!お姉様に負けないくらい、私だって愛してるんだから!」
「ふふっ……。ありがとう」
「ねえ、お姉様。一緒に食べましょ?」
「ええ、そうね。……あの子たちにも用意したけれど………。お楽しみのようだし、後ででいいわね」
◇◆◇
何、ここ……。
今までの中で一番酷いじゃない。
メイドは変態、吸血鬼姉妹はラブラブ……。
何かクラクラしてきたわ……。糖分の取りすぎと…あとはまあ、ね。
……ん?何か上空を横切ったような……。
黒い影……。あれは、文?
物凄いスピードで飛んでいくけど、何かあったのかしら?
まあ、あの天狗が何もないところに行くわけないし。
面白そうだから、追ってみましょう!
多分あっち……魔法の森の方よね。
◇◆◇
~お酒と奇跡と恋模様~
◇◆◇
「ふわぁ~……」
暇だ。あまりにも暇で欠伸が出る。
いつもなら来る魔理沙も、今日という日のためか来ていない。
バレンタイン。好きな人にチョコを渡す日。
……でも、私には関係ない。だって、渡したい人は夢の中。
チョコは用意してあるけど、結局渡せないかな……。
「霊夢さんっ!」
「霊夢っ!」
と、幾分さみしい気持ちになっていたら来客だ。
早苗と萃香が何故か息を切らせながら降りてくる。
「どうしたのよ、あんたたち」
「別に…何でもない……ですよ?」
「うん……何でもない……」
二人とも顔をひきつらせながらそう言った。
何かあったみたいだが……まあ、私には関係ないだろう。
「……で?何の用?」
「はい!それはですね―――」
「霊夢、これ」
早苗が何か言おうとしていたみたいだけど、萃香によって遮られる。
萃香が差し出したのは、小さな箱だった。
……早苗がものすごい形相でこちらを見ているが、とりあえず気にしない。
「チョコよね?」
「うん。受け取っ―――っ!?」
「霊夢さん、どうぞっ!」
今度は早苗が萃香の言葉を遮り――というか、萃香を吹っ飛ばし――、
綺麗にラッピングされた箱を渡してくる。
一方、吹っ飛ばされた萃香はというと。……まさに鬼の形相で早苗を睨みつけていた。
対する早苗は不敵に笑っていて、どこか萃香を見下しているようにも見える。
「……喧嘩なら、よそでやってよね」
一応釘を刺しておくけれど。
……あんまり意味はないか。
「……鬼の本気、見せようか」
「さ-て、鬼退治といきますか」
「調子に乗るなよ、人間!」
「私は人間ではなく……現人神です!!」
正直、凄く面倒なんだけど。神社が壊れるのはヤダし。
……仕方ないな。
「鬼を怒らせたこと、後悔するんだ――うぐっ!?」
「鬼より神の方が強いに決まってま――あたっ!?」
「いい加減にしなさい」
言っても聞かなかったため、実力行使。
二人共から涙目睨まれたけど、無視。
「まったく……。何で争ってるのか知らないけど、ここでやらないでよ」
「う……。ごめん、霊夢」
「……ごめんなさい、霊夢さん」
「わかればよろしい」
「と、ところでさ。そのチョコ……」
「受け取って、もらえますか……?」
何故か急に静かになり、上目づかいで二人ともこっちを見てくる。
……なんだかよく分かんないけど。
「受け取らないわけないでしょ」
「「………!」」
「もらえるものは、もらっておいた方がいいじゃない」
「「………」」
そう答えたら、何故か落胆したような表情を見せる二人。
な、何よ。正直に言ったまでよ?
「……萃香さん」
「……何だい?」
「帰りましょうか………」
「……そうだね」
そんなやり取りをした後、
来たときとは打って変わって、静かに並んで帰っていく。
少し先で二人が振向き、ため息。……何だって言うのよ!?
……そんなこんなで、今日という日が終わっていく。
私自身は何もやらないまま、終わっていく。
◇◆◇
……幻想郷最速舐めてたわ。
完全に見失っちゃったわよ。……でも。
代わりと言っちゃなんだけど、アリスを発見。
方向的に、魔理沙の所に行くみたいね。
◇◆◇
Stage4~Sweet Magic~
◇◆◇
~Side A
「魔理沙、受け取ってくれるかしら?」
年に一度の、特別な日。
大好きな人にチョコを贈る大切な日。
手元には、チョコレート。甘すぎず、ほろ苦く。
去年も同じものを作ったので、別のものにしようかとも思ったけど。
彼女が本当においしそうに食べていたから、同じものにした。
何だかんだ言って、魔理沙は人気だ。
河童に魔女に花の妖怪に……。挙げたらキリがない。
去年だって、大量にチョコもらってたし。
あんなにあったんじゃ、きっと私のなんて埋もれちゃってただろうなぁ……。
そんな、思考回路が段々ネガティブになってきた頃。
魔理沙の家に到着した。
……癖って恐ろしいわ。考え事してても着いちゃうんだもの。
鼓動が速くなっていくのを感じながら、手を伸ばす。
深呼吸を一つ。扉をノックする。
………大丈夫。昨日何度もシミュレーションしたんだから。
~Side M
年に一度の大イベント。
恋の魔法使いとしては是非とも参加したい。……したいのだが。
「これ、どうすんだよ……」
見渡す限り、チョコ。
何で皆、私に渡すんだ?その気持ちは嬉しいが……ハッキリ言って困るぜ。
だって。
私は、アリスからのチョコしかいらないから。
ビターな、それでいてほんのり甘い。
あいつみたいなチョコレート。
毎年楽しみなんだ。
あいつからチョコ、もらえるのが。
受け取った後に、私を魅了する笑顔を見られることが。
思わず、独り占めしたくなってしまう。アリスはホントにずるい。
―――コンコンッ
そんなことを考えていたら。
ちょうど、やってきた。
~Side A
「お邪魔しまーす」
「お邪魔されるぜ」
魔理沙の家に入ると、チョコの山が鎮座していた。
それを見てへこみそうになるが、何とか耐える。
一方魔理沙といえば、何故かニコニコ……いや、ニヤニヤしてる。
大方、たくさんのチョコをもらえて嬉しいのだろう。
……人の気も知らないで。
「ん?どうした、アリス」
「何でもないわ……」
何だろう………モヤモヤする。
どんどん影が広がって、呑み込まれてしまいそう。
「……何か、怒ってないか?」
「……別に?」
……一体、誰のせいでこんな想いしてると思ってるのよ。
私はただ、あんな山に埋もれるんじゃなくて、
たった一つの“特別”でありたいだけなのに。……なのに。
「ア、アリス?」
「あ、れ……?」
頬を温かいもの流れていく。……何で?
泣くつもりなんて、なかったのに。
ほら、魔理沙だって困ってる。でも………止められない。
ずるいなぁ、私。
泣いたって、魔理沙を困らせるだけじゃない。
「ごめん……なさい………!」
「あっ、おい、アリス!」
これ以上、魔理沙の前にいたくない。
私はチョコを放り投げ、逃げるように家から飛び出した。
~Side M
泣かせた。
アリスを、泣かせた。
何で、何でだ?私は一体何をしたんだ?
考えてみても答えは見つからない。
ただ、アリスからチョコをもらえることが嬉しくて。
にやけそうになる顔を、必死で引き締めて。
ふと、口の中に苦い味が広がっていく。これは………。
「アリスの、チョコ……」
そう。
アリスが作ってくれた、あのチョコレート。
……でも。
「………苦いな」
何でだろう。
アリスと一緒に食べたときは、こんなに苦くなかったのに。
チョコの山に目を向ける。
近くにアリスのチョコがあって……埋もれそうだった。
それを拾い上げて考える。
もし、自分がアリスの立場だったら、と。
チョコの山と自分のチョコ。見比べて何を思うだろう?
“特別”なチョコとして作ってきたのに、
あの山の一部としか思われていない。そう思ってしまうのではないか………?
「同じ、だよな」
確証はないけれど。
もし、アリスが今の私と同じように思ったのなら。
……私は、最低のバカだ。
一人で浮かれて、アリスの気持ちなんて考えないで。
本当に欲しいチョコ以外、受け取らなきゃよかったんだ。
「アリス……」
少し遅くなってしまったけど。ようやく気づけた。
これから私がすべきことは何か。
結論が出た時、大空へと駆けだしていた。
~Side A
「はぁ…はぁ……」
……バカみたい。何やってるのかしら、私。
一人で勝手に暴走して、魔理沙を困らせて。
……わかってたことじゃない。
魔理沙が私だけを見てくれるわけないって。
…でも。それでも。
「私は、“特別”でありたい……!」
私は、どうしたらいいの?教えてよ、魔理沙……。
……おかしい、かしら?
魔理沙の特別になりたいのに、どうすればいいのか本人に聞くのは。
頭の中がグルグルして、自分が何をしたいのかもわからない。
でも、やっぱり。
こんな時でも浮かんでくるのはあの笑顔。
自分から飛び出してきたくせに、会いたくなってくる―――。
「アリス!!」
「ま、りさ?」
思い浮かべていた姿が、目の前にある。
あまりにも唐突すぎて、理解が追い付かない。
何で魔理沙がここに?
………ああ、そっか。魔理沙、優しいから。
目の前で泣いた私を、放っておけなかったのね。
……でも。
その優しささえ、今の私には辛い。
「……なんで、来たの?」
口から出た言葉は、鋭い棘を含んでいた。
本当は、来てくれてすごく嬉しいのに。
「ようやく、気付いたからだ」
「気付いた……?」
……よくわからない。
何に気付いて、なんで私を追いかけてきたの?
そんな私の感情を抑えるような、静かな声で魔理沙は告げた。
「好きだ、アリス」
「え………?」
「私はアリスを……愛してる」
フリーズ。
今、魔理沙は何て言った?
私を、愛…して……。
「なっ…なななななっ!?」
意味を完全に理解したとき、私は混乱の極みにいた。
魔理沙が私のことを好き?
幻聴…ではないわね。なら、友達として?
でも、「愛してる」って………。
「アリス」
「何よ!?いま――んぅ!?」
混乱状態のまま、魔理沙に呼ばれ振向いたら。
唇を、奪われた。
頭の中が真っ白になって、何も考えられない……。
「……うん。甘い」
「あ…ああ………」
「……?どうした、アリス?」
「あなたねぇ!?」
思考が回復し、思わず魔理沙に掴み掛る。
が、力が入らず、そのまま倒れ込む形になった。……結果。
魔理沙に抱きしめられていた。
囁くように、耳元で言われる。
「やっと気づいたんだ。私にはアリス、お前が必要だ!」
「いいの?私で、いいの………?」
それは、私が一番欲しかった言葉。
だからこそ夢のようで、自信がない。……けれど。
「アリスがいいんだ」
そんな想いを吹き飛ばすかのように。
考える素振りすら見せずに、そう答えてくれた。
やっと願いが叶った。
貴女の“特別”に、やっと………。
◇◆◇
……覗かなかった方が、良かったかもしれないわね。
胸につっかえていた甘さは消えたけど、何とも言えない感じだわ。
…なんだかあの二人を見てたら、私も会いたくなってきちゃった。
見て回るのはこのくらいにして、私もそろそろ向かいましょう。
◇◆◇
Stage FINAL~You Are Mine~
◇◆◇
博麗神社手前付近。考えながら移動中。
さて、どうやって霊夢をおどろかせようかしら?
……って、何で早苗と萃香がいるのよ。
でも、帰っていくところね。……何かあったのかしら。
二人とも疲れたような表情をしているわ。
まあ、でも。
そんなことは気にせずに、霊夢の所へレッツゴー!
スキマを開き、背後へ移動して………。
「れ~いむ!!」
「……っ!?………何よ、紫」
「もっと驚いてくれてもいいじゃない」
「もう慣れちゃったんだから、仕方ないでしょ。……あと暑い。離れろ」
「おかしいわね、今は冬よ?」
「う、うっさい!いいから離れろ!!」
「はいはい。……もう、つれないわねぇ」
仕方なく霊夢に抱きつくのをやめる。
……暖かかったのに。残念だわ。
「それよりも、あんた何で起きてんのよ?」
どうでもよさそうに霊夢が聞いてくる。
が、内心とても気になるのだろう。いつもの余裕が感じられない。
だから私は、ストレートに答えることにした。
「もちろん、霊夢に会うためよ?」
「なっ………」
わー。霊夢顔真っ赤だわ~。
抱きついてた時も赤くなってたけど、今はそれ以上に赤いわ。
ふ~ん……。霊夢って、直球勝負に弱いのね。
……まあ、霊夢の疑問もわかる。
いつもだったら、ずっと眠っているもの。
昨日も眠っていたし、今日という日が終わったらまた眠る。
実を言うと、今とても眠いのだけれど。
今日だけは霊夢の傍に、いたいから。
「はい、どうぞ」
「チョコレート……?何で私に?」
「それはもちろん、誰からももらえずに悲しそうにしていたから……」
「茶化さないでよ」
……うん。今のは私が悪かったわ。
でも、正直に言うのってなんだか恥ずかしいんだもの。
だから……。
「私、義理チョコを渡す趣味なんてございませんわ」
「え……」
「……つまり、本命よ、それ」
「………っ!ちょ、ちょっと待ってなさい!!」
「れ、霊夢?」
何を思ったか、急に奥に向かった霊夢。
戻ってきたその手には……箱。
「……はい」
「何、これ?」
「…チョコ」
「え………?」
「な、何よ!いらないなら返して!!」
「あ、ありがたくいただくわ」
驚いた。まさか霊夢からもらえるとは。
あー……。両頬が熱いわ……。
霊夢といえば、顔を再び真っ赤にさせてモゴモゴと何か言っている。
「は、初めて作ったから失敗してるかも……。でも、ちゃんとチョコだし…。わ、私だって義理チョコなんかじゃないんだからね!」
………。何この子。
可愛すぎるでしょ。犯罪級よ、これ。
いつまでもそんな霊夢を眺めていたいのだけれど。
こんな時にも睡魔が襲ってくる。……憎たらしいわ。
本当にそろそろ……限界かしら?
「ねえ、霊夢」
「な、何よ?」
「ありがとう。私、そろそろ……」
「あ……」
私が告げると、さっきとは打って変わって。
少しさびしそうな顔をしていた。
「その前に」
ちゅっ
「っ!?」
「……チョコより、私的にはこっちの方が嬉しいわ。出来れば今日みたいな日だけじゃなくて、毎日でも欲しいくらい……」
本当に心から思ってしまう。
でも、毎日一緒にはいられない。……今日のように。
「……あんたが」
「……?」
「あんたがそばにいてくれるなら……いいわよ」
「霊夢………」
想いは、同じ。ずっと一緒に……。ただそれだけ。
ああ、何て愛おしいのかしら。冗談とか、おふざけとか。
そんな物は全部抜きでそう思う。
こんなにも彼女は、私を夢中にさせる。
……誰が彼女を離すものですか。
出会ったころは、ただ二色。
怒りか無表情―――紅と白しか見せてくれなかったけど。
今はそう……万華鏡のように、それ以外の色も見せてくれる。
だから、だれにも渡さない。
私だけの……大切な霊夢。
だから、貴女に返す言葉は決まっているの。
何よりも真剣に、ありったけの想いを乗せて。
「約束する。貴女が望むのならいつでも、どんなときでも傍にいるわ」
「………!」
霊夢の笑顔。何よりも輝いて見える。
でもまたすぐに、曇ってしまう。
……わかってる。
そんな顔させてるのは、間違いなく私なのだから。
もうそんな顔、させないわ。
「霊夢」
「……何よ?」
「春になったら、一緒にお花見に行きましょう?」
「え……?」
「夏になったら、外の海に連れていってあげる」
「紫……?」
「秋になったら、山に紅葉狩りに行くわよ」
「……冬は?」
「冬は……」
冬は……そう。
「冬になったら、私の夢へ案内するわ」
「紫の、夢?」
「ええ。きっと楽しめると思うわ。貴女が願うなら、いつでも招待する」
「ゆ、かり……」
「春夏秋冬、ずっと霊夢のそばにいる。だから―――」
―――だからずっと、笑っていてちょうだい。
真っ直ぐに霊夢を見つめて告げる。
そしたら、いつものように笑ってくれた。
「おやすみ、紫。また会いましょう?」
「ええ。おやすみなさい、霊夢。また………」
そして隙間を開き……ゆっくりと目蓋を閉じた。
目を瞑ると、彼女の笑顔がくっきりと浮かぶ。
さっき会ったばかりなのに、またすぐにでも会いたくなってくる。
可愛くて愛しくて大好きな霊夢がそばにいないのは、何よりもさみしい。
だけど。目が覚めたころには、また貴女の笑顔を見る事ができるから。
さみしいのは、霊夢だって同じなのだから。
――春も。
――夏も。
――秋も。
――冬も。
ずっと、ずっと、ずーっと一緒。
今だけは、ほんの少しの間会えないけど。
それを越えた先にはきっと、何よりも幸せな時間が広がっているはずだから。
おやすみなさい、霊夢。
目を覚ました時には、その笑顔で「おはよう」って言ってね?
そうして私は眠りについた。
◇◆◇
文々。新聞
幻想郷のバレンタイン!~チョコのように甘く、とろけあう住人達~
普通の魔法使い、大量にチョコをもらう。~お前のじゃなきゃ意味がない~
「本命のチョコをもらえたら 、他のチョコなんていらないんだ。……私は、あいつだけが好きなんだ」 M
(本命が誰かは伏せておきます。争いになると思いますので)
貴女に届け、恋の不死鳥!~相思相愛、1000年の恋~
「いつもは強気なのに、その日の夜は甘えちゃって。可愛かったわ~」 K
バレンタインの日の約束。ほろ苦く、だけど甘く――。~私の傍で、笑っていてね?~
「会えないのは寂しいですけど、起きた時に楽しみがありますから。……だから、少しの間だけ我慢、ですわ」 Y
それぞれの今日は、一番幸せかもしれない形で幕を閉じた。
以下の場合、戻ることをおすすめ致します。
・百合が苦手、もしくはダメな方。
・キャラ崩壊を見たくない方。
・「このカップリングじゃないと認めない!」という方。
さらに、視点がコロコロ変わります。
大丈夫な方は、本文をどうぞ。
「う…ん………」
心地よい微睡から、現実へと向かう。
本来ならまだ眠っているところだけど、今日は別。
何て言ったって、本日は乙女にとって大切な日。
そう―――バレンタイン。
寝起き特有の気だるさを感じながら、準備を済ませる。
そしていつものように霊夢の所に行こうとして……止まる。
どうせなら、他の人たちの様子も見て回ろうかしら。
だって今日はバレンタイン。気になるじゃない。
そうと決まったら、後は行動するのみ。
最初は…そうねぇ……よし、幽々子の所へ行ってみましょうか。
◇◆◇
Stage1~恋咲白玉楼~
◇◆◇
「よ~うむ!」
「何ですか、幽々子様」
妖夢を呼ぶと、すぐに来てくれた。
用なんて一つしかないのだけれど、わざと意地悪に聞いてみる。
「ねえ、私に何か渡すもの、あるんじゃなぁい?」
「えっ…べ、別にありませんけど………?」
あらあら、顔真っ赤。可愛いわ~妖夢。
隠してるつもりなのかしら?…バレバレなのに。
……もっと意地悪、したくなっちゃうじゃない。
「え~。だったら、その手に持っているものは何かしら?」
「ふぇっ!?う…うぅ……ち、チョコレート、です…。どうぞ…」
「ふふっ……。ありがと、妖夢」
段々声が小さくなっていって、おずおずとチョコを手渡された。
ああ……。どうしようかしら、この子。可愛すぎるわ。
手元には、チョコ。今日はバレンタイン。
……いいこと、思いついた。
「ねえ、妖夢……」
「な、何です…――んんっ!?」
吐息が、重なる。
口の端から零れたチョコが、妖夢の白い喉を伝っていくのを、
だんだん溶けてきた思考の中で、ただただ綺麗だと思った。
「……私からの、チョコレート」
「幽々子様……」
「チョコは、まだまだあるわよ…?」
「はい……」
またチョコをひとかけら、口に含み―――。
◇◆◇
あっまぁぁぁぁい!!甘すぎて胸焼けしそうよ!
相変わらずの甘々っぷりね。まったく、幽々子ったら……。
さて、そろそろ次の場所へ行きましょうか。
次は…永遠亭かしら?
……って、あら?
バレンタインだというのに、またあの二人は戦ってるの?
…面白そうだし、ちょっと覗いてみましょうか。
◇◆◇
Stage2~Love Phenix~
◇◆◇
まったく。バレンタインだっていうのに、何でいつもと同じなのよ。
本当なら、永遠亭に連れて行くはずだったのに。
いきなり仕掛けられたら、戦うしかないじゃないの。
……それにしても。
「……どうしたの?何か動き、悪いんじゃない?」
「な、何でもない……」
さっきから何かがおかしい。
いつもみたいな動きのキレがないし、炎も心なしか弱い気がする。
加えてこの返答。流石に少し心配になってくる。
「ちょっと、本当にどうしたのよ。いつもなら『それは貴様の方だ、輝夜!』とか言うくせに」
「そ、そんなに私は口が悪いか……?」
「………は?」
え?なんでそんなしおらしくなってるの?
………ああ、もう!何か調子狂うわねぇ!
そっちから仕掛けてくせに何なのよ!?
「……もうやめ。ちょっとついてきなさい、妹紅」
「あ、ちょ、輝夜?」
当初の予定とは違うけどいいわ。
このまま連れていっちゃえ。
~永遠亭~
「か、輝夜!その……」
「何よ?」
「い、いや、何でもない……」
私の部屋に案内しても、妹紅はやっぱり変だった。
来る途中もこんな感じのやりとりが何回もあった。
そのたびに「何でもない」と、話が続かない。
「……妹紅」
「な、何だ……?」
「言いたいことがあるなら、ハッキリ言いなさい!」
「う…あ、ああ……」
そう言うと、妹紅は視線を彷徨わせ、そして。
覚悟したのか、私の目を真っ直ぐ見つめてきた。
「…輝夜!渡したいものが、ある」
ポケットから、箱を取り出した妹紅。
確かそっち側は、炎を出していない―――。
「……これ、チョコレート?」
「ほ、他の何に見える!!」
「あ、ありがと……」
何この状況。顔が熱い。
私から渡そうと思っていたのに。逆だとこんなにも……。
ふと妹紅を見ると、バチッと視線が絡んだ。
「あ、う…も、妹紅は、何で私にチョコを?」
「き、今日は、好きな人にチョコをあげる日だろう?だから……」
「へ……?」
つまり、所謂「友チョコ」じゃなくて、本命………?
気付いた途端、更に顔が熱くなる。
そっか、つまり……。
「相思相愛、ってわけね……」
「え……?」
「はい、これ」
「チョコ、レート……」
ハート形のチョコは、私の想い。
ちゃんと受け取ってくれたかしら?
「さ、溶ける前に食べましょう?」
「……そうだな!」
二人で食べたチョコは、何よりも甘く―――。
◇◆◇
スキマを静かに閉じる。……はぁ。
どこもかしこもイチャついてくれちゃって!
甘すぎるわよ!完全に胸焼けよ、これ!
次はどこにしようかしら。……甘すぎるのは勘弁よ。
でも、もう場所は限られてくるのよね……。
……紅魔館に、行ってみましょうか。
◇◆◇
Stage3~チョコより溶けた・・・~
◇◆◇
今日はバレンタイン。……楽しみだわ。
お嬢様と妹様と、パチュリー様と美鈴に。
昨日のうちから仕込んでおいて、最高の出来上がり。
そしてお嬢様方のには、あの薬師特製の薬を……。
ふふ……。うふふふふ………!
「あのー……咲夜さん?」
「……美鈴、どうしたの?」
「い、いえ、お嬢様方が呼んでますが……」
「そう。すぐに行くから、先に行っててちょうだい」
「は、はい!」
何故か美鈴が全速力で走り去っていったが気にしない。
せっかくの時間を邪魔されたからって、怒ってたりしない。うん。
「さて、行きましょうか」
やっとね……。楽しいパーティーの始まりよ!
「お嬢様方、チョコレートですわ!私の気持ちと一緒に受け取ってくださいませ!!」
「あら。ありがとう、咲夜」
「おいしい~!」
ああ……。なんて可愛らしいお嬢様方。
その口元についたチョコ、舐めとって差し上げたいわ……!
でも、それをしたら薬の餌食。ここは耐えるのよ。
さあ、見せてください。そのあられもない、そのお姿を……!
……って、おかしいわね。効いてないのかしら?
即効性の薬だって言っていたから、すぐに効くはずなのだけれど……。
「………っ!?」
と。後ろから。
何か熱っぽい視線が約二つ。
果てしなく嫌な予感しかしない。
「咲夜……」
「咲夜さん……」
恐る恐る振り向くと、そこには理性を失くした瞳。
美鈴とパチュリー様が、フラフラと近づいてくる。
チョコはもう、なくなっていた。
「あああぁぁぁあああ!!?」
「あらあら……。あ、フラン。貴女に私から…はい、チョコ」
「これって本命?」
「他の何があるのかしら?……愛してるわ、フラン」
「嬉しいわ、お姉様……。あっ……私からも、はい」
「本命で、いいのよね?」
「もちろんよ!お姉様に負けないくらい、私だって愛してるんだから!」
「ふふっ……。ありがとう」
「ねえ、お姉様。一緒に食べましょ?」
「ええ、そうね。……あの子たちにも用意したけれど………。お楽しみのようだし、後ででいいわね」
◇◆◇
何、ここ……。
今までの中で一番酷いじゃない。
メイドは変態、吸血鬼姉妹はラブラブ……。
何かクラクラしてきたわ……。糖分の取りすぎと…あとはまあ、ね。
……ん?何か上空を横切ったような……。
黒い影……。あれは、文?
物凄いスピードで飛んでいくけど、何かあったのかしら?
まあ、あの天狗が何もないところに行くわけないし。
面白そうだから、追ってみましょう!
多分あっち……魔法の森の方よね。
◇◆◇
~お酒と奇跡と恋模様~
◇◆◇
「ふわぁ~……」
暇だ。あまりにも暇で欠伸が出る。
いつもなら来る魔理沙も、今日という日のためか来ていない。
バレンタイン。好きな人にチョコを渡す日。
……でも、私には関係ない。だって、渡したい人は夢の中。
チョコは用意してあるけど、結局渡せないかな……。
「霊夢さんっ!」
「霊夢っ!」
と、幾分さみしい気持ちになっていたら来客だ。
早苗と萃香が何故か息を切らせながら降りてくる。
「どうしたのよ、あんたたち」
「別に…何でもない……ですよ?」
「うん……何でもない……」
二人とも顔をひきつらせながらそう言った。
何かあったみたいだが……まあ、私には関係ないだろう。
「……で?何の用?」
「はい!それはですね―――」
「霊夢、これ」
早苗が何か言おうとしていたみたいだけど、萃香によって遮られる。
萃香が差し出したのは、小さな箱だった。
……早苗がものすごい形相でこちらを見ているが、とりあえず気にしない。
「チョコよね?」
「うん。受け取っ―――っ!?」
「霊夢さん、どうぞっ!」
今度は早苗が萃香の言葉を遮り――というか、萃香を吹っ飛ばし――、
綺麗にラッピングされた箱を渡してくる。
一方、吹っ飛ばされた萃香はというと。……まさに鬼の形相で早苗を睨みつけていた。
対する早苗は不敵に笑っていて、どこか萃香を見下しているようにも見える。
「……喧嘩なら、よそでやってよね」
一応釘を刺しておくけれど。
……あんまり意味はないか。
「……鬼の本気、見せようか」
「さ-て、鬼退治といきますか」
「調子に乗るなよ、人間!」
「私は人間ではなく……現人神です!!」
正直、凄く面倒なんだけど。神社が壊れるのはヤダし。
……仕方ないな。
「鬼を怒らせたこと、後悔するんだ――うぐっ!?」
「鬼より神の方が強いに決まってま――あたっ!?」
「いい加減にしなさい」
言っても聞かなかったため、実力行使。
二人共から涙目睨まれたけど、無視。
「まったく……。何で争ってるのか知らないけど、ここでやらないでよ」
「う……。ごめん、霊夢」
「……ごめんなさい、霊夢さん」
「わかればよろしい」
「と、ところでさ。そのチョコ……」
「受け取って、もらえますか……?」
何故か急に静かになり、上目づかいで二人ともこっちを見てくる。
……なんだかよく分かんないけど。
「受け取らないわけないでしょ」
「「………!」」
「もらえるものは、もらっておいた方がいいじゃない」
「「………」」
そう答えたら、何故か落胆したような表情を見せる二人。
な、何よ。正直に言ったまでよ?
「……萃香さん」
「……何だい?」
「帰りましょうか………」
「……そうだね」
そんなやり取りをした後、
来たときとは打って変わって、静かに並んで帰っていく。
少し先で二人が振向き、ため息。……何だって言うのよ!?
……そんなこんなで、今日という日が終わっていく。
私自身は何もやらないまま、終わっていく。
◇◆◇
……幻想郷最速舐めてたわ。
完全に見失っちゃったわよ。……でも。
代わりと言っちゃなんだけど、アリスを発見。
方向的に、魔理沙の所に行くみたいね。
◇◆◇
Stage4~Sweet Magic~
◇◆◇
~Side A
「魔理沙、受け取ってくれるかしら?」
年に一度の、特別な日。
大好きな人にチョコを贈る大切な日。
手元には、チョコレート。甘すぎず、ほろ苦く。
去年も同じものを作ったので、別のものにしようかとも思ったけど。
彼女が本当においしそうに食べていたから、同じものにした。
何だかんだ言って、魔理沙は人気だ。
河童に魔女に花の妖怪に……。挙げたらキリがない。
去年だって、大量にチョコもらってたし。
あんなにあったんじゃ、きっと私のなんて埋もれちゃってただろうなぁ……。
そんな、思考回路が段々ネガティブになってきた頃。
魔理沙の家に到着した。
……癖って恐ろしいわ。考え事してても着いちゃうんだもの。
鼓動が速くなっていくのを感じながら、手を伸ばす。
深呼吸を一つ。扉をノックする。
………大丈夫。昨日何度もシミュレーションしたんだから。
~Side M
年に一度の大イベント。
恋の魔法使いとしては是非とも参加したい。……したいのだが。
「これ、どうすんだよ……」
見渡す限り、チョコ。
何で皆、私に渡すんだ?その気持ちは嬉しいが……ハッキリ言って困るぜ。
だって。
私は、アリスからのチョコしかいらないから。
ビターな、それでいてほんのり甘い。
あいつみたいなチョコレート。
毎年楽しみなんだ。
あいつからチョコ、もらえるのが。
受け取った後に、私を魅了する笑顔を見られることが。
思わず、独り占めしたくなってしまう。アリスはホントにずるい。
―――コンコンッ
そんなことを考えていたら。
ちょうど、やってきた。
~Side A
「お邪魔しまーす」
「お邪魔されるぜ」
魔理沙の家に入ると、チョコの山が鎮座していた。
それを見てへこみそうになるが、何とか耐える。
一方魔理沙といえば、何故かニコニコ……いや、ニヤニヤしてる。
大方、たくさんのチョコをもらえて嬉しいのだろう。
……人の気も知らないで。
「ん?どうした、アリス」
「何でもないわ……」
何だろう………モヤモヤする。
どんどん影が広がって、呑み込まれてしまいそう。
「……何か、怒ってないか?」
「……別に?」
……一体、誰のせいでこんな想いしてると思ってるのよ。
私はただ、あんな山に埋もれるんじゃなくて、
たった一つの“特別”でありたいだけなのに。……なのに。
「ア、アリス?」
「あ、れ……?」
頬を温かいもの流れていく。……何で?
泣くつもりなんて、なかったのに。
ほら、魔理沙だって困ってる。でも………止められない。
ずるいなぁ、私。
泣いたって、魔理沙を困らせるだけじゃない。
「ごめん……なさい………!」
「あっ、おい、アリス!」
これ以上、魔理沙の前にいたくない。
私はチョコを放り投げ、逃げるように家から飛び出した。
~Side M
泣かせた。
アリスを、泣かせた。
何で、何でだ?私は一体何をしたんだ?
考えてみても答えは見つからない。
ただ、アリスからチョコをもらえることが嬉しくて。
にやけそうになる顔を、必死で引き締めて。
ふと、口の中に苦い味が広がっていく。これは………。
「アリスの、チョコ……」
そう。
アリスが作ってくれた、あのチョコレート。
……でも。
「………苦いな」
何でだろう。
アリスと一緒に食べたときは、こんなに苦くなかったのに。
チョコの山に目を向ける。
近くにアリスのチョコがあって……埋もれそうだった。
それを拾い上げて考える。
もし、自分がアリスの立場だったら、と。
チョコの山と自分のチョコ。見比べて何を思うだろう?
“特別”なチョコとして作ってきたのに、
あの山の一部としか思われていない。そう思ってしまうのではないか………?
「同じ、だよな」
確証はないけれど。
もし、アリスが今の私と同じように思ったのなら。
……私は、最低のバカだ。
一人で浮かれて、アリスの気持ちなんて考えないで。
本当に欲しいチョコ以外、受け取らなきゃよかったんだ。
「アリス……」
少し遅くなってしまったけど。ようやく気づけた。
これから私がすべきことは何か。
結論が出た時、大空へと駆けだしていた。
~Side A
「はぁ…はぁ……」
……バカみたい。何やってるのかしら、私。
一人で勝手に暴走して、魔理沙を困らせて。
……わかってたことじゃない。
魔理沙が私だけを見てくれるわけないって。
…でも。それでも。
「私は、“特別”でありたい……!」
私は、どうしたらいいの?教えてよ、魔理沙……。
……おかしい、かしら?
魔理沙の特別になりたいのに、どうすればいいのか本人に聞くのは。
頭の中がグルグルして、自分が何をしたいのかもわからない。
でも、やっぱり。
こんな時でも浮かんでくるのはあの笑顔。
自分から飛び出してきたくせに、会いたくなってくる―――。
「アリス!!」
「ま、りさ?」
思い浮かべていた姿が、目の前にある。
あまりにも唐突すぎて、理解が追い付かない。
何で魔理沙がここに?
………ああ、そっか。魔理沙、優しいから。
目の前で泣いた私を、放っておけなかったのね。
……でも。
その優しささえ、今の私には辛い。
「……なんで、来たの?」
口から出た言葉は、鋭い棘を含んでいた。
本当は、来てくれてすごく嬉しいのに。
「ようやく、気付いたからだ」
「気付いた……?」
……よくわからない。
何に気付いて、なんで私を追いかけてきたの?
そんな私の感情を抑えるような、静かな声で魔理沙は告げた。
「好きだ、アリス」
「え………?」
「私はアリスを……愛してる」
フリーズ。
今、魔理沙は何て言った?
私を、愛…して……。
「なっ…なななななっ!?」
意味を完全に理解したとき、私は混乱の極みにいた。
魔理沙が私のことを好き?
幻聴…ではないわね。なら、友達として?
でも、「愛してる」って………。
「アリス」
「何よ!?いま――んぅ!?」
混乱状態のまま、魔理沙に呼ばれ振向いたら。
唇を、奪われた。
頭の中が真っ白になって、何も考えられない……。
「……うん。甘い」
「あ…ああ………」
「……?どうした、アリス?」
「あなたねぇ!?」
思考が回復し、思わず魔理沙に掴み掛る。
が、力が入らず、そのまま倒れ込む形になった。……結果。
魔理沙に抱きしめられていた。
囁くように、耳元で言われる。
「やっと気づいたんだ。私にはアリス、お前が必要だ!」
「いいの?私で、いいの………?」
それは、私が一番欲しかった言葉。
だからこそ夢のようで、自信がない。……けれど。
「アリスがいいんだ」
そんな想いを吹き飛ばすかのように。
考える素振りすら見せずに、そう答えてくれた。
やっと願いが叶った。
貴女の“特別”に、やっと………。
◇◆◇
……覗かなかった方が、良かったかもしれないわね。
胸につっかえていた甘さは消えたけど、何とも言えない感じだわ。
…なんだかあの二人を見てたら、私も会いたくなってきちゃった。
見て回るのはこのくらいにして、私もそろそろ向かいましょう。
◇◆◇
Stage FINAL~You Are Mine~
◇◆◇
博麗神社手前付近。考えながら移動中。
さて、どうやって霊夢をおどろかせようかしら?
……って、何で早苗と萃香がいるのよ。
でも、帰っていくところね。……何かあったのかしら。
二人とも疲れたような表情をしているわ。
まあ、でも。
そんなことは気にせずに、霊夢の所へレッツゴー!
スキマを開き、背後へ移動して………。
「れ~いむ!!」
「……っ!?………何よ、紫」
「もっと驚いてくれてもいいじゃない」
「もう慣れちゃったんだから、仕方ないでしょ。……あと暑い。離れろ」
「おかしいわね、今は冬よ?」
「う、うっさい!いいから離れろ!!」
「はいはい。……もう、つれないわねぇ」
仕方なく霊夢に抱きつくのをやめる。
……暖かかったのに。残念だわ。
「それよりも、あんた何で起きてんのよ?」
どうでもよさそうに霊夢が聞いてくる。
が、内心とても気になるのだろう。いつもの余裕が感じられない。
だから私は、ストレートに答えることにした。
「もちろん、霊夢に会うためよ?」
「なっ………」
わー。霊夢顔真っ赤だわ~。
抱きついてた時も赤くなってたけど、今はそれ以上に赤いわ。
ふ~ん……。霊夢って、直球勝負に弱いのね。
……まあ、霊夢の疑問もわかる。
いつもだったら、ずっと眠っているもの。
昨日も眠っていたし、今日という日が終わったらまた眠る。
実を言うと、今とても眠いのだけれど。
今日だけは霊夢の傍に、いたいから。
「はい、どうぞ」
「チョコレート……?何で私に?」
「それはもちろん、誰からももらえずに悲しそうにしていたから……」
「茶化さないでよ」
……うん。今のは私が悪かったわ。
でも、正直に言うのってなんだか恥ずかしいんだもの。
だから……。
「私、義理チョコを渡す趣味なんてございませんわ」
「え……」
「……つまり、本命よ、それ」
「………っ!ちょ、ちょっと待ってなさい!!」
「れ、霊夢?」
何を思ったか、急に奥に向かった霊夢。
戻ってきたその手には……箱。
「……はい」
「何、これ?」
「…チョコ」
「え………?」
「な、何よ!いらないなら返して!!」
「あ、ありがたくいただくわ」
驚いた。まさか霊夢からもらえるとは。
あー……。両頬が熱いわ……。
霊夢といえば、顔を再び真っ赤にさせてモゴモゴと何か言っている。
「は、初めて作ったから失敗してるかも……。でも、ちゃんとチョコだし…。わ、私だって義理チョコなんかじゃないんだからね!」
………。何この子。
可愛すぎるでしょ。犯罪級よ、これ。
いつまでもそんな霊夢を眺めていたいのだけれど。
こんな時にも睡魔が襲ってくる。……憎たらしいわ。
本当にそろそろ……限界かしら?
「ねえ、霊夢」
「な、何よ?」
「ありがとう。私、そろそろ……」
「あ……」
私が告げると、さっきとは打って変わって。
少しさびしそうな顔をしていた。
「その前に」
ちゅっ
「っ!?」
「……チョコより、私的にはこっちの方が嬉しいわ。出来れば今日みたいな日だけじゃなくて、毎日でも欲しいくらい……」
本当に心から思ってしまう。
でも、毎日一緒にはいられない。……今日のように。
「……あんたが」
「……?」
「あんたがそばにいてくれるなら……いいわよ」
「霊夢………」
想いは、同じ。ずっと一緒に……。ただそれだけ。
ああ、何て愛おしいのかしら。冗談とか、おふざけとか。
そんな物は全部抜きでそう思う。
こんなにも彼女は、私を夢中にさせる。
……誰が彼女を離すものですか。
出会ったころは、ただ二色。
怒りか無表情―――紅と白しか見せてくれなかったけど。
今はそう……万華鏡のように、それ以外の色も見せてくれる。
だから、だれにも渡さない。
私だけの……大切な霊夢。
だから、貴女に返す言葉は決まっているの。
何よりも真剣に、ありったけの想いを乗せて。
「約束する。貴女が望むのならいつでも、どんなときでも傍にいるわ」
「………!」
霊夢の笑顔。何よりも輝いて見える。
でもまたすぐに、曇ってしまう。
……わかってる。
そんな顔させてるのは、間違いなく私なのだから。
もうそんな顔、させないわ。
「霊夢」
「……何よ?」
「春になったら、一緒にお花見に行きましょう?」
「え……?」
「夏になったら、外の海に連れていってあげる」
「紫……?」
「秋になったら、山に紅葉狩りに行くわよ」
「……冬は?」
「冬は……」
冬は……そう。
「冬になったら、私の夢へ案内するわ」
「紫の、夢?」
「ええ。きっと楽しめると思うわ。貴女が願うなら、いつでも招待する」
「ゆ、かり……」
「春夏秋冬、ずっと霊夢のそばにいる。だから―――」
―――だからずっと、笑っていてちょうだい。
真っ直ぐに霊夢を見つめて告げる。
そしたら、いつものように笑ってくれた。
「おやすみ、紫。また会いましょう?」
「ええ。おやすみなさい、霊夢。また………」
そして隙間を開き……ゆっくりと目蓋を閉じた。
目を瞑ると、彼女の笑顔がくっきりと浮かぶ。
さっき会ったばかりなのに、またすぐにでも会いたくなってくる。
可愛くて愛しくて大好きな霊夢がそばにいないのは、何よりもさみしい。
だけど。目が覚めたころには、また貴女の笑顔を見る事ができるから。
さみしいのは、霊夢だって同じなのだから。
――春も。
――夏も。
――秋も。
――冬も。
ずっと、ずっと、ずーっと一緒。
今だけは、ほんの少しの間会えないけど。
それを越えた先にはきっと、何よりも幸せな時間が広がっているはずだから。
おやすみなさい、霊夢。
目を覚ました時には、その笑顔で「おはよう」って言ってね?
そうして私は眠りについた。
◇◆◇
文々。新聞
幻想郷のバレンタイン!~チョコのように甘く、とろけあう住人達~
普通の魔法使い、大量にチョコをもらう。~お前のじゃなきゃ意味がない~
「本命のチョコをもらえたら 、他のチョコなんていらないんだ。……私は、あいつだけが好きなんだ」 M
(本命が誰かは伏せておきます。争いになると思いますので)
貴女に届け、恋の不死鳥!~相思相愛、1000年の恋~
「いつもは強気なのに、その日の夜は甘えちゃって。可愛かったわ~」 K
バレンタインの日の約束。ほろ苦く、だけど甘く――。~私の傍で、笑っていてね?~
「会えないのは寂しいですけど、起きた時に楽しみがありますから。……だから、少しの間だけ我慢、ですわ」 Y
それぞれの今日は、一番幸せかもしれない形で幕を閉じた。
3番様
ありきたりでも、楽しんでいただけてよかったです!
王道と言っていただけるなら、なおさらです。
4番様
わ~。ありがとうございます。
てるもこは私が書いた部分なので、とても嬉しいです!
5番様
王道…やっぱりいいですよね?
良かったと言っていただけて光栄です!
こんな作品が増えればいいな