Coolier - 新生・東方創想話

幻想郷の夏祭り

2005/08/22 00:07:29
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現時刻は未の二つ。
一日で最も気温がある時間帯だ。
ちなみに温度チルノ計は「完全に溶けた」を指している。
本物のチルノが溶けているかどうかは知らない。
居たら便利だが。

「暑い・・・・。」

「暑いな・・・・。」

竹林の奥にある藤原亭。
風もそれなりに通り、日光もそれなりに和らげられる竹林だがそれでも暑かった。
既に立秋も処暑も過ぎ、残暑と本来呼ぶのであろうが今は関係ない。
だって暑いから。

「けーねぇー・・・・。」

「何だ・・・?」

さすがの蓬莱人も暑さには勝てず、溶けかけていた。
縁側で水出し緑茶により暑さを凌いでいたがすでに出涸らしであった。

「なんか涼しくなる話してぇ~・・・・。」

慧音は少し考え、思いついたように言った。

「今度レミリアの妹君がお前を招待して一緒に遊びたいって言ってたぞ。終日監禁で。」


「いゃあああああああああぁぁぁあああああああああああ!!!!」

パタッ

妹紅、気絶。
トラウマを攻めるのは有効だったようだ。
気絶していれば暑さも感じることも無い。

「さて。」

慧音は茶葉入れと急須を持って台所へ向かった。
出涸らしの茶葉を捨て、茶葉入れの蓋を開け、急須に新たな茶葉を補給した。
そこに冷たい水を投下し、緑茶の味が染み出してくるのを縁側に座って待機する。
暑さは辛いがこのようにゆったりと待つ時間を慧音は好んでいる。
暑いからこそ時折訪れる風は心地よいし、水出し緑茶の冷たさが体に広がっていくのを感じるのが至福でもある。

「そろそろかな。」

慧音は急須から湯飲みに緑茶を注ぎ、一口分飲んだ。
体の中を冷たいものが走っていくのを感じる。
喉もと過ぎれば冷たさ忘れるという諺があるが今だけは忘れないでいたいと思った。

「・・・うまい」



涼風が竹林を巡り、笹の葉を揺らす。
その音は竹林を優しく包み、時が流れるのを少しだけ遅くする。
ある夏の昼下がりだった。









「また宴会やるらしいわよ、あの黒いのが幹事で。」

「また?夏になってから回数がちょっと減ってたのに盛り返してきてない?」

「人が集まるならまた少し資金調達できますよ?騙して。」

「そこの兎不穏な発言すんな。」

場所は移って永遠亭。
たまにはこっちから嫌がらせをしよう、とでっかいシャモジを持った妹紅がいいだした。
色々あったがそれは無かったことにして永遠亭の主要陣と夕餉の卓を囲っている。
輝夜、永琳、鈴仙、てゐ、それに慧音と妹紅である。
本日の夕餉は竹で作った器に盛られた素麺だった。
ちなみに今日の料理当番は鈴仙らしい。

「で、また酒もって集合なわけ?」

「何か料理も一品持って来いって言ってた。紅白が大変だからって。」

「食べ比べでもするのかしら。」

「亡霊の姫には勝てない気がする・・。」

「で、これが告知の紙ね。」

『夏祭り

 暑いから祭りやるぜ。
 参加者は一品料理をもってこい。
 作れないやつは一発芸だ。』

「・・・なんだこれ。」

「黒いのっぽいわね。」

「一発芸か・・・きついな・・・。」

「まぁ宴会にくる奴らなら何かしら芸できそうだけどね。」

ごもっとも。
今まで幻想郷で大騒ぎを起こした奴らとそれに巻き込まれた奴らで芸ができなさそうな者を探すほうが難しい。
性格的なところは別にして。

とまぁ他愛ない会話が続き、食後のお茶を飲み終えたところで解散となった。
その帰り道。

「で、妹紅はどっちにするんだ?」

「夏祭り?んー・・・私料理苦手だしなー・・・」

「私は筍で何か作ろうと思うぞ。」

「んー・・・・・・・あ。」

何か思いついたように妹紅。

「ちょっといいこと思いついた!慧音、私先いくね!」

慧音が返事を返す間もなく妹紅は暗い道を駆けていった。
残された慧音も少しだけ呆然とし、そのまま家に帰った。
夜空を暴走族が星を撒きながら飛んでいったがあまり誰も気にならなかった。
慣れとは恐ろしいものである。



そして当日。
地獄の未の刻を過ぎた夕方。

「おーっす慧音。」

妹紅が慧音家にやってきた。
手ぶらで。

「おやもう来たのか。祭りは陽が落ちてからだろ?」

慧音は草色の浴衣に着替えていた、
長い髪はポニーテールでまとめられている。
居間の卓の上には蓋をされた皿が四つ。
多分慧音の料理だろう。

「ほれ、お前の浴衣だ。」

白地に露草色の縦のストライプと細く書かれた赤の花と鳥が描かれている。
帯の色は赤に橙で同じ花の柄である。

「・・・誰から?」

「聞いて驚け、輝夜からだ。」

妹紅は胡散臭そうに慧音と浴衣を見比べる。
少し悩んだ結果、手にとって仕掛けが無いか丹念に調べる。

「まぁ私浴衣無いから仕方ないか。けーね着付けやってー」

千年も生きてて着付けもできないのか、と思いながらも手際よく着付けをしていく。
あっという間に着物イン妹紅が完成した。
ちなみに髪は紫よろしくアップになっている。

「なんか頭が重い・・・」

「諦めろ。」

慧音は冷たく告げたあと盆に皿を載せ始めた。

「陽も沈みそうだし行くか、ここからだと少しかかるしな。」

「あーい。」

共に下駄を履き、西日差す竹林を歩き始めた。

「あれ?飛ばないの?」

「竹でせっかく結った髪がほどけてもあれだしな。竹林出るまで歩こう。」

「うぇー。」

前の永夜で伸びに伸びた竹は枝も力強く伸びており、生地が弱い服とかだと簡単に破けてしまう。

さすがにぼろぼろの浴衣で宴会に行くほど露出狂ではない。

幻想郷の夕日はゆっくりと沈んでいく。





「・・・なんだこれ。」

「派手だねー。」

長い神社の階段を登って最初に見えたのは、鳥居から社殿まで伸びるワイヤーにぶら下がった紅白の提灯だった。
それも沢山。
多分黒いのが発案したものだろう、派手好きだし。
上を向いていた目線を下に、つまり元に戻すとさらにすごいのがいた。


「なんか白いのが浮いてる・・・・。」

「霊魂・・・?」

白い三寸前後の球に尾が生えたような霊魂が浮かんでいた。
多分夏祭りにきてる頭数とほぼ同じくらい。
驚いたのは氾濫しているわけではないということだ。

「ねぇ、慧音アレ。」

妹紅が指し示した方向には謎の看板が。

『貸し出し・幽霊クーラー』

白玉の庭師の半霊はひんやりするらしいが霊魂も同様らしい。
サイズが手のひら程度なので意外と可愛い。

「なぁ、二つ貸し出ししてく・・・何をしている?」

「あら~半獣と肝じゃない。妖夢が幽霊が悪さしないようにって見回りにいってるから店番なのよ。」

暇よねぇ、と漏らす幽々子。
二つ霊魂を借りてその場を後にした。

「しかしあんな格好も様になるんだな、あいつ。」

捻り鉢巻にハッピだった。
しかしこれは取り憑かれているんだろうか。

「ねぇ慧音。」

「どうした妹紅。」

「角生えてるよ。」

今夜は満月だった。



「すまん、料理遅れた。」

社殿前に行くと既に酒盛りが始まっていた。

「おお遅いじゃないか半獣。先にいただいてるぜ。」

まず返事をしたのは黒い魔女だ。
一升瓶を手に持ってすでに結構できあがっているらしい。
まぁ見渡すかぎり大半が出来上がっているようだが。

「あら、今日は角生やしてるのね。」

「うおあっ!」

後ろから突然声がかけられ手に持っていた皿を落としそうになる。
スキマから上半身をだした八雲紫がいた。
いつもながら寝巻きで顔を見る限り酔ってはいないらしい。

「お前は酔ってないのか。」

「あら、酔ったら悪戯できないじゃない。」

(鬼か貴様。)

「あら失礼ね。鬼ならそこで飲んでるわよ。」

慧音の思考をしっかり読み取る紫。
さすが幻想郷一胡散臭い奴。
ふと隣を見ると既に妹紅は酒盛りに参加していた。
酒にも酔えない体質なのに。

「あなたは一発芸しないのね。」

「あぁ、特に見せられるものがないからな。」

「般若の面でもかぶって真般若とかど・・ぅ・・・ごめんなさい冗談だから許してください。」

慧音の生涯一二を争う殺気の放射だった。
とりあえず慧音も食事に参加することにした。
酒は酔い過ぎない限り旨いのも歴史が証明していたから。








「あ、この筍の煮付け美味しい。」

「この魚もって来たのだれだー?」

「門番が釣ったの没収してきたわ。」

「この杏仁豆腐弾力があるな。それに甘いぞ。」

「あら違うわよ。それこの前うちに流れ着いた珍味の霊魂♪」

「うわー!うわー!霊夢!祓え祓え!」

「紅白それ食って伸びてるよ。」

「あら中々の珍味ね。」

「呑気にしてんじゃねぇ蓬莱の薬師!」

「うわっ目の前真っ暗だ!」

どっちゃんがっちゃん。



ちなみに一発芸のステージではミスティアがソロライヴを決行していた。
お叱りは小骨の刑。






その後何とか落ち着きを取り戻した酒盛り一同は食材を事細かに確認してから食べるようになった。
暗くない闇鍋状態である。
どさくさに紛れて大半の料理を処理した幽々子は魔理沙のキノコ料理に当たって成仏しかけていた。


「はーい!次の一発芸は私ー!」

「どうしたビックゴキ」

「違う!私は蛍だ!」

リグルはお約束の会話の後に深呼吸をし、恭しく礼をした。

「お集まりの皆様、間もなく月が雲に隠れます。その時限りの小さな子達の宴を御覧下さい。」

そして月が隠れ、リグルが魔理沙に頼んで照明を落とす。
辺りが静けさと闇が支配する。

「それでは、始めます。」

リグルの掛け声と同時に、小さな翠の光が灯る。
一つ、また一つ。
少しずつ増える「それ」は各人の周りを回るように、捕まえようとする者を嘲るように飛び回る。
蛍の群れはリグルの命令通りに動き、様々な光の軌跡を残す。

「綺麗・・・」

誰が漏らしたかわからない呟き。
誰もがその弱々しい、故に美しい光の流れに見入った。
やがて蛍はリグルのもとに集まっていく。
そして、リグルの手からそれぞれが天に昇るように散っていった。


「・・・以上です。」

また照明が灯され、周りからは小さな拍手が起こった。
リグルは照れくさそうに自分の席にもどった。
そしてまた酒盛りが始まる。



数刻後。

「そろそろお開きかしらねー。」

既に持ち寄った料理はおおよそ食べられており、酒も萃香の瓢箪と他少々しか残っていない。
酔い潰れてる奴も多々。

「じゃあ最後に私の一発芸ー。」

妹紅が手を上げる。
料理を持ってこない奴のほうが少なかったため、一発芸がそれほど多くなかった。
料理が苦手な妹紅は少し前からこれの準備をしていた。
何をしていたのかは慧音も知らないが。

「最後だから派手なの行きます!」

宣言するやいなや背にお馴染みの首なし鳳凰を纏い、空を一直線に上っていく。
眼下に博麗神社が形が辛うじて見える高さまで上ってきた妹紅は小さな声で口上を述べる。

「私は不死、何をやっても死なない人間。」

「すでに輪廻より外れ、頭は狂いに狂っている。」

「それでも、私を受け入れてくれるあの馬鹿どもに感謝を伝えたい!」

妹紅は小さく息を吸い、大声で叫ぶ。

「行くよ!蓬莱『納涼-フジワラヴォルケイノ-』!一夜限りの花よ狂い咲け!」


夜の幻想郷に大音量が響く。
妹紅から七色の大玉弾が放たれ、それらがまた細かく分かれていく。
スペルカードを用いた花火。
妹紅が用意していたのはコレだった。

「うひゃあうるさい!」

「ねぇお姉様アレ何?パチュリーあれ何?!」

「体に音が当たってくるなー。これは凄いぜ。」

幾重にも放たれる花火と鳳凰の群れ。
リグルは静寂と淡い光の芸術といった感じだったが妹紅は力押しで描きなぐった感じだった。
炎と音と光の暴力。
他人に強引に割り込む花火はそいつの意識を奪う。
またも皆時を忘れ、その暴力に酔いしれた。



「さぁどうよ!」

降りてきた妹紅は髪もほどけ、ところどころ焦げていた。
少し自爆したらしい。

「中々の迫力だったぜ。」

「あれならまだ私のほうが派手じゃない!」

「姫、発想力の差で負けてます。見苦しいのでやめてください。」

「なかなか面白いこと思いつくんだね、人間は。」

皆思い思いに口にする。
評判は悪くなかった。
否、皆楽しんでくれたと妹紅は感じ、満面の笑みを浮かべた。
慧音もそんな妹紅をみて小さく微笑んだ。




暦の上ではもう秋だがまだまだ夏の姿を残す幻想郷。
その夜はゆっくりと更けていった。

涼。
暦の上では秋なんですって。
30度を越える秋なんてあるものか。

二回目です。コヨイです。
家の近所の祭りで花火を見たのとヴォルケイノって花火に見えるよなぁって感じで書きました。
表現の甘さが多数ありますがね。

前回よりキャラ数は増えていますが名前が出てません。
どのセリフが誰かは想像して楽しんでくださいフフフ(何。
コヨイ
http://www.geocities.jp/snowtic_road/
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コメント



0.4050簡易評価
2.90名前が無い程度の能力削除
輝夜が送ってきた浴衣、ワンタッチで脱げる着物じゃないと知って
ほっとしたようながっくりしたような

終始ほのぼのした雰囲気でオチもよし・・・GJです

ところで、温度チルノ計が欲しくなったんですが
怪しいお店でなら売ってるんでしょうか?
3.無評価与作削除
いいですね。
夏祭り特有の、暑いのに涼やかな感じが良。
納涼フジヤマヴォルケイノ、見てみたいです
18.100no削除
またこれはなんとも幻想的。
何気に妹紅陣営と永遠亭が仲良くしているのが私のツボです。
ところどころの細かい小ネタも、読むテンポを進めこそすれ阻害しないのが上手いと思います。
紅白が大変、というのは、宴会でも開かないと食卓がお茶しかないので餓死寸前、という意味に取ってしまった私は封印されてきます。

>『貸し出し・幽霊クーラー』
すごい欲しいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!
23.70床間たろひ削除
誰もが皆、この宴を心から楽しんでいる光景が目に浮かび
思わず口元が緩んじゃう。いいなぁこーゆーの。
41.80(ry削除
幽霊クーラーください(゚ω`)
47.80空葉削除
良いっスねぇ夏祭りっぽくて。
和やかで幻想的っス。

時に…幽霊クーラーって何処で借りられます?
地域的に夏は地獄に近いもので…
52.70名無し毛玉削除
幽霊クーラー…恐山なら売ってるかもしれませんねぇ(思考力ゼロ発言
54.90ξ・∀・)削除
幽霊クーラー、妖夢のをお借り致したく(ずんばらり
56.無評価コヨイ削除
>>名前が無い程度の能力さん
ワンタッチ浴衣。構造がわからないす('Д`)
チルノ計は褌の店にあるかもしれません。
ないかもしれない。

>>与作さん
納涼ですが本人は自爆気味のスペル。
暴発事故も(危

>>noさん
ドタバタさせてもあまり違和感がない幻想のメンツ大好きです。
巫女は餓死寸前じゃないんです。
毎回夏の台所で溶けるからです。
クーラーの問い合わせは白玉楼にいいぃぃぃいいい!

>>床間さん。
ニヤリとすればこっちの思惑通りですw

>>(ryさん
ゆゆさまの管轄です(´ω゚)

>>空葉さん
お墓なら比較的手に入れやすいかも。
試すのはいいですが下手すると白玉逝きなので、ええ。

>>毛玉さん
白玉楼なら確実です。

>>ξ・∀・)さn
危ない!現世斬が飛んでくるぞ!
ガッ
57.90名前が無い程度の能力削除
もうすぐ夏も終わりですね~

大変よい雰囲気ありがとうございます~
ところで・・その幽霊クーラー一つくだs(パクッ)ウワーン、クライヨコワイヨセマイヨー
72.60名前が無い程度の能力削除
妹紅=ヨッパライダー!?
パプワくんを思い出しました。って知ってる奴そうはいねーよ。
95.90名前が無い程度の能力削除
やばい、リグルが何だかカッコいい…。