勇者の一匹、ミスティアは倒れた。
しかし、仲間の屍を乗り越え、というか3メートルほど飛んだら忘れ、残されたリグル、チルノ、ルーミアは第2の作戦会議を開いていた。
「今夜の博麗神社は危険よ。巫女に頼るのは諦めるしかない」
「でも早くしないと。明日にでも魔理沙は世界を滅ぼすかもしれないわ」
苦悩するリグル、焦るチルノ。
微妙に話が大きくなりつつあるが、面子が面子なので仕方がない。
「思うんだけどー」
そこに精一杯真剣な顔を作ったルーミアが割って入った。
「魔理沙一人なら3人でボコれば倒せるんじゃないの?」
「「それだ!!」」
いかに幻想郷トップクラスの弾幕使いといえども、3対1で勝つ事はできないにちがいない、と場は沸きあがった。案は即座に採用される。
ちなみに彼女らはプリズムリバー姉妹と面識はない。
そして、仮に魔理沙が魔王の生まれ変わりなら3人なら倒せるというのは矛盾があるのだろうが、誰も気づかないが面子が面子なので無理もない。
「こんな夜更けに一人で出歩くなんて、魔王も甘いね」
「作戦通りいくよ。ルーミアの闇に隠れて接近、射程に入ったら攻撃開始。私とルーミアが援護するからチルノは密着して打ち込んでね」
「がんばるぞー」
『私たちの美しい銀河を護るために!』
森の中の湖。 チルノもよく遊びにくる広大な水場の、ほとりに茂った藪の中で3匹は手を重ねて必勝を誓った。スケールは更に拡大しているが気にしてはいけない。
目標、魔理沙はそれに気づくことなく湖上を飛んでいく。
魔理沙が家を出て湖に向かっている事を、リグルが虫の知らせで察知。3匹は即座に先回りした。
目的地はおそらく紅魔館。魔理沙がその紅い洋館へと度々訪問することはチルノが知っていた。
普段はわざと低空飛行して湖面に飛沫を立てたりしていくのだが、今夜に限っては脇目も振らない。その速度は凄まじかった。
「カウントダウン。5,4,3,2,1、状況開始」
糸電話が、70センチの隔たりを超えてリグルの合図を伝達した。
「「了解、状況開始」」
復唱と同時に3匹は飛翔。予め計算してあった、直進する魔理沙に真横から交差するコースを全力でもって疾る。
「目標を肉眼で確認ー!」
ルーミアが状況を報告する。
闇の中では自分たちも周りが見えないため、ルーミアがセロテープで何本も繋げて長くしたサランラップの筒を潜望鏡にして視覚情報を収集しているのだ。
「進路に3,4度のズレ」
「了解、2秒間の通常進路変更を行う。カウントダウン開始。5,4,3・・・・・・」
ちなみに、数字は適当に言っているだけだ。
ノリノリで距離が詰まっていく中、筒を覗いていたルーミアは一つの疑問を覚えた。
「ねぇ、魔理沙って赤い服着てる人間だったっけ?」
「なにいってんのさ、魔理沙って言ったらシルバー地にクリアイエローよ」
「シャアピンクじゃなかったけ?」
全員忘れていた。
さっき見たばかりなのに。
「でも赤い服着てるよー。羽も生えてるし、いめちぇんしたのかな」
「そんなことはどうでもいいよ。そろそろ接敵だ。用意はいい、チルノ、ルーミア?」
「とっくにできてるよ。ここが正念場、いくよ」
再び始まるカウントダウン。そしてささやかな鬨の声が上がった。
闇が解き放たれる。
ラップの筒と糸電話を捨て、所定の配置に展開。
一気に勝負を決めるためにスペルカードを構えた一同の鼻先を、極太の炎剣が通過した。
『・・・・・・』
一時停止するように固まり、首だけ動かして顔を見合わせる3匹。
『魔理沙って火ぃ吹いたっけ?』『魔王の力が蘇りつつあるんだ! 根拠はないけど朝日が昇るまでに倒さないと宇宙は終わりだ!』『そーなのかー!』『でも、勝てるの? ・・・・・・力を取り戻した、魔王に』『けどここで私たちが諦めたら全ての生けとし生ける者が絶望に包まれる! 勝つしかないんだ! 愛とか勇気とか諦めない強い想いとかあればどれか一つくらい奇跡が起きて勝てる! お話的に!』
それらを目配せ一つで伝えきり、停止状態からそのまま再生したかのように攻撃を開始する。
リグルは『リトルバグ』をルーミアは『ディマーケィション』を発動。
「「合符『強蟲ダーク』!」」
レミリアもビックリのネーミングセンスだった。
放射状の2連弾幕。その渦の目をチルノが翔ける。
援護によって目標は僅かに動きを制限されたようだ。
その隙を見逃さず、確実を期すために零距離からたたみ掛ける!
「冷符『アイシクルフォール』(easy)!」
・・・・・・零距離から。
「何やってんの?」
微動すらせず、目標は不思議そうに聞いてきた。
満を持した作戦の失敗に再び硬直する3匹。
可及的速やかにリグルは蟲を使って糸電話を拾い、緊急会議を開始した。
『どうするの? 奇襲に失敗しちゃったじゃない!』『くそ! 魔王の力は我々の予想をはるかに超えている!』『でもさー。あの人、初めて見るような気がするんだけどー』『何いってんの、あの肘に生えた金色のトゲは・・・・・・あ、よく見ると金色じゃないしトゲ生えてない!?』『誰だよ金色のトゲって。あいつは間違いなく・・・・・・馬鹿な、シャアピンクじゃない! あんなに早いのに!』
混迷する事態に慌てふためく3匹。
「魔理沙。あいつらなにやってるんだろ」
目標の隣にいた白黒の人影は答えた。
「交霊会だろ。あの糸の交差してる位置に中国の霊が現れるに違いないぜ」
「あの門番死んだの?」
その会話の中の一語に、真っ先に反応したのはチルノだった。
『魔理沙!? こっちがそうなの?』
『そう、そうだったんだわ! 私のエレガントかつエキゾチックな記憶野も、魔理沙が実は白黒だったと叫んでいるわ!』
『幽霊さんきてくださいー』
明かされた真実に愕然とする一同。
『囮を使うなんて、卑怯な奴!』
『もう駄目、逃げたほうがいいよ』
『こんな悪行を目の前にしてスゴスゴ逃げろって?』
『まだ幽霊きてないよー』
『ここで倒れたら話にならないよ』
『このままなら奴の力は更に増大する。魔理沙を殲滅するなら今しかないんだ!』
「酷いぜ。殲滅するなんて」
『そんな、盗聴されてる!?』
「普通に漏れてるぜ。糸電話だからな」
「交霊マシンじゃないの?」
「いつの間にか退化したらしいな」
「えー」
『幽霊みたかったのにー』
残念そうにするルーミアと元目標、フランドール。ルーミアは先ほど神社で見たはずだが、交霊は別腹だった。
「っていうかさっきの、弾幕だったんじゃないの?」
「八割かたそうだぜ」
「じゃあ弾幕遊びしに来たのかな」
「そうかもな。私を殲滅する気らしい」
「弱そうだけど、2対3なら少しはマシかもね」
途端、膨大な殺気が押し寄せた。
え、マジで?と、素に戻って焦る3匹。
「でもやっぱ弱そう。すぐに終わらせて打ち合いの続きやろうね」
「小休止だな」
3匹は魔理沙とフランドールが待ち合わせて、弾幕ごっこを始めた所に襲撃をかけてしまったらしい。
「え? 私に任せて逃げろ? そんな、チルノを置いて行くわけにはー!」
「君は素晴らしい友人だったよ、チルノ。その志、私たちが受け継ぐ!」
「言ってない! ここは任せろとか言ってないから! っていうかルーミア、さっきからさりげなく同胞陥れようとしてなかった!?」
糸電話を捨てて記録的な速さの空中ムーンウォークで去っていこうとするルーミアとリグル。
チルノは即座に手を伸ばしルーミアの袖を捕まえた。
「咆えろ、ミニ八卦炉。恋心の如く!」
「唸れ、レヴァーティン。その名の如く!」
何故か箒上で肩車した魔理沙とフランドールが謎の口上を上げる。
「チルノを犠牲にするのは悲しいよ。でもそこまでの決意があるなら止めるのは冒涜だよね?」
「誰がそんな決意した!? せめて一緒に死になさいぃぃぃぃ」
「豪腕『ルーミアラリアット』ぉぉ!」
「へぶっ!?」
<ルーミアは常に両手を広げているために腕が鍛えられ続け、その腕力は絶大無比。彼女のラリアットはなんと3t(仮面ライダーアギトのキックに相当)の威力を叩き出すのだ!>(『慧音の歴史ミニブック・絶技篇』より抜粋)
直撃を受けたチルノは豪快に取り残された。
「「奥義『ファイナル・レヴァーティン逸騎刀閃』!」」
(消し飛んだ?)
(蒸発した?)
およそ幻想郷で望みうる最大級の火力の炸裂を背に、遺された2匹は涙した。
強大な敵。
平和な未来は何処にある?
「私はまた、仲間を死なせてしまった・・・・・・」
勝手に殺してはいけないと思う。・・・・・・一応。
「もう駄目なのか」
「あきらめないで!」
肩を落とすリグルへ向けてルーミアは叫んだ。
「幻想郷の明日は私たちの双肩に掛かってるんだよ。たとえ力がなくても、挫けるなんて許されない」
「ルーミア・・・・・・いや、あなたさっき凄い力出してなかったっけ?」
「気のせい」
所は博麗神社を望める木の枝の上。
弾幕ごっこを終えた魔理沙とフランドールは、紅魔館の面々と共に神社で行われていた宴会に飛び入り参加していた。
宴会の盛り上がりは最高潮に達し、遠く離れていても喧騒は伝わってくる。
完全に酔い潰れて寝こけた妖夢や、満面の笑みに滂沱とした涙を流して巫女に酌をするミスティア(助けられたのだろう)をみてこっそり安心しつつ、リグルは傍らのルーミアに尋ねた。
「本当にやるの?」
「宇宙を救うんでしょう? このくらいの犠牲は仕方ないよー」
「私だけが犠牲になるような気がして釈然としないんだけど」
最終作戦の内容はこうだ。リグルが蛍を使って『魔理沙は魔王』と光文字を作り、そのメッセージを背景に魔理沙へ戦いを挑む。メッセージと残虐な魔王の戦いぶりを見ることで、会場の呑気な面々も幻想郷に迫る危機に気づくという寸法だ。
この作戦を成功させるためには闘って朽ち果てる戦士がどうしても必要だった。
「もうミスティアやチルノは倒れてる。今更あなただけが不幸ぶらないで!」
「あんたに言われるのが釈然としないのよ。って言うかミスティア死んでないし!」
「安心して。きっと皆、貴女のことは忘れないから」
「一緒に散ってくれるとかしてくれないの?」
「私も忘れない」
「忘れてくれてもいいから援護くらいしてよ」
「悲しいよ。この世から争いがなくなればいいのに」
「聞けよ!」
すったもんだの末に、結局リグルは一人でいくことになった。
涙を流すルーミアに見送られ、神社へと向かう。
「ええっと、ま・・・・・・」
ここで問題が発生した。
「魔理沙って感じでどう書くんだっけ?」
日ごろ読み書きをする機会がないため漢字がわからないのだ。
普段の生活からすれば平仮名がわかるだけでも十分に凄いのだろうが、どうにも平仮名では切迫感が伝わらない。
「あ、そうだ」
蛍を統制して並べていく。
三角帽子にウエーブのかかった髪、快活そうな目元、意地悪そうににやけた口。蛍の光によって、ドット職人級の完成度で魔理沙の顔が形作られた。
「魔王もわからないから・・・・・・悪いんだからバツ、と」
魔理沙の顔の横に×が並んだ。
「そうそう、魔王の仲間についても伝えないとね」
×の隣にフランドールの顔が追加される。
「よし、これで完璧!」
「――つまりあなたは魔理沙×フラン推進派なのね?」
背後、すぐ耳元から声が聞こえた。
首筋に冷たいものが押し当てられる。
けれど聞こえるのはそれより遥かに冷えた、地獄の最奥から流れてくるような声音。
振り向くことはできなかった。
「今すぐその馬鹿げた幟を下げなさい」
首筋を押す力が強まった。
張った肌が圧力に耐え切れず、ぷつりと裂ける。襟元へと雫がつたっていった。
全身の筋が硬直する。息ができない。
「私の忍耐が後何秒持つのか、試してみる?」
錯乱して前後もわからなくなった頭が、それでも反射的に蛍を散らせる。
直後、思い思いに去っていこうとした蛍が炎に包まれた。
「あの火は、パチュリーかしら。神社に来てたのね」
「ああ・・・・・・蛍が・・・・・・」
「あなたもああなりたくなかったら、今後はあの一派に組するのは止めなさい」
突然髪を引きちぎられた。
ひっ、と思わず口に出して肩を窄める。
「あなた、名前は」
「リ、リグル!」
「フルネーム」
「リグル・ナイトバグ!」
「覚えておくわ。あなたも忘れないでね。あなたの髪と名前は手に入れた。私はいつでもあなたの写し身の心臓に釘を打ちたてることができる」
意味は、理解できなかった。
わかるかどうかなど関係ない、リグルは狂ったように力を込めて首を縦に振った。
「よろしい。戻っていいわよ、上海人形」
首から押し当てられたものが離された。
殺気が、消えていく。
しばしの逡巡の末にリグルが振り返ると、そこには誰もいなかった。
「―――――」
安堵が頭を埋めていき、視界が暗転する。
・・・・・・・・・・・・
数日後。
「私たちは騙されていたんだ! 鈴仙・優曇華院・イナバと聞けばどうしても特徴的な『優曇華院』に着目してしまう。しかし真に意味のあったのはレイセン・イナバなんだ! アナグラムするとセンバイ・ライネ、つまり来年千倍になる! 奴はその手数によって幻想郷は占拠するつもりなんだ!」
「「「そーなのかー!!」」」
今宵もよく晴れ、月明かりは眩しいほどに照りつける。
その下で今宵も変わらず、懲りない妖怪たちの日常は続いていた。
しかし、仲間の屍を乗り越え、というか3メートルほど飛んだら忘れ、残されたリグル、チルノ、ルーミアは第2の作戦会議を開いていた。
「今夜の博麗神社は危険よ。巫女に頼るのは諦めるしかない」
「でも早くしないと。明日にでも魔理沙は世界を滅ぼすかもしれないわ」
苦悩するリグル、焦るチルノ。
微妙に話が大きくなりつつあるが、面子が面子なので仕方がない。
「思うんだけどー」
そこに精一杯真剣な顔を作ったルーミアが割って入った。
「魔理沙一人なら3人でボコれば倒せるんじゃないの?」
「「それだ!!」」
いかに幻想郷トップクラスの弾幕使いといえども、3対1で勝つ事はできないにちがいない、と場は沸きあがった。案は即座に採用される。
ちなみに彼女らはプリズムリバー姉妹と面識はない。
そして、仮に魔理沙が魔王の生まれ変わりなら3人なら倒せるというのは矛盾があるのだろうが、誰も気づかないが面子が面子なので無理もない。
「こんな夜更けに一人で出歩くなんて、魔王も甘いね」
「作戦通りいくよ。ルーミアの闇に隠れて接近、射程に入ったら攻撃開始。私とルーミアが援護するからチルノは密着して打ち込んでね」
「がんばるぞー」
『私たちの美しい銀河を護るために!』
森の中の湖。 チルノもよく遊びにくる広大な水場の、ほとりに茂った藪の中で3匹は手を重ねて必勝を誓った。スケールは更に拡大しているが気にしてはいけない。
目標、魔理沙はそれに気づくことなく湖上を飛んでいく。
魔理沙が家を出て湖に向かっている事を、リグルが虫の知らせで察知。3匹は即座に先回りした。
目的地はおそらく紅魔館。魔理沙がその紅い洋館へと度々訪問することはチルノが知っていた。
普段はわざと低空飛行して湖面に飛沫を立てたりしていくのだが、今夜に限っては脇目も振らない。その速度は凄まじかった。
「カウントダウン。5,4,3,2,1、状況開始」
糸電話が、70センチの隔たりを超えてリグルの合図を伝達した。
「「了解、状況開始」」
復唱と同時に3匹は飛翔。予め計算してあった、直進する魔理沙に真横から交差するコースを全力でもって疾る。
「目標を肉眼で確認ー!」
ルーミアが状況を報告する。
闇の中では自分たちも周りが見えないため、ルーミアがセロテープで何本も繋げて長くしたサランラップの筒を潜望鏡にして視覚情報を収集しているのだ。
「進路に3,4度のズレ」
「了解、2秒間の通常進路変更を行う。カウントダウン開始。5,4,3・・・・・・」
ちなみに、数字は適当に言っているだけだ。
ノリノリで距離が詰まっていく中、筒を覗いていたルーミアは一つの疑問を覚えた。
「ねぇ、魔理沙って赤い服着てる人間だったっけ?」
「なにいってんのさ、魔理沙って言ったらシルバー地にクリアイエローよ」
「シャアピンクじゃなかったけ?」
全員忘れていた。
さっき見たばかりなのに。
「でも赤い服着てるよー。羽も生えてるし、いめちぇんしたのかな」
「そんなことはどうでもいいよ。そろそろ接敵だ。用意はいい、チルノ、ルーミア?」
「とっくにできてるよ。ここが正念場、いくよ」
再び始まるカウントダウン。そしてささやかな鬨の声が上がった。
闇が解き放たれる。
ラップの筒と糸電話を捨て、所定の配置に展開。
一気に勝負を決めるためにスペルカードを構えた一同の鼻先を、極太の炎剣が通過した。
『・・・・・・』
一時停止するように固まり、首だけ動かして顔を見合わせる3匹。
『魔理沙って火ぃ吹いたっけ?』『魔王の力が蘇りつつあるんだ! 根拠はないけど朝日が昇るまでに倒さないと宇宙は終わりだ!』『そーなのかー!』『でも、勝てるの? ・・・・・・力を取り戻した、魔王に』『けどここで私たちが諦めたら全ての生けとし生ける者が絶望に包まれる! 勝つしかないんだ! 愛とか勇気とか諦めない強い想いとかあればどれか一つくらい奇跡が起きて勝てる! お話的に!』
それらを目配せ一つで伝えきり、停止状態からそのまま再生したかのように攻撃を開始する。
リグルは『リトルバグ』をルーミアは『ディマーケィション』を発動。
「「合符『強蟲ダーク』!」」
レミリアもビックリのネーミングセンスだった。
放射状の2連弾幕。その渦の目をチルノが翔ける。
援護によって目標は僅かに動きを制限されたようだ。
その隙を見逃さず、確実を期すために零距離からたたみ掛ける!
「冷符『アイシクルフォール』(easy)!」
・・・・・・零距離から。
「何やってんの?」
微動すらせず、目標は不思議そうに聞いてきた。
満を持した作戦の失敗に再び硬直する3匹。
可及的速やかにリグルは蟲を使って糸電話を拾い、緊急会議を開始した。
『どうするの? 奇襲に失敗しちゃったじゃない!』『くそ! 魔王の力は我々の予想をはるかに超えている!』『でもさー。あの人、初めて見るような気がするんだけどー』『何いってんの、あの肘に生えた金色のトゲは・・・・・・あ、よく見ると金色じゃないしトゲ生えてない!?』『誰だよ金色のトゲって。あいつは間違いなく・・・・・・馬鹿な、シャアピンクじゃない! あんなに早いのに!』
混迷する事態に慌てふためく3匹。
「魔理沙。あいつらなにやってるんだろ」
目標の隣にいた白黒の人影は答えた。
「交霊会だろ。あの糸の交差してる位置に中国の霊が現れるに違いないぜ」
「あの門番死んだの?」
その会話の中の一語に、真っ先に反応したのはチルノだった。
『魔理沙!? こっちがそうなの?』
『そう、そうだったんだわ! 私のエレガントかつエキゾチックな記憶野も、魔理沙が実は白黒だったと叫んでいるわ!』
『幽霊さんきてくださいー』
明かされた真実に愕然とする一同。
『囮を使うなんて、卑怯な奴!』
『もう駄目、逃げたほうがいいよ』
『こんな悪行を目の前にしてスゴスゴ逃げろって?』
『まだ幽霊きてないよー』
『ここで倒れたら話にならないよ』
『このままなら奴の力は更に増大する。魔理沙を殲滅するなら今しかないんだ!』
「酷いぜ。殲滅するなんて」
『そんな、盗聴されてる!?』
「普通に漏れてるぜ。糸電話だからな」
「交霊マシンじゃないの?」
「いつの間にか退化したらしいな」
「えー」
『幽霊みたかったのにー』
残念そうにするルーミアと元目標、フランドール。ルーミアは先ほど神社で見たはずだが、交霊は別腹だった。
「っていうかさっきの、弾幕だったんじゃないの?」
「八割かたそうだぜ」
「じゃあ弾幕遊びしに来たのかな」
「そうかもな。私を殲滅する気らしい」
「弱そうだけど、2対3なら少しはマシかもね」
途端、膨大な殺気が押し寄せた。
え、マジで?と、素に戻って焦る3匹。
「でもやっぱ弱そう。すぐに終わらせて打ち合いの続きやろうね」
「小休止だな」
3匹は魔理沙とフランドールが待ち合わせて、弾幕ごっこを始めた所に襲撃をかけてしまったらしい。
「え? 私に任せて逃げろ? そんな、チルノを置いて行くわけにはー!」
「君は素晴らしい友人だったよ、チルノ。その志、私たちが受け継ぐ!」
「言ってない! ここは任せろとか言ってないから! っていうかルーミア、さっきからさりげなく同胞陥れようとしてなかった!?」
糸電話を捨てて記録的な速さの空中ムーンウォークで去っていこうとするルーミアとリグル。
チルノは即座に手を伸ばしルーミアの袖を捕まえた。
「咆えろ、ミニ八卦炉。恋心の如く!」
「唸れ、レヴァーティン。その名の如く!」
何故か箒上で肩車した魔理沙とフランドールが謎の口上を上げる。
「チルノを犠牲にするのは悲しいよ。でもそこまでの決意があるなら止めるのは冒涜だよね?」
「誰がそんな決意した!? せめて一緒に死になさいぃぃぃぃ」
「豪腕『ルーミアラリアット』ぉぉ!」
「へぶっ!?」
<ルーミアは常に両手を広げているために腕が鍛えられ続け、その腕力は絶大無比。彼女のラリアットはなんと3t(仮面ライダーアギトのキックに相当)の威力を叩き出すのだ!>(『慧音の歴史ミニブック・絶技篇』より抜粋)
直撃を受けたチルノは豪快に取り残された。
「「奥義『ファイナル・レヴァーティン逸騎刀閃』!」」
(消し飛んだ?)
(蒸発した?)
およそ幻想郷で望みうる最大級の火力の炸裂を背に、遺された2匹は涙した。
強大な敵。
平和な未来は何処にある?
「私はまた、仲間を死なせてしまった・・・・・・」
勝手に殺してはいけないと思う。・・・・・・一応。
「もう駄目なのか」
「あきらめないで!」
肩を落とすリグルへ向けてルーミアは叫んだ。
「幻想郷の明日は私たちの双肩に掛かってるんだよ。たとえ力がなくても、挫けるなんて許されない」
「ルーミア・・・・・・いや、あなたさっき凄い力出してなかったっけ?」
「気のせい」
所は博麗神社を望める木の枝の上。
弾幕ごっこを終えた魔理沙とフランドールは、紅魔館の面々と共に神社で行われていた宴会に飛び入り参加していた。
宴会の盛り上がりは最高潮に達し、遠く離れていても喧騒は伝わってくる。
完全に酔い潰れて寝こけた妖夢や、満面の笑みに滂沱とした涙を流して巫女に酌をするミスティア(助けられたのだろう)をみてこっそり安心しつつ、リグルは傍らのルーミアに尋ねた。
「本当にやるの?」
「宇宙を救うんでしょう? このくらいの犠牲は仕方ないよー」
「私だけが犠牲になるような気がして釈然としないんだけど」
最終作戦の内容はこうだ。リグルが蛍を使って『魔理沙は魔王』と光文字を作り、そのメッセージを背景に魔理沙へ戦いを挑む。メッセージと残虐な魔王の戦いぶりを見ることで、会場の呑気な面々も幻想郷に迫る危機に気づくという寸法だ。
この作戦を成功させるためには闘って朽ち果てる戦士がどうしても必要だった。
「もうミスティアやチルノは倒れてる。今更あなただけが不幸ぶらないで!」
「あんたに言われるのが釈然としないのよ。って言うかミスティア死んでないし!」
「安心して。きっと皆、貴女のことは忘れないから」
「一緒に散ってくれるとかしてくれないの?」
「私も忘れない」
「忘れてくれてもいいから援護くらいしてよ」
「悲しいよ。この世から争いがなくなればいいのに」
「聞けよ!」
すったもんだの末に、結局リグルは一人でいくことになった。
涙を流すルーミアに見送られ、神社へと向かう。
「ええっと、ま・・・・・・」
ここで問題が発生した。
「魔理沙って感じでどう書くんだっけ?」
日ごろ読み書きをする機会がないため漢字がわからないのだ。
普段の生活からすれば平仮名がわかるだけでも十分に凄いのだろうが、どうにも平仮名では切迫感が伝わらない。
「あ、そうだ」
蛍を統制して並べていく。
三角帽子にウエーブのかかった髪、快活そうな目元、意地悪そうににやけた口。蛍の光によって、ドット職人級の完成度で魔理沙の顔が形作られた。
「魔王もわからないから・・・・・・悪いんだからバツ、と」
魔理沙の顔の横に×が並んだ。
「そうそう、魔王の仲間についても伝えないとね」
×の隣にフランドールの顔が追加される。
「よし、これで完璧!」
「――つまりあなたは魔理沙×フラン推進派なのね?」
背後、すぐ耳元から声が聞こえた。
首筋に冷たいものが押し当てられる。
けれど聞こえるのはそれより遥かに冷えた、地獄の最奥から流れてくるような声音。
振り向くことはできなかった。
「今すぐその馬鹿げた幟を下げなさい」
首筋を押す力が強まった。
張った肌が圧力に耐え切れず、ぷつりと裂ける。襟元へと雫がつたっていった。
全身の筋が硬直する。息ができない。
「私の忍耐が後何秒持つのか、試してみる?」
錯乱して前後もわからなくなった頭が、それでも反射的に蛍を散らせる。
直後、思い思いに去っていこうとした蛍が炎に包まれた。
「あの火は、パチュリーかしら。神社に来てたのね」
「ああ・・・・・・蛍が・・・・・・」
「あなたもああなりたくなかったら、今後はあの一派に組するのは止めなさい」
突然髪を引きちぎられた。
ひっ、と思わず口に出して肩を窄める。
「あなた、名前は」
「リ、リグル!」
「フルネーム」
「リグル・ナイトバグ!」
「覚えておくわ。あなたも忘れないでね。あなたの髪と名前は手に入れた。私はいつでもあなたの写し身の心臓に釘を打ちたてることができる」
意味は、理解できなかった。
わかるかどうかなど関係ない、リグルは狂ったように力を込めて首を縦に振った。
「よろしい。戻っていいわよ、上海人形」
首から押し当てられたものが離された。
殺気が、消えていく。
しばしの逡巡の末にリグルが振り返ると、そこには誰もいなかった。
「―――――」
安堵が頭を埋めていき、視界が暗転する。
・・・・・・・・・・・・
数日後。
「私たちは騙されていたんだ! 鈴仙・優曇華院・イナバと聞けばどうしても特徴的な『優曇華院』に着目してしまう。しかし真に意味のあったのはレイセン・イナバなんだ! アナグラムするとセンバイ・ライネ、つまり来年千倍になる! 奴はその手数によって幻想郷は占拠するつもりなんだ!」
「「「そーなのかー!!」」」
今宵もよく晴れ、月明かりは眩しいほどに照りつける。
その下で今宵も変わらず、懲りない妖怪たちの日常は続いていた。
笑わしてもらいましたwwwww
・・・まァ、どうせ次はてゐあたりに手玉に取られるんだとは思うが
あるいは嗾けられて輝夜と戦ったりするんだろうか?
頭悪い彼女らじゃ五つの難題は一つも解けないんだろうなぁ
三人(四匹?)寄れば文殊の知恵とも言うが、水に水を足しても水だし
ゼロにゼロかけてもゼロだからなぁ
彼らは1+1+1+1が10にも100にもなる素敵なメンバーですよ。
ただ、主人公連中強さが億単位なだけで。
竜巻斬艦刀・一騎刀閃が元ネタですよね?
とりあえずは笑わせていただきましたね
次はGソードダイバーあたりでw
雑魚奮戦記堪能しました~
>「こんなに月も丸いから、本気で食べるわよ」
個人的にこのあたり100点。噴いた。
永琳「増やそうと思えば増やせるけど?」