【注意!】花映塚ネタバレしております。【ネタバレ!】
一面真っ白な、鈴蘭の花に覆われた名も無き丘。
有毒な香りを発する花の中で、人形を大事そうに抱きかかえ、
嬉しそうにしゃがみ込んでいる少女が居た。
少女は、一人口を開く。
いつもそうしていたように、一人、少女は喋りだす。
「スーさん、スーさん。
最近ね、なんだかとっても楽しいの」
喋る少女の目線は前を向いていた。
どうやら、抱きかかえる人形に喋っているわけではないようだ。
「私達に優しい人間が、二人もいるって解ったから」
偶然、微風が吹いて、少女の周囲にある鈴蘭が揺れ動く。
まるで、相槌を打つように。
「……えへへ
今日は来てくれるかな?」
鈴蘭達――スーさんが、少女の言葉を肯定するように、風に揺れる。
「うん、楽しみだね、スーさん。」
△▼△▼△
白い丘に降りてくる者が居た。
赤と青に身を包んだ少女は、ふわりと、鈴蘭の中に舞い降りると
「うん……、いつ来ても……ここは素敵ね……」
白い髪を微風に揺らしながら呟くと、後ろを振り向く。
「うどんげ、遅いわよ?」
「ぅう……、師匠が速過ぎるんですよぉ……」
うどんげと呼ばれた、ウサギの耳を生やした少女は、薬箱を抱えながら降りてきた
「別に、急がなくてもいいんじゃないですか?
あの子は逃げないんだし……」
「あら、急ぐ理由なんて決まってるじゃない」
「なんですか?」
「早く会いたいからよ~♪」
「……」
「うふふ……可愛いじゃない、メディスンちゃん」
満足そうに微笑むと、師匠と呼ばれた少女、永琳は鈴蘭の花畑の中を歩き始めた。
「……はぁ……待ってくださいよぉ~」
疲れた顔をしながらウサギの耳をぺたりと伏せ、うどんげは思うのだった。
また、師匠の悪い癖が始まった、と。
△▼△▼△
紅い館にも、鈴蘭畑へ向かおうとする人物が居た。
紅い館の敷地内の詰め所で、緑色の民族衣装に身を纏った赤い髪少女は、
同僚である紅魔館メイド長、十六夜 咲夜に迫られていた。
「ほら、美鈴、出かけるわよ? 早くしなさい!」
完全で瀟洒な従者である咲夜が、この日は落ち着かず苛立っている。
「ちょ、ま、まって下さい、咲夜さん、私、門番の仕事が……」
袖を引っ張られながら、美鈴はやんわりと断ろうとするが、
「大丈夫、レミリア様には許可を頂いたわ
それに、今度の休暇は一緒に出かける予定でしょ?」
もちろん貰っているのは、咲夜が出かけると言う許可だけだ。
それが解っているので美鈴はどうにかして残ろうとする。
「ぅ……、で、でも、休暇は今週末じゃ……」
「もう、週末も今日も休暇は休暇じゃないの」
そこまで言うと、咲夜は不意に顔を伏せて、上目使いで美鈴を見る。
「……それとも、美鈴は私に付き合うのは……嫌……なの?」
「ぅ゛……」
どうやらメイド長は情に訴える作戦に出たようだ。
美鈴はメイド長のこの表情にとても弱い。
心がぐらりと揺れる。
目に見えて揺らいでいる美鈴を見て、咲夜はもう一押しする。
目に涙を溜めて、か細い声で呟く。
「……美鈴だけなの……、心許せる、安心できるのは……」
そして、きゅっと美鈴の服の裾を握る。
「~~~~~ッ!!!(さ、咲夜さんッ!?)」
全身を振るわせ、首を仰け反らせて何かを堪えようとするが……
心が折れた。
「わ……判り……ました……」
「ほ……本当?」
ぱぁっと、咲夜の顔が笑顔になる。
「それなら早く準備しましょう
さ、私の部屋に行くわよ」
嬉々として美鈴の腕を取って、詰め所から連れ出す咲夜さん。
「ぅう……ずるいですよぉ……」
「いいじゃない、『貴女だけ』なのは本当なのだから」
そう、紅魔館の中で、美鈴だけが知っているのだ。
可愛い物が好きという、彼女の趣味を
「ほら、急ぐわよ!」
△▼△▼△
名も無き白い丘に、微風が吹き抜ける。
風と共に心地よい毒を一緒に運ぶ。
少女、メディスン・メランコリーは、鈴蘭の白い花達に抱かれて眠っていた。
心地よい風と、鈴蘭の毒、それに、お日様の暖かさが彼女を眠りに誘ったのだ。
花を掻き分けて足音が近づくが、起きる様子も無い。
「あらあら……お昼寝の最中かしら?」
眠りこける小さな少女を見つけて、優しく微笑む白い髪の少女、永琳。
「けほ、けほ、師匠~、鈴蘭の毒がぁ~」
情けない声で助けを求めるうどんげに、
「うどんげ、黙りなさい、煩いわ」
「……ぅう……ひどぃ……」
師匠に厳しい言葉を投げかけられる。
全ては一人前になる為の試練……だと思いたい。
嘆く弟子を尻目に永琳は少女の寝顔をもっと楽しもうとしゃがみ込む。
「ん……ぅ……」
眠っているメディスンの口がむにゃむにゃと動く
「んふふ~……可愛いわぁ……持ち帰りたいくらい……」
永琳の危険な独り言に、
「独り占めは良くないですわ」
と何者かが背後から相槌を入れる
「あら、紅魔館のメイド長じゃない」
音も無く、影も無く彼女の背後に立つ方法を持つのは、
幻想郷でも、彼女を含めて数人だろう。
「えぇ、ごきげんよう、永遠亭の薬師
今日は?」
「ふふ……もちろん。
それで、貴女は?」
「……私もよ」
と、二人でクスクスと笑いあい、眠りこける人形少女、メディスンに熱い視線を送る。
ようやく追いついた美鈴は、一人泣きながら佇む鈴仙の傍らに降り立ち、手に持った鞄を降ろす。
「ふぅ……こんにちは、鈴仙さん」
「ぅう……美鈴さん……こんにちは…」
鈴仙の泣き顔を見て、人形に夢中な師匠にきつい事を言われたんだな、と美鈴は察した。
「……大変ですね……」
「いえ、美鈴さんも……」
お互いに、逆らえない存在の特殊な趣味に振り回され、苦労している仲だ。
二人の間に妙な親近感があったりなかったり。
「「ぁ……」」
従者二人が苦労を分かち合っていると、二人の上司から同時に声が上がった。
どうやら、小さなお姫様が眠りから醒めたようだった。
「ん……ぅ……」
むくりと上半身を起こすと、コシコシと両手で目を擦る。
その仕草を見て悶える二人。
(ゃーん!かわぃいよぅ……)(くぅぅぅうッ。かわいい!)
だが、咲夜と永琳は荒くなった呼吸を、
秒も掛らず落ち着け、平静を取り戻すと、朝の挨拶をしてあげる。
「お、おはよう、メディスン」「メディスン、おはよう」
△▼△▼△
んぅ?
誰かいるみたい?
「んぅ……おはよぉ……、……あら?」
永琳と咲夜だ!
それにうさぎもいる
わぁ……スーさん、スーさん、二人が同時に来てくれたよ
この前の出来事で、彼女は悟った。
味方を得なければ、人形解放への道は険しいと。
そして、味方を得るには心を、痛みを知り得なければならない。
だから彼女は、自分にできる事をしようと思った。
最初の一歩は、彼女が持っている毒の提供からだ。
「あらら? 知らない人も居るよ、スーさん。
あなたは毒は嫌いかしら?」
と、美鈴を見る
「あ、んー……できれば避けて欲しいです」
気功で毒気を中和する事も可能だったが、メディスンの好意に甘える事にした。
メディスンが、好かれ様と頑張っている事を咲夜から事前に聞いていたからだ。
「うん、毒は皆を避けてあげてー」
両手を広げて嬉しそうに、「コンパロ、コンパロ、」と呪文を唱える。
その姿を見て、メディスンの背後で顔を真っ赤にして狂い悶える二人の姿が目に映る。
(コンパロ!コンパロ!)(くぅ~~~ッ姫にもコンパロさせなきゃ!)
「……し、師匠……」
「咲夜……さん……」
それ以上何も言えない二人は心の中で涙するしかなかった。
毒を操ったメディスンは、後ろでに両手を組んで、くるりと後ろを振り向く。
「ふぅ、今日はどんな毒が入用かしら?
今日も機嫌がいいから分けてあげるわよー」
「んふふ……今日は、毒はいらないの」
「あらら? 咲夜は?」
「私も毒は要りませんわ」
咲夜も、永琳も、笑顔で要らないと言い放つ。
「え……?」
笑顔だったメディスンの表情が曇る
「ど……どうして……?
毒は少量なら薬にもなるんだよ?
要らないの?」
今、彼女と二人を繋げているのは、毒の所有者と、利用者という関係だけだ。
人形少女は、必死に繋がりを求める。
もっと味方を作る為に、人形解放の最初の一歩の為に。
……いや違う、この二人はそんなんじゃない。
皆が嫌う毒を求めてくれた存在。
だから……だから、失いたくない。
「そ……それなら、スーさん分けてあげる。
私の友達を分けてあげるんだよ?」
と、鈴蘭を手に持って差し出す。
「「いらないわ」」
と、二人は同時に返事をする。
「ぅ……あ、お花畑の一角……うぅん、半分、うん、スーさん半分あげる!
どうかしら?」
泣きそうな笑顔で、メディスンが二人に提案する。
「……」(ぅあぁああぁぁあぁッ……泣き顔もッかわぃいッ)
「……」(必死になってる……ハフゥ……)
だが、二人は俯いて、沈黙で答えるのみ……
二人の態度に、メディスンは衝撃を受ける。
どうして?
今までなら、笑顔で毒を受け取ってくれたのに……
私の味方には……なってくれないの?
俯くと、彼女の目から、ポタリ、ポタリと、涙が零れ落ちる。
メディスンは判らなかった
どうして涙がでるのか。
それは、今までの彼女では絶対に理解できない感情、
別れる辛さを無意識のうちに理解したからだった。
「ぅ……ッ、っく、……ひぐッ……、コ……コレ……クションも、
全部あげる……だからッ」
嫌わないで!
そう言おうと顔を上げたメディスン、を両側から柔らかい感触が包み込む。
「ぅ!?」
それは、永琳と咲夜の二人に抱かれた感触だった。
二人の呼吸が妙に荒かったが、メディスンにはどうでもいい事だった。
「……すこし、落ち着いて……」(んふふ……やわらかぁい……)
「……別に、苛めてる訳じゃないのよ?」(すべすべ……すべすべ……)
永琳と咲夜は間に抱いたメディスンを更にぎゅっとする。
「……ぅ……うん……」
「私達は今日は別の用事できたの」
「ぇ……、
別の……用事?」
「「えぇ」」
二人はメディスンを抱いたまま、鈴仙と美鈴に目配せする。
美鈴が鞄から取り出したのは、フリルが多めに装飾された、小さな洋服。
鈴仙が薬箱から取り出したのは、薬品の入った小瓶だった。
「なに……それ?」
二人はメディスンから離れ、プレゼントを受け取って手渡す。
「ふふ……いつも貰ってばかりだから、プレゼントよ」
「プレ……ゼント……」
「そう、私からは真月の光の毒を抽出してきたの」
「私は、洋服を用意させてもらったわ」
と、永琳と咲夜が微笑みながら告げる。
「なん……で?」
「あら、友達にプレゼントするのに理由が必要かしら?」
「とも……だち……」
味方とか、取引相手じゃなくて……
友達……
スーさん以外の……
初めての……友達……
「私達じゃあ友達にはなれない?」
咲夜がしゃがみ込んで、メディスンを真っ直ぐ見つめて問う。
メディスンは、ぶんぶんと左右に首を振ると、
一面に咲く鈴蘭の花が霞むような可愛らしい笑顔で、元気よく答える。
「うぅん……いいよ、二人は友達!」
「……えへへ……」
ぎゅっと、貰った洋服と薬を抱きしめ、はにかんで笑う。
「うふふ……後ろの二人……うどんげや美鈴は友達になれそう?」
と、永琳もしゃがんで、背後を指差す。
指の方向では、にこりと笑顔を向ける二人が居た。
「うん! もちろん♪」
やった♪やった♪
友達が4人もできたよ。
スーさん、やったよ!
メディスンは、思わず宙に浮かび、クルクルと回りだす。
「あははッ、あははははッ、友達♪ プレゼント♪」
一頻り笑うと、二人の元に降りてくる。
すかさず、咲夜と永琳が口を開く。
「メディスンちゃ~ん、早速だけど、洋服を着てみてくれないかしら?」
「「!?」」
ピシッ
と、聞こえるハズのない音と共に固まる美鈴と鈴仙。
そんなこと気にもせず、続ける永琳と咲夜。
「もしかしたらサイズが違ってるかもしれないし……」
「そうねぇ、サイズが違ってたら大変ねぇ……」
咲夜の意見に頷く永琳。
二人とも、目が怪しい。
だが、上機嫌なメディスンは、やっぱりそんなの気にならない。
「うん、いいわよー」
「「♪」」
上機嫌なメディスンはさっそく胸元のリボンをしゅるりと解く。
「私も、似合うか見て欲しかったんだ~」
そして、ボタンをプチプチと外して、するすると服を脱いでゆく。
なんと、メディスンはその場で着替えようというのだ。
「「~~~~~ッ!!」」
思いもよらない出来事に
形容しがたい悶え方をする咲夜と永琳。
そして、
ブシュッと何かが噴出す音が聞こえた。
「ぅうぇ?」
噴出音と共に、固まっていた美鈴と鈴仙の意識が戻った。
「「はッ!? しまっ……」」
二人が見た光景は、
「ふ、二人ともどうしたの? ねぇ、大丈夫?」
赤く汚された鈴蘭の花と、
赤く汚された下着姿の人形少女と、
その下で、赤く染まりながら至福の笑みで倒れている咲夜と永琳だった。
一面真っ白な、鈴蘭の花に覆われた名も無き丘。
有毒な香りを発する花の中で、人形を大事そうに抱きかかえ、
嬉しそうにしゃがみ込んでいる少女が居た。
少女は、一人口を開く。
いつもそうしていたように、一人、少女は喋りだす。
「スーさん、スーさん。
最近ね、なんだかとっても楽しいの」
喋る少女の目線は前を向いていた。
どうやら、抱きかかえる人形に喋っているわけではないようだ。
「私達に優しい人間が、二人もいるって解ったから」
偶然、微風が吹いて、少女の周囲にある鈴蘭が揺れ動く。
まるで、相槌を打つように。
「……えへへ
今日は来てくれるかな?」
鈴蘭達――スーさんが、少女の言葉を肯定するように、風に揺れる。
「うん、楽しみだね、スーさん。」
△▼△▼△
白い丘に降りてくる者が居た。
赤と青に身を包んだ少女は、ふわりと、鈴蘭の中に舞い降りると
「うん……、いつ来ても……ここは素敵ね……」
白い髪を微風に揺らしながら呟くと、後ろを振り向く。
「うどんげ、遅いわよ?」
「ぅう……、師匠が速過ぎるんですよぉ……」
うどんげと呼ばれた、ウサギの耳を生やした少女は、薬箱を抱えながら降りてきた
「別に、急がなくてもいいんじゃないですか?
あの子は逃げないんだし……」
「あら、急ぐ理由なんて決まってるじゃない」
「なんですか?」
「早く会いたいからよ~♪」
「……」
「うふふ……可愛いじゃない、メディスンちゃん」
満足そうに微笑むと、師匠と呼ばれた少女、永琳は鈴蘭の花畑の中を歩き始めた。
「……はぁ……待ってくださいよぉ~」
疲れた顔をしながらウサギの耳をぺたりと伏せ、うどんげは思うのだった。
また、師匠の悪い癖が始まった、と。
△▼△▼△
紅い館にも、鈴蘭畑へ向かおうとする人物が居た。
紅い館の敷地内の詰め所で、緑色の民族衣装に身を纏った赤い髪少女は、
同僚である紅魔館メイド長、十六夜 咲夜に迫られていた。
「ほら、美鈴、出かけるわよ? 早くしなさい!」
完全で瀟洒な従者である咲夜が、この日は落ち着かず苛立っている。
「ちょ、ま、まって下さい、咲夜さん、私、門番の仕事が……」
袖を引っ張られながら、美鈴はやんわりと断ろうとするが、
「大丈夫、レミリア様には許可を頂いたわ
それに、今度の休暇は一緒に出かける予定でしょ?」
もちろん貰っているのは、咲夜が出かけると言う許可だけだ。
それが解っているので美鈴はどうにかして残ろうとする。
「ぅ……、で、でも、休暇は今週末じゃ……」
「もう、週末も今日も休暇は休暇じゃないの」
そこまで言うと、咲夜は不意に顔を伏せて、上目使いで美鈴を見る。
「……それとも、美鈴は私に付き合うのは……嫌……なの?」
「ぅ゛……」
どうやらメイド長は情に訴える作戦に出たようだ。
美鈴はメイド長のこの表情にとても弱い。
心がぐらりと揺れる。
目に見えて揺らいでいる美鈴を見て、咲夜はもう一押しする。
目に涙を溜めて、か細い声で呟く。
「……美鈴だけなの……、心許せる、安心できるのは……」
そして、きゅっと美鈴の服の裾を握る。
「~~~~~ッ!!!(さ、咲夜さんッ!?)」
全身を振るわせ、首を仰け反らせて何かを堪えようとするが……
心が折れた。
「わ……判り……ました……」
「ほ……本当?」
ぱぁっと、咲夜の顔が笑顔になる。
「それなら早く準備しましょう
さ、私の部屋に行くわよ」
嬉々として美鈴の腕を取って、詰め所から連れ出す咲夜さん。
「ぅう……ずるいですよぉ……」
「いいじゃない、『貴女だけ』なのは本当なのだから」
そう、紅魔館の中で、美鈴だけが知っているのだ。
可愛い物が好きという、彼女の趣味を
「ほら、急ぐわよ!」
△▼△▼△
名も無き白い丘に、微風が吹き抜ける。
風と共に心地よい毒を一緒に運ぶ。
少女、メディスン・メランコリーは、鈴蘭の白い花達に抱かれて眠っていた。
心地よい風と、鈴蘭の毒、それに、お日様の暖かさが彼女を眠りに誘ったのだ。
花を掻き分けて足音が近づくが、起きる様子も無い。
「あらあら……お昼寝の最中かしら?」
眠りこける小さな少女を見つけて、優しく微笑む白い髪の少女、永琳。
「けほ、けほ、師匠~、鈴蘭の毒がぁ~」
情けない声で助けを求めるうどんげに、
「うどんげ、黙りなさい、煩いわ」
「……ぅう……ひどぃ……」
師匠に厳しい言葉を投げかけられる。
全ては一人前になる為の試練……だと思いたい。
嘆く弟子を尻目に永琳は少女の寝顔をもっと楽しもうとしゃがみ込む。
「ん……ぅ……」
眠っているメディスンの口がむにゃむにゃと動く
「んふふ~……可愛いわぁ……持ち帰りたいくらい……」
永琳の危険な独り言に、
「独り占めは良くないですわ」
と何者かが背後から相槌を入れる
「あら、紅魔館のメイド長じゃない」
音も無く、影も無く彼女の背後に立つ方法を持つのは、
幻想郷でも、彼女を含めて数人だろう。
「えぇ、ごきげんよう、永遠亭の薬師
今日は?」
「ふふ……もちろん。
それで、貴女は?」
「……私もよ」
と、二人でクスクスと笑いあい、眠りこける人形少女、メディスンに熱い視線を送る。
ようやく追いついた美鈴は、一人泣きながら佇む鈴仙の傍らに降り立ち、手に持った鞄を降ろす。
「ふぅ……こんにちは、鈴仙さん」
「ぅう……美鈴さん……こんにちは…」
鈴仙の泣き顔を見て、人形に夢中な師匠にきつい事を言われたんだな、と美鈴は察した。
「……大変ですね……」
「いえ、美鈴さんも……」
お互いに、逆らえない存在の特殊な趣味に振り回され、苦労している仲だ。
二人の間に妙な親近感があったりなかったり。
「「ぁ……」」
従者二人が苦労を分かち合っていると、二人の上司から同時に声が上がった。
どうやら、小さなお姫様が眠りから醒めたようだった。
「ん……ぅ……」
むくりと上半身を起こすと、コシコシと両手で目を擦る。
その仕草を見て悶える二人。
(ゃーん!かわぃいよぅ……)(くぅぅぅうッ。かわいい!)
だが、咲夜と永琳は荒くなった呼吸を、
秒も掛らず落ち着け、平静を取り戻すと、朝の挨拶をしてあげる。
「お、おはよう、メディスン」「メディスン、おはよう」
△▼△▼△
んぅ?
誰かいるみたい?
「んぅ……おはよぉ……、……あら?」
永琳と咲夜だ!
それにうさぎもいる
わぁ……スーさん、スーさん、二人が同時に来てくれたよ
この前の出来事で、彼女は悟った。
味方を得なければ、人形解放への道は険しいと。
そして、味方を得るには心を、痛みを知り得なければならない。
だから彼女は、自分にできる事をしようと思った。
最初の一歩は、彼女が持っている毒の提供からだ。
「あらら? 知らない人も居るよ、スーさん。
あなたは毒は嫌いかしら?」
と、美鈴を見る
「あ、んー……できれば避けて欲しいです」
気功で毒気を中和する事も可能だったが、メディスンの好意に甘える事にした。
メディスンが、好かれ様と頑張っている事を咲夜から事前に聞いていたからだ。
「うん、毒は皆を避けてあげてー」
両手を広げて嬉しそうに、「コンパロ、コンパロ、」と呪文を唱える。
その姿を見て、メディスンの背後で顔を真っ赤にして狂い悶える二人の姿が目に映る。
(コンパロ!コンパロ!)(くぅ~~~ッ姫にもコンパロさせなきゃ!)
「……し、師匠……」
「咲夜……さん……」
それ以上何も言えない二人は心の中で涙するしかなかった。
毒を操ったメディスンは、後ろでに両手を組んで、くるりと後ろを振り向く。
「ふぅ、今日はどんな毒が入用かしら?
今日も機嫌がいいから分けてあげるわよー」
「んふふ……今日は、毒はいらないの」
「あらら? 咲夜は?」
「私も毒は要りませんわ」
咲夜も、永琳も、笑顔で要らないと言い放つ。
「え……?」
笑顔だったメディスンの表情が曇る
「ど……どうして……?
毒は少量なら薬にもなるんだよ?
要らないの?」
今、彼女と二人を繋げているのは、毒の所有者と、利用者という関係だけだ。
人形少女は、必死に繋がりを求める。
もっと味方を作る為に、人形解放の最初の一歩の為に。
……いや違う、この二人はそんなんじゃない。
皆が嫌う毒を求めてくれた存在。
だから……だから、失いたくない。
「そ……それなら、スーさん分けてあげる。
私の友達を分けてあげるんだよ?」
と、鈴蘭を手に持って差し出す。
「「いらないわ」」
と、二人は同時に返事をする。
「ぅ……あ、お花畑の一角……うぅん、半分、うん、スーさん半分あげる!
どうかしら?」
泣きそうな笑顔で、メディスンが二人に提案する。
「……」(ぅあぁああぁぁあぁッ……泣き顔もッかわぃいッ)
「……」(必死になってる……ハフゥ……)
だが、二人は俯いて、沈黙で答えるのみ……
二人の態度に、メディスンは衝撃を受ける。
どうして?
今までなら、笑顔で毒を受け取ってくれたのに……
私の味方には……なってくれないの?
俯くと、彼女の目から、ポタリ、ポタリと、涙が零れ落ちる。
メディスンは判らなかった
どうして涙がでるのか。
それは、今までの彼女では絶対に理解できない感情、
別れる辛さを無意識のうちに理解したからだった。
「ぅ……ッ、っく、……ひぐッ……、コ……コレ……クションも、
全部あげる……だからッ」
嫌わないで!
そう言おうと顔を上げたメディスン、を両側から柔らかい感触が包み込む。
「ぅ!?」
それは、永琳と咲夜の二人に抱かれた感触だった。
二人の呼吸が妙に荒かったが、メディスンにはどうでもいい事だった。
「……すこし、落ち着いて……」(んふふ……やわらかぁい……)
「……別に、苛めてる訳じゃないのよ?」(すべすべ……すべすべ……)
永琳と咲夜は間に抱いたメディスンを更にぎゅっとする。
「……ぅ……うん……」
「私達は今日は別の用事できたの」
「ぇ……、
別の……用事?」
「「えぇ」」
二人はメディスンを抱いたまま、鈴仙と美鈴に目配せする。
美鈴が鞄から取り出したのは、フリルが多めに装飾された、小さな洋服。
鈴仙が薬箱から取り出したのは、薬品の入った小瓶だった。
「なに……それ?」
二人はメディスンから離れ、プレゼントを受け取って手渡す。
「ふふ……いつも貰ってばかりだから、プレゼントよ」
「プレ……ゼント……」
「そう、私からは真月の光の毒を抽出してきたの」
「私は、洋服を用意させてもらったわ」
と、永琳と咲夜が微笑みながら告げる。
「なん……で?」
「あら、友達にプレゼントするのに理由が必要かしら?」
「とも……だち……」
味方とか、取引相手じゃなくて……
友達……
スーさん以外の……
初めての……友達……
「私達じゃあ友達にはなれない?」
咲夜がしゃがみ込んで、メディスンを真っ直ぐ見つめて問う。
メディスンは、ぶんぶんと左右に首を振ると、
一面に咲く鈴蘭の花が霞むような可愛らしい笑顔で、元気よく答える。
「うぅん……いいよ、二人は友達!」
「……えへへ……」
ぎゅっと、貰った洋服と薬を抱きしめ、はにかんで笑う。
「うふふ……後ろの二人……うどんげや美鈴は友達になれそう?」
と、永琳もしゃがんで、背後を指差す。
指の方向では、にこりと笑顔を向ける二人が居た。
「うん! もちろん♪」
やった♪やった♪
友達が4人もできたよ。
スーさん、やったよ!
メディスンは、思わず宙に浮かび、クルクルと回りだす。
「あははッ、あははははッ、友達♪ プレゼント♪」
一頻り笑うと、二人の元に降りてくる。
すかさず、咲夜と永琳が口を開く。
「メディスンちゃ~ん、早速だけど、洋服を着てみてくれないかしら?」
「「!?」」
ピシッ
と、聞こえるハズのない音と共に固まる美鈴と鈴仙。
そんなこと気にもせず、続ける永琳と咲夜。
「もしかしたらサイズが違ってるかもしれないし……」
「そうねぇ、サイズが違ってたら大変ねぇ……」
咲夜の意見に頷く永琳。
二人とも、目が怪しい。
だが、上機嫌なメディスンは、やっぱりそんなの気にならない。
「うん、いいわよー」
「「♪」」
上機嫌なメディスンはさっそく胸元のリボンをしゅるりと解く。
「私も、似合うか見て欲しかったんだ~」
そして、ボタンをプチプチと外して、するすると服を脱いでゆく。
なんと、メディスンはその場で着替えようというのだ。
「「~~~~~ッ!!」」
思いもよらない出来事に
形容しがたい悶え方をする咲夜と永琳。
そして、
ブシュッと何かが噴出す音が聞こえた。
「ぅうぇ?」
噴出音と共に、固まっていた美鈴と鈴仙の意識が戻った。
「「はッ!? しまっ……」」
二人が見た光景は、
「ふ、二人ともどうしたの? ねぇ、大丈夫?」
赤く汚された鈴蘭の花と、
赤く汚された下着姿の人形少女と、
その下で、赤く染まりながら至福の笑みで倒れている咲夜と永琳だった。
これから永琳・咲夜はどうやって接していくのか、気になるところです。
わくわく♪
もしこちらの勘違いでしたらすみません。
少しは門番と弟子に…プリーズぅ…。
くぁう! もっと早くこの作品と出会いたかったっ!
昨日メディスンクリアしたばっかなんで、こんな妄想したとこですよっ!
ところで永琳って少じょ(アポロ13)
ただそう一言いわせてくれ…。