「先生、今回もお世話してもらってすんません。いままでの代わりと言っちゃあなんですがこれを受け取ってくだせぇ。」
里の長が畑仕事のお礼にと上白沢慧音に布で包んだ大きな箱をよこした。
大きさは慧音が両手でやっと持てるくらいだ。
結構重く、抱えている間に中にはいっている瀬戸物らしきものが硬い音を立てる。
高価なものだったらいらんぞ、と言ったのだが長も価値がよくわからないとのことだった。
瀬戸物らしき音から中身を想像しながら帰路を飛ぶ。
(・・・やはり皿とか茶碗あたりか?しかしこんな大きい箱に入れる必要がないしなぁ。)
里が後ろを向いても見えなくなり、眼前にはいつもの竹林が見えてくる。
(壺か?もし壺だったらあの蓬莱人が来た時のドタバタで割れるに違いないな。)
竹林の中に入ったところで慧音は高度と速度を落とし始める。
竹林には夏にふさわしい強い陽が射し込んでいる。
(まぁ開けてみないことにはわからないか。なかなかの歴史もあるようだし、期待はしてよさそうだな。)
竹の奥のそのまた奥。
不死鳥の蓬莱人がいる我が家に慧音はもどっていった。
≪幻想茶道≫
「・・・・・・これは。」
「うわー何この道具の山。どこから拾ってきたわけ?」
居間で箱を開封した慧音は言葉を失い、妹紅は目を輝かせて見入っている。
中に入っていたのは茶碗が二つ、鉄器の風路、茶入れや竹でできた箆や筅が入っていた。
茶碗は片方が藍色で、よく煎茶を飲む時に使う物だ。
もう片方はヨモギ色で、ずんぐりしているというかどっしりしているというか。
うわ薬の固まり方が綺麗な抹茶用の碗だ。
「うわーこの湯飲み綺麗だなぁ。どっから持ってきたのよ。」
妹紅が藍の茶碗をもって嬉しそうに眺める。
いつも使ってる土色の湯飲みと見た目が全然違うから興味が沸くのだろう。
「里長から礼にともらった。使いたかったら使ってみてもいいぞ。」
言うが早いか、妹紅はすでに茶を急須から注いでいた。
お前は玩具をもらった子供か。
「・・・うまい。」
一気に老けたか貴様。
縁側に座って横に猫でもいたら似合うだろう。
スキマ、亡霊姫、博麗の巫女。
茶のみ同盟発足だ。
「何か言った?」
「いや別に。」
「でもこれ本当に美味しく感じるんだけど。」
雰囲気だけだと思うが。
まぁ喜んでくれたのでよし。
さて、煎茶のはいいとして抹茶用の茶碗はどうするべきか。
茶道の歴史は知っているが立て方や作法を詳しくは知らない。
「どうするべきか・・・。」
なんとなく茶碗を手に持つ。
真新しい見た目とは逆になかなか長い歴史を持っているようだ。
なんとなく歴史を探ってみる。
・・・・・・む。
「妹紅、ちょっと出かけてくるぞ。」
「あ~いよ~いってらっしゃ~い。」
・・・本気で老けたか?
そういえば急須の中に淹れてた茶はとっくに出涸らしだったような気がする。
とりあえず当てがあるところを巡ってみた。
白玉楼。
「あぁ・・・私ではわかりかねます・・・。」
「あれ?肝はいっしょじゃないの?」
紅魔館
「うちは紅茶だけです。」
博麗
「なにそれ?」
全部外れた。
あとは気が進まんがあそこしか思い当たらない。
・・・妹紅にばれたらどうなるかなぁ。
というわけで永遠亭にやってきたわけだが、相変わらず中が騒がしい。
「ちょっまっ師匠!その色はやばいですって!」
「ほーっほっほっほ!待ちなさいウドンゲ!捕獲しなさいてゐ!」
・・・入るのやめようかなぁ。
まぁ茶器のためだ。
仕方あるまい。
「たの「不味い!やめってゐ!いやあああああああああああああああ!!!!」」
「ああ!鈴仙さまの口から蟹のように大量の泡が!」
・・・なんとなく合掌しておく。
さようなら月の兎。
「・・・・たのもー」
とりあえず挨拶をしてみた。
とてとてと可愛らしい足音がする。
「あのー・・・どなたでしょうか・・。」
ちっこい兎が出てきた。
多分永遠亭の使用人のような役どころなのだろう。
てゐとかいう兎より一回りは小さい。
ああ、戸から顔だけ出してるのが可愛らしいなぁ。
「私は上白沢慧音。今日は引きこもりの姫と薬師に尋ねたいことがあって来た。」
「では奥の間にお連れいたしますので・・・。」
「ああ、お邪魔させてもらうよ。」
無限にも見える板張りの廊下を兎に連れられ、奥の間に案内される。
「お待たせいたしました~♪」
「いや、それほど待っていない。気にしないでくれ。」
我が家より相当広い部屋に案内され、先ほどの兎と小さな友情を築いたところで薬師の永琳がやってきた。
入れ替わるように兎が出て行く。
あぁ・・・また来ておくれ・・・。
気を取り直し、話題を切り出す。
「で、今日の用なのだが・・・これを見てくれ。」
自宅からもってきた箱のフタを開けながら永琳に差し出す。
妹紅にやった煎茶用の茶器以外の一式が入っている。
「見せてもらっていいかしら?」
「どうぞ。」
永琳は手元に箱を引き寄せ、中身を物色する。
その間、私はすることもないのでなんとなく髪を三つ編にしてみたりした。
おお、意外といけるかもしれない。
そんなことをしながら永琳が茶器をいじるのを待つこと十分少々。
「これは誰から?」
「あ、ああ里の者から謝礼としてな。持ってきた理由はそれの利用の仕方がわからんから聞きに来た。」
「茶道?」
「そうだ。」
三つ編の二本目に取り掛かったところで永琳が質問してきた。
「幻想郷の方々を回ってみたのだが、里にも頭の中が幻想の奴らにも茶道を知ってる奴がいなかった。
それで最後の当てとしてここに来たわけだ。」
「ふぅん。歴史が専門のあなたがわからないことがあるなんて珍しいわね。」
「歴史はわかっても技能とか礼儀作法は細かいところがわからん。」
「まぁ珍しいついでに教えてあげるとしましょうか。ウドンゲーてゐー。」
永琳は弟子らしい二匹の兎を呼び、自らも席を立つ。
「私も仕度をしてくるから少し待っててくださいな。」
キャラ違ってないか。
永琳も茶箱からいくつか持って出て行き、部屋には私だけが残された。
・・・・。
あの子兎こないかなぁ。
ガラッ
「!」
恐らく人生で最高の反射速度を持って襖に反応する。
まさか永琳が気を利かせてくれたのか。
私の中で奴の好感度は50アップだ!
大いなる期待を背負ってそこに居たのは!
「こんにちニャ☆」
最悪だ。
引きこもりの姫だった。
何故かネコミミもついている。
視界が明滅し、傾いていく・・・・。
「ジーザス・・・・」
私の幻想は終わった。
「ちょっと、起きなさい。」
目の前には永遠の姫。
「がくっ」
「おいこら。必殺・蓬莱殺し!」
バシーン
「・・・・・!・・・・?!」
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!
なんだこの痛みは、小指を思いっきりぶつけるのと同等だが質が違う!
私の歴史に新たな頁が加わった。
「・・・やぁ蓬莱人。」
目の前には蓬莱山輝夜がいる。
お供に薬師、そして無数の兎を侍らせている奴だ。
くそう羨ましい。
「・・・私そんな睨まれるようなことしたからしら?」
「ハリセンを持ってなぜそんな質問が出来るのか徹底的に追求してもいいか?」
輝夜は襖を少しだけ開き、ハリセンを投げ捨てる。
ほぼ間をおかずに足音が近づき、去っていく。
兎が拾いに来たのであろうか。
「で、今日は永琳に茶道を習いに来たんだって?」
正面に座り、輝夜が尋ねてくる。
まだ顔がヒリヒリする私は頷いて肯定を示した。
「ところで妹紅は一緒じゃないの?」
「奴は私の家で老けている。」
よほど意外だったのか輝夜は目を見開き、口もあいている。
この顔が見れたのはなかなかの収穫だ。
でも嘘じゃない。
帰ったら「慧音さんや、晩御飯はまだかいのぉ」などとボケていないか凄く心配だ。
「・・・ちょっと見てみたい気もする。」
「不老の身であそこまで老け込めるとは思わなんだ。」
世間話に花が咲く。
なかなか輝夜は話しやすい奴なんじゃないか?と思った。
永琳も戻ってこないのでまた数分が経過。
「お待たせしました。」
いい加減足が痺れ始めてきた頃、永琳が戻ってきた。
後ろから月の兎も出てきた。
(・・・・・。)
永琳は淡い蒼地に白い竹と朝顔の模様の絹の和服を身につけ、いつもは編んで後ろに垂らしている銀髪も後頭部辺りで結い上げている。
正直いって、綺麗だ。
いつもの赤と黒の服とちがって出てるところがしっかり見えている。
・・・なんとなく負けた気がする。
無かった事にした。
ちなみに月の兎は露草色の和服で、出るとこ勝負は勝っていたと思う。
「さて永琳、私は出かけてくるわ~」
輝夜が小走りで出て行こうとする。
「あら姫、どちらへ?」
「殺し合い~♪」
全員理解した。
家壊れてないといいなあ。
最終的に部屋に残ったのは私、永琳、ウドンゲとかいう兎。
永琳がそれでは、と茶を立て始める。
「ところで濃茶と薄茶どっちがいい?」
「初心者向けの奴を。」
「じゃあ薄茶ね。」
抹茶の量が違うらしい。
翠の茶器に抹茶を少し入れ、鉄器から柄杓で湯を注ぎ、茶櫛で立てる。
その動作は流れる水のようで無意識のうちに見入ってしまっていた。
一体どれだけの研鑽を積めばこのような動きができるのか。
始めて私は永琳を尊敬した。
「はいどうぞ、粗茶ですが。」
「・・・・いただきます。」
差し出されたまま持ち上げて飲もうとすると、
「駄目よ、茶碗の正面を避けないといけないから回してから持ちなさい。」
間を外されたので少々硬直する。
両手で茶碗を持とうとしていたのでそのまま45度ほど回し、音を立てないように飲んだ。
いつもの煎茶よりも少し濃い気がする。
「・・・結構なお点前で・・?」
「なんでそこで疑問系になるのよ。」
「だって味わからんもん。」
「・・・・・・そういえば初めてだったわね。そうだウドンゲ。」
部屋の隅に陣取っていた耳がしわくちゃの兎が立ち上がり、何かを持ってくる。
手渡された小皿の上には竹楊枝と切った水羊羹が二つ。
「暇だったし天草が手に入ったから作ってみたのよ。お茶請けにどうかしら?」
「いただく。」
甘いものは嫌いではないというか好みというか大好きなので即答する。
うむ、よく冷えていておいしい。
ふとウドンゲの方をみると橙色の羊羹を食べている。
「ウドンゲとやら、その羊羹は何で出来ているんだ・・?」
「あ、人参ですよ。一口いりますか?」
「・・・・遠慮しておくよ。」
興味より不安のほうが強かった。
はたしてお茶請けにはふさわしいんだろうか。
甚だ疑問である。
茶道の作法手順などなどを交えながら世間話をすることまた数十分。
永琳がこんなことを聞いてきた。
「ところでなんでいきなり茶道なんか?」
「ああ、それはだな・・・。」
手元にある茶器に眼をやる。
「もらった時になんとなく歴史を見てみたんだがな。」
妹紅が老けはじめた辺りに見た時、始めに笑顔の男が見えた。
多分これを創った職人だろう。
誰かに贈るために作られたこの茶器は盗人に盗まれ、売り払われ、想い人にも届かず、売り払われた。
その内に唯一入ったものは産みの親の流した血だけだった。
私はもちろんこの男にもその想い人にも縁など無い。
だが、これではあまりに不憫ではないか。
ならば一度、いやこの茶器がいつか果てるまで使い続けてやろう。
「とか思ったわけだ。」
「義理堅いあなたらしいわね。」
ずず~。
そして陽が傾き、西空が朱く染まり始めた頃、永遠亭の玄関には慧音と永琳がいた。
「今日は世話になったな。」
「こんなことならまたいらっしゃい。弾幕が無いのは楽でいいわ。」
靴を履き、持ってきた茶器一式を持って挨拶をする。
「ところでここの兎に甚だ可愛いのがいたが持ち帰りは可能か?」
「だめよ。」
ちっ
「腕を磨いたらいらっしゃい。着物も欲しかったら暇つぶしに作ってあげる。」
ああ、と生返事を返し、敷居をくぐる。
ふと思った。
「お前こんなに気前よかったか?」
「あら、私はもともと気前いいわよ。千年くらい前から。」
「じゃあな。」
「またどうぞ。」
そうして私は竹林の奥に、永琳は永遠亭の奥に消えていった。
「あ、姫まだ帰ってきてないわね。」
一方。
「おや慧音しゃんおかえりなさいまし。」
「お邪魔させていただいとりますよぉ。」
「・・・これは無かったことに・・・どうか無かったことに・・・・!」
了。
里の長が畑仕事のお礼にと上白沢慧音に布で包んだ大きな箱をよこした。
大きさは慧音が両手でやっと持てるくらいだ。
結構重く、抱えている間に中にはいっている瀬戸物らしきものが硬い音を立てる。
高価なものだったらいらんぞ、と言ったのだが長も価値がよくわからないとのことだった。
瀬戸物らしき音から中身を想像しながら帰路を飛ぶ。
(・・・やはり皿とか茶碗あたりか?しかしこんな大きい箱に入れる必要がないしなぁ。)
里が後ろを向いても見えなくなり、眼前にはいつもの竹林が見えてくる。
(壺か?もし壺だったらあの蓬莱人が来た時のドタバタで割れるに違いないな。)
竹林の中に入ったところで慧音は高度と速度を落とし始める。
竹林には夏にふさわしい強い陽が射し込んでいる。
(まぁ開けてみないことにはわからないか。なかなかの歴史もあるようだし、期待はしてよさそうだな。)
竹の奥のそのまた奥。
不死鳥の蓬莱人がいる我が家に慧音はもどっていった。
≪幻想茶道≫
「・・・・・・これは。」
「うわー何この道具の山。どこから拾ってきたわけ?」
居間で箱を開封した慧音は言葉を失い、妹紅は目を輝かせて見入っている。
中に入っていたのは茶碗が二つ、鉄器の風路、茶入れや竹でできた箆や筅が入っていた。
茶碗は片方が藍色で、よく煎茶を飲む時に使う物だ。
もう片方はヨモギ色で、ずんぐりしているというかどっしりしているというか。
うわ薬の固まり方が綺麗な抹茶用の碗だ。
「うわーこの湯飲み綺麗だなぁ。どっから持ってきたのよ。」
妹紅が藍の茶碗をもって嬉しそうに眺める。
いつも使ってる土色の湯飲みと見た目が全然違うから興味が沸くのだろう。
「里長から礼にともらった。使いたかったら使ってみてもいいぞ。」
言うが早いか、妹紅はすでに茶を急須から注いでいた。
お前は玩具をもらった子供か。
「・・・うまい。」
一気に老けたか貴様。
縁側に座って横に猫でもいたら似合うだろう。
スキマ、亡霊姫、博麗の巫女。
茶のみ同盟発足だ。
「何か言った?」
「いや別に。」
「でもこれ本当に美味しく感じるんだけど。」
雰囲気だけだと思うが。
まぁ喜んでくれたのでよし。
さて、煎茶のはいいとして抹茶用の茶碗はどうするべきか。
茶道の歴史は知っているが立て方や作法を詳しくは知らない。
「どうするべきか・・・。」
なんとなく茶碗を手に持つ。
真新しい見た目とは逆になかなか長い歴史を持っているようだ。
なんとなく歴史を探ってみる。
・・・・・・む。
「妹紅、ちょっと出かけてくるぞ。」
「あ~いよ~いってらっしゃ~い。」
・・・本気で老けたか?
そういえば急須の中に淹れてた茶はとっくに出涸らしだったような気がする。
とりあえず当てがあるところを巡ってみた。
白玉楼。
「あぁ・・・私ではわかりかねます・・・。」
「あれ?肝はいっしょじゃないの?」
紅魔館
「うちは紅茶だけです。」
博麗
「なにそれ?」
全部外れた。
あとは気が進まんがあそこしか思い当たらない。
・・・妹紅にばれたらどうなるかなぁ。
というわけで永遠亭にやってきたわけだが、相変わらず中が騒がしい。
「ちょっまっ師匠!その色はやばいですって!」
「ほーっほっほっほ!待ちなさいウドンゲ!捕獲しなさいてゐ!」
・・・入るのやめようかなぁ。
まぁ茶器のためだ。
仕方あるまい。
「たの「不味い!やめってゐ!いやあああああああああああああああ!!!!」」
「ああ!鈴仙さまの口から蟹のように大量の泡が!」
・・・なんとなく合掌しておく。
さようなら月の兎。
「・・・・たのもー」
とりあえず挨拶をしてみた。
とてとてと可愛らしい足音がする。
「あのー・・・どなたでしょうか・・。」
ちっこい兎が出てきた。
多分永遠亭の使用人のような役どころなのだろう。
てゐとかいう兎より一回りは小さい。
ああ、戸から顔だけ出してるのが可愛らしいなぁ。
「私は上白沢慧音。今日は引きこもりの姫と薬師に尋ねたいことがあって来た。」
「では奥の間にお連れいたしますので・・・。」
「ああ、お邪魔させてもらうよ。」
無限にも見える板張りの廊下を兎に連れられ、奥の間に案内される。
「お待たせいたしました~♪」
「いや、それほど待っていない。気にしないでくれ。」
我が家より相当広い部屋に案内され、先ほどの兎と小さな友情を築いたところで薬師の永琳がやってきた。
入れ替わるように兎が出て行く。
あぁ・・・また来ておくれ・・・。
気を取り直し、話題を切り出す。
「で、今日の用なのだが・・・これを見てくれ。」
自宅からもってきた箱のフタを開けながら永琳に差し出す。
妹紅にやった煎茶用の茶器以外の一式が入っている。
「見せてもらっていいかしら?」
「どうぞ。」
永琳は手元に箱を引き寄せ、中身を物色する。
その間、私はすることもないのでなんとなく髪を三つ編にしてみたりした。
おお、意外といけるかもしれない。
そんなことをしながら永琳が茶器をいじるのを待つこと十分少々。
「これは誰から?」
「あ、ああ里の者から謝礼としてな。持ってきた理由はそれの利用の仕方がわからんから聞きに来た。」
「茶道?」
「そうだ。」
三つ編の二本目に取り掛かったところで永琳が質問してきた。
「幻想郷の方々を回ってみたのだが、里にも頭の中が幻想の奴らにも茶道を知ってる奴がいなかった。
それで最後の当てとしてここに来たわけだ。」
「ふぅん。歴史が専門のあなたがわからないことがあるなんて珍しいわね。」
「歴史はわかっても技能とか礼儀作法は細かいところがわからん。」
「まぁ珍しいついでに教えてあげるとしましょうか。ウドンゲーてゐー。」
永琳は弟子らしい二匹の兎を呼び、自らも席を立つ。
「私も仕度をしてくるから少し待っててくださいな。」
キャラ違ってないか。
永琳も茶箱からいくつか持って出て行き、部屋には私だけが残された。
・・・・。
あの子兎こないかなぁ。
ガラッ
「!」
恐らく人生で最高の反射速度を持って襖に反応する。
まさか永琳が気を利かせてくれたのか。
私の中で奴の好感度は50アップだ!
大いなる期待を背負ってそこに居たのは!
「こんにちニャ☆」
最悪だ。
引きこもりの姫だった。
何故かネコミミもついている。
視界が明滅し、傾いていく・・・・。
「ジーザス・・・・」
私の幻想は終わった。
「ちょっと、起きなさい。」
目の前には永遠の姫。
「がくっ」
「おいこら。必殺・蓬莱殺し!」
バシーン
「・・・・・!・・・・?!」
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!
なんだこの痛みは、小指を思いっきりぶつけるのと同等だが質が違う!
私の歴史に新たな頁が加わった。
「・・・やぁ蓬莱人。」
目の前には蓬莱山輝夜がいる。
お供に薬師、そして無数の兎を侍らせている奴だ。
くそう羨ましい。
「・・・私そんな睨まれるようなことしたからしら?」
「ハリセンを持ってなぜそんな質問が出来るのか徹底的に追求してもいいか?」
輝夜は襖を少しだけ開き、ハリセンを投げ捨てる。
ほぼ間をおかずに足音が近づき、去っていく。
兎が拾いに来たのであろうか。
「で、今日は永琳に茶道を習いに来たんだって?」
正面に座り、輝夜が尋ねてくる。
まだ顔がヒリヒリする私は頷いて肯定を示した。
「ところで妹紅は一緒じゃないの?」
「奴は私の家で老けている。」
よほど意外だったのか輝夜は目を見開き、口もあいている。
この顔が見れたのはなかなかの収穫だ。
でも嘘じゃない。
帰ったら「慧音さんや、晩御飯はまだかいのぉ」などとボケていないか凄く心配だ。
「・・・ちょっと見てみたい気もする。」
「不老の身であそこまで老け込めるとは思わなんだ。」
世間話に花が咲く。
なかなか輝夜は話しやすい奴なんじゃないか?と思った。
永琳も戻ってこないのでまた数分が経過。
「お待たせしました。」
いい加減足が痺れ始めてきた頃、永琳が戻ってきた。
後ろから月の兎も出てきた。
(・・・・・。)
永琳は淡い蒼地に白い竹と朝顔の模様の絹の和服を身につけ、いつもは編んで後ろに垂らしている銀髪も後頭部辺りで結い上げている。
正直いって、綺麗だ。
いつもの赤と黒の服とちがって出てるところがしっかり見えている。
・・・なんとなく負けた気がする。
無かった事にした。
ちなみに月の兎は露草色の和服で、出るとこ勝負は勝っていたと思う。
「さて永琳、私は出かけてくるわ~」
輝夜が小走りで出て行こうとする。
「あら姫、どちらへ?」
「殺し合い~♪」
全員理解した。
家壊れてないといいなあ。
最終的に部屋に残ったのは私、永琳、ウドンゲとかいう兎。
永琳がそれでは、と茶を立て始める。
「ところで濃茶と薄茶どっちがいい?」
「初心者向けの奴を。」
「じゃあ薄茶ね。」
抹茶の量が違うらしい。
翠の茶器に抹茶を少し入れ、鉄器から柄杓で湯を注ぎ、茶櫛で立てる。
その動作は流れる水のようで無意識のうちに見入ってしまっていた。
一体どれだけの研鑽を積めばこのような動きができるのか。
始めて私は永琳を尊敬した。
「はいどうぞ、粗茶ですが。」
「・・・・いただきます。」
差し出されたまま持ち上げて飲もうとすると、
「駄目よ、茶碗の正面を避けないといけないから回してから持ちなさい。」
間を外されたので少々硬直する。
両手で茶碗を持とうとしていたのでそのまま45度ほど回し、音を立てないように飲んだ。
いつもの煎茶よりも少し濃い気がする。
「・・・結構なお点前で・・?」
「なんでそこで疑問系になるのよ。」
「だって味わからんもん。」
「・・・・・・そういえば初めてだったわね。そうだウドンゲ。」
部屋の隅に陣取っていた耳がしわくちゃの兎が立ち上がり、何かを持ってくる。
手渡された小皿の上には竹楊枝と切った水羊羹が二つ。
「暇だったし天草が手に入ったから作ってみたのよ。お茶請けにどうかしら?」
「いただく。」
甘いものは嫌いではないというか好みというか大好きなので即答する。
うむ、よく冷えていておいしい。
ふとウドンゲの方をみると橙色の羊羹を食べている。
「ウドンゲとやら、その羊羹は何で出来ているんだ・・?」
「あ、人参ですよ。一口いりますか?」
「・・・・遠慮しておくよ。」
興味より不安のほうが強かった。
はたしてお茶請けにはふさわしいんだろうか。
甚だ疑問である。
茶道の作法手順などなどを交えながら世間話をすることまた数十分。
永琳がこんなことを聞いてきた。
「ところでなんでいきなり茶道なんか?」
「ああ、それはだな・・・。」
手元にある茶器に眼をやる。
「もらった時になんとなく歴史を見てみたんだがな。」
妹紅が老けはじめた辺りに見た時、始めに笑顔の男が見えた。
多分これを創った職人だろう。
誰かに贈るために作られたこの茶器は盗人に盗まれ、売り払われ、想い人にも届かず、売り払われた。
その内に唯一入ったものは産みの親の流した血だけだった。
私はもちろんこの男にもその想い人にも縁など無い。
だが、これではあまりに不憫ではないか。
ならば一度、いやこの茶器がいつか果てるまで使い続けてやろう。
「とか思ったわけだ。」
「義理堅いあなたらしいわね。」
ずず~。
そして陽が傾き、西空が朱く染まり始めた頃、永遠亭の玄関には慧音と永琳がいた。
「今日は世話になったな。」
「こんなことならまたいらっしゃい。弾幕が無いのは楽でいいわ。」
靴を履き、持ってきた茶器一式を持って挨拶をする。
「ところでここの兎に甚だ可愛いのがいたが持ち帰りは可能か?」
「だめよ。」
ちっ
「腕を磨いたらいらっしゃい。着物も欲しかったら暇つぶしに作ってあげる。」
ああ、と生返事を返し、敷居をくぐる。
ふと思った。
「お前こんなに気前よかったか?」
「あら、私はもともと気前いいわよ。千年くらい前から。」
「じゃあな。」
「またどうぞ。」
そうして私は竹林の奥に、永琳は永遠亭の奥に消えていった。
「あ、姫まだ帰ってきてないわね。」
一方。
「おや慧音しゃんおかえりなさいまし。」
「お邪魔させていただいとりますよぉ。」
「・・・これは無かったことに・・・どうか無かったことに・・・・!」
了。
GJ
でも、縁側でそろってお茶を飲む二人って すごく絵になる と思います・・
>だって味わからんもん
なんか萌えました…
作法が分からず固まる慧音に激しく萌えました。
今度は是非着物けーねを…w
忘れた頃にオチがやってきて爆笑させて頂きました、感謝(礼
わざと間違えてるよーな気もするけど、ツッコミが無いんで一応。
てゐのセリフらしき「蟹のように~」は物凄い棒読みのような気がしました。
結局商品化はならなかったけど。でも代わりに出したのが牛蒡(ごぼう)外郎……
いや、結構美味ですよ?
それは兎も角、結構なお点前でした♪
>>ξ・∀・)
ガッ
絶対似合うと思うんですよ。老けた茶のみ同盟
>>てーるさん
絵になりますよね、ですよね。
>>名前が無い程度の能力さん
慧音はいろんな髪型が似合うと思う。
慧音にわからない仕草をさせたかったっ。
>>名前をなくす程度の能力さん
えーりん始め永夜キャラは和服が似合うと思うのです。
え?キモけーねですか?(caved!!!!
>>通りすがりさん
これが真の姿だ!(ゥー
>>変身Dさん
最初のネタをオチに持ってくるのは一回やってみたかったんですw
>>無為さん
誤字指摘感謝です。
慧音は漢字だけは間違えないと思ったので訂正しました。(ノД`)
てゐの心配はいつも棒読みです。
命の危険が無い限り。多分。
>>床間たろひさん
ちょっと食べたいかも。
牛蒡か・・・食物繊維多いんですかねw
>>名前が無い程度の能力さん
先生は可愛いのです。
天然なのが俺のじゃすてぃ(ry
俺は茶道部をいじめでやめたぜ!
こんなまっったりした茶道部ならよかった………orz
茶道は手順や動作はともかく「目の配り方」が実は一番ほど重要なので、なるほど、戦国武将が人物観察に使った訳だ、と最近思い当たった次第。
名も知れぬ小さな兎に心引かれるのは私だけでしょうか・・・?
残念ながらこの茶道部には入れません。
俺が入るから!(アポロ
>>noさん
俺が見たとこも和菓子が前でした。
今回のは作法講習が終わってお茶会って感じで和菓子登場させました。
兎?あれは俺n(ネクスト
>>沙門さん
おそまつさまです。
歴史を作り変えても慧音自身は記憶してるんですよね。
あさっての方をみながら笑い飛ばす先生を幻視したっ!
家の中ではプロシュートなグレイトフルデッド空間が発生し
弾幕空間にはなりそうにないからなぁ
永琳と慧音は老人介護がんばれ
鈴仙はとにかくがんばれ
実質こういう気分になるものなのですよ・・・
>くそう羨ましい。
けーねの心の本音を見t(歴史抹消
けーね先生の落ち着いたマイペースさが和めてぐっd
老けたーーーーーーーー!!!!!!!!
慧音はもっと優しいぞ!!
まぁでも、面白かったです。
今度はもっと優しい慧音を。
続き(勝手な妄想)
「?慧音 どうして顔を背けるの? おーい。慧音ー?」