「マスタースパークのあの威力、人間の力にしては強すぎる。まてよ・・・・・・そうか!」
何故か四角い眼鏡をかけたリグル・ナイトバグは、突然俯けていた顔を上げた。
「何が分かったんだ、リグル!?」
「上白沢慧音の白沢がハクタクを表すように、魔理沙の名前もその正体を表していたんだ! 『魔』は文字通り害悪を成すものであるということ、『魔』の『理』とは即ち外法の道理ということだ!」
異様に影のかかった顔に戦慄を顕にして、リグルは熱弁する。
「そして『沙』とは細かな石の集まった砂の意! つまり魔理沙とは悪しき理の集積を意味する! それは巨大な魔、即ち魔王。つまり魔理沙は魔王だったんだよ!」
「「「そーなのかーーーーーーーー!!」」」
たまたま居合わせてリグルの推論を聞いていたルーミア、チルノ、ミスティアは一様に驚愕の声を上げた。
「砂ってことは、バラバラになったりするの?」
「・・・・・・そうか、初めは細かなものだったんだ。それが次第に集まった」
キバヤシ・・・もといリグルの理論は更に組みあがっていく。
「かつて討ち倒されたであろう魔王、その鱗片が長い年月の中で人の中に集まり、ついに魔理沙のなかで発現したんだ! それだけじゃない、魔理沙の姓は霧雨、彼女が完全に覚醒したなら、おそらく雨のようにその片鱗をばら撒き幻想郷を眷属でうめつくしてしまうだろう」
「なんてことだ!」
「もう手遅れなの!?」
絶望的な現実を目の前に叩きつけられ、焦燥感に焼かれながらもどうする事もできない妖怪たち。
何より絶望的なことに、その場には突っ込みの出るものが居ない。
明らかになった衝撃的な事態に竦み上がった一同だが、それでも部屋の隅で震えていることを選びはしなかった。
さほど良い目を見ては居ないとはいえ彼女らもまた楽園たる幻想郷の住人、居心地よい世界を守るために立ち上がる決心を固めたのである。
「でも、魔王なんてどうたおせばいいの? 神風?」
「これは幻想郷の危機なんだから例の紅白に任せればいいんじゃない」
不安げなルーミアの問いにチルノが答えた。
それは最も順当な手段だといえる。幻想郷において異変に対処するのは博霊の巫女の役割だ。
件の魔王魔理沙と親交に近い間柄ではあるが、事情が事情なので話せば解ってくれるだろう、とチルノは確信していた。
「けどあいつ、やたらと私たちのこと追い払いたがるのよね」
と、リグル。眼鏡を外して素に戻ったらしい。
彼女らが邪険にされるのは紅霧異変や永夜異変の際に、霊夢への意味のない進路妨害をしたせいなのだが、それに気づく日は来ないだろう。
「伝えられるかが問題だね」
「それじゃあもう神風しかー」
「あいつは性格悪いから聞いてくれないかもよ」
「それじゃあミスティアが神風でー」
「そうか、それしかないね」
「任せるよ、ドンといってきな」
「わ、私は巫女には直接姿を見られてないから頼みにいけると思うの!」
ごく自然な会話の流れで危うく特攻させられかけたミスティアの提案を採用し、魔王討伐作戦第一段階は始動した。
「ねえ、聞いてほしい事が・・・・・・」
「酒は?」
「お酒はないけど、今たいへんな・・・・・・」
「私もいつもいつも散々押しかけられてたいへんなの。どうしても駄目とは言わないけど、他人ん家で宴会やるならお酒くらいは持ってきなさいよ」
「宴会?」
見れば、博霊の巫女の左手には一升瓶が握られていた。顔もこころもち上気している。
博霊神社へと歎願に来たミスティアは予想外の対応に戸惑った。
「でも、他に誰も見当たらないけど。透明人間でも集まったの?」
神社の境内には酒瓶と杯が散乱していたが、肝心の人影が見えない。
怪訝に思いながら一通り境内を見回したが、人影はおろか狸一匹見当たらなかった。しばらく目を凝らしてから霊夢のいた場所へと目線を戻す。
直後、冷ややかな感触が首筋を撫でた。
「うらめしや~」
「今日は冥界の連中が来ててね」
「――――――――!」
神社の軒下から蜘蛛の子のようにわらわらと鬼火が沸いて出てくる。
そしてミスティアの肩をさりげなく、かつ完璧にホールドしているのは白玉楼の欠食亡霊、西行寺幽々子。
特殊な歩法ミスティアの死角をキープしていた麗人は酒気にほんのりと頬を染め、口端から垂れる涎を拭おうともしない。
「とっさに皆で隠れた甲斐があったわ。雀一匹じゃ少ないけど、おつまみには十分ね」
「―――――! ――――――!!」
過去のトラウマが蘇る。
必死の熱唱による闇を嘲笑うかのように鼻をひくつかせながら涎を垂らし腹の虫の轟音を背負って神速で迫る亡霊。
あの夜以来、押し寄せる蝶弾の恐怖が頭から離れず、自分の持つ蛾符の天蛾すら直視できなくなっていた。
(食われる食われる食われる食われる食われる食われる食われる!)
「わ、私はそんなに美味しくないと思うの!」
「そんなことないわ。この血色のいい顔、肉付きも悪くない。そして歌うという激しい運動が適度に肉を締めている。油っぽさも控えめな良質の鳥肉よ」
「気のせい! 絶対気のせい! ほら、暗くてよく解らないから見違えて!」
「私の見立てを信じなさい。貴方はもっと自分に自信を持っていいの」
「じじじ冗談よね、そうだよね! とっても面白いよ! ハ・・・ハハ」
「こんなに月も丸いから、本気で食べるわよ」
「嫌ぁぁぁぁあ!」
幽々子の目は笑っていない。
永い夜の日と同じだ。もしあの時、慌てた様子の彼女の従者がこの亡霊を引きずっていってくれなかったら,今頃は骨と皮だけになって森でうら若い微生物の成長と繁殖に貢献していたことだろう。
(そうだ、あのオカッパ刃物狂は!)
生命の危機によって拡大した観察眼が刹那の間すら置かず、庭の片隅から緑の色彩を見つけ出した。
反射的に渾身の力で亡霊ごと引きずって(浮かんでいたので重量はなかったのだが)駆け寄り、
「たたたたた、たすけてぇ!!」
「うっせぇ、私はえーりんじゃないっての」
ゴッ
濁酒(どぶろく)の瓶で殴られた。妖怪が焼いたという酒瓶『阿掌瓶』に割れない顎は少ししかない。
「妖夢に頼っても無駄よ。今夜の妖夢は先週亡くなった『飲ませのシゲさん(享年64)』のテクで通常の3倍のアルコールを飲まされているの」
「ほんあのあい!?(そんなのあり!?)」
「ああ? 何だその羽は、最近の若いもんはチャラチャラしくさってコラァ!? 」
ゴッ
「こえはうあえうきぃ!(これは生まれつき!)」
「茶色で地味なんだよ! 死ね、十秒以内、10,9,8,7,3,2,1、0。死んでねえのかよじゃあ私が殺す」
ゴガッ
無茶を言いつつ遠慮なく殴りまくる。
幽々子の従者、妖夢は完璧に出来上がっていた。しかも酒癖は最悪だ。
絡まれるミスティアを尻目に、よし好機だ、とばかりに周囲の幽霊たちが逃げていく。つき合わされるのが相当辛かったのだろう。
縋った藁が沈んでいく脱力感が、ミスティアの全身を襲った。
「踊り食いがいいかしらね」
「ほぉれ笑顔で酌しろ下等妖怪」
「あ・・・・・・あ、ああ」
「ああそうだわ。叩き潰して小骨を粉々にすれば食べやすいわよね。こんな事もあろうかと懐に妖怪の鍛えたメリケンサックが」
ドゴッ
「ひぃっさつ~いっせぇん~びゅうてぃふるすらっしゅ~・・・・・・・おい、こら、手前も歌えカス」
バキッ
「あ、う・・・・・・ひ」
「羽先から丹念に~」
ボグッ
「大体なぁ、ワシの前にツラ出して挨拶一つせんゆうのが間違っとるやろ」
べガッ
「ひぐ・・・・・・・・・・」
ゴッ、ガッ、ドッ、ボガガガガガガガ・・・・・・・・・・
意識が遠のいていく。虚ろな目の前で、紫の蝶が舞っていた。数十匹の蝶は軌跡を交え合いながら、ただ幽雅にミスティアへと舞い降りる。
「やだもお、うまいこと言うじゃないのシゲさん」
おだてられて喜んでいる霊夢の声が、聞こえた。どこか遠くから。どこか遠くから。
「同志ミスティア・ローレライよ。君の犠牲は無駄にはしない」
月下、博麗神社境内を望める大木の枝上にて、残された者たちは涙した。
けど助けには行かない。怖いから。
(続く)
ってことでマイナス点。
スマソ
しかも今後の展開的に、本懐を果たせそうにないですねキバヤシは
ただ、馬鹿4人が力を合わせて強大な敵に挑む展開は非常に好み!
続きを楽しみにしております。
でも死んでないんだろーなー
夜雀のつくね、私にもくださ(真夜中のコーラスマスター