博麗神社に夏が来る。
それは気温と共にそう感じさせる。
「暑いわね~」
霊夢は縁側に座りながら言う。
「まったくだぜ…なんなんだ、この暑さは…」
隣に座っていた魔理沙も同じ事を言う。
「あんたはそんな黒い服を着ているから余計に暑いのよ」
「でも、私が黒い服以外で似合う服あるか?」
「ほら、昔の白いのとか?」
「あれはやめてくれ…昔の嫌な記憶が蘇る…」
「そう?」
二人で暢気な会話をしていると…
「久しぶりだね」
「あんたまだいたの?」
霊夢の後ろからひょっこりと現れた一人?の悪霊。
「まだって、失礼だな、相変わらず…私はここの祟り神だよ」
「あ~、そうでしたそうでした」
「魅魔様、お久しぶりです」
「やあ、魔理沙。あんたも久しぶりだね。
上司をそそのかして結構な人気じゃないか」
「あはは…恐縮するぜ…」
「そういえば…魅魔は暑さ感じないの?」
「私は精神体だからねぇ…暑い寒いはかんじないのさ」
「羨ましいわね」
「でも触ると…」
魔理沙は魅魔の体に触れる。
「妙に人間味のある温かさしてるから不思議なんだよな」
「確かに温かいわね」
「私もまだ人間らしさがあるってことかな」
二人が魅魔相手に話していると…
「あつ~~~~いっ!!!!」
いつの間にか萃香が縁側に座っていた。
「暑いのはこういう季節なんだから仕方が無いの」
「水撒いてよ~っ」
「打ち水ねぇ…やると私が暑くなるから嫌」
「えぇ~~」
萃香が横でじたばたしているのを…
「霊夢…この子は誰だい?」
「あ、こいつ? 一応…鬼」
「一応ってなによ」
「へぇ~、鬼ねぇ、いたんだ」
魅魔は萃香の周囲を回りながら見る。
「何…おばさん」
魅魔の動きが止まった。
「ばっ、馬鹿ッ!」
魔理沙が大急ぎで萃香の口を抑える。
「ふぁ、ふぁにふふの~!? ふぁにさ」
「あの言葉は禁句なんだよ!」
「あーあ、しーらないっと」
「この子供の鬼には大人の躾が必要なようね…」
「ぷはっ! 魔理沙、離して!」
「いーやっ! 離さない、今離すと何いうか分かったものじゃない!」
「魔理沙…その鬼を離しなさい!」
「ううっ………」
魔理沙は萃香を抑えながら後ずさりする。
「魔理沙が離さないならっ!」
萃香は霧となり魔理沙の腕から抜け出して実体化する。
「怒ると皺が増えるよ? おばさん」
「こんのガキ! いったらいけない事を何度も何度も…覚悟しな!」
魅魔は矛槍を出し構える!
萃香もそれに応じて構える!
「あー、ここで戦うのやめてくれないかな~」
「霊夢、無理だぜ…ああなったら…」
二人がぶつかろうとしていた瞬間…
「お邪魔しまーすっ」
ガン!
ゴン!
二人の頭にお墓が振ってきてクリティカルヒット!
二人はお墓に潰された。
「紫!」
「魅魔様…なんか本当に死んだみたいだぜ」
魔理沙は魅魔の上に振ってきたお墓を見て言う。
「あら、邪魔したのが邪魔だったかしら?」
「ここで戦ってもらっちゃ困るわ…境内の掃除、誰がやると思っているのよ」
「あら…あの姿は…」
誰かが階段を上って来た。
「4657…4658…4659…4660!」
トン。
「はぁぁ~~疲れた…こんなに長いのね、ここの階段」
「アリス…何してるの?」
アリスは後ろから声をかけられ振り向く。
そこには…
縁側に座っている霊夢。
変な体制でいる魔理沙。
宙から隙間をあけてみている紫。
そしてお墓が二個。
「何…この惨劇…」
「ちょっとね…鬼と悪霊の戦いを防いだのよ。 で、アリスは何をしていたの?」
「私? 私は博麗神社の長い階段を数えたのよ」
「あれ…数えたの? 上り終わって下を見ると見えないのに?」
「全部で4660段あったわ…さすがに疲れたわ…ちょっと休ませて」
「ごくろうさま…はい、お茶」
「ありがとっ」
「で、どうするんだ? この惨劇…」
「いいんじゃないの? どちらも死ななそうだし…」
「まあね」
「お墓追加しとく?」
「おもしろそうだから追加しといて」
「おまかせあれ」
ガン
ゴン
二人のお墓が二段と豪華になった。
「やっぱり暑いわ…」
「紫、あんたの能力で涼しくならない?」
「なる事はなるわよ…ちょっとまっててね」
紫は隙間に入り込みごそごそと漁る。
「あったわ~…はい」
紫が出したのはチルノだった。
「いきなり何するのさ~この隙間妖怪!」
「あなたの能力が役にたつのよ」
「私の能力?」
「そこの寒いの、涼しくしてくれ」
「なめないでよね!
凍符『パーフェクトフリーズ』!」
暑さでだらけている霊夢達にはチルノの攻撃が心地よく感じた。
「なっ…効いてないの!?」
「あ~、涼しい」
「ならっ!」
「あ~、紫。 もういいわよ」
「はい、さよーならー」
紫は指を鳴らすと隙間が開いた。
「わっ、すっ、すきまが~、お、覚えてろー」
チルノは隙間に呑まれた。
「ふう、若干涼しくなったわね…」
「それにしても…暑くないの…アリス、それに紫」
「この程度の暑さじゃどうってことないわよ…ねぇ紫」
「そうね…これじゃまだまだね」
「でも、萃香は暑いって言っていたぜ?」
「あの子は子供だから」
「子供ねぇ…」
「子供…」
皆してお墓を見る。
「あ、もうこんな時間なの」
霊夢が掛け時計を見て言う。
「おやつの時間よ、霊夢」
「何がでるかな?」
紫、魔理沙は霊夢に急かす。
「なんで、あんたたちの分まで出さなきゃいけないわけ?」
「皆の前でのうのうと一人だけ食べるのか?」
「霊夢がそんなに酷いとは思わなかったわ…」
「太るわよ…」
ピクッ…
「ゆかりーーーーッ!!!!」
「きゃあああ、助けてくださいまし~っ」
「まてーーーッ! 逃げるな~!」
隙間に出たり入ったりの紫。
それを追いかける霊夢。
それはまるで…
「もぐらたたきみたいね」
見ていたアリスが呟く。
「じゃあ、こうしたらいいんじゃないか」
「何?」
霊夢と紫は動きを止めて魔理沙の方を見る。
「紫が叩かれなかったら私たちにおやつを分ける。
紫が叩かれたら紫にはおやつを出さない。
これでどうだ?」
「いいわね」
「私はとことん逃げるわよ」
「私の『夢想封印 集』から逃れられると思って?」
「じゃあ、開始だぜ~!」
そんなこんなで紫と霊夢の紫叩きが始まった。
ひょいっひょいっ
「こンの!」
「ほっほっほ~、全然見当違いの方ね」
紫は逃げる!
霊夢は追う!
「こうなったら!
『夢想封印 集』!」
霊夢はスペルを発動した。
集符が霊夢の周囲を回り始める。
「あ、セコイわよ、それ」
「セコイも何もあったもんじゃないわ!」
紫は出たり入ったりを繰り返す。
「めんどくさいわね…逝きなさい! 紫!」
「逝きなさいってひどいわねぇ…!!!!」
紫の出たところに集符が向かってくる!
「これで当たりね」
バシッ
「やったぁぁ~、私の勝ちね!」
霊夢はVサインを天に翳す。
が…。
「あれっ…」
当たったはずの紫はそこにはいない。
「残念ね、あれはダミーよ」
「くぅぅぅぅ~~~~! そんなに私のおやつ食べたいの!?」
「勿論よ、だって最高級品ですもの…」
「なら、行け! 集符!」
紫に向かっていた集符の速度が落ちて次第に低速になり地面に落ちた。
「えっ、なんで?」
「上を見てごらんなさい」
「上?」
「ああっ、スペル制限時間がっ」
「そうよ、きれちゃったのよ」
「おおーっと、霊夢のスペル発動時間がきれた。
さあ、これからどうするつもりだ?」
魔理沙は実況している。
「うーん、とりあえず誘導する博霊アミュレットを使うべきかと…」
アリスもサポートしている。
「どうする…下手に弾を出しすぎると霊力ぎれになるし…なら!」
霊夢は袖口からある物を取り出した!
「おお~っと、あれは~~~!!!!」
「博麗の槌ね」
どうやって袖口に入っていたかは気にしないとして、進行はどんどん進む。
「ちょっとそれ卑怯じゃない!?」
「これが一番いいのよ! 霊力も符力も使わないし!」
ブン!
「きゃあ、当たったらどうするのよ! この私の可愛い顔に傷がつくじゃない!」
「そんな事はお構いなしよ!」
霊夢は大きな槌を体一杯に振り回しながら紫に攻める!
「危ないわね! こうなったら!」
紫は隙間に身を潜めた。
「どこから来る…」
博麗神社に妙な静けさが宿る。
フォウウウン
「そこかぁ!!!!」
隙間が開く直前に霊夢は既に槌を天高く振り上げている!
隙間が開くと…
「今度はなによ!」
チルノが出てきた。
「えっ…」
「いきなり何!?」
チルノは目の前にある槌に驚きを隠せない。
「御免! チルノ! 止まらないのよね!」
ガァァァン!!
「あ…へぇぇぇ………」
チルノはその場に倒れのびてしまった。
「紫! あんたこそ卑怯じゃないの!」
「これは知略よ、ち・りゃ・く」
「その喋り方がまたむかつく!」
そうして紫と霊夢の戦いは更に激しさを増していく。
「はぁ…はぁ…はぁ…」
「ふぅ…ふぅ…ふぅ…」
「紫! もういい加減にしなさい! 見てよこの惨劇を!」
霊夢が指した場所には紫に無理やり連れてこられ、霊夢に叩かれた者達の無残な姿があった。
「まずいわね…これ以上持ってくる人もいないし…」
紫が考えていると霊夢が…
「っ…おらぁ!」
ぶんっ!
「きゃ…危ないわねぇ…じゃ」
すぅっ
紫は隙間に潜ってしまった。
「さて、どうするかな…」
霊夢は槌を地面に立てて待つ。
「どうなると思う…アリス」
「あれが霊夢にはあるわ…ただまだ気付かないだけ」
「ああ、あれか…今は萃夢想風になっているからな…」
「えーと、えーと…あっ!」
霊夢は閃いた。
「私にはあれがあるじゃない…」
霊夢は自分でうんうんと頷くと即座に実行した。
「幻想空想穴!」
霊夢はその場から消えた。
「さて、どうなると思う…魔理沙」
「紫が嫌でも出てくるだろうな」
「……………」
しばらく静寂が博麗神社に訪れる。
「痛ッ!」
突如静寂が破られた。
紫が隙間から落ちてきた。
「もうっ! 何するのよ!」
「これで私の勝ちね。 あんたにおやつは無しよ!」
「仕方ないわねぇ…」
「ぱく……もぐもぐ………アリス、決着がついたみたいだぜ」
「はむっ……もぐもぐ………そうね、長かったわね」
「ちょっとあんた達何食べてるのよ!?」
「「おやつ」」
二人声が揃う。
「あんたたちねぇ…紫が負けたらおやつは無しっていったでしょ!?」
「ああ、『紫には無し』っていったぜ」
「つまり、食べれないのは紫だけなのよ」
「はめられたわ…」
「一番損なのはわたしじゃない…叩かれ損よ…時間も夕方だし…」
「え!? 2~3時間もやっていたの!?」
「見てる方も長かったわよ」
「そういや…この饅頭、お墓に祭っておくか?」
「おもしろそうね、いいんじゃない」
「どうぞ勝手にして…」
魔理沙は魅魔のお墓にお饅頭を祭った。
「魅魔様、お饅頭だぜ」
「萃香、お饅頭よ」
「…………」
以前反応が無い…。
「なぁ、紫。
これ、真面目に死んでるんじゃないのか?」
「大丈夫よ…多分…」
魔理沙がまじまじとお墓を見つめる。
「大丈夫、死んでないわよ」
鳥居の上から声がした。
「誰?」
「『誰』と聞かれたからには」
「答えてあげると教わった」
「冥界の桜を咲かすため」
「地上の事などお構いなし」
「幽霊と亡霊の堺を築く」
「傍迷惑な自己満足」
「西行寺幽々子!」
「魂魄妖夢!」
「私達が目指す明日には」
「ブラックホール、食べ物道中が待ってます」
「「決まった!」」
二人の背中に大きな桜が見えたような気がした。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
その場が凍りついた。
「だからやめましょうっていったんですよ! 幽々子様!」
「こういうのはノリよノ・リ」
「うう、とっても恥ずかしいですよぅ…」
「幽々子…あんたもはっちゃけてるわねぇ…」
紫が地面に横になりながら話しかけてきた。
「あんた『も』って事は紫もね」
「まあね、既にはっちゃけてるわよ」
「幽々子様! どうするんですか!」
「何を?」
「何を? じゃありません! これを見てください」
「ん~?」
妖夢が指差した先には未だ凍り付いている霊夢、魔理沙、アリスがいた。
「どうしましょう」
「はぁ…幽々子様、責任とりましょうね」
「大丈夫よ…いずれ戻るわ」
「いずれですか」
「あら、この惨劇は何?」
「どうやら一騒動あったみたいですね」
そこには凍り付いている、霊夢、魔理沙、アリス。
鳥居の上でやりとりしている幽々子、妖夢。
地面に倒れていて頭に大きなばってんが書いてある紫。
そして…相変わらずなお墓が二つ。
「ほら、来たじゃない。 時間のスペシャリストが」
「え? 私?」
咲夜が自分?という風に驚く。
「だって、咲夜。 用は凍った霊夢達を治してって事じゃない?」
「そうよ、わかってるわねぇ、レミリア」
「あなたに『レミリア』なんて馴れ馴れしく呼ばれる筋合いは無いけどね」
「仕方ないじゃない…呼び方分からないんだから」
「まあ、確かにね」
「で、どうされます、お嬢様?」
「どうされますっていわれてもこのままじゃ可愛そうでしょ」
「そうですね…わかりました。 私に任せてください」
「頼もしいわぁ」
「かたじけないです。 私と幽々子様の為に…」
「後で御裾分けを貰うわね」
「仕方ないです…」
咲夜は徐に霊夢に近付いた。
「霊夢、ちょっとごめんね」
咲夜は唇を霊夢の唇に近づけた。
「ちょ、ちょっと何するつもりなの? 咲夜」
「何って起こすにはこれが一番なのは昔から決まっているのですよ」
「なるほど…王子様のキスが一番というわけね」
紫は隙間に座りなおして言う。
「咲夜…霊夢にキスするのは私がやるわ…」
「お嬢様が!?」
「問題でもある?」
「いや、特には無いですが…」
「なら私にやらせて」
「はい」
咲夜は霊夢から離れて、レミリアが近付く。
「………」
「お嬢様、よだれよだれ…」
「あっ…ごくっ」
レミリアは唾を飲む。
「いくわよ…霊夢」
レミリアは霊夢の肩に手を置き…
「きゃーーーー」
「どうするんでしょう…」
「ほら、早くしなさい」
「………………咲夜」
「はい」
咲夜は時を止めた。
「お嬢様、どうぞ」
「ありがとね、あんなに見られていたんじゃムードも何も無いわ」
ちゅ…。
レミリアは霊夢の唇に自分の唇を重ねた。
「んっ………んん!!????」
霊夢は永き凍りから解き放たれた。
が、今の現状が霊夢には分かっていない。
幽々子と妖夢の登場シーンを見て凍りつき、
目がさめたらレミリアとキスをしている。
「あ、目が覚めた」
レミリアは霊夢から離れる。
「なっ、なっ、なんで私とあんたがキスをしているわけ!?」
「霊夢を起こす為だもん」
レミリアが口元に手を持っていき体をくねらす。
「ああーーーーもうっ!!!! 何がなんなのよ!? ちゃんと説明して」
「つまり王子様のキスで目覚めるわけ、おわかり」
咲夜が説明する。
「なるほどね…なんとなく分かったわ」
「それにしても味気ないキスねぇ…」
「まったくよ…だからお子様なのよ」
「私にはあれでも刺激が十分です」
時が止まっている状態なのに、いつの間にか動いている紫、幽々子、妖夢。
「いつの間に!?」
「貴女程度の力なら破れるわよ」
「そうよねー」
紫と幽々子は意気投合だ。
「あれ、妖夢は?」
「私は幽々子様に起こされました」
「で、魔理沙とアリスはどうするの?」
「霊夢、あなたに任せるわ」
咲夜は霊夢の肩に手を置き、そう伝える。
「な、なんで私が?」
「そりゃあ、霊夢と魔理沙はつきあい長いでしょ」
「そうよ、人前でも気にしないでしょ」
「若いのはいいことよ」
紫、幽々子、レミリアが急かす。
「うーん…しょうがないわねぇ」
霊夢は魔理沙に近寄る。
「魔理沙…」
ちゅ…んむっ…。
霊夢は魔理沙に口付けをした。
「んっ…んむっ…れろっ」
硬直が解けた魔理沙は霊夢の唇に舌を入れた。
「んっ…ちょっ…魔理沙っ!」
「霊夢、大胆だな…皆の前でするなんて…」
目を覚ました魔理沙はいきなり大胆な事を言う。
「こ、これはしかたなかったのよ! 魔理沙を起こす為なのよ!」
「私を起こす為?」
「貴女は幽々子と妖夢の演出を聞いて凍っちゃったのよ」
紫が説明をする。
「ああ、あれね…」
魔理沙は納得する。
「で、アリスは誰が起こすんだ」
「そりゃあ、決まってるわよ」
皆して魔理沙の方を見る。
「な、なんで私を見るんだ!」
「なんでって…」
「当たり前でしょ」
「なんで当たり前なんだ!?」
魔理沙は恥ずかしそうに問う。
「だって、貴女達よく二人っきりでいるじゃない」
紫が言う。
「食事する時も、お風呂入るときも、寝る時も…」
「なんでそこまでっ…」
「紫の能力ならねぇ」
幽々子がそんなの簡単じゃないみたいな顔をして言う。
「仕方ないな…全員向こう向いててくれ」
「え~、いいじゃない減るもんじゃいし」
「振り向いたらマスタースパークぶっ放すぜ…」
魔理沙は既に魔力の篭った恋符を取り出し威圧する。
「う…分かったわよ」
「じゃあ、私達は神社の中に居るわ、終わったら呼びに来てね」
霊夢が仕方ないなぁ…みたいな顔をして、紫が皆を中に入れる。
「ふぅ…ようやく二人きりになれたぜ…」
魔理沙はアリスの事をじっと見る。
「何を考えてるんだ…私は、アリスを起こす為だ。 アリス…行くぜ…」
「ちょっと皆集まって」
紫が徴集を呼び掛ける。
「何?」
「これから面白い物を…ね」
「面白い物?」
「ちょっと隙間を開けて…」
紫が隙間を開けるとそこには魔理沙とアリスのビジョンが!
「随分躊躇っているようね」
「さすがに恥ずかしいんじゃないですか? 人がいなくても…」
「ああんっ…もうっ、そこよっ」
「幽々子様、楽しそうですね…」
そんな感じで魔理沙とアリスを覗き見している人又は妖怪。
「アリス…」
………ちゅ…
魔理沙の唇がアリスの唇に触れた。
「えっ…あれっ……魔理沙…私どうしていたの?」
「アリスは幽々子と妖夢の演出を聞いて凍っていたんだ。 そこで私が解いた」
「あっ、ありがとっ…でも、どうやって?」
「どうやってって…あの…その…」
「魔理沙らしくないなぁ、はっきりいいなさいよ」
「アリスに…その…キス………したんだよ」
魔理沙は帽子を深くかぶりアリスと目を合わせないようにしている。
「えっ………」
その場に流れる気まずい雰囲気…。
「なんで…こんなにドキドキするの?」
「あの二人…何かあるわね」
「まだまだテクニックがたりないわね」
「もっと強引にならなくっちゃ駄目よ」
「そこで押し倒す!」
「幽々子様、それをやっては発禁を言い渡されます!」
それぞれ賛否両論だ。
「そろそろいい時間かしら? じゃあ、ちょっと行って来るわね」
「どこに?」
「あの二人の所よ、このままじゃいつまで経っても呼びにこなそうだもの」
「なるほど…」
紫は二人の所へ向かった。
「アリス…」
「魔理沙…」
二人の距離が近付いていく。
「お二人さん、終わったかしら?」
紫は玄関の影から言う。
二人は大慌てで離れる。
「あっ、ああ、終わったぜ」
「うっ、うん、私も動けるようになったわ」
「そう、良かったわね。 皆、出てきてもいいって」
ぞろぞろと皆外に出てくる。
そしてようやく…。
ガタッ…
「いたた…なんでいきなり墓石が振ってくるんだ?」
魅魔が復活した。
「魅魔様…生きてた」
「ううん…なんだか知らない奴がたくさんいるな…」
魅魔は咲夜、レミリア、妖夢、幽々子、紫を見て言う。
魅魔はまず咲夜の前に立つ。
「な、何?」
「お前…人間か…」
「そ、そうよ」
「レアだな…それに…」
「それに?」
「騙している」
「なっ何をよっ!」
「………………胸………………」
「騙してなんかいないわよっ! 私は結構大きいんですからねっ!」
「ほぅ…ならばその証を見せてみな」
「えっ…それは」
「自信があるのだろう…ならば見せてもいいはずだ」
「ええ~いっ…ならばとくと見なさい!」
少女達拝見中…………しばらくおまちください………………
「どうよっ」
「確かにそれなりにはあるな。 霊夢や魔理沙以上に…」
「確かに私達よりは大きいのは認めるわ」
「ああ、くやしいがな…」
霊夢と魔理沙は意見一致だ。
「で、このちいさいのは?」
「いきなりあって小さいとはな…私はレミリア・スカーレット。 吸血鬼だ」
「吸血鬼…ねぇ。 貴女はあの館の主なのかい?」
「そうだが…」
「大変じゃない?」
「まあ、いろいろとな…咲夜が…」
「お嬢様!」
「へぇ…咲夜はレミリアに仕えているのかい…優秀な使いだな。 それに比べて私の使いは…」
魅魔は魔理沙の方をちらちら見ながら言う。
「魅魔様…そりゃないぜ」
「魔理沙…あんた任務成功した事あるかい?」
「う…あの頃は無かったけど…」
「今は成功してる…と」
「まあ」
魔理沙は魅魔の言葉にぺこぺこ頭を下げている。
「魔理沙にも苦手な物ってあったんだ」
「魅魔は魔理沙の上司みたいなものだしね…」
「では、次!」
魅魔は妖夢の前に立つ。
「あんた…どっちなんだい?」
「失礼な、私はれっきとした女性です」
「いや、そういう意味じゃなかったんだが…人間と幽霊の感じがどっちもとれるからさ」
「あ、そういう事でしたか…私は魂魄妖夢、半人半霊です」
「魂魄…? ああ、あの爺さんの娘か!」
「お爺様を知っているのですか?」
「ああ、いい話相手になってるよ…」
「それで…今はどこに」
「さあ? その辺ふらふらしてるんじゃないのか?」
「お爺様…」
「あいつはいつも『私には可愛い娘がおってな…』と言っていたぞ」
「もう、恥ずかしいなぁ」
「次は…貴女ね」
魅魔は幽々子の前に立つ。
「あんたは私と同じような感じだな」
「そうね…私死んでいるもの…でも、死者の文献に貴女の名前が無かったけど…」
「私はまだやる事がたくさんあるんでね…まだ死ねないのさ」
「それはそうと、申し送れました…私、白玉楼の主 西行寺幽々子といいます」
幽々子は丁寧に挨拶を交わす。
「ああ、こちらこそ宜しく。 私は魅魔…ただの悪霊だ」
「私達、気があいそうですね」
「そうだな…」
「さて最後だが…」
「すやすや…」
バシッ
「痛いわねぇ…せっかく気持ちよく寝てたのに」
「魅魔が紫の事気になるってさ」
霊夢が紫をたたき起こす。
「おはよう」
「ああ、おはよう…それであんたが紫かい?」
「そうよ…私が紫よ」
「平和な生活をしてるな…」
「ええ、生活は式に任せて私は寝てるのよ」
「羨ましいな…」
「これで、全部か…そういやさっきの鬼の子供はどうした?」
「この下に埋まってるわよ…」
霊夢が墓石の下を指差す。
「へぇ…この下に…」
魅魔は墓石に近付き、持ち上げる。
「………………いないぞ………」
「え?」
そこにいた全員が同じ事を言う。
「どこに行ったのかしら?」
皆で考えてると…
「ただいま~」
萃香が振ってきた。
「あんたどこ行ってたの?」
霊夢が問う。
「ちょっとお腹すいてたから紅魔館に行って、食べ物物色してきた」
「え?」
咲夜が驚く。
「確かに無くなってたわ…私の好きなショートケーキが!」
咲夜は萃香が話した後、時間を止めて紅魔館へ戻り再びこの場へ戻ってきたのだ。
「咲夜…そんなの食べてたの?」
「私の仕事の後の楽しみが…」
咲夜は地面に膝をついて嘆く。
「萃香…また貴女にはお仕置きが必要なようね」
レミリアが戦闘態勢に入りながら萃香に近付く。
「ねぇ、紫。 ショートケーキ出してよぉ…」
「え~、別に私関係ないし」
「もう、お酒あげないから」
「それは困るわ。 分かったわ、手を貸しましょう」
「それ~~っ、ゆかりんマジック!」
紫は自分の隙間に入る。
そして…
出てきた時には…
「隙間の中に思いを寄せて、唸る正義のまじかるアンブレラ、魔法少女まじかるゆかりん!」
「もう何がなにやら…」
「さて、お困りの咲夜ちゃん、欲しい物は何かな?」
「ショートケーキ…」
「まじかるゆかりんにお任せ。
そーれっ、傘をくるくる、私もくるくる、ショートケーキよ、でてきて~っ」
博麗神社の上に大きな隙間が出てきてそこからショートケーキが振ってきた。
どーんっ
「ねぇ…大きすぎない?」
紫が出したケーキは直径4メートルはあろうかと思われる巨大なケーキ。
「ま、まぁいいんじゃない。 ほら、咲夜ちゃんどうぞお食べ」
「皆で食べるか…」
皆で巨大なケーキをつつきだした。
「あ、確かに美味しいわね」
「随分と甘いな…これ」
「私…好みかもしれない」
「咲夜はこれが好きなのね…確かに美味しいわ」
「この味…これぞ楽しみにしていた味…疲れが吹き飛ぶわ」
「確かに…甘くて、濃厚な味です」
「妖夢、これの作り方調べといてね」
「私も一口…」
皆はまじかるゆかりんが出したケーキを食べている。
「私も食べていい?」
萃香が紫に問う。
「咲夜に聞いたら」
「ねぇ、咲夜…私もいい?」
萃香は可愛げに咲夜に聞く。
「ま、まぁいいわ。 本来ならナイフ投げの的になってもらうところだけど…」
「わーいっ」
萃香もそれに加わる。
そしてケーキはあっという間に無くなってしまった。
「ふーっ、久々にお腹一杯になったわね」
「魅魔様は食べなくてよかったのですか?」
「ああ、私は幽々子と違って人様の物は食べれないからねぇ…私は…」
魅魔は魔理沙に近付き…魔理沙の顎をくいっと上げる。
「こっちの方がいいねぇ」
「なっ…」
「あ、やっぱり。 私達気があうわねぇ」
幽々子は妖夢の事をちらちら見ながら言う。
「魅魔様、後にしてくれないか…ここじゃ皆が見てるぜ…」
「恥ずかしいのかい?」
「そりゃあ、私と魅魔様だけの約束だから…」
「はははっ、そんな間に受けるな。 冗談だよ」
「冗談なの? だったら魅魔あんたはどうやって霊力を補充してるの?」
「私はそこらに幾十にもいる妖精や幽霊から霊力をすこしづつ頂いてるのさ。 無断でな」
「それって…」
「達の悪い結界よね」
霊夢、紫が言う。
いつの間にか紫はもとの姿に戻っていた。
「霊夢、そろそろ夜よ」
「じゃあ、今日は皆に夕飯作ってあげようかしら」
ぴたっ
魔理沙が霊夢のおでこに自分のおでこをあわせる。
「何よ…」
「いや、熱でもあるんじゃないかってな」
「失礼ね、偶にはいいでしょ。 まあ、夕飯といっても、縁側で食べられる軽食みたいな物だけどね。 と、いう事で咲夜、手伝ってね」
「やっぱり? 仕方ないわねぇ…」
霊夢と咲夜は台所へと歩いていった。
「はい、お待たせ」
「出来ましたよ」
台所へ行って戻ってくるのに一分とかかっていなかった。
「は、早いな」
「いやぁ、私も気付いたら出来てて…咲夜が時間止めてやっちゃったみたい」
「料理は私の得意分野ですからっていってもお団子とお餅位ですけどね…」
「風情よねぇ…月を見ながらこうして幽々子と話すなんて…久々ね」
「まったくねぇ…妖夢~、追加お願いね」
「はい、ただいまお持ちします」
「それ持って来たら、一緒に食べましょう」
「そうよ、一人で食べても美味しくないわよ」
「はっ、はいっ!」
幽々子と紫は既に楽しんでいる。
それに妖夢も加わり三人で楽しんでいる。
「さすが咲夜ね、団子や餅の作り方も熟知してるなんて」
「確かにこの弾力感…普通は真似できないぜ」
「この作り方教えて欲しいわ」
霊夢、魔理沙、アリスで談話しながら手にとって食べている。
「咲夜、それ私にも頂戴」
「はい、お嬢様。 あーん」
「もうっ、恥ずかしいなぁ。 あーん」
ぱくっ、もぐもぐ…
「いかがですか? お嬢様」
「美味しいわね…今度フランやパチェ、美鈴にも食べさせてあげたらどうかしら?」
「それはいいですわね」
こちらはこちらでいい雰囲気。
「で、萃香」
「何? 続きやる?」
「いや、あの事は水に流して楽しもうじゃないか。 今日は私が皆と出会った記念日だ」
「そうだね、霊夢にこんな友達がいるなんて知らなかったし…」
「ただ二度と私の事を『おばさん』と呼んだら…」
「わ、分かってるよ。 魅魔お姉様」
「うむ、それで良し」
「でも、私の方が強いよ」
「なんだと、この、うりうり」
「あははっ、痛いよ、魅魔お姉様」
この二人は仲直りが非常に早く、既に親友だ。
「なんかあの二人、母と子みたいね」
「ああ、羨ましいぜ」
「何、魔理沙。 魅魔がお母さんだったらいいの?」
「い、いや、そういう意味ではなかったんだが…」
それぞれ思い思いの事を語りながら時は過ぎていった。
「あ、あれ蛍じゃない?」
「ああそうだな。 で、近くにいるのがリグルか」
「リグルも蛍と一緒にいると輝いているわね」
「でも、なんでお嬢様を狙っていたんでしょうね」
「さあ? でも偶に蛍を遠くから眺めるのも風情があるものだな」
「あら、貴女からそのような言葉がでてくるなんて…」
「悪いか?」
「いえ…別に。 蛍ね、白玉楼にも最近は少なくなったわ…」
「ちゃんと手入れはしてるんですけどねぇ…」
「蛍はある特定の場所じゃないと生存できないのよ。 そう、そこは正に隔離された境界…」
「幻想郷も変わってないようで結構変わっていくものだな…」
「でも、まだ蛍はたくさんいる場所があったよ、こないだ見つけたんだ」
「どうやってみつけたの?」
霊夢が萃香に問う。
「霧になってふらふらしていたら…蛍の群生を見つけてね」
「へぇ…まだまだ幻想郷は奥深いわね」
「ここらで一発景気良く花火でも打ち上げるか」
「花火ってどうするの?」
いきなりそんな事を言い出した魅魔に霊夢が問う。
「萃香、頼んだよ」
「任せといて、え~っと私のこれとこれを合わせて…」
「さあ、皆良く見るんだ!」
「超高密度燐禍術、花火ヴァージョン!」
萃香は地面を思い切り殴りつけると、地面から天高く伸びてく一条の光…そして…。
夜空に大輪の花を咲かせた。
「わあぁぁぁ…」
「綺麗だぜ…」
「花火なんて、初めて見たわ…」
「いつ見ても夏の花火はいいわね」
「夜空に輝く弾幕の花みたいだな」
「幽々子様…あれが花火ですか…」
「そうよ、夏には似合う物なのよ」
「花火…いつ見ても輝かしい物ね」
夜空に輝く花火に生きている者は心を惹かれる。
霊夢はこんな事を考えていた。
(それにしても、こいつら皆もとは敵だったのよね。
今じゃ…まあいいか…今が今ならそれで十分ね。
これからの事なんて分かる物じゃない。
これからの事は…これから考えればいいのよ。
うん…)
霊夢は自分の能力に気付いていないのだ。
敵味方関係なく全ての者に平等なのが博麗神社の巫女。
そこには生きている者を惹く魅力がある。
それは誰にも気がつかず、気付こうともしない。
それを分かっているのは…そう…ここは『幻想郷』だからなのだ。
それは気温と共にそう感じさせる。
「暑いわね~」
霊夢は縁側に座りながら言う。
「まったくだぜ…なんなんだ、この暑さは…」
隣に座っていた魔理沙も同じ事を言う。
「あんたはそんな黒い服を着ているから余計に暑いのよ」
「でも、私が黒い服以外で似合う服あるか?」
「ほら、昔の白いのとか?」
「あれはやめてくれ…昔の嫌な記憶が蘇る…」
「そう?」
二人で暢気な会話をしていると…
「久しぶりだね」
「あんたまだいたの?」
霊夢の後ろからひょっこりと現れた一人?の悪霊。
「まだって、失礼だな、相変わらず…私はここの祟り神だよ」
「あ~、そうでしたそうでした」
「魅魔様、お久しぶりです」
「やあ、魔理沙。あんたも久しぶりだね。
上司をそそのかして結構な人気じゃないか」
「あはは…恐縮するぜ…」
「そういえば…魅魔は暑さ感じないの?」
「私は精神体だからねぇ…暑い寒いはかんじないのさ」
「羨ましいわね」
「でも触ると…」
魔理沙は魅魔の体に触れる。
「妙に人間味のある温かさしてるから不思議なんだよな」
「確かに温かいわね」
「私もまだ人間らしさがあるってことかな」
二人が魅魔相手に話していると…
「あつ~~~~いっ!!!!」
いつの間にか萃香が縁側に座っていた。
「暑いのはこういう季節なんだから仕方が無いの」
「水撒いてよ~っ」
「打ち水ねぇ…やると私が暑くなるから嫌」
「えぇ~~」
萃香が横でじたばたしているのを…
「霊夢…この子は誰だい?」
「あ、こいつ? 一応…鬼」
「一応ってなによ」
「へぇ~、鬼ねぇ、いたんだ」
魅魔は萃香の周囲を回りながら見る。
「何…おばさん」
魅魔の動きが止まった。
「ばっ、馬鹿ッ!」
魔理沙が大急ぎで萃香の口を抑える。
「ふぁ、ふぁにふふの~!? ふぁにさ」
「あの言葉は禁句なんだよ!」
「あーあ、しーらないっと」
「この子供の鬼には大人の躾が必要なようね…」
「ぷはっ! 魔理沙、離して!」
「いーやっ! 離さない、今離すと何いうか分かったものじゃない!」
「魔理沙…その鬼を離しなさい!」
「ううっ………」
魔理沙は萃香を抑えながら後ずさりする。
「魔理沙が離さないならっ!」
萃香は霧となり魔理沙の腕から抜け出して実体化する。
「怒ると皺が増えるよ? おばさん」
「こんのガキ! いったらいけない事を何度も何度も…覚悟しな!」
魅魔は矛槍を出し構える!
萃香もそれに応じて構える!
「あー、ここで戦うのやめてくれないかな~」
「霊夢、無理だぜ…ああなったら…」
二人がぶつかろうとしていた瞬間…
「お邪魔しまーすっ」
ガン!
ゴン!
二人の頭にお墓が振ってきてクリティカルヒット!
二人はお墓に潰された。
「紫!」
「魅魔様…なんか本当に死んだみたいだぜ」
魔理沙は魅魔の上に振ってきたお墓を見て言う。
「あら、邪魔したのが邪魔だったかしら?」
「ここで戦ってもらっちゃ困るわ…境内の掃除、誰がやると思っているのよ」
「あら…あの姿は…」
誰かが階段を上って来た。
「4657…4658…4659…4660!」
トン。
「はぁぁ~~疲れた…こんなに長いのね、ここの階段」
「アリス…何してるの?」
アリスは後ろから声をかけられ振り向く。
そこには…
縁側に座っている霊夢。
変な体制でいる魔理沙。
宙から隙間をあけてみている紫。
そしてお墓が二個。
「何…この惨劇…」
「ちょっとね…鬼と悪霊の戦いを防いだのよ。 で、アリスは何をしていたの?」
「私? 私は博麗神社の長い階段を数えたのよ」
「あれ…数えたの? 上り終わって下を見ると見えないのに?」
「全部で4660段あったわ…さすがに疲れたわ…ちょっと休ませて」
「ごくろうさま…はい、お茶」
「ありがとっ」
「で、どうするんだ? この惨劇…」
「いいんじゃないの? どちらも死ななそうだし…」
「まあね」
「お墓追加しとく?」
「おもしろそうだから追加しといて」
「おまかせあれ」
ガン
ゴン
二人のお墓が二段と豪華になった。
「やっぱり暑いわ…」
「紫、あんたの能力で涼しくならない?」
「なる事はなるわよ…ちょっとまっててね」
紫は隙間に入り込みごそごそと漁る。
「あったわ~…はい」
紫が出したのはチルノだった。
「いきなり何するのさ~この隙間妖怪!」
「あなたの能力が役にたつのよ」
「私の能力?」
「そこの寒いの、涼しくしてくれ」
「なめないでよね!
凍符『パーフェクトフリーズ』!」
暑さでだらけている霊夢達にはチルノの攻撃が心地よく感じた。
「なっ…効いてないの!?」
「あ~、涼しい」
「ならっ!」
「あ~、紫。 もういいわよ」
「はい、さよーならー」
紫は指を鳴らすと隙間が開いた。
「わっ、すっ、すきまが~、お、覚えてろー」
チルノは隙間に呑まれた。
「ふう、若干涼しくなったわね…」
「それにしても…暑くないの…アリス、それに紫」
「この程度の暑さじゃどうってことないわよ…ねぇ紫」
「そうね…これじゃまだまだね」
「でも、萃香は暑いって言っていたぜ?」
「あの子は子供だから」
「子供ねぇ…」
「子供…」
皆してお墓を見る。
「あ、もうこんな時間なの」
霊夢が掛け時計を見て言う。
「おやつの時間よ、霊夢」
「何がでるかな?」
紫、魔理沙は霊夢に急かす。
「なんで、あんたたちの分まで出さなきゃいけないわけ?」
「皆の前でのうのうと一人だけ食べるのか?」
「霊夢がそんなに酷いとは思わなかったわ…」
「太るわよ…」
ピクッ…
「ゆかりーーーーッ!!!!」
「きゃあああ、助けてくださいまし~っ」
「まてーーーッ! 逃げるな~!」
隙間に出たり入ったりの紫。
それを追いかける霊夢。
それはまるで…
「もぐらたたきみたいね」
見ていたアリスが呟く。
「じゃあ、こうしたらいいんじゃないか」
「何?」
霊夢と紫は動きを止めて魔理沙の方を見る。
「紫が叩かれなかったら私たちにおやつを分ける。
紫が叩かれたら紫にはおやつを出さない。
これでどうだ?」
「いいわね」
「私はとことん逃げるわよ」
「私の『夢想封印 集』から逃れられると思って?」
「じゃあ、開始だぜ~!」
そんなこんなで紫と霊夢の紫叩きが始まった。
ひょいっひょいっ
「こンの!」
「ほっほっほ~、全然見当違いの方ね」
紫は逃げる!
霊夢は追う!
「こうなったら!
『夢想封印 集』!」
霊夢はスペルを発動した。
集符が霊夢の周囲を回り始める。
「あ、セコイわよ、それ」
「セコイも何もあったもんじゃないわ!」
紫は出たり入ったりを繰り返す。
「めんどくさいわね…逝きなさい! 紫!」
「逝きなさいってひどいわねぇ…!!!!」
紫の出たところに集符が向かってくる!
「これで当たりね」
バシッ
「やったぁぁ~、私の勝ちね!」
霊夢はVサインを天に翳す。
が…。
「あれっ…」
当たったはずの紫はそこにはいない。
「残念ね、あれはダミーよ」
「くぅぅぅぅ~~~~! そんなに私のおやつ食べたいの!?」
「勿論よ、だって最高級品ですもの…」
「なら、行け! 集符!」
紫に向かっていた集符の速度が落ちて次第に低速になり地面に落ちた。
「えっ、なんで?」
「上を見てごらんなさい」
「上?」
「ああっ、スペル制限時間がっ」
「そうよ、きれちゃったのよ」
「おおーっと、霊夢のスペル発動時間がきれた。
さあ、これからどうするつもりだ?」
魔理沙は実況している。
「うーん、とりあえず誘導する博霊アミュレットを使うべきかと…」
アリスもサポートしている。
「どうする…下手に弾を出しすぎると霊力ぎれになるし…なら!」
霊夢は袖口からある物を取り出した!
「おお~っと、あれは~~~!!!!」
「博麗の槌ね」
どうやって袖口に入っていたかは気にしないとして、進行はどんどん進む。
「ちょっとそれ卑怯じゃない!?」
「これが一番いいのよ! 霊力も符力も使わないし!」
ブン!
「きゃあ、当たったらどうするのよ! この私の可愛い顔に傷がつくじゃない!」
「そんな事はお構いなしよ!」
霊夢は大きな槌を体一杯に振り回しながら紫に攻める!
「危ないわね! こうなったら!」
紫は隙間に身を潜めた。
「どこから来る…」
博麗神社に妙な静けさが宿る。
フォウウウン
「そこかぁ!!!!」
隙間が開く直前に霊夢は既に槌を天高く振り上げている!
隙間が開くと…
「今度はなによ!」
チルノが出てきた。
「えっ…」
「いきなり何!?」
チルノは目の前にある槌に驚きを隠せない。
「御免! チルノ! 止まらないのよね!」
ガァァァン!!
「あ…へぇぇぇ………」
チルノはその場に倒れのびてしまった。
「紫! あんたこそ卑怯じゃないの!」
「これは知略よ、ち・りゃ・く」
「その喋り方がまたむかつく!」
そうして紫と霊夢の戦いは更に激しさを増していく。
「はぁ…はぁ…はぁ…」
「ふぅ…ふぅ…ふぅ…」
「紫! もういい加減にしなさい! 見てよこの惨劇を!」
霊夢が指した場所には紫に無理やり連れてこられ、霊夢に叩かれた者達の無残な姿があった。
「まずいわね…これ以上持ってくる人もいないし…」
紫が考えていると霊夢が…
「っ…おらぁ!」
ぶんっ!
「きゃ…危ないわねぇ…じゃ」
すぅっ
紫は隙間に潜ってしまった。
「さて、どうするかな…」
霊夢は槌を地面に立てて待つ。
「どうなると思う…アリス」
「あれが霊夢にはあるわ…ただまだ気付かないだけ」
「ああ、あれか…今は萃夢想風になっているからな…」
「えーと、えーと…あっ!」
霊夢は閃いた。
「私にはあれがあるじゃない…」
霊夢は自分でうんうんと頷くと即座に実行した。
「幻想空想穴!」
霊夢はその場から消えた。
「さて、どうなると思う…魔理沙」
「紫が嫌でも出てくるだろうな」
「……………」
しばらく静寂が博麗神社に訪れる。
「痛ッ!」
突如静寂が破られた。
紫が隙間から落ちてきた。
「もうっ! 何するのよ!」
「これで私の勝ちね。 あんたにおやつは無しよ!」
「仕方ないわねぇ…」
「ぱく……もぐもぐ………アリス、決着がついたみたいだぜ」
「はむっ……もぐもぐ………そうね、長かったわね」
「ちょっとあんた達何食べてるのよ!?」
「「おやつ」」
二人声が揃う。
「あんたたちねぇ…紫が負けたらおやつは無しっていったでしょ!?」
「ああ、『紫には無し』っていったぜ」
「つまり、食べれないのは紫だけなのよ」
「はめられたわ…」
「一番損なのはわたしじゃない…叩かれ損よ…時間も夕方だし…」
「え!? 2~3時間もやっていたの!?」
「見てる方も長かったわよ」
「そういや…この饅頭、お墓に祭っておくか?」
「おもしろそうね、いいんじゃない」
「どうぞ勝手にして…」
魔理沙は魅魔のお墓にお饅頭を祭った。
「魅魔様、お饅頭だぜ」
「萃香、お饅頭よ」
「…………」
以前反応が無い…。
「なぁ、紫。
これ、真面目に死んでるんじゃないのか?」
「大丈夫よ…多分…」
魔理沙がまじまじとお墓を見つめる。
「大丈夫、死んでないわよ」
鳥居の上から声がした。
「誰?」
「『誰』と聞かれたからには」
「答えてあげると教わった」
「冥界の桜を咲かすため」
「地上の事などお構いなし」
「幽霊と亡霊の堺を築く」
「傍迷惑な自己満足」
「西行寺幽々子!」
「魂魄妖夢!」
「私達が目指す明日には」
「ブラックホール、食べ物道中が待ってます」
「「決まった!」」
二人の背中に大きな桜が見えたような気がした。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
その場が凍りついた。
「だからやめましょうっていったんですよ! 幽々子様!」
「こういうのはノリよノ・リ」
「うう、とっても恥ずかしいですよぅ…」
「幽々子…あんたもはっちゃけてるわねぇ…」
紫が地面に横になりながら話しかけてきた。
「あんた『も』って事は紫もね」
「まあね、既にはっちゃけてるわよ」
「幽々子様! どうするんですか!」
「何を?」
「何を? じゃありません! これを見てください」
「ん~?」
妖夢が指差した先には未だ凍り付いている霊夢、魔理沙、アリスがいた。
「どうしましょう」
「はぁ…幽々子様、責任とりましょうね」
「大丈夫よ…いずれ戻るわ」
「いずれですか」
「あら、この惨劇は何?」
「どうやら一騒動あったみたいですね」
そこには凍り付いている、霊夢、魔理沙、アリス。
鳥居の上でやりとりしている幽々子、妖夢。
地面に倒れていて頭に大きなばってんが書いてある紫。
そして…相変わらずなお墓が二つ。
「ほら、来たじゃない。 時間のスペシャリストが」
「え? 私?」
咲夜が自分?という風に驚く。
「だって、咲夜。 用は凍った霊夢達を治してって事じゃない?」
「そうよ、わかってるわねぇ、レミリア」
「あなたに『レミリア』なんて馴れ馴れしく呼ばれる筋合いは無いけどね」
「仕方ないじゃない…呼び方分からないんだから」
「まあ、確かにね」
「で、どうされます、お嬢様?」
「どうされますっていわれてもこのままじゃ可愛そうでしょ」
「そうですね…わかりました。 私に任せてください」
「頼もしいわぁ」
「かたじけないです。 私と幽々子様の為に…」
「後で御裾分けを貰うわね」
「仕方ないです…」
咲夜は徐に霊夢に近付いた。
「霊夢、ちょっとごめんね」
咲夜は唇を霊夢の唇に近づけた。
「ちょ、ちょっと何するつもりなの? 咲夜」
「何って起こすにはこれが一番なのは昔から決まっているのですよ」
「なるほど…王子様のキスが一番というわけね」
紫は隙間に座りなおして言う。
「咲夜…霊夢にキスするのは私がやるわ…」
「お嬢様が!?」
「問題でもある?」
「いや、特には無いですが…」
「なら私にやらせて」
「はい」
咲夜は霊夢から離れて、レミリアが近付く。
「………」
「お嬢様、よだれよだれ…」
「あっ…ごくっ」
レミリアは唾を飲む。
「いくわよ…霊夢」
レミリアは霊夢の肩に手を置き…
「きゃーーーー」
「どうするんでしょう…」
「ほら、早くしなさい」
「………………咲夜」
「はい」
咲夜は時を止めた。
「お嬢様、どうぞ」
「ありがとね、あんなに見られていたんじゃムードも何も無いわ」
ちゅ…。
レミリアは霊夢の唇に自分の唇を重ねた。
「んっ………んん!!????」
霊夢は永き凍りから解き放たれた。
が、今の現状が霊夢には分かっていない。
幽々子と妖夢の登場シーンを見て凍りつき、
目がさめたらレミリアとキスをしている。
「あ、目が覚めた」
レミリアは霊夢から離れる。
「なっ、なっ、なんで私とあんたがキスをしているわけ!?」
「霊夢を起こす為だもん」
レミリアが口元に手を持っていき体をくねらす。
「ああーーーーもうっ!!!! 何がなんなのよ!? ちゃんと説明して」
「つまり王子様のキスで目覚めるわけ、おわかり」
咲夜が説明する。
「なるほどね…なんとなく分かったわ」
「それにしても味気ないキスねぇ…」
「まったくよ…だからお子様なのよ」
「私にはあれでも刺激が十分です」
時が止まっている状態なのに、いつの間にか動いている紫、幽々子、妖夢。
「いつの間に!?」
「貴女程度の力なら破れるわよ」
「そうよねー」
紫と幽々子は意気投合だ。
「あれ、妖夢は?」
「私は幽々子様に起こされました」
「で、魔理沙とアリスはどうするの?」
「霊夢、あなたに任せるわ」
咲夜は霊夢の肩に手を置き、そう伝える。
「な、なんで私が?」
「そりゃあ、霊夢と魔理沙はつきあい長いでしょ」
「そうよ、人前でも気にしないでしょ」
「若いのはいいことよ」
紫、幽々子、レミリアが急かす。
「うーん…しょうがないわねぇ」
霊夢は魔理沙に近寄る。
「魔理沙…」
ちゅ…んむっ…。
霊夢は魔理沙に口付けをした。
「んっ…んむっ…れろっ」
硬直が解けた魔理沙は霊夢の唇に舌を入れた。
「んっ…ちょっ…魔理沙っ!」
「霊夢、大胆だな…皆の前でするなんて…」
目を覚ました魔理沙はいきなり大胆な事を言う。
「こ、これはしかたなかったのよ! 魔理沙を起こす為なのよ!」
「私を起こす為?」
「貴女は幽々子と妖夢の演出を聞いて凍っちゃったのよ」
紫が説明をする。
「ああ、あれね…」
魔理沙は納得する。
「で、アリスは誰が起こすんだ」
「そりゃあ、決まってるわよ」
皆して魔理沙の方を見る。
「な、なんで私を見るんだ!」
「なんでって…」
「当たり前でしょ」
「なんで当たり前なんだ!?」
魔理沙は恥ずかしそうに問う。
「だって、貴女達よく二人っきりでいるじゃない」
紫が言う。
「食事する時も、お風呂入るときも、寝る時も…」
「なんでそこまでっ…」
「紫の能力ならねぇ」
幽々子がそんなの簡単じゃないみたいな顔をして言う。
「仕方ないな…全員向こう向いててくれ」
「え~、いいじゃない減るもんじゃいし」
「振り向いたらマスタースパークぶっ放すぜ…」
魔理沙は既に魔力の篭った恋符を取り出し威圧する。
「う…分かったわよ」
「じゃあ、私達は神社の中に居るわ、終わったら呼びに来てね」
霊夢が仕方ないなぁ…みたいな顔をして、紫が皆を中に入れる。
「ふぅ…ようやく二人きりになれたぜ…」
魔理沙はアリスの事をじっと見る。
「何を考えてるんだ…私は、アリスを起こす為だ。 アリス…行くぜ…」
「ちょっと皆集まって」
紫が徴集を呼び掛ける。
「何?」
「これから面白い物を…ね」
「面白い物?」
「ちょっと隙間を開けて…」
紫が隙間を開けるとそこには魔理沙とアリスのビジョンが!
「随分躊躇っているようね」
「さすがに恥ずかしいんじゃないですか? 人がいなくても…」
「ああんっ…もうっ、そこよっ」
「幽々子様、楽しそうですね…」
そんな感じで魔理沙とアリスを覗き見している人又は妖怪。
「アリス…」
………ちゅ…
魔理沙の唇がアリスの唇に触れた。
「えっ…あれっ……魔理沙…私どうしていたの?」
「アリスは幽々子と妖夢の演出を聞いて凍っていたんだ。 そこで私が解いた」
「あっ、ありがとっ…でも、どうやって?」
「どうやってって…あの…その…」
「魔理沙らしくないなぁ、はっきりいいなさいよ」
「アリスに…その…キス………したんだよ」
魔理沙は帽子を深くかぶりアリスと目を合わせないようにしている。
「えっ………」
その場に流れる気まずい雰囲気…。
「なんで…こんなにドキドキするの?」
「あの二人…何かあるわね」
「まだまだテクニックがたりないわね」
「もっと強引にならなくっちゃ駄目よ」
「そこで押し倒す!」
「幽々子様、それをやっては発禁を言い渡されます!」
それぞれ賛否両論だ。
「そろそろいい時間かしら? じゃあ、ちょっと行って来るわね」
「どこに?」
「あの二人の所よ、このままじゃいつまで経っても呼びにこなそうだもの」
「なるほど…」
紫は二人の所へ向かった。
「アリス…」
「魔理沙…」
二人の距離が近付いていく。
「お二人さん、終わったかしら?」
紫は玄関の影から言う。
二人は大慌てで離れる。
「あっ、ああ、終わったぜ」
「うっ、うん、私も動けるようになったわ」
「そう、良かったわね。 皆、出てきてもいいって」
ぞろぞろと皆外に出てくる。
そしてようやく…。
ガタッ…
「いたた…なんでいきなり墓石が振ってくるんだ?」
魅魔が復活した。
「魅魔様…生きてた」
「ううん…なんだか知らない奴がたくさんいるな…」
魅魔は咲夜、レミリア、妖夢、幽々子、紫を見て言う。
魅魔はまず咲夜の前に立つ。
「な、何?」
「お前…人間か…」
「そ、そうよ」
「レアだな…それに…」
「それに?」
「騙している」
「なっ何をよっ!」
「………………胸………………」
「騙してなんかいないわよっ! 私は結構大きいんですからねっ!」
「ほぅ…ならばその証を見せてみな」
「えっ…それは」
「自信があるのだろう…ならば見せてもいいはずだ」
「ええ~いっ…ならばとくと見なさい!」
少女達拝見中…………しばらくおまちください………………
「どうよっ」
「確かにそれなりにはあるな。 霊夢や魔理沙以上に…」
「確かに私達よりは大きいのは認めるわ」
「ああ、くやしいがな…」
霊夢と魔理沙は意見一致だ。
「で、このちいさいのは?」
「いきなりあって小さいとはな…私はレミリア・スカーレット。 吸血鬼だ」
「吸血鬼…ねぇ。 貴女はあの館の主なのかい?」
「そうだが…」
「大変じゃない?」
「まあ、いろいろとな…咲夜が…」
「お嬢様!」
「へぇ…咲夜はレミリアに仕えているのかい…優秀な使いだな。 それに比べて私の使いは…」
魅魔は魔理沙の方をちらちら見ながら言う。
「魅魔様…そりゃないぜ」
「魔理沙…あんた任務成功した事あるかい?」
「う…あの頃は無かったけど…」
「今は成功してる…と」
「まあ」
魔理沙は魅魔の言葉にぺこぺこ頭を下げている。
「魔理沙にも苦手な物ってあったんだ」
「魅魔は魔理沙の上司みたいなものだしね…」
「では、次!」
魅魔は妖夢の前に立つ。
「あんた…どっちなんだい?」
「失礼な、私はれっきとした女性です」
「いや、そういう意味じゃなかったんだが…人間と幽霊の感じがどっちもとれるからさ」
「あ、そういう事でしたか…私は魂魄妖夢、半人半霊です」
「魂魄…? ああ、あの爺さんの娘か!」
「お爺様を知っているのですか?」
「ああ、いい話相手になってるよ…」
「それで…今はどこに」
「さあ? その辺ふらふらしてるんじゃないのか?」
「お爺様…」
「あいつはいつも『私には可愛い娘がおってな…』と言っていたぞ」
「もう、恥ずかしいなぁ」
「次は…貴女ね」
魅魔は幽々子の前に立つ。
「あんたは私と同じような感じだな」
「そうね…私死んでいるもの…でも、死者の文献に貴女の名前が無かったけど…」
「私はまだやる事がたくさんあるんでね…まだ死ねないのさ」
「それはそうと、申し送れました…私、白玉楼の主 西行寺幽々子といいます」
幽々子は丁寧に挨拶を交わす。
「ああ、こちらこそ宜しく。 私は魅魔…ただの悪霊だ」
「私達、気があいそうですね」
「そうだな…」
「さて最後だが…」
「すやすや…」
バシッ
「痛いわねぇ…せっかく気持ちよく寝てたのに」
「魅魔が紫の事気になるってさ」
霊夢が紫をたたき起こす。
「おはよう」
「ああ、おはよう…それであんたが紫かい?」
「そうよ…私が紫よ」
「平和な生活をしてるな…」
「ええ、生活は式に任せて私は寝てるのよ」
「羨ましいな…」
「これで、全部か…そういやさっきの鬼の子供はどうした?」
「この下に埋まってるわよ…」
霊夢が墓石の下を指差す。
「へぇ…この下に…」
魅魔は墓石に近付き、持ち上げる。
「………………いないぞ………」
「え?」
そこにいた全員が同じ事を言う。
「どこに行ったのかしら?」
皆で考えてると…
「ただいま~」
萃香が振ってきた。
「あんたどこ行ってたの?」
霊夢が問う。
「ちょっとお腹すいてたから紅魔館に行って、食べ物物色してきた」
「え?」
咲夜が驚く。
「確かに無くなってたわ…私の好きなショートケーキが!」
咲夜は萃香が話した後、時間を止めて紅魔館へ戻り再びこの場へ戻ってきたのだ。
「咲夜…そんなの食べてたの?」
「私の仕事の後の楽しみが…」
咲夜は地面に膝をついて嘆く。
「萃香…また貴女にはお仕置きが必要なようね」
レミリアが戦闘態勢に入りながら萃香に近付く。
「ねぇ、紫。 ショートケーキ出してよぉ…」
「え~、別に私関係ないし」
「もう、お酒あげないから」
「それは困るわ。 分かったわ、手を貸しましょう」
「それ~~っ、ゆかりんマジック!」
紫は自分の隙間に入る。
そして…
出てきた時には…
「隙間の中に思いを寄せて、唸る正義のまじかるアンブレラ、魔法少女まじかるゆかりん!」
「もう何がなにやら…」
「さて、お困りの咲夜ちゃん、欲しい物は何かな?」
「ショートケーキ…」
「まじかるゆかりんにお任せ。
そーれっ、傘をくるくる、私もくるくる、ショートケーキよ、でてきて~っ」
博麗神社の上に大きな隙間が出てきてそこからショートケーキが振ってきた。
どーんっ
「ねぇ…大きすぎない?」
紫が出したケーキは直径4メートルはあろうかと思われる巨大なケーキ。
「ま、まぁいいんじゃない。 ほら、咲夜ちゃんどうぞお食べ」
「皆で食べるか…」
皆で巨大なケーキをつつきだした。
「あ、確かに美味しいわね」
「随分と甘いな…これ」
「私…好みかもしれない」
「咲夜はこれが好きなのね…確かに美味しいわ」
「この味…これぞ楽しみにしていた味…疲れが吹き飛ぶわ」
「確かに…甘くて、濃厚な味です」
「妖夢、これの作り方調べといてね」
「私も一口…」
皆はまじかるゆかりんが出したケーキを食べている。
「私も食べていい?」
萃香が紫に問う。
「咲夜に聞いたら」
「ねぇ、咲夜…私もいい?」
萃香は可愛げに咲夜に聞く。
「ま、まぁいいわ。 本来ならナイフ投げの的になってもらうところだけど…」
「わーいっ」
萃香もそれに加わる。
そしてケーキはあっという間に無くなってしまった。
「ふーっ、久々にお腹一杯になったわね」
「魅魔様は食べなくてよかったのですか?」
「ああ、私は幽々子と違って人様の物は食べれないからねぇ…私は…」
魅魔は魔理沙に近付き…魔理沙の顎をくいっと上げる。
「こっちの方がいいねぇ」
「なっ…」
「あ、やっぱり。 私達気があうわねぇ」
幽々子は妖夢の事をちらちら見ながら言う。
「魅魔様、後にしてくれないか…ここじゃ皆が見てるぜ…」
「恥ずかしいのかい?」
「そりゃあ、私と魅魔様だけの約束だから…」
「はははっ、そんな間に受けるな。 冗談だよ」
「冗談なの? だったら魅魔あんたはどうやって霊力を補充してるの?」
「私はそこらに幾十にもいる妖精や幽霊から霊力をすこしづつ頂いてるのさ。 無断でな」
「それって…」
「達の悪い結界よね」
霊夢、紫が言う。
いつの間にか紫はもとの姿に戻っていた。
「霊夢、そろそろ夜よ」
「じゃあ、今日は皆に夕飯作ってあげようかしら」
ぴたっ
魔理沙が霊夢のおでこに自分のおでこをあわせる。
「何よ…」
「いや、熱でもあるんじゃないかってな」
「失礼ね、偶にはいいでしょ。 まあ、夕飯といっても、縁側で食べられる軽食みたいな物だけどね。 と、いう事で咲夜、手伝ってね」
「やっぱり? 仕方ないわねぇ…」
霊夢と咲夜は台所へと歩いていった。
「はい、お待たせ」
「出来ましたよ」
台所へ行って戻ってくるのに一分とかかっていなかった。
「は、早いな」
「いやぁ、私も気付いたら出来てて…咲夜が時間止めてやっちゃったみたい」
「料理は私の得意分野ですからっていってもお団子とお餅位ですけどね…」
「風情よねぇ…月を見ながらこうして幽々子と話すなんて…久々ね」
「まったくねぇ…妖夢~、追加お願いね」
「はい、ただいまお持ちします」
「それ持って来たら、一緒に食べましょう」
「そうよ、一人で食べても美味しくないわよ」
「はっ、はいっ!」
幽々子と紫は既に楽しんでいる。
それに妖夢も加わり三人で楽しんでいる。
「さすが咲夜ね、団子や餅の作り方も熟知してるなんて」
「確かにこの弾力感…普通は真似できないぜ」
「この作り方教えて欲しいわ」
霊夢、魔理沙、アリスで談話しながら手にとって食べている。
「咲夜、それ私にも頂戴」
「はい、お嬢様。 あーん」
「もうっ、恥ずかしいなぁ。 あーん」
ぱくっ、もぐもぐ…
「いかがですか? お嬢様」
「美味しいわね…今度フランやパチェ、美鈴にも食べさせてあげたらどうかしら?」
「それはいいですわね」
こちらはこちらでいい雰囲気。
「で、萃香」
「何? 続きやる?」
「いや、あの事は水に流して楽しもうじゃないか。 今日は私が皆と出会った記念日だ」
「そうだね、霊夢にこんな友達がいるなんて知らなかったし…」
「ただ二度と私の事を『おばさん』と呼んだら…」
「わ、分かってるよ。 魅魔お姉様」
「うむ、それで良し」
「でも、私の方が強いよ」
「なんだと、この、うりうり」
「あははっ、痛いよ、魅魔お姉様」
この二人は仲直りが非常に早く、既に親友だ。
「なんかあの二人、母と子みたいね」
「ああ、羨ましいぜ」
「何、魔理沙。 魅魔がお母さんだったらいいの?」
「い、いや、そういう意味ではなかったんだが…」
それぞれ思い思いの事を語りながら時は過ぎていった。
「あ、あれ蛍じゃない?」
「ああそうだな。 で、近くにいるのがリグルか」
「リグルも蛍と一緒にいると輝いているわね」
「でも、なんでお嬢様を狙っていたんでしょうね」
「さあ? でも偶に蛍を遠くから眺めるのも風情があるものだな」
「あら、貴女からそのような言葉がでてくるなんて…」
「悪いか?」
「いえ…別に。 蛍ね、白玉楼にも最近は少なくなったわ…」
「ちゃんと手入れはしてるんですけどねぇ…」
「蛍はある特定の場所じゃないと生存できないのよ。 そう、そこは正に隔離された境界…」
「幻想郷も変わってないようで結構変わっていくものだな…」
「でも、まだ蛍はたくさんいる場所があったよ、こないだ見つけたんだ」
「どうやってみつけたの?」
霊夢が萃香に問う。
「霧になってふらふらしていたら…蛍の群生を見つけてね」
「へぇ…まだまだ幻想郷は奥深いわね」
「ここらで一発景気良く花火でも打ち上げるか」
「花火ってどうするの?」
いきなりそんな事を言い出した魅魔に霊夢が問う。
「萃香、頼んだよ」
「任せといて、え~っと私のこれとこれを合わせて…」
「さあ、皆良く見るんだ!」
「超高密度燐禍術、花火ヴァージョン!」
萃香は地面を思い切り殴りつけると、地面から天高く伸びてく一条の光…そして…。
夜空に大輪の花を咲かせた。
「わあぁぁぁ…」
「綺麗だぜ…」
「花火なんて、初めて見たわ…」
「いつ見ても夏の花火はいいわね」
「夜空に輝く弾幕の花みたいだな」
「幽々子様…あれが花火ですか…」
「そうよ、夏には似合う物なのよ」
「花火…いつ見ても輝かしい物ね」
夜空に輝く花火に生きている者は心を惹かれる。
霊夢はこんな事を考えていた。
(それにしても、こいつら皆もとは敵だったのよね。
今じゃ…まあいいか…今が今ならそれで十分ね。
これからの事なんて分かる物じゃない。
これからの事は…これから考えればいいのよ。
うん…)
霊夢は自分の能力に気付いていないのだ。
敵味方関係なく全ての者に平等なのが博麗神社の巫女。
そこには生きている者を惹く魅力がある。
それは誰にも気がつかず、気付こうともしない。
それを分かっているのは…そう…ここは『幻想郷』だからなのだ。
朝から良い物を読ませて頂きました♪
頑張ってください。
レティも隙間にいたりするんだろうか?
そしてロケット団な白玉楼コンビ&フリーズの解除方法は抱腹絶倒ものでした
最後はほのぼのいい話で〆
実によい作品でした
意味深な二人の登場シーン、見事でした!