Coolier - 新生・東方創想話

春風

2005/08/14 08:28:12
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 夜の冥界に蝶が舞う。
その蝶は自然では在りえない妖しい光を放っている。
それは人の情念のみが生み出す幽かで妖しく、そして美しい燐光。
そこには何も無かった。
ただ、『死』だけが在った。そして、
「願はくは花のしたにて春死なん
        そのきさらぎの望月のころ」
と、誰かが言うのが聞こえた。




 







 最近の幽々子様はおかしい、と魂魄妖夢は思う。
彼女の主人がおかしいのは今に始まった事ではない。
しかし近頃の幽々子のおかしさは通常のそれではない。
生気が無いのだ。
もちろん幽々子は亡霊である。生者ではない。
しかしそれを補って余りある、なんというか、エネルギーみたいな物が、彼女には有る。
しかし最近はそれが無くなってきているように思う。
まず、あまり食事を取らなくなった。
これだけでも一大事だ。
次に、あまり笑わなくなり、喋らなくなった。
最初は自分をからかっているのだろうと思っていたが、如何やら違って考え事をしているのだという。
そんな彼女は始めて見る。
最後に、眠らなくなった。
正確には本人は寝ているらしいのだが、体が勝手に動き出すという。
いわゆる、夢遊病というやつだろう。
幽霊が病気になるとは聞いたことが無い。
これらを総合すると、
 ―――幽々子様が、人間で無くなる?―――
ということか?
大抵の幽霊は、生前の生活様式のまま暮らしている。
記憶があるならそのままの生活を続けるのは自明の理だ。
しかしそうだとすると、その生活様式が変わるということは、変えるのではなく、変わるというのは、
存在が変化するということ。
主に自己を保てなかった魂などは生前の面影など無い。
しかし、幽々子様に限って…。
幽々子様は生前のことを覚えていないが、人間の生活様式は覚えていらっしゃるようだ。
そのような幽々子様が…。
「そんな、馬鹿な事が…」
思わず口を突いて出た言葉は、不安であった。
そこでようやく己が不安を抱いているのに気付いた妖夢は、焦燥に駆られるまま、幽々子の寝室へ急ぐ。
「妖夢ですが、幽々子様?起きていますか?」
しかし何の返事も無い。再度呼びかけても結果は同じ。
何故か嫌な予感がしたので、妖夢は失礼承知で部屋に入る。
「幽々子様、入りますよ…っと、いないな。今日も夢遊病か?」
部屋には誰もいなかった。
机の上に文が置いてある。
「ん?これは何だ?幽々子様の字のようだが…」
そこには、
 心から心にものを思はせて
      身を苦しむるわが身なりけり

 あはれあはれこの世はよしやさもあらば
       あれ来ん世もかくや苦しかるべき
という、二首が、在った。
「っ!これは!」
妖夢は漠とした不安と焦燥が、確たるものに変わるのを感じた。
「幽々子様!待っていてください。今、あなたの剣が参ります!!」
若い剣士が、夜の白玉楼に飛び出していく。
夜はまだ始まったばかり。この後、彼女に何が起きるか、まだ知るよしもなかった…。





 西行寺家はとてつもなく広い。その庭の広さは大焦熱地獄の火炎の広さと同じ、200由旬にも達するといわれている。
現代風に直すと、約2880メートル程だ。某海賊王ならずとも、ひでぇ冗談だと言って、頬をぴしゃりと叩きたくなる。
いくら妖夢が空を飛べるといっても、あまりにも広すぎる。
たとえ音速で飛んでも、端から端へ行くのに二時間以上かかってしまう。
「(どうすれば良い?闇雲に探していたら夜が明けてしまう)…そうか!」
我ながらみょん案(妙案)が閃いた。
妖しい気配を探して片っ端から斬り潰すのだ。
うん、我ながら素晴らしい。そうと決まればすぐ出発だ。
大丈夫、妖怪が鍛えたこの楼観剣に、斬れぬものなど、あんまり無い!




 「はぁっ!」
月の光を浴び、白刃が妖しく光る。
「ちっ、なんて数の死霊だ。いつの間にこんなに増えたんだ?」
幽々子の能力の所為か、ただ単に冥界だからか、ここ西行寺家には時々死霊が迷い込んでくる。
その駆除も妖夢の大事な仕事の一つだ。
「しかしこの数は以上だ。既に100は斬ったぞ」
辺りには死霊の残骸が散らばっている。まるで地獄のようだ。
「おい、これは一体どういう事だ?説明しろ」
まだ息(?)のある死霊を捕まえ、妖夢が尋問する。
しかし、元来死霊は明確な人格を有してはいない。よって、尋問がはかどる筈もない。
けらども主人の大事なので珍しく妖夢は根気が良かった。
「…ア、ウ、フ、富士見、ノ娘ガ、呼ンデイル。」
「何処だ!幽々子様は何処に居る?!」
「…ア、ア、ホトケニハ、桜ノ花ヲ、タテマツレ。
            我ガ後ノ世ヲ、人、トブラハ…バ」
死霊はそう言って消えてしまった。
妖夢は死霊の言葉を聞いたことがあった。
以前、彼女の主人に。

 「妖夢、この木を御覧なさい」
「幽々子様?なんですか、この大きな木は」
「これは西行妖といってね、家の自慢の妖怪桜よ。…咲いたことないけど」
「咲かない桜の木なんてあるんですか?聞いたことありませんよ」
「う~ん。妖忌は咲いたのを見たことがあると言っていたけれど、私はないわね」
「はぁ、そうですか。そういえば師匠が桜の木について何か言っていたような気もしますけど…」
「覚えてない?」
「覚えてないですね~。う~ん…。ん?幽々子様、その木に何か彫ってありますよ」
「え?どれどれ…。あ、本当ね。なになに?
 ええと…ほとけには、桜の花を、たてまつれ。我が後の世を、人とぶらはば。…西行」
「誰ですか?西行って、幽々子様と関係が?」
「妖夢」
「はい?」
「幻想郷中の春を集めなさい。この妖怪桜を咲かせるわよ」
「?…はい、御心のままに」
「任せたわよ」



 そう言った時の幽々子様の顔はとても怖かった。
幽々子様を心底怖いと思ったのはあれが初めてだった。
「私としたことが、失念していた。真っ先に疑うべきだった…」
よく解らないが、全ての元凶。
「…西行妖へ、そこに幽々子様が!」





 そこは冥界にあって、なお異界であった。
もはや禍々しいほどに美しい。
全ての桜が満開している。血のように紅い花をつけて。
その花に吸い寄せられるように、妖蝶が舞っている。
…あれは死霊だ。死してなお、死に引き寄せられている。まるで蝶が我が身を焼く炎に焦がれるように。
その桜吹雪と、妖蝶の輪舞の中心。死の中心に、彼女と、西行妖がいた。
「幽々子様!戻ってきてください!そっちは駄目です!!」
思わず妖夢は叫んでいた。形振り構わず、直感が告げた、アレは駄目だと。
逃げろ、逃げろ、逃げろ、ニゲロ、ニゲロ、ニゲロニゲロニゲロニゲロ!
「五月蝿い!黙れ!」
自分を一喝する。そうでもしなければ今すぐにでも此処から逃げ出してしまう。
幽々子が腕を挙げ、此方に降ろす。
ただそれだけの動作で、無数の妖蝶が、無数の死がこちらに向かってきた。
「っく、幽々子様!正気に戻ってください!私です、妖夢です!解らないんですか!」
妖夢は必死で妖蝶を切り払う、しかし、いかんせん数が多い。
しかも長年待ち焦がれた幽々子という贄を得た西行妖は、無生物である刀でさえ殺す力を得たようだ。
しかしそこはさすがに楼観剣。一振りで幽霊10匹分の殺傷力を持つだけはある。
すぐに、使い物にならなくなる事はない。
けれども時間と共に、目に見えて剣が腐食してきた。
「ちぃ!(実力で優る相手には、大技を決めるしかない!)
 くらえ!六道剣「一念無量劫」!!」
妖夢起死回生の一発勝負!!
しかし…
(…だ、駄目だ、届かない!)
理解してしまった。剣士としての本能と実力が。
自分に斬れぬものは少ししかないが、これは斬れない。
絶対に、自分には斬れない。無理だ、私は、死を斬ることができない。
勢いを失った妖夢に妖蝶が迫る。
「うあぁぁぁぁ!!」
迫る、迫る、絶対の死。死、死、死、死、死、死死死死死死死死死死死死!
「ひぃ!」
逃げた、恥も外聞もなく、必死に、ただひたすら怖かった。
大事な楼観剣も捨ててしまった。逃げることしか頭になかったからだ。
心が、折れてしまった。
もう、駄目だ。
心と体、魂と魄が負けてしまった。もう私には、剣を握れない。
意識が薄れる。その時、
誰か、懐かしい声を、聞いた気がした。








 「よ…よ、妖…よ」
懐かしい声がする。
「…よ、妖夢よ、お前にこの二本の剣をやろう」
あれは、師匠の声だ。
「はい、ありがとうございます、師匠」
私が、初めて真剣を握った日。
「ところで妖夢や」
「はい、なんですか?」
「この楼観剣と白楼剣、お前はどちらが優れていると思う?」
そうだ、この時の私はまだ未熟すぎて、師匠の言葉の意味もよく理解していなかった。
「それはもちろん楼観剣です。一振りで幽霊10匹分も斬れますから」
師匠はとても悲しそうな顔をした。
「…そうか。いいか、妖夢よ。わしはな、白楼剣のほうが断然優れていると思うんじゃ」
「え?それは何故ですか?白楼剣は敵を斬るのに向いていませんけど」
「それはな、剣で斬れる敵は、嬢の敵ではないからじゃよ」
「…?意味がわかりませんが」
「つまり、白楼剣は、斬れぬものを斬るんじゃが…、まだお主には早かったようじゃのう。許せ、妖夢。爺の戯言じゃ」
…斬れないものを斬る?私には、アレは、死は斬れない。白楼剣は斬れないものを斬る…。
そうか!!


 「そうか、そうだったのですね、師匠」
もはや、立つ力さえ残っていない体が、立つ。
折れた心が、再び刃を握る。
私はなんて愚かだったのだろう。目先の力に囚われ、肝心なことを忘れていた。
剣は道、剣は手段、剣とは手にする物に非ず、心に携える物!
師匠、ありがとうございます。あなたは私に大切な物を教えてくれました。
「今なら、今ならできる!我が力と、楼観剣に斬れぬものは多々あるが、
 我が心と、白楼剣に、斬れぬ想いなど一つも無い!!」
あれは、『死』そのものではない。死に引き寄せられる、西行妖に囚われた無数の魂だ。
魂達の想念、情念、怨念。そういったものの、集合体だったんだ。
ならば斬れる。人の迷いを斬るこの白楼剣で、あの日習得できなかった、唯一の奥義で。
「奥義!!西行春風斬!!!」
白玉楼に、春風が舞った。
それは花を散らし、蝶を散らす、春の嵐。
爽やかで、穏やかで、心地よい春の風。
冥界に、春が訪れた。




 全てが終わった後、片手に剣を持った銀髪の少女が倒れていた。
それを膝枕する少女がもう一人。
「…本当にありがとう。妖夢、あなたはもう一人前ね」
桃色の髪をした少女は、静かに寝息を立てる少女の髪を優しく梳いていく。
「ゆゆこさま~。たべすぎですよ~。もうしょくりょうがありませ~ん」
「…なんの夢を見ているのかしらね、この子は」
「むにゃむにゃ。幽々子様、私はいついつまでも、あなたの剣になります。盾になります。ご安心ください」
幽々子は聖母の如く微笑む。
「ありがとう、妖夢。でもね、あなたは私の剣や盾である前に…」
しばらく空を眺め、言った。
「あなたは私の大切な友達よ」
幽々子は、妖夢の目が覚めるまで、いつまでも、いつまでも優しく見守っていた。
何か、微妙にキャラが違う気も…(汗)
こんにちわ、大石です。
この二人はいつか仲の良い友達になるかなぁ~。
ゆゆ様の性格じゃあ無理だな~。
大石
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コメント



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13.50床間たろひ削除
幽々子「いやいや妖夢。私達もうお友達じゃない(はぁと)」
妖夢 「……はいはい。で、今日のリクエストは何ですか?」
幽々子「キムチ鍋」
妖夢 「暑いのに元気ですね……」

二人は主従の関係よりも、もうちょっと近い関係な気がするのですよ。
うん、この二人やっぱ好き。