「こんな具合で大丈夫だな」
「はい。藍さま」
橙に手伝ってもらって、縁側に面した庭に6尺ほどの高さの笹を立てる。笹は、昼のうちに近くの竹林から私が一本だけ拝借してきたものだ。
「よい、じゃあ飾りをつけるか」
「はいっ」
七夕飾りを取りに、ぱたぱたと部屋に駆けてゆく橙。その後ろ姿は快活そのものである。
今日は七夕。織姫と彦星が互いを想って待ち焦がれ、年に一度の再会を果たす日。
と言っても、そんな悲恋めいた話に心動かされるということはなく、ここマヨヒガでは、笹を飾って願いごとをするというごく一般的な七夕の日を迎えていた。
縁側に腰掛けると、斜めにしなだれかかる笹と夜空に流れる天の川を一緒に望むことができる。なかなかの眺めだった。
家の方を振り返ると、籐かごを抱えながら、先程と同じようにぱたぱたと駆けて橙が戻ってくる。
「持って来ました」
「よしよし」
私が頭を撫でてやると橙は、えへへ、と照れて見せたが、その表情は嬉しそうだった。
かごの中には、五色の短冊のほか、あみ飾りや吹き流しなど、定番の七夕飾りが溢れんばかりに詰まっている。どれも、昼間に橙と一緒に折り紙で作ったものだ。決められた通りに折り紙を折ったりハサミで切れ込みを入れたりする作業が楽しくて、ついつい作り過ぎてしまったのはご愛嬌である。
橙と一緒に、次々とその飾りを笹に括り付けていく。先程まで、夜の闇の中に寂しげに佇んでいた笹が、見る見るうちに色とりどりの飾りに彩られていった。
「このくらいでいいか」
「はい。……でも、飾り過ぎちゃった気もしますね」
「ははは、そうだな」
気が付いてみれば、葉が分からなくなるほど飾りを付けられた笹が目の前にあった。先程と比べて心もち、うなだれるみたいに茎が下に垂れている気がするが、これもご愛嬌ということにしておこう。
「それじゃあ、後は願いごとを書いた短冊を付けて、完成だな」
「はいっ」
元気良く返事をして、橙は懐から短冊を取り出す。
私が自分の願いごとを書いた短冊を付けてから、それに続いて、嬉々として橙が自分の短冊を笹にくくり付けていた。
「それで、橙は何てお願いをしたんだ?」
「はい、【藍さまが私のこともっと好きになってくれますように】って」
「ぶふっ!」
吹いた。
「藍さま、きたないですよぅ」
「あ、ああ、ごめんな、橙」
ああもうしかし可愛いなぁ橙は。照れもなくそんな願い事をしてくれるとは。
でも私が動揺してどうする。落ち着け私。すーはーすーはー。
「大丈夫ですか? 藍さま」
「ああ、いや、大丈夫だ。なんでもない」
「でも、何だか息が苦しそうですよ?」
橙に普通に心配されてしまった。深呼吸はまずかったようだ。
わざとらしく、私はこほんと咳払いひとつ。よし、やっと落ち着いてきた。
「あー、でもな、橙。『もっと』という事は、私がお前のこと好きだっていう前提が必要だぞ、その願い」
「えー。……藍さま、私のこと嫌いなんですか?」
がっくりと肩を落とし、拗ねたように口をつぐむ橙。耳がペタンとしょげてしまい、尻尾も元気なくだらんとうなだれている。別に嫌いだなんて一言も言っていないんだけど。
けれどそんな拗ねた表情も仕草もやっぱり可愛いと思う。親馬鹿とでも何とでも思ってくれ。橙がこんなに可愛いのが悪いのだ。いやちっとも悪くは無いのだが。
「はは、冗談だよ橙。私はお前のこと、大好きだよ」
「わぁい」
「っとっと」
いきなり橙が飛びついてきたので、よろめいてしまう。が、何とか受け止めることができた。
私はそのまま橙のことを抱き上げて縁側に腰掛け、橙を後ろ向きにして私の膝の上に座らせる。たまにはこういうのもいいだろう。
「えへへ……」
橙も嬉しそうだった。
夜空を見上げてみれば、天球を分かつように雄大な流れを見せる天の川、そしてその両岸にたたずむ織姫星と彦星が見える。
「綺麗だな」
そんな、平凡な言葉が思わず口をついて出た。
「はい、実際に見るのは初めてです」
「そうなのか?」
「だって、いつもはもう寝ている時間ですから」
「そう言えばそうか」
いつもはもう少し早い時間に、橙を寝かしつけていたことに気付く。
夜更かしはあまりよろしくはないが、時にはこうして一緒に星空を眺めてみるのも悪くはないかもしれない。情操教育にも良さそうだ。
「橙は、七夕の話は知ってるか?」
「はい。ええと、働き者の織姫さんと彦星さんが結婚したんだけれど、それ以来ふたりとも全然仕事をしなくなっちゃって、それで天の神様をしている織姫のお父さんが怒って二人を引き離しちゃって、7月7日だけ、会うことを許された……っていうお話ですよね」
「お、ちゃんと知ってるな」
ところどころ、はしょられている気もするけれど、大方のところは知っているようだった。
「……でも、年に一度しか会えないなんて、可哀想ですよね」
橙が寂しげに言った。恐らく、子供が抱く感想としては至極真っ当なものだろう。
「そうだな……。確かに可哀想。でも、結婚してからもしっかりと仕事をしていれば、離ればなれにされることもなかっただろうから、そういう意味では自業自得とも言える訳だし」
「そうですね……」
「まあ、それは少し厳しい見方になるかもしれないけどね」
「じゃあ私も、大好きな藍さまと離ればなれにされないように、明日から藍さまのお手伝いをしますね!」
橙が私の胸元でこちらを振り返って、笑顔で言う。(主に紫様のせいで)何かとスレてしまっている私には眩しすぎる言葉と笑顔だった。
「そうか、じゃあ明日から今までよりもう少し色んなことを手伝ってもらおうかな」
「はいっ」
良い返事だ。やはり子供は元気なのが良い。私は、その返事に答えるように、橙を抱く手に少しだけ力を込めた。
何が起ころうが橙と離ればなれになるつもりはないから、橙に私の手伝いをさせる必要は別にない。けれど私は、橙のそういう自主的な気持ちを大事にしたかった。
会話が途切れたので、私はあらためて星空を眺めやる。
天に架かる光の帯を、最初に“川”と表現したのは一体誰なのだろうか。川と言われれば、なるほどまさしくあれは天を流れる川に相違ない。けれど最初にそのことに気が付いた人は、きっと、素晴らしい感性の持ち主だったのだろう。
なんとはなしに、目を閉じてみる。
何も音がしない、静かな夜だった。
時折、そよ風に吹かれて笹の葉がさらさらと鳴る以外は何も聞こえてこない。
穏やかさをたたえた、静寂。
耳をそばだてていれば、星の降る音や時の降る音……そんなありもしない音まで耳に届いてきそうで――。
すう……すう……。
「うん?」
何だかおかしな音が聞こえてきたので、私は目を開けた。
……胸元で、橙が寝入っていた。すやすやと、心地良さそうに。
「はは、良い子はもう寝る時間だったか」
私は橙を横抱きにして立ち上がった。
寝入ってしまった以上、起こしてしまうのも可哀想なので、このまま橙の部屋に運ぶことにした。夜更かしさせていたのは一応私なのだし。橙はまだまだ軽いので、そう苦労はしないだろう。
橙を起こしてしまわないように、なるべくゆっくりと静かに運ぶ。
「……らんさま~」
「ん?」
起こしてしまっただろうか。その寝顔を見つめる。
……それ以上の言葉が続かない。どうやら、単なる寝言のようだった。
起こさぬまま、無事に橙を寝床に運び終え、私はもとの縁側に戻ってきた。
先程と変わらず、笹はさらさらと小さく揺れて、空では星々が気ままに瞬いている。
「私も、そろそろ寝るとしましょうかね」
そうつぶやいて、私は自らの寝所に向かおうとして――
「……と言いたいところですが、覗き見は趣味が悪いですよ、紫様」
「あら、気付いてたの?」
私の左手側すぐそば、誰も居ないはずのところから声がした。
間もなく、スス……と何もない空間に裂け目が現れ、スキマ妖怪であり私の主でもある紫様が体を這い出してきた。
体の上半身だけが浮かんでいるこの光景は、傍目には相当不気味なものなのだろうが、私にとっては日常茶飯事なのでもはや何の感慨も沸くことはない。慣れとは恐ろしいものである。
「何となく、ですが、居られる気がしまして」
「あらぁ、藍も腕を上げたのかしらね。気配は完全に絶っていたつもりなのに」
実は、何のことはない。ただ単に、紫様がそろそろ起きて来られる時間だったから、カマを掛けてみただけに過ぎないのだから。そうは言わないけれど。
「大丈夫ですよ。どれだけ気配を絶とうとしても、そこはかとなく漂う胡散臭さまでは隠し切れませんから」
「まあ失礼ね。私のことをそんな玄関先の芳香剤みたいな言い方しないでよ」
「それを言うならむしろ玄関先に置かれた履物のニオぃい痛ったーーー!」
「何か言ったかしら、藍?」
「いえ何でもございませんですからそんなに足をぐりぐり踏まないで下さいお願いしますマジ痛いです」
「あーらごめんあそばせおほほほほほほ」
なーにがごめんあそばせだ、このすっとぼけ妖怪め。
あろうことか紫様は、スキマから出て私の左足の甲に着地して来たのだ。しかも踵でピンポイントに。そのうえ更にぐりぐりと踏みつけてくるのだからたまったものではない。
それにしても痛い。怪我には至らないだろうが。
「まあそんなことより、今日は七夕なのね、藍」
紫様が、七夕飾りに彩られた庭先の笹を見てそんなことを言う。私が足の痛みにあえいでいることなど知らぬ存ぜぬといった風だ。張本人のくせに。
「今更何をおっしゃってるんですか。覗き見していたのならそれは分かっていたことでしょう。
だいたい、いつから覗き見していたのですか? 趣味が悪い」
「いつからだと思う?」
「さすがにそこまでは分かりませんよ」
「そうねぇ……、『藍さまが私のこともっと好きになってくれますように』のあたり?」
「ぶふっ!」
吹いた。
「んもぅ、きたないわねぇ」
「ゆ、紫様が変なことおっしゃるからですよ!」
「だって、そもそも藍が訊いて来たことだし」
「うぅ……」
これも先程の私の発言の意趣返しか。足を踏みつけるだけでは仕返しし足りないとでも言いたげだ。
きっと、それよりもっと前から覗き見をしていて、その中で最も私に対して効果があるだろうところを狙ったのだろう。証拠に、私の反応を見て楽しんでいる紫様が目の前に居るのだ。扇で口元を隠してはいるが、目は思いっきり笑っている。なんていやらしいんだ。
「というか橙の声色を真似しないで下さいよ。柄でもない」
本日の、いや、今年の橙からの嬉しい言葉トップ3に入るであろう折角のマイベストメモリーが台無しではないか。
柄でもないどころではなく気持ち悪い。
「似てなかった? 私としてはなかなかのデキだったと思うんだけど」
「似てません。そもそも無理がありますよ年齢的にぃ痛い痛い痛い痛い痛いですって!」
突然の激痛に思わず声を張り上げてしまう。
いつの間にスキマから取り出したのか、紫様の手には傘が握られていて、その尖った先端で私の足をぐりぐりし出したのだ。もちろんさっき踵で踏んでいた左足の甲をピンポイントで狙っている。
「久し振りに、教育的指導が必要かしらね」
「必要って、もうしまくってるじゃないですかぁ……」
余りの痛さに、涙で思わず目の前が霞む。
そもそもこれは、教育的指導と言うよりは虐待である。
「まあいいわ。夜空で織姫と彦星が年に一度の逢瀬を果たしてる七夕の日に殺伐とした教育的指導だなんて無粋ね。
藍の失言は天の川に流してあげるから、私とお酒に付き合いなさい」
あんなアホみたいなやり取りを天の川に流されてしまっては、織姫も彦星もたまったものではないだろう。水質汚染もいいところだ。というか殺伐とした教育的指導ってなにさ。殺伐とさせてるのはご自分じゃないですか。
そんな風にいぶかる私の表情など意に介さず、紫様はスキマから酒瓶やら枡やらを取り出していた。
枡は我が家の厨房から取ったものだろうが、酒の出所が分からない。博麗神社や西行寺家から拝借してきたものであるならば、後日私が菓子折りでも持って謝罪に向かわねばならない。面倒ごとがまたひとつ増えてしまったようで、私はため息を付く。
「お酒に付き合うのは構いませんが、それっぽくまとめようとしているのは気のせいでしょうか」
「あら、藍は教育的指導の方がお好みかしら?
藍をいびってそれを酒の肴にするのもオツね」
いびるとか言ってるし。とうとう本音が出たか。
「いえ滅相もございません。お酒のみをご一緒させて頂きます」
だから私もそのまんま本音で返した。なんかもう、ヤケ酒でもしてやろうかという思いだった。
酒は進み、傍らには既に2本の空の酒瓶が転がっている。
さて、今飲んでいる3本目の酒は一体どこから拝借してきたものだろうか。謝罪に向かわねばならない件数が増えてゆくことに、頭を抱えたくなる気分だった。まあ、半分は自分で飲んでいるので、もはや窃盗の共犯であることから免れ得ないのだが。
「そう言えばら~ん~、私、まだ七夕の願いごとしてないんだけどぉ」
「紫様が一体何を願うのですか。大抵のことならご自身の能力で叶えられるじゃないですか」
「いいじゃな~い。こういうのは雰囲気が大事なのよ、雰囲気が」
私のそんな悩みなど露知らず、紫様はほろ酔い気分に浸っていた。
隣に腰掛ける紫様は、酒でほんのりと頬を朱に染め、緩んだ表情をしている。その横顔はあでやかで美しく、思わずドキッとしてしまう。
いやいや藍、そんな移り気でどうするのだ、お前には橙という心に決めた伴侶が…………ってそれはそれで違うだろう私。
どうやら紫様より私の頭の中の方が酔っているようだった。今日一日働いた疲れも出ているのだろうと思う。そういうことにしておく。
七夕飾りを入れていた籠に短冊がいくつか残されていたので、それを紫様に渡した。
「どうぞ、ご自由にお書き下さい」
「投げやりねぇ、全く」
紫様はスキマから筆を取り出して、すぐに文字を書いていた。願いごとは元から何かしらあったらしい。
私はさして興味もないので、空になっていた自分の枡に酒を注いでいた。何杯目なのかは、もう数えるのをやめていたので分からない。
「はい、書いたから笹にくくり付けて頂戴」
「はいはい」
相変わらずものぐさである。私は枡を口元に運びつつ、もう一方の手で紫様から短冊を受け取った。
お酒を口に含みながら、紫様の書いた願いごとを見てみる。
【藍が私のこともっと好きになってくれますように】
「ぶふうっっ!!」
吹いた。そりゃもう盛大に。
「あららぁ、お酒がもったいない」
「げほっげほっ、ゆ、紫様、何書いてるんですか!」
「いいじゃないのぉ。私の素直でまっすぐで一途な願いごとよ~。それとも、藍は私のこと嫌いなのぉ?」
「わ、分かりました私が悪かったですですからそんなに妖艶な表情をして何かを求めるような潤んだ瞳で私ににじり寄ってこないで下さいぃ!」
「な~んてね」
「へっ?」
紫様が身体を離す。今なんと言った?
「藍ったらそんなに動揺しちゃってぇ、ウフフフフ」
「あ……う……」
やられた。
そもそも、紫様がちょっとやそっとの酒量で酔うはずがない。それは冷静に考えればすぐに分かることだ。むしろ酒に酔っていた、酔わされていたのは私の方だったのだ。
そしてそこへ来て、あの願いごとだ。私に残された冷静な思考能力を見事にすっ飛ばしてくれた。
結局、私はいいように紫様に弄ばれていたということか。
「…………」
「ら~ん~、どうしたのよ~」
紫様がゆさゆさと私の身体を揺すってくる。どうしたもこうしたもなかろうに。これだけ好き勝手私のことを弄くっておいて。
「もう……こうなったらヤケ酒です!」
私は酒瓶をがしっとつかみ、そのまま直にごきゅごきゅと飲み干していった。
喉が熱いが知ったことではない。頭痛がしようが視界がぼやけようがどうでもいい。もうどうにでもなれだ。
「ちょっと藍~、ペース守りなさ~い」
「このくらい平気です! ……て、あれ?」
視界がぐらつき、意識が自分の意思に反してスゥッと遠のいていく。
いけない。――そう思った時は既に手遅れ。
私は後ろに倒れこみ、背中を床板に打ち付けたことを認識。それを最後に、意識が強制的に停止させられた。
*
「はあ、酒は呑んでも呑まれるな、って言うのにねぇ」
私の傍らには、酒の呑みすぎでウンウンうなりながら横になる藍がいた。
とりあえず、濡れた手拭いを額にのせてやったが、当分は起き上がれないだろう。後で寝床に運んでやることにしようか。世話の焼ける式である。
結局、自分の短冊は自分で括り付けるはめになった。立ち上がって、七夕飾り華やかな笹の前に立つ。
ふたりが願いごとを書いた短冊はすぐに見つかった。私の短冊も、そのすぐそばにくくり付けた。藍の短冊が、私と橙が願いごとを書いた短冊に挟まれるかたちとなる。
……モテモテね、藍。
ちなみに、藍の短冊にはこんなことが書かれている。
【皆が健康でありますように】
……今一番健康じゃないのはあなた自身じゃない。あんなにお酒をあおっちゃって。
まあ、そもそもお酒を勧めた張本人は私なのだから、偉そうなことは言えないけれど。
せめて、明日の朝餉くらいは私が作っておいてあげようかしらねと、気まぐれなことを思った。
「そろそろ、床に運んであげようかしら」
藍を横抱きにして、立ち上がる。ちょっと重たいからスキマに落として転送してしまおうかとも思ったけれど、可哀想なのでやめておいた。
藍の顔を覗き見てみる。ウンウンと唸って、まだ苦しげだった。
「……ん、ちぇん……」
あらあら、橙は寝言で藍さまって言ってたから、あなたは「紫様」って言ってくれると思ってたのに。橙に嫉妬しちゃいそう。相思相愛で羨ましいわね。
「お前は……逃げるんだ」
……何だか随分不穏当な寝言が後に続く。
一体どういう夢を見てるのかしら、この子は。
――逃げまどう母・藍とその娘・橙。しかしそこに悪の怪獣ゆかりんの魔の手が!!
悪の怪獣ゆかりんって何よ、失礼ね。
自分の妄想に自らツッコむ。
……何だかむなしくなった。
ようやく藍の部屋にたどり着いて、藍を横に寝かせる。少しだけ、苦しげな表情が和らいでいた気がした。
「明日の朝餉は私が作っておいてあげるから、藍はゆっくり寝ていなさい」
当然、返事はないけれど、はいと言ったことにしておく。
そもそもこんな具合じゃ、明日までお酒の影響が残りそうだしね。
もとの縁側に戻り、庭先に出てみる。
夜空の天の川は相変わらず、優美な流れを演出していた。
織姫星と彦星も、ちょうど南中時刻を迎えた頃だった。私はそれらを仰ぎ見る。
「あの子たちが七夕伝説で言うところの、相思相愛の織姫と彦星なら、私はさしずめ、二人を見守る天帝様かしらね」
まあ、あの子たちは一緒にいながらしっかりと仕事もしているから、私はふたりを引き裂くような真似はしない。
弄くったりはするけれどね。
時間を持て余してしまったので、私は夜空の散歩にでも出かけることにする。
「独り者になっちゃった私は、霊夢のところへでも夜這いをかけようかしらね」
半分冗談、半分本気でそんなことをつぶやき、私は星空の中を博麗神社の方向へと飛び出していった。
そう考える人少なくは無いような。。。(苦笑
結局、藍はどれだけのトコに謝罪に行ったんでしょうかね。
橙もすっごいいい感じでした。
ともあれ、美しい八雲家の七夕をありがとうございます!