Coolier - 新生・東方創想話

still here

2005/08/09 21:16:28
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藤原妹紅はイライラしていた。
肝試しの騒動以来、輝夜を見かけない。
いや別に輝夜が居ないことは問題ないんだ。
ただぱったりと消息を絶たれると気味が悪い。
そう、確認するため、と呟いて、妹紅は家を出た。

私は死なないし、あいつも死なない。
ずっとそれが続くものだと思っていたから。
いなくなればいい、そう願っていたはずなのに。
寝ても覚めても落ち着かない自分がいた。

そうして探し回り、とうとう湖のほとりで水に足を浸している輝夜を見つけた。
日が暮れる頃だった。





  ―― still here ――





蓬莱山輝夜はぼーっとしていた。
家の外には、自分の知らなかった世界が広がっている。
以前の騒動で変な人間や妖怪と知り合い、それを知った。
思っていたより、ずっと広くて、深い世界だ。
不老不死が霞んでしまうくらいに。

間違っていたのかも知れない。
自分がどうにかしないと、そう思っていた。
私には永琳がいるけれど。
妹紅には。と。

紅い太陽が落ちてくる水面を見て、そんなことを考えていたときだった。

「こんなところにいたのか」

誰かと思って顔を上げると、

「久しぶりね妹紅」

妹紅がすぐそこに立っていた。鳳凰を背に負って臨戦態勢だ。
が、輝夜はひらひらと手を振って弾幕りあう気はないことを示す。
妹紅は一瞬睨んでから、肩の力を抜いて息を吐いた。
二人とも暑いのだ。

「まぁお掛けなさいよ」

輝夜はおいでおいでと手を振っている。
妹紅は一歩踏み出しかけて、はたと気づいたように動きを止めた。
言われるままに輝夜の隣に行こうとしていたのだ。
急遽、地団太を踏むことで誤魔化してみる。

「なんでお前と仲良くお話しなきゃいけないのよ!」

えー、と輝夜は膨れてみせる。

「お茶くらい出してよー」
「ないわ!」

妹紅は腕を組み、こんな屋外でどこからお茶を出すんだ、とぶつぶつ。
輝夜は仕方ないわね、と呟くと、湖の水を両手で掬って唇に近づけ

「って飲むなーー!」
「ぇ?」

きょとんとする輝夜。
妹紅は慌てて言い募った。

「その、なんだ、生水を飲むのはよくない、し」

言ってから、自分は何を言ってるんだと焦るが、

「それもそうね」

輝夜の反応に、妹紅はほっと息をついた。
なぜ安心したのかは自分でもよくわからない。
が、輝夜は手のひらの水をさらさらと流すと、こう言った。

「じゃぁ沸かしてよ」
「はぁ!?」

じっと妹紅を見つめる輝夜。真顔だ。
自分がどうにかしないといけないような気がして、妹紅は目をそらす。

「沸かせったってねぇ」
「妹紅! その有り余りほとばしる情熱は何の為にあるの!」
「いや、水を沸かすためじゃないし、湯飲みとかもないし……」

勢いに押されてなんとなく弱気になってしまう妹紅。
そこで、あ、と二人の声が重なった。

「あるじゃない良いものが――仏の御石の鉢!」

どこから出したのか、輝夜の手に鉢が掴まれている。
そのまま手を伸ばして妹紅の方に差し出す。
妹紅は、仕方ないなぁとぼやいて頭をかきつつ、近寄って受け取る。
かがんでその中に水を掬い、身に炎を纏う。

「命喰らいて火を灯せ、パゼストバイフェニックス―弱火―」

光を詰め込んだ風船が割れるように、白閃が飛び散る。
妹紅が居た場所で、雀程度の大きさの鳳凰が、鉢に憑いていた。
輝夜が歓声を上げ、手を叩く。
再び光。
一瞬後には、妹紅が元の姿で立っている。
手元の鉢では、水が泡をたてていた。
輝夜の方を見ないようにしながら、つっけんどんに鉢を渡す。

「わー、妹紅ありがとう」

邪気のない声に、ぷいと顔をそらす妹紅。
顔が熱いのはフェニックスの影響だ、と一人頷く。
輝夜は近くに生えていた草の葉をむしり取ると、鉢に入れた。

「ってお前!」
「ん? あぁ、ただのお湯じゃあれだしね」

鉢を傾けて器用に混ぜる輝夜。
じわりと淡い緑が広がるが、湯を染めるには至らない。
輝夜は口をつけ、あちっと言って慌てて離した。
ほれみろ、と妹紅が小声で呟く。
輝夜はしっかり聞いていたのか、むー、と唸って妹紅を睨んだが、
妹紅は下手な口笛を吹いて無視を決め込んでいる。

輝夜は湯に息を吹いて冷ますと、今度はそろりと口へ移した。
飲み込むのにあわせて、白いのどが動く。
思わず、目が離せないでそれを見ていた妹紅に、輝夜は笑いかけた。

「飲みたいならあげるわよ」
「いやいらな……まぁ貰おうかしら」

――えぇと輝夜はこっちの凹んでいる所に口をつけたから……どうしよう――
などと考えて、鉢を凝視したまま固まる妹紅。
輝夜は怪訝そうに眉を寄せる。

「別に変なものは入ってないわよ」
「ぇぁ?」
「もう、いらないなら返して」
「あー待って待って、もらうもらう」

えぇいと目を閉じ口を開け、葉の浮いた湯を流し込む。
喉から胸へと、じわりと熱が広がった。
二口ほどで輝夜へと突き帰す。

「まずい」

輝夜は眉を下げると、こくりと黙って頷いた。
あれ、と妹紅は思った。何だこの反応。
けれど今更、実はおいしかったとフォローするのも変だし、
第一、輝夜が落ち込んだところで別にいいや、と思い直した。

沈黙。

やっぱり気まずくなって、でも気まずいかどうかなんて普段気にしない妹紅は
迷った挙句にあくびをしてみたりしつつ、すとんと座った。
手を伸ばしても一寸届かないくらいの距離だ。
最初に輝夜がしていたように、湖を眺めてみる。

傾いた日の光が湖面に反射して、きらきらと光っている。
少し湿った風が髪を揺らした。

鉢の湯を飲み干した輝夜は、口元を指で拭って、言った。

「そういえば貴方引越した?」
「どうしてそうなるの」
「いつもこんなところに居ないでしょ?」
「あぁ、飛んでたらお前が見えたからね」

輝夜は、ふぅんと顎に手を当て、横目で見遣りながら訊く。

「探してくれてたの?」
「ぶ、ちがう! 成仏したのか確認していたんだっ」
「はて、成仏。あ、もしかして私が冥界に行ってたの知ってる?」

妹紅は視線を泳がせて、

「あ…の薬師がそんなことを言ってたから」

ぼろを出した。

「ってことは、心配して家まで来てくれたのかしら?」

輝夜がわざと軽い調子で尋ねてみると、

「な、勘違いするんじゃないよ! それは……」
「それは?」
「たっまたま通りがかったんだよ!」
「へぇぇ?」

駄目ね妹紅と加えて、こう続けた。

「私が居なくても平気にならないとー」
「平気に決まってるでしょ! ただお前が他の奴らに会って」
「仲良くしてるのが気に入らない?」
「犠牲者を増やさないか心配なだけだっ!」

輝夜はずいと身を乗り出し、妹紅の白い髪に手を伸ばした。
わかってるわよ、と呟きながら細い指で梳くように撫でる。
その手を妹紅は振り払うと、そのままぶんぶんと握り拳を振った。
心なしか頬が赤くなっている。根が素直なのだ。
だから他人もそうだと思い込んで、「正直者の死」なんて考える。
輝夜は顔を綻ばせて言った。

「ほんとう、馬鹿ね妹紅」
「なんだって!」

肩を怒らせ激昂する妹紅にも構わず、その耳元へ口を近づけ、
目を細め、輝夜はさらりと、そしてはっきりと言い切った。

「私が殺したいのは貴方だけよ」

「っ――」

輝夜は水から足を抜いて立ち上がり、置いてあった靴を履いて浮いた。
妹紅は立てない。

「またね」

振り返らずに、足早、といったふうに飛んでいく。
その背中を見つめたまま、妹紅は結局なにも言えなかった。

ちょうど夕陽が山間に沈むところだったから。
輝夜の耳が紅く染まっていたことにも、気づかなかった。





  ―― still here / until death do us part  終 ――

たまには殺しあわない二人。

次に会ったときは殺す、そんな台詞も似合う二人ですが
死の無い二人にとって「殺したい」とはどういう意味なんでしょう。

なんて、妄想多めですがお許しください。
春雨
[email protected]
http://ameblo.jp/erl/
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コメント



0.3300簡易評価
9.80削除
世間知らずな感じの輝夜が素敵。
しかし弱火って……便利だな妹紅。
12.80名前が無い程度の能力削除
おもしろかったです。
最近輝夜たちのSSも増えてキャラクターの掘り下げが進んできたようでうれしい限り。次回作も期待しております。
16.90CCCC削除
輝夜可愛いよ!
ハッピーエンドが大好きな自分としては輝夜と妹紅がほのぼのしてる話はとても好きです。
GJ!
17.70おやつ削除
そうか、輝夜ってマイペースなだけなのか……?
なんか、こう……天然の狂い人っていう印象があったんですけど。
こういう姫様も可愛い。
モコたんと末永く鬼ごっこしてください。
32.70ABYSS削除
仏の御石の鉢を出したとき、ドラえもんのよーな効果音が聞こえたのは私だけでいい。

まぁそれはさておき。いい雰囲気の作品ですね。
なんか、死ぬ死なないの物騒さより先に、若いころの「なんだか気に食わないんだけど、いないならいないで気になってしまうアイツ」みたいな空気が素敵過ぎる。このふたり、案外そんな感じかもしれませんね。
37.無評価春雨削除
感想ありがとうございますーレス長くなりましたorz

>久氏
輝夜は引き篭もり期間で世間ずれしたのか
元から周りを気にしないのか、何にせよ変人かなと。
妹紅は焼き加減にはうるさそう…いえ何でもないです。

>名前がない程度の能力氏
かたじけないです、かくいう自分も輝夜たちが好きなクチで、
それが過ぎてSS書いてる有様です(笑)
こんなので良ければ輝夜分を供給したいと思います。頑張ります。

>CCCC氏
やっぱりハッピーになってほしいですよね。
二人の話は殺伐が多くて実際そうなんだとは思いますが、
のんびりも好きな方向けで書いてます。よかったよかった。

>おやつ氏
輝夜は天然と腹黒と狂気でできてると思うんです。
それで人には理解できない行動ばかりのような。
できれば、もっと邪気を出していきたいかも…知れません。

>ABYSS氏
実は「じゃーん」とか言わせようとしてました。
なんだかんだ言って気になる、みたいな存在でしょうか。
永夜抄を経てこういう風になっていく可能性も
悪くないと思って頂ければ幸いです。
47.80床間たろひ削除
相変わらずのとても優しい空気。
あなたの作品はどれもどこか暖かな春の風を感じさせてくれますね。
(や、この作品は夏なんですけど)
とりあえず心の中でリリーと呼ばせて頂きます。
49.80名前が無い程度の能力削除
「私が殺したいのは貴方だけよ」
先生、これが殺し文句って奴ですかっ。言ってみたいけど私じゃ100パー引かれますね……。
宣戦布告チックな発言なのに愛の告白として機能してしまうあたりが流石。
――ほんと、生きているって素晴らしい!
55.無評価春雨削除
>床間たろひ氏
ありがたいんですが、頭が春って意味じゃないですよね?
リリーとは勿体無いお言葉です。純粋そうですよね(遠い目)
また春を想わせる話を書ければと思います。自分の名にかけて。

>名前がない程度の能力氏(8月17日)
殺し文句です、いつか言ってみてください!ではなくて。
二人はやっぱり他にはない関係ですよね。愛?と殺意?と。
でも輝夜には永琳、妹紅には慧音がいるのでこれ以上はダメです。はい。
75.90名前が無い程度の能力削除
こんな二人もアリですね。