むか~しむかし、あるお寺に、芳一という目の見えない人が住んでいました。
慧音「いきなり盲人しろと言われてもなあ。」
ミスティア「ズバッと参上~~~~♪」
慧音「五月蝿い。・・・ってああ!目が見えん!」
ミスティア「ズバッと解決~~~~♪」
慧音「こら待て~!」
芳一は目が見えませんでしたが、琵琶が大変上手でした。
特に、平家物語の弾き語りが得意だったそうです。
今日もなんとなく、琵琶を弾きながら平家物語を詠っていました。
慧音「にん~げん~ごじゅうねん~。げてんの~うち~を~・・・。」
幽々子「良い徒然草ね。」
慧音「敦盛だ。・・・・折角ボケてみたのに、ボケで返すか。」
誰かが、お寺に入ってきました。
どうやらお侍のようですが、芳一には見えていません。
幽々子「とにかくその弾き語りには感動したわ。もっと聴かせてくれないかしら?」
慧音「ん、いいだろう。」
お侍に言われて芳一は、琵琶を弾き始めました。
慧音「祇園精舎の鐘の声~・・・。」
幽々子「(ボリボリボリ・・・)」
慧音「諸行無常の響きあり~・・・。」
幽々子「(ぱくぱく・・・。)」
慧音「沙羅双樹の花の色~・・・・。」
幽々子「(ずず~・・・)」
慧音「おごれる人も久し・・・こら。」
幽々子「ん?」
慧音「人が弾き語っているのに、お前は何やってる。」
お侍は、ボリボリバクバクと、何やら音を立てています。
行儀がなっていません。
慧音「何か良い匂いがするな・・・。はっ、まさか!」
幽々子「ご馳走様。」
慧音「やっぱりか!人ん家の食料、勝手に漁ったな!」
幽々子「漁ったなんて人聞きが悪いわね~。そこに食料庫が落ちてたのよ。」
慧音「落ちてるものか!」
幽々子「腹が減っては、内容がロクに頭に入って来ないの。感動も半減よ。」
慧音「人の話頭に入れてないだろ!」
幽々子「どうでもいいけど感動したわ。うう・・・。」
慧音「取ってつけたような褒め言葉は要らん。」
幽々子「感動したから、これから毎晩聴きに来るわね。」
慧音「何っ・・・!」
その余りの上手さに、お侍は感動して涙ちょちょぎれてしまいました。
お侍はこの日以来、毎晩のように芳一のところにやってくるようになりました。
幽々子「芳一さんや、お腹すいた。」
慧音「帰ってくれ!むしろ帰れ!」
勿論、食料も漁られて行きました。
それが毎晩ですから、あっという間に食料が無くなってしまいました。
幽々子「こんばんわ~。」
慧音「もう、うちには米粒一つねえだ!頼む、もうけえってくんろ!」
幽々子「隠してあるのは分かってるのよ。お邪魔します~。」
慧音「あぁ~れぇ~~。」
芳一は、いい加減このお侍にウンザリしてきました。
ウンザリの余り、口調もキャラも変わってしまっています。
お侍が上がりこもうとした、その時です。
霊夢「あんたらさっきから五月蝿い!悪霊退散、夢想封印!」
このお寺のお坊さんが姿を見せました。
お坊さんは現れて早々、夢想封印を二人に向かって放ちました。
幽々子「あぁ~・・・・。」
慧音「うわ~・・・・・・。」
芳一とお侍は、外へ吹っ飛ばされました。
慧音「・・・・私が何したよ・・・?」
霊夢「五月蝿かった。ただそれだけよ。・・・もう一人は逃がしたみたいね。」
慧音「逃げたのか。は~、助かった・・・。」
霊夢「芳一。あんたつかれてたわよ。」
慧音「ああ、毎晩さっきのを相手しなきゃいけなかったからな。そりゃあ『疲れ』る。」
霊夢「あ~いや、そうじゃなくて。さっきのあれ、亡霊よ。『憑かれ』てたの。」
慧音「何・・・?」
芳一はびっくりしました。
あのお侍は、なんと亡霊だと言うのです!
霊夢「あんた、目が見えてないから分からなかったんでしょうけど、あれは平家の亡霊なの。」
慧音「それで、平家物語に執着して・・・してないか。」
霊夢「下手したら憑き殺されてたかもね。」
慧音「寝不足で死んでたのは、間違いないかもな・・・。」
芳一はゾっとしました。
もしお坊さんが気付かなかったら、自分は亡霊に殺されていたかも知れなかったのです。
慧音「とは言え、これからもアレは出てくるだろうなぁ。」
霊夢「毎晩あれが続くのも考え物よね。何とかしなきゃ。」
慧音「何とかって、どうするんだ?」
霊夢「とりあえず、ここは定石通りに、身体にお経でも書いておこうかしら。」
慧音「お経なんて書けるのか?」
霊夢「何とかなるでしょ。要は、あいつの目からあんたが見えなくなったらいいんだから。」
慧音「・・・大丈夫かな・・・?」
とにかく、亡霊から芳一の身を守らなくてはなりません。
明くる日、お坊さんは筆と墨を持ってくると、芳一の身体に呪文を書き綴りました。
これで、亡霊の目からは芳一の姿が見えなくなると言うのです。
慧音「・・・・く、くすぐったい・・・。」
霊夢「我慢しなさい。」
慧音「ひゃうっ!?そ、そこは・・・・。」
霊夢「こら!変な声出すな!」
芳一は、外から聞くと誤解を招きそうな声をあげてしまいました。
そんなこともありましたが、無事に作業は終わりました。
霊夢「ふぅ、完成。」
慧音「おい、顔と手足だけしか書いてないじゃないか。」
霊夢「身体の方は、呪文入りの服で我慢してね。良い子には、これ以上の描写はアレだから。」
慧音「何の話だよ。」
霊夢「悪い子は、勝手に想像することね。」
慧音「いや、だから・・・。」
霊夢「別に、私が面倒だから、ってわけじゃないわよ。」
慧音「それが本音か。」
ちょっと手抜き加減な気もしますが、お坊さんの力は本物です。
これで、亡霊が芳一を見ることは出来ません。
霊夢「今晩あいつが来ても、絶対声を出さないこと。居るのバレるからね。」
慧音「分かったよ。」
霊夢「じゃ、疲れたから寝るわ。お休み。」
慧音「ちょっと待った。」
霊夢「何よ?」
慧音「耳にはちゃんと書いただろうな?原作みたく耳取られるのは御免だぞ。」
霊夢「ちゃんと書いたわよ。耳の裏やってる時にあんな声出しといて、気付かなかったって言うの?」
慧音「~~~~~~~!!」
芳一は赤面しました。
恥ずかしさの余り、声も出ません。
霊夢「とにかく、全部隠れてると思うから。」
慧音「あ、ああ・・・。分かった。」
霊夢「じゃ、お休み。」
慧音「なぁ。」
霊夢「何?」
慧音「こっそりξ・∀・)書いたろ?」
霊夢「書いたわよ。よく分かったわね。」
慧音「ほんと大丈夫なのか?これは・・・。」
霊夢「大丈夫よ。ξ・∀・)は、ちょっとしたお茶目だから。」
芳一は少し不安でしたが、お坊さんの言うことを信じるしかありませんでした。
そして、その夜のことです。
いつもどおり、お侍、平家の亡霊が、芳一のところにやって来ました。
幽々子「こんばんわ~。」
慧音「・・・・・・。」
いつもなら返事の一つもする芳一ですが、今宵は坊さんに言われたとおり、ずっと黙っていました。
返事をしたら、隠れていることがばれるからです。
幽々子「こんばんわ~。」
慧音「・・・・・・。」
幽々子「こんばんわ~。」
慧音「・・・・・・。」
幽々子「こんばんわ~。」
慧音「・・・・・・。」
幽々子「こんばんわ~。」
慧音「・・・・・・。」
幽々子「こんばんわ~。」
慧音「・・・・・・。」
幽々子「こんばんわ~。」
慧音「・・・・・・。」
幽々子「こんばんわ~。」
慧音「・・・・・・。」
幽々子「こんばんわ~。」
慧音「・・・・・・。」
幽々子「こんばんわ~。」
慧音「・・・・・・。」
幽々子「こんぱんわ~。」
慧音「・・・・・・。」
幽々子「こんばんわ~。」
慧音「・・・・・・。」
幽々子「こんばんわ~。」
慧音「・・・・・・。」
幽々子「こんばんわ~。」
慧音「・・・・・・。」
幽々子「こんばんわ~。」
慧音「・・・・・・。」
幽々子「こんばんわ~。」
慧音「・・・・・・。」
幽々子「こんばんわ~。」
慧音「・・・・・・。」
幽々子「こんばんわ~。」
慧音「(しつこいな・・・。)」
何度も声をかけられましたが、芳一はじっと耐えました。
幽々子「留守かしら?」
芳一はその場に居るのですが、亡霊は気付きません。
慧音「(・・・これの効果はちゃんとあるようだな)」
お坊さんの書いた呪文は効果覿面です。
亡霊は芳一の姿を探しますが、芳一の姿は見えていません。
慧音「・・・・・・。」
幽々子「う~ん、芳一が居ないんじゃあ、今晩の食事が・・・。」
慧音「(やっぱり寄生してたのか。こいつは・・・)」
芳一は呆れ返りましたが、今宵は被害に遭わずに済むと思い、安心しました。
芳一が居ないと言うことで、亡霊は諦めて帰ろうとしました。
と、その時です。
幽々子「あ。」
慧音「?」
亡霊が、何かに気付きました。
幽々子「沢庵が浮いてる。」
慧音「(沢庵?)」
亡霊の目の色が変わりました。
と、同時に腹の音がしました。
幽々子「一緒にご飯が欲しいところだけど、お腹空いたし仕方ないわ。今晩はこれだけで我慢しましょ。」
慧音「(ちょっと待て。沢庵が浮くなんて・・・いや、それよりうちの食料はお前に食い尽くされて、
もう米粒一つ、小麦粉はさじ一杯も無いんだが・・・。って、近づいてきてるのか?何故?」
亡霊は、芳一の方へと近づいて来ました。
幽々子「よいしょ。」
亡霊は、ぐいっ!と沢庵を引っ張りました。
慧音「ふぎゃ!」
幽々子「あら、逃げるのね。この沢庵。」
慧音「(いたたたたた!)」
亡霊が沢庵を引っ張ると、芳一は痛がりました。
幽々子「大人しく・・・よいしょ!」
慧音「(い、痛いってば!・・・ひょっとして、沢庵って・・・)」
幽々子「二つも有るのに、どっちも逃げるのね。一つぐらい食べたっていいじゃないの。」
慧音「(・・・・やっぱり角か!)」
何時の間にか芳一の頭に、角が生えていました。
幽々子「あら、よく見たら、とろろ昆布もあるじゃない。」
慧音「(とろろ・・・?尻尾のことか!)」
幽々子「ん~、流石にこのままじゃ、あんまり美味しくないし。沢庵だけでいいか。」
何と、尻尾まで生えていました。
その尻尾は、亡霊にとろろ昆布と認識されてしまいました。
慧音「(ひょっとしてひょっとしなくても、今日はまさか・・・!)」
そう、今宵は満月だったのです。
『この』芳一は、満月になると角と尻尾が生えてしまうのです!
昼間は生えてなかったので、当然呪文は書かれていません。
今亡霊の目には、角二本と尻尾しか見えてないのです。
慧音「(す、すっかり忘れて・・・)」
幽々子「ていっ!」
慧音「いったぁ!」
亡霊は力をこめて、沢庵を思いっきり引っ張りました。
芳一の角ですけど。
思わず声が出てしまいましたが、亡霊は沢庵をゲットするのに必死で、気付きませんでした。
慧音「ていうか間違えるなこの天然!」
幽々子「そぉ~・・・れ!」
慧音「痛い痛い痛い!」
亡霊は、渾身の力を出して沢庵を引っ張りました。
しかし、沢庵は芳一の角です。
芳一が痛がって逃げようとするので、沢庵は亡霊の思い通りにはなりません。
慧音「もうやめてくれ!芳一はここにいるから!ご飯出すから!」
幽々子「むむ、ここまで抵抗した沢庵は、貴方が始めてよ。」
慧音「だから沢庵じゃないって!とろろ昆布でも無いぞ!」
幽々子「よろしい。貴方を、私の宿敵とするわ。宿敵はライバルと読むのよ。」
慧音「たかが沢庵ごときをライバル認定するな!ていうか沢庵じゃないって!」
幽々子「行くわよ宿敵。私の本気とカリスマを見せてやるわ。」
慧音「ライバルが沢庵な輩にカリスマなんてあるか~!!」
芳一は隠れることを諦めて、正体を現そうとしました。
しかし亡霊は、自分の世界に浸ってしまって、芳一の声に気付きません。
幽々子「楼!観!剣!」
慧音「げっ!」
亡霊は平家の侍の霊らしく、刀を抜きました。
刀身は、妖しく光っています。
目の見えない芳一ですが、その殺気と腹の音はビンビンに伝わってきます。
幽々子「妖怪が鍛えたこの剣に、切れぬモノなど・・・。有るには有るらしいけど詳しくは知らない!」
慧音「ちょ、ま、待て!それは流石に洒落にならん!」
幽々子「きえ~いっ!」
慧音「うぉわ~!?」
亡霊が刀を振りました。
芳一は間一髪で、斬撃を避けることが出来ました。
慧音「ちょ・・・!く、首狙っただろ!首!」
幽々子「せいや~っ!」
慧音「うわぁ~!」
幽々子「でぇ~い!」
慧音「ぬわ~~!?」
芳一は、目が見えないながらも、必死で亡霊の攻撃を避けています。
亡霊は何故か沢庵ではなく、芳一の首を狙っています。
亡霊の目に、芳一の身体と顔は見えていないはずですが。
慧音「あ・・・。まさかξ・∀・)か!?」
そう。
芳一の首には、お坊さんがお茶目で書いてみたξ・∀・)が書いてあったのです。
そのせいで亡霊は、ξ・∀・)をガッ!するかの如く、芳一の首に刀を振っているのです。
これはもう、呪いとか本能とか、そんな類のものとしか言い様がありません。
慧音「そんな本能あるか~~~!!」
幽々子「貰った!」
慧音「!?」
一瞬の事でした。
亡霊の一閃が、芳一を捉えたのです。
慧音「・・・・・。」
幽々子「・・・・・。」
その時間は、本当に一瞬でしたが、二人には酷く永く感じられました。
刻が、減速したのです。
パチュリー「・・・よし。そこで、ゆっくり、ゆっくり動かすのよ。」
咲夜「こんな感じですか?」
パチュリー「・・・いいわ。そのまま、少しずつ刻を進めて。角が落ちるまで。」
咲夜「演出も大変ですねぇ。」
カーン、と音がしました。
その音と共に、刻が急速に元の速さを取り戻して行きます。
幽々子「沢庵ゲットよ~。」
慧音「な・・・・?」
芳一の角を斬り落としたのです。
亡霊は勝利宣言をすると喜んで、その角を拾い上げました。
芳一は愕然としました。
慧音「ああ!・・・あああぁああ、な、ななななない!!」
幽々子「ありがとう、そしてさようなら宿敵。貴方は私のお腹の中で、永久に生き続けるのよ。」
慧音「あ゛~~~~~~~~!!!」
幽々子「いただきま~す。」
亡霊は、動かなくなった宿敵を食しました。
幽々子「(ゴキッ!)う~ん、沢庵にしては乾きすぎてるわね~。硬いし。(ボリボリ・・・)」
ボリボリと音を立てつつ、宿敵の味を満喫しています。
幽々子「でもまぁ、これはこれで美味しいわね。(ゴキッ!バキッ・・・!)」
宿敵を食べながら亡霊は、芳一の前から姿を消しました。
慧音「う、うう・・・。ひっく・・・うええ・・・・。」
後に残された芳一は、ぺたんと床に座り込んで、すすり泣きしています。
そこに、お坊さんが入ってきました。
霊夢「何か、今日は今日で騒がしかったけど、どうしたのよ?」
慧音「つ・・・角が・・・・角がぁ~・・・ひっく・・・。」
霊夢「角?」
お坊さんは、芳一の頭を見ました。
霊夢「なるほど、一本だけ持ってかれたのね。」
慧音「こんな姿にされて・・・・もう嫁にも行けない・・・。あうう・・・。」
霊夢「まぁ、どうせまた生えてくるでしょ。今晩を無かったことに~、って感じで。」
慧音「蜥蜴の尻尾みたいに言うなよぅ・・・。」
こうして芳一は、耳が無くなることはありませんでしたが、角を失ってしまいました。
その後芳一が、『角なし芳一』と呼ばれるようになったかどうかは、定かではありません。
ただ、その次の満月の日も、亡霊は刀を持ってやってきたそうです。
もう一つの宿敵と、決着をつけるためです。
幽々子「今日はご飯持参でとろろ昆布も一緒にゲットよ!」
慧音「何ぃ~~!!」
幽々子「満たすは我が食欲。吼えろ、楼観剣!チェェェストォ~!!」
慧音「もう勘弁してくれぇ~!」
亡霊が宿敵と決着をつける事が出来たのか。
芳一が、本当に『角なし芳一』になってしまったのか、はたまた『尾なしの芳一』となってしまったのか。
それは、当人達以外には、お坊さんくらいしか、知らないのです。
霊夢「ああ、そのこと?よく覚えてないわ。寝てたから。」
おしまい
キャスト
芳一 ・・・ 上白沢 慧音
平家の亡霊 ・・・ 西行寺 幽々子
お坊さん ・・・ 博麗 霊夢
裏方さん ・・・ 十六夜 咲夜、パチュリー・ノーレッジ
怪傑みすちー ・・・ ミスティア・ローレライ
慧音「いきなり盲人しろと言われてもなあ。」
ミスティア「ズバッと参上~~~~♪」
慧音「五月蝿い。・・・ってああ!目が見えん!」
ミスティア「ズバッと解決~~~~♪」
慧音「こら待て~!」
芳一は目が見えませんでしたが、琵琶が大変上手でした。
特に、平家物語の弾き語りが得意だったそうです。
今日もなんとなく、琵琶を弾きながら平家物語を詠っていました。
慧音「にん~げん~ごじゅうねん~。げてんの~うち~を~・・・。」
幽々子「良い徒然草ね。」
慧音「敦盛だ。・・・・折角ボケてみたのに、ボケで返すか。」
誰かが、お寺に入ってきました。
どうやらお侍のようですが、芳一には見えていません。
幽々子「とにかくその弾き語りには感動したわ。もっと聴かせてくれないかしら?」
慧音「ん、いいだろう。」
お侍に言われて芳一は、琵琶を弾き始めました。
慧音「祇園精舎の鐘の声~・・・。」
幽々子「(ボリボリボリ・・・)」
慧音「諸行無常の響きあり~・・・。」
幽々子「(ぱくぱく・・・。)」
慧音「沙羅双樹の花の色~・・・・。」
幽々子「(ずず~・・・)」
慧音「おごれる人も久し・・・こら。」
幽々子「ん?」
慧音「人が弾き語っているのに、お前は何やってる。」
お侍は、ボリボリバクバクと、何やら音を立てています。
行儀がなっていません。
慧音「何か良い匂いがするな・・・。はっ、まさか!」
幽々子「ご馳走様。」
慧音「やっぱりか!人ん家の食料、勝手に漁ったな!」
幽々子「漁ったなんて人聞きが悪いわね~。そこに食料庫が落ちてたのよ。」
慧音「落ちてるものか!」
幽々子「腹が減っては、内容がロクに頭に入って来ないの。感動も半減よ。」
慧音「人の話頭に入れてないだろ!」
幽々子「どうでもいいけど感動したわ。うう・・・。」
慧音「取ってつけたような褒め言葉は要らん。」
幽々子「感動したから、これから毎晩聴きに来るわね。」
慧音「何っ・・・!」
その余りの上手さに、お侍は感動して涙ちょちょぎれてしまいました。
お侍はこの日以来、毎晩のように芳一のところにやってくるようになりました。
幽々子「芳一さんや、お腹すいた。」
慧音「帰ってくれ!むしろ帰れ!」
勿論、食料も漁られて行きました。
それが毎晩ですから、あっという間に食料が無くなってしまいました。
幽々子「こんばんわ~。」
慧音「もう、うちには米粒一つねえだ!頼む、もうけえってくんろ!」
幽々子「隠してあるのは分かってるのよ。お邪魔します~。」
慧音「あぁ~れぇ~~。」
芳一は、いい加減このお侍にウンザリしてきました。
ウンザリの余り、口調もキャラも変わってしまっています。
お侍が上がりこもうとした、その時です。
霊夢「あんたらさっきから五月蝿い!悪霊退散、夢想封印!」
このお寺のお坊さんが姿を見せました。
お坊さんは現れて早々、夢想封印を二人に向かって放ちました。
幽々子「あぁ~・・・・。」
慧音「うわ~・・・・・・。」
芳一とお侍は、外へ吹っ飛ばされました。
慧音「・・・・私が何したよ・・・?」
霊夢「五月蝿かった。ただそれだけよ。・・・もう一人は逃がしたみたいね。」
慧音「逃げたのか。は~、助かった・・・。」
霊夢「芳一。あんたつかれてたわよ。」
慧音「ああ、毎晩さっきのを相手しなきゃいけなかったからな。そりゃあ『疲れ』る。」
霊夢「あ~いや、そうじゃなくて。さっきのあれ、亡霊よ。『憑かれ』てたの。」
慧音「何・・・?」
芳一はびっくりしました。
あのお侍は、なんと亡霊だと言うのです!
霊夢「あんた、目が見えてないから分からなかったんでしょうけど、あれは平家の亡霊なの。」
慧音「それで、平家物語に執着して・・・してないか。」
霊夢「下手したら憑き殺されてたかもね。」
慧音「寝不足で死んでたのは、間違いないかもな・・・。」
芳一はゾっとしました。
もしお坊さんが気付かなかったら、自分は亡霊に殺されていたかも知れなかったのです。
慧音「とは言え、これからもアレは出てくるだろうなぁ。」
霊夢「毎晩あれが続くのも考え物よね。何とかしなきゃ。」
慧音「何とかって、どうするんだ?」
霊夢「とりあえず、ここは定石通りに、身体にお経でも書いておこうかしら。」
慧音「お経なんて書けるのか?」
霊夢「何とかなるでしょ。要は、あいつの目からあんたが見えなくなったらいいんだから。」
慧音「・・・大丈夫かな・・・?」
とにかく、亡霊から芳一の身を守らなくてはなりません。
明くる日、お坊さんは筆と墨を持ってくると、芳一の身体に呪文を書き綴りました。
これで、亡霊の目からは芳一の姿が見えなくなると言うのです。
慧音「・・・・く、くすぐったい・・・。」
霊夢「我慢しなさい。」
慧音「ひゃうっ!?そ、そこは・・・・。」
霊夢「こら!変な声出すな!」
芳一は、外から聞くと誤解を招きそうな声をあげてしまいました。
そんなこともありましたが、無事に作業は終わりました。
霊夢「ふぅ、完成。」
慧音「おい、顔と手足だけしか書いてないじゃないか。」
霊夢「身体の方は、呪文入りの服で我慢してね。良い子には、これ以上の描写はアレだから。」
慧音「何の話だよ。」
霊夢「悪い子は、勝手に想像することね。」
慧音「いや、だから・・・。」
霊夢「別に、私が面倒だから、ってわけじゃないわよ。」
慧音「それが本音か。」
ちょっと手抜き加減な気もしますが、お坊さんの力は本物です。
これで、亡霊が芳一を見ることは出来ません。
霊夢「今晩あいつが来ても、絶対声を出さないこと。居るのバレるからね。」
慧音「分かったよ。」
霊夢「じゃ、疲れたから寝るわ。お休み。」
慧音「ちょっと待った。」
霊夢「何よ?」
慧音「耳にはちゃんと書いただろうな?原作みたく耳取られるのは御免だぞ。」
霊夢「ちゃんと書いたわよ。耳の裏やってる時にあんな声出しといて、気付かなかったって言うの?」
慧音「~~~~~~~!!」
芳一は赤面しました。
恥ずかしさの余り、声も出ません。
霊夢「とにかく、全部隠れてると思うから。」
慧音「あ、ああ・・・。分かった。」
霊夢「じゃ、お休み。」
慧音「なぁ。」
霊夢「何?」
慧音「こっそりξ・∀・)書いたろ?」
霊夢「書いたわよ。よく分かったわね。」
慧音「ほんと大丈夫なのか?これは・・・。」
霊夢「大丈夫よ。ξ・∀・)は、ちょっとしたお茶目だから。」
芳一は少し不安でしたが、お坊さんの言うことを信じるしかありませんでした。
そして、その夜のことです。
いつもどおり、お侍、平家の亡霊が、芳一のところにやって来ました。
幽々子「こんばんわ~。」
慧音「・・・・・・。」
いつもなら返事の一つもする芳一ですが、今宵は坊さんに言われたとおり、ずっと黙っていました。
返事をしたら、隠れていることがばれるからです。
幽々子「こんばんわ~。」
慧音「・・・・・・。」
幽々子「こんばんわ~。」
慧音「・・・・・・。」
幽々子「こんばんわ~。」
慧音「・・・・・・。」
幽々子「こんばんわ~。」
慧音「・・・・・・。」
幽々子「こんばんわ~。」
慧音「・・・・・・。」
幽々子「こんばんわ~。」
慧音「・・・・・・。」
幽々子「こんばんわ~。」
慧音「・・・・・・。」
幽々子「こんばんわ~。」
慧音「・・・・・・。」
幽々子「こんばんわ~。」
慧音「・・・・・・。」
幽々子「こんぱんわ~。」
慧音「・・・・・・。」
幽々子「こんばんわ~。」
慧音「・・・・・・。」
幽々子「こんばんわ~。」
慧音「・・・・・・。」
幽々子「こんばんわ~。」
慧音「・・・・・・。」
幽々子「こんばんわ~。」
慧音「・・・・・・。」
幽々子「こんばんわ~。」
慧音「・・・・・・。」
幽々子「こんばんわ~。」
慧音「・・・・・・。」
幽々子「こんばんわ~。」
慧音「(しつこいな・・・。)」
何度も声をかけられましたが、芳一はじっと耐えました。
幽々子「留守かしら?」
芳一はその場に居るのですが、亡霊は気付きません。
慧音「(・・・これの効果はちゃんとあるようだな)」
お坊さんの書いた呪文は効果覿面です。
亡霊は芳一の姿を探しますが、芳一の姿は見えていません。
慧音「・・・・・・。」
幽々子「う~ん、芳一が居ないんじゃあ、今晩の食事が・・・。」
慧音「(やっぱり寄生してたのか。こいつは・・・)」
芳一は呆れ返りましたが、今宵は被害に遭わずに済むと思い、安心しました。
芳一が居ないと言うことで、亡霊は諦めて帰ろうとしました。
と、その時です。
幽々子「あ。」
慧音「?」
亡霊が、何かに気付きました。
幽々子「沢庵が浮いてる。」
慧音「(沢庵?)」
亡霊の目の色が変わりました。
と、同時に腹の音がしました。
幽々子「一緒にご飯が欲しいところだけど、お腹空いたし仕方ないわ。今晩はこれだけで我慢しましょ。」
慧音「(ちょっと待て。沢庵が浮くなんて・・・いや、それよりうちの食料はお前に食い尽くされて、
もう米粒一つ、小麦粉はさじ一杯も無いんだが・・・。って、近づいてきてるのか?何故?」
亡霊は、芳一の方へと近づいて来ました。
幽々子「よいしょ。」
亡霊は、ぐいっ!と沢庵を引っ張りました。
慧音「ふぎゃ!」
幽々子「あら、逃げるのね。この沢庵。」
慧音「(いたたたたた!)」
亡霊が沢庵を引っ張ると、芳一は痛がりました。
幽々子「大人しく・・・よいしょ!」
慧音「(い、痛いってば!・・・ひょっとして、沢庵って・・・)」
幽々子「二つも有るのに、どっちも逃げるのね。一つぐらい食べたっていいじゃないの。」
慧音「(・・・・やっぱり角か!)」
何時の間にか芳一の頭に、角が生えていました。
幽々子「あら、よく見たら、とろろ昆布もあるじゃない。」
慧音「(とろろ・・・?尻尾のことか!)」
幽々子「ん~、流石にこのままじゃ、あんまり美味しくないし。沢庵だけでいいか。」
何と、尻尾まで生えていました。
その尻尾は、亡霊にとろろ昆布と認識されてしまいました。
慧音「(ひょっとしてひょっとしなくても、今日はまさか・・・!)」
そう、今宵は満月だったのです。
『この』芳一は、満月になると角と尻尾が生えてしまうのです!
昼間は生えてなかったので、当然呪文は書かれていません。
今亡霊の目には、角二本と尻尾しか見えてないのです。
慧音「(す、すっかり忘れて・・・)」
幽々子「ていっ!」
慧音「いったぁ!」
亡霊は力をこめて、沢庵を思いっきり引っ張りました。
芳一の角ですけど。
思わず声が出てしまいましたが、亡霊は沢庵をゲットするのに必死で、気付きませんでした。
慧音「ていうか間違えるなこの天然!」
幽々子「そぉ~・・・れ!」
慧音「痛い痛い痛い!」
亡霊は、渾身の力を出して沢庵を引っ張りました。
しかし、沢庵は芳一の角です。
芳一が痛がって逃げようとするので、沢庵は亡霊の思い通りにはなりません。
慧音「もうやめてくれ!芳一はここにいるから!ご飯出すから!」
幽々子「むむ、ここまで抵抗した沢庵は、貴方が始めてよ。」
慧音「だから沢庵じゃないって!とろろ昆布でも無いぞ!」
幽々子「よろしい。貴方を、私の宿敵とするわ。宿敵はライバルと読むのよ。」
慧音「たかが沢庵ごときをライバル認定するな!ていうか沢庵じゃないって!」
幽々子「行くわよ宿敵。私の本気とカリスマを見せてやるわ。」
慧音「ライバルが沢庵な輩にカリスマなんてあるか~!!」
芳一は隠れることを諦めて、正体を現そうとしました。
しかし亡霊は、自分の世界に浸ってしまって、芳一の声に気付きません。
幽々子「楼!観!剣!」
慧音「げっ!」
亡霊は平家の侍の霊らしく、刀を抜きました。
刀身は、妖しく光っています。
目の見えない芳一ですが、その殺気と腹の音はビンビンに伝わってきます。
幽々子「妖怪が鍛えたこの剣に、切れぬモノなど・・・。有るには有るらしいけど詳しくは知らない!」
慧音「ちょ、ま、待て!それは流石に洒落にならん!」
幽々子「きえ~いっ!」
慧音「うぉわ~!?」
亡霊が刀を振りました。
芳一は間一髪で、斬撃を避けることが出来ました。
慧音「ちょ・・・!く、首狙っただろ!首!」
幽々子「せいや~っ!」
慧音「うわぁ~!」
幽々子「でぇ~い!」
慧音「ぬわ~~!?」
芳一は、目が見えないながらも、必死で亡霊の攻撃を避けています。
亡霊は何故か沢庵ではなく、芳一の首を狙っています。
亡霊の目に、芳一の身体と顔は見えていないはずですが。
慧音「あ・・・。まさかξ・∀・)か!?」
そう。
芳一の首には、お坊さんがお茶目で書いてみたξ・∀・)が書いてあったのです。
そのせいで亡霊は、ξ・∀・)をガッ!するかの如く、芳一の首に刀を振っているのです。
これはもう、呪いとか本能とか、そんな類のものとしか言い様がありません。
慧音「そんな本能あるか~~~!!」
幽々子「貰った!」
慧音「!?」
一瞬の事でした。
亡霊の一閃が、芳一を捉えたのです。
慧音「・・・・・。」
幽々子「・・・・・。」
その時間は、本当に一瞬でしたが、二人には酷く永く感じられました。
刻が、減速したのです。
パチュリー「・・・よし。そこで、ゆっくり、ゆっくり動かすのよ。」
咲夜「こんな感じですか?」
パチュリー「・・・いいわ。そのまま、少しずつ刻を進めて。角が落ちるまで。」
咲夜「演出も大変ですねぇ。」
カーン、と音がしました。
その音と共に、刻が急速に元の速さを取り戻して行きます。
幽々子「沢庵ゲットよ~。」
慧音「な・・・・?」
芳一の角を斬り落としたのです。
亡霊は勝利宣言をすると喜んで、その角を拾い上げました。
芳一は愕然としました。
慧音「ああ!・・・あああぁああ、な、ななななない!!」
幽々子「ありがとう、そしてさようなら宿敵。貴方は私のお腹の中で、永久に生き続けるのよ。」
慧音「あ゛~~~~~~~~!!!」
幽々子「いただきま~す。」
亡霊は、動かなくなった宿敵を食しました。
幽々子「(ゴキッ!)う~ん、沢庵にしては乾きすぎてるわね~。硬いし。(ボリボリ・・・)」
ボリボリと音を立てつつ、宿敵の味を満喫しています。
幽々子「でもまぁ、これはこれで美味しいわね。(ゴキッ!バキッ・・・!)」
宿敵を食べながら亡霊は、芳一の前から姿を消しました。
慧音「う、うう・・・。ひっく・・・うええ・・・・。」
後に残された芳一は、ぺたんと床に座り込んで、すすり泣きしています。
そこに、お坊さんが入ってきました。
霊夢「何か、今日は今日で騒がしかったけど、どうしたのよ?」
慧音「つ・・・角が・・・・角がぁ~・・・ひっく・・・。」
霊夢「角?」
お坊さんは、芳一の頭を見ました。
霊夢「なるほど、一本だけ持ってかれたのね。」
慧音「こんな姿にされて・・・・もう嫁にも行けない・・・。あうう・・・。」
霊夢「まぁ、どうせまた生えてくるでしょ。今晩を無かったことに~、って感じで。」
慧音「蜥蜴の尻尾みたいに言うなよぅ・・・。」
こうして芳一は、耳が無くなることはありませんでしたが、角を失ってしまいました。
その後芳一が、『角なし芳一』と呼ばれるようになったかどうかは、定かではありません。
ただ、その次の満月の日も、亡霊は刀を持ってやってきたそうです。
もう一つの宿敵と、決着をつけるためです。
幽々子「今日はご飯持参でとろろ昆布も一緒にゲットよ!」
慧音「何ぃ~~!!」
幽々子「満たすは我が食欲。吼えろ、楼観剣!チェェェストォ~!!」
慧音「もう勘弁してくれぇ~!」
亡霊が宿敵と決着をつける事が出来たのか。
芳一が、本当に『角なし芳一』になってしまったのか、はたまた『尾なしの芳一』となってしまったのか。
それは、当人達以外には、お坊さんくらいしか、知らないのです。
霊夢「ああ、そのこと?よく覚えてないわ。寝てたから。」
おしまい
キャスト
芳一 ・・・ 上白沢 慧音
平家の亡霊 ・・・ 西行寺 幽々子
お坊さん ・・・ 博麗 霊夢
裏方さん ・・・ 十六夜 咲夜、パチュリー・ノーレッジ
怪傑みすちー ・・・ ミスティア・ローレライ
ともかく面白かったw
慧音さんが主人公の昔話って珍しい。 新たな不幸キャラの誕生に合掌。
でも西遊記の頃から慧音さんってろくな目にあってないような?^^;
EX慧音の角を盲点にしてくるとは流石の匠。 そのEXを慧音をおびえさせるとは、さすがは平家の亡霊、食い物の恨みは恐ろしいってヤツですね。
リクエスト、二つともお取り上げて頂いてありがとう御座いました。
パチェと咲夜さん、謎キャラで確立していくんですかね? こ筆主殿のこれからのより一層のご壮健を日本のどこかよりこっそり応援いたします。
しかし角を丸齧りとは何ちゅー丈夫な歯か。
それと相変わらず何やってんだ裏方組。