7月○日 【晴れ】
梅雨も終わりました!
少し遅いかもしれませんが……。
この季節になると懐がホカホカなんですよねぇ~。
さて、次のお休みは何を買いましょうか♪
この前お店で見かけた新しいお洋服もグーですが、そろそろ下着も良い物が欲しいです。
アンティークショップで見かけた小さいオルゴールも可愛いかったです。
誰かに買われてなければ良いですけど。
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サラサラサラサラサラ……
インクを含ませた羽ペンが踊る。
何処を見回しても人影が見当たら無いこの無人の部屋で、羽ペンだけがただひたすら動く。
それを誰かが目撃するわけでもなく、勝手に動く
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え? 何の事か解らない?
そりゃそうです、色々と端折ってとりあえず喜びを表現しただけですから。
……ええと、一から説明すると、この時期は臨時収入が入るからウキウキ気分なのです。
私の懐もほわほわと暖かくなるのですよー♪
ああもう嬉しくて嬉しくて、何をしましょうか?
贅沢に温泉旅行に行くのも手です、それともイヤリングでも新調しましょうか?
大好物のアンチョビ・ピザを10人前くらい取り寄せて、ピザパーティーと言うのも良いかもしれません。
・
・
・
あうー
解りました。
ちゃんと説明するから、そんな目で見つめないで下さいよ~。
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これは魔法による産物が残す記録。
この手帳、いや日記帳の持ち主が何かを体験すると自動的に記帳を始める、『自動魔法日記』。
決まった事をつい忘れてしまう人や、毎日日記をつけるのがめんどくさい人にはお勧めの一品だったりする。
この日記の持ち主であるヴワル魔法図書館の司書、通称『小悪魔』。
パチュリーの秘書も兼務する小悪魔は、勿論後者の理由からこの日記を愛用していた。
今日も今日とて、彼女は日記に書かせるを任せている。
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これは非公式なのですが、ここ紅魔館では個人のアルバイトが認められています。
だってお給金が少n……ゲフンゲフン! とにかく、個人が楽しみながらアルバイトする分には問題ないのでしょう。
多分、お嬢様と妹様・咲夜さんとパチュリー様以外はみんなバイトしているのではないでしょうか?
(お嬢様と妹様がアルバイトをする理由も見つかりませんが……)
普段の業務に差し支えが無ければ、料理をしようが、お掃除をしようが、ウエイトレスになろうが、酒場で脱ごうが、
……最後のは論外ですが、とにかく普段の仕事さえこなしていれば、職種には何ら問題は無いです。
ちなみに、私のアルバイトは山菜・ハーブ摘みです。
誰ですか、地味だなんて言った人は? そんな人には私の大粒弾を連続でお見舞いですよ?
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サラサラサラサラサラ……チョッ……サラサラサラサラサラ
羽ペンが時々本から離れては、インクをつけて戻ってくる。
ペンの動きは軽く、感情を持つもの達独自の感情に毒される事も無く、ただ淡々と書き写すのみ。
この無機的な動きとはうらはらに、その内容は持ち主そのものを忠実に反映しており、実に小悪魔らしい。
ほのぼのと、ちょっととぼけた感じと、そして決して外には出せないアレな秘め事に満ちていた。
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ええと、この周囲一体に対しての紅魔館と言う存在は、ある意味周囲に漂う魔力の特異点とも言える存在です。
従って、裏庭(庭と言っても恐ろしい程広いです)や周囲の湖の生物層は、集中する魔力の影響をモロに受けます。
その状況下で育った生き物達は、他には見れない程の奇妙な姿や、変わった性質を持つ事があるのです。
……何故か今、頭の中に「ゲンシリョクハツデンショ」という言葉が浮かびました。
何となく嫌な響きを持った言葉な気がします。意味は解らないのですけど……
閑話休題。
ともかく、余所では絶対見られないようなものが平然と妖々跋扈する怪しげな場所なのですね。
私の山菜摘みも、その恩恵を受けたアルバイトなのですが、今回は大豊作でした。
いつもハーブを摘みに行く場所で、今回は「茗荷」がわーーーーーーーーっ! とあたり一面に生えていたのです。
摘んでも摘んでも減る気配も無く、ついには籠から溢れそうなくらいに取れました。
とまあ、今回は売れに売れた為、私の懐がホカホカに暖まったのです。ハイ。
ちなみに、これら収穫物は「香霖堂」等のマジックアイテムを扱うお店に卸してます。
しかしここで問題発生、今回はあまりにも多く取れすぎてしまいました。
ここで大量に出荷してしまうと、インフレを起こして来年の相場に影響を与えてしまいます。
今目の前にあるザルに山と摘まれた茗荷達……この子たちはどうすればよいのでしょうか?
マジックアイテムの一種として使うにしても、残念な事に私にはその類の知識がありません。
とりあえず、それ以外の有効的活用法を色々考えてみることにしました。
でも、茗荷なんてどーやって活用するんだろう? 所詮食べ物の一種ですし。
それはともかく……
Q1.お漬物にする。
A1:私はそんなにお漬物が好きではないので却下。
Q2.ひややっこの上に載せて、美味しく頂く。
A2:そんな食べ方でこの量を消費するには、約2ヶ月は3食全てが冷奴になりかねません。
つか、ここは一つ食べ物から離れてみましょう。
Q3.弾幕代わりに投げる。
A3:見た目が情けないんですけど……それに、そこまで大量に振りまく程の量は有りませんがな。
Q4.頭の羽代わりに付けて、アクセサリー♪
A4:んな茗荷臭いアクセサリーは要りません、そんな事したら私の社会的信用が地に落ちかねません。
Q5.虫除けとして、そこら中に吊るす。
A5:ですから茗荷臭すぎますって、そんな部屋に誰が入るのですか。
Q6.飾る。
A6:…………
すいません、なんだか奇妙な使用法しか頭に浮かびません。
ここは原点に戻って、食べ物として使用するべきです。
一人でこの量を消費するのは非常に辛いです、ここは他の皆さんにも協力してもらうのが良いです。
そうなると、条件としては『大量に作れて、皆に抵抗なく食べてもらえる』ですね。
Q7.茗荷ご飯。
A7:この洋食派揃いの紅魔館でどれだけ食べてもらえるかが疑問です。
Q8.みょうがクッキー。
A8:これですね。キターーーーーーッ!
……みょうがクッキー?
まあ、世の中には生姜クッキーが存在するのですから、みょうがクッキーが存在しても良いはず。
我ながら奇妙な発想が生まれたものですが、無理やり自分を納得させてレッツクッキング。
数十分後――
完成ですぅ♪ やっぱり私って天才!
ああなんて美味しそうな匂いなんでしょう、暖かい鉄板の上に並ぶクッキー達。
早速試食と行きましょうか♪
「ねーねー、ちょっと本が借りたいんだけど」
おっと、丁度誰かいらっしゃったみたいですね?
あの声は――門番の美鈴さんですね。ハイハイ、少々お待ちを。
「はい、お待たせしました」
「えーっとね、民明書房の『中華足技大全 3巻』が借りたいんだけど」
「解りました、書庫から探しますので、クッキーを召し上がりながら2~3分お待ちください」
と言いつつ、さり気なくクッキーを勧める私。試食する人は多い方が良いですもんね。
サクサクとクッキーを齧りながら、本棚を漁りまわってちょっと行儀が悪い私です。
ええと、たしか民明書房はこの辺りに……
私の頭に花が咲いた気がします。
何でしょうか? このほわほわとした感じは。
みょうがの効果が現れたんでしょうか? 体がほかほかと暖かいです。
しかしこれだけ暖かくても、暗い図書館の中ではすぐに冷めてしまいますね。別に不満は有りませんが。
それはともかく、お仕事お仕事っと……。
……何を探しているのでしたっけ。
迂闊にも本のタイトルを忘れてしまいました。
仕方が無いので、美鈴さんにもう一度聞く事にしましょう。
「あのぅ、美鈴さん」
「ふあっ!?」
クッキーを口に含んでいる時にお尋ねしたものですから、しごくあやしげな返事が返ってきました。
「申し訳ないのですが……何の本がご用入りでしたっけ?」
「ムグムグ……んぐっ。やだなあ、もう忘れちゃったの?」
「はい、恥ずかしながら……」
「あーもう、気にしなくて良いのよ。あの本のタイトルはね……」
そこで、美鈴様の動きが止まりました。
空間に接着剤でも使ったかのような程、見事な停止具合です。
「……何だったけ?」
・
・
・
ぷっ
「「あーっはっはっはっはっはっは!!!」」
どちらからとも無く、2人して大爆笑です。
久しぶりに図書館内に笑い声が響きました。
その後、美鈴様は何の本も借りないで帰ってしまいました。
本人曰く「思い出したら又借りに来る」との事です。
何だったんでしょうね? 季節の変わり目だからでしょうか?
あ、そうすると私もそうなるのですね。
☆★☆★
7月×日 【雨】
今日は雨です。
だからと言って、何か特別な事をする訳ではないのですが、今日も今日とてお仕事です。
・
・
・
チーン♪
「できたぁ♪ 特製クッキー改良版♪」
昨日のクッキーが甘すぎたので、甘さを控えたり、ジャムでアクセントをつけたりしてみました。
どれどれ、お味の方は……?
「なかなかの出来栄えだと思うわ、これなら普通に食べてもらえるわね」
「えへへー♪ このゴマ入りみょうがは自信作なんですよ~♪」(サクサク)
「うん、後は種類を増やせば文句無しね。(サクサク)ところで……」
クッキーのカスを口の周りにつけたまま、私を睨むパチュリー様。
「仕事はどーしたの!? 仕事は!?」
「……あうー」
「今日は魔理沙が来ないから大丈夫だけど、本の整理は山ほどあるわよ?」
「はぁぃ」
「解ったら仕事仕事!」
その言葉でクッキーの味見はお終い、仕事に戻ります。
「さてと……」
今日の仕事は、この近辺の本の清掃です。
10年以上も使用されていないので、埃が積もって大変な事になってます。
それにしても生暖かいですね、体が温まった気がします。みょうがを食べたからなのでしょうか?
いやいや、そろそろ梅雨になので、ジメジメしつつも生暖かいのは仕方の無い事です。
でも、こうほわほわっと暖かいと、ついつい眠気も出てきて……。
私の頭に花が咲いた気がします。
何でしょうか? このほわほわとした感じは。
何故かほわほわと暖かいです、この暗い図書館の中ではすぐに冷めてしまいますが。
ほわほわとした暖かさが、このうす寒さで相殺されてしまうのは寂しいですが、それはともかくお仕事お仕事っと。
……何をすればよかったのでしたっけ?
パチュリー様に何かを言いつけられた気がしますが、内容をすっかり忘れてしまいました。
暫くうんうんと唸ってみましたが、思い出せ無いのでそのままUターンです。
「あのぅ、パチュリー様……」
「どーしたの? そんな暗い声を出して」
「私ぃ……今日の仕事……忘れてしまいましたぁ」
「…………」(じー)
「……あうー」
「今度はちゃんと覚えましょうね? 今日の仕事は……」
そこで、パチュリー様の動きが止まりました。
空間に接着剤でも使ったかのような程、見事な停止具合です。
何故かデジャヴを感じます。
「今日の仕事は……何だっけ?」
・
・
・
ぷっ
「「あはははははは!!!」」
どちらからとも無く、2人して大爆笑です。
久しぶりに、図書館内に笑い声が響きました。
……久しぶりでしたっけ?
「まあいいわ、丁度いい時間だから貴方はお茶にしなさい。お茶受けのクッキーもあることだし」
「はい♪ あ、でもパチュリー様は?」
「私はまだ調べ物が残っているの、たまにはゆっくり休みなさいな」
「はぁい♪ では、遠慮なく~♪」
「そこでは「もうちょと頑張ります!」とか、もうちょっとかっこよい事を言うところでしょうに……」
パチュリー様は、苦笑を浮かべながら図書館の奥に姿を消しました。
そして私は、これから美味しくお茶タイムです。えへへ~♪
「んっ(ポリポリ)我がながら(サクサク)改心の出来栄えですね(むぐむぐ)」
だれも見ていないので何ら遠慮は要らんのじゃ~♪ ザ・食欲の春です。
その様な理由もありまして、お皿の上からクッキーが無くなるまでに時間はかからなかった気がします。
それにしても暖かいですね、体が温まった感じがします。これはみょうがの成分がそうさせてくれたのでしょうか?
この暗い図書館の中では、暖かさもすぐに冷めてしまいますが、それでもこの一時はとても心地よいです。
ああ、暖かいです。こうほわほわっと暖かいと、ついつい眠気も出てきて……。
私の頭に花が咲いた気がします。
……はて??
このぽかぽか陽気ですから、ついウトウトしてしまったらしいです。
椅子から身を起こしたら、こった体の各部からポリポリと音を立てて、ゆっくりと体をほぐします。
「あーもう、机の上がこんなに散らかってるー!」
何時の間にか机の上が散らかってました。
空っぽのお皿に何かの破片が転がっていて、ティーカップが飲み終わったままの状態で放置されてます。
誰かがここで何かを食べて、そのまま帰ってしまったのでしょうか?
ともかく、目の前を片付けましょう。
眠ってしまったツケを含めて、今日のスケジュールをどう消化すればよいのかを考える事にしましょう。
……はて。
今日はあとどれだけの仕事が残っていたのでしょうか?
あらあら? それどころか、連鎖反応的に思い出す筈のいろいろな事が、全然思い出せなくなってきました。
今日の朝食のメニューがどんなものか、今日の門番は誰で、今日はどんな下着を着ていたのか。
襟元を広げて覗き込んだところ、今日のブラは紫色でした。
いや、今下着の色を確認してもしょうがないんですよ。と言うより何で今そんなことを確認したんだか。
今朝は目覚し時計で起きて、服を着替えた……筈です。でなければ、私は今ごろパジャマ姿です。
朝食は食べたと思います。食べた感覚はかろうじて覚えているので、ああ、今朝はオートミールでした。
その後、11時半までB地区の本棚の清掃をして……確か……確か――確か~~。
2時頃に空いたで何かを作りながらウトウトして……それから何が起こったのでしたっけ?
ん? 今なにか一つ重要な事が抜けてませんでしたか?
11時半まで清掃をして――――2時頃に何かして、そのまま寝て…………
つまり、12時ごろの記憶が無いのです。
結論からすると、私はお昼ご飯を食べ損ねたのです。
人間お腹がすくと忘れっぽくなると言います、私は人間ではありませんが似たようなものでしょう。
嗚呼何てことでしょう、私の1日3度の楽しみである筈のお食事を忘れてしまったとは。
よほどお掃除に精を出していたのでしょうか? 私ってば頑張り屋さん。
それはともかく、これ以上お腹がすいてはたまりません。ちょっとお食事に出かけましょう。
・
・
・
「あのー咲夜さん」
「あら珍しいわね、何の用?」
厨房では、いつものように咲夜さんが忙しそうでした。
でも、忙しいからと言ってもお昼ご飯を忘れて良いわけは有りません。
「私のお昼ご飯、何時頃になるのでしょうか?」
「……は?」
咲夜さんの表情が凍りつきました。
「ですから、私のお昼ご飯はどこに行ってしまったのでしょうか」
「ちょっ、ちょっと待ってよ。今日ちゃんと食べたでしょう?」
「……え?」
困惑する私に言い聞かせる様、咲夜さんは言葉を続けます。
「今日はローストチキンとサラダのサンドイッチに、ピクルスも添えて、冷たいポテトのスープ。
デザートにグレープゼリーで、あなたは『美味しい美味しい』って、サンドイッチとスープをお代わりしたじゃないの」
「……そうでしたっけ?」
「そうよ」
ここまできっぱりと言われると、反論の余地が有りません。
確かに今日のポテトスープは美味しかったですし、ローストチキンは香ばしくて……
「……食べてますね♪」
「ほら、ちゃんと食べているでしょ」
どちらからとも無く、2人して笑い出しました。
厨房内に爽やかな笑い声が響きました。
その後はとくに取り立てて書くことも無く、一日の仕事終了です。
何で又、こんな大ボケをかましてしまったのでしょうね? 季節の変わり目だからでしょうか?
☆★☆★
7月△日 【曇り】
暇ですねぇ。
毎日変わらない業務と、時々パチュリー様の御用事をお聞きして処理する。
今日の仕事はそれだけなので、お昼ご飯を食べ終わった後、特に15時頃は壊滅的に暇になります。
そんな時はこっそりと趣味で時間を潰します、勿論内緒ですが。
・
・
・
チーン♪
「できたぁ♪ 特製クッキー♪」
前作ったクッキーが甘すぎたので、甘さを控えたり、ジャムでアクセントをつけたりしてみました。
……デジャヴを感じますが何故でしょうか?
それはともかく、お味の方は?
「んっ(ポリポリ)我がながら(サクサク)改心の出来栄えですね(むぐむぐ)」
だれも見ていないので何ら遠慮は要らんのじゃ~♪ ザ・食欲の春です。
「ねーねー、ちょっと本が借りたいんだけど」
丁度誰かがいらっしゃったです。
あの声は――門番の美鈴さんですね。ハイハイ、少々お待ちを。
「はい、お待たせしました」
「又クッキー食べてたの?」
「え? え? 何で解るんですか?」
「口の周りにクッキーカスが付いてるわ」
「……あうー」
「まあいいって(笑)それよか思い出したわ。民明書房の『中華足技大全 3巻』が借りたいんだけど」
「解りました、書庫から探しますので2~3分お待ちください」
丁度お腹がすいていたので、口にクッキーをくわえながら、本棚を漁りまわる行儀が悪い私です。
ええと、たしか民明書房はこの辺りに……
私の頭に花が咲いた気がします。
何でしょうか? このほわほわとした感じは。
何故かほわほわと暖かいです、この暗い図書館の中ではすぐに冷めてしまいますが。
ほわほわとした暖かさが、このうす寒さで相殺されてしまうのは寂しいですが、それはともかくお仕事お仕事っと。
……何を探しているのでしたっけ。
迂闊にも、本のタイトルを忘れてしまいました。
仕方が無いので、美鈴さんにもう一度聞く事にしましょう。
「あのぅ、美鈴さん」
「どしたん?」
「申し訳ないのですが……何の本がご用入りでしたっけ?」
美鈴さんが私のオデコに手を当てました。
「……熱は無いみたいね」
「あうー……」
「まあいいか、もう一度言うから覚えて。民明書房の『中華足技大全 3巻』よ。覚えた?」
「はい、民明書房の『中華足技大全 3巻』ですね?」
「んじゃお願いね」
数分後、美鈴さんに本をお渡しした後、又暇になりました。
……あうー、ちょっと鬱入りますよぅ。
悩んでいても仕方のない事なのですが、ここ最近は物忘れが激しい気がします。
何故ここまで物忘れが酷くなってしまうのでしょう?
お腹がすいているからだと思います。
人間お腹がすくと忘れっぽくなると言います、私は人間ではありませんが似たようなものでしょう。
これから晩御飯までにはかなりの時間が有りますが、それまでは待てません。
お昼ご飯はちゃんと食べないと! でないと、わたしが倒れてしまいます!
と言うわけで、食堂へGOです。
・
・
・
「あのー咲夜さん」
「……今日は何の用?」
今日は……?
それはともかく、厨房ではいつものように咲夜さんが忙しそうでした。
でも、忙しいからと言ってもお昼ご飯を忘れて良いわけは有りません。
「私のお昼ご飯、何時頃になるのでしょうか?」
「……は?」
咲夜さんの表情が凍りつきました。
「ですから、私のお昼ご飯はどこに行ってしまったのでしょうか」
「……昨日今日と言い、大丈夫?」
「……え?」
「今日はフライドオニオンサラダに洋風ドレッシングに、パンプキンパイ、冷たいトウモロコシのスープ。
デザートにオレンジゼリーで、あなたは『美味しい美味しい』って、パイとスープを3杯もお代わりしたじゃないの」
「……そうでしたっけ?」
「そうよ」
ええっと……ええっと……ええっと……。
つまり、私は自分が覚えていないうちに、ご飯を食べてしまったのでしょうか?
「あぁもう!」
しびれを切らしたかのように動き出すと、私を席につけて、食卓に次々と食器を並べる咲夜さん。
冷蔵庫から残り物を取り出すと、数分後には、あっという間にお皿に盛り付けてしまいました。
「さ、これでどう? 食べる気起こるかしら?」
「…………」
目の前には、美味しそうなお食事があります。
待ちに待った食事なのですが、何故か食欲が沸きません。
両手に食器を持って、恐る恐るサラダにフォークを伸ばし……
「食べました……よねぇ?」
食べてますよ、お昼ご飯。パンプキンパイの甘さが程良くてお代わりしてます。
ひたっと、咲夜さんの手が私のオデコに当てられました。
「熱は――無い様ね」
「あう~」
「疲れているんじゃないの? たまにはお休みもらったら?」
「……はひ」
・
・
・
「はぁあぁあぁ~~~~~」
図書館に戻った私は、初っ端どでかいため息をついてしまいました。
いくら何でも、お食事した事を忘れてしまうとは、自分でもちょっと信じられません。
もうなんと言うか、落ち込みNOW! って感じですよぉ。どんよりと落ち込みました。
そんな殺伐とした雰囲気に救世主が!!
誰が作ったのかは解らないのですが、こんな所にクッキーが有りました。
……うーんと。今は、落ち着く事が優先ですね。
作った人には申し訳ありませんが、少し頂くことにします。
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・
私の頭に花が咲き誇った気がします。
・
・
・
「ねーねー、もう一冊本が借りたいんだけど」
「………………………………ほえほえ~~~」
「……おーい?」
「はうっ!?」
ああびっくり!
突然目の前に人が居たから飛び上がっちゃいましたよ。
「おーい……大丈夫?」
「あ、申し訳有りません……」
「まぁいいか。それより民明書房の『中華足技大全 4巻』無いかしら? これ、続けて読まないと解らなくて……」
「あのう……」
「……どーしたの?」
「失礼ですが、どちら様でしょうか?」
その場で時が止まりました、時よ止まれ。
「ちょっと、冗談はよしてよ」
「申し訳ありませんが、当図書館の蔵書は、紅魔館外部の方への貸し出しは行っておりません」
「おーい?」
「見た所ある程度のお力がある妖怪とお見受けしますが、許可が無いとお貸しは出来ません故……」
「ちょっと! 勘弁してよ! 名前を忘れられる事はあっても、存在を忘れられたのは初めてよ!」
「…………と申されましても、記憶に御座いませんが」
目の前の女性は、緑色の中華風の衣装を身に包まれて、恐怖におののいた表情で私を見つめています。
しかし、この女性は私の記憶に有りませんし、お会いした事もありません。
「冗談キツイわ! この帽子、服、赤い髪! 覚えているでしょ!? 私の名前!!」
中国風の帽子に、龍と書かれた星型のエンブレム。改造チャイナドレスを押し上げる豊かな胸部、
緑色の服に対してよく似合う赤い髪が、三つ編みになってくるくると巻かれています。
……つまり……この状況から推察すると……。
「中国さん……ですか?」
またしても時が止まりました、しかし時は動き出す。
「うわああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!!!!!!!!!」
その中国っぽい女性は、思い切り泣きながら図書館を出て行ってしまいました。
しかし、部外者の方には本をお貸し出来ない以上、どうしようもありません。
そうこうしているうちに、パチュリー様がいらっしゃいました。
「いま美鈴が泣きながら出て行ったけど、何かあったの?」
「あの方、美鈴さんとおっしゃるのですか」
「……又名前忘れられたのね」
「美鈴さんですか、不思議なお名前なのですね。どちらからいらっしゃったのでしょう?」
「本人曰く、中国からって言ってるけど……本人から聞いたら?」
「でも部外者の方である以上、あまりお会いする機会がないと思いますけど……」
「部外者じゃないでしょ」
「ほえ?」
「毎朝会ってるじゃないの、門番の中国。……じゃなくて門番の美鈴」
「え? え? え?」
ひたっと、パチュリー様の手が私のオデコに当てられました。
「熱は無いみたいね」
「あうー」
「……疲れてるんじゃないの?」
「自覚症状は全く有りませんが~」
「まあ良いわ、折を見て休みを取りなさい」
「はひ」
・
・
・
うううううううぅぅぅぅぅぅ~
新しい門番の人が入ったなんて聞いてませんよぉ。
……毎朝会っているんでしたっけ? そーでしたっけ?
それすら思い出せません。よほど存在感の無いお方だったのでしょうか。
どちらにしても、仕方のない事なのですが、ここ最近は物忘れが激しい気がします。
何故ここまで物忘れが酷くなってしまうのでしょう?
お腹がすいているからだと思います。
人間お腹がすくと忘れっぽくなると言います、私は人間ではありませんが似たようなものでしょう。
これから晩御飯までにはかなりの時間が有りますが、はっきり言ってそれまでは待てません!!
ていうか何でこんなにお腹がすくのですか!?
解答は0.02秒で出力終了。
つまり、私はお昼ご飯を食べ損ねたわけです。
・
・
・
「あのー咲夜さん」
「何よ、そんな泣きそうな顔して」
うううぅぅぅ~~~!! お昼ご飯食べ損ねたんですよぉ!
それはともかく、厨房ではいつものように咲夜さんが忙しそうでした。
でも、忙しいからと言ってもお昼ご飯を忘れて良いわけは有りません。
「私のお昼ご飯、何時頃になるのでしょうか?」
「…………は?」
咲夜さんの表情が凍りつきました。
「ですから、私のお昼ご飯はどこに行ってしまったのでしょうか」
「ちょっとちょっと!! どーしたのアナタつかなにがあった??」
「……ですから、お昼ご飯……」
「……」
「……」
「誰かぁぁぁぁぁぁぁ!!! 小悪魔が、小悪魔がボケたぁぁぁぁぁ!!!」
な、なんでそこで逃げ出すのですかぁ!!
ボケたって何ですか! ていうか私の昼ご飯は何処に消えたんですかぁぁぁぁぁ!!!!
お腹がすいてるのに、こんなにお腹がすいているのに……。
これは何かの陰謀で、誰かが私を飢え死にさせようとあちこちに細工でもしたのでしょうか。
あうぅー、お腹がすいたですよぅ。
腹ペコでフラフラと空を飛びながら図書館に戻り、そんな崖っぷちに立たされた私に手を差し伸べる一筋の希望の光が。
なんと、美味しそうなクッキーが有るじゃありませんか。
どなたが作ったのかは解りませんが、今の私にとっては救いの神同然です。
早速ですが食べさせてもらいます。
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私の頭は……花畑…………。
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パタパタと音を立ててめくられた紙が、小さい手によって動きを止めた。
白く柔らかさを保った細い指が、日記帳を丁寧に閉じて、魔力のフィードバックを遮る。
こうして日記はその動作を停止し、この犠牲者が巻き起こした惨禍をその身に刻む事を止める。
パチュリーは、ふうと一つ溜息をつくと、寝込んでしまった小悪魔にタオルケットをかけ直す。
「つまりだ……この子の自爆って訳よ」
それを聞いた美鈴が胸をなでおろす。比喩ではなく、本当に。
「よかったぁ」
「数日もすれば、普通に働けるわよ。身体的な影響は少ないし」
「名前を忘れられたんじゃなかったんですね」
「そっちを安心したのか!」
あの後心配になって様子を見に来た美鈴が、図書館で大の字になってぶっ倒れている小悪魔を発見。
パチュリーと一緒に介抱している時にこの日記が発見され、この珍事の原因が判明したのである。
「まったく……落ちてた物を使うからよ。しかもウチの裏庭の」
「食中毒とか」
「今回はそれに近いわね、まったく……」
「本当にそれだけでしょうか?」
珍しく美鈴が問い掛けてくる。
パチュリーの眉が意外そうに跳ね上がる。
「何か言いたいの?」
「みょうがでしょう? 名を荷うと書いて茗荷。これのせいなんじゃないのですか?」
「確か……大昔の人間が、名前すら覚えられなくって……って話だったかしら?」
「そうです。しかも名札を胸に付けている事すら忘れちゃって、その人の墓から生えてきたのが茗荷ですから」
「故事にちなんで物忘れが激しくなる……って訳ね」
「たぶん……ですけど」
このような事を美鈴の方から語られるのは珍しいと驚いた表情を浮かべながらも、パチュリーちょっとだけ感心。
「で、『この』クッキーが原因で、今回の珍事が発生した……と」
「そうですね、『この』クッキーが原因です」
「『この』クッキーねぇ……」
「……『この』クッキー、美味しいですよね」
「……」
「……」
「……美鈴、貴女何個食べた?」
「5枚です、パチュリー様は4枚食べました」
「……」
「……」
「何で又、お茶請けにこんな物を出したのかを30文字以内で説明プリーズ」
「その、丁度手近にあって。こんな危険な代物とは知らずに……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「ねえ、美鈴」
「何でしょうか」
「私達、今何の話をしてたんだっけ」
「それが、私もさっぱり覚えてなくて」
「……」
「……」
「……」
「……」
「最近、物忘れが激しい気がするわ。季節のせいかしら?」
「……いえ、多分」
「多分?」
「お腹がすいているからではないでしょうか」
「ふぅん」
「人間お腹がすくと、忘れっぽくなると聞きました」
「私達は人間じゃなくってよ」
「それはさて置き、私お昼ご飯を食べた記憶がありません。パチュリー様は?」
「……フムン」
「……」
「……つまるところ、私達はお昼ご飯を食べ損ねた……と」
「そうです、ああぁぁ……思い出したらお腹が減ってきましたぁ」
「仕方ないわ、ちょっと食堂に行きましょう」
「咲夜さんも酷いです! お昼抜きなんて人間のする事じゃ有りません!!」
そして2人はその場を後にする。
当事者かつ元凶たる小悪魔は、記憶を失い地に伏せた。
真実を知った者も又、その記憶を拡散させて惨禍を繰り返す。
本当に真実を記憶する者は……誰もいない。
茗荷ってそんなお話があったのかー
ほわほわな小悪魔にほわほわさせて頂きました。
しかし茗荷を食べると物忘れが酷くなるなんて故事を東方界隈で見かけるとは思いもよらなんです。 まあその、最終的にそーいう迷信を信じちゃ駄目って話ですが、てか筆主殿御歳いくつですかw
相変わらず小悪魔かあいいよ。 でも僕茗荷漬け子供の頃から大好きなんだよ。 忘れ物チェックではいつも必ずひっかかってましたが何か?
この文章でこの雰囲気を見せるとは、見事。
子悪魔の場合、素という可能性もありますが(失礼)、咲夜さんが侵されたら紅魔館はどうなってしまうんだw
いや、非常に面白いお話しでした。可愛いよ小悪魔、可愛いよパチュリー、可愛いよ咲夜さん。
いやいや、見方を少し変えるだけでとんでもなく恐ろしい話になりますね。
怖くないノリの中の恐ろしさですね……
しっかし・・・このホラーいいわぁ。ほのホラーってのは新ジャンルでは?
なんとぴったりな形容かw
>ロースとチキン
最初のやり取りのとこですね。
うっすらとした寒気が最高でした
この子悪魔は俺の理想像です。GJ!!
みょうがは子供の頃この話を聞いて一時期食べるのを控えていた記憶がありますw
とても良い雰囲気ですね。さて次の話は……と。
この話の元ネタは、筆者が幼少の頃「生姜買ってきて」と言われて「茗荷」を買って来たことに由来します。(シコタマ怒られました)
ボケアイテムとして、茗荷にするか春菊にするかを迷っていたのですが、とりあえず実体験がある茗荷の方が良いかなぁと……。
誤字修正しました、本当に指摘感謝です。我が家のオバカPCはなんで魔理沙を真理沙にしちゃうんだろう……。
ボケて「ロースとチキン」になってしまったのは、みょうがの所為では無く、ボケた筆者の仕業です。
のに、笑わせられてしまうのが何とも。
そこがかえって恐ろしい。
のに、微笑ましいのが何とも。
…わけないですよねぇ…なんだっけ…?…おぉ、こんなところにクッキーが(以下ループ
ちなみに、生姜クッキーは知りませんが、石川県には生姜入りの甘いお菓子(和菓子?)が在ります。
味は……「不味ぅ~い、もう一個!」って感じでしょうか。
私はSS読みましたっけ??
あっ、きっとお腹が空いてるからかしら・・・・
あっ、美味しそうなクッキーありますね~・・・・
紅魔館にスタンド攻撃ですか?
笑っちゃうのに怖い
面白かったです。