「しっかし毎日毎日よく退屈しないな」
霧雨魔理沙は神社の縁側に寝そべりながら、横で緑茶を啜っている博麗霊夢に話を振る。
「魔理沙だって同じでしょ。毎日毎日遊びに来て・・・」
「それは違うぜ。私には日々行うべき研究や学問、その他諸々が・・・」
「あーはいはい」
「それに私は霊夢が退屈してると思って、此処へ毎日来てやってるんだぜ?」
「ありがたいことね」
◇
「・・・でも本当に暇そうだぜ。巫女の仕事ってのは」
相変わらず魔理沙は寝そべったまま雑談を興じている。
霊夢はというと、もう何杯目かもわからぬ緑茶を相変わらず啜っていた。
「・・・参拝客が来れば違うんだけどね」
「ぶははは、そりゃ無理だ・・・ぐぶふっ!」
霊夢は大声を上げて笑う魔理沙に蹴りを入れる。
「私はこの博麗神社唯一の巫女なのよ。この神社を守っていくのが私の仕事。暇なんて・・・」
「あるだろ?」
「・・・あるけど」
くっくっく、と今度は蹴られない程度に含み笑いをする魔理沙。
そう、博麗神社唯一の巫女・博麗霊夢は毎日暇なのである。
「なーんか私でもできそうだな巫女の仕事ってのは」
「あら、そんな事言っていいの?」
「だって事実そうだろ? 巫女というのは神社の神域を守るために存在する物で、「そこに居る」ということが大事だ。って読んだ本に書いてあったぜ」
「・・・それはそうなんだけど」
霊夢は魔理沙の的確な指摘に反論出来なかった。
「・・・よし、決めたぜ。明日は私が博麗神社の巫女さんになってやる」
「は!? 何言ってんのあんた」
「魔法少女が巫女さんになる・・・。うん、メルヘンだぜ」
「ちょっと勝手に決めないで。それに巫女をやる魔女なんて聞いたことも無いわ」
「乗りが悪いぜ。折角お前の生活を実りある物にしてやろうと思ってるのに」
「何で私の生活が魔理沙が巫女になることで実りある物になるのよ。却下」
「なんだよ~。何時もと違った刺激のある生活を送るチャンスなんだぜ?」
「刺激もチャンスも要らないわ」
「じゃあ、弾幕勝負で私が勝ったら明日巫女さんやらせてくれるか?」
「・・・あんた人の話聞いてる?」
「おお聞いてるぜ。もう明日の準備はばっちりだぜ」
「はぁ~・・・」
結局口弁勝負で押し負けた霊夢は弾幕勝負を受けて立つ事となった。
◇
「悪いけど本気で行くわよ」
「当たり前だぜ」
「・・・はっ!」
霊夢は気合一閃、電光石火の勢いで間合いを詰めてきた。
「宝符・陰陽宝玉!!」
そして霊夢の掌が輝いたかと思うと、すかさず魔理沙の方へと向けられた。
相手の虚を突く一撃必殺の奇襲攻撃。反応が遅れたらもはや回避不可能である。
「・・・甘いぜ霊夢。足元がお留守だ」
「え・・・?」
霊夢は下を見下ろす。すると地面から大量のレーザーが迫って来ていた。
「光符・アースライトレイ!」
「く・・・!」
霊夢は体制を大きく崩した。
そして放たれた宝玉の一撃は魔理沙の頬をかすめる事も出来ずに外れた。
「ちょ・・・汚いわよ魔理沙! あらかじめ地面に仕込んでおくなんて!!」
「はっはっはー、油断したな霊夢。弾幕勝負に慈悲は無い。よって卑怯という言葉は存在しない!」
すると魔理沙は札を取り出し、その札の名を叫んだ。
「喰らえ霊夢! 恋符・マスタースパーク!!」
「くううっ!」
・・・・・・
「え・・・?」
「・・・勝負ありだぜ霊夢」
「ちょ・・・なんで撃たないのよ!」
「撃つ必要はないぜ。お前は目を閉じて防御体制に入っていた。一発勝負の弾幕勝負で受けに入ったらもう負けだぜ」
「う・・・」
正論だった。
こうして魔理沙は呆気なく博麗神社一日巫女体験の切符を手にしたのである。
◇
「はぁ、仕方ないわね。負けたからには断るわけにも行かないわ」
「おお、それでこそ霊夢だぜ」
魔理沙はしてやったり、といった表情で勝ち誇った。
「じゃあ今日は神社に泊まっていくわね」
「はい?」
「当然でしょ? 明日の朝から巫女体験なんだから今日は泊まらなくっちゃ」
「あ、そ、そう・・・だな」
「ま、成る様に成るしかないわね。明日は忙しくなりそう・・・」
霊夢は冷めてしまったお茶を啜ると、神社の中へと入って行った。
「・・・何処に行くんだ?」
「あんたの巫女装束準備するの」
「み、巫女装束・・・!」
そうだった、と魔理沙は頭を抱える。
巫女をやるという事は、「あの」巫女装束を着るということである。
魔理沙は自分があの巫女装束を着た姿を想像すると、顔が赤らむのを感じた。
「(まいったぜ。ちょっと功を焦り過ぎたか)」
早くも明日の巫女体験は波乱の予感である。
◇
翌日
「魔理沙ー、起きなさいー」
「んぐぐ・・・」
「魔理沙、今日は巫女体験でしょ? 早く起きて」
「ん・・・?」
目を開くと其処には見慣れぬ天井、そして見慣れた友人の顔。
「ようやく起きたか。おはよう魔理沙」
「・・・・・・ひあああっ!?」
「うわっ!?」
「な、なんで霊夢が・・・!」
「寝惚けないでよもう。あんた昨日は私の家に泊まったんでしょ」
「あ・・・そうだった・・・ぜ」
目覚めた矢先に霊夢の顔があったのは、魔理沙にとって些か刺激が有り過ぎた様だ。
「気を取り直して・・・おはよう魔理沙」
「ああ、おはよう霊夢・・・」
魔理沙はぽりぽりと頭を掻きながら挨拶を返す。
どうにも慣れないシチュエーションだった。
「着替えは用意してあるから早く着替えてね。私は朝食の準備するから」
「あ、ああ・・・」
何だが夫婦みたいだ。
と魔理沙は思ったが、流石に口に出せなかった。
◇
「・・・霊夢~」
「なにー?」
魔理沙は寝室から台所に居る霊夢に向かって声を掛ける。
「すまんがこれってどうやって着るんだ?」
「あー・・・そっか、分からないか」
パタパタと霊夢はエプロン姿でやって来る。
「・・・・・・」
「・・・どうしたの魔理沙?」
「い、いや、早く教えてくれないかなぁ、と」
エプロン姿の霊夢にかなり魔理沙はそそられたが、一瞬で記憶の片隅から葬った。
「(・・・まいったぜ、朝からこんなんじゃ今日一日持たないぜ)」
「えーと、これはこうやって・・・」
「(しかし霊夢ってこんな面倒見良かったっけか)」
「袴はもっと上で・・・」
「(霊夢・・・)」
「ちょっと魔理沙。私ばっかりにやらせないでよ」
「あ・・・悪いな霊夢」
「む、白衣が右前になってるわよ」
「え、違うのかこれ」
◇
そんなこんなで着替え終了。
「・・・意外ね。結構似合うわよ魔理沙」
「そ、そうか?」
巫女装束に身を纏った魔理沙は、頬を赤らめながら鏡で自分の姿を見る。
「~~~~~~っ!!」
魔理沙は見慣れぬ自分の姿に目を覆った。
巫女装束というのは普段の黒を基調にした衣服からすると、かなり派手な衣装に思えた。
「(ふっふ、これは私一人が見るのは勿体無いわね・・・)」
「な、何だよ霊夢。ジロジロ見ないでくれ・・・」
「どーぞお気にせず。もうすぐご飯できるわよ」
霊夢は何かを企むような顔つきで、そそくさと台所へと戻って行った。
「・・・似合うのかな」
魔理沙は鏡の前に立ち尽くしていた。
◇
朝食は極めてオーソドックスなものだった。
ご飯に味噌汁、お新香に納豆といった日本人の朝の食卓の定番メニューである。
「ふう、美味かったぜ。ご馳走様」
「・・・朝から良く食べるわねー」
「朝の食事は一日の活力の源だぜ。たらふく食っておかないとな」
「どこぞの亡霊姫のようにならないようにね」
「はっはっは、私はそんなヘマしないぜ」
と、笑いながら魔理沙は湯飲みに手を伸ばす。
「あ、魔理沙危ない!」
「あー?」
時既に遅し。見事に巫女装束の袖が醤油差しに引っ掛かった。
『ガターン』
「うわ、やっちまったぜ・・・」
「やると思ったわ・・・。ほら、早く拭かないと」
「悪い・・・」
幸い巫女装束に醤油は付かなかった様だ。
「うーん、しかしこの巫女装束ってのは動きにくいなあ」
「そう?」
「袖が邪魔だぜ。いちいち引っ掛かる」
「そればっかりは慣れね」
「・・・どうにも落ち着かないぜ」
「ま、直に慣れるわよ。さあ片付け片付け」
霊夢はこぼれた醤油を拭き終わると、食器をそそくさと片付け始めた。
「ああ霊夢、お前ばっかりにやらせるのはあれだ。ここは私がやるぜ」
「大丈夫よ。このくらいは朝飯前」
「もう朝飯は終わったぜ。ほらほら」
「うーん・・・じゃあお願いしようかしら」
「任せとけ」
◇
「・・・まずったぜ。またしても巫女装束が障害になったか」
食器洗いを終えた魔理沙の巫女装束の袖はずぶ濡れだった。
「不器用ねえ。慣れてないからしょうがないと言えばそれまでだけど」
「まあ、これはそのうち乾くからいいぜ。いいよな?」
「別にいいわ。じゃあ次のお仕事・・・」
「おお」
魔理沙は待ってましたとばかりに食い付く。
「ええと今日は食料の買出しと賽銭箱の掃除、それと屋根の補修を・・・」
ずるっ、と魔理沙は絵に描いたようにコケる。
「ちょ・・・ちょっと待て霊夢」
「ん?」
「あの・・・何つうかそれって唯の「家事」じゃないか?」
「そうよ。「博麗神社の巫女の」家事」
「・・・マジか?」
「マジよ」
「・・・何てこった」
この時初めて魔理沙は騙されたことに気付いた。
霊夢は端から魔理沙に巫女の仕事をさせるつもりは無かったのである。というより巫女らしい仕事などこの博麗神社には存在しないのだ。やる事といったら精々神社の周りの掃除くらいなもので、後は何時もの様に茶を啜るだけ───。
つまり弾幕勝負にわざと負ければ、普段はやる気の起きない大きな家事を片付けるチャンスだ。と霊夢は考えたのである。恐るべし博麗霊夢。
「・・・ちきしょう、道理で呆気なく勝てたと思ったぜ」
「ふっふっふ、もうやり始めたからには逃がさないわよ。しっかりお勤め果たしてもらわないと・・・」
「あああああああ」
魔理沙は思った。
今日は本当に長い一日になりそうだ───と
霧雨魔理沙は神社の縁側に寝そべりながら、横で緑茶を啜っている博麗霊夢に話を振る。
「魔理沙だって同じでしょ。毎日毎日遊びに来て・・・」
「それは違うぜ。私には日々行うべき研究や学問、その他諸々が・・・」
「あーはいはい」
「それに私は霊夢が退屈してると思って、此処へ毎日来てやってるんだぜ?」
「ありがたいことね」
◇
「・・・でも本当に暇そうだぜ。巫女の仕事ってのは」
相変わらず魔理沙は寝そべったまま雑談を興じている。
霊夢はというと、もう何杯目かもわからぬ緑茶を相変わらず啜っていた。
「・・・参拝客が来れば違うんだけどね」
「ぶははは、そりゃ無理だ・・・ぐぶふっ!」
霊夢は大声を上げて笑う魔理沙に蹴りを入れる。
「私はこの博麗神社唯一の巫女なのよ。この神社を守っていくのが私の仕事。暇なんて・・・」
「あるだろ?」
「・・・あるけど」
くっくっく、と今度は蹴られない程度に含み笑いをする魔理沙。
そう、博麗神社唯一の巫女・博麗霊夢は毎日暇なのである。
「なーんか私でもできそうだな巫女の仕事ってのは」
「あら、そんな事言っていいの?」
「だって事実そうだろ? 巫女というのは神社の神域を守るために存在する物で、「そこに居る」ということが大事だ。って読んだ本に書いてあったぜ」
「・・・それはそうなんだけど」
霊夢は魔理沙の的確な指摘に反論出来なかった。
「・・・よし、決めたぜ。明日は私が博麗神社の巫女さんになってやる」
「は!? 何言ってんのあんた」
「魔法少女が巫女さんになる・・・。うん、メルヘンだぜ」
「ちょっと勝手に決めないで。それに巫女をやる魔女なんて聞いたことも無いわ」
「乗りが悪いぜ。折角お前の生活を実りある物にしてやろうと思ってるのに」
「何で私の生活が魔理沙が巫女になることで実りある物になるのよ。却下」
「なんだよ~。何時もと違った刺激のある生活を送るチャンスなんだぜ?」
「刺激もチャンスも要らないわ」
「じゃあ、弾幕勝負で私が勝ったら明日巫女さんやらせてくれるか?」
「・・・あんた人の話聞いてる?」
「おお聞いてるぜ。もう明日の準備はばっちりだぜ」
「はぁ~・・・」
結局口弁勝負で押し負けた霊夢は弾幕勝負を受けて立つ事となった。
◇
「悪いけど本気で行くわよ」
「当たり前だぜ」
「・・・はっ!」
霊夢は気合一閃、電光石火の勢いで間合いを詰めてきた。
「宝符・陰陽宝玉!!」
そして霊夢の掌が輝いたかと思うと、すかさず魔理沙の方へと向けられた。
相手の虚を突く一撃必殺の奇襲攻撃。反応が遅れたらもはや回避不可能である。
「・・・甘いぜ霊夢。足元がお留守だ」
「え・・・?」
霊夢は下を見下ろす。すると地面から大量のレーザーが迫って来ていた。
「光符・アースライトレイ!」
「く・・・!」
霊夢は体制を大きく崩した。
そして放たれた宝玉の一撃は魔理沙の頬をかすめる事も出来ずに外れた。
「ちょ・・・汚いわよ魔理沙! あらかじめ地面に仕込んでおくなんて!!」
「はっはっはー、油断したな霊夢。弾幕勝負に慈悲は無い。よって卑怯という言葉は存在しない!」
すると魔理沙は札を取り出し、その札の名を叫んだ。
「喰らえ霊夢! 恋符・マスタースパーク!!」
「くううっ!」
・・・・・・
「え・・・?」
「・・・勝負ありだぜ霊夢」
「ちょ・・・なんで撃たないのよ!」
「撃つ必要はないぜ。お前は目を閉じて防御体制に入っていた。一発勝負の弾幕勝負で受けに入ったらもう負けだぜ」
「う・・・」
正論だった。
こうして魔理沙は呆気なく博麗神社一日巫女体験の切符を手にしたのである。
◇
「はぁ、仕方ないわね。負けたからには断るわけにも行かないわ」
「おお、それでこそ霊夢だぜ」
魔理沙はしてやったり、といった表情で勝ち誇った。
「じゃあ今日は神社に泊まっていくわね」
「はい?」
「当然でしょ? 明日の朝から巫女体験なんだから今日は泊まらなくっちゃ」
「あ、そ、そう・・・だな」
「ま、成る様に成るしかないわね。明日は忙しくなりそう・・・」
霊夢は冷めてしまったお茶を啜ると、神社の中へと入って行った。
「・・・何処に行くんだ?」
「あんたの巫女装束準備するの」
「み、巫女装束・・・!」
そうだった、と魔理沙は頭を抱える。
巫女をやるという事は、「あの」巫女装束を着るということである。
魔理沙は自分があの巫女装束を着た姿を想像すると、顔が赤らむのを感じた。
「(まいったぜ。ちょっと功を焦り過ぎたか)」
早くも明日の巫女体験は波乱の予感である。
◇
翌日
「魔理沙ー、起きなさいー」
「んぐぐ・・・」
「魔理沙、今日は巫女体験でしょ? 早く起きて」
「ん・・・?」
目を開くと其処には見慣れぬ天井、そして見慣れた友人の顔。
「ようやく起きたか。おはよう魔理沙」
「・・・・・・ひあああっ!?」
「うわっ!?」
「な、なんで霊夢が・・・!」
「寝惚けないでよもう。あんた昨日は私の家に泊まったんでしょ」
「あ・・・そうだった・・・ぜ」
目覚めた矢先に霊夢の顔があったのは、魔理沙にとって些か刺激が有り過ぎた様だ。
「気を取り直して・・・おはよう魔理沙」
「ああ、おはよう霊夢・・・」
魔理沙はぽりぽりと頭を掻きながら挨拶を返す。
どうにも慣れないシチュエーションだった。
「着替えは用意してあるから早く着替えてね。私は朝食の準備するから」
「あ、ああ・・・」
何だが夫婦みたいだ。
と魔理沙は思ったが、流石に口に出せなかった。
◇
「・・・霊夢~」
「なにー?」
魔理沙は寝室から台所に居る霊夢に向かって声を掛ける。
「すまんがこれってどうやって着るんだ?」
「あー・・・そっか、分からないか」
パタパタと霊夢はエプロン姿でやって来る。
「・・・・・・」
「・・・どうしたの魔理沙?」
「い、いや、早く教えてくれないかなぁ、と」
エプロン姿の霊夢にかなり魔理沙はそそられたが、一瞬で記憶の片隅から葬った。
「(・・・まいったぜ、朝からこんなんじゃ今日一日持たないぜ)」
「えーと、これはこうやって・・・」
「(しかし霊夢ってこんな面倒見良かったっけか)」
「袴はもっと上で・・・」
「(霊夢・・・)」
「ちょっと魔理沙。私ばっかりにやらせないでよ」
「あ・・・悪いな霊夢」
「む、白衣が右前になってるわよ」
「え、違うのかこれ」
◇
そんなこんなで着替え終了。
「・・・意外ね。結構似合うわよ魔理沙」
「そ、そうか?」
巫女装束に身を纏った魔理沙は、頬を赤らめながら鏡で自分の姿を見る。
「~~~~~~っ!!」
魔理沙は見慣れぬ自分の姿に目を覆った。
巫女装束というのは普段の黒を基調にした衣服からすると、かなり派手な衣装に思えた。
「(ふっふ、これは私一人が見るのは勿体無いわね・・・)」
「な、何だよ霊夢。ジロジロ見ないでくれ・・・」
「どーぞお気にせず。もうすぐご飯できるわよ」
霊夢は何かを企むような顔つきで、そそくさと台所へと戻って行った。
「・・・似合うのかな」
魔理沙は鏡の前に立ち尽くしていた。
◇
朝食は極めてオーソドックスなものだった。
ご飯に味噌汁、お新香に納豆といった日本人の朝の食卓の定番メニューである。
「ふう、美味かったぜ。ご馳走様」
「・・・朝から良く食べるわねー」
「朝の食事は一日の活力の源だぜ。たらふく食っておかないとな」
「どこぞの亡霊姫のようにならないようにね」
「はっはっは、私はそんなヘマしないぜ」
と、笑いながら魔理沙は湯飲みに手を伸ばす。
「あ、魔理沙危ない!」
「あー?」
時既に遅し。見事に巫女装束の袖が醤油差しに引っ掛かった。
『ガターン』
「うわ、やっちまったぜ・・・」
「やると思ったわ・・・。ほら、早く拭かないと」
「悪い・・・」
幸い巫女装束に醤油は付かなかった様だ。
「うーん、しかしこの巫女装束ってのは動きにくいなあ」
「そう?」
「袖が邪魔だぜ。いちいち引っ掛かる」
「そればっかりは慣れね」
「・・・どうにも落ち着かないぜ」
「ま、直に慣れるわよ。さあ片付け片付け」
霊夢はこぼれた醤油を拭き終わると、食器をそそくさと片付け始めた。
「ああ霊夢、お前ばっかりにやらせるのはあれだ。ここは私がやるぜ」
「大丈夫よ。このくらいは朝飯前」
「もう朝飯は終わったぜ。ほらほら」
「うーん・・・じゃあお願いしようかしら」
「任せとけ」
◇
「・・・まずったぜ。またしても巫女装束が障害になったか」
食器洗いを終えた魔理沙の巫女装束の袖はずぶ濡れだった。
「不器用ねえ。慣れてないからしょうがないと言えばそれまでだけど」
「まあ、これはそのうち乾くからいいぜ。いいよな?」
「別にいいわ。じゃあ次のお仕事・・・」
「おお」
魔理沙は待ってましたとばかりに食い付く。
「ええと今日は食料の買出しと賽銭箱の掃除、それと屋根の補修を・・・」
ずるっ、と魔理沙は絵に描いたようにコケる。
「ちょ・・・ちょっと待て霊夢」
「ん?」
「あの・・・何つうかそれって唯の「家事」じゃないか?」
「そうよ。「博麗神社の巫女の」家事」
「・・・マジか?」
「マジよ」
「・・・何てこった」
この時初めて魔理沙は騙されたことに気付いた。
霊夢は端から魔理沙に巫女の仕事をさせるつもりは無かったのである。というより巫女らしい仕事などこの博麗神社には存在しないのだ。やる事といったら精々神社の周りの掃除くらいなもので、後は何時もの様に茶を啜るだけ───。
つまり弾幕勝負にわざと負ければ、普段はやる気の起きない大きな家事を片付けるチャンスだ。と霊夢は考えたのである。恐るべし博麗霊夢。
「・・・ちきしょう、道理で呆気なく勝てたと思ったぜ」
「ふっふっふ、もうやり始めたからには逃がさないわよ。しっかりお勤め果たしてもらわないと・・・」
「あああああああ」
魔理沙は思った。
今日は本当に長い一日になりそうだ───と
続き書いてるんですけど良いパターンが浮かばないっ・・・!
逆パターンていうことは魔理沙が攻めか!(ぉぃ
そっちの方が書きやすいかもしれない・・・。