魔理沙がちょっとキャラ違うような気がします。
エセ分全開のホラーがあります。
毎度の事で恐縮ですが、お嫌いな方はご遠慮ください。
『博麗神社 まほうつかいと台風』
ゴオォォォォォォォッ!!
猛る風が木々を激しく揺らす。日が落ちるには幾分か早いが、空は分厚い雲に
覆われていて薄暗い。
ザアアァァァァァァ・・・・・
それに伴う豪雨。大地はどこもかしこも川になって流れている。
ピシャァッ!!ゴロゴロゴロ・・・・
雷。何度も何度も落ちる。背の高い木に落ちては薙ぎ倒していった。
そんな夏の風物詩、大きな台風が猛威を振るう幻想郷のある日。
「あらしの~♪なかでかがやい~て♪その~ゆめを~♪」
呑気な鼻歌。
雨合羽を着込んで、低空を箒に跨り飛ぶ人影が一つ。
「あきらめない~で~♪・・・うおッ!?」
突風。一瞬バランスを崩しかけたが、そう慌てる事もなく立て直した。
「あっはっは、凄い風だぜ!だけど、こんなもので止まる魔理沙さんじゃ
ないぜ!?」
霧雨魔理沙は臆する事無く、さらに箒へと魔力を送り込む。箒からブゥン、
と低い音が鳴って、それから速度が増した。
木々の合間を抜けると、目の前には長い長い石の階段。それも高速で飛び
登って行く。すぐに見飽きた赤い鳥居。それも一瞬で潜り行く。
博麗神社。その奥、霊夢の家。その玄関スレスレまで速度を落とさず、
急ブレーキの余波で土砂が飛んで、霊夢家入り口は見るも無残な姿に早代わりした。
・・・ま、この雨風が洗ってくれるだろ。魔理沙に反省の色は無し。その土砂まみれ
のドアを勢い良く開けた。
「おーっす、れいむ~!タオル貸してくれ~!」
心底驚いた顔で霊夢がぽかんとしていた。
霊夢がこんなに驚くなんて滅多に無い。その顔が見れただけでも、この嵐の中
やってきた甲斐がある・・・と、魔理沙はニンマリ笑った。
「・・・何だってこんな嵐の日に来たのよ」
陰陽玉の刺繍が入ったタオルを持ってきて、霊夢は魔理沙に放り投げた。
「ん?」
雨合羽越しでも濡れたあちこちを拭く魔理沙。
「急な用件?何か大変な事でもあったの?」
流石に魔理沙でもこれほどの無茶を、何の理由も無くするはずが無い。・・・と、
思った霊夢だが。
「だってお前、こんなに雨がざーざー降って」
屋根を叩く雨音は激しい。
「風がごうごう吹いて」
雨戸を揺らす風も激しい。
「雷もごろごろぴしゃーんッ!って落ちたら」
ドオォォォンッ!!・・・だいぶ近くに落ちたようだ。
「・・・・・・何か楽しくなってこないか?」
「あんた馬鹿でしょ」
一蹴。
霊夢の中で魔理沙への評価に修正が加えられた。嵐で無意味に心踊らせる⑨である、と。
「失礼な。お前より知識人な自信はあるぜ?」
「馬鹿と利口の違いは知識量じゃないわよ」
「飽くなき探究心のカタマリと解釈してくれ」
「子供」
「ママ~、お腹減ったぜ~」
「そのまま餓死しなさい」
取り付く島も無し。
まぁそれでも、客にはお茶を振舞うのが、この巫女の良いところなのだが。
「いや~、しかし凄い嵐だぜ。こりゃしばらく帰れないなぁ」
お払い棒で叩いた。気持ち本気めで。
スカーン!
・・・いつ叩いても良い音する頭だなぁ、と霊夢は思った。
夕食はもちろん和食。霊夢が洋食を口にする事は外食以外殆ど無い。・・・と言うより
霊夢は洋食系の作り方を殆ど知らない。カレーくらいである。カレーを洋食と言って
良いかどうかの議論はここではしない。でもあえて言うなら極普通の一般家庭で作られる
カレーはもう和食で、レストラン等で本格的に作られるモノは洋食だと思う。でも家庭の
カレーの方がエライ美味かったりするのは、やはり日本人故、だろう。
何の話だ。
閑話休題。
白米と山女魚の塩焼き、漬物。メインは豚汁。
「れいむーモグモグこれ美味いぜズズズ」
「食べてから喋れ」
ここで世辞を言うほど魔理沙は大人ではない。だから本当においしいと思っている。
それを解っているから、つっけんどんな態度でも霊夢は微笑んでいる。それも解って
いるから、魔理沙は何を言われても気にしないのである。
流石におかわり三杯目ともなれば、霊夢にも少し怒りの色が見え始めるが。
「おうおう、まだまだ元気そうだなぁ」
風呂から上がってサッパリした魔理沙が、髪を拭きながら外を見た。外からはまだ雨風、
雷の轟音が止まない。
「・・・って、何だ霊夢もう寝るのかよ」
布団を敷く霊夢は、特に手を止めず顔も上げず。
「夕食も食べてお風呂も入って、やる事無いでしょ、もう」
「あるぜ」
そう言うと、魔理沙は霊夢と自分の布団の間に皿を置いて、ロウソクを一本立てた。そして
他の明かりを全て消す。ゆらめく火の光は、辺りの闇を強調させる演出物となった。
「・・・・怪談でもやろうっての?二人で」
「とっておきがあるんだぜ」
泣かしてやるぜ、魔理沙はクククと笑った。
ゆらり。
入り込む微風で、二人の影があやしく揺れた。
「・・・ふぅん?じゃ、聞かせてもらおうかしら」
「フフフ・・・ちびるなよ?」
下品、霊夢はまたも一蹴した。流石にちょっと落ち込む魔理沙。
だが、まぁ、気をとりなおして・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
――――――数日前にも、こんな雨の夜があったよな。
「あったっけ」
「あったよ、って言うか折角雰囲気出して話始めたんだから乗れよ少しは」
「はいはい」
・・・・・・・・・
――――――数日前にも、こんな雨の夜があったよな。
「あ、そこに戻るんだ」
「お前、今度やったら問答無用でマスタースパークだからな」
「はいはい」
・・・・・こほん。
・・・・・その日、私はいつもと一緒で読書に耽っていた。
私は一度夢中になると中々他の事に気が行かない。食事だってとらない。でも腹は
空く、当たり前だ生きてるんだから。でも大抵は我慢して読み終えちまう。
それで、その日もやっぱりそうした。本を閉じてテーブルの上に置くと、途端に
とんでもない空腹感に倒れそうになった。その日は朝からずっとで何も、水一滴口に
していなかったんだ。
何か無いかなと思って台所に行ってみた。・・・ところが作り置きは何も残ってないし、
そもそも食材が殆ど底をついていたんだ。暫くこもっていたからみんな食っちまった
らしい。
コレには困った。なんせ外は大雨だ。普段なら高揚して意味もなく飛び出す魔理沙さん
だが、こうも疲弊している時には嵐と戦う気力も無かった。・・・とはいえ、このまま
何も食べないで嵐が過ぎるのを待つのも、我慢ならなかった。
―――私の速度で飛べば、里までそんなにかからないだろう。
音速の魔法使いは、まぁそう考えたわけだ。
そうと決まれば、私は今日みたいに雨合羽を着込んで、箒を持って外に出た。もちろん
凄い雨と風だったぜ?だけど餓死するのも御免だから私は飛んだんだ。
いつも買い出しに行ってる馴染みの里へ向かって、自慢の音速でビュッ!・・とな。
・・・・・・・・ところが。
いつまで経っても里が見えない。いつもならもう着いててもおかしくないはず、なのにだ。
まぁこんな天気だ、私が思っているほどスピードは出てないのかな、なんて一時は納得
していたんだが・・・・・・・
・・・・それにしたって、時間がかかりすぎていた。月も星も見えない夜じゃ、大体の時間も
解りはしないから感覚の話になっちまうが、いつもなら三十分もかからないその道を私は
一時間以上飛んでいた気がする。なのに里は見えてこない。
流石に私もクラクラし始めてな。こりゃマズイ、と思ったぜ。
・・・・そんな時だった。
私は、うっすら見える光を捉えた。やっと里に着いたかぁって、心底安堵したモンだぜ。
そこへ向かって、私は最後の力を振り絞って飛んだんだよ。
・・・で、里の入り口に降りてみると。何か見慣れない景色だったんだ。
そこはいつもの里じゃなかった。そんときゃ、この魔理沙さんともあろう人が、嵐の所為で
方向を狂わされたのかと思った。まぁそう思うよりさっさと屋根の下に入ったんだがな。
ああ、知らない家の軒下だよ。いきなりお邪魔するのは見知った奴の家だけだぜ?
そこで、気が付いた。
明かりが少なすぎる。いやこんな嵐の夜だ、いくら時間が早くてもする事も無し、
さっきのお前の理屈だな。みんな寝ちまったのかと思ったが、ちょっと奇妙に
思ったんだ。・・・・根拠は無いけどな。
私はふと、自分が雨宿りしている家の窓を見上げた。
ぎょろりとした目があった。
私はびっくりした。小さく悲鳴も出した・・・気がする。
・・・だけど良く見たら、それ、そこに住んでる婆さんが中から見てただけだったんだ。
ああほっとしたぜ。ありゃ流石に心臓に悪いや。・・・ともかく、その婆さんが私に話しかけてきた。
「こんな嵐の夜に、どうしたんじゃ?」
私は、まぁ簡素に理由を言った。食料が切れたから嵐の中ここへ来たってな。そしたら婆さんは
玄関に回って戸を開けてくれたんだよ。中へ入れって。
ありがたかったよ。すっかり体も冷えてきてたしな。私は喜んで入り口に向かった。
そこで、突然視線を感じた。
何だと思って振り返ってみると、女の子が居たんだ。
別に不思議じゃない?雨の中、傘もささず女の子が私をじっと見ているんだぜ?
私も女の子をじっと見ていると、中から婆さんが出てきた。どうしたって聞かれたから、私は
女の子を指差して、あそこに・・・・・・まで言って止まった。
ちょっと婆さんに視線を向けた瞬間に、女の子は消えていたんだよ。音も立てず。確かに雨や
風の音はうるさかったけど、この私がそんな気配すら読めなかったなんてと怪訝に思った。
・・・・ま、その時の私は何度も言った通りヘロヘロだ。そんなヘマもするかと気にしなかった。
婆さんに迎えられて、私は家の中に入ったんだ。中はちゃぶ台とロウソクくらいしか無い質素な
家だったよ。集落で一人暮らす老人の、普通の家だった。
雨合羽を脱いで、壁に立てかけた箒にかけた。そうしていると、台所から良い匂いがしてきた。
「今、何ぞ温かいモノこしらえるから、座ってなされ」
婆さんはそう言った。いやぁ、もう我慢できなかったぜ。空きっ腹にゃ拷問だ。今か今かと落ち
着かないながらも、言われた通り座って待ってたんだ。
びゅう、って風が窓から入ってきてな。
あの時、婆さんが閉め忘れたのかと思った。雨が吹き込んじゃ大変だと思って閉めに行ったんだ。
そうしたら、そこから見えたんだよ。・・・さっきの女の子が。
さっきと殆ど変わらない場所で、じぃっと私を見ている。流石に寒気がしたよ。確かに体は冷えて
いたけど、あの時感じたのはそういう類じゃない。悪寒ってやつだ。
「なぁ婆さん。さっきからあそこに女の子が居るけど、知り合いかい?」
私は後ろを向いて婆さんに聞いてみた。ところが婆さんは何にも答えない。・・・耳が
悪いのかなと思った。
んで、視線を窓に戻してみると・・・・・・
女の子はすぐそこに居た。
窓に顔をつけて私を見ていたんだ。
私は思わず後退って尻餅を付いた。
「・・・どうしたんじゃ?」
後ろに婆さんが立っていた。
私はしどろもどろになりながらも、窓を指差した。だけどそこにはもう、誰も居なかったんだ。
「・・・飯が出来たわい。大したモノはこさえられんが、食っていきなされ」
そう言って婆さんは台所に戻っていった。かちゃかちゃ、食器を運ぶ音がした。
漂う良い匂いにくらくらしたけどな。私はどうしても気になって、また窓を覗いたんだ。
・・・・さっきの場所に、まだ女の子は居た。
私は咄嗟に玄関を出た。雨合羽と箒は忘れずにな。
「婆さん悪い、すぐ戻るぜッ!」
私はそう言い残した。
外に出ると、女の子は居たんだよ。
「お前、私に何か用なのか?」
私がそう聞くと・・・・、女の子は突然走り出した。
「ま、待てよッ!」
私は雨合羽を適当に着込んで、箒に跨った。そして逃げる女の子を追ったんだ。
・・・変だったぜ。確かに消耗しているし、雨と風でうまく飛べない。・・・だけど、たかが幼い女の子
の足に、私の箒が全然追いつけなかったんだ。女の子はずんずん走って、ついに里を出ちまった。
こうなるといよいよ放っておけない。こんな嵐の中人里を出て、何があるか解ったもんじゃない。
加えて妖怪が跋扈する時間だ。やっかいな事になる前にとっ捕まえてやろうと、私は箒に力を
込めた。
森に入って、私は女の子を見逃さないように飛んだ。やっぱり変だったぜ。私の箒と対等の速度で
しかも足場の悪い森の中を走っているのに、女の子はちっとも疲れないんだ。足を一度だって止めずに
走っていく。流石に私も、アレは人間じゃないなと感づいたさ。しかしだとしたら、今度は人里に
降りてきた妖怪の類だ。これまた放ってはおけない。私はスペルカードを準備しながら追った。
ところが。
風が吹いたんだ。突風・・・とはいかなくても、雨が目に入って、一瞬まぶたを閉じてしまった。
狙ったかのように、女の子は消えていたよ。
私は箒を止めて唖然とした。完全に見失っちまった。完敗だよ。
しばらく気配を探ったり足跡を探そうとしたんだが・・・諦めた。
仕方なく、私はまた里に向かって飛んだんだ。
そして帰ってきたそこは、里じゃなかった。
元は里だった、の方が正しいな。
土砂で家は潰れて流されて、人の住んでいる気配なんぞ微塵も無かった。廃墟だったんだよ。
―――また方向感覚が狂って、違う場所に出ちまったのかな。
なんて思った瞬間だった。
遠くから音がする。
地鳴り、に似ていた。
私は悪い予感がして、雷が落ちる可能性も考えず高度を上げたんだ。
・・・・・的中したよ。
洪水だ。
どっかの川が氾濫して、大量の土砂を巻き込みながら、廃墟を襲ったんだ。
・・・たぶん、ここは似た様な洪水で滅んだんだろう。大雨の時、川の氾濫で溢れた水の通り道
だったって訳だ。
私はどうする事もできず、ただ下でごうごう流れる土砂を眺めていたさ。
そのうち雨足は弱ってきて。
気が付きゃ雲は切れて、太陽まで昇り始めていた。・・・一晩明けちまったって訳だ。
その頃になると水も弱まりを見せて、岩も流すような勢いは無くなっていた。
色々考えたい事があったけどな。・・・とにかく私は疲れた。へとへとだった。
もう食い物なんてどうでも良いから、家に帰ってベッドに潜り込みたかったよ。
でも、そんな風に思って飛び始めて、十数分後にな。私は良く見知った里に
着いたんだ。あっさり。
拍子抜けとはこの事だ。何だか力が抜けて、危うく箒から落ちそうになった。魔法使いが
箒から落ちるなんて末代までの恥だ。堪えたよちゃんと。
でも、ま、せっかく着いたんだ。目的の食料を買って帰ろうと思った。んで、早朝市に顔を出して
あれやこれや買った。
んで一段落着いて。私は会計しているおっさんに、ちょいと話を聞いたんだ。
「おっさん、この辺に集落や里って、けっこうあるのかい?」
「・・・ああ?この辺りは雨が降ると川の氾濫で水浸しになるから、ここ以外に人は住んじゃいないぜ」
妖怪はどうか知らないがな、おっさんはそう言った。
「・・・・数年前までは、ちょっと南の方に小さな集落があったがな」
「数年前?・・・あった?」
私はオウム返しで訊ねた。
「ああ、ありゃ忘れもしない。昨日と同じ様な酷い雨の夜だった」
夜中寝ていたおっさんは、地鳴りに似た轟音で目が覚めた。外に出ると、同じように村人が何人か
外に出ていて、話を聞けば川が氾濫したんだそうだ。
しかも、件の集落に向かって水が流れて行ってるらしい。
絶望的だったけど、もしかしたら何人か生き残っているかもしれない。おっさんは男衆を連れて
救助に向かったそうだ。
・・・・・だけど、おっさんが着いた時には、もう集落は濁流に飲み込まれた後だった。建物は崩壊し
流されて、見るも無残な姿。
・・・で、絶望しながらも、おっさん達は近くを散策し始めた。
・・・・・しばらくして、一人の男が声をあげた。
おっさんが駆けつけると、小さな女の子が気を失っていた。偶然集落から出ていたのか、それとも
何かに引っ掛かって流されずに済んだのか・・・、とにかく生きていたんだ。
そこの、たった一人の生き残りだった。
おっさん達は勿論、女の子を里に連れて帰った。手厚く看護した甲斐あって、十数時間後には目を
覚ましたそうだぜ。
・・・女の子は、自分の住んでいた場所がどうなったか知っていたみたいだった。だけど
嘆く事も泣く事も無く、まるで感情が壊れたように淡々としていた。
・・・まぁ、あんな事があったから、ショックも大きかったんだろう。おっさん達はそう思った。
それで、女の子はこの里で好意の看病を受けてきたんだが。
「・・・みんなが、呼んでる・・・・」
女の子は突然そう言って、里を出て行っちまった。
おっさん達は探した。自分の故郷に行ったのかとそこも探したが、結局見つからなかった。
しばらく経って・・・・・・・、女の子は妖怪に喰われたか、故郷の変わり果てた姿を見て自害したか、
・・・そういう結論が出た。
後味は最悪だったが・・・、おっさん達は、女の子を探すのを諦めた。
私はぞっとした。
間違いないぜ、そここそ私が迷い込んだ集落だ。あそこで死んだ無念の霊達が私を引き
込もうとしたんだ。
―――あの女の子が助けてくれなきゃ、洪水に飲まれて怨霊の仲間入りだった・・・!
それから大量の食料をかかえて帰って、たっぷり食ってぐっすり寝た。
その後またあの廃墟へ行って、花をそえて帰ったんだ・・・・・・・
―――――――――――――――――――――――――――
「・・・・・・ふーん」
「・・・・・・・・・・え、それだけ?」
話が終わって。霊夢の感想は短かった。
「良くある話じゃない。災害で滅んだ里なんて・・・」
ふわぁぁ・・・・、霊夢はあくびをしながら言った。
「・・・いや、いや違うぜ霊夢?この話は集落が滅んだ云々じゃなくて、そこに残った無念とかが
だなぁ・・・・・」
「・・・・・んふ?」
霊夢の目がとろ~んとしていた。眠たいらしい。
「・・・・・・ああ~、もーいーぜ。・・・霊夢を怖がらせようとした私が浅はかだったぜ・・・」
どっと疲れて、魔理沙は自分の布団に大の字で寝転がった。大きなため息一つ。
「じゃ~、ロウソク消すわよ~?」
「ん~」
魔理沙の返事を合図に、霊夢はロウソクに息を吹きかけた。火はあっさり消えて、辺りは闇に
支配される。雨風の音は相変わらずうるさかった。
「・・・ね~、魔理沙~・・・」
「・・・・ん~・・・?」
「さっきの話の女の子って~、三つ編みで五、六歳くらい?」
「・・・・・・・は?」
「そいつかどうか知らないけど~・・・・」
「あんたの背中にべったり張り付いてるわよ」
しーん・・・・・・・
「っっっきゃああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!」
魔理沙が悲鳴をあげた。
「やだやだ!!れ、やだ、霊夢ッ!?やだやだ祓って祓ってよぅ!!」
「眠いから明日ね~・・・・」
「あ、あしッ!?ば、馬鹿私このまま朝まで、や、うそ!?れ、霊夢やだ~!!」
「・・・特に悪さはしないわよ~・・・・きっと」
「きっとって何だよッ!!そういう問題じゃない~ッ!!」
魔理沙は本気で泣き出した。嵐の音に負けないくらい五月蝿い。っつーか勝ってる。
五分くらい経ってから、霊夢が「嘘よばーか」と言ったら静かになった。
そのとき魔理沙がどんな顔をしていたのか、この暗闇では窺い知る事は出来なかった。
翌日。霊夢が気持ちよく目覚めると、横には目の下が真っ黒な魔理沙が居た。
台風はとっくに過ぎて、今日は暑くなりそうである。
~終~
エセ分全開のホラーがあります。
毎度の事で恐縮ですが、お嫌いな方はご遠慮ください。
『博麗神社 まほうつかいと台風』
ゴオォォォォォォォッ!!
猛る風が木々を激しく揺らす。日が落ちるには幾分か早いが、空は分厚い雲に
覆われていて薄暗い。
ザアアァァァァァァ・・・・・
それに伴う豪雨。大地はどこもかしこも川になって流れている。
ピシャァッ!!ゴロゴロゴロ・・・・
雷。何度も何度も落ちる。背の高い木に落ちては薙ぎ倒していった。
そんな夏の風物詩、大きな台風が猛威を振るう幻想郷のある日。
「あらしの~♪なかでかがやい~て♪その~ゆめを~♪」
呑気な鼻歌。
雨合羽を着込んで、低空を箒に跨り飛ぶ人影が一つ。
「あきらめない~で~♪・・・うおッ!?」
突風。一瞬バランスを崩しかけたが、そう慌てる事もなく立て直した。
「あっはっは、凄い風だぜ!だけど、こんなもので止まる魔理沙さんじゃ
ないぜ!?」
霧雨魔理沙は臆する事無く、さらに箒へと魔力を送り込む。箒からブゥン、
と低い音が鳴って、それから速度が増した。
木々の合間を抜けると、目の前には長い長い石の階段。それも高速で飛び
登って行く。すぐに見飽きた赤い鳥居。それも一瞬で潜り行く。
博麗神社。その奥、霊夢の家。その玄関スレスレまで速度を落とさず、
急ブレーキの余波で土砂が飛んで、霊夢家入り口は見るも無残な姿に早代わりした。
・・・ま、この雨風が洗ってくれるだろ。魔理沙に反省の色は無し。その土砂まみれ
のドアを勢い良く開けた。
「おーっす、れいむ~!タオル貸してくれ~!」
心底驚いた顔で霊夢がぽかんとしていた。
霊夢がこんなに驚くなんて滅多に無い。その顔が見れただけでも、この嵐の中
やってきた甲斐がある・・・と、魔理沙はニンマリ笑った。
「・・・何だってこんな嵐の日に来たのよ」
陰陽玉の刺繍が入ったタオルを持ってきて、霊夢は魔理沙に放り投げた。
「ん?」
雨合羽越しでも濡れたあちこちを拭く魔理沙。
「急な用件?何か大変な事でもあったの?」
流石に魔理沙でもこれほどの無茶を、何の理由も無くするはずが無い。・・・と、
思った霊夢だが。
「だってお前、こんなに雨がざーざー降って」
屋根を叩く雨音は激しい。
「風がごうごう吹いて」
雨戸を揺らす風も激しい。
「雷もごろごろぴしゃーんッ!って落ちたら」
ドオォォォンッ!!・・・だいぶ近くに落ちたようだ。
「・・・・・・何か楽しくなってこないか?」
「あんた馬鹿でしょ」
一蹴。
霊夢の中で魔理沙への評価に修正が加えられた。嵐で無意味に心踊らせる⑨である、と。
「失礼な。お前より知識人な自信はあるぜ?」
「馬鹿と利口の違いは知識量じゃないわよ」
「飽くなき探究心のカタマリと解釈してくれ」
「子供」
「ママ~、お腹減ったぜ~」
「そのまま餓死しなさい」
取り付く島も無し。
まぁそれでも、客にはお茶を振舞うのが、この巫女の良いところなのだが。
「いや~、しかし凄い嵐だぜ。こりゃしばらく帰れないなぁ」
お払い棒で叩いた。気持ち本気めで。
スカーン!
・・・いつ叩いても良い音する頭だなぁ、と霊夢は思った。
夕食はもちろん和食。霊夢が洋食を口にする事は外食以外殆ど無い。・・・と言うより
霊夢は洋食系の作り方を殆ど知らない。カレーくらいである。カレーを洋食と言って
良いかどうかの議論はここではしない。でもあえて言うなら極普通の一般家庭で作られる
カレーはもう和食で、レストラン等で本格的に作られるモノは洋食だと思う。でも家庭の
カレーの方がエライ美味かったりするのは、やはり日本人故、だろう。
何の話だ。
閑話休題。
白米と山女魚の塩焼き、漬物。メインは豚汁。
「れいむーモグモグこれ美味いぜズズズ」
「食べてから喋れ」
ここで世辞を言うほど魔理沙は大人ではない。だから本当においしいと思っている。
それを解っているから、つっけんどんな態度でも霊夢は微笑んでいる。それも解って
いるから、魔理沙は何を言われても気にしないのである。
流石におかわり三杯目ともなれば、霊夢にも少し怒りの色が見え始めるが。
「おうおう、まだまだ元気そうだなぁ」
風呂から上がってサッパリした魔理沙が、髪を拭きながら外を見た。外からはまだ雨風、
雷の轟音が止まない。
「・・・って、何だ霊夢もう寝るのかよ」
布団を敷く霊夢は、特に手を止めず顔も上げず。
「夕食も食べてお風呂も入って、やる事無いでしょ、もう」
「あるぜ」
そう言うと、魔理沙は霊夢と自分の布団の間に皿を置いて、ロウソクを一本立てた。そして
他の明かりを全て消す。ゆらめく火の光は、辺りの闇を強調させる演出物となった。
「・・・・怪談でもやろうっての?二人で」
「とっておきがあるんだぜ」
泣かしてやるぜ、魔理沙はクククと笑った。
ゆらり。
入り込む微風で、二人の影があやしく揺れた。
「・・・ふぅん?じゃ、聞かせてもらおうかしら」
「フフフ・・・ちびるなよ?」
下品、霊夢はまたも一蹴した。流石にちょっと落ち込む魔理沙。
だが、まぁ、気をとりなおして・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
――――――数日前にも、こんな雨の夜があったよな。
「あったっけ」
「あったよ、って言うか折角雰囲気出して話始めたんだから乗れよ少しは」
「はいはい」
・・・・・・・・・
――――――数日前にも、こんな雨の夜があったよな。
「あ、そこに戻るんだ」
「お前、今度やったら問答無用でマスタースパークだからな」
「はいはい」
・・・・・こほん。
・・・・・その日、私はいつもと一緒で読書に耽っていた。
私は一度夢中になると中々他の事に気が行かない。食事だってとらない。でも腹は
空く、当たり前だ生きてるんだから。でも大抵は我慢して読み終えちまう。
それで、その日もやっぱりそうした。本を閉じてテーブルの上に置くと、途端に
とんでもない空腹感に倒れそうになった。その日は朝からずっとで何も、水一滴口に
していなかったんだ。
何か無いかなと思って台所に行ってみた。・・・ところが作り置きは何も残ってないし、
そもそも食材が殆ど底をついていたんだ。暫くこもっていたからみんな食っちまった
らしい。
コレには困った。なんせ外は大雨だ。普段なら高揚して意味もなく飛び出す魔理沙さん
だが、こうも疲弊している時には嵐と戦う気力も無かった。・・・とはいえ、このまま
何も食べないで嵐が過ぎるのを待つのも、我慢ならなかった。
―――私の速度で飛べば、里までそんなにかからないだろう。
音速の魔法使いは、まぁそう考えたわけだ。
そうと決まれば、私は今日みたいに雨合羽を着込んで、箒を持って外に出た。もちろん
凄い雨と風だったぜ?だけど餓死するのも御免だから私は飛んだんだ。
いつも買い出しに行ってる馴染みの里へ向かって、自慢の音速でビュッ!・・とな。
・・・・・・・・ところが。
いつまで経っても里が見えない。いつもならもう着いててもおかしくないはず、なのにだ。
まぁこんな天気だ、私が思っているほどスピードは出てないのかな、なんて一時は納得
していたんだが・・・・・・・
・・・・それにしたって、時間がかかりすぎていた。月も星も見えない夜じゃ、大体の時間も
解りはしないから感覚の話になっちまうが、いつもなら三十分もかからないその道を私は
一時間以上飛んでいた気がする。なのに里は見えてこない。
流石に私もクラクラし始めてな。こりゃマズイ、と思ったぜ。
・・・・そんな時だった。
私は、うっすら見える光を捉えた。やっと里に着いたかぁって、心底安堵したモンだぜ。
そこへ向かって、私は最後の力を振り絞って飛んだんだよ。
・・・で、里の入り口に降りてみると。何か見慣れない景色だったんだ。
そこはいつもの里じゃなかった。そんときゃ、この魔理沙さんともあろう人が、嵐の所為で
方向を狂わされたのかと思った。まぁそう思うよりさっさと屋根の下に入ったんだがな。
ああ、知らない家の軒下だよ。いきなりお邪魔するのは見知った奴の家だけだぜ?
そこで、気が付いた。
明かりが少なすぎる。いやこんな嵐の夜だ、いくら時間が早くてもする事も無し、
さっきのお前の理屈だな。みんな寝ちまったのかと思ったが、ちょっと奇妙に
思ったんだ。・・・・根拠は無いけどな。
私はふと、自分が雨宿りしている家の窓を見上げた。
ぎょろりとした目があった。
私はびっくりした。小さく悲鳴も出した・・・気がする。
・・・だけど良く見たら、それ、そこに住んでる婆さんが中から見てただけだったんだ。
ああほっとしたぜ。ありゃ流石に心臓に悪いや。・・・ともかく、その婆さんが私に話しかけてきた。
「こんな嵐の夜に、どうしたんじゃ?」
私は、まぁ簡素に理由を言った。食料が切れたから嵐の中ここへ来たってな。そしたら婆さんは
玄関に回って戸を開けてくれたんだよ。中へ入れって。
ありがたかったよ。すっかり体も冷えてきてたしな。私は喜んで入り口に向かった。
そこで、突然視線を感じた。
何だと思って振り返ってみると、女の子が居たんだ。
別に不思議じゃない?雨の中、傘もささず女の子が私をじっと見ているんだぜ?
私も女の子をじっと見ていると、中から婆さんが出てきた。どうしたって聞かれたから、私は
女の子を指差して、あそこに・・・・・・まで言って止まった。
ちょっと婆さんに視線を向けた瞬間に、女の子は消えていたんだよ。音も立てず。確かに雨や
風の音はうるさかったけど、この私がそんな気配すら読めなかったなんてと怪訝に思った。
・・・・ま、その時の私は何度も言った通りヘロヘロだ。そんなヘマもするかと気にしなかった。
婆さんに迎えられて、私は家の中に入ったんだ。中はちゃぶ台とロウソクくらいしか無い質素な
家だったよ。集落で一人暮らす老人の、普通の家だった。
雨合羽を脱いで、壁に立てかけた箒にかけた。そうしていると、台所から良い匂いがしてきた。
「今、何ぞ温かいモノこしらえるから、座ってなされ」
婆さんはそう言った。いやぁ、もう我慢できなかったぜ。空きっ腹にゃ拷問だ。今か今かと落ち
着かないながらも、言われた通り座って待ってたんだ。
びゅう、って風が窓から入ってきてな。
あの時、婆さんが閉め忘れたのかと思った。雨が吹き込んじゃ大変だと思って閉めに行ったんだ。
そうしたら、そこから見えたんだよ。・・・さっきの女の子が。
さっきと殆ど変わらない場所で、じぃっと私を見ている。流石に寒気がしたよ。確かに体は冷えて
いたけど、あの時感じたのはそういう類じゃない。悪寒ってやつだ。
「なぁ婆さん。さっきからあそこに女の子が居るけど、知り合いかい?」
私は後ろを向いて婆さんに聞いてみた。ところが婆さんは何にも答えない。・・・耳が
悪いのかなと思った。
んで、視線を窓に戻してみると・・・・・・
女の子はすぐそこに居た。
窓に顔をつけて私を見ていたんだ。
私は思わず後退って尻餅を付いた。
「・・・どうしたんじゃ?」
後ろに婆さんが立っていた。
私はしどろもどろになりながらも、窓を指差した。だけどそこにはもう、誰も居なかったんだ。
「・・・飯が出来たわい。大したモノはこさえられんが、食っていきなされ」
そう言って婆さんは台所に戻っていった。かちゃかちゃ、食器を運ぶ音がした。
漂う良い匂いにくらくらしたけどな。私はどうしても気になって、また窓を覗いたんだ。
・・・・さっきの場所に、まだ女の子は居た。
私は咄嗟に玄関を出た。雨合羽と箒は忘れずにな。
「婆さん悪い、すぐ戻るぜッ!」
私はそう言い残した。
外に出ると、女の子は居たんだよ。
「お前、私に何か用なのか?」
私がそう聞くと・・・・、女の子は突然走り出した。
「ま、待てよッ!」
私は雨合羽を適当に着込んで、箒に跨った。そして逃げる女の子を追ったんだ。
・・・変だったぜ。確かに消耗しているし、雨と風でうまく飛べない。・・・だけど、たかが幼い女の子
の足に、私の箒が全然追いつけなかったんだ。女の子はずんずん走って、ついに里を出ちまった。
こうなるといよいよ放っておけない。こんな嵐の中人里を出て、何があるか解ったもんじゃない。
加えて妖怪が跋扈する時間だ。やっかいな事になる前にとっ捕まえてやろうと、私は箒に力を
込めた。
森に入って、私は女の子を見逃さないように飛んだ。やっぱり変だったぜ。私の箒と対等の速度で
しかも足場の悪い森の中を走っているのに、女の子はちっとも疲れないんだ。足を一度だって止めずに
走っていく。流石に私も、アレは人間じゃないなと感づいたさ。しかしだとしたら、今度は人里に
降りてきた妖怪の類だ。これまた放ってはおけない。私はスペルカードを準備しながら追った。
ところが。
風が吹いたんだ。突風・・・とはいかなくても、雨が目に入って、一瞬まぶたを閉じてしまった。
狙ったかのように、女の子は消えていたよ。
私は箒を止めて唖然とした。完全に見失っちまった。完敗だよ。
しばらく気配を探ったり足跡を探そうとしたんだが・・・諦めた。
仕方なく、私はまた里に向かって飛んだんだ。
そして帰ってきたそこは、里じゃなかった。
元は里だった、の方が正しいな。
土砂で家は潰れて流されて、人の住んでいる気配なんぞ微塵も無かった。廃墟だったんだよ。
―――また方向感覚が狂って、違う場所に出ちまったのかな。
なんて思った瞬間だった。
遠くから音がする。
地鳴り、に似ていた。
私は悪い予感がして、雷が落ちる可能性も考えず高度を上げたんだ。
・・・・・的中したよ。
洪水だ。
どっかの川が氾濫して、大量の土砂を巻き込みながら、廃墟を襲ったんだ。
・・・たぶん、ここは似た様な洪水で滅んだんだろう。大雨の時、川の氾濫で溢れた水の通り道
だったって訳だ。
私はどうする事もできず、ただ下でごうごう流れる土砂を眺めていたさ。
そのうち雨足は弱ってきて。
気が付きゃ雲は切れて、太陽まで昇り始めていた。・・・一晩明けちまったって訳だ。
その頃になると水も弱まりを見せて、岩も流すような勢いは無くなっていた。
色々考えたい事があったけどな。・・・とにかく私は疲れた。へとへとだった。
もう食い物なんてどうでも良いから、家に帰ってベッドに潜り込みたかったよ。
でも、そんな風に思って飛び始めて、十数分後にな。私は良く見知った里に
着いたんだ。あっさり。
拍子抜けとはこの事だ。何だか力が抜けて、危うく箒から落ちそうになった。魔法使いが
箒から落ちるなんて末代までの恥だ。堪えたよちゃんと。
でも、ま、せっかく着いたんだ。目的の食料を買って帰ろうと思った。んで、早朝市に顔を出して
あれやこれや買った。
んで一段落着いて。私は会計しているおっさんに、ちょいと話を聞いたんだ。
「おっさん、この辺に集落や里って、けっこうあるのかい?」
「・・・ああ?この辺りは雨が降ると川の氾濫で水浸しになるから、ここ以外に人は住んじゃいないぜ」
妖怪はどうか知らないがな、おっさんはそう言った。
「・・・・数年前までは、ちょっと南の方に小さな集落があったがな」
「数年前?・・・あった?」
私はオウム返しで訊ねた。
「ああ、ありゃ忘れもしない。昨日と同じ様な酷い雨の夜だった」
夜中寝ていたおっさんは、地鳴りに似た轟音で目が覚めた。外に出ると、同じように村人が何人か
外に出ていて、話を聞けば川が氾濫したんだそうだ。
しかも、件の集落に向かって水が流れて行ってるらしい。
絶望的だったけど、もしかしたら何人か生き残っているかもしれない。おっさんは男衆を連れて
救助に向かったそうだ。
・・・・・だけど、おっさんが着いた時には、もう集落は濁流に飲み込まれた後だった。建物は崩壊し
流されて、見るも無残な姿。
・・・で、絶望しながらも、おっさん達は近くを散策し始めた。
・・・・・しばらくして、一人の男が声をあげた。
おっさんが駆けつけると、小さな女の子が気を失っていた。偶然集落から出ていたのか、それとも
何かに引っ掛かって流されずに済んだのか・・・、とにかく生きていたんだ。
そこの、たった一人の生き残りだった。
おっさん達は勿論、女の子を里に連れて帰った。手厚く看護した甲斐あって、十数時間後には目を
覚ましたそうだぜ。
・・・女の子は、自分の住んでいた場所がどうなったか知っていたみたいだった。だけど
嘆く事も泣く事も無く、まるで感情が壊れたように淡々としていた。
・・・まぁ、あんな事があったから、ショックも大きかったんだろう。おっさん達はそう思った。
それで、女の子はこの里で好意の看病を受けてきたんだが。
「・・・みんなが、呼んでる・・・・」
女の子は突然そう言って、里を出て行っちまった。
おっさん達は探した。自分の故郷に行ったのかとそこも探したが、結局見つからなかった。
しばらく経って・・・・・・・、女の子は妖怪に喰われたか、故郷の変わり果てた姿を見て自害したか、
・・・そういう結論が出た。
後味は最悪だったが・・・、おっさん達は、女の子を探すのを諦めた。
私はぞっとした。
間違いないぜ、そここそ私が迷い込んだ集落だ。あそこで死んだ無念の霊達が私を引き
込もうとしたんだ。
―――あの女の子が助けてくれなきゃ、洪水に飲まれて怨霊の仲間入りだった・・・!
それから大量の食料をかかえて帰って、たっぷり食ってぐっすり寝た。
その後またあの廃墟へ行って、花をそえて帰ったんだ・・・・・・・
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「・・・・・・ふーん」
「・・・・・・・・・・え、それだけ?」
話が終わって。霊夢の感想は短かった。
「良くある話じゃない。災害で滅んだ里なんて・・・」
ふわぁぁ・・・・、霊夢はあくびをしながら言った。
「・・・いや、いや違うぜ霊夢?この話は集落が滅んだ云々じゃなくて、そこに残った無念とかが
だなぁ・・・・・」
「・・・・・んふ?」
霊夢の目がとろ~んとしていた。眠たいらしい。
「・・・・・・ああ~、もーいーぜ。・・・霊夢を怖がらせようとした私が浅はかだったぜ・・・」
どっと疲れて、魔理沙は自分の布団に大の字で寝転がった。大きなため息一つ。
「じゃ~、ロウソク消すわよ~?」
「ん~」
魔理沙の返事を合図に、霊夢はロウソクに息を吹きかけた。火はあっさり消えて、辺りは闇に
支配される。雨風の音は相変わらずうるさかった。
「・・・ね~、魔理沙~・・・」
「・・・・ん~・・・?」
「さっきの話の女の子って~、三つ編みで五、六歳くらい?」
「・・・・・・・は?」
「そいつかどうか知らないけど~・・・・」
「あんたの背中にべったり張り付いてるわよ」
しーん・・・・・・・
「っっっきゃああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!」
魔理沙が悲鳴をあげた。
「やだやだ!!れ、やだ、霊夢ッ!?やだやだ祓って祓ってよぅ!!」
「眠いから明日ね~・・・・」
「あ、あしッ!?ば、馬鹿私このまま朝まで、や、うそ!?れ、霊夢やだ~!!」
「・・・特に悪さはしないわよ~・・・・きっと」
「きっとって何だよッ!!そういう問題じゃない~ッ!!」
魔理沙は本気で泣き出した。嵐の音に負けないくらい五月蝿い。っつーか勝ってる。
五分くらい経ってから、霊夢が「嘘よばーか」と言ったら静かになった。
そのとき魔理沙がどんな顔をしていたのか、この暗闇では窺い知る事は出来なかった。
翌日。霊夢が気持ちよく目覚めると、横には目の下が真っ黒な魔理沙が居た。
台風はとっくに過ぎて、今日は暑くなりそうである。
~終~
魔理沙の怪談を、ただの一言で打ち返すとは……
人って、こういうのに弱いんですよね・・w
この魔理沙の可愛さったら反則ですよ!
いや冗談抜きで面白かったです!
ありあとあしたぁ!
>「あきらめない~で~♪・・・うおッ!?」
08小隊のOPですか。懐かしい。
でも全く関係ないカレーの話で一番頷いた私って…。
まぁ、確かにカレーってもう和食ですよね。
……嘘ッス。スンマセン。読んでる間、結構マジでビビり入ってました。文が巧いせいか……
兎も角、何だか小学生みたいなノリの魔理沙と、クールな霊夢の掛け合いが楽しかったです♪
やはり怖い物と言うのは人の好奇心を刺激して止まないものなのでしょうね。
それはそれとして魔理沙可愛いよ魔理沙!!!
とりあえずOPでアプラサス吹いた
引き込まれました。鳥肌も立ちました。最後で心境的に救われました(笑
いい作品をありがとうございます。
怖い話、陰鬱な話、全てを全て、幻想郷で綺麗に包んでおりますね。
面白かった~
あと、陰陽玉の刺繍が入ったタオルってどこで売ってますか?
こここ、こんなにいっぱいお褒めの言葉が!?マジディスカ!?
マジディス。
うわー!皆様、本当にありがとうございますー!!散々勝手しまくっても
生温かく見守って下さって感謝!ああもう感謝!愛!?それだ!(何が?)
うしゃ!次も頑張ろう!東方愛が燃ゆる限り!
チョットヤソットジャ、キエヤシナイゼ!!しかし落ち着け僕。
それにしても、「嘘よばーか」がとても霊夢さんらしいと思います。
怪我の痛みも忘れて読みふけりましたよ。
いやあ、良い物読ませてもらいました。
確かに、嵐の中飛んできて散々食っちゃして、挙句に怪談される。
霊夢にしてみれば軽い悪戯心が働いても不思議ではない(笑
最後の可愛い魔理沙もいいですが、霊夢らしいオチ返しも素晴らしいです♪
ほのぼの系ですねえ。なんていうかこういう話も面白くて良いと思います
…………もしかしてホントに取り憑いてたりして(((( ;゚Д゚)))
て、所ですかね。
上手でした、霊夢さん。
今度真似しようw
怪談も面白かったー。引き込まれた。
うん、流行らせよう