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「逃がしてしまいましたか」
苦い顔をして血に塗れた手を払い、また微笑む聖。
その後ろには寅丸とナズーリンが佇んでいた。
人型は留めていない。留める必要もなかった。
「懐かしいわね、寅丸」
聖が虎の姿へと戻った寅丸を撫でる。
血に塗れたその手でも、今の寅丸には関係ない。
喉を鳴らして喜びを表現している。
「そろそろ頃合かしら」
「?」
「いい感じに血が流れたかしら、ってことよ」
聖が、笑いながら呟いた。
微笑ではなく、笑顔で。
「さ、お寺に戻りましょう、二人とも」
歩き出す聖の後に静かについて行く大虎と大鼠。
ああそうだ、と聖が振り返る。
「やっぱり、あなたたちも死んでね」
一瞬。
一瞬、通り過ぎただけだった。
聖の手には、虎の頭と鼠の頭が握られている。
血が聖を染めていく。
「命蓮があなたたちを見たらびっくりしちゃうでしょうからね、ごめんね」
そう言って、二つの頭を投げ捨てる。
投げられた先には、一輪と村紗の首があった。
「命蓮、命蓮、命蓮!」
期待と、歓喜に包まれた声が命蓮寺の御堂に響き渡る。
その声を聞くものはいない。
「ずいぶんと時間がかかってしまってごめんなさい。でも、あなたにまた逢える!」
そう言って、喜びのままに舞う聖白蓮。
いや、舞っているのではない。
陣を、禁じられた術の陣を描いているのだ。
「あなたがいない間、私はずっと空っぽだった」
「皆は優しかったけど、何か違っていた」
「あなたがいなければ駄目なんだって気付いた」
「命蓮、あなたがいてくれるから私は」
「だからね、命蓮」
黄泉帰って、と厳かに呟く。
陣に光が灯る。
血が、肉が、魂が、一つの形を成していく。
嗚呼、其れは彼女の最も尊く最も最愛の者。
彼女が無意識の内に求めていたもの。
聖命蓮。
彼女の、弟。
「……」
「命蓮!」
形を成した弟に走り寄り、抱きすくめる聖。
強く、そして優しく。
「お帰りなさい命蓮、私、ずっと、ずっとあなたを待っていたの、もうあなただけいればいい……」
「……」
命蓮は何も答えない。
「ねえ命蓮、あなた何かしたいこととかある?私、できる限りなんでもしてあげる」
命蓮は何も答えない。
「めいれ―――」
ぐしゃりと音を立てて、命蓮は崩れた。
血と肉の塊が、御堂の床に広がる。
「あ、」
「ああぁぁぁぁっぁああぁぁぁぁあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっぁぁ!!!!!」
「命蓮!!命蓮!!返事をして!!!陣、陣が不完全、チガウ、命蓮、命蓮!!動いて!!私を抱きしめて!ただ、ただ姉様と言って!!お願い!命蓮!!命蓮!!」
悲痛な叫びが御堂に響き渡る。
もう、彼女を助けるものはいない。
「寅丸ぅ!村紗ぁ!一輪!ナズーリン!助けて!!助けてよ!!」
もう、そこには存在しない者の名を叫び、助けを求め。
その名の者は、自らの手で消したというのに。
「……っぁあああああああああああああああああああ!!!!!」
悲しみ。
怒り。
感情が溢れ、止まらなかった。
目の前の肉塊にすがりつき、声を上げて泣いている。
犠牲を沢山出してしまった。
もう、何もかも戻らない。
優しかった皆も。
良くしてくれた人たちも。
嗚呼、現実は何と残酷なのだろうか。
嘆き、悲しみ、怒り。
聖白蓮は、自害した。
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「……これは」
「酷い……」
聖白蓮自害から数刻後、塗り壁は何処かに消え、人里へ出入りができるようになっていた。
しかし、状況は最悪。
生きている人間は一人もおらず、其処彼処に死体や肉片が撒き散らされている。
「師匠、あれ……!」
「……妹紅」
そこにいたのは、妹紅だった。
死なない程度に全身を杭で打たれ、身動きができない状態にされていた。
「がぁっ!」
永琳が杭を抜くと、妹紅がようやく気を取り戻した。
「大丈夫ですか、妹紅さん」
「あんたら……永遠亭の」
「ここで何があったの?」
「分からん……だが、慧音が聖とかいう僧侶に襲われていたから助けて塗り壁を越えようとしたんだ、けど足を杭で刺されて……」
「じゃあ、慧音はあなたがうちに届けたんじゃないのね?」
「そうか、永遠亭にいるのか、なら良かった……」
そう言って、妹紅は眠りについてしまった。
よほど消耗が激しかったのだろう。
「待って、じゃあ慧音は誰がうちに……?」
そう言って、二人は命蓮寺に向かった。
「ここ……ですね」
「気をつけなさい鈴仙、何か、妖気のようなものを感じる」
「はい、師匠も気をつけてくださいね」
警戒しつつ歩を進め、御堂の中に入る。
そこには、肉塊と、事切れた聖白蓮が横たわっていた。
「あ、この人が聖白蓮さんです……」
「死んでる……?……何かしら、これ……」
聖の死体を手持ちの布で拭き、多少の汚れを払った後、永琳は肉塊に興味を示した。
「これ……床に陣が描かれてます」
「(黄泉帰りの陣?でも未完成……ああ、そういうことか)」
「師匠?」
「鈴仙、この寺を焼き払って早々に退散するわよ」
「え、何でで……」
「伏せなさい!!」
永琳が鈴仙を突き飛ばした次の瞬間、聖の死体が永琳の腕を斬りおとした。
「ッチ、陣が中途半端だから……!」
「師匠!腕が!」
「腕なんて放っておけば生えてくる!それよりも、早く逃げるのよ!」
「は、はい!」
寺から逃げ出し、追ってくる聖の死体と肉塊を鈴仙が止めている間に、永琳は手持ちの薬品で即席の可燃物を作り出した。
「今よ鈴仙!」
「はい!」
鈴仙が飛び去ると同時に点火し、聖と肉塊は火に包まれた。
寺に引火し、燃え広がって行く炎。
「鈴仙、あの陣は黄泉帰りの陣って言ってね、死者を無理やりこの世に引っ張ってくる陣なの」
「あれが……じゃあ、あの肉は……」
「おそらく、あの僧侶が呼ぼうとしたもの。でも、陣が未完成だったから、崩れてああなってしまった」
「なんで未完成だったんでしょうか……?」
「さあ。でも、確かなことは一つだけ。あの僧侶は取り返しのつかないことをしてしまった、それだけよ」
「……」
「帰りましょう、鈴仙」
「……はい」
燃え上がる寺を後に、二人は歩き出す。
何もかも、元に戻ることは無い。
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「聖、聖。ご飯ですよ。居間でみんな待ってます」
「……あ、今行くわ。先に行ってて」
「分かりました。……聖、調子が悪いのなら無理はしないでくださいね」
居間へと入る一輪を他所に、聖は思い耽る。
今日のご飯はなんだろう。
星が作ってくれたものだろうか、それともムラサの作ってくれるあのかれぇとかいうものだろうか。
どちらにせよ、私が行かないと食事を始められない。
縁側から立ち、居間へと向かう。
「いただきます」
「「「「いただきまーす」」」」
手を合わせ、皆で食事を始める。
白蓮は少し箸を止め、皆に語りかける。
「皆、ありがとう」
突然、感謝を述べられても。
といった顔で白蓮を見つめる一同。
「それだけ、なんとなく言いたかったの。ごめんね」
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これで、いい。
これで、元通りだ。
意識が薄れていく。
妹紅、ごめん。
みんな、ごめん。
さようなら、かな、
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上白沢慧音は、結論を言えば命を取り留めた。
大怪我をした上に歴史を食らい、修正するということをしてしまい、体力は尽きかけていた。
しかし、間一髪で戻ってきた鈴仙と永琳、妹紅の手によって救われたのだった。
了
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「姉様……」
鋼の錬金術師にでも被れて衝動的に書き上げたとしか思えない駄作でした
SSと他人に見せる価値の無い脳内妄想は違うんですよ
ページ分割をやってる辺りおそらく作者は完全な素人ではないのでしょう
もしそうならば他の新人よりはるかに業が深いと言わせてください
展開は置いてけぼりな感じだし なんというか練りこみ不足な印象でした
恐らく白蓮の台詞であろう
「めいれーーー」
って何を言おうとしたんですか?
あと命蓮←なんて読みますか?
今回のものに関しては練り込み不足や稚拙なところが目立っていて、かつ衝動的に書いたことを認めるしかないものです。
命蓮に関しては間違えた読みを使用していました。
みょうれんですね、以後注意します
これただのダイジェストじゃないか。
内容的にも文章的にも消耗品にされた寺のみんながかわいそう。
説明不足と感じたならもっと詳らかに書き足せば良かったものを何故ほったらかすのか。
ただ、このジャンルはやるならもっと徹底的にやらないとダメじゃないかと思う
ジャンルとして有りとは思うがこの安さはいただけない