「射命丸文は永江衣玖だったのです!」
衣玖を探していると鴉を見つけた。鬱陶しいやつがいたと思ったけど、仕方なく声をかけてみる。
予想以上にウザイ答えが返ってきただけだった。
「…って、意味がわかんないわよ!この妄想新聞記者!!」
まさに妄想。何言ってんだこいつ。話しかけるんじゃなかったわ。
「あやややや…妄想じゃないですよ。てるこさん」
「誰がてるこよ!せめて『てんこ』にしなさい!どこぞのニートと勘違いされちゃうでしょ。…大体、あんた竜宮の使いじゃなくて鴉天狗じゃない」
「それがそうでもないんですよ。私の能力知ってますか?」
「風を操る程度の能力でしょ。それが衣玖と何の関係があるのよ」
ふふん、と自慢するような、馬鹿にするような顔で話し始める文。非常に不愉快ね。
「風を操るということは、風を利用したこともできるのです。
例えば噂。風に乗ってやってくる噂話を聞きつけたり、噂を広めたりすることができるのです。なんせ記者ですから!」
なるほど。本当に出来るかどうかはわからないけど、風を操るから遠くの会話が聞こえたり、逆に風に乗せて噂話を広めたりできるということね。
でもそれが衣玖と何の関係があるのかしら。いまいち要領を得ないわね。
あと記者なら根も葉もない噂を広めるな。
「つまり私は風を読むことができるのです。風が吹く方向を読み取るだけでなく、風がもたらす噂話も読み取ることができる。
そう、私は空気が読める…つまり私は永江衣玖なのです!!」
「まてまてまて。今、話がブッ飛んだわよ!ものすごい方向に。
あんたの言う『空気』っていうのは大気を流れる気体であって、衣玖の『空気』は場の雰囲気のことでしょ。」
頭がおかしくなったのかしら。このカラスは。いや、おかしいのは元々だったわ。
危ないから要石でも刺しといて固定しておこう。
……よく考えたら、衣玖の『空気を読む程度の能力』ってその場の雰囲気もだけど天候とか気質を読むってのもあったわね。まあいいわ。
「あやややや!要石は困ります。私は自由で可愛くなおかつ美しい鴉天狗なんですから。購読者が悲しみます」
「いつのまに心も読めるようになったのよ。あと購読者なんてあんたの眼球の数しかいないでしょ。
それで?空気が読めるからってなんで文が衣玖なのよ」
やっぱり後で刺しとこう。緋想の剣で。
こいつどこでも突っ込んでいくから私と同じ属性だと思ったんだけどな。
まさか!…それ以上だというの!?なら緋想の剣とか突っ込「違いますから!一緒にしないでください!というか購読者どんだけ少ないと思ってるんですか!?」
くそぅ。さとりかこいつ。
「眼球じゃないなら指の数くらい?」
「ナ、ナニヲイッテルンデスカ。チガイマスヨ」
目が反復横跳びしてるわ。いいもの見れた。
「話を戻しますね。天子さん。三段論法というのをご存知ですか?」
「ええ。A=B。B=C。故にA=Cというようなことよね。…もしかして」
「そうです!射命丸文=空気が読める=永江衣玖
射命丸文=永江衣玖なのです!」
「なんでそうなるのよ!?」
論理的におかしい!いや論理的なのかもしれないけど、それ以前の問題よ。
大体、あんたら二人とも普段から空気なんて読まないじゃない!
決まった!とばかりに衣玖のいつものポーズを取る文。
キャーアヤサーンなんて言うと思ったか。
あんたには\射命丸/で十分よ。
いや、それ言うのも悔しいわね。
「\アヤサーン/」
「ありがとうございます!」
しまった。喜んじゃったわ。混ぜるんじゃなかった。
というか文のアホな話聞いてる場合じゃなかったんだ。
「それどころじゃなかったわ。衣玖よ!衣玖がいないのよ。知らない?」
文がこれだけ衣玖の話をしているなら本人にも言ってるかもしれない。
文は聞いているのかいないのか、いつもの笑顔で私を見ている。
でも…どこか困ったような、無理やり作った笑顔。
「うっ…!?」
突然だった。
さっきまで手を伸ばしても届かない距離にいたはずの文が私の目の前にいた。
文の冷たい手が私の首に添えられている。
「ええ~わからないのですか?早く気づいてくださいよ。総領娘様」
今、なんて言った?
首に力が加わる。
声が出せない。
文を見る。
ふと、今ここで私の思考は異常なほど冷静になった。
A=CならばC=Aでもある。
私のこの目の前にいる文は、
「やっとわかりました?天子さん」
目の前に文が二人いる。いや違う。一人は……
「そう。あなたが今まで話していたのは空気を読んで射命丸文になりきった永江衣玖よ。そしてあなたも空気を読んで衣玖さんを射命丸文だと思い込んでいた」
にやにやと、嫌な笑顔が並んでいる。
どう見ても射命丸文が二人いる。意味が悪い。
最初から私も空気を読んでいたって…一体何の?
それに、最初から衣玖を見て文だと思い込んでいたって…?
「どう…して…」
「ただ“空気を読んだ”だけですよ。
本当は気付いていたんでしょ?最初から。言ってるじゃない。私の考察だって。」
文の考察?
ここが文の妄想の中ってこと?
違う。
考察
こうさつ
コウサツ
「“空気を読んで”タイトル通りのオチにしないといけないでしょ。
そう気付いていたからあなたも最後まで会話を続けたのよ」
目の前に文が二人いる。
もう笑っていなかった。
でもその顔もあやふやになってゆく。
「物語の宿命よ。登場人物は物語には逆らえない。
私とあなたと衣玖さん。誰かが“空気を読まない”限り、私の考察は変わらない」
文が悲しそうな顔をしている。
でも何を言ったか、もう聞こえない。
そして、やっと、私の首を絞めている衣玖の姿がはっきりと見えた。
ずっと、
ずっと泣いていたんだ。
どうして気がつかなかったんだろう。
衣玖はずっと泣いていたのに。
ハンカチで拭いてあげるのが私の役目でしょう?
どうしてきがつかなかったんだろう。
きょうははんかちをもってきてたのに。
なみだをふくじゅんびはできていたのに。
首にさらに力が加わった。
私の意識は
消えてなくなった。
◆
「ぶぅえぇいっくしょぉぉん!!!」
寒い。
布団も掛けずに寝ていたなんて…ああ顔が鼻水だらけだわ。
何か…夢を見ていた。
うろ覚えだけど、夢の中で衣玖が泣いていた気がする。
そういえば衣玖はどこかしら?
顔をティッシュで拭いて完全なる美貌を取り戻した。
衣玖に会うなら、誰よりも綺麗でいないと。
身支度を整えて、ハンカチ持って、準備万端。
私は、外へ飛び出した。
衣玖を探しに。
衣玖を探していると鴉を見つけた。鬱陶しいやつがいたと思ったけど、仕方なく声をかけてみる。
予想以上にウザイ答えが返ってきただけだった。
「…って、意味がわかんないわよ!この妄想新聞記者!!」
まさに妄想。何言ってんだこいつ。話しかけるんじゃなかったわ。
「あやややや…妄想じゃないですよ。てるこさん」
「誰がてるこよ!せめて『てんこ』にしなさい!どこぞのニートと勘違いされちゃうでしょ。…大体、あんた竜宮の使いじゃなくて鴉天狗じゃない」
「それがそうでもないんですよ。私の能力知ってますか?」
「風を操る程度の能力でしょ。それが衣玖と何の関係があるのよ」
ふふん、と自慢するような、馬鹿にするような顔で話し始める文。非常に不愉快ね。
「風を操るということは、風を利用したこともできるのです。
例えば噂。風に乗ってやってくる噂話を聞きつけたり、噂を広めたりすることができるのです。なんせ記者ですから!」
なるほど。本当に出来るかどうかはわからないけど、風を操るから遠くの会話が聞こえたり、逆に風に乗せて噂話を広めたりできるということね。
でもそれが衣玖と何の関係があるのかしら。いまいち要領を得ないわね。
あと記者なら根も葉もない噂を広めるな。
「つまり私は風を読むことができるのです。風が吹く方向を読み取るだけでなく、風がもたらす噂話も読み取ることができる。
そう、私は空気が読める…つまり私は永江衣玖なのです!!」
「まてまてまて。今、話がブッ飛んだわよ!ものすごい方向に。
あんたの言う『空気』っていうのは大気を流れる気体であって、衣玖の『空気』は場の雰囲気のことでしょ。」
頭がおかしくなったのかしら。このカラスは。いや、おかしいのは元々だったわ。
危ないから要石でも刺しといて固定しておこう。
……よく考えたら、衣玖の『空気を読む程度の能力』ってその場の雰囲気もだけど天候とか気質を読むってのもあったわね。まあいいわ。
「あやややや!要石は困ります。私は自由で可愛くなおかつ美しい鴉天狗なんですから。購読者が悲しみます」
「いつのまに心も読めるようになったのよ。あと購読者なんてあんたの眼球の数しかいないでしょ。
それで?空気が読めるからってなんで文が衣玖なのよ」
やっぱり後で刺しとこう。緋想の剣で。
こいつどこでも突っ込んでいくから私と同じ属性だと思ったんだけどな。
まさか!…それ以上だというの!?なら緋想の剣とか突っ込「違いますから!一緒にしないでください!というか購読者どんだけ少ないと思ってるんですか!?」
くそぅ。さとりかこいつ。
「眼球じゃないなら指の数くらい?」
「ナ、ナニヲイッテルンデスカ。チガイマスヨ」
目が反復横跳びしてるわ。いいもの見れた。
「話を戻しますね。天子さん。三段論法というのをご存知ですか?」
「ええ。A=B。B=C。故にA=Cというようなことよね。…もしかして」
「そうです!射命丸文=空気が読める=永江衣玖
射命丸文=永江衣玖なのです!」
「なんでそうなるのよ!?」
論理的におかしい!いや論理的なのかもしれないけど、それ以前の問題よ。
大体、あんたら二人とも普段から空気なんて読まないじゃない!
決まった!とばかりに衣玖のいつものポーズを取る文。
キャーアヤサーンなんて言うと思ったか。
あんたには\射命丸/で十分よ。
いや、それ言うのも悔しいわね。
「\アヤサーン/」
「ありがとうございます!」
しまった。喜んじゃったわ。混ぜるんじゃなかった。
というか文のアホな話聞いてる場合じゃなかったんだ。
「それどころじゃなかったわ。衣玖よ!衣玖がいないのよ。知らない?」
文がこれだけ衣玖の話をしているなら本人にも言ってるかもしれない。
文は聞いているのかいないのか、いつもの笑顔で私を見ている。
でも…どこか困ったような、無理やり作った笑顔。
「うっ…!?」
突然だった。
さっきまで手を伸ばしても届かない距離にいたはずの文が私の目の前にいた。
文の冷たい手が私の首に添えられている。
「ええ~わからないのですか?早く気づいてくださいよ。総領娘様」
今、なんて言った?
首に力が加わる。
声が出せない。
文を見る。
ふと、今ここで私の思考は異常なほど冷静になった。
A=CならばC=Aでもある。
私のこの目の前にいる文は、
「やっとわかりました?天子さん」
目の前に文が二人いる。いや違う。一人は……
「そう。あなたが今まで話していたのは空気を読んで射命丸文になりきった永江衣玖よ。そしてあなたも空気を読んで衣玖さんを射命丸文だと思い込んでいた」
にやにやと、嫌な笑顔が並んでいる。
どう見ても射命丸文が二人いる。意味が悪い。
最初から私も空気を読んでいたって…一体何の?
それに、最初から衣玖を見て文だと思い込んでいたって…?
「どう…して…」
「ただ“空気を読んだ”だけですよ。
本当は気付いていたんでしょ?最初から。言ってるじゃない。私の考察だって。」
文の考察?
ここが文の妄想の中ってこと?
違う。
考察
こうさつ
コウサツ
「“空気を読んで”タイトル通りのオチにしないといけないでしょ。
そう気付いていたからあなたも最後まで会話を続けたのよ」
目の前に文が二人いる。
もう笑っていなかった。
でもその顔もあやふやになってゆく。
「物語の宿命よ。登場人物は物語には逆らえない。
私とあなたと衣玖さん。誰かが“空気を読まない”限り、私の考察は変わらない」
文が悲しそうな顔をしている。
でも何を言ったか、もう聞こえない。
そして、やっと、私の首を絞めている衣玖の姿がはっきりと見えた。
ずっと、
ずっと泣いていたんだ。
どうして気がつかなかったんだろう。
衣玖はずっと泣いていたのに。
ハンカチで拭いてあげるのが私の役目でしょう?
どうしてきがつかなかったんだろう。
きょうははんかちをもってきてたのに。
なみだをふくじゅんびはできていたのに。
首にさらに力が加わった。
私の意識は
消えてなくなった。
◆
「ぶぅえぇいっくしょぉぉん!!!」
寒い。
布団も掛けずに寝ていたなんて…ああ顔が鼻水だらけだわ。
何か…夢を見ていた。
うろ覚えだけど、夢の中で衣玖が泣いていた気がする。
そういえば衣玖はどこかしら?
顔をティッシュで拭いて完全なる美貌を取り戻した。
衣玖に会うなら、誰よりも綺麗でいないと。
身支度を整えて、ハンカチ持って、準備万端。
私は、外へ飛び出した。
衣玖を探しに。
ギャグから理不尽物に走った所までは良かった、しかし首を締めねばならぬ理論がイマイチわからない、意識の強制シャットダウンで妄想を殺す系の話だと考えていいのかな
ただやはり衣玖さんの泣いてる理由がほしかったです
とか書いてたらあとがきに書いてあったでござる。