「てへへ、ちょっと悩んでいる事があって、すごく蹴りやすそうだったんでつい」
守矢神社の参道の近くの木の枝にこしかけていた所、突如自分を襲った衝撃で枝から落ちてしまった。
新しい化かし方を考えている最中の出来事であった。
そこにいたのは苦笑いしながら頭をかいて謝る早苗。
しっぽをさすりながら、マミゾウは怒りよりも困惑の混じったツッコミをいれた。
「お、お主は蹴りやすそうだからと言って他人のしっぽを蹴るのが普通なのか?
それが外の世界のとれんどとやらなのか?」
「いや、ですからこうして謝っているでしょう。それに、無防備にしっぽぶら下げている方も悪いですよ」
「こ、こやつ、正当化しおった」
「それに、もし悪意を持った存在なら先手必勝に限りますし」
「せめて、どんな存在か、素性を把握してからとは思わんのか?」
「冗談はさておき」
「冗談かい! 聞きしに勝るふりーだむぶりじゃ」
「そのしっぽ、奇跡の力で癒してあげます」
「べつにいいわい」
「まあまあ、そんな事おっしゃらずに」
早苗はマミゾウのしっぽを手に取り、優しくさすると、急速に腫れと痛みが引いていくのを感じた。
「ほう、これは」
「どうです、これが神の力です。すごいでしょ」
「まっちぽんぷという気もするがの」
治療を受けながら話している内に、マミゾウはしっぽを蹴られた事などどうでも良くなっていた。
そういえばこの巫女は悩んでいる事があると言っていた。話を聞いてやるのも悪くはないだろう。
「ところで、どんな悩みがあるのじゃ、相談に乗ってやらんでもないぞい」
「はい……いや、別にそんな大したことじゃないんです。
あの……もういちど、そのしっぽを触らせてもらえますか」
早苗は再びマミゾウのしっぽを手に取り、それをさすったり、頬に当てたりした。
もふもふ もふもふ
「おお? もう痛くないぞい」
「だって気持ちいいんだもの、もう少し触らせて。ほら、うちの神様、爬虫類系でしょ。
お二柱とも立派なお方ですが、もふもふ的な要素が不足していまして」
「やれやれ仕方ないのう」
目を閉じてマミゾウのしっぽをさする早苗は、それはそれは幸せそうだった。
マミゾウは静かに彼女を見守った。
もふもふ もふもふ
もふもふ もふもふ
もふもふもふもふ
もふもふもふも
「気は済んだかの? 『も』と『ふ』の字がげしゅたると崩壊を起こしておるぞ」
「なんだかすっきりしました、ありがとうございます、では」
もふり尽くした後、早苗は一礼して、里の方へと飛んで行った。
「悩みが何だったのかは気になるが、ま、あの分だと時間が解決してくれるじゃろ」
動物妖怪特有の軽やかな動きで、木の上に登って枝に腰をおろすと、再び化かすアイデアを練るのだった。
ドゴォ
「うげえっ」
突如マミゾウのしっぽに、先程とは段違いの重い衝撃が走った。
枝から転げ落ち、しばらく動けない。
「かはっ、こ、これは効いたわい」
地面に倒れたまま、しっぽをさすって痛みが引くのを待つ。今日は厄日だ。
涙目になりながらマミゾウは蹴った相手を見上げた。まだしっぽがじんじんと痛む。
「ああごめん、なんだか蹴りやすそうなサンドバッグがあったもんだから、つい。立てる?」
そっけなく言って手を貸すのは守矢の祟り神、洩矢諏訪子だった。
「さっきの巫女と言い、あんさんと言い、守矢の連中は一体なんなんじゃ?
おかげでこっちは、『うげえっ』なんて乙女にあるまじき叫び声を上げたのじゃぞ?」
「う~ん、ちょっとイライラした事があって、それでつい……」
諏訪子の言葉にマミゾウはぴんと来た。おおかた、喧嘩でもしたのだろう。
「さっきの巫女もそんな事を言っておったわ。それで、あの巫女とあんさんに一体何があったのじゃ?
立て続けにしっぽを蹴られた以上、聞く権利ぐらいはあっても良さそうじゃが」
「うん、今日スキマ妖怪が神社に遊びに来て、異国の珍しいカエルを見せてもらったんだけど、
早苗のヤツ、『諏訪子さまより可愛い』なんて言うもんだからさ、それで言いあいになっちゃって……
あんのバカ」
マミゾウから視線を反らして愚痴を言うように話す諏訪子。
その姿は祟り神というより、友達と喧嘩した少女のそれと変わりなかった。
「まあまあ、あの巫女も悪気があって言ったんじゃ無かったんじゃろ」
「そりゃあそうだけどさ」
「あの巫女は里の方へ言ったぞい、あんさんも追いかけて、気晴らしに買い物でもしてきたらどうじゃ?
だいいち祟り神とその巫女が険悪な仲とあっちゃ、ゆっくり化けネタの新作を考えている余裕もないわい」
「うん、そうする。それで、そのしっぽ、本当に大丈夫?」
「弱って外界から逃げてきた土着神の蹴りなんぞ、このマミゾウには通用せんわい」
蹴られた事に対する、マミゾウの精一杯の強がりであった。
気を取り直してもう一度枝にのぼる。ここはお気に入りの場所なのだ。
やすやすと手放してたまるか。
気配ッ
一瞬でうたた寝から目覚め、とっさにしっぽを立て、背中にぴったりとつける。
「こんどは蛇か? そうはさせんぞ」
しかしマミゾウのしっぽを蹴る者はおらず、1人の巫女と1柱の神が買い物袋を持って歩いてくる。
親しそうに会話しており、もう仲直りは済んだようだ。
マミゾウが声をかけると、早苗は笑顔で手を振り、諏訪子もぎこちなく頭を下げた。
「その様子だと、もう大丈夫なようじゃの」
「あっ、マミゾウさん、先程ははお世話になりました」
「さっきはどうも。はい、お詫び」
諏訪子が枝の上のマミゾウに酒の瓶を投げてよこした。
「それ、それなりに良いお酒だから」
「すまんのう、もう他人のしっぽを蹴るんじゃないぞ、もふもふなら応相談じゃがの」
「ああ、諏訪子様もマミゾウさんのしっぽもふったら良いですよ」
「考えとくわ」
遠ざかっていく両者の後姿を見ているうちに、
まるで神と従者と言うより家族みたいだとマミゾウは思った。
冷たい風がびゅうと吹く。マミゾウは首を縮めた。
「さて、この酒でぬえと一杯やるか」
枝から1回転して飛びおり、服についたほこりをはたく。
「そうじゃ、次の化けネタは、蹴っても蹴ってもひとりでに避けるさんどばっぐなんてどうじゃろ。
みんなにも受けそうじゃ」
アイデアをひらめかせてくれた1人と1柱に感謝しながら、マミゾウは寺を目指す。
守矢神社の参道の近くの木の枝にこしかけていた所、突如自分を襲った衝撃で枝から落ちてしまった。
新しい化かし方を考えている最中の出来事であった。
そこにいたのは苦笑いしながら頭をかいて謝る早苗。
しっぽをさすりながら、マミゾウは怒りよりも困惑の混じったツッコミをいれた。
「お、お主は蹴りやすそうだからと言って他人のしっぽを蹴るのが普通なのか?
それが外の世界のとれんどとやらなのか?」
「いや、ですからこうして謝っているでしょう。それに、無防備にしっぽぶら下げている方も悪いですよ」
「こ、こやつ、正当化しおった」
「それに、もし悪意を持った存在なら先手必勝に限りますし」
「せめて、どんな存在か、素性を把握してからとは思わんのか?」
「冗談はさておき」
「冗談かい! 聞きしに勝るふりーだむぶりじゃ」
「そのしっぽ、奇跡の力で癒してあげます」
「べつにいいわい」
「まあまあ、そんな事おっしゃらずに」
早苗はマミゾウのしっぽを手に取り、優しくさすると、急速に腫れと痛みが引いていくのを感じた。
「ほう、これは」
「どうです、これが神の力です。すごいでしょ」
「まっちぽんぷという気もするがの」
治療を受けながら話している内に、マミゾウはしっぽを蹴られた事などどうでも良くなっていた。
そういえばこの巫女は悩んでいる事があると言っていた。話を聞いてやるのも悪くはないだろう。
「ところで、どんな悩みがあるのじゃ、相談に乗ってやらんでもないぞい」
「はい……いや、別にそんな大したことじゃないんです。
あの……もういちど、そのしっぽを触らせてもらえますか」
早苗は再びマミゾウのしっぽを手に取り、それをさすったり、頬に当てたりした。
もふもふ もふもふ
「おお? もう痛くないぞい」
「だって気持ちいいんだもの、もう少し触らせて。ほら、うちの神様、爬虫類系でしょ。
お二柱とも立派なお方ですが、もふもふ的な要素が不足していまして」
「やれやれ仕方ないのう」
目を閉じてマミゾウのしっぽをさする早苗は、それはそれは幸せそうだった。
マミゾウは静かに彼女を見守った。
もふもふ もふもふ
もふもふ もふもふ
もふもふもふもふ
もふもふもふも
「気は済んだかの? 『も』と『ふ』の字がげしゅたると崩壊を起こしておるぞ」
「なんだかすっきりしました、ありがとうございます、では」
もふり尽くした後、早苗は一礼して、里の方へと飛んで行った。
「悩みが何だったのかは気になるが、ま、あの分だと時間が解決してくれるじゃろ」
動物妖怪特有の軽やかな動きで、木の上に登って枝に腰をおろすと、再び化かすアイデアを練るのだった。
ドゴォ
「うげえっ」
突如マミゾウのしっぽに、先程とは段違いの重い衝撃が走った。
枝から転げ落ち、しばらく動けない。
「かはっ、こ、これは効いたわい」
地面に倒れたまま、しっぽをさすって痛みが引くのを待つ。今日は厄日だ。
涙目になりながらマミゾウは蹴った相手を見上げた。まだしっぽがじんじんと痛む。
「ああごめん、なんだか蹴りやすそうなサンドバッグがあったもんだから、つい。立てる?」
そっけなく言って手を貸すのは守矢の祟り神、洩矢諏訪子だった。
「さっきの巫女と言い、あんさんと言い、守矢の連中は一体なんなんじゃ?
おかげでこっちは、『うげえっ』なんて乙女にあるまじき叫び声を上げたのじゃぞ?」
「う~ん、ちょっとイライラした事があって、それでつい……」
諏訪子の言葉にマミゾウはぴんと来た。おおかた、喧嘩でもしたのだろう。
「さっきの巫女もそんな事を言っておったわ。それで、あの巫女とあんさんに一体何があったのじゃ?
立て続けにしっぽを蹴られた以上、聞く権利ぐらいはあっても良さそうじゃが」
「うん、今日スキマ妖怪が神社に遊びに来て、異国の珍しいカエルを見せてもらったんだけど、
早苗のヤツ、『諏訪子さまより可愛い』なんて言うもんだからさ、それで言いあいになっちゃって……
あんのバカ」
マミゾウから視線を反らして愚痴を言うように話す諏訪子。
その姿は祟り神というより、友達と喧嘩した少女のそれと変わりなかった。
「まあまあ、あの巫女も悪気があって言ったんじゃ無かったんじゃろ」
「そりゃあそうだけどさ」
「あの巫女は里の方へ言ったぞい、あんさんも追いかけて、気晴らしに買い物でもしてきたらどうじゃ?
だいいち祟り神とその巫女が険悪な仲とあっちゃ、ゆっくり化けネタの新作を考えている余裕もないわい」
「うん、そうする。それで、そのしっぽ、本当に大丈夫?」
「弱って外界から逃げてきた土着神の蹴りなんぞ、このマミゾウには通用せんわい」
蹴られた事に対する、マミゾウの精一杯の強がりであった。
気を取り直してもう一度枝にのぼる。ここはお気に入りの場所なのだ。
やすやすと手放してたまるか。
気配ッ
一瞬でうたた寝から目覚め、とっさにしっぽを立て、背中にぴったりとつける。
「こんどは蛇か? そうはさせんぞ」
しかしマミゾウのしっぽを蹴る者はおらず、1人の巫女と1柱の神が買い物袋を持って歩いてくる。
親しそうに会話しており、もう仲直りは済んだようだ。
マミゾウが声をかけると、早苗は笑顔で手を振り、諏訪子もぎこちなく頭を下げた。
「その様子だと、もう大丈夫なようじゃの」
「あっ、マミゾウさん、先程ははお世話になりました」
「さっきはどうも。はい、お詫び」
諏訪子が枝の上のマミゾウに酒の瓶を投げてよこした。
「それ、それなりに良いお酒だから」
「すまんのう、もう他人のしっぽを蹴るんじゃないぞ、もふもふなら応相談じゃがの」
「ああ、諏訪子様もマミゾウさんのしっぽもふったら良いですよ」
「考えとくわ」
遠ざかっていく両者の後姿を見ているうちに、
まるで神と従者と言うより家族みたいだとマミゾウは思った。
冷たい風がびゅうと吹く。マミゾウは首を縮めた。
「さて、この酒でぬえと一杯やるか」
枝から1回転して飛びおり、服についたほこりをはたく。
「そうじゃ、次の化けネタは、蹴っても蹴ってもひとりでに避けるさんどばっぐなんてどうじゃろ。
みんなにも受けそうじゃ」
アイデアをひらめかせてくれた1人と1柱に感謝しながら、マミゾウは寺を目指す。
番外編として魔理沙編とかあってもよかったかも
>諏訪子様も かな?
いい日常でした
それとこれだけは言わせてもらう、蛙は爬虫類じゃない!(偏執)
しっぽ、おいしそう
…実態はこんなもんだったり?
>>「うげえっ」
のところでDIO様に殴り飛ばされたポルナレフに脳内変換したのは俺だけでいい…
そんなしっぽがあるならまず
飛び付くだろ?
もふもふ
勝手に避けるサンドバッグ……面白いかも。