Coolier - 新生・東方創想話

現の初夢

2013/01/19 08:53:04
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「諏訪子! 昨日私が神通力を込めたお守りをどこにやった! 袋に入れて玄関に置いてあったやつっ!」
「神奈子の方こそ、私が力を注いだお守りどこにやったのさ! その横に置いて合ったやつっ!」
「あ、あれ……、今日って、燃えるゴミの日じゃ……」
『さ、早苗ぇっ!!』

 年の瀬が押し迫った頃、山の神社では、新年の行事のため猫の手が借りたいほど大忙し。大掃除も重なって、まさに師走といったところだ。
 樹齢何百年にも届きそうな木のてっぺんで何気なく眺めていた華仙は、その慌てぶりをみても笑うことも、呆気に取られることもなく。

「ふむ」

 顎に手を当て、ひと唸り。
 その後、急いで隠れ家に戻ると、飼っていた動物たちに留守番を命じてから、足早にもう一つの神社へと向かう。
 守矢神社よりも、人手が圧倒的に足りないあの場所はいったいどうなっているのか。

「アレもしないと……ああっ! 神事の準備もっ!」

 しばらく前に様子を見に行ったときも、年を越える準備をしていなかったのだ。
 きっと今頃てんてこまい。
 山の神社よりもっと大変なことになっているのだろうと、華仙は大あわてで動き回る霊夢を想像しながら、くすくすと微笑み。
 いつもと同じように博麗神社の境内に入って――

「うわ、残念な仙人が来た」
「残念な仙人だな」

 いきなり残念な子扱いとはこれ如何に。
 しかも、霊夢の様子は華仙の予想とはまったく別物。居間で堀ごたつに足を突っ込み、普通の魔法使いとぐーたら中である。
 そんな余裕綽々の霊夢の姿を見せつけられ呆気に取られつつも、華仙は気を取り直して腕を組んだ。

「いきなりなご挨拶ね。新年の準備はどうしたの?」
「別にやらなくても良いわよ」
「そう、なのかしら?」

 こたつに顎を置き、動こうとしない霊夢。華仙は不審に思いながら、居間に上がり、側へと寄ってみるが、別段と部屋の中が変わった様子でもない。畳の上には、お祓い棒が無造作に置いてあるだけであった。

「神事なんて、今更復習しなくても身体が覚えてるし。お守りやおみくじだって新調する必要もないし、後は必要な道具の埃を落とすだけ」
「ああ、霊夢。ほら、そこにぐるぐる巻きの白い布があるから、残念な仙人に拭いて貰えばいいんじゃな――、あいたっ!」
「あなたは私の右腕をなんだと……」

 華仙は服の中に右手を入れて、魔理沙の後頭部をこつん。
 
「それに、さっきからなんなの? 残念、残念と。失礼にもほどがあるのではないかしら。それに山の神社では一生懸命新春の準備をしていたというのに、あなたはどうしてそう努力の一つもしないのか」
「努力したから、残念なんじゃない」
「意味がわからないわ。大体霊夢――」
「はい、これ」

 その後、腕を戻して不機嫌そうに再度腕組みをする。もちろん二人を威圧的に見下ろしながら。そして、くどくどと説教を始めようとすると、霊夢が、気怠そうに息を吐き。
 すっと、コタツの中から作りかけののぼりのようなものを取り出した。
 あとは棒に通すだけ、といったほとんど完成したものを。

「また、右手とかそういうものじゃないでしょうね……」

 過去にのぼりで霊夢に騙された経験のある華仙は、少々警戒しつつ。その赤く染められた縁起モノっぽい布を見下ろした。
 しかし、そこには腕という単語は何処にもない。
 一瞬だけ安堵した華仙であったが、

『博霊神社、新春のふれあい動物パーク!』

 動物、ふれあい。
 神社に関係のなさそうなフレーズの連続に目を見開き。
 その下の部分。

『協賛:仙人』

 宣伝文句の少し下あたりを指差して、霊夢に微笑みを向けた・
 若干口元を引きつらせながら。

「霊夢、これはいったいどういうこと?」
「華仙ってばいろいろめでたそうな動物飼ってるでしょ?」
「めでたそうな動物って……」

 霊夢の身も蓋もない発言で、華仙の顔がさらに強張る。
 それでも霊夢と魔理沙は、落胆した様子で語り続け。
 
「でも、華仙って肝心のやつもってないのよね」
「……」
「そうだぜ。あれだけいてなんで蛇もってないんだろうな」
「……」
「そうよね。やっぱり干支がいないんじゃ始まらないわ。本当に残念」
「……」
『だから、残念な仙人ってこと』
「……ば」

 最後に、声をハモらせて華仙を見上げたときだった。

「馬鹿者ぉぉぉぉっ!!」

 特大の雷が、博麗神社の居間を直撃したのは。





 

「……ですから、髪を下ろすことと他人に頼ることは異なると言うことであって! 最初から他人に頼ろうとするその性根が、巫女として不適切であってですね!」

 雷が落ちてから、1時間後。
 霊夢は居間で正座させられつつ、まだ説教を受けていた。
 魔理沙は雷が落ちた瞬間逃げ出したので、被害者が霊夢一人という。説教を受ける側にとってはなんとも納得出来ない状況ではあった。

「今後、このようなことがないよう! 気に留めておくこと!」

 その苦行も終わり、やっと解放された霊夢は、これ以上何か言われては溜まらないと、そそくさと台所に移動する。
 すると、華仙もそれに付き従うように一緒に台所に入った。

「まだ幾分か、夕食には早いと思いますが?」
「華仙が準備準備ってうるさいからおせち料理用の道具とかを確認しに来たの」
「……ああ、そういえばそういう時期でもあるわね」
「明日はもう大晦日だしね。紫が縁起物の食材をどこかから持ってきてくれるのは良いんだけど、料理は私がしないといけないの」

 しかも、料理はほとんど全部、人じゃなくて妖怪に食べられるけど。
 などと皮肉を付け加えながら、霊夢はてきぱきと調理道具を準備していく。
 蒸し器、鍋、大きなシャモジ等、

「ええ、そうですね。客人を迎え入れ、縁起物のおせちを振る舞う。人間と風習としては素晴らしいことだと思います。己を高めることも、修行の一環ですからね」
「で、その修行大好き仙人さんは、人の家の台所で何をしたいわけ?」
「手助けですよ」
「手助け?」

 漬け物樽を重そうにずりずりと引きずる霊夢の後ろで自慢げに指を立て、

「私の自慢の簡単料理の一つでも教授しようかと」
「へぇ~、いいじゃない。でもいきなり料理を教えるだなんて、どんな風の吹き回しよ」
「今年一年いろいろあったから、私も霊夢に簡単なお礼をしてもいいかなと思ってね。その一貫。おせちに飽きたときの簡単な料理としてね。ほら、材料もここに」

 神社に来たときからどこかに片づけてあったのか。華仙は野菜の入った竹の籠を持ってくると、台所の隅に置いた。

「へぇ、仙人ってまともな食べ物口にするんだ。霞だけ食べてるって印象あったんだけど」

 それを覗き込みながら何気ない発言をする霊夢に、華仙は何故かぴくりっと反応し

「ま、まあ、仙人とは言っても、昔は食べ物が必要だったもの。ほら、えーっと、過去を思い出す修行の中で、料理についても蒸し返すことがあるので、覚えているというわけよ!」
「そんな強調しなくても良いと思うけど」
「……霊夢が変な風に疑うから」
「そう? 疑ったつもりなんてないんだけど」

 本来、仙人なら料理つくらなくてもいいんじゃない?

 たったそれだけ意味の質問で何故かしどろもどろになった華仙。
 それをじーっと眺めていた霊夢は、はっと何かを思いつき。
 腕組みしたまま、身体を左右に揺らす。
 わざとらしく、困ったように眉根を下げて。

「ん~、でもやっぱり信用出来ないな~」
「何故?」
「だって、食べる必要はないけど料理できる。なんて、やっぱり不自然じゃない? 本当は料理の仕方忘れてたりするんじゃない?」
「……私が、料理音痴だと?」
「そこまでは言ってないけど、美味しくない料理を教えて貰っても意味ないし」
「……わかったわ。 私がその料理を作って、あなたに美味しいと言わせてみせる! それで美味しかったら! 調理法を覚えて貰うから!」
「そうね、美味しかったらね~」
「しばらく台所を借りる!」
「はいは~い」

 霊夢はくすくす笑いながら台所を出て、きょろきょろと境内の敷地内を見渡す。
 そして、ちょうど良いタイミングで文が上空を飛んでいるのを見つけ、当たらないように弾幕を放つ。
 すると、それに気付いた文が、表情を輝かせて急速接近。

「霊夢さん! 何か事件ですかっ!」

 瞳を輝かせ、カメラを胸の前に構える。
 しかし、霊夢は手をぱたぱた横に振って。

「ちょっとだけ夕飯が豪勢になりそうだから、暇なヤツ集めて来ても良いわよ。もちろんお酒をお土産にしてくれないと追い返すけど」
「ふむ……、年末の小さな宴会ですか。それもいいですね! 良い記事になりそうです!」
「それじゃ、頼んだわよ~」
「ええ、この射命丸文にお任せを!」

 そうやって文が飛び去っていくのを見送って、残ったつむじ風に身を震わせていると。

「あ……」

 何とも言えない良い香りが、また別の風に乗ってやってくる。
 鼻孔をくすぐるその香ばしい甘辛の匂いだけで、ついついお酒の味を思い出してしまいそうなほど。

「うふ、一食浮いて、お酒も飲める。なんて最高の年末かしらっ!」

 雀酒を飲んでもいないのに小躍りしそう。
 そんな嬉しさまっただ中の霊夢に、

「できたわ!」

 また一つ、嬉しさを運ぶ声が飛んできた。





 それから、数時間後。

「あ、あの伊吹様……お酒を持つの、手伝っていただけると……」
「おーい、れーいむー! きたぞー!」

 縄で固定した酒樽をまるまる3つ、必死で運ぶ文。それと一緒にやってきた小柄な二本角の鬼が、居間の机の上に並んだ料理を見て歓声を上げつつ、飛び込んだ。
 ただ一番乗りしたとしても、いつもは畳の部屋で足を組んで宴会を待つのだが。
 何故か今日は机の上のある料理、華仙が作ってみせた野菜料理に視線を向け。

 ひょいっと。

「あ、こら」

 霊夢の制止を聞かず、おもむろに口に運んだ。
 それを瞳を閉じたまま、一回、二回と噛み締めて。
 伊吹瓢を開け、一気に酒を煽った。
 なんとも幸せそうな、今にもとろけてしまいそうな顔つきで。

「これだよ! これ、やっぱりお酒にはこの料理だよね! 霊夢が作ったの!?」
「ええ、まあ」

 このやりとりを華仙が見ようものなら

『嘘つき』

 と、罵られそうだが、作り方を教わって量を足したので霊夢が作ったことに間違いはない。

「たまに気分を変えて新しい料理に挑戦してみたんだけど」
「おー、そっかー! うん、この味最高! うん、最高……」

 加えて、何故か霊夢の直感が告げていた。
 この場で華仙の名前を口にしてはいけないような。
 そんな微かな予感がしたのだ。

「懐かしい……あの頃を思い出す味だよ……」

 幸せそうなのに、ちょっとだけ寂しそうな。
 いつもと違う小さな鬼。

 霊夢はその背中をぽんぽんっと叩いて、すっとお猪口を差し出した。













 新しい年が始まり、新年の催しで騒がしくなる妖怪の山。
 そのお祝いムードとは線を引いた場所、しんしんと振る雪の音が聞こえそうなほど静まり返った場所。常人では辿り着けない屋敷の中で、一人の白狼天狗が深々と頭を下げていた。
 天狗の上司でもない、ただの仙人であるはずの、華仙に向けて。

「――報告します。年末、年始ともに伊吹様は博麗神社に入り浸っております。その様子は実に楽しげで、心から宴を満喫しているようでした」

 報告内容は、伊吹萃香について。
 天狗であれば過去に山を所有していた鬼についての情報収集は当然といったところだが、

「そうですか。萃香はあの料理を楽しんでいてくれているかしら」
「ええ、酒の肴として誰よりも先に食べ、他の者に渡さない勢いです」
「ふふ、萃香らしいですね。ありがとうございました、白狼天狗の椛さん。こちらはお礼の品です」

 すっと、丁寧に包まれた箱を差し出され、椛はそれをじっと眺めてから。
 華仙と同じように、畳の上を滑らせながら押し返す。

「そのようなお気遣いは無用です。華仙様、いえ、茨木童……」
「華仙」
「は?」

 いきなり強めの口調で会話を切られ、椛が目をしばたたかせていると。
 華仙は、ふぅっと息を吐き。苦笑いをしながら腕を組んだ。

「困った人ですね、あなたが誰と私を勘違いしているのかはわかりませんが、私は仙人。あなたに神社の様子を探るよう依頼したのはあくまでも対等な立場として、それ以上でも、それ以下でも、他の要素が入り込む余地もありません」
「……そう、でした。それでは仙人様。この品はありがたく頂戴致します」

 畳の上で頭を下げ、下手へと下がりフスマを開けようとしたところで、

「……仙人様は宴会に参加しないのですか? 伊吹様の好きな料理を教えたのは自分だ、と。伊吹様がより楽しめるように、わざと博麗の巫女の奇策に乗ったのだと、名乗り出た方がよろしいかと……」

 椛が飛ばした、何気ない言葉。
 しかし、それには確かな感情がこもっていた。

「このままでは、道化を演じた仙人様がないがしろにされかねず……」
「……そうですね、気が向いたら行ってみることにします」
「はいっ、そうしてくれると、先方も喜ぶと思います」

 先方とは、神社の住人を差しているのか。
 それとも、新年の宴会に招かれた誰かか。
 それを暗に示したまま、椛はすっとフスマを閉めた。
 気が向いたら、と。少しだけでも前向きな回答を得て、嬉しそうに。



 対する華仙は、椛の気配が隠れ家から無くなったのを感じ取ってから、



「気が向いたら……ね」

 つぶやきながら、仕事机の上の小さな鏡を手に取った。
 そこには困ったような顔で、それでも何かを期待するように笑う。
 さきほどの自分自身の言葉を噛み締めながら、それでも笑おうとする自分自身が映し出されていた。

「私が、萃香と……」

 肩を並べて、笑顔で語り合う。
 懐かしい料理の前で、酒を酌み交わして……

 笑う。
 笑い合う。
 あの腕を失った忌まわしい過去を忘れ、笑い会える日が来るかもしれない。

「……そういえばこんなコトワザがありましたか」

 そんな幸せな想像を浮かべながらも、華仙は鏡をぱたん、と倒した。
 自嘲するように、愚かな自身を咎めるように、
 疼く右肩を、左手でぎゅっと握りしめ、









「先の話をすると、何が笑うんだったかしらね……」

 遥か彼方に視線だけを飛ばし、
 また、笑った。

 
 
 華仙さんはあの種族であってほしいなぁ、、

 お読みくださりありがとうございました。
 楽しんでいただければ幸いです。

 一部誤字を修正しました(1/20
pys
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コメント



0.1030簡易評価
1.100名前が無い程度の能力削除
華扇の正体が明らかになるのはいつだろう・・・

そう考えながら読ませて頂きました
2.100しゃるどね削除
 楽しくも切なく読ませて頂きました。

 近今のpys氏の作品のなかでは、一番に幻想郷の空気が感じられたと思います。
 例えば霊夢のぐーたらっぷりと華扇の能力の使い方、霊夢謹製の「のぼり」とか。
 弾幕で文に注意を向ける箇所は成る程と思いましたね。
 へんてこな言い回しですが、「幻想郷してるなぁ」と爽やかに読了できました。
 それと「博麗」が「博霊」だったり「一環」が「一貫」だったりする誤字がありました。ご注意を。

 華扇の正体はいかに?!
3.100名前が無い程度の能力削除
果たして公式で再び登場する機会はあるのだろうか…アレの製品版のダルシム枠に期待
4.100名前が無い程度の能力削除
流れも〆も雰囲気も良し
7.80奇声を発する程度の能力削除
雰囲気も良く面白かったです
9.90名前が無い程度の能力削除
切ないけれど素敵な夢
かなえばいいねぇ
12.10名前が無い程度の能力削除
良い物読ませて頂きました。
ただ、博麗→博霊の誤字はどうしても許せませんのでこの点数です。
13.100名前が無い程度の能力削除
こういうお話もいいじゃない
18.80名前が無い程度の能力削除
なんだか良い雰囲気で良かったです
単行本まだかなぁ…
19.90名前が無い程度の能力削除
華仙ちゃん…
22.100名前が無い程度の能力削除
せつない…
29.1003削除
いいなぁ。そうため息が出てしまうようなSSでした。
どうでもいいけど山の上の神社の燃えるゴミって誰が収集しているんでしょうかね。
35.90SPII削除
いいですねぇ
椛が正体を知っているのは新鮮かも
36.80名前が無い程度の能力削除
しっとりした華扇のお話。
原作だと最近ははっちゃけた感じが出てる彼女ですが、
こういう切り取り方ができるのは二次創作ならではです。
37.100南条削除
面白かったです
幻想郷らしい雰囲気が大変素晴らしかったです
38.100名前が無い程度の能力削除
良いお話でした
39.90電動ドリル削除
二柱のお守りを燃やした火、とんでもない何かが付きそう
影からじっと見守る姿は年季を感じますなぁ