ページをめくる音すら響き渡るような静かな図書館の中で、私は一人本を見つめていた。もっとも、本当の意味でただ見つめているだけなのだが。
読書の休憩中に、答えの出ないような取り留めもない事を考えてしまうのは私の悪い癖だ。そう自覚しているはずなのに、私の頭は流れ出す思考を止めてくれない。果たしてこれで休憩になっているのか怪しいものだ。
今考えている事だって、何の為に考える必要があるのかわからない。
しかし、考える理由が存在しない事というのは、進めていくうちに新しい感覚を私に与えてくれる時がある。意味を成さないと思っていたことが何らかの形として実るのは中々興味深く、最近のマイブームは読書の合間にする無駄な思考実験ですと言えるぐらいには面白いものになってきていると言えてしまう。今もその遊びの真っ最中だ。
目の前にある机の上に本が置かれているとする。表紙を見ると自分の知らない題名で、でもどんな本なのかパッと見ではよくわからないとしよう。私ならどうするだろうか?
考えるまでもないことだ。手に取って読むに決まっている。無論、その正体不明の本に物理的な意味で殺されないよう細心の注意を払いながら。
しかし、手に取らずに立ち去ってしまう者もいるだろう。せっかくの機会を不意にしてしまう行動は私には理解できないが、そういう者は確かに存在する。
このように、同じ状況に立たされた場合でもそこに立った者によって結果は変わってくる。それは至極当たり前な事で、別に思い悩んだりすることではない。
考えるのはそのもう一つ先、何故その者はその考えに至ったかだ。
本に対して興味が出るかどうかは、端的に言えばその者がどんな人生を歩んできたかで変わってくる。今まで本とどう接してきたかというのはもちろん大きな要素となるし、ただ気紛れで開くことも開かないこともあるかもしれないという者も、そういう考えに至ることになった生き方をしてきたからだ。
一生とは自分の起こしてきた行動による結果が連続して作られていくものだと考えることができる。
行動には人格が関係し、その人格の形成には身の回りの環境が関与することが多い。その環境による変化の仕方は自分がそれに対してどういう受け取り方をしたのかに左右されて、つまり人格は外因と内因によって産まれ、変化する。
月日が経ち、人格が固まっていくにつれ確固たる自己ができ、人格の変化は減少していく。何か思うところがなければ積極的に変化しようとしなくなってくる。このままで良いと考え始める。変化を完全に止めた時、それはその者が成熟しきったということで、それ以上成長しないという事。
変化をしないと言うのは至極安定することだが、そこに多様性は存在しない。一つの道が真っ直ぐ続いていくだけ。
今の私はどうだろうか。何か変化しようとしているのか? それともこのままで良いと考えてしまっているのだろうか?もう少し、焦点を絞って考えてみよう……
給湯室に入ると、ふと考えてしまうことがある。
今、こうやって紅茶を入れさせて貰えるようになってから、どれぐらい経っただろう?
パチュリー様に召喚されたばかりの頃は失敗してばかりで、全然なんの役にも立ててなかった。やることなすこと全部駄目で、本当にここでやっていけるか毎日心配で。そんな時に言われたんだっけ。せめて紅茶を入れれるようになりなさい、って。
紅茶なんて入れたことが無かったけど、言われたからには頑張ろうと思った。だから毎日たくさん練習した。
お茶の時間になると飲んでもらって、一杯駄目出しされて、でも、前よりは上手ねって言ってくださって。嬉しかった。もっと頑張ろうと思えた。最近あんまり構ってくれなくて寂しいが、それでもパチュリー様の為ならば頑張れる。
そして、あの時の嬉しさは、今では愛しさに変わった。いつしか私はパチュリー様が大好きになってた。
一緒にいればいるほど、パチュリー様の良さがわかるようになってきたのだ。
容姿端麗、痩身、色白。触るだけで壊れそうな細くてサラサラな髪、照れるとツンデレ気味になるところ、ちょっとしたことで体調が悪くなっちゃう病弱なところ、他にも他にも。
掘れば掘るほど出てくるその萌えポイント、もとい長所は私を射殺すのには充分な量だった。
だから、少しぐらい寂しくたってへっちゃらだ。平気なのだ。
そんなわけで、今日も瞳のシャッターで心のフォトアルバムを潤しちゃう所存である。待っててくださいねパチュリー様!
と、色々考えてるうちに図書館に到着した。もはや考えずとも勝手に体が動くこの感覚、我ながらグレートだ。あとは、焦らず騒がず、あまり音を立てないようパチュリー様の元へ馳せ参じるだけ。
「パチュリーさまー!」
いけない、溢れ出すパトスが勝手に体を走らせる! ……まあ、読書中のパチュリー様は周りからの干渉を全く受けないんで大丈夫だろう。私が物凄い勢いで隣に来ても微動だにしていないところがそれを物語っている。
「パチュリー様、紅茶をお持ちしました」
ほら、全く反応しない。いつもの事なのだが、ここまで綺麗にスルーされるとやっぱり少し凹んでしまう。それにしても、自分で紅茶を入れてきてと頼んだのだからこの時ぐらいはしっかりと反応しないといけないんじゃ?
このままではいつまで経っても本から目を離さない。さてどうしようかと考え始める前に、ある事に気付く。
パチュリー様の読んでる本が、いつもの分厚くて地味目な魔道書じゃない。今パチュリー様が手に持ってるのはそれとは対極な、薄くて派手な表紙の本だった。
そういえばこの前、魔理沙さんが拾ったからやると図書館に本を寄贈しててきた事があった。その時はちゃんと見てなかったけど、確かこんな感じの表紙だった気がする。
パチュリー様はいつもと変わらない表情で本を読んでいる。これだけ集中してるという事は、つまらない本では無いということだろう。あの魔理沙さんがくれた本というのが少し気になるので、失礼して横から覗いてみよう。どんな内容なのかな……。
「…………っ!?」
昇天……ペガサスミックス盛り? なんだこれは。どういう事だ。
他にも色々と女の人の写真が見えるが、どれも衝撃的な物ばかりで私の持つ知識の範疇を超えている。どんな考えでこの人達はこんな髪型を?
いや、それよりも。何故パチュリー様はこんな雑誌を真剣に読んでいるのだろう?
「パ……パチュリー様!」
思わず、パチュリー様の肩をゆさぶってしまう。さすがにこれだけ揺らされると集中モードのパチュリー様もこちらに気づかざるを得ないようで、なぜか少し笑いながらこちらを見つめ返してくる。
「戻ってきてたの」
「戻ってきていましたとも。そんなことよりパチュリー様、その本は……」
「あのね、小悪魔。私、変わろうと思うの」
「お気を確かにパチュリー様!」
「くはっ」
ああ、溢れ出すパトスが、熱情が、私の右手を真っ直ぐに突き動かす。わざとじゃないんですパチュリー様。
「大丈夫ですかパチュリー様!」
椅子から転がり落ちたパチュリー様を抱きかかえると、死にそうな目で何かを訴えかけてきた。
「なん……で……」
小さく開けたその口からどうしても伝えたかったのであろうその訴えを搾り出すと、一気に体から力が抜けてしまわれた。
「それで? 何か言い残したいことはある?」
「すいませんでしたぁ……」
従者に派手なダイレクトアタックをくらい、さらに派手な吹っ飛び方をした魔法使いは、ズキズキと痛む側頭部を出来るだけ気にしないようにしながら、顔全体を濡らしながら床に頭を擦り付けている親不孝者にどんな裁きを下そうか迷っていた。
自分と同じように頭をキリキリいじめてあげるのが一番いいかなと考えたが、自分が今日決意したことを不意にしないよう、とりあえず心を落ち着けることにしたようだった。
「……まあいいわ。なんでいきなりあんな事したの?」
パチュリーは自分がいきなり殴られた理由がよくわかっていなかった。訳がわからないうちに殴られ気絶させられるというのは、それをやられる本人からすると恐怖でしかない。
「だって、パチュリー様がペガサスになっちゃうと思って……」
「は? ペガサス?」
小悪魔は自分が何故あのような事をしてしまったかについての理由を話し始める。パチュリーが真剣に奇怪な本を読んでいたのに衝撃を受けたこと、その直後に私は変わる宣言をされたこと、あんな姿になるぐらいならいっそこの手で……と思ったこと。話の途中でパチュリーが呆れ顔になっているのにも気付くことなく、一生懸命に、全てを話した
「全く、困った子ね」
小悪魔の話が終わり、一番最初にパチュリーが発した言葉はとても簡潔なものだった。パチュリーは長いお説教をするタイプでは無いというのを知ってる小悪魔は、第一声にパチュリーが言いたい事や感情が全て凝縮されている事を知っている。なので、そこに怒りが込められていないと言うのが不思議だった。
「ほら。そんなとこにいつまでも伏せてないで、こっちに来て」
言われた通りに立ち上がると、パチュリーの表情がとても穏やかだということが小悪魔にはわかった。それでもパチュリーの手が上がると思わず頭をすくめてしまうのだが、実際には何もされる事なく、さらに意外なことに、頭を撫でられているという状態になった。
何が何だかわからない小悪魔だったが、とても久しぶりの心地いい感触に抗えずに目を細めてしまう。
「私は確かに変わると言ったけど、あんな本に影響されたわけじゃないわ」
話が戻った事に少し緊張した小悪魔だが、パチュリーが頭を撫でる手を止めなかったので気の抜けた相槌を打ってしまう。しかし、パチュリーはそれを咎めることはせずに、逆にその様子に微笑みながら話を続ける。
「そのままでいいから話は聞いてね? ……ああいう本を読むことも成長に繋がるかと思ったけど、あんまりな内容だったから途中で読むのを辞めたわ。確かに本は開いていたけど、考えてたことは別のこと」
「別のこと、ですかぁ」
「そう。ちょっとややこしいから簡単に言うと、生きてる内は少しづつでも変化をつけないといけないのではないか、って話。だから、こうやって」
「あ……」
急に手を止められ、一目でわかるぐらいに名残惜しそうにする小悪魔だったが、そのまま抱きしめられると一瞬でさっきまでより溶けた表情になった。
「たまには誰かに優しくする日を作ってもいいかな、って思ったの。最近あなたに構ってあげてなかったし、ね?」
パチュリーは小悪魔が寂しそうにする瞬間がある事に気付いていて、その理由が最近構ってやれていないからだとわかるのにあまり時間はかからなかった。しかし、だからと言ってベタベタしすぎるのもどうなんだろうと悩んでいたのである。
なので、生活に変化をつけてみようと考えたとき、真っ先に行うことにしたのが小悪魔へのスキンシップだった。
過剰にしすぎると嫌がるかなと懸念していたパチュリーだったが、今の小悪魔の様子を見てそれは考えすぎだったと安心する。
「いつもあなたが図書館の管理をしてくれているのを、最近は当たり前のことだと考えてしまっていた。感謝は行動で示さなくても心で思っておけばいいと。でも、それはちょっと違ってたみたい。寂しそうにしてるあなたに気付いたとき、思い知らされたわ……だから、今日は言うわね。いつもありがとう、小悪魔」
「…………パ、パチュリー様!」
大げさに見えるぐらい嬉し泣きする小悪魔を見て、たまにはこういうのも悪くはないな、と思わずほっこりしてしまうパチュリーだった。
読書の休憩中に、答えの出ないような取り留めもない事を考えてしまうのは私の悪い癖だ。そう自覚しているはずなのに、私の頭は流れ出す思考を止めてくれない。果たしてこれで休憩になっているのか怪しいものだ。
今考えている事だって、何の為に考える必要があるのかわからない。
しかし、考える理由が存在しない事というのは、進めていくうちに新しい感覚を私に与えてくれる時がある。意味を成さないと思っていたことが何らかの形として実るのは中々興味深く、最近のマイブームは読書の合間にする無駄な思考実験ですと言えるぐらいには面白いものになってきていると言えてしまう。今もその遊びの真っ最中だ。
目の前にある机の上に本が置かれているとする。表紙を見ると自分の知らない題名で、でもどんな本なのかパッと見ではよくわからないとしよう。私ならどうするだろうか?
考えるまでもないことだ。手に取って読むに決まっている。無論、その正体不明の本に物理的な意味で殺されないよう細心の注意を払いながら。
しかし、手に取らずに立ち去ってしまう者もいるだろう。せっかくの機会を不意にしてしまう行動は私には理解できないが、そういう者は確かに存在する。
このように、同じ状況に立たされた場合でもそこに立った者によって結果は変わってくる。それは至極当たり前な事で、別に思い悩んだりすることではない。
考えるのはそのもう一つ先、何故その者はその考えに至ったかだ。
本に対して興味が出るかどうかは、端的に言えばその者がどんな人生を歩んできたかで変わってくる。今まで本とどう接してきたかというのはもちろん大きな要素となるし、ただ気紛れで開くことも開かないこともあるかもしれないという者も、そういう考えに至ることになった生き方をしてきたからだ。
一生とは自分の起こしてきた行動による結果が連続して作られていくものだと考えることができる。
行動には人格が関係し、その人格の形成には身の回りの環境が関与することが多い。その環境による変化の仕方は自分がそれに対してどういう受け取り方をしたのかに左右されて、つまり人格は外因と内因によって産まれ、変化する。
月日が経ち、人格が固まっていくにつれ確固たる自己ができ、人格の変化は減少していく。何か思うところがなければ積極的に変化しようとしなくなってくる。このままで良いと考え始める。変化を完全に止めた時、それはその者が成熟しきったということで、それ以上成長しないという事。
変化をしないと言うのは至極安定することだが、そこに多様性は存在しない。一つの道が真っ直ぐ続いていくだけ。
今の私はどうだろうか。何か変化しようとしているのか? それともこのままで良いと考えてしまっているのだろうか?もう少し、焦点を絞って考えてみよう……
給湯室に入ると、ふと考えてしまうことがある。
今、こうやって紅茶を入れさせて貰えるようになってから、どれぐらい経っただろう?
パチュリー様に召喚されたばかりの頃は失敗してばかりで、全然なんの役にも立ててなかった。やることなすこと全部駄目で、本当にここでやっていけるか毎日心配で。そんな時に言われたんだっけ。せめて紅茶を入れれるようになりなさい、って。
紅茶なんて入れたことが無かったけど、言われたからには頑張ろうと思った。だから毎日たくさん練習した。
お茶の時間になると飲んでもらって、一杯駄目出しされて、でも、前よりは上手ねって言ってくださって。嬉しかった。もっと頑張ろうと思えた。最近あんまり構ってくれなくて寂しいが、それでもパチュリー様の為ならば頑張れる。
そして、あの時の嬉しさは、今では愛しさに変わった。いつしか私はパチュリー様が大好きになってた。
一緒にいればいるほど、パチュリー様の良さがわかるようになってきたのだ。
容姿端麗、痩身、色白。触るだけで壊れそうな細くてサラサラな髪、照れるとツンデレ気味になるところ、ちょっとしたことで体調が悪くなっちゃう病弱なところ、他にも他にも。
掘れば掘るほど出てくるその萌えポイント、もとい長所は私を射殺すのには充分な量だった。
だから、少しぐらい寂しくたってへっちゃらだ。平気なのだ。
そんなわけで、今日も瞳のシャッターで心のフォトアルバムを潤しちゃう所存である。待っててくださいねパチュリー様!
と、色々考えてるうちに図書館に到着した。もはや考えずとも勝手に体が動くこの感覚、我ながらグレートだ。あとは、焦らず騒がず、あまり音を立てないようパチュリー様の元へ馳せ参じるだけ。
「パチュリーさまー!」
いけない、溢れ出すパトスが勝手に体を走らせる! ……まあ、読書中のパチュリー様は周りからの干渉を全く受けないんで大丈夫だろう。私が物凄い勢いで隣に来ても微動だにしていないところがそれを物語っている。
「パチュリー様、紅茶をお持ちしました」
ほら、全く反応しない。いつもの事なのだが、ここまで綺麗にスルーされるとやっぱり少し凹んでしまう。それにしても、自分で紅茶を入れてきてと頼んだのだからこの時ぐらいはしっかりと反応しないといけないんじゃ?
このままではいつまで経っても本から目を離さない。さてどうしようかと考え始める前に、ある事に気付く。
パチュリー様の読んでる本が、いつもの分厚くて地味目な魔道書じゃない。今パチュリー様が手に持ってるのはそれとは対極な、薄くて派手な表紙の本だった。
そういえばこの前、魔理沙さんが拾ったからやると図書館に本を寄贈しててきた事があった。その時はちゃんと見てなかったけど、確かこんな感じの表紙だった気がする。
パチュリー様はいつもと変わらない表情で本を読んでいる。これだけ集中してるという事は、つまらない本では無いということだろう。あの魔理沙さんがくれた本というのが少し気になるので、失礼して横から覗いてみよう。どんな内容なのかな……。
「…………っ!?」
昇天……ペガサスミックス盛り? なんだこれは。どういう事だ。
他にも色々と女の人の写真が見えるが、どれも衝撃的な物ばかりで私の持つ知識の範疇を超えている。どんな考えでこの人達はこんな髪型を?
いや、それよりも。何故パチュリー様はこんな雑誌を真剣に読んでいるのだろう?
「パ……パチュリー様!」
思わず、パチュリー様の肩をゆさぶってしまう。さすがにこれだけ揺らされると集中モードのパチュリー様もこちらに気づかざるを得ないようで、なぜか少し笑いながらこちらを見つめ返してくる。
「戻ってきてたの」
「戻ってきていましたとも。そんなことよりパチュリー様、その本は……」
「あのね、小悪魔。私、変わろうと思うの」
「お気を確かにパチュリー様!」
「くはっ」
ああ、溢れ出すパトスが、熱情が、私の右手を真っ直ぐに突き動かす。わざとじゃないんですパチュリー様。
「大丈夫ですかパチュリー様!」
椅子から転がり落ちたパチュリー様を抱きかかえると、死にそうな目で何かを訴えかけてきた。
「なん……で……」
小さく開けたその口からどうしても伝えたかったのであろうその訴えを搾り出すと、一気に体から力が抜けてしまわれた。
「それで? 何か言い残したいことはある?」
「すいませんでしたぁ……」
従者に派手なダイレクトアタックをくらい、さらに派手な吹っ飛び方をした魔法使いは、ズキズキと痛む側頭部を出来るだけ気にしないようにしながら、顔全体を濡らしながら床に頭を擦り付けている親不孝者にどんな裁きを下そうか迷っていた。
自分と同じように頭をキリキリいじめてあげるのが一番いいかなと考えたが、自分が今日決意したことを不意にしないよう、とりあえず心を落ち着けることにしたようだった。
「……まあいいわ。なんでいきなりあんな事したの?」
パチュリーは自分がいきなり殴られた理由がよくわかっていなかった。訳がわからないうちに殴られ気絶させられるというのは、それをやられる本人からすると恐怖でしかない。
「だって、パチュリー様がペガサスになっちゃうと思って……」
「は? ペガサス?」
小悪魔は自分が何故あのような事をしてしまったかについての理由を話し始める。パチュリーが真剣に奇怪な本を読んでいたのに衝撃を受けたこと、その直後に私は変わる宣言をされたこと、あんな姿になるぐらいならいっそこの手で……と思ったこと。話の途中でパチュリーが呆れ顔になっているのにも気付くことなく、一生懸命に、全てを話した
「全く、困った子ね」
小悪魔の話が終わり、一番最初にパチュリーが発した言葉はとても簡潔なものだった。パチュリーは長いお説教をするタイプでは無いというのを知ってる小悪魔は、第一声にパチュリーが言いたい事や感情が全て凝縮されている事を知っている。なので、そこに怒りが込められていないと言うのが不思議だった。
「ほら。そんなとこにいつまでも伏せてないで、こっちに来て」
言われた通りに立ち上がると、パチュリーの表情がとても穏やかだということが小悪魔にはわかった。それでもパチュリーの手が上がると思わず頭をすくめてしまうのだが、実際には何もされる事なく、さらに意外なことに、頭を撫でられているという状態になった。
何が何だかわからない小悪魔だったが、とても久しぶりの心地いい感触に抗えずに目を細めてしまう。
「私は確かに変わると言ったけど、あんな本に影響されたわけじゃないわ」
話が戻った事に少し緊張した小悪魔だが、パチュリーが頭を撫でる手を止めなかったので気の抜けた相槌を打ってしまう。しかし、パチュリーはそれを咎めることはせずに、逆にその様子に微笑みながら話を続ける。
「そのままでいいから話は聞いてね? ……ああいう本を読むことも成長に繋がるかと思ったけど、あんまりな内容だったから途中で読むのを辞めたわ。確かに本は開いていたけど、考えてたことは別のこと」
「別のこと、ですかぁ」
「そう。ちょっとややこしいから簡単に言うと、生きてる内は少しづつでも変化をつけないといけないのではないか、って話。だから、こうやって」
「あ……」
急に手を止められ、一目でわかるぐらいに名残惜しそうにする小悪魔だったが、そのまま抱きしめられると一瞬でさっきまでより溶けた表情になった。
「たまには誰かに優しくする日を作ってもいいかな、って思ったの。最近あなたに構ってあげてなかったし、ね?」
パチュリーは小悪魔が寂しそうにする瞬間がある事に気付いていて、その理由が最近構ってやれていないからだとわかるのにあまり時間はかからなかった。しかし、だからと言ってベタベタしすぎるのもどうなんだろうと悩んでいたのである。
なので、生活に変化をつけてみようと考えたとき、真っ先に行うことにしたのが小悪魔へのスキンシップだった。
過剰にしすぎると嫌がるかなと懸念していたパチュリーだったが、今の小悪魔の様子を見てそれは考えすぎだったと安心する。
「いつもあなたが図書館の管理をしてくれているのを、最近は当たり前のことだと考えてしまっていた。感謝は行動で示さなくても心で思っておけばいいと。でも、それはちょっと違ってたみたい。寂しそうにしてるあなたに気付いたとき、思い知らされたわ……だから、今日は言うわね。いつもありがとう、小悪魔」
「…………パ、パチュリー様!」
大げさに見えるぐらい嬉し泣きする小悪魔を見て、たまにはこういうのも悪くはないな、と思わずほっこりしてしまうパチュリーだった。
少しアッサリ気味なのと言い回しが気になった(誤字脱字の域ではないです)のでこの点数で
いい作品だ!
パチェのペガサス盛りを見てみたいなー(チラッ
でもほんのり甘くてほっこりできたのでこの点数で