昼過ぎ。昼食後の食休みに、ペット達とのんびりしていた。
膝の上には飼い猫の燐が丸くなる。
さらさらの毛並み、毎日ブラッシングしている甲斐がある。
全てのペット達に毎日ご飯をあげて、ブラッシングして、遊んであげる。数も多くなかなか大変たが、可愛いペット達のためだ、飼い主としてきちんとこなす。
その分灼熱地獄の管理をすっぽかしているが、ペット達の可愛さの前では子細な問題である。最近は燐たちがやってくれているようだし。
しばらくなでなでもふもふしていると、ある事実に気付く。
これは、言うべきか言わざるべきか。燐も女の子だ。言うと傷つくかもしれない。しかし飼い主としてペットの体調管理には万全を期すべきだ。よし、すこしオブラートに包んで……
「燐?」
「にゃーん?」
「あなた…… 太りました?」
さとりとダイエット
ぽふん。燐が人化する。
膝の上で人化されると重いのですが。
「あ、あたいがどうやって太ったっていう証拠だよ!?」
混乱して日本語がおかしくなる燐。そんなに衝撃的だったのでしょうか。多少オブラートに包んだつもりなんですが。
ぽふん。私の肩でうとうとしていた空も人化する。燐の声に驚いたようだ。
「な、何事!? ゆでたまご!?」
空に押し倒される。顔が柔らかいもので包まれる。
ああ、空。成長しましたね。わたしにもちょっとその胸の脂肪を分けてくれないかしら。ぱるぱる。
「空、大丈夫ですよ。ちょっと退いてもらえると助かります。流石に重いです」
「あっ、ごめんなさい」
「あたいが太ったと? そ、そんにゃわけにゃいじゃにゃいですか!」
どうやら「太った?」は燐にとってトラウマだったようだ。慌てすぎてかみまくりだ。
「今膝に乗せていた感じが、前より重くなった気がしたので」
「そうだね、お燐ちょっと丸くなったかも」
「そ、そういうさとり様だって、太ってません!? あたい的には太ももの柔らかさが当社比50%アップしてるんですが!」
な、なんですって…… 私が太った?
「そそそそんなわけないじゃないですか」
「そうだねー、ほっぺたふっくらしてるし明らかに太ったよね、お姉ちゃん」
「こいし! いきなり現れてその一言は傷つきます!」
「でもさ~、このお腹、軽くやばくない?」
いきなり現れたこいしにお腹を摘まれる。
スカートがきつくなった現実に目をつぶっていたのに……
「お燐もお空も、ちょっと丸くなったかもしれないね。正月にお餅食べ過ぎたんじゃない?」
「うにゅぅ、ふとったかなぁ」
「にゃーん」
「そういうこいしはどうなのよ?」
「太った! あのお餅美味しかったもんねぇ。食べ過ぎちゃったよ」
満面の笑みでそう宣言する。
通年は地底の適当な店でお餅を買ってくるのだが、今年は永遠亭で作られるウサギ印のお餅が美味しいという噂を聞いたので、スキマ通販で大量に仕入れたのだ。
価格はそれなり高かったが、評判通り味は非常に良かった。みんなで山のように食べたのがやっぱりまずかったか。
「ということでダイエットしよう!」
「うにゅっ! 頑張るよ!」
「にゃーん! 本当のあたい、デビューするよ!」
「ちょっと運動は…… 女の子は少しぽっちゃりしてたほうが健康にもいいんですよ?」
できたら余り動きたくないんですが。疲れますし。
「そんなこと言ってると、古明地さとりから、古明地ふとりになっちゃうよ」
こいしが「上手いこと言った!」という顔でこっちを見てくる。
誰がうまいこと言えと言った……
「大丈夫ですよ、そんなに太る訳ありません」
このままここにいると、否応なしにこの子たちのダイエットに付き合わされそうだ。さっさと部屋に帰ろう。
燐と空を横に置き、よっこらしょと立ち上がる。
ぶちっ!
……ぶちっ? なんか変な音しませんでした?
周りを見渡す。燐も空もこいしも私の方を見ている。
「さとり様…… パンツ丸見えですよ……?」
へっ!?
下を見る。スカートがずり落ちている。さっきの音は、スカートのボタンがはじけ飛んだ音らしい。
「ボタンが弱ってたみたいですね」
「お姉ちゃん、現実を認めて素直にダイエットしよう?」
現実から目を背けることは許されないようだ。
---
「ということで、第一回、地霊殿痩身会議、始めるよー!」
「うにゅっ!」
「にゃぁい!」
テンションの高い妹とペット達。私のやる気と反比例している。
こいしがどこからか持ってきた体操着とブルマに着替えて、やる気満々である。
「それで、何をやるんです? リンゴダイエットとか?」
「偏食すると胸から痩せるらしいよ、お姉ちゃん」
「なんですと……?」
これ以上胸が減ったら、平らどころかえぐれてしまう気がする。少女的に、それは一大事だ。
そうすると食事系はNGか。量を減らすという選択肢もあるが、私はまだしも肉体労働のペット達には辛すぎるだろう。
「はい、こいし様!」
「はい、お燐。なにかいい案でも?」
燐が自信満々に手を挙げる。なにかいい考えでもあるのだろうか。
「サナダムシダイエットがいいと思います!」
なんか非常に嫌な予感のするものが出てきました。
「サナダムシダイエット?」
「寄生虫のサナダムシをですね、こう、飲み込んでですね。腸で飼うことによって痩せるそうですよ!」
瓶に入ったウニョウニョした白い紐をどんっと出してくる。
案の定凄まじすぎるダイエット案だった。そういえば、私の読心ってサナダムシとかの声も聞こえたりするんですかね?
お腹の中から心の声、うわぁ、嫌すぎる。
「それはなんというか、ちょっと斬新過ぎない……?」
「最新鋭の科学に基づいたダイエットです!」
さすがにそれはないと思う。燐は誰に騙されたのだろう。
「痩せたらどうするんですか?」
「薬で一網打尽にするそうです」
「……つまりそれって全部死骸が出てくるってことだよね。あそこから」
「……うわぁ、それはグロ指定だよ…… お燐……」
空もこいしもドン引きだ。
「えー、だめですかー。簡単そうですが」
「少女的に却下ね。寄生虫ひり出すなんて許容されるわけ無いよ。それに体に悪そうだし」
「うーん、ならしょうがないにゃぁ」
諦めてくれたようだ。ゴソゴソと瓶をしまう燐。
中に入ったウニョウニョした白い紐は見なかったことにしよう。
---
「はい、こいし様!」
「はい、お空。なにかいい案が?」
続いて空がやはり自信満々に手を挙げる。今度こそ良い意見が出るだろうか。
「脂肪燃焼ダイエットとかどうでしょうか?」
「おお、なんか良さげな名前。具体的には?」
「核融合の熱で脂肪を燃やします」
またよくわからない意見が出てきた。どういうことなんだろう。核の力を使用するとカロリーを消費するとかかしら?
でも、それは空にしかできないし……
「えーっと、どうやって燃やすの?」
「私がメガフレアを使って、みんなの脂肪を燃やします!」
満面の笑みでそう宣言する空。
ああ、これは『燃やす』を、『カロリーを消費する』という比喩ではなく、『化学反応として燃やす』と勘違いしているようだ。
「空、脂肪を燃やすというのは、火をつけて燃やすという意味ではなく、運動して消費するという意味ですよ」
勘違いでメガフレアをされたらたまらない。か弱い私など一瞬にして消し炭にされてしまう。
「ええ! そうなんだ~ 太陽の力で燃やせば、手っ取り早く減るのかと思ったのに」
「そんなのされたらみんな消し炭になっちゃうよ!」
「うにゅぅ……」
よっぽど自信がある意見だったのだろうか。目に見えて落ち込む空。
でもさすがに火を付けられたくないですし、この意見も却下です。
---
「うーん、お姉ちゃん、なにかいい案ない?」
私にお鉢が回ってきたようだ。ふむ、じゃああれをだしましょうか。
スキマ通販のカタログを出す。
「この痩せる薬とかどうでしょう?」
「また怪しいのが来た!」
「怪しいとは失礼な。この永遠亭印のダイエット薬ですよ」
お餅も美味しかったですし、信用できるんじゃないですかね。
「こんなの絶対嘘に決まってるじゃん!」
「ちゃんと兎さんを使った実験結果が出てますし、本当だとおもいますよ」
耳がへにょった可愛らしいウサギさんが、両手でピースしている写真が載っている。
そういえば、うちのペットにウサギさんいないんですよね。今度地上から連れてきましょうか。
「第一、このキャッチコピーおかしいでしょ! 『一粒で50kg痩せます』ってお姉ちゃんなくなっちゃうよ! 本当だった時のほうが怖いよ!」
たしかに50kgも痩せたら、体重マイナスになっちゃいますね。
マイナスになったらどうなるんでしょう? 幽霊にでもなるんですかね?
「でもー」
「デモもストライキもないよ! 薬、ダメ! 絶対!」
却下されてしまいました。残念。
---
「それで、こいしはなにかいい案あるんですか?」
「うーん、無難なのしか知らないけど、いくつかあるよ?」
こいしはただ単に却下していただけではなく、いくつか腹案があるようだ。
「例えば?」
「ラジオ体操ダイエットとか」
「らじお体操?」
『らじお』ですか。初めて聞く名前ですね。
「ラジオっていうのはね、遠くの音が聞こえるようになる機械だよ。前に河童さんに見せてもらったけど不思議な機械だったよ」
「私も聞いたことがあります! 『八坂様を崇めよ』とか延々と流れてくる機械ですよね!」
え、洗脳音声が流れてくるんですか? それはかなり怖いですが……
「体操してると洗脳されたりしませんよね?」
「お空の情報かなり偏ってるから。どちらかと言うと、この前の異変の時に霊夢さんが使ってた陰陽玉に近い感じだよ。一方通行だけど」
なるほど。単に遠くに音を伝えるだけと。イマイチ使い方がわかりませんが、そういうものがあることはわかりました。
「外の世界には、ラジオの音に合わせてやる体操があるんだって。それがラジオ体操。お年寄りから子供まで出来る体操として、知らない人はいないぐらい大人気らしいよ」
「それはすごい体操ですね」
「一回5分ぐらいの短い体操なんだけど、毎日やると痩せるんだって」
短いというのは素晴らしいですね。お年寄りが出来る体操ならそんなに激しくないでしょう。余り疲れることはしたくないですし。
「危ないことも無さそうですし、それをやってみましょうか。それでやり方は分かるんですか?」
「一応早苗さんからやり方教わったし、お空も守矢神社でよくやってるから大丈夫だと思うよ」
「ああ、あの仕事の前にやるやつですか! あれなら大丈夫ですよ。簡単ですし」
「それじゃあ早速やってみようよ!」
「え、今からですか?」
「そうそう、善は急げということで」
「明日からじゃあダメですか?」
「先送りしないの。はい、お燐もお空もいくよ!」
「うにゅっ!」
「にゃーん!」
ペット達もやる気満々ですし、逃げられないようだ。
仕方ない、付き合うとしましょう。
---
ちゃーんちゃらちゃらちゃら♪ ちゃーんちゃらちゃらちゃら♪
蓄音機から軽快な音楽が流れる。
「レコードまで準備できてるなんて、準備いいですね」
「健康にいいらしいから、そのうちやろうかと思って買っておいたんだ。みんなでやるのも楽しそうだし」
「なるほど、さて、最初はどうするんです?」
「背伸びの運動です!」
空が見本を見せてくれる。
腕を前から上にあげて、横から下ろすと。背伸びならば、伸びるようにやるほうがいいんでしょうね。
「それじゃあよっこらせっと」
勢い良く腕を振り上げる。
ぐきっ!!
な、なんか脇腹から嫌な音がしたんですが……
「今なにか変な音しませんでした?」
「うん、したね……」
みんながこちらを見る。
ええ、私の脇腹が音の発信源ですよ?
「い」
「い?」
「いったぁぁぁぁあああ!」
手を上げた状態で横にバタッと倒れる。脇腹に激痛が走る。痛すぎて息ができない。
「さとりさまぁ!?」
「ちょ、ちょっと、お姉ちゃん!? だいじょうぶ!?」
「あううう」
すごく痛いです。全く大丈夫じゃありません。涙が出てきた。本気で痛い。
「ちょ、どどどどうしよう!」
「ひ、ひとまずお医者さんに連れて行かないと! お燐、お姉ちゃんを運ぶよ!」
「は、はいっ!」
担ぎあげられ、燐の猫車に乗せられる。
「医者はどこだぁぁぁ!!」
「が、がふっ!」
「さとりさまぁ!?」
「しっかりしてお姉ちゃん!」
すごい勢いで発信する猫車。その振動が脇腹に響く。凄まじく痛い。
燐の運転により、とんでもない勢いで私は医者に担ぎ込まれたのであった。
---
「軽い肉離れだね」
「肉離れってなに!? さとり様は助かるの!?」
ひとまず連れて来られた黒谷ヤマメのお家。
「単に脇腹の筋肉を痛めてるだけよ、二三日寝てれば治るんじゃない」
まあ、感染症関連じゃないから私の専門ではないけどね。投げやりにヤマメさんは言う。
「ざどりざまぁぁ」
安心したのか、泣きながら抱きついてくるペット達。
こんなに思ってもらえるのは飼い主冥利に尽きるのですが、抱きつかれると脇腹が非常に痛いのでちょっと遠慮してもらえないですかね?
「というか脇腹を肉離れなんて何やったのよ? 弾幕ごっこでよっぽど変な避け方でもしたの?」
「いえ、ちょっと体操をして伸びをしたらなりました」
「はい?」
「伸びしたらなりました」
「それで肉離れとか、どれだけ貧弱なのよ……」
呆れるヤマメさん。私の虚弱っぷりは半端ないですからね。
「もうムリしないで、ひとまず歩行器つけて歩く練習からはじめたほうがいいよ」
「どこの介護ですか!?」
「その辺の老人介護よりよっぽど面倒よ、あなた」
「私もまさかお姉ちゃんがここまで貧弱だとは思わなかったよ……」
そこまでけちょんけちょんに言われると、さすがに傷つくのですが。
「ほんと、毎日少しでも散歩とか運動させなさい。あなた達、甘やかしすぎよ」
「私が責任をもって管理します……」
神妙に答えるこいし。妹に管理される姉ってどうなのかしら……
「ま、湿布は貼っておいたし、安静にしてたらすぐ治るでしょ。治ったら柔軟体操から始めるといいと思うわ」
「はい、お世話になりました」
「それじゃあ帰るよ、あれ、お燐とお空は?」
「泣きつかれて寝てしまいました」
動物の状態になって膝の上で眠る燐と空。よっぽど心配してくれたのか、泣くだけ泣いたら眠ってしまいました。
「仕方ないね、猫車は私がおしますか」
「できたらゆっくりでお願いします。脇腹に響くので……」
「はいはい。それじゃあヤマメちゃん、ありがとうね」
「おだいじに」
こいしの押す猫車で、私たちはのんびりと地霊殿まで帰宅するのでした。
膝の上には飼い猫の燐が丸くなる。
さらさらの毛並み、毎日ブラッシングしている甲斐がある。
全てのペット達に毎日ご飯をあげて、ブラッシングして、遊んであげる。数も多くなかなか大変たが、可愛いペット達のためだ、飼い主としてきちんとこなす。
その分灼熱地獄の管理をすっぽかしているが、ペット達の可愛さの前では子細な問題である。最近は燐たちがやってくれているようだし。
しばらくなでなでもふもふしていると、ある事実に気付く。
これは、言うべきか言わざるべきか。燐も女の子だ。言うと傷つくかもしれない。しかし飼い主としてペットの体調管理には万全を期すべきだ。よし、すこしオブラートに包んで……
「燐?」
「にゃーん?」
「あなた…… 太りました?」
さとりとダイエット
ぽふん。燐が人化する。
膝の上で人化されると重いのですが。
「あ、あたいがどうやって太ったっていう証拠だよ!?」
混乱して日本語がおかしくなる燐。そんなに衝撃的だったのでしょうか。多少オブラートに包んだつもりなんですが。
ぽふん。私の肩でうとうとしていた空も人化する。燐の声に驚いたようだ。
「な、何事!? ゆでたまご!?」
空に押し倒される。顔が柔らかいもので包まれる。
ああ、空。成長しましたね。わたしにもちょっとその胸の脂肪を分けてくれないかしら。ぱるぱる。
「空、大丈夫ですよ。ちょっと退いてもらえると助かります。流石に重いです」
「あっ、ごめんなさい」
「あたいが太ったと? そ、そんにゃわけにゃいじゃにゃいですか!」
どうやら「太った?」は燐にとってトラウマだったようだ。慌てすぎてかみまくりだ。
「今膝に乗せていた感じが、前より重くなった気がしたので」
「そうだね、お燐ちょっと丸くなったかも」
「そ、そういうさとり様だって、太ってません!? あたい的には太ももの柔らかさが当社比50%アップしてるんですが!」
な、なんですって…… 私が太った?
「そそそそんなわけないじゃないですか」
「そうだねー、ほっぺたふっくらしてるし明らかに太ったよね、お姉ちゃん」
「こいし! いきなり現れてその一言は傷つきます!」
「でもさ~、このお腹、軽くやばくない?」
いきなり現れたこいしにお腹を摘まれる。
スカートがきつくなった現実に目をつぶっていたのに……
「お燐もお空も、ちょっと丸くなったかもしれないね。正月にお餅食べ過ぎたんじゃない?」
「うにゅぅ、ふとったかなぁ」
「にゃーん」
「そういうこいしはどうなのよ?」
「太った! あのお餅美味しかったもんねぇ。食べ過ぎちゃったよ」
満面の笑みでそう宣言する。
通年は地底の適当な店でお餅を買ってくるのだが、今年は永遠亭で作られるウサギ印のお餅が美味しいという噂を聞いたので、スキマ通販で大量に仕入れたのだ。
価格はそれなり高かったが、評判通り味は非常に良かった。みんなで山のように食べたのがやっぱりまずかったか。
「ということでダイエットしよう!」
「うにゅっ! 頑張るよ!」
「にゃーん! 本当のあたい、デビューするよ!」
「ちょっと運動は…… 女の子は少しぽっちゃりしてたほうが健康にもいいんですよ?」
できたら余り動きたくないんですが。疲れますし。
「そんなこと言ってると、古明地さとりから、古明地ふとりになっちゃうよ」
こいしが「上手いこと言った!」という顔でこっちを見てくる。
誰がうまいこと言えと言った……
「大丈夫ですよ、そんなに太る訳ありません」
このままここにいると、否応なしにこの子たちのダイエットに付き合わされそうだ。さっさと部屋に帰ろう。
燐と空を横に置き、よっこらしょと立ち上がる。
ぶちっ!
……ぶちっ? なんか変な音しませんでした?
周りを見渡す。燐も空もこいしも私の方を見ている。
「さとり様…… パンツ丸見えですよ……?」
へっ!?
下を見る。スカートがずり落ちている。さっきの音は、スカートのボタンがはじけ飛んだ音らしい。
「ボタンが弱ってたみたいですね」
「お姉ちゃん、現実を認めて素直にダイエットしよう?」
現実から目を背けることは許されないようだ。
---
「ということで、第一回、地霊殿痩身会議、始めるよー!」
「うにゅっ!」
「にゃぁい!」
テンションの高い妹とペット達。私のやる気と反比例している。
こいしがどこからか持ってきた体操着とブルマに着替えて、やる気満々である。
「それで、何をやるんです? リンゴダイエットとか?」
「偏食すると胸から痩せるらしいよ、お姉ちゃん」
「なんですと……?」
これ以上胸が減ったら、平らどころかえぐれてしまう気がする。少女的に、それは一大事だ。
そうすると食事系はNGか。量を減らすという選択肢もあるが、私はまだしも肉体労働のペット達には辛すぎるだろう。
「はい、こいし様!」
「はい、お燐。なにかいい案でも?」
燐が自信満々に手を挙げる。なにかいい考えでもあるのだろうか。
「サナダムシダイエットがいいと思います!」
なんか非常に嫌な予感のするものが出てきました。
「サナダムシダイエット?」
「寄生虫のサナダムシをですね、こう、飲み込んでですね。腸で飼うことによって痩せるそうですよ!」
瓶に入ったウニョウニョした白い紐をどんっと出してくる。
案の定凄まじすぎるダイエット案だった。そういえば、私の読心ってサナダムシとかの声も聞こえたりするんですかね?
お腹の中から心の声、うわぁ、嫌すぎる。
「それはなんというか、ちょっと斬新過ぎない……?」
「最新鋭の科学に基づいたダイエットです!」
さすがにそれはないと思う。燐は誰に騙されたのだろう。
「痩せたらどうするんですか?」
「薬で一網打尽にするそうです」
「……つまりそれって全部死骸が出てくるってことだよね。あそこから」
「……うわぁ、それはグロ指定だよ…… お燐……」
空もこいしもドン引きだ。
「えー、だめですかー。簡単そうですが」
「少女的に却下ね。寄生虫ひり出すなんて許容されるわけ無いよ。それに体に悪そうだし」
「うーん、ならしょうがないにゃぁ」
諦めてくれたようだ。ゴソゴソと瓶をしまう燐。
中に入ったウニョウニョした白い紐は見なかったことにしよう。
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「はい、こいし様!」
「はい、お空。なにかいい案が?」
続いて空がやはり自信満々に手を挙げる。今度こそ良い意見が出るだろうか。
「脂肪燃焼ダイエットとかどうでしょうか?」
「おお、なんか良さげな名前。具体的には?」
「核融合の熱で脂肪を燃やします」
またよくわからない意見が出てきた。どういうことなんだろう。核の力を使用するとカロリーを消費するとかかしら?
でも、それは空にしかできないし……
「えーっと、どうやって燃やすの?」
「私がメガフレアを使って、みんなの脂肪を燃やします!」
満面の笑みでそう宣言する空。
ああ、これは『燃やす』を、『カロリーを消費する』という比喩ではなく、『化学反応として燃やす』と勘違いしているようだ。
「空、脂肪を燃やすというのは、火をつけて燃やすという意味ではなく、運動して消費するという意味ですよ」
勘違いでメガフレアをされたらたまらない。か弱い私など一瞬にして消し炭にされてしまう。
「ええ! そうなんだ~ 太陽の力で燃やせば、手っ取り早く減るのかと思ったのに」
「そんなのされたらみんな消し炭になっちゃうよ!」
「うにゅぅ……」
よっぽど自信がある意見だったのだろうか。目に見えて落ち込む空。
でもさすがに火を付けられたくないですし、この意見も却下です。
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「うーん、お姉ちゃん、なにかいい案ない?」
私にお鉢が回ってきたようだ。ふむ、じゃああれをだしましょうか。
スキマ通販のカタログを出す。
「この痩せる薬とかどうでしょう?」
「また怪しいのが来た!」
「怪しいとは失礼な。この永遠亭印のダイエット薬ですよ」
お餅も美味しかったですし、信用できるんじゃないですかね。
「こんなの絶対嘘に決まってるじゃん!」
「ちゃんと兎さんを使った実験結果が出てますし、本当だとおもいますよ」
耳がへにょった可愛らしいウサギさんが、両手でピースしている写真が載っている。
そういえば、うちのペットにウサギさんいないんですよね。今度地上から連れてきましょうか。
「第一、このキャッチコピーおかしいでしょ! 『一粒で50kg痩せます』ってお姉ちゃんなくなっちゃうよ! 本当だった時のほうが怖いよ!」
たしかに50kgも痩せたら、体重マイナスになっちゃいますね。
マイナスになったらどうなるんでしょう? 幽霊にでもなるんですかね?
「でもー」
「デモもストライキもないよ! 薬、ダメ! 絶対!」
却下されてしまいました。残念。
---
「それで、こいしはなにかいい案あるんですか?」
「うーん、無難なのしか知らないけど、いくつかあるよ?」
こいしはただ単に却下していただけではなく、いくつか腹案があるようだ。
「例えば?」
「ラジオ体操ダイエットとか」
「らじお体操?」
『らじお』ですか。初めて聞く名前ですね。
「ラジオっていうのはね、遠くの音が聞こえるようになる機械だよ。前に河童さんに見せてもらったけど不思議な機械だったよ」
「私も聞いたことがあります! 『八坂様を崇めよ』とか延々と流れてくる機械ですよね!」
え、洗脳音声が流れてくるんですか? それはかなり怖いですが……
「体操してると洗脳されたりしませんよね?」
「お空の情報かなり偏ってるから。どちらかと言うと、この前の異変の時に霊夢さんが使ってた陰陽玉に近い感じだよ。一方通行だけど」
なるほど。単に遠くに音を伝えるだけと。イマイチ使い方がわかりませんが、そういうものがあることはわかりました。
「外の世界には、ラジオの音に合わせてやる体操があるんだって。それがラジオ体操。お年寄りから子供まで出来る体操として、知らない人はいないぐらい大人気らしいよ」
「それはすごい体操ですね」
「一回5分ぐらいの短い体操なんだけど、毎日やると痩せるんだって」
短いというのは素晴らしいですね。お年寄りが出来る体操ならそんなに激しくないでしょう。余り疲れることはしたくないですし。
「危ないことも無さそうですし、それをやってみましょうか。それでやり方は分かるんですか?」
「一応早苗さんからやり方教わったし、お空も守矢神社でよくやってるから大丈夫だと思うよ」
「ああ、あの仕事の前にやるやつですか! あれなら大丈夫ですよ。簡単ですし」
「それじゃあ早速やってみようよ!」
「え、今からですか?」
「そうそう、善は急げということで」
「明日からじゃあダメですか?」
「先送りしないの。はい、お燐もお空もいくよ!」
「うにゅっ!」
「にゃーん!」
ペット達もやる気満々ですし、逃げられないようだ。
仕方ない、付き合うとしましょう。
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ちゃーんちゃらちゃらちゃら♪ ちゃーんちゃらちゃらちゃら♪
蓄音機から軽快な音楽が流れる。
「レコードまで準備できてるなんて、準備いいですね」
「健康にいいらしいから、そのうちやろうかと思って買っておいたんだ。みんなでやるのも楽しそうだし」
「なるほど、さて、最初はどうするんです?」
「背伸びの運動です!」
空が見本を見せてくれる。
腕を前から上にあげて、横から下ろすと。背伸びならば、伸びるようにやるほうがいいんでしょうね。
「それじゃあよっこらせっと」
勢い良く腕を振り上げる。
ぐきっ!!
な、なんか脇腹から嫌な音がしたんですが……
「今なにか変な音しませんでした?」
「うん、したね……」
みんながこちらを見る。
ええ、私の脇腹が音の発信源ですよ?
「い」
「い?」
「いったぁぁぁぁあああ!」
手を上げた状態で横にバタッと倒れる。脇腹に激痛が走る。痛すぎて息ができない。
「さとりさまぁ!?」
「ちょ、ちょっと、お姉ちゃん!? だいじょうぶ!?」
「あううう」
すごく痛いです。全く大丈夫じゃありません。涙が出てきた。本気で痛い。
「ちょ、どどどどうしよう!」
「ひ、ひとまずお医者さんに連れて行かないと! お燐、お姉ちゃんを運ぶよ!」
「は、はいっ!」
担ぎあげられ、燐の猫車に乗せられる。
「医者はどこだぁぁぁ!!」
「が、がふっ!」
「さとりさまぁ!?」
「しっかりしてお姉ちゃん!」
すごい勢いで発信する猫車。その振動が脇腹に響く。凄まじく痛い。
燐の運転により、とんでもない勢いで私は医者に担ぎ込まれたのであった。
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「軽い肉離れだね」
「肉離れってなに!? さとり様は助かるの!?」
ひとまず連れて来られた黒谷ヤマメのお家。
「単に脇腹の筋肉を痛めてるだけよ、二三日寝てれば治るんじゃない」
まあ、感染症関連じゃないから私の専門ではないけどね。投げやりにヤマメさんは言う。
「ざどりざまぁぁ」
安心したのか、泣きながら抱きついてくるペット達。
こんなに思ってもらえるのは飼い主冥利に尽きるのですが、抱きつかれると脇腹が非常に痛いのでちょっと遠慮してもらえないですかね?
「というか脇腹を肉離れなんて何やったのよ? 弾幕ごっこでよっぽど変な避け方でもしたの?」
「いえ、ちょっと体操をして伸びをしたらなりました」
「はい?」
「伸びしたらなりました」
「それで肉離れとか、どれだけ貧弱なのよ……」
呆れるヤマメさん。私の虚弱っぷりは半端ないですからね。
「もうムリしないで、ひとまず歩行器つけて歩く練習からはじめたほうがいいよ」
「どこの介護ですか!?」
「その辺の老人介護よりよっぽど面倒よ、あなた」
「私もまさかお姉ちゃんがここまで貧弱だとは思わなかったよ……」
そこまでけちょんけちょんに言われると、さすがに傷つくのですが。
「ほんと、毎日少しでも散歩とか運動させなさい。あなた達、甘やかしすぎよ」
「私が責任をもって管理します……」
神妙に答えるこいし。妹に管理される姉ってどうなのかしら……
「ま、湿布は貼っておいたし、安静にしてたらすぐ治るでしょ。治ったら柔軟体操から始めるといいと思うわ」
「はい、お世話になりました」
「それじゃあ帰るよ、あれ、お燐とお空は?」
「泣きつかれて寝てしまいました」
動物の状態になって膝の上で眠る燐と空。よっぽど心配してくれたのか、泣くだけ泣いたら眠ってしまいました。
「仕方ないね、猫車は私がおしますか」
「できたらゆっくりでお願いします。脇腹に響くので……」
「はいはい。それじゃあヤマメちゃん、ありがとうね」
「おだいじに」
こいしの押す猫車で、私たちはのんびりと地霊殿まで帰宅するのでした。
前作に引き続き、素敵な地霊殿でした!
>「私が責任をもって管理します……」
>
>神妙に答えるこいし。妹に管理される姉ってどうなのかしら……
このくだりで声を上げて笑ってしまいました。
このさとり様シリーズに期待大です!
もしかして幻想入りした第3だったりして
シリーズの中でこの作品を最初に読みましたが、「古明地へたり」がぴったりすぎて吹きました。
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