Coolier - 新生・東方創想話

隠密ツアーコンダクター

2013/01/08 22:36:35
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◆終章【隠密ツアーコンダクター】






 地の底にあるはずの旧都にも、冬になれば何故か雪が降る日もある。
 一説には怨霊の持つ目立とうとする邪な気質が影響した結果だとか、無意識の境地にある者が気質を使って天候操作した結果だとか言われているが、真相は分からない。
 今分かるのは、これから大それたことをしようとしているあたいの意気に水を差す邪魔物ってだけだ。

「まったく、おくうに一体何があったのかねぇ。よりによって、あんな危なっかしい神霊を取りこんでいるだなんてさ」
「ワカンネー。ソノコロオレハ、カマノナカ」

 あたいの愚痴に、連れてきた怨霊のうちの一体が答える。
 ここにいる怨霊は皆、地獄の釜で欲望を熔かし出されてなお、消滅しなかった異端ぞろいだ。
 たださとり様が第三の目を通して診断したところ、何者に対しても恨みを抱くことなく、何故か総じて温泉好きになったとか。
 おまけに見た目の上でも禍々しい髑髏骨格がすっかり消えて、今ではしまりの無いツラになってしまっている。
 だがそういう奴らだからこそ、今回の目的には都合が良かった。

「なんにせよ、地上を支配するなんて宣言したら、勇儀姐さんやさとり様に何をされるか分かったもんじゃないよ」
「オリン、アナタツカレテルノヨ。チョットシンパイシスギダワ」

 ……そうかもしれない。あたいが地上から持ち込んだスペルカード決闘は、今や地底全域でそれなりに盛んに行われている。
 いざおくうが地上に行かんとした時も、懸念しているほど悲惨な結果に終わることはないのかもしれない。
 だが、管理者という立場にある者は時として非情な決断を下すことがあるのも事実だ。

「それにあいつの有頂天っぷりを見ていると、誰か地上の奴に負けないかぎり、このままずっと地上を侮り続けるような気がするんだよねぇ。
 そうなると厄介だ。いまやあいつのせいでそこら中から間欠泉が地上に噴き出している。だからどこか、誰にも知られていない道が出来ているかもしれない。
 んでもって不満を燻ぶらせたおくうがそこから出て行ったらと考えると、ね」
「ソウカ。マ、ヒマダカラツキアッテヤルヨ。
 デ、ココカラノボッテイケバイイノカ?」
「ああそうさ。もうちょっと進みゃ橋姫さんがいるんだけど、それはあたいが引きつけよう。そんで合図したら一斉に飛んでいっておくれ。
 そのまま道なりに進んでいきゃ、神社に噴き出ている間欠泉にたどり着くはずだから」
「ワカッタワ」
「で、地上に出てからはなるべく大人しくしてちょうだいな。間違っても妖怪とか人間とか妖精とかに手を出すんじゃないよ」
「ヤクソクシヨウ。ヨーカイ、ニンゲン、ヨーセイニハゼッタイサワラナイ」

 これでなんとか怨霊の地上旅行の手はずは整った。後は地底の異常を察して、一体どんな奴がやってくるやら。
 地上には妖怪以外にも、妖怪退治専門の人間がいるとリグルが言っていた。おそらく慧音センセイがそれに近いように思われる。
 センセイ……か。最初にあたいを見つけた時の視線は実に険しかったねぇ。子供達が傍にいたからかな?
 ただその後、猫かぶったあたいには親切だったけど。

「やれやれ、事は重大極まりないね。地上からの旅人を思い通りに誘導するためにゃ、そいつをよ~く観察しないといけないか」

 知りたいのは強さと寛容さ。それらを状況を変えながら何度か挑んで量るとしようかね。
 そうと決まりゃ、取り返しのつかない事が起きる前にツアコン事業の旗揚げといこうか。
 叶うならばあたいの企てたこの旅路が、誰にとってもいずれ訪れる転生前あるいは没後の語り草とならんことを……ってのは虫が良すぎる話かね。
 
 
 
●あとがき(98季のキスメはアウトで119季の萃香がセーフだったのは、スペルカードルール成立前という時期の問題か、はたまた縁(ゆかり)の有無の問題か)

・茨木童子と都良香の交流を記した『よしかせん』(著:山里予木古木)は後の年代測定により、現代の材料で作られた紛い物であると判明。
 歴史的価値は皆無として“なかったこと”にされた。

・求聞史紀いわく「幻想郷では魔法の研究が進んでおり、魔法の習得が容易である」
 たいていのRPGでも、魔法は冒険者側とモンスター側とで共用されていますしね。

・ボスが謎オーラを纏い始めたのは地霊殿から。地、星と赤オンリーだったのがダブルスポイラーから赤以外も使われ始めました。
 リグルの色は適当です。蛍だから緑の方が良かったかも。あるいは気分によって色は自由に変えられるとか。
 ていうか廟4面、青娥と芳香は毎回色を変えてました。

・「貴女は後ろに目が無いのかしら?」「あー?」「まぁ、多分無いけど。そういうことよ」「日本語を話せ。ここは幻想郷だ」
 永4面の、霊夢が紫と魔理沙のどちらもフォローしているあたりが好きです。

・「そのシーフはまるで宙を舞う紙くずのようにひらりひらりと弾幕をかわし、背中を這う蚤のように生理的に気持ち悪い動きをしたとね」
 この辺の技術は自機をやるために必要とされるもののような気がします。

・悪徳の町ソドムに残してきた財産への未練から振り返り、塩の柱になったロトの妻。
 白低俗霊の司る欲は『この世への未練』だとか。怨霊にもそれが残っているとすれば……でも生産量は少なそう。
山野枯木
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コメント



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2.90名前が無い程度の能力削除
こうして地底にスペルカード戦が持ち込まれたと思うと面白いですね。
寺子屋の生徒達やリグル、怨霊との会話が可愛らしくて良かったです。
4.100名前が無い程度の能力削除
これは驚いた。作者が感じ、考えた東方の世界観が、読んでいてスムーズに飲み込めました。
キャラがみんな地に足が着いていて、全く違和感が無かったのも印象的でした。
何重もの意味で興味深く読ませていただきました。
5.90奇声を発する程度の能力削除
面白い発想で楽しく読めました
6.100名前が無い程度の能力削除
好かったです。ありがとうございます。
7.100名前が無い程度の能力削除
このガチガチに設定でかためた世界観がたまらねぇな
8.100名前が無い程度の能力削除
面白かったです。とても読みやすかったし
ここじゃあ戦闘描写はなかなか見ないから貴重だね
9.100名前が無い程度の能力削除
スペカルールの広がり方みたいなのが見えて面白かったです
10.100名前が無い程度の能力削除
いい設定、良い構想だなあ。ただこのさとり様は、お空に対してお燐が心配したような処分はしなさそうですね。
16.100名前が無い程度の能力削除
お燐とリグルとはまた珍しい組み合わせ
地底にスペルカードが普及した理由を上手く解釈したお話ですね
18.803削除
面白かったです。弾幕ごっこが中々迫力がありました。
強いて言うとすれば特にページ分けはしなくてもよかったかなというくらい。良作でした。