Coolier - 新生・東方創想話

何かを期待する神綺様

2013/01/06 05:15:17
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 ※ ※ ※

 アリスは現実から目を逸らしたくて、そっと顔を机に落とした。
 けれども彼女は容赦なく、期待を隠しきれぬ声色でアリスに尋ねてくるのだった。

「そ、そんな別に、期待してるとかじゃないのよ、アリスちゃん、ただね、その……」

 トレードマークのたくましいサイドテールが普段より丁寧に結わえてあったり、念入りに梳られた銀髪だったり、あるいはきょろきょろと一刻も落ち着きなく視線を動かす碧眼だったり。机の上で組まれた指先はまるで恋する乙女のようにひっきりなしにもじもじと動いていたし、なんというか、アリスの贔屓目からしても、そわそわしていた。
 どう見ても、思いっきり期待していた。

「神綺さま」
「わかってる、わかってるわアリスちゃん。前作だって、魅魔ちゃんが出るかもって散々言われてて、結局は肩透かしだったのだけれど――」
「神綺さままずは」
「でででもね、だってね、“心綺楼”って、漫画版は読んでないから知らないけど、読んでそのまま蜃気楼はないと思うの」
「わかってます。神綺さま、でも、とにかく落ち着いて」

 アリスの敬愛する創造神はふっふっと荒く息をついて、やおら胸を張ったり、腕を組んだり、忙しかった。始終頬の辺りを興奮からか赤くして、しんっ、きろう……と何度も繰り返し絶え絶えに呟いていた。ついにはアリスもああこりゃダメだとさじを投げるほどだった。当初は何をしにきたのですか、などと話を持っていくつもりだったが、この分だと本当にこれだけのために訪れた可能性が高かった。

 一旦、お茶を淹れましょう。ありふれて若干ふやけてしまっているが、即効性と実効力の高いそういう手管で、ようやくアリスは魔界神の正面から外れる事ができた。何が一旦なのかアリスにもわからなかったが、ともかく意味はあった。神綺の喘ぎに被せるように、「お茶です」「おちゃ……」「お茶です神綺さま」「……お」「お茶」「お……おちゃー!」などとやり取りを繰り返した上での、戦果だ。

「神綺さま、お砂糖は何個にします?」
「さん……いやまって」
 めんどくせえなとアリスはこっそり思った。
「わたし、信仰がテーマなのに、そんなのでいいのか……えっとつまり、見栄を張るってのとは全然違うんだけど……世間体っていうのかしら。ほうじ茶でも梅こんぶ茶でも、そうほいほいお砂糖を入れたりする神さまってのは」
「三個入れておきますね」

 人形に運ばせず、手ずから紅茶を差し出したのは、何となくだった。アリスも取り留めて意識しなかった。
 二人分のカップから、紅茶の湯気がゆらゆらと立ちのぼっている。

「あちっ」

 そそっかしく口をつけた神綺が舌をはふはふさせた。
 それでようやく、普段の調子を取り戻したらしい。ちょっと恥ずかしげに笑いながらカップを置いて、夢子ちゃんには内緒にしてねと、片目を瞑ってみせた。いたずらのばれた子供のような、あどけない表情だった。魔界にいた頃見慣れた神綺のイメージからは、いささか遠いものだったから、アリスはつかの間虚をつかれた。たぶん少しだけ、見とれていたのだろうと思った。

「しばらく見ない間に、ねえ――」
「あの、えと」

 いつものアリスなら、そんな事をいわれても、平気な顔をしてちょっと月並みですだとか何とか、言い返していたはずだった。
 困ったような、情けないような顔をしてしまう。久しぶりに会って、そしてこれなのだ。いつものようにというか、昔みたくしていろという方が無理だとアリスは思った。懐かしさと、戸惑いのようなものが半々ずつ胸に灯って、アリスを痛くした。知らず知らず、言葉尻が震えてしまうほどの、痛みだった。

「……神綺さま」
「そうだわ。それでね、アリスちゃん」

 ぱあっと花の咲くように神綺は言いかけると立ち上がって、持ってきたカバンからいそいそと何やら面妖なものを引っ張り出してきた。
 アリスはそれを直視したくないと思った。

「心綺楼の衣裳チェンジにね、こっちとこっちの」
「おい、神綺やめろお前」

 ※ ※ ※

.
 夢子は早く早くとはやる心を抑えつつアリスの家へ向かっていた。魔界からこちらに来る途中で神綺様と二手に分かれ、霊夢だとか、魔理沙だとか、魅魔だとか、幽香といった古馴染みに顔を出しに行き、主人の到来を一足早く伝えていたからだ(我々を歓迎する功は入念な段取りをもってしか認めない!!)。
 神綺様は先んじてアリスへ会いに行った。きっと嬉しくて仕方がないのだろうと思う。神綺様は、ご自分が創造された全てを等しく慈しんでおられるからだ。
 夢子自身、今回の来訪自体は神綺様の突発的な行動であったとしても、それでも久しぶりにアリスと会うのだ。嬉しくないわけがなかった。元気でしてるのかしらという月並みな心配から、危ない事をしてないだろうかとか、シリーズ外伝にちゃんと出演できてるのかとか、汲めども汲めども尽きないぐらいに言いたい事はあったけれど、それらはきっと、神綺様の領分だろうと思った。確かに、立派な一人前の人形遣いとしてやっているだろうと、夢子は確信していた。そして神綺様に手放しで褒められて、ちょっと照れくさそうにはにかむアリスの姿さえ、ありありと思い浮かべられた。
 だから私は、少し平静を装って。姉のような口振りで、アリスに接するのだと。そう夢子は胸中で思った。
 もう、すぐそこだった。やがて森が開けて、彼女の家が見えた。
 夢子は玄関の前に優雅に着地しようとして、ほんのわずか、ちらっと居間の窓から中の様子が窺えた。そして、その、そこには、割ときわどい衣裳を持った神綺様を必死の形相で押し倒す――
ピュゼロ
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コメント



0.1730簡易評価
2.80名前が無い程度の能力削除
出ないと思うけど、ほんのすこし希望をもってしまいますね
4.100名前が無い程度の能力削除
神綺様が復活しないのはウチラが騒ぎ過ぎるからかもしれん……
7.50名前が無い程度の能力削除
靈夢ENDを見てると、信仰はおろか敬愛の対象にすらなって無さそうで悲しい>神綺様
8.70名前が無い程度の能力削除
黄昏Blogで昔言ってた神奈みたいなプレイヤー殺しのボスキャラってのが神綺の事を指してたらいいなー
9.100名前が無い程度の能力削除
神綺様もったいぶらずに出していいのよ(泣)
10.100プロピオン酸削除
神綺様の登場を願いつつ
13.100あたしゃここにいるよ……削除
いるんだよ……
14.80奇声を発する程度の能力削除
希望があるはず
19.90名前が無い程度の能力削除
神綺様の努力が報われる日を信じて…!
26.80名前が無い程度の能力削除
出たら……いいなぁ(遠い目)
28.100魅魔削除
出れたらいいね(ニッコリ)
29.90名前が無い程度の能力削除
来いよ!旧作の著作権的にグレーな部分なんて捨ててかかってこい!
47.803削除
おお……もう……
あとがきで笑った