この作品単体でも問題なく読めますが、前作の『雲を越える幻想』を読んでからだと楽しさが尻子玉一個分程アップするかもしれません。
初詣の帰り道、コンビニの前から空を見上げてみる。
少し離れた場所に見えるスカイツリーよりもずっと遠くて高い、何万光年先にある星々が私に情報を与える。
一月二日の午前三時三十二分、私達が家を出てからざっと二時間は経っている。
毎年のことだが身寄りのないメリーは、私と一緒に東京の実家に帰って正月を過ごしている。
本当なら昨日のうちに初詣に行こうとしていたんだけれど、お目出度いからとお節を食べながらお酒を普段より多めに飲んでいたら見事に酔っ払ってしまった。
そんなこんなで日付を跨いでメリーと一緒に初詣に来たのはいいけれど、元旦じゃない上、深夜なのにあんなに神社が混んでいるとは思わなかった。
参拝待ちに一時間以上かかるもんだから、メリーはお腹が痛くなってしまったらしい。
女の子に冷えは大敵だ、しっかり寒さ対策をした私を褒めて欲しい。
参拝後、彼女は青褪めた顔でお花を摘みにコンビニに駆け込んでいったので、私は駐車場の所で待ち惚けをしている。
お花を摘むって、勿論ホントに花を集めるんじゃなくて、ね?
ほぅ、と息を吐く。
少し前まで白くならなかったのに、目の前で色が付く様子を見ていると季節の流れを感じる。
雪が降るのも時間の問題だろうか。
温かさを求めて手を擦り合わせながら、ぼんやりと辺りを見回してみる。
今はもう首都ではなくなった都、東京。
遠くから響いてくる軽快な電車の音。
鼻を掠めていく、走り抜ける車のガスのにおい。
そこら中で輝く派手なネオン。
寒い中、早足で目の前を通っていく人の足音。
どれもこれも、私が好きなものである。
この事をメリーに話したらひどく驚かれた。
文化の交じり合う場所が好きなんだけれど、そんなに意外かなぁ。
色んな人の意思が集まる、情報の宝庫。
ごちゃごちゃしてるけれど、生活するには凄く便利。
地方の料理とか、海外の料理とかが何時でも楽しめちゃうし。
新しくできた本屋さんとか見つけたら、ついつい入っちゃう。
あー、早くあそこの本屋さん開かないかなー……。
せっかく京都から帰って来たし、久しぶりに漁りにいきたいのだけれど。
珍しい本とかあったら、是非とも欲しいし。
……私情が入ったけれど、そんな東京が私は好き。
それにしても、メリー遅いなぁ。
戻ってきたらやんちゃな子どもみたいにからかってやろうか。
「長かったねー、もしかしてコンビニで大きい方してたの? ダッセー!!」みたいな。
……うん、やめよう。絶対引かれる。しばらく話してくれなくなりそう。
それどころか、秘封倶楽部解散の危機になるかもしれない。
思考をリセット。
ちょっと真面目になってみる。
思えば、去年は色んな事があったなぁ。
宇宙に浮かぶトリフネに潜入したと思ったらキマイラなんてものがいるなんて、誰も思い付かないでしょ、普通。
見たことも無い程生命の匂いが溢れた樹海から出てくる怪物、今も私の目に刻まれている。
思い出しただけで興奮するが、それだけで終わらなかったのが思い出としては難点ね。
私が無茶を言ったせいで、メリーが怪我をした。
あの時やめておけば一ヶ月も彼女が隔離、もとい療養する必要はなかったはずだ。
あれから私は何度、自分の行いを悔いたことか。
メリーに謝った時、そんなに悲しそうな顔をするなと怒られたので、もう彼女の前でこの事は言わないことにしている。
それと、今までよりもっと慎重に行動するよう決心したの。
何はともあれ、退院祝いに善光寺参りに行った時には驚きの連続だった。
メリーが伊弉諾物質を持ち帰ってきたのも凄いが、私にとってはもっと驚く事があった。
それは、視界の共有。
メリーが見ていた境界の先を、私も見ることが出来る!
この世界の不思議を、一緒に解き明かせるのだ!
この興奮は我が人生で最も大きいだろう。
そんなこんなで、去年は激動の一年だった。
三十八万km上空にある世界を冒険したら、お次は二十八万km地下に存在する景色を見る。
さて、次は何処へ行こうか。
そういえば、善光寺に行った時に話に出た高千穂峰に行ってなかったなぁ。
九州はちょっと遠いし、いつ行くか計画を立てないと……。
なんだか色々考えていたら、ワクワクして体が温かくなってきた。
ふと夜空を見上げる。
時刻は午前三時三十七分、先程から五分位経った。
もうそろそろ戻ってくるかな、と思ったら本当にメリーが戻ってきた。
「お待たせ、蓮子。あら、どうしたの? なんか顔赤いわよ?」
「いやぁ、考え事してたら興奮しちゃって」
「碌な事考えてなさそうね」
視界を共有する時みたいに、メリーが私のおでこに手を当てる。
「別に、風邪引いた訳じゃないってば。それと、去年の事を思い返してただけだから」
「分かってるわよ。ただ蓮子のおでこ温かいから、冷えた手を温めるのにちょうど良くて」
確かに、メリーの冷えた手が温まった顔に当って気持ち良い。
でもこの格好は結構恥ずかしいし、そろそろ本当に風邪を引きそうだから家に帰ろうかな。
歩き出す前に何時もの癖で、メリーの手を顔に乗っけたまま空を見上げた。
何かが、見えた。
星とビルの間に、在りえないもの。
不自然に空間が歪んでいる気がする。
青い、蝶?
違う、あれは、人間?
幽雅に空を翔ける人間が、見える!!
「ねぇメリー、今の……今の見た!?」
「ええ、もちろん……! こんな街中であっち側のものを見るなんて……!!」
ふわりふわりと空を舞ったかと思うと、やがてビルに隠れて見えなくなった。
突然の事に呆気にとられた私は、だらしなく夜空を見つめていた。
きっと、メリーも同じだろう。
まさか、年始から境界の先の存在を見てしまうなんて思ってもいなかった。
秘封倶楽部としては最高の始まりだ。
今年はどんな一年になるだろうか。
メリーと一緒なら、面白い事に沢山巡り合えるだろう。
今年も良い年になりそうだ。
了
初詣の帰り道、コンビニの前から空を見上げてみる。
少し離れた場所に見えるスカイツリーよりもずっと遠くて高い、何万光年先にある星々が私に情報を与える。
一月二日の午前三時三十二分、私達が家を出てからざっと二時間は経っている。
毎年のことだが身寄りのないメリーは、私と一緒に東京の実家に帰って正月を過ごしている。
本当なら昨日のうちに初詣に行こうとしていたんだけれど、お目出度いからとお節を食べながらお酒を普段より多めに飲んでいたら見事に酔っ払ってしまった。
そんなこんなで日付を跨いでメリーと一緒に初詣に来たのはいいけれど、元旦じゃない上、深夜なのにあんなに神社が混んでいるとは思わなかった。
参拝待ちに一時間以上かかるもんだから、メリーはお腹が痛くなってしまったらしい。
女の子に冷えは大敵だ、しっかり寒さ対策をした私を褒めて欲しい。
参拝後、彼女は青褪めた顔でお花を摘みにコンビニに駆け込んでいったので、私は駐車場の所で待ち惚けをしている。
お花を摘むって、勿論ホントに花を集めるんじゃなくて、ね?
ほぅ、と息を吐く。
少し前まで白くならなかったのに、目の前で色が付く様子を見ていると季節の流れを感じる。
雪が降るのも時間の問題だろうか。
温かさを求めて手を擦り合わせながら、ぼんやりと辺りを見回してみる。
今はもう首都ではなくなった都、東京。
遠くから響いてくる軽快な電車の音。
鼻を掠めていく、走り抜ける車のガスのにおい。
そこら中で輝く派手なネオン。
寒い中、早足で目の前を通っていく人の足音。
どれもこれも、私が好きなものである。
この事をメリーに話したらひどく驚かれた。
文化の交じり合う場所が好きなんだけれど、そんなに意外かなぁ。
色んな人の意思が集まる、情報の宝庫。
ごちゃごちゃしてるけれど、生活するには凄く便利。
地方の料理とか、海外の料理とかが何時でも楽しめちゃうし。
新しくできた本屋さんとか見つけたら、ついつい入っちゃう。
あー、早くあそこの本屋さん開かないかなー……。
せっかく京都から帰って来たし、久しぶりに漁りにいきたいのだけれど。
珍しい本とかあったら、是非とも欲しいし。
……私情が入ったけれど、そんな東京が私は好き。
それにしても、メリー遅いなぁ。
戻ってきたらやんちゃな子どもみたいにからかってやろうか。
「長かったねー、もしかしてコンビニで大きい方してたの? ダッセー!!」みたいな。
……うん、やめよう。絶対引かれる。しばらく話してくれなくなりそう。
それどころか、秘封倶楽部解散の危機になるかもしれない。
思考をリセット。
ちょっと真面目になってみる。
思えば、去年は色んな事があったなぁ。
宇宙に浮かぶトリフネに潜入したと思ったらキマイラなんてものがいるなんて、誰も思い付かないでしょ、普通。
見たことも無い程生命の匂いが溢れた樹海から出てくる怪物、今も私の目に刻まれている。
思い出しただけで興奮するが、それだけで終わらなかったのが思い出としては難点ね。
私が無茶を言ったせいで、メリーが怪我をした。
あの時やめておけば一ヶ月も彼女が隔離、もとい療養する必要はなかったはずだ。
あれから私は何度、自分の行いを悔いたことか。
メリーに謝った時、そんなに悲しそうな顔をするなと怒られたので、もう彼女の前でこの事は言わないことにしている。
それと、今までよりもっと慎重に行動するよう決心したの。
何はともあれ、退院祝いに善光寺参りに行った時には驚きの連続だった。
メリーが伊弉諾物質を持ち帰ってきたのも凄いが、私にとってはもっと驚く事があった。
それは、視界の共有。
メリーが見ていた境界の先を、私も見ることが出来る!
この世界の不思議を、一緒に解き明かせるのだ!
この興奮は我が人生で最も大きいだろう。
そんなこんなで、去年は激動の一年だった。
三十八万km上空にある世界を冒険したら、お次は二十八万km地下に存在する景色を見る。
さて、次は何処へ行こうか。
そういえば、善光寺に行った時に話に出た高千穂峰に行ってなかったなぁ。
九州はちょっと遠いし、いつ行くか計画を立てないと……。
なんだか色々考えていたら、ワクワクして体が温かくなってきた。
ふと夜空を見上げる。
時刻は午前三時三十七分、先程から五分位経った。
もうそろそろ戻ってくるかな、と思ったら本当にメリーが戻ってきた。
「お待たせ、蓮子。あら、どうしたの? なんか顔赤いわよ?」
「いやぁ、考え事してたら興奮しちゃって」
「碌な事考えてなさそうね」
視界を共有する時みたいに、メリーが私のおでこに手を当てる。
「別に、風邪引いた訳じゃないってば。それと、去年の事を思い返してただけだから」
「分かってるわよ。ただ蓮子のおでこ温かいから、冷えた手を温めるのにちょうど良くて」
確かに、メリーの冷えた手が温まった顔に当って気持ち良い。
でもこの格好は結構恥ずかしいし、そろそろ本当に風邪を引きそうだから家に帰ろうかな。
歩き出す前に何時もの癖で、メリーの手を顔に乗っけたまま空を見上げた。
何かが、見えた。
星とビルの間に、在りえないもの。
不自然に空間が歪んでいる気がする。
青い、蝶?
違う、あれは、人間?
幽雅に空を翔ける人間が、見える!!
「ねぇメリー、今の……今の見た!?」
「ええ、もちろん……! こんな街中であっち側のものを見るなんて……!!」
ふわりふわりと空を舞ったかと思うと、やがてビルに隠れて見えなくなった。
突然の事に呆気にとられた私は、だらしなく夜空を見つめていた。
きっと、メリーも同じだろう。
まさか、年始から境界の先の存在を見てしまうなんて思ってもいなかった。
秘封倶楽部としては最高の始まりだ。
今年はどんな一年になるだろうか。
メリーと一緒なら、面白い事に沢山巡り合えるだろう。
今年も良い年になりそうだ。
了
ただ現代人の蓮子は「幽雅に空を翔ける」なんて言い回しは使わないかと…少しいじわるな指摘ですが