昨日、魔法の森の傍にある古道具屋でサングラスというアイテムを見つけた。レンズが黒く塗られた眼鏡で、かけると視界が悪くなるというとても実用的には思えない代物だったが、店主によれば「光の毒を防ぐ道具」だという。
他にも店主は何やら訳の分からないことを長々と喋っていたのだが、とにかく私は光に毒があるというのに衝撃を受けてしまい、他のことは一切耳に入らなかった。暖かい日差しの下での昼寝が大好きな私は、今までにどれだけの毒を浴びたのだろうか。想像するだけで恐ろしくなったが、とにかくサングラスさえあればこれからは毒を浴びずに昼寝ができるというわけだ。高い値を吹っかけられたが気にしなかった。健康はお金では買えないのだ。
それから一日経って迎えた今日は、春の陽気が心地よい日和となった。私は畑仕事に一段落つけると小屋で軽く昼食を取り、早速昼寝をすることにした。ござを取り出して小屋の脇に敷いて横になり、サングラスをかけた。
しかしこの黒塗りの眼鏡が防護アイテムとは、外の世界の道具は謎だらけだ。きっとサングラスからは目に見えない魔法の盾が出ていて、日光から毒だけをはじいているのだろう。やはり外の技術は凄い。幻想郷にある光を遮る道具といえば、帽子や日傘くらいしか無いというのに……そんな想像をしながら、私はまどろんだ。
ところが、眠りが深くなる前に目が覚めてしまった。何やら陽射しが感じられず、寒気がする。サングラスを外してみると、辺りは真っ暗で何も見えなかった。まさか死後の世界に来てしまったのかとも思ったが、吹く風と鳥のさえずりはいつも通りなのが奇妙だ。
不思議な光景から、ある妖怪を連想するのは難しくなかった。闇を操る人食い妖怪だ。この妖怪の話は里の人達の間でも良く交わされている。そして同時に、この妖怪はごく単純な方法で接触を回避できることでも有名だった。この妖怪は光を嫌って暗闇を纏うが、間抜けなことに自分でも周りが見えていないらしい。もし暗闇に呑みこまれたとしても、じっとしていればこちらに気付かず過ぎ去って行くという。
私は緊張でサングラスを握りしめつつ、息をひそめた。しばらくは草木のざわめきだけが聴こえて、このまま何も起こらないのではないか、と思い始めた時だった。
何かが私にぶつかってきた。うわっ、と短く声が出てしまった。
「そこにいるのは誰」
私に気付いた妖怪が言った。
しまった、と思ったが動揺を気取られたく無かった。心の乱れを妖怪に悟られるのは良くない。私は恐怖をこらえて気丈に振る舞おうとし、声のした方へ応えた。
「お前は噂に聞く宵闇の妖怪だな。ここは人間の里だ。里で人間を襲うのはルール違反のはずだ」
「へえ、あなた人間なの」
迂闊だった。間抜けな妖怪相手に名乗りを上げるなんて、私はもっと間抜けだ。
「それにしても静かな所ね、人里なんて嘘なんじゃないの」
確かに今いる小屋は里の中心から離れた畑のそばにあるし、叫んで聞こえる距離に他の家も無い。もちろん人里というのは嘘ではないが、目撃者の居ないここで喰われてしまうと妖怪ではなく獣に襲われた扱いになるかもしれない。
逃げ出そうにもここまで暗くて何も見えないと、どっちに走ればいいのやら見当もつかない。どうにかしてやり過ごせないかと考えていると、握りしめているサングラスのことを思い出し、ひらめいた。
「お前は光が嫌いな妖怪だと聞いている。実は私も光の毒について昨日知ったところで、それを防ぐ道具を 手に入れたところだ。これをお前にあげるからどうか見逃してほしい」
苦し紛れだったが妖怪の気を引くことが出来たのは幸いだった。
「毒がなんだって?まあ、お腹空いてるわけじゃないし、貰えるものは貰うよ」
言うが早いか闇はたちまちに消え去り、光が差した。眩しくて目を細めると、同じく目を細めてこちらを窺っている妖怪の姿が見えた。金髪に紅い瞳の少女で、明らかに人間とは違う雰囲気があった。
目を細めているから余計に睨まれているように感じてしまう。居心地の悪くなった私はついぞんざいに、サングラスを投げて寄越してしまった。怒りを買ってしまわないかと思ったが、妖怪は私にあまり興味が無い様子だった。妖怪は受け取ったサングラスをかけて、ふうんと鼻を鳴らした。そして空を仰ぐと、
「なんだ、ただの目隠しじゃない!目を瞑るのと変わらないね、つまんない」
と不満気に叫んだ。
今度こそ喰われる!命の危険を感じた私は体を丸くして怯えていたが、いくら待っても何も起こらない。恐る恐る目を開けると、妖怪は去って行ったようで、空の彼方に黒い球体が浮かんでいた。
しばらく呆けたように眺めていると、球体からサングラスが投げ捨てられるのが見えた。落ちた先に妖精が群がっていた。
寒気がとれると、ついさっきまで感じていた恐怖も嘘のような気がしてきた。それにしても全く光が無いというのは不気味だった。闇は妖怪の領土で、人間が生きるべきは光の下だ。光に毒があるとしても、清水に魚棲まずという諺もあるじゃないか。人間、陽の光を浴びて体を壊すようには出来ていないはずだ。
気が抜けるとあくびが出た。
まだ日は高い。体を投げ出すように横になって目を閉じると、陽射しが暖かかった。
他にも店主は何やら訳の分からないことを長々と喋っていたのだが、とにかく私は光に毒があるというのに衝撃を受けてしまい、他のことは一切耳に入らなかった。暖かい日差しの下での昼寝が大好きな私は、今までにどれだけの毒を浴びたのだろうか。想像するだけで恐ろしくなったが、とにかくサングラスさえあればこれからは毒を浴びずに昼寝ができるというわけだ。高い値を吹っかけられたが気にしなかった。健康はお金では買えないのだ。
それから一日経って迎えた今日は、春の陽気が心地よい日和となった。私は畑仕事に一段落つけると小屋で軽く昼食を取り、早速昼寝をすることにした。ござを取り出して小屋の脇に敷いて横になり、サングラスをかけた。
しかしこの黒塗りの眼鏡が防護アイテムとは、外の世界の道具は謎だらけだ。きっとサングラスからは目に見えない魔法の盾が出ていて、日光から毒だけをはじいているのだろう。やはり外の技術は凄い。幻想郷にある光を遮る道具といえば、帽子や日傘くらいしか無いというのに……そんな想像をしながら、私はまどろんだ。
ところが、眠りが深くなる前に目が覚めてしまった。何やら陽射しが感じられず、寒気がする。サングラスを外してみると、辺りは真っ暗で何も見えなかった。まさか死後の世界に来てしまったのかとも思ったが、吹く風と鳥のさえずりはいつも通りなのが奇妙だ。
不思議な光景から、ある妖怪を連想するのは難しくなかった。闇を操る人食い妖怪だ。この妖怪の話は里の人達の間でも良く交わされている。そして同時に、この妖怪はごく単純な方法で接触を回避できることでも有名だった。この妖怪は光を嫌って暗闇を纏うが、間抜けなことに自分でも周りが見えていないらしい。もし暗闇に呑みこまれたとしても、じっとしていればこちらに気付かず過ぎ去って行くという。
私は緊張でサングラスを握りしめつつ、息をひそめた。しばらくは草木のざわめきだけが聴こえて、このまま何も起こらないのではないか、と思い始めた時だった。
何かが私にぶつかってきた。うわっ、と短く声が出てしまった。
「そこにいるのは誰」
私に気付いた妖怪が言った。
しまった、と思ったが動揺を気取られたく無かった。心の乱れを妖怪に悟られるのは良くない。私は恐怖をこらえて気丈に振る舞おうとし、声のした方へ応えた。
「お前は噂に聞く宵闇の妖怪だな。ここは人間の里だ。里で人間を襲うのはルール違反のはずだ」
「へえ、あなた人間なの」
迂闊だった。間抜けな妖怪相手に名乗りを上げるなんて、私はもっと間抜けだ。
「それにしても静かな所ね、人里なんて嘘なんじゃないの」
確かに今いる小屋は里の中心から離れた畑のそばにあるし、叫んで聞こえる距離に他の家も無い。もちろん人里というのは嘘ではないが、目撃者の居ないここで喰われてしまうと妖怪ではなく獣に襲われた扱いになるかもしれない。
逃げ出そうにもここまで暗くて何も見えないと、どっちに走ればいいのやら見当もつかない。どうにかしてやり過ごせないかと考えていると、握りしめているサングラスのことを思い出し、ひらめいた。
「お前は光が嫌いな妖怪だと聞いている。実は私も光の毒について昨日知ったところで、それを防ぐ道具を 手に入れたところだ。これをお前にあげるからどうか見逃してほしい」
苦し紛れだったが妖怪の気を引くことが出来たのは幸いだった。
「毒がなんだって?まあ、お腹空いてるわけじゃないし、貰えるものは貰うよ」
言うが早いか闇はたちまちに消え去り、光が差した。眩しくて目を細めると、同じく目を細めてこちらを窺っている妖怪の姿が見えた。金髪に紅い瞳の少女で、明らかに人間とは違う雰囲気があった。
目を細めているから余計に睨まれているように感じてしまう。居心地の悪くなった私はついぞんざいに、サングラスを投げて寄越してしまった。怒りを買ってしまわないかと思ったが、妖怪は私にあまり興味が無い様子だった。妖怪は受け取ったサングラスをかけて、ふうんと鼻を鳴らした。そして空を仰ぐと、
「なんだ、ただの目隠しじゃない!目を瞑るのと変わらないね、つまんない」
と不満気に叫んだ。
今度こそ喰われる!命の危険を感じた私は体を丸くして怯えていたが、いくら待っても何も起こらない。恐る恐る目を開けると、妖怪は去って行ったようで、空の彼方に黒い球体が浮かんでいた。
しばらく呆けたように眺めていると、球体からサングラスが投げ捨てられるのが見えた。落ちた先に妖精が群がっていた。
寒気がとれると、ついさっきまで感じていた恐怖も嘘のような気がしてきた。それにしても全く光が無いというのは不気味だった。闇は妖怪の領土で、人間が生きるべきは光の下だ。光に毒があるとしても、清水に魚棲まずという諺もあるじゃないか。人間、陽の光を浴びて体を壊すようには出来ていないはずだ。
気が抜けるとあくびが出た。
まだ日は高い。体を投げ出すように横になって目を閉じると、陽射しが暖かかった。
もう一オチあるとなお良かったなぁ。
私的には本だと縦書きが読みやすいですがwebだと横書きの方が読みやすいですね。
僕は地の文が短いと横書きの方が読みやすいです。
このぐらい長いとどちらでも読みやすいです。
茣蓙を漢字で表記するのは読みやすさを損なっていたかもしれません
自分は横書きのほうが慣れていて好きですね。
自分も慣れた横書きが好きです。
今更答えても仕方ないと思いますが、私はどちらでも読みます。
ただ横書きの方が多く読まれるとは思います。