Coolier - 新生・東方創想話

図書館では静かにしましょう

2012/12/31 22:06:33
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 一日中延々と同じ事を繰り返していると、ある一つの疑問がわいてくる。
 意識とはすなわち自我を絡めた思考である。その思考から算出された結論を持って、人は動く。なので意識はその人の根本的な全てを司るものと考えても良い。
 では、『意識』とは一体どこに存在するのであろうか?一番疑問なのはこの点だ。
 この結論を出すためには――
「パチュリィさまー! きゅーけいしましょー!」
「――ふっ!?」
 突然の異常事態により、何が何だかわからないまま一気に現実へ引き戻される。頭が前後に大きく三往復程揺さ振られたところで、私は今凄まじい勢いで体を揺すられているんだという事を認識出来た。
「さっきから何回呼びかけても無視無視無視! 本の読みすぎは体に毒なんですよ!? もうそろそろ文章から離れてください!」
「ちょ、ちょ、わかったから落ち着きましょう」
 四、五、六。小悪魔は私の声が聞こえないかのように体を揺さぶり続ける。あまりにも突然の衝撃についていけず、意識が薄らいでいく。
「落着いていられませんー! パチュリー様が本を離すまで揺らし続けますー!」
 七、八、
「きゅう」
「あれ、パチュリー様? ……大変、パチュリー様が !」
 それが、最後に私が聞こえた言葉だった。





 洒落た従者と、洒落た部屋で、洒落た音楽を聞き、洒落た紅茶を飲み、洒落たお菓子を食べる。どこまでも洒落ている時間。
 一つ洒落てないところがあるとすれば、
「洒落にならないぐらいにいつも通りね」
「確かに、そうですね」
一人言のつもりで小さく呟いたのだが、彼女は律儀にもその言葉に反応した。心なしか表情が暗くなった気がする。
「ねぇ、咲夜。今日は大晦日ってやつらしいじゃない」
「そうですね、今日は十二月三十一日。紛れもなく大晦日ですね」
「言うなれば特別な日よね。年の終わり、いかにも素敵な響き」
「そうですね、素敵ですね」
 とてもとても素敵だと思います--そう言うと、一瞬前まで悲哀さの見えていた顔とうって変わり、まるで何かを覚悟したような表情になる……やっぱり咲夜をからかうのは面白い。
「だから、今日はなにもしないわ」
「わかりました、それでは御用意……え?」
「なにも、しないわ」
 彼女は私が放った言葉をすぐに理解出来ないでいるようだった。え?の形に開いた口を閉じることなく、少し見開いた目でただただこちらを見つめてくる。
「どうしたの? ゆっくりするのが物足りないなら、今からあなた個人にイタズラしてあげるけど」
「え、はい、お願いしま、じゃなくて!」
「顔赤いわよ」
 半泣きであわあわしてる咲夜は本当に面白くて可愛らしい。お願いされなくてもイタズラしてしまいそうになる。
「こういう特別そうな日にじっとしてるなんて、珍しいですね」
 立ち直りが早いのもイジメがいがあって良いものだ。
「んー、そうねぇ……たまには落ち着いてゆっくりしてみるのも良いかなーと思ってね」
「お嬢様にもそういう時があるんですね、意外です」
「なによ。今までだってそういう時はあったわ。あなたが気付いてないだけで」
「そうだったでしょうか……?」
 どうだっただろう。自分でああ言っといてなんだが、騒げるときには大体騒いでた気がする。
「まあどっちでもいいわ、今日ぐらいは大人しくしといてあげようじゃない。そうねぇ、紅茶を飲み終わったらパチェのところにでも行こうかしら」
「図書館ですか。何か御用が?」
「ちょっと、ね。ただ大人しくするだけだと勿体ないじゃない?」






「うー、寒い」
 思わず声が出てしまうほどに寒い夜だ。昨日の夜も寒かったが、今日の夜は尚寒い。体の丈夫さが売りな私だって、寒いものは寒いんだ。
 紅魔館は今日も平和で、本当に門番なんて必要なのか疑わしくなるぐらい何もすることが無かった。
 白黒の鼠が最近あまり顔を出さないのもこの暇さに拍車をかけていた。聞いた話によるとあの鼠は寒いのが苦手らしく、対策として館の回りを冷気で包んでしまえばいいのでは無いかと考えたことがある。
 まあ、そんなことをしたら今度はめでたい巫女が飛んで来るだけだと気づくのにはそんなに時間はかからなかったけど。結局、見張り役は必要になってくるわけだ。
 辺りには妖精一匹おらず、風が立てる小さな音しか聞こえない。空には雲一つなく、ぼんやり光る大きな月ときらきら輝く小さな星が見えるだけ。とても静かで、寂しげな夜。
 こういう絵になる景色ほど人を感傷的にさせる。いやまあ私は人では無いんだけどーー
「外は静かだねー」
「うおっ、妹様?」
「お疲れさま、めーりん……何よ、お化けでもみたよーな顔して」
 なんの気配もなくいきなり目の前に何者かが現れたら、誰でも驚くんじゃないだろうか。
「せっかく、お姉さまが呼んでるよっていうのを教えてあげに来たのに」
「あれ、お嬢様が? まだまだ時間は――いや、なるほど」
 『お嬢様が呼んでいる』、ただそれだけの情報で大体を把握する。
「そういえば今日は大晦日でしたっけ。また何か催し物でも?」
「いいからいいから。はやく図書館にあつまらないといけないみたいなのー」
「わかりましたー」
 なにやらテンションの高い妹様の後ろを走りながら、さっきまで自分が考えていた事を思いだし、苦笑する。このまま今日は平和で終われればいいんだけど。



「よし、みんな揃ったわね」
 日付が変わるまで後十分というところで咲夜と美鈴が図書館に到着したことで、見た目的には全員が揃った。
 しかしレミリアはまだ納得していなかった。一人だけ寝ている者がいるのが原因で、彼女はその人ー寝ているというより気絶しているのだがーパチュリーを起こしにかかった。
「パチェ、起きて。もう今日が終わろうとしているわ」
「……」
 少し呼び掛けただけでは起きないのを確かめると、レミリアは不敵な笑みを浮かべて少し後ろに下がる。そのほんの少しの間で助走をつけると、一気に飛び上った。
「レミリアダーイブ!」
「いやいや!?」
 勢いのある着地音、ベッドの軋む音、パチュリーの悲鳴……そして静寂。
 今聞こえてくるのはパチュリーのか細い呼吸音だけで、まるで時間が止まったかのようだった。少しの後悔がレミリアを襲うが、その静止した時間の中、時を操れる咲夜だけがその空気を気にせずレミリアに近づき、囁く。
「中々華麗な飛び込みでした、お嬢様」
 それを聞いたレミリアはほっとしたように表情を崩す。主のピンチを救うこの行動、まさしく従者の鏡であると言えるだろう。いや、もしかすると本当に華麗な飛び込みだったと思っているのかもしれないが。
「どうせやるなら何事も華麗に決めないと、ね」
「かっこいい事言って今の流れを落とそうとしないでくれる?今の普通に危なかったわよ?」
「狸寝入りしてたくせに」
「まだフラフラするのよ」
 二人が口喧嘩するのは最早おなじみの光景となっているのだが、それに対する反応はそれぞれで違ってくる。
「レミリア様、パチュリー様、喧嘩は駄目です!」
 止めようとする者。
「いいぞいいぞー、やっちゃえー」
 囃し立てる者。
「(そういえばご飯食べてないなあ)」
 マイペースな者。
「……」
 撮る物。
 パチュリーの意識に抱いている疑問は、何でもない日常に解答があるのかも知れない。もっとも、その渦中にいる本人には気付きようも無い事なのだが。





「もう寝ときたいんだけど」
 討論するというのは思考力だけでなく体力も使うもので、割と本気でもう寝たかった。
「駄目よ、今度はベッドが壊れるかもしれないわ」
「どんな勢いで飛び込もうとしてるのよ」
「おねーさま、今日は図書館でなにするの?」
 そうだ。凄く自然に集まっていたので何も疑問に思わなかったが、良く考えるとこの状況は飲み込めたものではない。大晦日と図書館に何の関連性があるのだろうか。
「んー、特になにもしないわ。ちょっとやりたいことがあってね」
 少し歯切れが悪い。人に言えない用でもあったのだろうか?それにしては、これだけの人数を集めるというのもおかしな話で。
 レミィの最近の行動を振り返って理由になりそうな事や物を考えてみると、そういえば一つ今日に関係する事があったのを思い出す。
「この前図書館でレミィが呼んでた本の影響ね」
 間違いない、あの時の本だ。
「ちょっと、パチェ――」
「お嬢様が本を?どのような本だったんでしょうか」
「年末!カウントダウン大特集」
「そんな本あるんですか、凄いなー」
「いや、別にそんな本に影響されたわけじゃ……」
 顔を赤くしながら強がる姿は威厳も何もあったものじゃない。そんなだからこっそり咲夜に写真を撮られてしまうのでは無いだろうか。というよりそんなに恥ずかしがることだろうか?本からじゃなく自分で思いついた事にしたいのだろうか、カリスマ溢れる彼女の考えはよくわからない。
「えーい、ばれても計画に支障はないわ! 咲夜、今何時!?」
「えーと……あ、お嬢様。明けましておめでとうございます」
「……だああああ! 私のカウントダウンがああああ……」
 進行も威厳もグダグダになってしまった我が愛しの友。このへこみ具合はなかなか見れないものだ。
「あー、レミィ……」
 あまりにも不憫なので、挨拶ぐらいはしてあげよう。飛びっきりの笑顔をつけて。
「明けまして、おめでとう」
このあと時計の針を戻してカウントダウンを行ったようです。めでたし。
サブレ
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コメント



0.740簡易評価
2.100名前が無い程度の能力削除
いい夢が見れそうだ
3.90奇声を発する程度の能力削除
良いお話ですね、良かったです
10.80名前が無い程度の能力削除
よかった
11.80名前が無い程度の能力削除
年末のカウントダウン、レミィなら突飛な方法でやりそうだw
可愛いお話でほっこりしました。
20.503削除
年末の日常。いいですね。