12月31日
長いようで短かった一年の終わり。大晦日である。
普段は参拝客の少ない博麗神社もこの日ばかりは忙しくなり、例によって紅魔館も忙しくなるのだった。
「うーん……」
「……?」
今日は……いや今日もメイド長の様子はおかしかった。
本日は18時頃にレミリアが起きたので早めに大掃除を切り上げた。
そしてあとは各々自室を掃除しなさい、と伝えこうしてレミリアの世話に興じているわけだが……。
「んー……」
紅茶を注ぎながら唸る咲夜にレミリアは声をかける事にした。もしツッコミ待ちだったらどうしてくれよう。
「咲夜……どうかしたの?」
「えぇ……実は悩んでる事があって……」
「あら、あなたらしくもないわね。一体何を悩んでいるの?」
受け取った紅茶を飲みながら尋ねてみる。
従者とのスキンシップ(あくまで最低限の)を取るのも当主の勤めなのだ。
「えぇ、おせち料理の配置を考えておりまして……」
「お、おせ……なんだって?」
「そうそう。お嬢様はタラバ蟹とズワイ蟹どっちがいいですか? ちなみに妹様はタラバ蟹とおっしゃっておりました」
「いや、あの……」
「あ、すみません上海蟹は用意できませんでした」
「そうじゃなくて……」
「ちなみにワタリ蟹も見つけたんですけどタラバ蟹に比べると見劣りしまして……。やっぱ良いですねタラバ蟹。あ、でもズワイ蟹も好きですよ。ズワイにはズワイの良さがありますしね。でも毛蟹は認めないですからね私。値段の割に身が少ないし」
「カニカニうるせぇぇぇぇ! 蟹っていうワードが頭ん中でゲシュタルト崩壊起こしてるわ! 毎回律儀に「蟹」ってつけないで良いよ! タラバって言えばいいだろ! そしてダークホース的に毛蟹を出すなよ! あと認めてやれよ! あいつもあいつなりに頑張ってるよ!」
「タラバはいいですけどワタリって言うとなんか「あぶない蟹」って感じしません?」
怒涛のツッコミ(ちなみにワンブレス)
「蟹は軍団つくったり炊き出しなんかしねぇよ!」
初夢は蟹で溢れるだろう。
お嬢様と大晦日
「あれ? お嬢様は蟹お嫌いでしたか?」
「いや好きだよ? 好きだけどさ。そこじゃないの。さっき言ったなんとか料理ってなに?」
息を切らしてまでツッコミをいれるレミリアにプロ意識を感じながら咲夜が答える。伊達にスカーレット家のツッコミをやっていない。
「あぁ、おせちの事でしたか。おせちというのはこのお重に料理を詰める物です。かまぼことか栗きんととか」
言いながら黒塗りのお重をレミリアに見せる。ドラ〇もんも以下略。
「花の装飾があってかわいいでしょうー? 里で貰ったんですよ」
「ふーん……」
頬杖をつきながらティーカップをテーブルに置き、ふと気付いた事を指摘してみる。
「咲夜さ、そのお重ってのを使いたいだけでしょ」
「うっ……!」
ぐさり。鋭い指摘ながらも心には鈍い一撃だった。
その通り。単純に「お重に何か入れてみたい」という好奇心である。
「普通に考えて紅魔館の食卓(長テーブルに白のテーブルクロス)にそれは合わないでしょ」
「で、でもせっかくかわいいのに……。ほら! 中身も綺麗ですよ!」
パカリと蓋を開けてみせる。なんてことはない、ただの黒塗りのお重だ。
「せっかくもらったのに勿体ないじゃないですか……!」
お重を抱きしめ、涙目で訴える咲夜。というか目尻にはキラリ涙が。
「わ、わかったから! 使って良いから! 泣くな! 泣かないで! ね!?」
「はい! ありがとうございます!」
けろっと笑顔に戻る咲夜。ドアの向こうで控えていたのか数名の妖精メイドがドアの隙間から顔を覗かせ、振り返った咲夜とお互いに「やったね! イェーイ!」とかなんとか言いながらピースサインを飛ばしあっていた。
「っ……こいつら……!」
「さて話しも終わりましたし年越しそばでも食べますか?」
「……まぁそろそろお腹も空いたし」
「かしこまりました! じゃあはい、持って来てー」
咲夜の合図の後にドアが開き妖精メイドがカートにそばを乗せて現れる。
「はい、どーぞ」
「うん」
椀を受けとりそばを啜る。が。
「うー……」
「どうかなされましたか?」
「私やっぱり箸は苦手だ……」
なんとか麺を掴むがすぐにつるりと落ちてしまう。
当人からしたら実にもどかしいが周りから見ればほほえましいかぎりである。
「私が食べさせてさしあげましょうか? 口移しとかで」
「私おまえも苦手だ……」
「そういえば、そばやうどんなどには特殊な食べさせ方があるそうです。この咲夜調べてきました」
「初めからそれを言えよ」
そう言ってなにやら大きめのどてらを取り出し羽織る咲夜。
嫌な予感しかしない。
「で、この状態でお嬢様の背後に覆いかぶさり……」
レミリアの体をすっぽりと包む。どてらの外に出ているのはレミリアの顔と袖から伸びた咲夜の両腕だけだ。
お気づきだろうが二人羽織りである。
「……ここからどうすんの?」
「指示を出してください! 私がそのとおりに動きますから!」
レミリアでなくとも運命(オチ)は見えていたのだ。
「もうちょい右ってああ行きすぎ! ってあちっ! あちゃっ! あっつ!」
「あれ? 右ってどっちでしたっけー?」
「お箸持つ手だよ!」
お約束である。
30分後
結局フォークを使ったレミリアはげんなりとした様子で椅子に座っていた。
「さて、除夜の鐘でも突きに行きますか?」
聞きつつ彼女は既にコートを着込んでいる。
ゴーサインを待つのみ。出さなくても行くが。
「……博麗神社には鐘なんて無いわよ」
「命蓮寺にならあるんじゃないですか? 寧ろ無かったら寺として心配ですね」
「私はたかだか鐘ごときで寺の存在意義を否定するおまえの方が心配だよ」
おしまい
ちなみにあったそうです。
いやぁ、まさかコメントつけてもらえるとは思ってなかったのでビックリしました!
皆さんありがとうございます。主従でキャッキャしているのを目指していたのでそう言っていただけて良かったです。
>「私おまえも苦手だ……」
がツボでした。
怒涛のツッコミ(ちなみにワンブレス)
が無かったらもう+10点してたと思います。
四コマ漫画の様なテンポの良い笑いに思わずニヤリとしてしまいました。