優しい余韻に包まれながら、もう一度ゆっくりとカップに口をつける。すると、甘さと苦さが絶妙に溶け合った奥深い風味が口の中いっぱいに広がって、私の心は融解されていく様にほどけてしまう。自分で淹れても、こんな魅力的な味には絶対にできないだろう。
「別にコーヒーの味なんてどうでもいいでしょ」
「これもメリーの能力の正体を知る大切な手がかりなのよ!」
秘封倶楽部、それが私たちのサークルの名だ。
主な活動は、不思議な物事や結界の境目を探ることにある。
そんな常識はずれな活動の根幹を成すのが、私の相方であり唯一の部員、メリー。
蒼い瞳に金色の髪、まるで人形のように浮世離れした容姿を持つ彼女だ。
そう彼女には不思議な力がある。それは、本当に陳腐な表現なのだけれど、私にはまるで魔法みたいに見えた。
彼女に出会うまで、私の目に映るすべては、方程式で表されている世界だった。
それは世界を知りたいと願った結果なのだけれど、仕組みを知りすぎた私には、それはどうしても、ひどく堅苦しいものにも感じられたのだ。
絶対的な法則。数字と演算記号で表されたそれは、揺るぎない答えを私に教えてくれるかわりに、決して超えることの出来ない壁を突きつける。
子供だった頃、学校で初めて見た実験は、まるで魔法の様だった。それはとても自由で万能なもので、その仕組みを覚えれば、何でも出来る、そう思っていた。
でも人は、鳥の様に空を飛ぶ事は出来ないし、光の速さより早く地を駆ける事は出来なかった。
夢見がちだった私の思考は、そうやって知識の一つ一つにハンマーでバラバラにするみたいに解体されていった。
そういえば誰かが言っていた。「充分に発達した科学技術は、魔法と見分けが付かない」。
見分けが付く様になってしまった私には、それは既に魔法では無かった。
そして、そんな私の目の前に現れたのがメリーだった。
彼女は私には見えない方程式で世界を見ていた。そう、まるで魔法の様に。
初めて見た、結界の裂け目を見つめる彼女の眼差しは、どこまでも神秘的で、どこまでも透明だった。
そんなメリーが淹れたコーヒーだから、違う味がするのかも。調べれば何かが分かるかもしれない。
改めて、正確に分量とタイミングを計測して私とメリーで淹れてみる。
当たり前だけれど、見た目の変化は無い。でも一口飲んでみると、
「やっぱり違う」
「そうかな?別に同じだと思うけれど」
「全然違うって。絶対こんな味に出来ないもん」
なんだかやっぱりおいしい。
「気のせいなんじゃないの」
メリーは半信半疑だ。それもそうだろう。
同じ分量、同じ方法。結果だけ違うなんて。まるで素粒子の問題みたい。観測者は同じだけれど。
ん、観測者……。ああ。
それでやっと思い至った。
「そうか……。コイ」
「濃く入ってるってこと?」
迂闊にも声に出てしまって心臓が止まりそうになった。けれど、メリーはそんな私の動揺なんて知る由もなく、暢気な勘違いをしてくれたらしい。
高鳴る鼓動を無視して、なんとか平穏を装う。
そうね、それじゃあそういうことにしておいてもらおうか。これは私にしか見えない方程式なんだから。
「何笑ってるのよ」
「なんでもー」
「変な蓮子ね」
いぶかしむメリーの隣でもう一口。
まるで魔法のようなこの日々は、おいしいコーヒーの香りと共に今日もこうして続いて行く。
こんな日がいつまでも続いてくれます様にという、私のちっぽけな願いをお茶請けにして。
「別にコーヒーの味なんてどうでもいいでしょ」
「これもメリーの能力の正体を知る大切な手がかりなのよ!」
秘封倶楽部、それが私たちのサークルの名だ。
主な活動は、不思議な物事や結界の境目を探ることにある。
そんな常識はずれな活動の根幹を成すのが、私の相方であり唯一の部員、メリー。
蒼い瞳に金色の髪、まるで人形のように浮世離れした容姿を持つ彼女だ。
そう彼女には不思議な力がある。それは、本当に陳腐な表現なのだけれど、私にはまるで魔法みたいに見えた。
彼女に出会うまで、私の目に映るすべては、方程式で表されている世界だった。
それは世界を知りたいと願った結果なのだけれど、仕組みを知りすぎた私には、それはどうしても、ひどく堅苦しいものにも感じられたのだ。
絶対的な法則。数字と演算記号で表されたそれは、揺るぎない答えを私に教えてくれるかわりに、決して超えることの出来ない壁を突きつける。
子供だった頃、学校で初めて見た実験は、まるで魔法の様だった。それはとても自由で万能なもので、その仕組みを覚えれば、何でも出来る、そう思っていた。
でも人は、鳥の様に空を飛ぶ事は出来ないし、光の速さより早く地を駆ける事は出来なかった。
夢見がちだった私の思考は、そうやって知識の一つ一つにハンマーでバラバラにするみたいに解体されていった。
そういえば誰かが言っていた。「充分に発達した科学技術は、魔法と見分けが付かない」。
見分けが付く様になってしまった私には、それは既に魔法では無かった。
そして、そんな私の目の前に現れたのがメリーだった。
彼女は私には見えない方程式で世界を見ていた。そう、まるで魔法の様に。
初めて見た、結界の裂け目を見つめる彼女の眼差しは、どこまでも神秘的で、どこまでも透明だった。
そんなメリーが淹れたコーヒーだから、違う味がするのかも。調べれば何かが分かるかもしれない。
改めて、正確に分量とタイミングを計測して私とメリーで淹れてみる。
当たり前だけれど、見た目の変化は無い。でも一口飲んでみると、
「やっぱり違う」
「そうかな?別に同じだと思うけれど」
「全然違うって。絶対こんな味に出来ないもん」
なんだかやっぱりおいしい。
「気のせいなんじゃないの」
メリーは半信半疑だ。それもそうだろう。
同じ分量、同じ方法。結果だけ違うなんて。まるで素粒子の問題みたい。観測者は同じだけれど。
ん、観測者……。ああ。
それでやっと思い至った。
「そうか……。コイ」
「濃く入ってるってこと?」
迂闊にも声に出てしまって心臓が止まりそうになった。けれど、メリーはそんな私の動揺なんて知る由もなく、暢気な勘違いをしてくれたらしい。
高鳴る鼓動を無視して、なんとか平穏を装う。
そうね、それじゃあそういうことにしておいてもらおうか。これは私にしか見えない方程式なんだから。
「何笑ってるのよ」
「なんでもー」
「変な蓮子ね」
いぶかしむメリーの隣でもう一口。
まるで魔法のようなこの日々は、おいしいコーヒーの香りと共に今日もこうして続いて行く。
こんな日がいつまでも続いてくれます様にという、私のちっぽけな願いをお茶請けにして。
『高度に発達した科学は~』で気付いたんですが、cyclicでencounterな、あの曲です?
絶対的な問題もいつか解決されたらそれはそれで大変ですね。
ヘルメストリスメギストスは世界の心理を解き明かしたそうですが
結局、しにましたが・・・
更新お疲れ様です。
それはそれは多幸的な味なんでしょうなあ
確かに、もう少し長く読んでみたかったかも。