「小悪魔ー、小悪魔ー?」
「はい何でしょう?」
名無しの悪魔は、頭についた小さな羽をパタパタと動かしながら主のもとへと駆けつけた。
そんな小悪魔に向かって、主パチュリー・ノーレッジはソファに腰掛けながら、机の上の本を二、三冊差し出した。
「この本は読み終わったから本棚に戻して来て頂戴」
「かしこまりました」
小悪魔は手渡された本を持って、くるりと振り返った。
そこへさらにパチュリーの声がかかる。
「あ、そうそう小悪魔。ついでに紅茶でも淹れてきて」
「分かりました。すぐにお持ちします」
首だけ振り向いて笑顔を返し、小悪魔はとりあえず本を戻しに行こうとする。
そこへ再びパチュリーの声。
「あ、それからね小悪魔。お茶菓子は……」
「むー……」
次々と繰り出される主人の言葉に、小悪魔は頬を膨らませてうなった。
その反応に、パチュリーは特に悪気を感じるわけでもなく冷静だった。
「何よ、ただ紅茶とお茶菓子を注文してただけじゃない?」
「あ、違うんです」
慌ててパチュリーの方へ振り返った小悪魔の声は弱々しく、何だか落ち込んでいる様子。
態度には出さないが、パチュリーもやや心配になった。
「どうしたの? どこか体の具合でも悪いの?」
「いや、そういうのでもなくて、その……」
小悪魔の目は泳ぎ落ち着かない。
業を煮やしたパチュリーは、小悪魔の顔をじっと見据え、今までよりも強めの口調で迫った。
「そんな風にされるとこっちが気になって困るの。言いたいことがあったらはっきり言いなさい」
「は、はい! えーっと……」
鋭い目つきで見つめられ、小悪魔は背筋をピンと伸ばす。
それでもなお逡巡していたが、パチュリーの視線には敵わず、とうとう小さく言葉をこぼした。
「なまえ……」
「えっ?」
「パチュリー様、全然わたしのこと名前で呼んでくれないなって……」
予想外の返答に、目を丸くしたのはパチュリー。
先ほどとはうってかわって間の抜けた目つきで従者の顔をまじまじと眺め、一言。
「貴女、名前あったの?」
「あ、ありますよう! それもすっごい名前が!」
パチュリーの言葉に、若干涙目になりながら抗議する小悪魔。
感情と連動しているのか、頭の羽はいつにも増して激しく動いていた。
「すごい名前って、貴女は自分のことを上級の悪魔とでも言いたいの? 悪いけど、とてもそうは見えないわ」
興奮気味の小悪魔とは対照的に、パチュリーの声は実に落ち着いていた。
それもそのはず。パチュリーの知る限り、名を冠する悪魔は力強き者のみ。
どれだけ贔屓目に見ても、目の前の自称「すっごい名前」を持つ従者がそれに当てはまるとは思えなかったのだ。
だが、自称「すっごい名前」の悪魔はとても誇らしげだった。
「あれ、パチュリー様知らないんですか? 悪魔が契約を交わす時は、主人の能力に合わせて力に制約がかかるんですよ。だから今のわたしも本来の力の一部しか使えないんです」
「それは……聞き捨てならないわね」
小悪魔の言葉に、今度はパチュリーがむっとした。
もし小悪魔の言う通りであるとしたら、それはすなわち
「わたしの魔力が弱っちいから貴女は本気を出せないと、そう言いたいわけね?」
「いや、別にそういうつもりではないのですが……まあ論理的にはそうなってしまいますね」
「小悪魔、貴女も言うようになったわね……」
顔には出てないが、パチュリーは内心かなりビキビキきていた。
弱小悪魔の分際で、この『知識と日陰の少女』のことを馬鹿にしてきたのだ。
面白い、そこまで言うのであればその真の力とやらを見せてもらおうじゃないか。
「……今から一時的に貴女との契約を解くわ。思う存分、力を発揮しなさい」
「え、そんな突然!?」
「問答無用!」
「きゃあああ!?」
パチュリーはあっという間に契約破棄の魔法を唱え、辺り一面まばゆい光に包まれた。
「……どうなったの?」
「…………」
あの光はパチュリー自身にとっても想定外だったようで、しばらく目がくらんでいた。
しかしようやく目がなれてきたところで、小悪魔の様子を窺う。
そこには、特に姿形に変わり映えもなく突っ立っている赤毛の悪魔。
「やっぱり何も変わってないじゃない。嘘をつくならもっとましな……はっ!?」
「我は魔神……『ゴエティア』に記されしソロモン72柱が第八番……」
一瞬にして、パチュリーは全てを感じ取った。
眼前の悪魔の体からほとばしる、周囲を押し潰してしまいそうな強大な魔力。
生きとし生けるものを凍りつかせる、恐ろしき覇気。
パチュリー自身、この場から逃げ出したいという思いが湧き続けてしまう。
拭いきれない恐怖を押し殺し、パチュリーは微動だにしなかった。
逃げ出す前に、どうしてもつっこまなければならない重大な事項が、目の前に堂々と横たわっていたから。
「貴女、声が……」
「我が名はぁ……バルバトスぅ!」
「声がむさくるしい!」
真の力に目覚めた小悪魔(バルバトス)の声は、何故だかとってもむさくるしかった。
それこそブルァっとサイコで天から落としてオール・ハイルにゲームを主催しハッピーエンドの条件に会社の同僚を飲みに誘うような感じで、やたらむさくるしかった。
「はぁっはっはぁ! どぉですかパチュリー様ぁ! 溢れんばかりのこのぷぁわぁ!」
「ええ、驚きね」
主に声に。
というか声にインパクトがありすぎて、それ以外が霞んでしまった。
どの道、契約破棄も時間制限を設けてあるし、溢れんばかりの「ぷぁわぁ」もすぐに元通り、ただの小悪魔に戻る。
しかしこの小悪魔(バルバトス)、やけにテンションが高い。
「はぁっはっはぁ! これほどまでの力、パチュリー様には扱えないと思うかもしれませんがぁ、なぁんの問題も、何のもぉんだいもないぃ! 何故ならば、我がパチュリー様にお仕えするのは、ひとえに愛ぃ! 貴女様にお仕えする事が、我ぁが至上の喜びぃ!」
「…………」
この声で言われても、あまり嬉しくは無かった。
逆に、顔と声にギャップがありすぎて怖かった。
「はぁっはっはぁ! 血がぁ、血が見たい! 幾千幾万の英雄を、えぇいゆぅを狩り、その血が見たぁい!」
「何か貴女、最終的に『か、勘違いしないでよねっ! 別にアンタに負けたんじゃなくて、自分で死を選ぶだけなんだからねっ』(意訳)、とか言って死にそうね」
「はぁっはっはぁ!」
聞いちゃいなかった。
そんな小悪魔(バルバトス)を見ながら、パチュリーは額に手を当てた。
この際、自分の従者が実はとんでもない大物悪魔だったということは素直に認めよう。
その力も、直に制約によって収まってくれるから何の被害も出ることは無い。
だがしかし、それよりももっと大きな問題が一つ。
「この声、しばらく耳に残りそうね……あぁ」
想像してみよう。
例えばいつものようにパチュリーが小悪魔に命令を出し、小悪魔がそれに「はい、かしこまりました」と答えたとする。
その時パチュリーの耳には、いつもの小悪魔とダブって小悪魔(バルバトス)の「はぁい、かしこまりましたぁ~!」というむさっくるしい声が聞こえてくるのだ。
「……悪夢ね」
もう一つ想像してみよう。
命令通りに仕事をした小悪魔がパチュリーに褒められて、可愛らしい顔で「えへへ」と微笑んだとする。
その時パチュリーの耳には、小悪魔の笑顔にダブって小悪魔(バルバトス)の「えっへっへぇ~」というテンションの高い声が聞こえてくるのだ。
「……考えただけでゾッとする」
最後にもう一つだけ想像してみよう。
パチュリーと小悪魔の間では時折魔力供給の儀が行われる。魔力供給の儀とは端的に言って性交なのだが。
その時パチュリーの耳には、小悪魔の嬌声にダブって小悪魔(バルバトス)の……
「それ以上いけない」
パチュリーはブンブンと首を横に振って、ある意味暴走して歯止めの利かなくなったフランドールよりも恐ろしい想像を振り払った。
とにかく、小悪魔(バルバトス)の記憶が頭の片隅にでも残ってしまうことは非常にまずいのである。
可及的速やかに対処を講じなければならない。
「……そうだ、あれがあったはず」
パッと閃いて、パチュリーはソファから立ち上がりマジックアイテムの保管庫へと向かった。
小悪魔(バルバトス)と言えば、相変わらず「はぁっはっはぁ!」というけったいな笑い声をあげていた。
何だか一人で楽しそうだったので、放っておいて倉庫を目指す。
そこには、目当ての物があるに違いない。
「あった。これだわ」
倉庫の中を数分も調べない内に、探していたマジックアイテムを見つけ出した。
パチュリーはにやりと笑って、小瓶に入っている錠剤型のそれを一粒手に取った。
小瓶のラベルには、「記憶喪失薬」の文字。
「これさえあれば、一時間前後の記憶を完全に消去できる……」
これを飲めば、小悪魔(バルバトス)の声を耳から抹消することができる。
注意しなければならないのは、何故この薬を飲んだかメモを残しておくこと。そうしておけば、同じ過ちを犯す可能性が低くなる。
「えーっと、紙とペンは……」
書き残すための道具を探している、まさにその時だった。
パチュリーの背後から、すさまじい殺気。
「……えっ?」
驚き振り返ったパチュリーの目に映ったのは、鬼気迫る表情をした従者の姿。
「ア イ テ ム な ん ぞ 使ってんじゃねぇ!!!」
「きゃああああああ!!?」
気を失う直前、パチュリーは巨大な斧を持つ筋骨隆々の小悪魔(バルバトス)の姿を見た、ような気がした。
「……はっ!?」
バッと起き上がると、ここはいつも座っているソファの上。
手には読みかけの本。どうやらいつの間にか眠ってしまっていたらしい。
「夢?」
体中汗びっしょりで気持ち悪い。
これはすぐにでもシャワーを浴びたいなどと思いつつ、パチュリーはふと音のする方へ目をやった。
そこには床にペタンと腰をおろした小悪魔の後ろ姿。彼女の前にはテレビサイズのモニターと、黒い箱。
パチュリーが立ち上がって小悪魔のもとまで向かうと、彼女は振り返って、喜々とした表情でにっこり笑った。
「あ、お目覚めになられたんですね。それより見てください! ついににっくきあん畜生めをやっつけたんですよ!」
「にっくきあん畜生……?」
モニターを指差す小悪魔につられて目を運ぶと、画面には黒い箱よりデータを送られたゲームの映像。
そこにいた一人のキャラクターが、夢の中のアレと全く同じ名前で、全く同じ声をしていた。
「ねえ、これって……」
「外からやってきた玩具ですよ。それにしてもこいつには苦労しました。灼熱の~とか殺戮の~とかうっとうしくてたまりません。でもこいつはこれで最後です!」
実に楽しそうに笑う小悪魔。ストーリーも進んで、ひとまずデータをセーブしている。
対するパチュリーは、少し青い顔をしながら、小悪魔に質問をした。
「ねえ小悪魔。貴女、本当の名前は?」
「本当の名前? いやだなあ、低級悪魔のわたしにそんなのあるわけないじゃないですか。わたしは小悪魔です」
「契約を交わした時に制約がかかって、真の力を隠してるとか……」
「何ですかそれ? 真の力って、パチュリー様ひょっとしてアレですか? 思春期の子がよくかかるあの病気ですか?」
「…………」
質問を投げかけ終えて、一息ついてから、パチュリーは小悪魔の頭に思いっきり拳骨をお見舞いした。
「痛ぁ!?」
「遊んでないで仕事しなさい!」
「は、はいぃ!」
パチュリーに叱られて、小悪魔は慌てて仕事に復帰した。
急ぎ駆け回るその姿を呆れ顔で見送ってから、パチュリーはマジックアイテムの保管庫へ赴き、例の薬を探す。
「……あった」
お目当ての薬を見つけ出し、パチュリーはあの夢を記憶から一切消滅させた。
「はい何でしょう?」
名無しの悪魔は、頭についた小さな羽をパタパタと動かしながら主のもとへと駆けつけた。
そんな小悪魔に向かって、主パチュリー・ノーレッジはソファに腰掛けながら、机の上の本を二、三冊差し出した。
「この本は読み終わったから本棚に戻して来て頂戴」
「かしこまりました」
小悪魔は手渡された本を持って、くるりと振り返った。
そこへさらにパチュリーの声がかかる。
「あ、そうそう小悪魔。ついでに紅茶でも淹れてきて」
「分かりました。すぐにお持ちします」
首だけ振り向いて笑顔を返し、小悪魔はとりあえず本を戻しに行こうとする。
そこへ再びパチュリーの声。
「あ、それからね小悪魔。お茶菓子は……」
「むー……」
次々と繰り出される主人の言葉に、小悪魔は頬を膨らませてうなった。
その反応に、パチュリーは特に悪気を感じるわけでもなく冷静だった。
「何よ、ただ紅茶とお茶菓子を注文してただけじゃない?」
「あ、違うんです」
慌ててパチュリーの方へ振り返った小悪魔の声は弱々しく、何だか落ち込んでいる様子。
態度には出さないが、パチュリーもやや心配になった。
「どうしたの? どこか体の具合でも悪いの?」
「いや、そういうのでもなくて、その……」
小悪魔の目は泳ぎ落ち着かない。
業を煮やしたパチュリーは、小悪魔の顔をじっと見据え、今までよりも強めの口調で迫った。
「そんな風にされるとこっちが気になって困るの。言いたいことがあったらはっきり言いなさい」
「は、はい! えーっと……」
鋭い目つきで見つめられ、小悪魔は背筋をピンと伸ばす。
それでもなお逡巡していたが、パチュリーの視線には敵わず、とうとう小さく言葉をこぼした。
「なまえ……」
「えっ?」
「パチュリー様、全然わたしのこと名前で呼んでくれないなって……」
予想外の返答に、目を丸くしたのはパチュリー。
先ほどとはうってかわって間の抜けた目つきで従者の顔をまじまじと眺め、一言。
「貴女、名前あったの?」
「あ、ありますよう! それもすっごい名前が!」
パチュリーの言葉に、若干涙目になりながら抗議する小悪魔。
感情と連動しているのか、頭の羽はいつにも増して激しく動いていた。
「すごい名前って、貴女は自分のことを上級の悪魔とでも言いたいの? 悪いけど、とてもそうは見えないわ」
興奮気味の小悪魔とは対照的に、パチュリーの声は実に落ち着いていた。
それもそのはず。パチュリーの知る限り、名を冠する悪魔は力強き者のみ。
どれだけ贔屓目に見ても、目の前の自称「すっごい名前」を持つ従者がそれに当てはまるとは思えなかったのだ。
だが、自称「すっごい名前」の悪魔はとても誇らしげだった。
「あれ、パチュリー様知らないんですか? 悪魔が契約を交わす時は、主人の能力に合わせて力に制約がかかるんですよ。だから今のわたしも本来の力の一部しか使えないんです」
「それは……聞き捨てならないわね」
小悪魔の言葉に、今度はパチュリーがむっとした。
もし小悪魔の言う通りであるとしたら、それはすなわち
「わたしの魔力が弱っちいから貴女は本気を出せないと、そう言いたいわけね?」
「いや、別にそういうつもりではないのですが……まあ論理的にはそうなってしまいますね」
「小悪魔、貴女も言うようになったわね……」
顔には出てないが、パチュリーは内心かなりビキビキきていた。
弱小悪魔の分際で、この『知識と日陰の少女』のことを馬鹿にしてきたのだ。
面白い、そこまで言うのであればその真の力とやらを見せてもらおうじゃないか。
「……今から一時的に貴女との契約を解くわ。思う存分、力を発揮しなさい」
「え、そんな突然!?」
「問答無用!」
「きゃあああ!?」
パチュリーはあっという間に契約破棄の魔法を唱え、辺り一面まばゆい光に包まれた。
「……どうなったの?」
「…………」
あの光はパチュリー自身にとっても想定外だったようで、しばらく目がくらんでいた。
しかしようやく目がなれてきたところで、小悪魔の様子を窺う。
そこには、特に姿形に変わり映えもなく突っ立っている赤毛の悪魔。
「やっぱり何も変わってないじゃない。嘘をつくならもっとましな……はっ!?」
「我は魔神……『ゴエティア』に記されしソロモン72柱が第八番……」
一瞬にして、パチュリーは全てを感じ取った。
眼前の悪魔の体からほとばしる、周囲を押し潰してしまいそうな強大な魔力。
生きとし生けるものを凍りつかせる、恐ろしき覇気。
パチュリー自身、この場から逃げ出したいという思いが湧き続けてしまう。
拭いきれない恐怖を押し殺し、パチュリーは微動だにしなかった。
逃げ出す前に、どうしてもつっこまなければならない重大な事項が、目の前に堂々と横たわっていたから。
「貴女、声が……」
「我が名はぁ……バルバトスぅ!」
「声がむさくるしい!」
真の力に目覚めた小悪魔(バルバトス)の声は、何故だかとってもむさくるしかった。
それこそブルァっとサイコで天から落としてオール・ハイルにゲームを主催しハッピーエンドの条件に会社の同僚を飲みに誘うような感じで、やたらむさくるしかった。
「はぁっはっはぁ! どぉですかパチュリー様ぁ! 溢れんばかりのこのぷぁわぁ!」
「ええ、驚きね」
主に声に。
というか声にインパクトがありすぎて、それ以外が霞んでしまった。
どの道、契約破棄も時間制限を設けてあるし、溢れんばかりの「ぷぁわぁ」もすぐに元通り、ただの小悪魔に戻る。
しかしこの小悪魔(バルバトス)、やけにテンションが高い。
「はぁっはっはぁ! これほどまでの力、パチュリー様には扱えないと思うかもしれませんがぁ、なぁんの問題も、何のもぉんだいもないぃ! 何故ならば、我がパチュリー様にお仕えするのは、ひとえに愛ぃ! 貴女様にお仕えする事が、我ぁが至上の喜びぃ!」
「…………」
この声で言われても、あまり嬉しくは無かった。
逆に、顔と声にギャップがありすぎて怖かった。
「はぁっはっはぁ! 血がぁ、血が見たい! 幾千幾万の英雄を、えぇいゆぅを狩り、その血が見たぁい!」
「何か貴女、最終的に『か、勘違いしないでよねっ! 別にアンタに負けたんじゃなくて、自分で死を選ぶだけなんだからねっ』(意訳)、とか言って死にそうね」
「はぁっはっはぁ!」
聞いちゃいなかった。
そんな小悪魔(バルバトス)を見ながら、パチュリーは額に手を当てた。
この際、自分の従者が実はとんでもない大物悪魔だったということは素直に認めよう。
その力も、直に制約によって収まってくれるから何の被害も出ることは無い。
だがしかし、それよりももっと大きな問題が一つ。
「この声、しばらく耳に残りそうね……あぁ」
想像してみよう。
例えばいつものようにパチュリーが小悪魔に命令を出し、小悪魔がそれに「はい、かしこまりました」と答えたとする。
その時パチュリーの耳には、いつもの小悪魔とダブって小悪魔(バルバトス)の「はぁい、かしこまりましたぁ~!」というむさっくるしい声が聞こえてくるのだ。
「……悪夢ね」
もう一つ想像してみよう。
命令通りに仕事をした小悪魔がパチュリーに褒められて、可愛らしい顔で「えへへ」と微笑んだとする。
その時パチュリーの耳には、小悪魔の笑顔にダブって小悪魔(バルバトス)の「えっへっへぇ~」というテンションの高い声が聞こえてくるのだ。
「……考えただけでゾッとする」
最後にもう一つだけ想像してみよう。
パチュリーと小悪魔の間では時折魔力供給の儀が行われる。魔力供給の儀とは端的に言って性交なのだが。
その時パチュリーの耳には、小悪魔の嬌声にダブって小悪魔(バルバトス)の……
「それ以上いけない」
パチュリーはブンブンと首を横に振って、ある意味暴走して歯止めの利かなくなったフランドールよりも恐ろしい想像を振り払った。
とにかく、小悪魔(バルバトス)の記憶が頭の片隅にでも残ってしまうことは非常にまずいのである。
可及的速やかに対処を講じなければならない。
「……そうだ、あれがあったはず」
パッと閃いて、パチュリーはソファから立ち上がりマジックアイテムの保管庫へと向かった。
小悪魔(バルバトス)と言えば、相変わらず「はぁっはっはぁ!」というけったいな笑い声をあげていた。
何だか一人で楽しそうだったので、放っておいて倉庫を目指す。
そこには、目当ての物があるに違いない。
「あった。これだわ」
倉庫の中を数分も調べない内に、探していたマジックアイテムを見つけ出した。
パチュリーはにやりと笑って、小瓶に入っている錠剤型のそれを一粒手に取った。
小瓶のラベルには、「記憶喪失薬」の文字。
「これさえあれば、一時間前後の記憶を完全に消去できる……」
これを飲めば、小悪魔(バルバトス)の声を耳から抹消することができる。
注意しなければならないのは、何故この薬を飲んだかメモを残しておくこと。そうしておけば、同じ過ちを犯す可能性が低くなる。
「えーっと、紙とペンは……」
書き残すための道具を探している、まさにその時だった。
パチュリーの背後から、すさまじい殺気。
「……えっ?」
驚き振り返ったパチュリーの目に映ったのは、鬼気迫る表情をした従者の姿。
「ア イ テ ム な ん ぞ 使ってんじゃねぇ!!!」
「きゃああああああ!!?」
気を失う直前、パチュリーは巨大な斧を持つ筋骨隆々の小悪魔(バルバトス)の姿を見た、ような気がした。
「……はっ!?」
バッと起き上がると、ここはいつも座っているソファの上。
手には読みかけの本。どうやらいつの間にか眠ってしまっていたらしい。
「夢?」
体中汗びっしょりで気持ち悪い。
これはすぐにでもシャワーを浴びたいなどと思いつつ、パチュリーはふと音のする方へ目をやった。
そこには床にペタンと腰をおろした小悪魔の後ろ姿。彼女の前にはテレビサイズのモニターと、黒い箱。
パチュリーが立ち上がって小悪魔のもとまで向かうと、彼女は振り返って、喜々とした表情でにっこり笑った。
「あ、お目覚めになられたんですね。それより見てください! ついににっくきあん畜生めをやっつけたんですよ!」
「にっくきあん畜生……?」
モニターを指差す小悪魔につられて目を運ぶと、画面には黒い箱よりデータを送られたゲームの映像。
そこにいた一人のキャラクターが、夢の中のアレと全く同じ名前で、全く同じ声をしていた。
「ねえ、これって……」
「外からやってきた玩具ですよ。それにしてもこいつには苦労しました。灼熱の~とか殺戮の~とかうっとうしくてたまりません。でもこいつはこれで最後です!」
実に楽しそうに笑う小悪魔。ストーリーも進んで、ひとまずデータをセーブしている。
対するパチュリーは、少し青い顔をしながら、小悪魔に質問をした。
「ねえ小悪魔。貴女、本当の名前は?」
「本当の名前? いやだなあ、低級悪魔のわたしにそんなのあるわけないじゃないですか。わたしは小悪魔です」
「契約を交わした時に制約がかかって、真の力を隠してるとか……」
「何ですかそれ? 真の力って、パチュリー様ひょっとしてアレですか? 思春期の子がよくかかるあの病気ですか?」
「…………」
質問を投げかけ終えて、一息ついてから、パチュリーは小悪魔の頭に思いっきり拳骨をお見舞いした。
「痛ぁ!?」
「遊んでないで仕事しなさい!」
「は、はいぃ!」
パチュリーに叱られて、小悪魔は慌てて仕事に復帰した。
急ぎ駆け回るその姿を呆れ顔で見送ってから、パチュリーはマジックアイテムの保管庫へ赴き、例の薬を探す。
「……あった」
お目当ての薬を見つけ出し、パチュリーはあの夢を記憶から一切消滅させた。
だからパチュリーさんもきっと癖になるに違いない。あっちの(ry
CVが脳内再生までは耐えられたのに。
RPG史上最強のセリフを言われては腹筋が持つわけがない。
しかし、あのアイテムに激怒するアレをされたら積む人も多そうだ。
輝夜はまだ何とかなるとしても、魔理沙や慧音は絶望的だな。夢が広がりんぐ。
パチュコアおいしかったけど若本は反則すぎるw
>ブルァっとサイコで……誘うような感じ
バル○トス、ベ○、イグ○ス、ジョ○ー、あ○ごは分かったが、他が分からん…
T○D2であの方との所詮で負けイベントかと思ったら
「その後~見たものはいなかった」
ってなって嘆いたのは良い思い出。
こぁの台詞をあの声で想像しただけでもう…!
ちなみに、古来より子安魔というネタがありましてね…(チラッ
くそお、これでこあの話を読むたびに若本で再生されるではないか!
おいw
ノーッレジになってるところが冒頭に。
というか、魔力配給の儀の詳細が聞き捨てならないでうよっ!
このSSはそれで良いのだと思いました。