「パルスィ(お姉ちゃん)と」
「へ?」
去年と同じようにパルスィと二人きりで過ごそうと、こいしに
『クリスマスイブはパルスィと予定が入っていますので、ンフフフフ』
と伝えようとした矢先だった。
今年のクリスマスイブはお姉ちゃん(パルスィ)と過ごすから、とこいしが返事をしたのは。
でも、そんな恋する乙女みたいな顔して言われては、お姉ちゃんだって堕ちちゃいますよ?
うふふ、こいしったらいつの間にか大人の階段を昇龍裂破してしまったのやら。
「おーい、お姉ちゃん。どうしたの」
「……っは。いやいやいや、聞き間違えかも知れませんよね、否そうですよきっとそうに決まってます」
「お姉ちゃーん?」
「大丈夫です、空耳に決まってますよ。そうでなければ――」
そうでなければ、先日クリスマスイブの予定をそれとなく尋ねに居酒屋水橋へ行ったら、予定表で当日が休みになっていた理由が分からない。
あらあらパルスィってば、それとないサインを覚えるとはやりますね。
ええ、心を読むまでも有りませんねこれは。
と、心の中でガッツポーズをしていた私が分からなくなる。
だから、気を落ち着けて、頭を壁に打ち付けてこいしに向き直り、尋ね直す。
「誰と過ごすと今言ったんですか」
「もう、ちゃんと聞いてよ。クリスマスイブはね、パルスィと一緒に過ごす約束してるから」
「へ、へー、そうなんですか」
「お姉ちゃん顔色悪いよ、大丈夫?」
「だ、大丈夫だぁ」
いつの間にか恋人を妹に寝取られていた。
いや、まだ寝取られてはいないが、最早確定事項と言えるだろう。
クリスマスイブの夜にわざわざ予約を入れて、家族(姉)に対しての死刑宣告。
考えてみて欲しい。
大事な一人娘(妹だが)がクリスマスに恋人と過ごすからと出て行って、翌日まで帰って来なかった時の消失感と絶望感を。
考えてみて欲しい。
恋人(と思っている相手)がいつのまにか妹に寝取られていたと、妹本人から知らされた時の衝撃を。
心の折れる音が何度も私の中でリフレインしている。
「で、お姉ちゃんその日、何か予定有る?」
「いえ……特に……」
私に飛びきりの笑顔を向けるこいしに、私はそう答える事しか出来なかった。
「そう、良かったぁ」
「ええ、何が良かったのか分かりませんが、今日はもう寝ますね」
「え、うん。お姉ちゃん具合悪そうだもんね、お休み」
私はふら付く足で自室に戻ると、ベッドに突っ伏した。
今の状態は何だろうか。
二人に対して怒っているわけではないし、悲しいわけでもない。
心に満たされていたものが、スッと抜けてしまったような、取り除かれてしまったような気持ち。
ただ、空虚だった。
・・・
クリスマスイブ当日。
目が覚めても、何をする気も起きなかった。
そのままベッドの上で天井を眺めていると、ドアをノックする音がした。
「どうぞ」
「失礼しますよっと」
返事をするとお燐が入って来て、そのまま暖炉の火の具合を調節し始めた。
寒い冬の間はこうやってペットたちが交代で暖炉を調節してくれるようになっている。
「珍しいですね、さとり様がこんな早く起きてるなんて」
灰を掻き出しながら、こちらを向いて話し掛けて来た。
「ええ、昨日早く寝てしまったものですから」
「いつもなら机に突っ伏して寝てますからね。また風邪引きますよ」
「ベッドに戻るのが面倒なんですよ」
「ほんのちょっとじゃないですか」
「朝起きたら、また机まで行かなきゃいけないじゃないですか」
朝ベッドから起きたら、また机に向かわなくてはいけない。
そう考えると、ベッドまで戻る気にはなれずに椅子で寝てしまうのだ。
「いやぁ、ものぐさとり様ここに極まれりって感じですね」
「何ですかその造語は。中々良い感じですから、今度使う事にしましょう」
「それで良いんですか」
「ええ、良いんですよ」
私が得意げに言うと、お燐が苦笑いする。
空虚だった心に、少しだけ何かが埋まったような気がした。
「さてと。そいじゃ、調節も終わったんであたいは死体集めに行って来ますね」
「ええ、行ってらっしゃい。寒いから気を付けてね」
お燐が出て行った後には、暖炉の火の燃える音だけが響いている。
パチパチと燃える火の音が暖かく感じられるが、お燐が手を入れるまでこの音は耳に入って来なかった。
周りが変わらなくても自分の感じ方が違うと、こうも違うのだろうか。
今の状態を何かしら表現出来ないものかと思い、机に向かい筆を執る事にした。
・・・
「うーん、っと。随分とのめり込んでしまいましたね」
時計を見るともう夕方に近い。
うっかり昼食を取るのも忘れるほど集中していたらしい。
「クリスマスイブに執筆が進むなんて、私も暇ですね全く」
今頃パルスィはこいしとデート中だろうか。
今年は濃厚なR-500カリスマ指定扱いのシーンを見せてやると、張り切っていた自分が酷く昔のように思える。
今年もクリスマスは、さとパルタグで埋まりまくるに決まっています、と思っていた自分が懐かしい。
落ち込んでいても仕方が無いので、ご飯でも食べに行こうと部屋を出ようとしたところで、誰かがドアをノックした。
今の時間、誰も来る予定は無かった筈だが。
「どうぞ」
「お姉ちゃん、いる?」
「あら、こいし。まだ出掛けて無かったのね」
「え、だって今日は……って何でLPで中島みゆきのわかれうたガンガンに掛けてるのよ!」
「良いんです。今の私にお似合いじゃないですか、わかれうた。でもね、私だって好きで歌うんじゃないんです。これ以外に知らないから歌ってしまうんです」
「もう、何言ってるのかさっぱり分かんないけど、そろそろパルスィ来るからお姉ちゃんも準備してよ」
「何で私が準備しなきゃいけないんですか」
「え、だって今日はお姉ちゃんたちとクリスマスパーティやろうって言ってたじゃない」
「はい? だって、今日はパルスィと二人で過ごす約束だって」
「へ?」
何か会話が噛み合っていないような気がする。
こいしも何か違うと考えているようだった。
「……あー、そうか。お姉ちゃんがクリスマスイブどうするって聞いて来た事が有ったじゃない」
「ええ、有りましたね。こいしはパルスィと二人きりで過ごすって」
「やだなぁ、二人きりで過ごすなんて言ってないよ。あの後お姉ちゃんも一緒にパーティやるでしょって聞くつもりだったんだけど、具合悪そうだから次で良いかってそのまま忘れてただけだよ」
「そんな大事な事忘れないで下さいよ!」
「てへ」
拳を作って軽く自分の頭を小突くこいし。
こんな仕草も可愛いと思ってしまうのが、いつも私達がこいしに勝てない理由の一つだろう。
そして私かパルスィがやったら、間違いなくどん引かれる事も勝てない理由の一つに挙げて良いだろう。
「それじゃ改めて。お姉ちゃん」
「はいはい」
「クリスマスイブだけど一緒にパーティしない?」
私の答えは決まっていた。
いつだって姉は妹のわがままには勝てないのだから。
「へ?」
去年と同じようにパルスィと二人きりで過ごそうと、こいしに
『クリスマスイブはパルスィと予定が入っていますので、ンフフフフ』
と伝えようとした矢先だった。
今年のクリスマスイブはお姉ちゃん(パルスィ)と過ごすから、とこいしが返事をしたのは。
でも、そんな恋する乙女みたいな顔して言われては、お姉ちゃんだって堕ちちゃいますよ?
うふふ、こいしったらいつの間にか大人の階段を昇龍裂破してしまったのやら。
「おーい、お姉ちゃん。どうしたの」
「……っは。いやいやいや、聞き間違えかも知れませんよね、否そうですよきっとそうに決まってます」
「お姉ちゃーん?」
「大丈夫です、空耳に決まってますよ。そうでなければ――」
そうでなければ、先日クリスマスイブの予定をそれとなく尋ねに居酒屋水橋へ行ったら、予定表で当日が休みになっていた理由が分からない。
あらあらパルスィってば、それとないサインを覚えるとはやりますね。
ええ、心を読むまでも有りませんねこれは。
と、心の中でガッツポーズをしていた私が分からなくなる。
だから、気を落ち着けて、頭を壁に打ち付けてこいしに向き直り、尋ね直す。
「誰と過ごすと今言ったんですか」
「もう、ちゃんと聞いてよ。クリスマスイブはね、パルスィと一緒に過ごす約束してるから」
「へ、へー、そうなんですか」
「お姉ちゃん顔色悪いよ、大丈夫?」
「だ、大丈夫だぁ」
いつの間にか恋人を妹に寝取られていた。
いや、まだ寝取られてはいないが、最早確定事項と言えるだろう。
クリスマスイブの夜にわざわざ予約を入れて、家族(姉)に対しての死刑宣告。
考えてみて欲しい。
大事な一人娘(妹だが)がクリスマスに恋人と過ごすからと出て行って、翌日まで帰って来なかった時の消失感と絶望感を。
考えてみて欲しい。
恋人(と思っている相手)がいつのまにか妹に寝取られていたと、妹本人から知らされた時の衝撃を。
心の折れる音が何度も私の中でリフレインしている。
「で、お姉ちゃんその日、何か予定有る?」
「いえ……特に……」
私に飛びきりの笑顔を向けるこいしに、私はそう答える事しか出来なかった。
「そう、良かったぁ」
「ええ、何が良かったのか分かりませんが、今日はもう寝ますね」
「え、うん。お姉ちゃん具合悪そうだもんね、お休み」
私はふら付く足で自室に戻ると、ベッドに突っ伏した。
今の状態は何だろうか。
二人に対して怒っているわけではないし、悲しいわけでもない。
心に満たされていたものが、スッと抜けてしまったような、取り除かれてしまったような気持ち。
ただ、空虚だった。
・・・
クリスマスイブ当日。
目が覚めても、何をする気も起きなかった。
そのままベッドの上で天井を眺めていると、ドアをノックする音がした。
「どうぞ」
「失礼しますよっと」
返事をするとお燐が入って来て、そのまま暖炉の火の具合を調節し始めた。
寒い冬の間はこうやってペットたちが交代で暖炉を調節してくれるようになっている。
「珍しいですね、さとり様がこんな早く起きてるなんて」
灰を掻き出しながら、こちらを向いて話し掛けて来た。
「ええ、昨日早く寝てしまったものですから」
「いつもなら机に突っ伏して寝てますからね。また風邪引きますよ」
「ベッドに戻るのが面倒なんですよ」
「ほんのちょっとじゃないですか」
「朝起きたら、また机まで行かなきゃいけないじゃないですか」
朝ベッドから起きたら、また机に向かわなくてはいけない。
そう考えると、ベッドまで戻る気にはなれずに椅子で寝てしまうのだ。
「いやぁ、ものぐさとり様ここに極まれりって感じですね」
「何ですかその造語は。中々良い感じですから、今度使う事にしましょう」
「それで良いんですか」
「ええ、良いんですよ」
私が得意げに言うと、お燐が苦笑いする。
空虚だった心に、少しだけ何かが埋まったような気がした。
「さてと。そいじゃ、調節も終わったんであたいは死体集めに行って来ますね」
「ええ、行ってらっしゃい。寒いから気を付けてね」
お燐が出て行った後には、暖炉の火の燃える音だけが響いている。
パチパチと燃える火の音が暖かく感じられるが、お燐が手を入れるまでこの音は耳に入って来なかった。
周りが変わらなくても自分の感じ方が違うと、こうも違うのだろうか。
今の状態を何かしら表現出来ないものかと思い、机に向かい筆を執る事にした。
・・・
「うーん、っと。随分とのめり込んでしまいましたね」
時計を見るともう夕方に近い。
うっかり昼食を取るのも忘れるほど集中していたらしい。
「クリスマスイブに執筆が進むなんて、私も暇ですね全く」
今頃パルスィはこいしとデート中だろうか。
今年は濃厚なR-500カリスマ指定扱いのシーンを見せてやると、張り切っていた自分が酷く昔のように思える。
今年もクリスマスは、さとパルタグで埋まりまくるに決まっています、と思っていた自分が懐かしい。
落ち込んでいても仕方が無いので、ご飯でも食べに行こうと部屋を出ようとしたところで、誰かがドアをノックした。
今の時間、誰も来る予定は無かった筈だが。
「どうぞ」
「お姉ちゃん、いる?」
「あら、こいし。まだ出掛けて無かったのね」
「え、だって今日は……って何でLPで中島みゆきのわかれうたガンガンに掛けてるのよ!」
「良いんです。今の私にお似合いじゃないですか、わかれうた。でもね、私だって好きで歌うんじゃないんです。これ以外に知らないから歌ってしまうんです」
「もう、何言ってるのかさっぱり分かんないけど、そろそろパルスィ来るからお姉ちゃんも準備してよ」
「何で私が準備しなきゃいけないんですか」
「え、だって今日はお姉ちゃんたちとクリスマスパーティやろうって言ってたじゃない」
「はい? だって、今日はパルスィと二人で過ごす約束だって」
「へ?」
何か会話が噛み合っていないような気がする。
こいしも何か違うと考えているようだった。
「……あー、そうか。お姉ちゃんがクリスマスイブどうするって聞いて来た事が有ったじゃない」
「ええ、有りましたね。こいしはパルスィと二人きりで過ごすって」
「やだなぁ、二人きりで過ごすなんて言ってないよ。あの後お姉ちゃんも一緒にパーティやるでしょって聞くつもりだったんだけど、具合悪そうだから次で良いかってそのまま忘れてただけだよ」
「そんな大事な事忘れないで下さいよ!」
「てへ」
拳を作って軽く自分の頭を小突くこいし。
こんな仕草も可愛いと思ってしまうのが、いつも私達がこいしに勝てない理由の一つだろう。
そして私かパルスィがやったら、間違いなくどん引かれる事も勝てない理由の一つに挙げて良いだろう。
「それじゃ改めて。お姉ちゃん」
「はいはい」
「クリスマスイブだけど一緒にパーティしない?」
私の答えは決まっていた。
いつだって姉は妹のわがままには勝てないのだから。
やっぱりさとりは暴走シスコンお嬢ですね! パルスィも大変そうだけど、まんざらでもなさそうでよかった
さとパルに目が行きがちだけれど、お燐とのシーンも素敵
妹より優れた姉などというが、さとりには決して負けないものがあるっ!
もっとストーリー練ってくれれば尚よし
oblivionさん>俺、いつか世の中を、さとパルでいっぱいにするのが夢なんだ……。
さとりはお嬢と言うより苦労性によってこいしを大切に思っていてそれが過ぎてつい暴走しちゃうんだ、的な。
パルスィはさとりが苦労性なのを知ってるので、ほっとけないんだと思います。
二人とも、苦労して笑い合ってる仲だと素敵です。
3, 4, 9, 12>コレステロールじゃなく百合ステロール値が大変な事になってますが、本懐であります。
5>そう、今こそ目覚めの時。
お燐は自分の出来る部分で主人の負担を減らそうとしてて、本人も無理をしない気楽な性格と、他人が出来るところは他人に任せてしまえる豪気さが良い方に作用してるイメージですね。
主人ほど苦労性でも無く。
さとりも信用だけじゃなく信頼してるんじゃないかと思います。
鳥丸さん>クリスマ(以下略
姉より優れた妹などいねぇ、がモットーな私で有ります。
さとりの負けないもの、それは……ウェスt(字がかすれていてこれ以上読めない
14>私もその意見には全面的に賛成です。
とある二作品を読んで残り6時間でどうにかなるか? 的な捲り方をしたので、かなり粗いですね。
まあ、大体練ろうとすると、迷走して何かが折れるレベルなのでまだまだです。
間に合わなくてもいいのだ。気持ちがあれば。