今日はクリスマス・イブ前日である。
地霊殿の主である、古明地さとりはある部屋で動物達の為に、クリスマスプレゼントを作っていた。
「お空には……これ。お燐には……これを……」
そのような独り言をつぶやきながら、動物達が欲しいものを、箱に入れてリボンで包装したり、箱に入りきれない物はそれ自体にリボンでラッピングを行っていた。
「ふう、みんな欲しい物が分かっているのは助かるけど、数が多いから一人でするのは大変ね」
さとりは、自分が作ったクリスマスプレゼントの山に、一息ついてそう言った。
『心を読む程度の能力』のおかげで、動物達から本当に欲しいクリスマスプレゼントを知るのは簡単だったが、それを用意するのに一週間ぐらいかかった。何しろ数が数だ。
地上の霧雨 魔理沙にも協力してもらいなんとかクリスマス・イブ前日には用意する事が出来た。
あとは、明日の夜にこれを動物達に気付かれないように、枕元に置くだけだ。
「……朝までに配り終えられるかしら……」
一つの不安が、脳裏をよぎった。
「……まあ、それは後で考えるようにしましょう」
しかしプレゼントを作り続けていた疲労の為、それは少し休んでから考えようと、放置した。
「紅茶でも飲んで、一息つくとしますか」
そう言って、部屋を出ようとした時
「ふぅ~」
「きゃあ!!」
突然、耳に息を吹きかけられ、こそばゆいぞわぞわとした感覚に、さとりは悲鳴を上げて地面に尻もちをついてしまった。
「あは。お姉ちゃん、びっくりした?」
そして、突然その場に現れた人物に、さとりは言葉をなくした。
「……こいし……」
そこには、さとりの妹である、古明地こいしがさとりの目の前に立っていた。
「ただいま~お姉ちゃん。久しぶりに地霊殿に帰ってきたけど、お姉ちゃんいつもの部屋にいなかったから探しまわっちゃったよ。だからこれは、私を探し回させたおかえし、びっくりしたお姉ちゃん可愛かったよ。きゃあって……」
まくし立てるように言うこいしに、さとりは言葉を失っていた。
こいしは、この世界で唯一さとりの能力の通用しない相手だ。
『無意識を操る程度の能力』
以前は、こいしもさとりと同じ能力を保有していたが、自ら第三の目を潰したことで別の能力に変化してしまった。
さとりには、こいしの心がまったく読めなかった。
一体こいしは、なにを考えているのか。
さとりは、不安で仕方がなかった。
「お姉ちゃん?」
気付くと、こいしがさとりの目と鼻の先まで近づいていた。
もし、こいしが半歩前に出ただけで、さとりとこいしの距離がなくなる。
「!!」
さとりは、顔を赤くして地面に尻をついた状態で手と足を使って後ずさった。
「あはは、お姉ちゃん顔真っ赤っか~ 私がちゅ~すると思った?」
こいしは、子供のような無邪気な笑顔でそう言った。
一体、こいしはなにを考えているのか。
さとりには全くわからなかった。
考えても、考えても、答えの出ないジレンマに陥ってしまう。
だから……
「お、お姉ちゃんをからかわないの!!」
つい声を荒げて、会話を強制的に遮断してしまう。
突然のさとりの荒げた声に、こいしは驚き、びくっと肩を上げた。
「ご、ごめんなさい。お姉ちゃん……」
こいしは顔を下に向けて、謝った。
まただ。
またこの繰り返しだ。
こいしの行動が理解できず、不安になり、さとりが声を荒げて怒り、こいしが落ち込む。
そして、いつの間にかこいしはどこかに消えてしまう。
それが、あの時から繰り返している姉妹の対話だった。
しかし、今回は違った。
「お姉ちゃん。これってクリスマスプレゼントなの?」
こいしは、さとりに背を向けて、たくさん用意されたクリスマスプレゼントを見ていた。
「え? ……ええそうよ。いつも動物達にはいろいろとお世話になったから、そのお礼を兼ねてね」
「ふ~ん……」
そこで、こいしとの会話が途切れた。
部屋を重い沈黙が包み込んだ。
……何か話さないと……
しかし、こいしが何を考えているのかわからないさとりには、なにを言っていいのかわからなかった。
しかししばらくして、こいしの一言で沈黙が破られた。
「……私の分のあるの?」
「!!」
さとりの思考は真っ白になって停止し、体は硬直した。
こいしはこの世界でたった一人の大切な妹だ。忘れるはずなんてない。
でもあの中に、こいしのプレゼントはない。
こいしが、なにを欲しいのかわからなかったから……
しかし再びまわり始めた、思考の中でこれはチャンスだという結論が導きだされた。
もしかしたら、こいしが欲しいものが分かるかも知れない。
「……こいしは、なにか欲しいものがあるの?」
さとりは、意を決してこいしにそう問いかけた。
「う~ん、そうだな~ なにがいいかな~」
そう言って、こいしは楽しそうに笑みを浮かべながら、クリスマスプレゼントはなにがいいかを考えていた。
さとりは、心の中で胸をなでおろした。
これで、こいしのクリスマスプレゼントがやっとわかる。
こいし自身が言ってくれた物なら、心の中が違ってもきっと納得してくれるだろうとそう思っていた。
しかし、こちらを振り返り満面の笑みでこいしが希望したクリスマスプレゼントは……
「アイのクリスマスプレゼントが欲しい」
さとりが思っていたよりも遥かに難解な、クリスマスプレゼントだった。
「アイのクリスマスプレゼントってなんなのよ~ こいし~!」
結局こいしは、それだけを告げただけでその場からいなくなり、さとりはこいしの希望であるアイのクリスマスプレゼントとは一体なんなのかを、頭を抱えて悩むこととなった。
あい、アイ、愛、藍、相、穢、哀、間、I、eye
アイって一体なんのアイなのだろうか。
今まで、本を読んでいた知識の中で、アイなんて単語は山ほどある。
その中からこいしが希望する、アイを探すことなんて、明日に迫るクリスマス・イブには到底間に合いそうになかった。
さとりは、思考の迷路に陥っていた。
「そんな、考えすぎなくてもいいんじゃありませんか? さとり様」
紅茶セットを持ってさとりの部屋に入ってきた、火焔猫 燐通称お燐はそう言った。
「なんでもいいじゃありませんか。さとり様の思いがこもったプレゼントなら、こいし様もきっと喜ばれると思いますよ」
「そんなことを言ったら、私がプレゼントした物が、こいしの愛情と比例した物になってしまうじゃない。それじゃあプレゼントとしては大きすぎるわよ」
その言葉に、お燐の額に一筋の汗が流れた。
(「この人、こいし様の愛情に比例するプレゼントってどんな物になるんだろう?」)
「そんなのこの世界全てに、決まっているでしょう」
即答だった。
(「うわ~ 即答しちゃたよ。この人! あと心を読まないでくださいよ。さとり様」)
「この能力は自動的なんだから仕方がないでしょ。あとこいしはこの世界でたった一人の妹なのよ。その愛情を物で表すなら、世界をあの子にあげるわよ」
「この人極度のシスコンだ!」
(「なら、その言葉をこいし様に、直接言えばいいんじゃないんですか?」)
「お燐、本音と言葉が逆になっているわよ。あと私はシスコンではありません。一般的な一途に妹を思う姉です」
「それが、シスコンって言うんですよ!!」
「もはや、心の中で言うことすらないの!?」
そんな会話が続いた。
「う~ん アイ、あい、アイ~」
「さとり様~ もうお休みになった方がいいですよ。悩み続けていると、まとまるものもまとまらなくなりますよ?」
あれから二時間ほど経過したが、さとりの答えはまったくでなかった。
本当に世界をこいしに上げようかと、異変をおこしてやろうかと考えて、お燐にねこチョップで頭をたたかれて止められたり。
Eyeということで、自分の第三の目をこいしにあげようかと思って、第三の目を引っ張ろうとしてお燐に泣き付かれて止めたりしていた。
さとり自身も、思考が良くない方向に向いている事がわかった。
まるで結び目を解こうとして引っ張れば、引っ張るほど堅く結ばれる堅結びのようだった。
そんな時、ドアがノックされ、霊烏辞 空通称お空が入ってきた。
「さとり様、お先に眠らさせてもらいます」
お空は瞼が半分しか開いておらず、眠そうな表情でそう言ってきた。
「もう、そんな時間なのね。お空、お休みなさい」
「お休みなさい、さとり様~」
そう言って、ドアを閉めようとしたお空を
「ちょ、ちょっと待ってよ。お空!」
お燐が止めた。
「なに、お燐? 今日はとっても眠いんだよ~ ふあ~」
お空は眠い目をこすり、あくびをしながらお燐にそう言った。
「お空も考えてくれないかい? こいし様のクリスマスプレゼントでアイのプレゼントについて」
「栗、酢鱒? 栗と鱒を酢に付けるとおいしいの?」
「なに言ってるんだい。アイだよ。アイ!」
「アイ、アイ? おさるさんだよ?」
「そりゃアイアイだよって? 合ってるのか? あれ?」
お空もお燐もよくわからない会話になっていた。
それを見て、さとりは今日の限界を感じた。
「はあ~ もういいわ。もう寝るから、お燐はお空を寝床まで送ってあげて」
「えっ!? は、はいわかりました」
(「やった!! これでさとり様の無限思考迷路につきあわされなくてすむ。ナイスお空!」)
わるかったわねと心の中でつぶやくが、言葉にはださない。
お燐には、無理をさせてしまったことは分かっているのだから。
「ごめんなさい、お燐。無理をさせてしまって」
「あっ、いっ、いえ! そ、それじゃ、お休みなさい!」
心を読まれて、気まずくなったお燐は、そう言ってお空の手を引いて逃げるように部屋を出て行った。
「お休みなさい、お燐、お空……」
そう誰もいなくなった部屋でつぶやくように言うと、さとりはそのままの格好で、ベッドに倒れこんだ。
もうなにも考えたくなかった。
考えても、考えても、なにも答えのでない問い。
アイとか一体なんなのか?
(こいし…… あなたのアイは一体なんなの?)
そう心の中で思いながら、さとりは眠りの中に沈んでいった。
こいしがまだ第三の目が開いていた時
あの頃のさとりとこいしは、自分達だけの言葉があった。
寝ている時も同じ夢を見て、別々に行動している時でもどこでも心の中で会話ができていた。
第三の目を通して、お互いの心が共有し合っていた。
さとりには、それがこの世界でたった一人の妹である、こいしとの途切れることのない絶対的な絆だと思っていた。
そう、思っていたのに……
こいしは、その絆を自分から潰してしまった。
そして、なにもわからなくなった。
一体こいしがなにを考えているのかわからず。
どのような言葉をかけていいのかわからず。
目の前にいるのに、会話すらできなくなってしまった。
そして、こいしはどこかに行ってしまった。
こいしがなにを考えているのかわからない。
こいしの心がわからない……
心がわからない……
心が……
「こいし!!」
さとりは、叫び声を上げて目を覚ました。
「夢……」
さとりはそう呟いた時、頬を流れる冷たい感覚に気付いた。
「涙……」
さとりは、知らず、知らずの内に涙を流していた。
夢を見た。
昔の夢を、こいしと心でつながっていた頃の夢を
でも、もうそんなことはもう出来なくなって……
「こいし、こいし~!!!!!」
さとりは、ベッドに顔をうずめながら大声で泣いた。
心がとても切なかったから。
もう第三の目を共有して心を通わす事は出来ない。
そんなこと、もう昔からわかりきっているはずなのに、どうして今さらそんな事を思い出してしまったのだろうか?
絆はこいし自身が絶ってしったのだから
「もう、こいしと心を通わせることはできない!!」
それはもう悲鳴のような言葉だった。
その時、ふと脳裏に何かが浮かんだ。
「……こころを通わせる?」
そう言葉を何度も、心の中で繰り返し唱えて
「!!」
ある結論に達した。
そしてさとりは行動を開始した。
アイのクリスマスプレゼントを探しに。
「……」
クリスマス・イブの夜
こいしは、密かにさとりの寝室を訪れていた。
能力を使用することで、誰にも気づかれることなく寝室に入ることができた。
こいしは、ベッドで眠るさとりを見つめていた。
きっと、あの大量のプレゼントを一人で動物達に配っていたのだろう。
こいしが近くにいても、起きる様子もなく規則的に寝息を立てていた。
「お姉ちゃん……」
こいしが、名前をつぶやくように言うが、さとりは眠り続けていた。
きっと、こいしがさとりの体を揺すれきっとさとりは眠りから覚めて、こいしの名前を呼んでくれるだろう。しかしこいしは、それを行わなかった。
たとえ起こしたとしても数回会話を交えれば、すぐに沈黙が訪れてしまう。
こいしは、思いを心に留めておくことができない。
思った事をすぐに行動したり、口に出してしまう。
これも、第三の目を潰した代償なのだろう。
その為、さとりとうまく会話することができず、結局さとりを怒らせて気まずい雰囲気になってしまい居たたまれなくなり逃げてしまう。
その繰り返しだった。
あの時もそうだ。
アイのクリスマスプレゼントなんて、こいしが気まぐれで口にした言葉だった。
きっとさとりは、こいしが言った言葉を、意味を理解しようと、必死にアイのクリスマスプレゼントを探したのだろう。
気まぐれで言った、思いのないからっぽな言葉だというのに……
「ごめんね……お姉ちゃん。こんなだめで、からっぽな妹で……」
こいしは、眠り続けているさとりに涙を流しながら帽子を取り、頭を下げて謝った。
その謝罪の言葉も、涙が床に垂れる音も、さとりには聞こえることはなかった。
もう消えようと思った。
こいしが、ここに存在している限り、さとりの負担になってしまう。
でも、最後に、最後に一目でいいから、世界で一番愛している姉の姿を見ようと意を決して地霊殿を訪れた。
こいしは、さとりの寝顔を目に焼き付けた。
もう二度と会うことは、ないだろう。
こいしは、名前通り道端に落ちている、人の目にも事のない小石になるのだから……
その思って、さとりの顔を見終えて、ふと横に視線を向けると、ベッド近くのテーブルにラッピングされた四角い箱があった。
近づいて見ると、箱には小さなカードが挟まれてあり、そこには……
『メリークリスマス。こいし』
と書かれていた。
こいしは、もう一度さとりを見た。
さとりは、寝息を立てて眠り続けている。起きる様子もない。
「私が、ここにくる事を知っていたの?」
まるで、こいしが第三の目を潰す前に戻ったような気分だった。
こいしは、ゆっくりと包装を解き、さとりが選んでくれた中から現れたクリスマスプレゼントを見た。
それは、黄色と黄緑で飾られた日記帳と、藍色の万年筆だった。
こいしは、震える手で、ゆっくりと日記帳をめくった。
すると、最初のページになにか書かれてあった。
メリークリスマス。こいし
私が考えたアイのクリスマスプレゼントはあなたの思い描いた物だったかしら
お互いの心が通わなくなって、ずいぶん立つけど、私の心はなにも変わらないわ。
あなたと心を通わせることはできないけれど、
心の言葉を文字にして心を通わせてることはできると思うの
なんでもいい、どんなことでもいい、あなたの心の言葉をここに書き留めて
私の心の中にはどんな時も、あなたがいます
この世界でどんなものよりも大切な最愛なる妹へ さとり
「おね~ちゃん!!!」
こいしは、思わず泣き崩れた。
姉は、片時も自分の事を迷惑だと思っていなかった。むしろ心配してくれていた。
そして、今度は心がない自分に心を通わせようとしてくれた。
なにもない、からっぽな自分なのに……
こいしは、なにか返事を書かなければならないと思った。
でも、心が張り裂けそうなくらいに嬉しさがこみあげて、それが涙となって溢れ滴となって日記帳の紙を濡らした。
手でぬぐっても、ぬぐっても涙はあふれだしてきた。
こいしは涙を流しながら、姉からクリスマスプレゼントでもらった万年筆で、必死でお礼の返事を書いた。
クリスマス・イブの夜が明けて、クリスマス本番の朝を迎えた。
さとりは、イブの夜に必死になってクリスマスプレゼントを動物達に配った事で疲労困憊になり、ベッドに入るとすぐに眠りに落ちてしまった。
眠りから目を覚ましたさとりは、すぐに体を起こして枕元近くの机に目をやった。
そこには、包装が解かれた。日記帳の上に万年筆が置かれてあった。
「こいし……来てくれたのね」
それは、賭けだった。
無意識を操る程度の能力で、こいしの場所を特定することはできない、ならきっとこいしはクリスマス・イブの日、ここに訪れるだろうと思い、枕元のテー ブルの上にクリスマスカードと一緒に置いた。
それが、包装を解いてここに置いてあるということは……
思わず、さとりは日記帳を手に取り、恐る恐る日記帳の表紙を開いた。
そして、その言葉を見たとき、さとりの目から涙があふれ出してきた。
「こいし……ありがとう」
さとりがクリスマスプレゼントでこいしに送った日記帳には、さとりがこいしに送ったメッセージの下に、なにかににじんだインクでこう書かれていた。
ありがとう おねえちゃん だいすき こいし
もうその言葉だけで、十分だった。
こいしが、第三の目を潰して以降、初めて心が通じた瞬間だった。
その後、さとりとこいしは日記帳で交換日記を行うようになった。
さとりが今日一日の事を日記帳に書いて眠りにつくと、目覚めた朝にはこいしから返事が書いてある。
さとりは、地底や地霊殿、動物達の事を書き、こいしは、地上でどんなことがあったのかこいしの視点で書かれていた。
それは、以前のように心を言葉にしたお互いを共有しているとさとりは思った。
それから、さとりは少しずつこいしと直接会話を行うようになった。
日記に書いてあった内容を質問したり、こいしの地上の思いで話に耳を傾けたりした。
こいしも、さとりの質問にしっかりと答えるようになり、思った事をすぐに行動したり、口に出してしまうことは変わらないが、さとりもその行動を理解して以 前のような重い空気になることはなかった。
そして、今日はこいしが久しぶりに地霊殿に泊まる日だった。
「お姉ちゃん、どうして今日記を書いてるの? 今日は私ここに泊まるんだよ?」
こいしは、白いキョミソールの寝巻姿でベッドにもぐりこんで、日記を書いているさとりにそう問いかけた。
「なんでかしらね。もう癖のようなものかしら。これを書かないと落ち着かなくて」
さとりも、こいしと同じ白いキャミソールの寝巻姿で、日記帳に万年筆を走らせながらそう言った。
「じゃあ、私はお姉ちゃんが起きるまでに、日記帳に返事を書かなくちゃね」
「だめよ。こいしは私と一緒に寝るんだから、私より先に起きちゃいけません」
「え~ じゅあ、私お姉ちゃんの抱き枕になっちゃうの?」
「そうなるわね」
「なにそれ、可笑し~」
そう言って、さとりとこいしは笑い合った。
「さて、終わり。寝ましょうか、こいし」
「はーい」
さとりとこいしは二人一緒に、ベッドに入った。
「ねえ、お姉ちゃん、今日はなにを書いたの?」
「あら、それは日記を見てから確かめるんじゃなかったの?」
「でも、目の前で書かれたら気になるじゃない。ねえ、どんな事を書いたの?」
「そうね~ 今日はこいしが久しぶりに地霊殿に泊まりにくるので、とてもうれしいかった。腕によりをかけておいしい料理をごちそうしたし、一緒に布団で寝ることもできました。私はこんな可愛い妹を持てて最高に幸せですって書いたわよ」
「わ~ お姉ちゃんのシスコン~」
「シスコンって言わないの。それで、こいしはどんな返事を書くのかしら?」
「う~んとね~ 久しぶりの地霊殿は、思い出の中の地霊殿と全然変わらなくて温かくて、体がぽかぽかしました。お姉ちゃんのお料理もおいしかったし、動物達もかわいかったです。私はこんなお姉ちゃんを持てて本当に幸せ者だなと思いました」
「こいし~」
思わす、さとりはこいしに抱きついて、顔を胸にうずめた。
「きゃ~ お姉ちゃんに抱き枕にされる~」
そんな仲睦まじい姉妹のじゃれあいは、しばらく続いた。
さとりが電気を消して、暗闇の中しばらくしてさとりは、口を開いた。
「こいし、起きてる?」
「ん? なにお姉ちゃん?」
「アイのクリスマスプレゼントって覚えてる?」
「……うん。あれで今の交換日記が始まったんだよね」
「あれって、どういう意味だったの?」
「…………よくわからない。その言葉も意味もなく、私の気まぐれで出た言葉だから……」
「でも、今考えてみると意味があったと思うの」
「どういうこと?」
「アイは愛情の愛だとして、その人を愛するにはその人をよく見て理解する必要があると思うの。私はあの時、こいしの心が読めない理由から、なにを言っていいのかわからなかった。目を逸らしていたの。でもあのアイのクリスマスプレゼントのおかげで、その心だけじゃなくて、違う方法もあることに気付いた」
「つまり、あの気まぐれに出た言葉は……」
「無意識に発した。こいしの心の悲鳴だったのかもしれないわね。私を見てって」
「う~ん よくわかんないな。私の目は完全につぶれて閉じてしまっているし、心も読めなくなってしまっているから」
「でも、今はこの能力に頼らなくても、こいしの心を何となく知ることもできるようになった」
「結果良ければ、全てよしって感じかな」
「そうね」
「それじゃあ、もう夜も遅いから寝ちゃおっか。お姉ちゃん、お休みなさい」
「お休みなさい、こいし」
そう言って、二人は仲好く抱き合いながら、眠りに落ちていったのだった。
地霊殿の主である、古明地さとりはある部屋で動物達の為に、クリスマスプレゼントを作っていた。
「お空には……これ。お燐には……これを……」
そのような独り言をつぶやきながら、動物達が欲しいものを、箱に入れてリボンで包装したり、箱に入りきれない物はそれ自体にリボンでラッピングを行っていた。
「ふう、みんな欲しい物が分かっているのは助かるけど、数が多いから一人でするのは大変ね」
さとりは、自分が作ったクリスマスプレゼントの山に、一息ついてそう言った。
『心を読む程度の能力』のおかげで、動物達から本当に欲しいクリスマスプレゼントを知るのは簡単だったが、それを用意するのに一週間ぐらいかかった。何しろ数が数だ。
地上の霧雨 魔理沙にも協力してもらいなんとかクリスマス・イブ前日には用意する事が出来た。
あとは、明日の夜にこれを動物達に気付かれないように、枕元に置くだけだ。
「……朝までに配り終えられるかしら……」
一つの不安が、脳裏をよぎった。
「……まあ、それは後で考えるようにしましょう」
しかしプレゼントを作り続けていた疲労の為、それは少し休んでから考えようと、放置した。
「紅茶でも飲んで、一息つくとしますか」
そう言って、部屋を出ようとした時
「ふぅ~」
「きゃあ!!」
突然、耳に息を吹きかけられ、こそばゆいぞわぞわとした感覚に、さとりは悲鳴を上げて地面に尻もちをついてしまった。
「あは。お姉ちゃん、びっくりした?」
そして、突然その場に現れた人物に、さとりは言葉をなくした。
「……こいし……」
そこには、さとりの妹である、古明地こいしがさとりの目の前に立っていた。
「ただいま~お姉ちゃん。久しぶりに地霊殿に帰ってきたけど、お姉ちゃんいつもの部屋にいなかったから探しまわっちゃったよ。だからこれは、私を探し回させたおかえし、びっくりしたお姉ちゃん可愛かったよ。きゃあって……」
まくし立てるように言うこいしに、さとりは言葉を失っていた。
こいしは、この世界で唯一さとりの能力の通用しない相手だ。
『無意識を操る程度の能力』
以前は、こいしもさとりと同じ能力を保有していたが、自ら第三の目を潰したことで別の能力に変化してしまった。
さとりには、こいしの心がまったく読めなかった。
一体こいしは、なにを考えているのか。
さとりは、不安で仕方がなかった。
「お姉ちゃん?」
気付くと、こいしがさとりの目と鼻の先まで近づいていた。
もし、こいしが半歩前に出ただけで、さとりとこいしの距離がなくなる。
「!!」
さとりは、顔を赤くして地面に尻をついた状態で手と足を使って後ずさった。
「あはは、お姉ちゃん顔真っ赤っか~ 私がちゅ~すると思った?」
こいしは、子供のような無邪気な笑顔でそう言った。
一体、こいしはなにを考えているのか。
さとりには全くわからなかった。
考えても、考えても、答えの出ないジレンマに陥ってしまう。
だから……
「お、お姉ちゃんをからかわないの!!」
つい声を荒げて、会話を強制的に遮断してしまう。
突然のさとりの荒げた声に、こいしは驚き、びくっと肩を上げた。
「ご、ごめんなさい。お姉ちゃん……」
こいしは顔を下に向けて、謝った。
まただ。
またこの繰り返しだ。
こいしの行動が理解できず、不安になり、さとりが声を荒げて怒り、こいしが落ち込む。
そして、いつの間にかこいしはどこかに消えてしまう。
それが、あの時から繰り返している姉妹の対話だった。
しかし、今回は違った。
「お姉ちゃん。これってクリスマスプレゼントなの?」
こいしは、さとりに背を向けて、たくさん用意されたクリスマスプレゼントを見ていた。
「え? ……ええそうよ。いつも動物達にはいろいろとお世話になったから、そのお礼を兼ねてね」
「ふ~ん……」
そこで、こいしとの会話が途切れた。
部屋を重い沈黙が包み込んだ。
……何か話さないと……
しかし、こいしが何を考えているのかわからないさとりには、なにを言っていいのかわからなかった。
しかししばらくして、こいしの一言で沈黙が破られた。
「……私の分のあるの?」
「!!」
さとりの思考は真っ白になって停止し、体は硬直した。
こいしはこの世界でたった一人の大切な妹だ。忘れるはずなんてない。
でもあの中に、こいしのプレゼントはない。
こいしが、なにを欲しいのかわからなかったから……
しかし再びまわり始めた、思考の中でこれはチャンスだという結論が導きだされた。
もしかしたら、こいしが欲しいものが分かるかも知れない。
「……こいしは、なにか欲しいものがあるの?」
さとりは、意を決してこいしにそう問いかけた。
「う~ん、そうだな~ なにがいいかな~」
そう言って、こいしは楽しそうに笑みを浮かべながら、クリスマスプレゼントはなにがいいかを考えていた。
さとりは、心の中で胸をなでおろした。
これで、こいしのクリスマスプレゼントがやっとわかる。
こいし自身が言ってくれた物なら、心の中が違ってもきっと納得してくれるだろうとそう思っていた。
しかし、こちらを振り返り満面の笑みでこいしが希望したクリスマスプレゼントは……
「アイのクリスマスプレゼントが欲しい」
さとりが思っていたよりも遥かに難解な、クリスマスプレゼントだった。
「アイのクリスマスプレゼントってなんなのよ~ こいし~!」
結局こいしは、それだけを告げただけでその場からいなくなり、さとりはこいしの希望であるアイのクリスマスプレゼントとは一体なんなのかを、頭を抱えて悩むこととなった。
あい、アイ、愛、藍、相、穢、哀、間、I、eye
アイって一体なんのアイなのだろうか。
今まで、本を読んでいた知識の中で、アイなんて単語は山ほどある。
その中からこいしが希望する、アイを探すことなんて、明日に迫るクリスマス・イブには到底間に合いそうになかった。
さとりは、思考の迷路に陥っていた。
「そんな、考えすぎなくてもいいんじゃありませんか? さとり様」
紅茶セットを持ってさとりの部屋に入ってきた、火焔猫 燐通称お燐はそう言った。
「なんでもいいじゃありませんか。さとり様の思いがこもったプレゼントなら、こいし様もきっと喜ばれると思いますよ」
「そんなことを言ったら、私がプレゼントした物が、こいしの愛情と比例した物になってしまうじゃない。それじゃあプレゼントとしては大きすぎるわよ」
その言葉に、お燐の額に一筋の汗が流れた。
(「この人、こいし様の愛情に比例するプレゼントってどんな物になるんだろう?」)
「そんなのこの世界全てに、決まっているでしょう」
即答だった。
(「うわ~ 即答しちゃたよ。この人! あと心を読まないでくださいよ。さとり様」)
「この能力は自動的なんだから仕方がないでしょ。あとこいしはこの世界でたった一人の妹なのよ。その愛情を物で表すなら、世界をあの子にあげるわよ」
「この人極度のシスコンだ!」
(「なら、その言葉をこいし様に、直接言えばいいんじゃないんですか?」)
「お燐、本音と言葉が逆になっているわよ。あと私はシスコンではありません。一般的な一途に妹を思う姉です」
「それが、シスコンって言うんですよ!!」
「もはや、心の中で言うことすらないの!?」
そんな会話が続いた。
「う~ん アイ、あい、アイ~」
「さとり様~ もうお休みになった方がいいですよ。悩み続けていると、まとまるものもまとまらなくなりますよ?」
あれから二時間ほど経過したが、さとりの答えはまったくでなかった。
本当に世界をこいしに上げようかと、異変をおこしてやろうかと考えて、お燐にねこチョップで頭をたたかれて止められたり。
Eyeということで、自分の第三の目をこいしにあげようかと思って、第三の目を引っ張ろうとしてお燐に泣き付かれて止めたりしていた。
さとり自身も、思考が良くない方向に向いている事がわかった。
まるで結び目を解こうとして引っ張れば、引っ張るほど堅く結ばれる堅結びのようだった。
そんな時、ドアがノックされ、霊烏辞 空通称お空が入ってきた。
「さとり様、お先に眠らさせてもらいます」
お空は瞼が半分しか開いておらず、眠そうな表情でそう言ってきた。
「もう、そんな時間なのね。お空、お休みなさい」
「お休みなさい、さとり様~」
そう言って、ドアを閉めようとしたお空を
「ちょ、ちょっと待ってよ。お空!」
お燐が止めた。
「なに、お燐? 今日はとっても眠いんだよ~ ふあ~」
お空は眠い目をこすり、あくびをしながらお燐にそう言った。
「お空も考えてくれないかい? こいし様のクリスマスプレゼントでアイのプレゼントについて」
「栗、酢鱒? 栗と鱒を酢に付けるとおいしいの?」
「なに言ってるんだい。アイだよ。アイ!」
「アイ、アイ? おさるさんだよ?」
「そりゃアイアイだよって? 合ってるのか? あれ?」
お空もお燐もよくわからない会話になっていた。
それを見て、さとりは今日の限界を感じた。
「はあ~ もういいわ。もう寝るから、お燐はお空を寝床まで送ってあげて」
「えっ!? は、はいわかりました」
(「やった!! これでさとり様の無限思考迷路につきあわされなくてすむ。ナイスお空!」)
わるかったわねと心の中でつぶやくが、言葉にはださない。
お燐には、無理をさせてしまったことは分かっているのだから。
「ごめんなさい、お燐。無理をさせてしまって」
「あっ、いっ、いえ! そ、それじゃ、お休みなさい!」
心を読まれて、気まずくなったお燐は、そう言ってお空の手を引いて逃げるように部屋を出て行った。
「お休みなさい、お燐、お空……」
そう誰もいなくなった部屋でつぶやくように言うと、さとりはそのままの格好で、ベッドに倒れこんだ。
もうなにも考えたくなかった。
考えても、考えても、なにも答えのでない問い。
アイとか一体なんなのか?
(こいし…… あなたのアイは一体なんなの?)
そう心の中で思いながら、さとりは眠りの中に沈んでいった。
こいしがまだ第三の目が開いていた時
あの頃のさとりとこいしは、自分達だけの言葉があった。
寝ている時も同じ夢を見て、別々に行動している時でもどこでも心の中で会話ができていた。
第三の目を通して、お互いの心が共有し合っていた。
さとりには、それがこの世界でたった一人の妹である、こいしとの途切れることのない絶対的な絆だと思っていた。
そう、思っていたのに……
こいしは、その絆を自分から潰してしまった。
そして、なにもわからなくなった。
一体こいしがなにを考えているのかわからず。
どのような言葉をかけていいのかわからず。
目の前にいるのに、会話すらできなくなってしまった。
そして、こいしはどこかに行ってしまった。
こいしがなにを考えているのかわからない。
こいしの心がわからない……
心がわからない……
心が……
「こいし!!」
さとりは、叫び声を上げて目を覚ました。
「夢……」
さとりはそう呟いた時、頬を流れる冷たい感覚に気付いた。
「涙……」
さとりは、知らず、知らずの内に涙を流していた。
夢を見た。
昔の夢を、こいしと心でつながっていた頃の夢を
でも、もうそんなことはもう出来なくなって……
「こいし、こいし~!!!!!」
さとりは、ベッドに顔をうずめながら大声で泣いた。
心がとても切なかったから。
もう第三の目を共有して心を通わす事は出来ない。
そんなこと、もう昔からわかりきっているはずなのに、どうして今さらそんな事を思い出してしまったのだろうか?
絆はこいし自身が絶ってしったのだから
「もう、こいしと心を通わせることはできない!!」
それはもう悲鳴のような言葉だった。
その時、ふと脳裏に何かが浮かんだ。
「……こころを通わせる?」
そう言葉を何度も、心の中で繰り返し唱えて
「!!」
ある結論に達した。
そしてさとりは行動を開始した。
アイのクリスマスプレゼントを探しに。
「……」
クリスマス・イブの夜
こいしは、密かにさとりの寝室を訪れていた。
能力を使用することで、誰にも気づかれることなく寝室に入ることができた。
こいしは、ベッドで眠るさとりを見つめていた。
きっと、あの大量のプレゼントを一人で動物達に配っていたのだろう。
こいしが近くにいても、起きる様子もなく規則的に寝息を立てていた。
「お姉ちゃん……」
こいしが、名前をつぶやくように言うが、さとりは眠り続けていた。
きっと、こいしがさとりの体を揺すれきっとさとりは眠りから覚めて、こいしの名前を呼んでくれるだろう。しかしこいしは、それを行わなかった。
たとえ起こしたとしても数回会話を交えれば、すぐに沈黙が訪れてしまう。
こいしは、思いを心に留めておくことができない。
思った事をすぐに行動したり、口に出してしまう。
これも、第三の目を潰した代償なのだろう。
その為、さとりとうまく会話することができず、結局さとりを怒らせて気まずい雰囲気になってしまい居たたまれなくなり逃げてしまう。
その繰り返しだった。
あの時もそうだ。
アイのクリスマスプレゼントなんて、こいしが気まぐれで口にした言葉だった。
きっとさとりは、こいしが言った言葉を、意味を理解しようと、必死にアイのクリスマスプレゼントを探したのだろう。
気まぐれで言った、思いのないからっぽな言葉だというのに……
「ごめんね……お姉ちゃん。こんなだめで、からっぽな妹で……」
こいしは、眠り続けているさとりに涙を流しながら帽子を取り、頭を下げて謝った。
その謝罪の言葉も、涙が床に垂れる音も、さとりには聞こえることはなかった。
もう消えようと思った。
こいしが、ここに存在している限り、さとりの負担になってしまう。
でも、最後に、最後に一目でいいから、世界で一番愛している姉の姿を見ようと意を決して地霊殿を訪れた。
こいしは、さとりの寝顔を目に焼き付けた。
もう二度と会うことは、ないだろう。
こいしは、名前通り道端に落ちている、人の目にも事のない小石になるのだから……
その思って、さとりの顔を見終えて、ふと横に視線を向けると、ベッド近くのテーブルにラッピングされた四角い箱があった。
近づいて見ると、箱には小さなカードが挟まれてあり、そこには……
『メリークリスマス。こいし』
と書かれていた。
こいしは、もう一度さとりを見た。
さとりは、寝息を立てて眠り続けている。起きる様子もない。
「私が、ここにくる事を知っていたの?」
まるで、こいしが第三の目を潰す前に戻ったような気分だった。
こいしは、ゆっくりと包装を解き、さとりが選んでくれた中から現れたクリスマスプレゼントを見た。
それは、黄色と黄緑で飾られた日記帳と、藍色の万年筆だった。
こいしは、震える手で、ゆっくりと日記帳をめくった。
すると、最初のページになにか書かれてあった。
メリークリスマス。こいし
私が考えたアイのクリスマスプレゼントはあなたの思い描いた物だったかしら
お互いの心が通わなくなって、ずいぶん立つけど、私の心はなにも変わらないわ。
あなたと心を通わせることはできないけれど、
心の言葉を文字にして心を通わせてることはできると思うの
なんでもいい、どんなことでもいい、あなたの心の言葉をここに書き留めて
私の心の中にはどんな時も、あなたがいます
この世界でどんなものよりも大切な最愛なる妹へ さとり
「おね~ちゃん!!!」
こいしは、思わず泣き崩れた。
姉は、片時も自分の事を迷惑だと思っていなかった。むしろ心配してくれていた。
そして、今度は心がない自分に心を通わせようとしてくれた。
なにもない、からっぽな自分なのに……
こいしは、なにか返事を書かなければならないと思った。
でも、心が張り裂けそうなくらいに嬉しさがこみあげて、それが涙となって溢れ滴となって日記帳の紙を濡らした。
手でぬぐっても、ぬぐっても涙はあふれだしてきた。
こいしは涙を流しながら、姉からクリスマスプレゼントでもらった万年筆で、必死でお礼の返事を書いた。
クリスマス・イブの夜が明けて、クリスマス本番の朝を迎えた。
さとりは、イブの夜に必死になってクリスマスプレゼントを動物達に配った事で疲労困憊になり、ベッドに入るとすぐに眠りに落ちてしまった。
眠りから目を覚ましたさとりは、すぐに体を起こして枕元近くの机に目をやった。
そこには、包装が解かれた。日記帳の上に万年筆が置かれてあった。
「こいし……来てくれたのね」
それは、賭けだった。
無意識を操る程度の能力で、こいしの場所を特定することはできない、ならきっとこいしはクリスマス・イブの日、ここに訪れるだろうと思い、枕元のテー ブルの上にクリスマスカードと一緒に置いた。
それが、包装を解いてここに置いてあるということは……
思わず、さとりは日記帳を手に取り、恐る恐る日記帳の表紙を開いた。
そして、その言葉を見たとき、さとりの目から涙があふれ出してきた。
「こいし……ありがとう」
さとりがクリスマスプレゼントでこいしに送った日記帳には、さとりがこいしに送ったメッセージの下に、なにかににじんだインクでこう書かれていた。
ありがとう おねえちゃん だいすき こいし
もうその言葉だけで、十分だった。
こいしが、第三の目を潰して以降、初めて心が通じた瞬間だった。
その後、さとりとこいしは日記帳で交換日記を行うようになった。
さとりが今日一日の事を日記帳に書いて眠りにつくと、目覚めた朝にはこいしから返事が書いてある。
さとりは、地底や地霊殿、動物達の事を書き、こいしは、地上でどんなことがあったのかこいしの視点で書かれていた。
それは、以前のように心を言葉にしたお互いを共有しているとさとりは思った。
それから、さとりは少しずつこいしと直接会話を行うようになった。
日記に書いてあった内容を質問したり、こいしの地上の思いで話に耳を傾けたりした。
こいしも、さとりの質問にしっかりと答えるようになり、思った事をすぐに行動したり、口に出してしまうことは変わらないが、さとりもその行動を理解して以 前のような重い空気になることはなかった。
そして、今日はこいしが久しぶりに地霊殿に泊まる日だった。
「お姉ちゃん、どうして今日記を書いてるの? 今日は私ここに泊まるんだよ?」
こいしは、白いキョミソールの寝巻姿でベッドにもぐりこんで、日記を書いているさとりにそう問いかけた。
「なんでかしらね。もう癖のようなものかしら。これを書かないと落ち着かなくて」
さとりも、こいしと同じ白いキャミソールの寝巻姿で、日記帳に万年筆を走らせながらそう言った。
「じゃあ、私はお姉ちゃんが起きるまでに、日記帳に返事を書かなくちゃね」
「だめよ。こいしは私と一緒に寝るんだから、私より先に起きちゃいけません」
「え~ じゅあ、私お姉ちゃんの抱き枕になっちゃうの?」
「そうなるわね」
「なにそれ、可笑し~」
そう言って、さとりとこいしは笑い合った。
「さて、終わり。寝ましょうか、こいし」
「はーい」
さとりとこいしは二人一緒に、ベッドに入った。
「ねえ、お姉ちゃん、今日はなにを書いたの?」
「あら、それは日記を見てから確かめるんじゃなかったの?」
「でも、目の前で書かれたら気になるじゃない。ねえ、どんな事を書いたの?」
「そうね~ 今日はこいしが久しぶりに地霊殿に泊まりにくるので、とてもうれしいかった。腕によりをかけておいしい料理をごちそうしたし、一緒に布団で寝ることもできました。私はこんな可愛い妹を持てて最高に幸せですって書いたわよ」
「わ~ お姉ちゃんのシスコン~」
「シスコンって言わないの。それで、こいしはどんな返事を書くのかしら?」
「う~んとね~ 久しぶりの地霊殿は、思い出の中の地霊殿と全然変わらなくて温かくて、体がぽかぽかしました。お姉ちゃんのお料理もおいしかったし、動物達もかわいかったです。私はこんなお姉ちゃんを持てて本当に幸せ者だなと思いました」
「こいし~」
思わす、さとりはこいしに抱きついて、顔を胸にうずめた。
「きゃ~ お姉ちゃんに抱き枕にされる~」
そんな仲睦まじい姉妹のじゃれあいは、しばらく続いた。
さとりが電気を消して、暗闇の中しばらくしてさとりは、口を開いた。
「こいし、起きてる?」
「ん? なにお姉ちゃん?」
「アイのクリスマスプレゼントって覚えてる?」
「……うん。あれで今の交換日記が始まったんだよね」
「あれって、どういう意味だったの?」
「…………よくわからない。その言葉も意味もなく、私の気まぐれで出た言葉だから……」
「でも、今考えてみると意味があったと思うの」
「どういうこと?」
「アイは愛情の愛だとして、その人を愛するにはその人をよく見て理解する必要があると思うの。私はあの時、こいしの心が読めない理由から、なにを言っていいのかわからなかった。目を逸らしていたの。でもあのアイのクリスマスプレゼントのおかげで、その心だけじゃなくて、違う方法もあることに気付いた」
「つまり、あの気まぐれに出た言葉は……」
「無意識に発した。こいしの心の悲鳴だったのかもしれないわね。私を見てって」
「う~ん よくわかんないな。私の目は完全につぶれて閉じてしまっているし、心も読めなくなってしまっているから」
「でも、今はこの能力に頼らなくても、こいしの心を何となく知ることもできるようになった」
「結果良ければ、全てよしって感じかな」
「そうね」
「それじゃあ、もう夜も遅いから寝ちゃおっか。お姉ちゃん、お休みなさい」
「お休みなさい、こいし」
そう言って、二人は仲好く抱き合いながら、眠りに落ちていったのだった。
若干地の文が気になるところです。ちょっと急ぎで書き上げた感が無きにしも
プロの小説を1冊読み、その直後に推敲するとかなり質が上がるでしょう
それと、さとりさんはかなりもどかしい思いをしているはず。世界のすべてをあげたいほど愛しているのに届かない。また、おそらく追い詰められてもいたはずです。
この辺りの苦しみをもう少し深く追求して浮き彫りにしてあげるとラストシーンでの感動も大きくなるでしょう
以上、超個人的私見でした。
以下、誤字報告
>クリスマス・イブの夜が明けて、クリスマス本番の朝を迎えたに。
最後の“に”はミスですかね?
>枕元のテー ブルの上にクリスマ スカードと一緒に置いた。
文字の間に空白がありました
>今日はこいしが久しぶりに地霊殿に泊まりにくるので、とてもうれしいかったです。
“うれしいかった”→“うれしかった”
感想ありがとうございました。
今後の作品づくりに生かしていきたいと思います。
誤字報告ありがとうございます。修正しました。
さとりやこいしが泣くだけの説得力に欠けていたり、
一人称と三人称がやや混じっていたりともったいない部分も多かったように思います。