Coolier - 新生・東方創想話

末路

2012/12/24 20:45:35
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時計が壊れたようだ。どうにもならない。そもそもよく知らずに使っていた物である。諦めも早い。普通の時計では無いことは分かっていたので、いじる気にもなれない。実は生きているのかもしれないので、時計に臍を曲げられても困る。頼みの綱は他にないのだから。

切り取られた世界でただ一人別次元に生きる。正確には光よりも遅い為別次元というわけでも切り取られたわけでもないのだが、次元とは主観的なものなのでその事実に整合性は必要ない。この世界の他の住人は時計とナイフが数本と極めて少ない。干渉できない背景はとても住民とは言えない。

洋館を人間が歩く。妖怪であるならば、残念ながら移民を考えなければならない。しかし付近を障害物に囲まれていなかったことは幸運といってもよいだろう。抜ける必要は特に無いのだが、束縛を抜けることにただでさえ短い時間を使わなくて済む。短い時間が流れている為、短い時間で目的を達成出来た。彼女を見つけることに意義があるのだ。ベランダへと、そして外へと道が続いているであろうから。案の定道は続いていた。続いた先には見慣れない固定式の筒がある。仮初めの敵状視察とやらをする為に月を観察したいらしく、その為の道具である。名前は忘れた。お嬢様は大層気に入ったようで、目も呉れずにつまらなそうに部屋に戻る最中であった。道具を覗いて成る程理由が分かった。この月には耳があるのだ。ああ仮初めといえどもこれでは視察する意味が無い。この目で見た方がまだ敵状視察の体を成すだろう。外の人間は気づかず、そして掲げた旗は白旗ではない。成る程完全敗北である。

一通り部屋を見渡す。さて私はこの束の間の自由をどのように使うか。予定はまだない。





私は笑いを堪えきれなかった。勝利は目の前にあるからである。あの筒はもう用済みだ。早々に処分してしまおう。
さて、いい加減、冷気を耐えたくないのでしぶしぶ窓を閉める。どうやら時を凌駕してしまったようだ。仕方がない。
「あら、随分ご機嫌ね。理解出来ないわ。肌寒いもの」
音を立てず、友人が部屋に入って来た。思わず反応してしまうものの、私は機嫌が良い。
「肌寒くてもご機嫌な時はあるわ。・・・・・・ところで、ドアはノックするものよ。ここは神社では無いわ。肌寒いけど」
「開いていたのよ。無用心にも」
一瞥したその先には、扉が情けなく揺れているのが確認出来る。常にメイドが丁度通りかかる為、適当な者に一声かけ閉めさせた。
「ところでもう止めたのかしら、仮初めの敵状視察とやらは。有言実行ね。友人として鼻が高いわ」
「もう必要無くなったんだ。もっともあれはあまり役に立たなかったけど」
一冊の資料を手に取る。状態は他に比べ悪くないものの、破損が酷い。破片が足元に落ちていく。友人の顔がしかめるのが分かる。
「ここよ。随分損傷しているけど。旗を計16本立てたと書いてあるわ」
「あら見残しかしら。珍しくないけど」
彼女はまだ分かっていないようだ。普段閉じこもっているから冷気に慣れないのだろう。しかし聡明な彼女はすぐに意図に気付く。立てた旗の詳細を探し出し、そして星の数を数え始めた。
「50よ。800の白星を人間は月に献上した。16万本はさすがに立てられないわ」
「つまり人間は完全敗北を理解していた・・・・・・」
「そしてこのページよ。汚れていて見えない所もあるけど1本を除き、15本現在も立っている・・・・・・月は十五にしたのよ」
「月は同じ土俵に立ってしまったのね。立ち続けるわけがないもの。そして愚かにも全て分かっているのだと誇示してしまった・・・・・・」
ああ月の資料を集めさせた甲斐があった。役に立たないものはそれは多かったものの、だ。
「反対勢力の為の移住地まで決めてあげたわ。調度耳もある」
外に出るのを躊躇う友人を促す。つい先ほど閉めたのだ。そう躊躇うものでもない。しかし彼女は乗り気では無い。
「本当は咲夜を騙そうと思ったけど・・・・・・生憎見当たらないわ。間食は身体に悪いのに」
「そうね、間食なら鼠を食べればいいのに。また出たのよ。袋の中にね」
一頻りの談笑。添える紅茶は現れない。





ドスンという重い音がした後、パランパランと鉄が駆ける軽い音がした。たまったツケの支払いの一部は持ってきたらしい。
・・・・・・カランカラン
扉が開くと、案の定魔理沙が入って来た。何か特別なことがあったのか寒いというのにストーブの側に近寄らず、売り物の壺に腰掛け、一方的にまくし立ててきた。要約すると疲れた、冬なのに暑い、だが熱い茶をくれ、霊夢が月から帰って来ないから暇だ、何か面白いものを拾ったとのことだ。彼女が拾ったという携帯電話は幸いまだ使用出来るらしく、自分なりにボタンを押している。
「知ってるか香霖、今日は祝日だぜ」
「数日おきに来るのか。君は目出度いな」
「それは毎日来るぜ」
カレンダーには大安としか記されていない。大安吉日、思い立ったが吉日と連想させていったようだが、分かりにくい。ジョークというものはもっとシンプルにすべきだ。どぶろくのような濁ったジョークは日常会話で好まれない。
「答えを教えてやってもいいが、クイズの挑戦者が来たようだ」
いつからクイズになったのかは知らないが、霊夢がいない以上客である可能性が高い。客は神様の為、丁重に扱わなければならない。
・・・・・・カランカラン
「海っぽいものをご所望よ。すぐに出しなさい」
扉を開けた途端神様は開口一番そうお告げになった。いらっしゃいませも待てないのだろうか。吸血鬼の神様の後ろでは気だるそうな紫のお供が日傘を閉じている。
「残念ながらお前が買うだろう海っぽいものはたった今霧雨魔法店が全て買い取った。海っぽいものを買いたければ私のクイズに答えることだな。優良業者だから同額で売ってやるぜ。出血大サービスだ」
商売というものは双方の同意が必要だということを知らないのか?というより、それ以前の問題だ。
「クイズでもなんでも構わないわ。その代わり正解したら私の本をすぐに返しなさい。間違えても力づくで奪い返すけど」
どうやら魔理沙は他でもツケを払っていないらしい。まあ確かに彼女はこれ以上とない過重債務者のいい見本だから仕方のないことだ。
「今日は祝日だが、何の日だ?」
手元の携帯電話から音を鳴らしてからクイズを出した。確かチャルメラという曲である。腹が減ったような気がするのであまり身体に優しくない曲だ。さて解答者達はというと、目を見合わせた後、あさっての方向を向き悩んでいる。
「大安ね」
「まさか自分の誕生日だなんて言わないでしょうね」
チャルメラが鳴り終わる頃、二人は不正解を口々に言った。今日は魔理沙の誕生日では無いし、大安は不正解らしいからだ。まあどうせ大した答えでは無いだろうが・・・・・・
「残念だったな。正解はみきひさ君の誕生日だ。新井幹久君か吉田樹寿君か、どちらかは知らないけどな」
ほらどうでもいいことだった。大方携帯電話から得た情報だろう。どうも彼女はプライバシーというものをいまいち理解出来ていないらしい。
「あらそう。ところで今日は海っぽいものは半額と聞いたわ。早速見繕ってちょうだい」
どうやら彼女の方が上手らしい。ツケを増やすのは勘弁して欲しいが、魔理沙には借りが出来ることもあるので今回は授業料として大目に見てやろう。





「メイドはどうしたんだ?新しいのがいただろう」
「もう4代目よ。悪魔にも草食化の波というものが来てるらしくてね。てっきり図太い奴が多くなったのかと思ったら、小心者ばかりよ。腹が立ったから4代目は隠し事が出来ないようにしたの。そしたら大分マシになったわ」
最初はぶつくさ言っていた魔理沙もツケの額などどうでもいいのだろう、僕が仕事をしているのを尻目に世間話に花を咲かせていた。女三人寄ればかしましい筈だが、彼女の友人らしい少女は会話に参加せず、売り物の本を読んでいた。
「その大分マシなメイドはどうしたんだ?」
「粗相をしてね。お詫びにまだ来て間もない彼女の為にスタンプラリーを開催したの。私とパチェが出かけているから、美鈴と咲夜とジェニファーからスタンプを貰えばいいだけよ。サインでもいいわ」
「それは歯ごたえのあるスタンプラリーだな。ところでジェニファーとは初めて聞く名前だがそんな奴いたか?」
「あれだけメイドがいるんだもの。一人くらいジェニファーがいてもおかしくないわ」
その4代目とやらには同情する。行方不明者とまともな妖精を探すのはさぞ骨が折れることだろう。今頃のれん相手に四苦八苦しているに違いない。
「ところで、さっきから持っているそれは何かしら」
「携帯電話だぜ。電話は出来ないが。あ、おい取るなよ」
これなんかどうだろうとビーチパラソルというものを店の奥から引きずり出したその時、訝し気な2012年?という吸血鬼の声と共に、なんと扉をノックする音が聞こえた!声もかけずノックするだなんて、霊夢の筈がない。千客万来だ。顔も知らぬみきひさ君を祝うべきだろうか。
「あら、こんな所が人気なの」
「人気は少ないけどな」
僕はいつも通りの挨拶をする。確かに妖怪があまりに多いが・・・・・・珍しいこともあるものだ。おそらく初入店の月の姫らしい少女と、そのお付のおそらく月の兎が入店した。
「そこの前衛的な陳列はここの商品かしら?」
僕がいつもの台詞を言った後、彼女は確かにそう言った。まさか魔理沙の蒐集物に僕以外が興味を示すなんて!これは非常にまずいことになった。彼女が人伝通り姫ならば、価値のある物だけを根こそぎ持って行きかねない。魔理沙は価値が分かっていないから明文化はされていないものの、増えたツケを減らす為に二束三文で売ってしまうかもしれない。それだけはまずい。急いで僕のものだと魔理沙に価値を悟られないように伝えなければ。しかし僕が口を開こうとしたその時、警報音が鳴った。発信源は魔理沙が持ってきた携帯電話かららしい。呑気にあら電池切れねと吸血鬼が画面を見て言う。これはもしかすると、名も知れぬ神からの忠告かもしれない・・・・・・今回は身を引くべきだ。目先の利益だけを見て飛びつくのは良くない。
「お目が高いな。まだ霧雨魔法店のものだぜ。全て時価だがな」
まだ彼女の目が利くとは限らない。僕は大局を見たのだ。彼女は月の姫なのだから、大丈夫だろう。まさか霧雨魔法店のお得意先になどならないだろう。
「あらそう。欲しいものはこれよ」
「何だ?お前はそんな物が欲しいのか。香霖、増えたツケは大体いくらだ?それが値段だ」
金属が鳴る音からして数は少ない。せいぜい1つか2つだ。様子を見たかったが吸血鬼が急かす。僕は授業料がまともに振り込まれたことを喜ぶとして、極めて良心的な値段を告げた。





「輝夜様・・・・・・そんな無駄遣いして・・・・・・絶対足元見られましたよ」
のらりくらりと世間話でやり過ごしてきたが、私はやっとのことでこの言葉が言えた。輝夜様はなんと鉄クズ1つの為に言い値をそのまま支払ってしまったのだ。ああまたお師匠様から怒られてしまう。陰鬱となったせいか竹林は一層暗く感じる。幽霊も一匹ほど後方を付いてきている。
「あら大丈夫よ?絶対に怒られないわ。骨董品を見る目には自信があるもの。私の言うとおりに動けば間違いないから」
輝夜様は非常に機嫌が良い。気持ちを汲んで頂いたのは非常にありがたいが、気は晴れない。ああ、自身の情けない性分を恨む。
「では・・・・・・どうしましょう」
頼みの綱は輝夜様しかいない。妙案を期待する他ない。しかし返答は極めてシンプルなものだった。
「私が永琳にこれを渡すまで一緒にいることね」
輝夜様いわくお師匠様が必ず気に入るものらしい・・・・・・あの鉄クズは。
「霧雨魔法店だったかしら。あそこのお得意様になろうかしら。行くのはイナバだけど」
「やめて下さいよ。私には見る目が無いので価値が分かりませんし、責任が持てません・・・・・・」
ああ、とうとう家が見えて来た。そして心配をしていたのだろうお師匠様の姿も見えた。ああ本当に大丈夫だろうか。お師匠様に軽く挨拶をした後、輝夜様は鉄クズをくるんだ小包を手渡した。
「永琳、落し物よ」





おまけ

「月に行きたいかー!」
「おー!」
「異変を起こしたいかー!」
「おー!」
メイド服を拝借した三妖精は拳を上げ意気揚々に声をあげる。紅魔館の廊下は夜にも関わらず妖精が横行している。
「でも異変なんて起こせるのかなあ・・・・・・」
「ルナは心配性ね。妖怪は月の道具に惨敗だったらしいわ。だったら私達に異変の一つや二つ、起こせないことはないわ」
「そうよ。二回起こせたら三回起こせるわ」
「その時にはきっと地位も向上しているわね。歴史が語っているもの」
「何で余計なものが急にぶり返してきたのかしら。私はロケットを見るだけでいいのだけれど・・・・・・」
「何よ、言い出しっぺはルナじゃない。今更────」
「ちょっと待って、今気配が────」
後日、とある新聞の片隅に頭にナイフが刺さった三匹の妖精が一休みしているところが載せられた。影の協力者は言うまでもないだろう。これが十六夜 咲夜、最後の仕事である。
立つ鳥跡を濁さず、山田田山です。それではまたいつか。
山田田山
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コメント



0.140簡易評価
6.70名前が無い程度の能力削除
これ書く為に色々調べたと思うし差別化を計りたいのも分かるけど、逆にマイナスになってる気がするなあ。ネタも調べないと分からないのもあるし、それを読者に調べさせるのはちょっとな……もう少しわかりやすくして欲しかった。ただ星条旗6本を16本と勘違いさせたのはちょっとおもしろかった。肩肘張らずにもっと気楽に書けばいいのに。
7.603削除
ちょっと難しかったかな。
8.10名前が無い程度の能力削除
うーん、ちょっと、いや全然話の内容が分からなかった。