Coolier - 新生・東方創想話

甘い遊戯よりも

2012/12/18 00:15:58
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「あれ?」

いつものように博麗神社の台所でお茶の用意をしていたときのこと。
調理机の上になんだか見覚えのある箱が置かれているのを見つけて、私こと東風谷早苗は思わず目を瞬かせた。

「これって……ポッキー、ですよね」

箱を手に取り、まじまじと見つめながら小さく首を傾げる。
外の世界特有のつやつやとした手触りの紙製パッケージ。
その表面に印刷されたスティック状の菓子の写真と『Pocky』のアルファベット綴り。
ひょっとしなくても外の世界で慣れ親しんだお菓子のポッキーだった。
それも一つや二つではなく、定番のチョコレートと苺から、ビター、ムース、アーモンドクラッシュ等々、様々な種類のものが所狭しと置かれている。

「どうしてこんなものが霊夢さんのところに?」

外の世界の物が幻想入りすることがあるとは聞いているけれど。
たしかこのお菓子は私がまだ幻想入りするときにも高い人気と知名度を誇っていたはずだし。
ここ何年かそこらで幻想入りするようになったとは考えにくいのですが。

(まさか、外の世界でなにか事件が起こったとか?)

ポッキーが幻想入りするような事態―――それは即ち、お菓子業界に走る激震と戦慄。

永遠の好敵手トッポの世界台頭。
反乱の狼煙を上げるかつての戦友、逆襲のプリッツ。
お菓子業界の破壊者フランを巡るチョコスティック菓子大戦の勃発。
新興勢力パキーラ恐怖の包囲網。

なんだろう。想像したらちょっとわくわくしてきた。


「早苗ー、お茶まだー?」

耳元に飛び込んできた声に、思考が現実に戻される。

「はーい!ただいまー!」

慌てて声を返しながら薬缶を火から離し、盆に乗せた二つの湯呑にお湯を注ぐ。
お湯を冷ましている間に手早く火の始末を済ませ、丁度良い温度になったお湯を急須に注ぐ。
所要時間は約1分程度。

その日の気温や湿度、葉の状態によって時間は微妙に変わるのだが、そこは勘でどうにかなる。
伊達に短くない期間お茶にうるさい巫女を擁するこの博麗神社でお茶を淹れていない。
霊夢さんの好みの具合はこの身体で知り尽くしている。

「そう!なにを隠そう私は霊夢さん好みのお茶を淹れる達人なのです!」

誰もいない台所で軽くポーズを決めて、一人誇らしげに胸を張る。
しばらくしてから我に返って恥ずかしくなるのはお約束。
羞恥でほんのり熱を帯びた頬を持て余しつつ、お湯を捨てた湯呑にお茶を均等に注ぎ、盆を持って台所を出る。
居間を抜けると、縁側でいつものように座る霊夢さんの後ろ姿が目に入った。

「霊夢さん、お待たせしました」

「うーい、ありがとー」

のんびりとこちらを振り返る霊夢さんにお茶の入った湯呑を手渡し、そのまま隣に腰を下ろす。
お茶を啜りながら頬を緩める彼女の表情を見ると、どうやら彼女の満足のいく出来栄えだったようだ。
心の中でほっと胸を撫で下ろし、私もゆっくりとお茶を啜る。
うん、上出来だ。仄かな渋みと身体の中からじんわりと温かくなる感覚にほうと一息。

「あ、そうだ」

ほっとしたところで先ほどのことを思い出し、台所から持ってきたポッキーの箱を取り出す。

「霊夢さん、こちらの箱が台所にたくさん置いてあったんですけど、いったいどこで見つけたんですか?」

「ああ、それ紫が持ってきたのよ。外の世界の有名なお菓子だとかなんとか言って大量に」

霊夢さんの口から出てきた名前になるほどと納得する。
たしかに紫さんならスキマを通じて外の世界の物を手に入れるなんて朝飯前だろう。
そういえば、里のお店に並んでいる昆布や鰹節といった海産物も彼女経由で仕入れているとか聞いたことがあったっけ。
私もお願いしたら外の世界の物を輸入してもらえないのかな。きっと許してくれないだろうとは思うのだけれど。

「ちょうどいいわ。早苗が来たら一緒に食べようと思ってたの。早速食べましょう」

「まあ、そうだったんですか。ありがとうございます。ではお言葉に甘えて」

早速箱と中のビニール包装を開けて袋の中からポッキーを二本取り出すと、片方を霊夢さんに渡し、もう一方を口に運ぶ。
ポキッ、と小気味良い音と共に、苺チョコの味が口内に拡がる。
久しぶりに口にしたポッキーはなんだか懐かしい甘さがした。

「この味、昔と変わらないですね。美味しいです」

「そうね。たまにはこういうのも悪くないわ」

基本的に和菓子派の霊夢さんからもなかなか好評のご様子。
ポッキー数本をまとめて頬張る彼女の姿はまるで小動物のように可愛らしくて、思わず頬が緩んでしまいます。

「ふぁ、ふぉういえば」

「霊夢さん、慌てて喋らなくても、飲み込んでからで大丈夫ですよ」

霊夢さんはお茶の入った湯呑に口をつけ、んぐんぐと口に含んだ物を飲み込むと、ぷはぁっ、という年頃の乙女にはふさわしくない息を吐く。
その行動を嗜める間もなく、彼女はポッキーをもう一本取り出すと、それを口に咥えながら顔を私の前に突き出した。

「早苗、ん」

「え?」

突然の霊夢さんの行動に思わず目が点になる。
けれども彼女はポッキーを咥えたまま、こちらを上目遣いに見つめてくるだけ。
なにがなんだかよくわからない。

「あの、霊夢さん、どうしたんですか?」

戸惑いながらも尋ねると、彼女は怪訝そうな目でこちらを見つめ返してきた。

「早苗、わからないの?」

「あ、はい、さっぱり」

今わかることと言えば、ポッキーを咥える霊夢さんはとっても可愛いなあとかそんなことくらいだ。
霊夢さんは小さく目を見張ると、咥えていたポッキーを上下に動かしながらこうのたまった。

「早苗、私とポッキーゲームをしましょう」

「ぶふぁっ!?」

いきなりの爆弾発言に思わず吹き出してしまう私。

「ちょ、いきなりどうしたのよ早苗。大丈夫?」

いやそっちこそいきなりどうしたんですか、と叫びたかったのだけれど。
今はとてもそんなことができる状態ではなくて。
霊夢さんが差し出してくれたお茶を口に運び、ゆっくりと飲み込む。
さりげなく霊夢さんの湯呑のものだったけれど、今気にするべきことはそこじゃない。
大きく息を吐いて、ちゃんと息ができるのを確認してから彼女に向き直る。

「れ、霊夢さん、その話をいったい誰から聞いたんですか?」

「さっき紫から」

ああ、やっぱり紫さんですか。
そりゃポッキーを持ってきたのが彼女である時点で他に選択肢などあるはずもないんですが。
なんでよりにもよってそんなことを霊夢さんに。

「なにそれって訊いたら、「これを口に咥えながら早苗ちゃんに訊いてごらんなさい。外の世界の経験豊富なあの娘ならきっと手取り足取り優しく教えてくれるわ」って言うから」

「んなっ!?」

ちょっ、紫さん、霊夢さんになんてこと吹き込むんですか。
霊夢さんはこう見えてとっても純粋で素直な女の子なんですよ。
すぐに誰かの言うことを信じたり、騙されたりして、本当に実行しちゃうんですから。
しかもその言い方だとまるで私が誰とでもそんなことしてるように聞こえちゃうじゃないですか。
私そんな経験ありませんから。奥ゆかしさ溢れる清純乙女ですから。ええ。

「で、早苗。ポッキーゲームってなんなの?」

ポッキーを咥えたままずいっと顔を近づけてくる霊夢さんを目の前にして、なんとかうまくごまかせないかと頭を抱える。
ああもう、今頃どこかで楽しそうに笑っている紫さんの姿が目に浮かびます。
紫さんのことだからきっとこうなることをわかっててわざと言ってきたんでしょうけど。
とりあえず紫さんのことはさて置いて、考えてもそう簡単に妙案が思い浮かぶわけもなく。
ううっ、恥ずかしいですけど、仕方ありません。

「ええと、ポッキーゲームっていうのは、パーティとかでよくやるポッキーを使った余興のことです」

箱からポッキーを一本取り出して、先端を口に咥えるふりをする。
さすがに霊夢さんが咥えている物を咥えながら説明する勇気はありません。

「こうして一人がポッキーの端を咥えて、さらに別の人が反対側の端を咥えて。それから二人同時に食べ進めて行って、先に口を離した方が負けになります」

「へえ、外の世界ではおもしろい食べ方をするのね」

私の説明を聞きながら興味津々といった様子の霊夢さん。
口元には良いことを聞いたと言わんばかりの楽しそうな笑みが浮かんでいます。
ああなんかもうこのあとの展開がありありと予想できてしまうんですけど。

「それじゃあ、早苗、ん」

ポッキーを唇に咥えたまま、すぐ目と鼻の先に迫ってくる霊夢さん。
やっぱりそうなっちゃいますよねえ。
いやまあたしかに私もポッキーを見たとき、霊夢さんとそういうことできたらとか思わなかったわけではないんですが。
それでも、いざ現実を目の前にすると、その、なんというか、ちょっと―――いや、ものすごく恥ずかしくて。

「早苗は、私とするの、嫌?」

躊躇する私の様子を見て、霊夢さんは眦に小さく皺を寄せながら小首を傾げる。
加えて、上目遣いにこちらを見つめるおまけ付き。
ああ、無理です。こんな顔されたら断れるわけないじゃないですか。

「い、嫌なわけ、ない、です……」

うつむきながら消え入るような声で呟くと、霊夢さんの表情がぱあっと明るくなる。

「そう、良かった。じゃあ早速始めましょう」

にっこりと微笑んで、霊夢さんがポッキーを咥えたまま顔を近づけてくる。
ああもう、こうなったら覚悟を決めるしかありません。
常識にとらわれてはいけないこの幻想郷において、ポッキーゲームごときで今さらなにを恥ずかしがる必要があるのでしょうか。
ここでやらなきゃ風祝の名が廃ります。ふぁいとです、早苗。

心の中で決意を固めて、差し出されたポッキーの端をぱくっと咥える。
床の上に両手をつき、お互いに身を乗り出すようにして向かい合うと、霊夢さんの顔はすぐ目の前だった。

(どうしよう。思ってたよりも距離が短い)

これまで生きてきた中でポッキーの長さのことなんてまったく気にしたこともなかったのに、今さらながらその短さに戸惑ってしまう。
目の前の霊夢さんはと言うと、すでにポッキーを食べ始めている。
開始の合図はないんですか、と尋ねる間もなく、このままではあっという間に私が食べる部分がなくなってしまいそうで。
私も慌ててポッキーを食べ始めた。





―――ポキッ、ポキッ





小気味の良い二重奏と共に、少しずつ二人の距離が縮まっていく。
霊夢さんの顔が近づいて来る度、どきどきと鼓動が早くなっていくのを感じる。





―――ポキッ、ポキッ、ポキッ





霊夢さんはまっすぐ私を見つめている。
黒曜の瞳の中に頬を赤く染め上げた自分の顔が映るのを見て、思わず瞳を逸らしたくなる。
けれど、彼女の瞳に視線を奪われて、視線を逸らすことができない。





―――ポキッ、ポキッ、ポキッ、ポキッ





熱い。
頬が燃えるように熱い。
頭がくらくらして満足に息を吸うこともできない。
熱と不安に浮かされて、まともに思考することができない。
私、どうしちゃったんだろう。
私、どうなっちゃうんだろう。





―――ポキッ、ポキッ、ポキッ、ポキッ、ポキッ





目の前一杯に拡がる黒曜の瞳。
間近で感じる彼女の鼓動。
吐息で伝わる互いの熱。





そして―――





「んっ……」

びくり、と小さく身体が震える。
遅れて唇に感じるやわらかな感触。
重なる熱と交わる吐息に、霊夢さんとキスをしているんだと自覚する。

「……ふぁっ……れ、れいむさっ……」

重ねられた唇の隙間から名前を呼ぼうとしてもすぐに唇を塞がれ、そのまま唇を割って彼女の舌が滑り込んでくる。
慌てて舌を引っ込めようとするけれど、すぐに彼女の舌に絡め捕られて、まるで味わうかのように舌を吸われてしまう。
その勢いと激しさに身体を支えきれなくなって、彼女の細い背をぎゅっと抱きしめる。
彼女に身体を預ければ少しは楽になるかと思ったのだけれど、そのまま強く抱き寄せられて、ますます激しく唇を求められた。

瞼の裏が真っ白に染まっていくような感覚に脳が侵される。
息が苦しくなって、身体中が蕩けてしまいそうになって、意識がどこかに飛んでいってしまいそうになるけれど。
それでも、なけなしの力を振り絞って、精一杯彼女の求めに答える。

いつしか彼女の背中に回していた手は、彼女の両手と固く繋ぎ合って。
私たちは呼吸することも忘れてお互いを強く深く求め続けた。

そうして、いったいどれだけの時間が過ぎただろうか。
肩で息を吐きながら、私たちはどちらからともなくお互いの唇を離す。
離された唇と唇の間をまるで名残惜しむかのようにつぅっと銀の糸が結んで、同時にたまらなく恥ずかしさが込み上げてきて瞳を伏せてしまう。
そんな私の熱に浮かされた頬を、霊夢さんの手が優しく撫でてくれた。

「早苗の味、甘くて、とっても美味しかったわ」

桜色の唇に残った銀の糸をぺろりと舐めて微笑む彼女に、身体の奥底が燃えるように熱くなって、余計に恥ずかしさが込み上げてくる。
なにか、なにか言い返さなくちゃ、と思うのだけれど、蕩けてぐずぐずになった頭からはなんの言葉も出てこない。
結局、彼女の肩口に顔を埋めることしかできない自分がまるで子供のようでただひたすら恥ずかしい。

「でも、これだけじゃ正直物足りないわね」

まだ飲み込んでなかったのか、短くなったポッキーの先端部分を唇で弄びながら霊夢さんが呟く。
口元に浮かんだ悪戯な微笑みに、彼女がこれからどうしたいのかが容易にわかった。

「ね、早苗」

ポッキーを唇に咥えたまま、霊夢さんは上目遣いに私を見る。

「もっと、早苗の、食べても良い?」

ああ、もう。
そんなこと訊かなくったって、答えなんてわかってるくせに。
まったく意地が悪いんだから。
やられっぱなしでとても悔しい。

だから、せめてものお返しに霊夢さんの身体をぎゅっと抱き寄せて、そのまま仰向けに寝転がる。
驚いて目を瞬かせる彼女にちょっぴり気が晴れるのを感じながら、彼女の首の後ろに手を回し、逃げられないようにしっかりと抱きしめて。
咥えたポッキーを奪うように、桜色の唇に私の唇を強く重ね合わせた。





―――重ねた霊夢さんの唇の味は、他のどんなものよりも甘かったとだけ言っておこう。
ポッキーがなくなった後も二人がちゅっちゅし続けたのは言うまでもありません。
lieze
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コメント



0.1710簡易評価
1.80名前が無い程度の能力削除
砂糖吐いたよ!
4.100名前が無い程度の能力削除
しっかりした表現がありながら読みやすく、素晴らしいなあと思いました。

甘いのごちそうさまでした
寝る前にこんな甘い物を読んだらまた歯磨きしなきゃいけないじゃないか
8.100名前がない程度の能力削除
紫も砂糖を吐く甘さ。
11.100名前が無い程度の能力削除
(゜Д゜)ゴハァ(吐糖
14.100名前が無い程度の能力削除
レイサナごちそうさまでした
紫様GJと言わざるを得ない…
16.90奇声を発する程度の能力削除
とても良い甘さ
19.90名前が無い程度の能力削除
これは確実に糖尿病になる
20.100名前が無い程度の能力削除
ぐはぁ甘過ぎる・・・
21.80名前が無い程度の能力削除
霊夢さんたらおませさん・・・!!!
普通に興奮した、。
23.100名前が無い程度の能力削除
やっぱト〇ポよりポッキーだわ
25.80名前が無い程度の能力削除
最初にポッキーゲーム考えた人と作者さんに称賛を贈りたい
ナイスレイサナ!
26.無評価名前が無い程度の能力削除
>>永遠の好敵手トッポの世界台頭…

凄く気になるwww
27.100名前が無い程度の能力削除
評価忘れるとか
32.80名前が無い程度の能力削除
霊夢最初からわかってたろww
49.90非現実世界に棲む者削除
今回は砂糖とチョコを一緒くたに吐いた。
マジ半端ない甘さだ...