Coolier - 新生・東方創想話

銀色の剣舞

2012/12/15 22:00:11
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 ※この作品は、全て魂魄妖夢の視点で進行していきます。




  その見出しが目に入ったのは僥倖だった。偶然にも、机上に捨て置かれていた、我が主の読みかけの新聞を見つけたのである。

  新聞曰く、幻想郷に流れ着きし人間あり。その人間、腰に刀を帯びた剣客さながらの格好であるという。
  この一文に、私――魂魄妖夢の心は躍った。
  自分が修めてきた剣術を、試せるかもしれない――と。


  その人間の居場所についても、ご丁寧なことに例の新聞に記載されていた。
  記事の真偽も確かめずに白玉楼を飛び出した私は、その居場所――博麗神社へと向かった。
  長い石畳の階段を上り神社の境内を覗くと、案の定、社殿の縁側に腰かけて座る、紅白の巫女姿をした少女が目に入った。
  そして、その傍らには目的の人物と思しき、胴着に袴姿の若い女性が佇んでいた。
   「女性……?」
  新聞記事の内容からして、我ながら、てっきり強面の屈強な男性かと勘違いしていたようだ。予想と反したその姿に、動揺を隠しきれず唖然としていた時。
   「えぇーっと、あんたは……あ!そうそう、魂魄妖夢といったかしら?」
  私の姿を見とめるや否や、少しふざけた口調で、巫女姿の少女――博麗霊夢が声をかけてきた。
   「はぁ、いい加減に覚えてくださいよ。もう何度もお会いしているのに」
   「ごめんなさいねぇ~人の顔と名前を覚えるのがイチイチ面倒くさくって。それで、今日は何の用事?」
  嘘か真か、或いは彼女なりの挨拶の仕方なのか。ともあれ、改めて話を切り出す。
   「実はそちらの方に、お話がありまして……」
  長い黒髪を揺らし、少し苦笑した様子で私達のやりとりを見ていた女性に、私の身の上を説明した後、実戦さながらの剣術試合を申し込みたいという旨を伝えた。


  既に何合打ち合っただろうか。神社の境内に、鉄の激しくぶつかり合う音が響く。
  この試合に課せられたルールは、以下の通り。
  スペルカードルールの不採用、刀剣は本物を使用(今回は互いに一刀流を使用)、そして、試合の決め手は相手に一太刀浴びせること。
  これらのルールに対し、意外なことに彼女は二つ返事で応えてくれた。
  ともすれば、命を失いかねない条件を快諾してくれたのだ。故に、互いの実力を見込んだ上とはいえ、初めは侮られているのかと推考した。
  しかし、そのような浅はかな考えは、杞憂で済むどころか、一瞬にして吹き飛んだ。
  事ここに及んで、彼女は一切の油断も見せず、ただ真剣に私との試合に臨んでいる。
  これまで自分が修めてきた剣術を、スペルカードによる弾幕ではなく、真っ向から発揮できる、またとない機会。
   (相手にとって、不足なし……!!)


  試合は熾烈を極めた。
  何合か剣戟を交わした後、鍔迫り合いへと移行。
  一旦、仕切り直すために、相手の刃をいなし、後方へと距離をとる。相手も同様のことを思考したのか、執拗な追撃はなかった。
  しかし、相手との距離を離した、ここからが問題である。
  現在のところ、相手と自分との技量の差はなく、ほぼ互角。
  ――無論、相手が己の実力を欺瞞している可能性もあるが。
  ともかく、技量が拮抗しているならば、後は如何なる手管を弄して相手を打ち負かすか、という結論になる。
   (そうは言っても、この方を相手にどのような策を練ればいいものか……)
  次なる一手を繰り出すために、有効な策を張り巡らそうとした、その一瞬。

  相手の手先が動く。
  刀の構えが、――変わった。

   (……!! この型は……)
  ――示現流。初太刀にて対敵を絶命に至らしめる、二の太刀要らずの必殺剣。
  かつて読破した剣術書に、この型と同様のものが記述されていたことを思い出す。
  極端な八相の構えから繰り出される斬撃は、非常に速く重い。
  咄嗟に刀で受け止めたところで、そのまま押し切られるか、最悪の場合、自分の刀が自身の頭部にめり込み死に至る。
  しかし、その凄まじい斬撃を繰り出せる代償として、身体の正面はガラ空きとなり、防御には決して向かない。ただ、それは問題にはならない。
  なぜならば、この流派の使い手達は、己の命を賭してまで対敵の命を奪うという、相殺の覚悟の元に刀を振るうからである。
  ――以上の分析を踏まえた上で、自身の勝利への最適解を導き出す。
  無策にて相手の間合いに入ることは、自殺行為。
  かといって、その場で手を拱いていても、相手から間合いを詰められ一刀の下に両断されるだろう。

  ふと、ここでひとつの疑問が浮かび上がる。
  先手必勝を教えとする流派の型を、何故最初から使用しなかったのか? もし、この型がハッタリであったとしたら?
  様々な憶測が、頭の中で渦を巻く。
  真相はどうであれ、この現実を見据え、有効な策を早急に決断し、覚悟を決めなければならない。
   (ならばッ……!!)
  剣先を、地面にそっと下ろす。
  ――地摺りの正眼。後の先を取る為に特化した、刀の位置を下段に置く構え。
  この構えに対し、相手が迂闊にも剣戟を打ち込もうとするならば、下段より繰り出す斬撃によってそれを弾くか、
  相手の斬撃の軌道を読んだ上で、こちらからカウンターとして鋭い突きを繰り出すことが可能となる。
  とはいえ、鍛練を極めた示現流の使い手の斬撃を、この構えで弾くことはおろか、斬撃を外して避けることは、先程の分析からして不可能に等しい事実。
  この状況下では、決して有効な策とはいえない。
  ――だが、僅かながらにも勝機といえるものはあった。

  空気が重く張り詰め、静寂が境内を支配する。
  ――遂に、相手の足が緩やかに地を蹴った。
   (来たか……!!)
  距離が次第に縮まる。
  相手は臆さず、一貫した速度で疾駆する。
   (まだッ……!!)
  間もなく、相手の間合いに入る。
  刀が振り下ろされるか否か、その瞬間――。
  焦らず、静かに息を吸う。
   (……ッ!!)
  直後、地を蹴り、突きの体勢で相手の左側面に飛び込む。
  ――先の先。地摺りの正眼はブラフ。相手が、刀を振り下ろさんとする刹那よりも先に、こちらの突きを当て、右前方へと抜ける。
  それは、賭けにも等しい行為。機先を制しなければ、後に待つのは死のみである。
  だが、これが現状における最善策。そう判断したからには実行しなければならない。
  迷うことも許されない。迷いは恐れを生み、恐れは己の死に直結する。
  裂帛の気合と共に放たれた、決死の突き。
  ――同時に、ほんのわずか。一秒にも満たない時間をおいて。
  神速の域にまで高められた剛剣の一振りが、自身の左側面を擦過する。
  一方、自分の手の中には肉を抉る感触が、握る刀を通して伝わった――。


   「はぁ……」
  試合を終え、博麗霊夢に包帯を巻かれている彼女を横目で見やると、後腐れのない満足気な表情をしていた。
  ――結果、見事機先を制した私の突きは、彼女の左肩を掠める程度に済んだ。程度で済んだというほど、気が楽なものではなかったが。
  承知の上とはいえ、怪我を負わせたことに対する謝罪をしたところ、彼女は爽やかな笑みで私の勝利を称えてくれた。
  剣術の腕もさることながら、彼女の寛大な心に、私は尊敬と憧憬の念を抱かずにはいられなかった。
   (このような方に剣術の指南をして頂ければ、未熟な私もいずれは……)
  先程の試合を思い返しながら、ぼんやりと考えに耽っていたところ。
   「それにしても、まさか妖夢と互角に戦える人間が居るとはねぇ~」
  治療を終えたらしい博麗霊夢が、彼女に話を持ちかけていた。
   「あっ、そうだ! あんた、まともに寝る場所もないみたいだからさ、ウチで用心棒として働かない? 剣の腕も立つみたいだし」
   「ちょ、ちょっと待って下さい! 是非とも白玉楼に来て頂いて、剣術の指南を……」
  咄嗟の勢いで、本音を口走る。しまった、と思ったが時既に遅し。
   「はぁ~ん? あんた、もしかしてこいつのこと気に入ったの?」
   「!? そ、そういうことでは……」
  何故だか分からないが、激しく動揺した感情が顔に出る。
   「はいはい、ごちそうさま。全く、素直じゃないんだから」
   「ちょっ、か、勝手な思い込みで決めないで下さいよぉー!!」

  かくして、偶然にも始まった今回の試合は、私の剣術修行にとって、ひとつの起爆剤となり得た。
  これからは、更なる研鑽を積まねばならないだろう。
   (見ていてください。私は、必ずや一人前の剣士に……)
  誰にともなく、そう、心の奥で誓ったのだった――。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
この作品は、剣術をろくに知らない素人の妄想でできていますので、実在の剣術との差異についてはご勘弁を。
弾幕勝負ではなく、実際の剣術で戦うカッコイイ妖夢を書いてみたかったというのが本音です。
にぎりめし
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コメント



0.150簡易評価
3.70名前が無い程度の能力削除
二人の戦いのシーンはカッコよくて良かったのですが、
幻想入りした人間が何故元の世界に帰ろうとしないのか?何故そこまで強いのか?といった部分に疑問を感じました。
5.90名前が無い程度の能力削除
違うとは思うけどその人、昔霊夢が惚れた相手じゃなかろうなw
頑張るみょんは応援したくなる。ゆゆ様はいいポジションにおられるよ。本当に!
6.80奇声を発する程度の能力削除
それぞれ良い味出してました
面白かったです
7.70名前が無い程度の能力削除
これなら相手はモミジでもコンガラでも良かったのではなかろうか。