「文さん、文さん。めずらしいですね。カメラを持たずにどこかに出て行くなんて」
白狼天狗である犬走椛は今まさに飛び立たんとする鴉天狗兼自分の上司である射命丸文に声を掛けた。
「まあね、椛。今回は“これ”を香霖堂に持っていって、見てもらうだけだから」
そう言って文と呼ばれたものは右の手の平を開く。
それを椛はじっと見つめ、ポツリとつぶやいた。
「何ですか?これは…」
「私もわからないから見てもらうのよ」
その手の中にあったのは手の平に納まるくらいの少し厚みのある青い板。
上半分は黒っぽいガラス板がはめ込まれていて、私の顔を映していた。
下半分は升目に区切られていて一つ一つ膨らみを持っており、その真ん中に四角や三角のよくわからない記号が彫られている。
そして、側面の一つに細くてツルツルした紐が刺さっており、紐の先に変な形の突起物が取り付けられていた。
“それ”はここにあるだけでこの幻想郷には全く似合わない異様な雰囲気をかもし出していた。
「不思議な形ですね、これ」
椛が手の中にある物を指差して率直な感想をもらす。
「ええ、確かにね」
「けど、これって何に使う物なんでしょうか?」
「私もどういう風に使うか全くわからないわ。けど大体こんな風に変な物と言ったらまず一つわかることがあるでしょう?」
「それは?」
間髪入れずに聞き返す。
「ちょっとは自分で考えなさいよ…。つまり、これは外の世界の物ということよ」
「ああ~!確かに。そう言われればそうですね」
そう言って椛は手をポンと叩く。
「まったく…」
額を押さえてハァ~と溜め息をつく文。
「ううっ…、けっ、けどだったらなんで河童の方に見せなかったんですか?そっちのほうが詳しくわかると思うんですけど…」
「それもそうなんだけどねー」
そう言いながら“それ”をポンポンと弄ぶ。その顔は半ば呆れ気味だった。
「あいつらったら、こういう変わった物、特に外の世界の物を見せると研究者としての探究心が騒ぐのかしらないけど、一方的に『詳しく研究したいから預からしてほしい』とか言って取り上げて自分のものにしてしまうのよ。私も何回とられたことか…」
「はぁ、そうなんですか…。だから今度は見ただけでその物の名前と用途がわかる森近さんに見てもらおうと」
「そういうこと。もし、しょーもない物だったらそこで売ってお金に返れるしね。一石二鳥ってところよ。鳥に石を投げるのは断固反対だけど」
「だったら一緒に行って良いですか?私も気になるので」
その要求に文は二つ返事で返した。
「ええ、いいわよ。けど…」
そういって背中から漆黒の大きな一対の翼を展開する。
「折角だから追いかけっこでもしましょうか。ここから香霖堂まで、鴉と狼、空を翔(かけ)る者と大地を駆ける者、どちらが早くたどり着けるかどうか」
その言葉に、椛は体制を低くして体重を前に掛けていつでも走り出せる用意をし、顔には薄っすらと不敵な笑いを浮かべこう答え
る。
「望むところです。走るのはこれでも部隊一ですよ」
「あら、私の最速最高のスピードに追いつけるのかしら?」
そしてお互い見つめあったときに風が吹き、そのときにふき飛ばされた葉が二人の前を横切った瞬間。
シュバッ、タンッ
その音とともに文は風を巻き起こしながら空を掻っ切り、椛はその風より早く地面を駆け抜ける。
一瞬のうちにして二人の姿は消えるように無くなった。
× × ×
「ああァァぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああっっっ!!!」
地面にひざまずいて椛が叫んでいた。
「あなたにしてはまぁがんばった方ね」
そう言って満面の笑みを浮かべているのは文だ。
このやり取りでさっきの勝負はどちらが勝ったかは明白だろう。
「もう少しで!もう少しで!勝てたのにィぃぃぃ!!」
「どこがもう少しなのよ。まだまだだったじゃない。とにかく、この勝負の罰ゲームは後にして、さっさと本題に入るよ…と、言ったら向こうから出迎えに来てくれたみたいね」
へこんでいる椛はほっといて、文は店の方向を向く。
香霖堂
ここには鉄くずからよく解らないけどすごそうな道具まで多種多様な物がそろう表向きは一応古道具店である。
しかし、実際は店主の収集物の保管所や展示所みたいなもので、あんまり店としては機能してない。
近いといえば趣味でやっている骨董店みたいなものだろうか。
そして、その店の入口。ごちゃごちゃとした物がほったらかしになっている中心に人が立っていた。
「お二人さん。何騒いでるんだい。店の中にも叫び声が響いていたよ」
「お久しぶりです霖之助さん。『文々(ぶんぶん)。(まる)新聞(しんぶん)』の購読ありがとうございます。記者の清く正しい射命丸です」
さっきの騒ぎについては何も触れないまま、お約束の自己紹介をする文。
店の入口に立っている人物。
彼が、文が例の“これ”を見てもらおうと思っている人。森近霖之助だ。
髪の毛は銀髪で眼鏡をかけていて、その線の細さから一見、女性にも見えるけっこうな美男性だ。
しかし、見た目優男の雰囲気を感じられるが結構な野心家でなおかつ人と妖怪のハーフ。油断しないよう注意が必要な人物である。
「いつも、楽しく読ませてもらっているよ。それで、今日はどんなご用件で?」
「はい、実は森の中で奇妙な物を拾いまして、それを鑑定していただきたいのです」
霖之助は手を組んだ。
「ふむ…、わかった。どんなものか見てみよう。さあ、店の中へ。それとそこで倒れこんでいる白狼天狗さんも」
そういって一人で店の中に入っていってしまった。
文は振り向き、
「椛、何グズグズしてるの。さっさといくわよ。あんたが付いてきた理由を忘れたの?」
「わかりましたよ!行きますって行きます!」
子供が駄々をこねるような台詞をはきながら椛は立ち上がった。
そうやって、二人は店の中に入っていった。
店の中は意外と綺麗で、整えられているが、やっぱりいろんな物が所狭しに置かれていて、狭い。
そしてその真ん中に置かれた丸いテーブルの椅子に、霖之助は座っていた。
文たちもそこにあった椅子に腰掛け、三人とも向き合う形になったところで、霖之助は話を切り出す。
「で、見てもらいたい物とは?」
「これです」
と言って文は、先ほどのアレをテーブルの上に置いた。
「ふむ…」
霖之助は腕を組み、その物をじっと見つめる。
「…ごくん」
椛はつばを飲み込み、いつ答えが出るのかと思いながらそれを凝視する。
そして霖之助は静かに口をひらき…
「ちょっと触って良いかな?」
ずてーん
その言葉を聞いた瞬間、なぜか椛が椅子から転げ落ちた。
「なに一人でズッコケてるの」
文がジト目で椛をにらむ。
椛はその軽蔑されてる感バリバリの目に少したじろいだがテーブルの端からひょこっと顔を出して苦し紛れに反論する。
「だっ、だって普通あんなに黙ることで意識を自分に向けさせておいて、次に口を開くとしたら『答え』って決まっているでしょう!だから幻滅した的な感じでこけたんで、す…が…」
言い訳を言うごとにどんどん文の目が冷たくなっていき、その目に気おされて最後は消え入りそうな声だった。
「椛」
文の声が響く。
「はっ、はい!」
「あなた、これから『わんこ』って呼ぶことにするわ」
「わっ、わんこおぉぉぉォ!?」
椛が素っ頓狂な声を上げた。
「そう、わんこよ。さっきのレースに負けた罰ゲームということで、これから一年間、椛のことをわんこって呼ぶことにするわ」
「そんなぁ!」
椛は叫ぶが文はそんなのお構いなしで、さらに顔には笑みが張り付いている。
「大丈夫よ。私しか言わないし、人前ではちゃんと名前で呼ぶわ」
「しかし…、でも何でわんこに?」
「え?理由を言ってほしい?別に言ってもいいけどあなたのプライドやらポリシーやら精神が崩壊して一生立ち直れなくなってもいいなら言ってあげてもいいけど…。私的にはあなたのことを考えて言わないでおこうって思っていたのだけど?」
「…もういいです」
超白々しいニヤケ顔でこんなことをのたまわれると追求する気力も失せた。長年、文と一緒に行動してきたうちに身に着けた、イジリに対する防御法だった。
そんな風に椛と文とで駄弁っているとどこからか咳払いが聞こえた。
「…こほん。そろそろいいかい?」
他ならぬ霖之助である。
「あっ、すいません。何でしたっけ?」
「…」
なにか言いたそうだったがそこを言わないのが霖之助だった。
「それでだ、それをちょっと触っていいかい?」
「ええ、構いませんよ」
その返事の後、霖之助は“それ”を手に取り、目をつむった。
「…」
再び、部屋に沈黙が流れる。
そして一分後、例のソレを机に静かに置いて霖之助は再び口を開いた。
「これは…ある意味すごいものですよ」
『というと?』
文と椛が同時に聞き返す。
「これは、外の世界で『MP3プレイヤー』と言われているものです」
その言葉に二人とも首をかしげる。
『えむぴーすりーぷれいやー?』
「はい、簡単に言えば…そうですね、いつでもどこでも自分の好きな音楽が聴ける機械みたいなものですかね」
「これがぁ?」
椛は信じられないという顔でまたもやソレを凝視する。
「まさかその中に音を奏でる妖怪や幽霊がいるわけではありません。音を何らかの形で“これ”に記憶させ、再生して聴く物ですよ」
「へぇ~、すごいですね。それでどうやって聴けるんですか?」
「わかりません」
霖之助はきっぱりと言った。
「へ?」
「操作方法はわからないと言っているのですよ。あれ?知りませんでしたか?」
「何が?」
椛は不思議そうな顔をしていたが、そこに文が割って入る。
「彼は見ただけでその名前と、用途はわかるけど使い道や修理方法はわからないのよ。だから、大体の外の流品はここに流れ着くけど、使い方が解らないからほったらかしになって、なおかつ彼は蒐集癖だからたまりに溜まってこんな風にぎゅうづめになっているのよ」
「まぁ、そんなところですかね」
文の言葉に隠れた嫌味を認めながら華麗にスルーする霖之助。
そして、面白くないという気持ちが思いっきり顔ににじみ出ている文。
「だったら文さん。ソレどうするんですか?使えないんでしょう?」
そしてその空気を全く読めてない椛。
文はまた溜め息をつき、この空気から脱出する意味を込めて話し始める。
「確かにそうですね~。霖之助さん、最低でもソレが壊れているか壊れていないかぐらいは解りませんか?」
「残念だけど解らないね」
そう言って首を横に振った。
「そうですか…、わかりました。だったらソレをここに売りたいのですが良いですか?私はそこまでして音楽を聴きたいわけではないですし、それに使い方も解らなかったら持っている意味がないですしね」
しかし、霖之助の返事は意外なものだった。
「本当にいいのかい?そんな大切なもの手放して。まぁ、こっちとしては儲かるからいいけど?」
「なんですって?」
文はその言葉がただ単にそのモノを指しているわけでない気がした。
霖之助は手を組み、テーブルに両肘を付けて手で口元を隠す。
「だからさっき『これはある意味すごい物』って言ったじゃないか。まぁ、物は試しだ。まず、それに触れて意識を集中するんだ。なにか引っかかりを感じるはずだ。その後、その引っかかりに心を寄せていくように、心を合わすように感じてごらん。だったらわかるはずだよ。高位の妖怪ならね」
「それは私への挑戦と受け取っていいかしら」
いつもの声音とは違う文の言葉に臆することなく飄々と霖之助は受け流す。
「冗談だよ。けど、それぞれ相性があるのは確かだけどね。まあ、やってみて」
「…」
霖之助の言葉に所々不可解な点があるが文は渋々従うことにした。
そして、椛が見守る中、ソレを手に取り、目を閉じて集中する。
すると、すぐになにかピリッと電流が走るような違和感を覚えた。これがその引っかかりなのだろう。
次に、言われた通り、真っ暗闇の中手探りでそれを探し当てるように、体をチューニングしてその物を受け入れるように心を合わせていく。
そして、その違和感の塊に手が触れようとした瞬間、
「っ!!!」
ガタン!
「文さん!」
一瞬、一瞬だ。頭の中に膨大な何かが走り抜けていった。そのときに何か見た気がするが今はもうわからない。
とにかく一瞬、“意識を乗っ取られた”気がした。
気づくと、ソレは自分の手から無くなっておりテーブルの上に転げ落ちていた。
しかし、何よりも、
自分の手が震えていた。
「大丈夫ですか!?」
椛が駆け寄ってくる。
「え、ええ、大丈夫よ。安心して」
そう言って、椛を椅子に座らせる。
そして、文は向かい側の椅子に座っている男を睨み付けた。
文の性格では考えられないくらい、並の妖怪だったらそれだけで死んでしまいそうな、視殺と呼べるくらいの凄みがあった。
「これはどういうこと?」
声も、のど元に刃を突きつけられたように鋭く冷たい。
今すぐ暴れださない方がおかしい位だ。
しかし、
「これは、お遊びが過ぎたようだ。すまない」
たしかに誤る気持ちはあるものの、やはり文の怒りなど全く気にしていないようで、霖之助は。頭を下げることはせず、さっきと同じように座っているだけだった。
「まぁ、さきほどのことは置いといて、それには“何か”が宿っているかわかったかい?」
文は霖之助に対して沸々とした怒りがまだあったが、わかっているのにそのまま黙ってまたからかわれるのも癪なのでで仕方なく答える。
「これは…人の念ね。それも、とても純粋で強力な」
「そう、人が長年大切に持ち続け、運気やその人の思いが移った物みたいだ。よほど長く使っていたのだろう」
「で、それがどうしたの?こんな人間の強い念なんて私たち妖怪にとっては毒でしかないわ」
文は怒気を孕んだ口調で言う。
「確かにそうだけどね。でも…」
「でも?なんなのよ」
霖之助は眼鏡を指で押し上げて、言葉を紡ぐ。
「妖怪と言うのは肉体的には頭を吹っ飛ばされても生きているぐらい強い。しかし精神面に関しては人間よりはるかに弱い。回りの気配、殺気、雰囲気すら敏感に感じ取って時には自我を失って狂気錯乱し、果てに自壊して簡単に消えてしまう。だが…」
「そんなこと妖怪なら誰でもわかっているわ!あなたは何が言いたいのよ!私にこんなことさせておいてふざけた答えだったらどうなるか分かっているでしょうね!!」
とうとう怒りを抑えれなくなったのか、声を荒げながらガンッ、と机を叩く。
「文さん…ちょっと」
いつになく怒っている文。よほどさっきの事に対して怒っているようだ。
椛がなだめるほどに。
しかし、妖怪とはいえ自分の命が脅かさせられたのだから怒っても仕方がないと思うのだが、霖之助は悪びれる様子もない。そこが文の怒りを長引かせる要因でもあった。
「まぁ、落ち着いて人の話を最後まで聞いて下さい。これはあなたにとってとても大切なことなのですよ?」
「…」
『あなたにとっても大切なこと』とまで言われたら怒っていた文も言い返すことができず黙りこくる。
そしてその無言を肯定と受け取ったのか霖之助はこの話の核心を話し始めた。
「だが、逆にその精神が狂気化し、自我を失って暴れだした時、その人間の強い念が自分を守ってくれる。相殺という形でね。例えば…」
「…毒蛇に噛まれた時、その毒を消すためにその蛇の毒から作った血清を使うように」
話しを横取りしてぶっきらぼうに話す文。
「よくお分かりで、流石は高位の妖怪さん」
「…ふんっ」
そういってそっぽを向く文。しかし、もう文から怒りは感じられなかった。邪悪な気配はいまだにあるが…。
「で、なぜ最初からその事を言わずにあのようなことさせたの?おかげで消えそうになったじゃない」
視線をそのナントカプレイヤーに向けて言う。
「簡単に言えば百聞は一見にしかず。ですかね」
にこりと柔らかな笑みでさらりと言う霖之助。
「…それは新聞屋に対しての嫌味かしら?」
「失礼、僕の趣味だ」
「それはそれで、また怒りが沸いてくるのですが」
とか言いながら、自分の拳はプルプルと振るえ、知らぬ間に臨戦態勢に入っていることに本人は全く気づいていない。
「冗談だよ、冗談」
そう言いながら手をひらひらとさせる霖之助
「それで、話しを大きく戻すが、そのMP3プレイヤーを売ってくれるのかい?」
「…そうね」
文は人差し指を唇に当ててうーん、と考える。
しかし、本当に考えているわけではない。
「やっぱりやめておくわ。あなたに売ると安値で買い叩かれそうだから」
「ご明察。よくわかってるね」
文の嫌味な言葉に霖之助はいやな顔一つしない。なにより顔が笑っていた。
霖之助もこれがふざけ合いと分かっているのだろう。
全く狡猾な半人半妖だ。
彼は人間臭さを残しておきながら妖怪のように頭が切れる。
まぁ、妖怪と人間のハーフだからそうといえばそうなのだが、やはり実際に相手をすると色々と面倒くさい。
彼は、霖之助は、ある意味イレギュラーな存在だ。
妖怪は妖怪。人間は人間。妖怪は人間を襲う者。人間はそれを退治する者。
そういった大昔から続く誰が決めたのかも分からない、意味のないルールの輪廻から脱した者。
どちら側にも属さないと言う事はどちらからも受け入れられず、つま弾きにされるということ。彼の人生も一筋縄ではいかなかったはずだ。
しかし、だからこそ、どちら側にも属さないからこそ、出来ることもあるのではないだろうか。
もしかしたら、彼や妖怪と人間の壁を全く気にしないとある巫女みたいな人物こそ、この歴史を、世界を、幻想郷を、妖怪と人間が仮初めの共存ではなく、スペルカードルールのような決闘をしなくても、本当に手を取り合って助け合うことのできる新しい時代を紡いでいってくれるのかもしれない。
私みたいな過去に固着した老いぼれ妖怪よりも。
そのような意味を持って、文は一時的な別れの挨拶をする。
「今日はいろんな意味でお世話になりました」
「いえいえ、珍しい物が見れてよかった」
「ではまた、『文々。新聞』をよろしくお願いします」
「こちらこそ、楽しみに待っているよ」
「さようなら」
「さようならです」
「お二人さん。さようなら。お元気で」
そう言って二人は霖之助に背を向け、店を出た。
「文さん。今日はなんだか疲れましたね」
「ええ。この一件がね…」
そういって、文はスカートのポケットの中にある物を取り出した。
椛がそのMP3プレイヤーを見て感嘆する。
「しかし、それってそんなすごい効果があったのですね~」
「私も驚きよ、こんな自我も持たない無機物の物体に殺されそうになったんだから」
それを手でくるくると弄びながら言う文。
「まぁ、紆余曲折あったけど、良いものが手に入ったということでよしとしましょう」
「確かにそうですね」
そういってニカリと椛が笑った。
「さて、文さん。帰りますか」
「そうね、わんこ。帰りましょう」
「…」
一瞬で椛の体が固まる。
「いっ、いまなんて言いました?」
聞き違いということを願いながら恐る恐る聞き返す。
「え?決まってるじゃない。わ・ん・こ」
顔にいたずらな笑みを浮かべ、含み笑いする文。完全にイジメモードだ。
「決まってなあァぁぁぁぁぁぁぁぁああああいっ!!!!」
本日二度目の絶叫をする椛。
「えー、勝負に負けたから罰ゲームとして『わんこ』って呼ぶって言ったじゃない」
「確かに言いましたが私は冗談と思ってましたよ!!それに私は犬ではありません!白狼です狼です!」
「そんなことわかっているわよ。とにかくこれから一年、『わんこ』でよろしく!」
「よろしくじゃねえェぇぇぇぇぇぇっ!!!」
と言って、椛は自分の得物である大太刀を抜き、盾を構えた。
「ほう、私とやるって言うの?いいでしょう。サシ(一対一)で弾幕ごっこでもしましょうか」
「よっしゃ!どっからでもかかって来へぶッ!!ちょっ、不意打ちはあきませんよちょっと待ってアアあああぁぁぁぁぁl!!!」
今日も天狗たちの日常は平和です………………たぶん?
白狼天狗である犬走椛は今まさに飛び立たんとする鴉天狗兼自分の上司である射命丸文に声を掛けた。
「まあね、椛。今回は“これ”を香霖堂に持っていって、見てもらうだけだから」
そう言って文と呼ばれたものは右の手の平を開く。
それを椛はじっと見つめ、ポツリとつぶやいた。
「何ですか?これは…」
「私もわからないから見てもらうのよ」
その手の中にあったのは手の平に納まるくらいの少し厚みのある青い板。
上半分は黒っぽいガラス板がはめ込まれていて、私の顔を映していた。
下半分は升目に区切られていて一つ一つ膨らみを持っており、その真ん中に四角や三角のよくわからない記号が彫られている。
そして、側面の一つに細くてツルツルした紐が刺さっており、紐の先に変な形の突起物が取り付けられていた。
“それ”はここにあるだけでこの幻想郷には全く似合わない異様な雰囲気をかもし出していた。
「不思議な形ですね、これ」
椛が手の中にある物を指差して率直な感想をもらす。
「ええ、確かにね」
「けど、これって何に使う物なんでしょうか?」
「私もどういう風に使うか全くわからないわ。けど大体こんな風に変な物と言ったらまず一つわかることがあるでしょう?」
「それは?」
間髪入れずに聞き返す。
「ちょっとは自分で考えなさいよ…。つまり、これは外の世界の物ということよ」
「ああ~!確かに。そう言われればそうですね」
そう言って椛は手をポンと叩く。
「まったく…」
額を押さえてハァ~と溜め息をつく文。
「ううっ…、けっ、けどだったらなんで河童の方に見せなかったんですか?そっちのほうが詳しくわかると思うんですけど…」
「それもそうなんだけどねー」
そう言いながら“それ”をポンポンと弄ぶ。その顔は半ば呆れ気味だった。
「あいつらったら、こういう変わった物、特に外の世界の物を見せると研究者としての探究心が騒ぐのかしらないけど、一方的に『詳しく研究したいから預からしてほしい』とか言って取り上げて自分のものにしてしまうのよ。私も何回とられたことか…」
「はぁ、そうなんですか…。だから今度は見ただけでその物の名前と用途がわかる森近さんに見てもらおうと」
「そういうこと。もし、しょーもない物だったらそこで売ってお金に返れるしね。一石二鳥ってところよ。鳥に石を投げるのは断固反対だけど」
「だったら一緒に行って良いですか?私も気になるので」
その要求に文は二つ返事で返した。
「ええ、いいわよ。けど…」
そういって背中から漆黒の大きな一対の翼を展開する。
「折角だから追いかけっこでもしましょうか。ここから香霖堂まで、鴉と狼、空を翔(かけ)る者と大地を駆ける者、どちらが早くたどり着けるかどうか」
その言葉に、椛は体制を低くして体重を前に掛けていつでも走り出せる用意をし、顔には薄っすらと不敵な笑いを浮かべこう答え
る。
「望むところです。走るのはこれでも部隊一ですよ」
「あら、私の最速最高のスピードに追いつけるのかしら?」
そしてお互い見つめあったときに風が吹き、そのときにふき飛ばされた葉が二人の前を横切った瞬間。
シュバッ、タンッ
その音とともに文は風を巻き起こしながら空を掻っ切り、椛はその風より早く地面を駆け抜ける。
一瞬のうちにして二人の姿は消えるように無くなった。
× × ×
「ああァァぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああっっっ!!!」
地面にひざまずいて椛が叫んでいた。
「あなたにしてはまぁがんばった方ね」
そう言って満面の笑みを浮かべているのは文だ。
このやり取りでさっきの勝負はどちらが勝ったかは明白だろう。
「もう少しで!もう少しで!勝てたのにィぃぃぃ!!」
「どこがもう少しなのよ。まだまだだったじゃない。とにかく、この勝負の罰ゲームは後にして、さっさと本題に入るよ…と、言ったら向こうから出迎えに来てくれたみたいね」
へこんでいる椛はほっといて、文は店の方向を向く。
香霖堂
ここには鉄くずからよく解らないけどすごそうな道具まで多種多様な物がそろう表向きは一応古道具店である。
しかし、実際は店主の収集物の保管所や展示所みたいなもので、あんまり店としては機能してない。
近いといえば趣味でやっている骨董店みたいなものだろうか。
そして、その店の入口。ごちゃごちゃとした物がほったらかしになっている中心に人が立っていた。
「お二人さん。何騒いでるんだい。店の中にも叫び声が響いていたよ」
「お久しぶりです霖之助さん。『文々(ぶんぶん)。(まる)新聞(しんぶん)』の購読ありがとうございます。記者の清く正しい射命丸です」
さっきの騒ぎについては何も触れないまま、お約束の自己紹介をする文。
店の入口に立っている人物。
彼が、文が例の“これ”を見てもらおうと思っている人。森近霖之助だ。
髪の毛は銀髪で眼鏡をかけていて、その線の細さから一見、女性にも見えるけっこうな美男性だ。
しかし、見た目優男の雰囲気を感じられるが結構な野心家でなおかつ人と妖怪のハーフ。油断しないよう注意が必要な人物である。
「いつも、楽しく読ませてもらっているよ。それで、今日はどんなご用件で?」
「はい、実は森の中で奇妙な物を拾いまして、それを鑑定していただきたいのです」
霖之助は手を組んだ。
「ふむ…、わかった。どんなものか見てみよう。さあ、店の中へ。それとそこで倒れこんでいる白狼天狗さんも」
そういって一人で店の中に入っていってしまった。
文は振り向き、
「椛、何グズグズしてるの。さっさといくわよ。あんたが付いてきた理由を忘れたの?」
「わかりましたよ!行きますって行きます!」
子供が駄々をこねるような台詞をはきながら椛は立ち上がった。
そうやって、二人は店の中に入っていった。
店の中は意外と綺麗で、整えられているが、やっぱりいろんな物が所狭しに置かれていて、狭い。
そしてその真ん中に置かれた丸いテーブルの椅子に、霖之助は座っていた。
文たちもそこにあった椅子に腰掛け、三人とも向き合う形になったところで、霖之助は話を切り出す。
「で、見てもらいたい物とは?」
「これです」
と言って文は、先ほどのアレをテーブルの上に置いた。
「ふむ…」
霖之助は腕を組み、その物をじっと見つめる。
「…ごくん」
椛はつばを飲み込み、いつ答えが出るのかと思いながらそれを凝視する。
そして霖之助は静かに口をひらき…
「ちょっと触って良いかな?」
ずてーん
その言葉を聞いた瞬間、なぜか椛が椅子から転げ落ちた。
「なに一人でズッコケてるの」
文がジト目で椛をにらむ。
椛はその軽蔑されてる感バリバリの目に少したじろいだがテーブルの端からひょこっと顔を出して苦し紛れに反論する。
「だっ、だって普通あんなに黙ることで意識を自分に向けさせておいて、次に口を開くとしたら『答え』って決まっているでしょう!だから幻滅した的な感じでこけたんで、す…が…」
言い訳を言うごとにどんどん文の目が冷たくなっていき、その目に気おされて最後は消え入りそうな声だった。
「椛」
文の声が響く。
「はっ、はい!」
「あなた、これから『わんこ』って呼ぶことにするわ」
「わっ、わんこおぉぉぉォ!?」
椛が素っ頓狂な声を上げた。
「そう、わんこよ。さっきのレースに負けた罰ゲームということで、これから一年間、椛のことをわんこって呼ぶことにするわ」
「そんなぁ!」
椛は叫ぶが文はそんなのお構いなしで、さらに顔には笑みが張り付いている。
「大丈夫よ。私しか言わないし、人前ではちゃんと名前で呼ぶわ」
「しかし…、でも何でわんこに?」
「え?理由を言ってほしい?別に言ってもいいけどあなたのプライドやらポリシーやら精神が崩壊して一生立ち直れなくなってもいいなら言ってあげてもいいけど…。私的にはあなたのことを考えて言わないでおこうって思っていたのだけど?」
「…もういいです」
超白々しいニヤケ顔でこんなことをのたまわれると追求する気力も失せた。長年、文と一緒に行動してきたうちに身に着けた、イジリに対する防御法だった。
そんな風に椛と文とで駄弁っているとどこからか咳払いが聞こえた。
「…こほん。そろそろいいかい?」
他ならぬ霖之助である。
「あっ、すいません。何でしたっけ?」
「…」
なにか言いたそうだったがそこを言わないのが霖之助だった。
「それでだ、それをちょっと触っていいかい?」
「ええ、構いませんよ」
その返事の後、霖之助は“それ”を手に取り、目をつむった。
「…」
再び、部屋に沈黙が流れる。
そして一分後、例のソレを机に静かに置いて霖之助は再び口を開いた。
「これは…ある意味すごいものですよ」
『というと?』
文と椛が同時に聞き返す。
「これは、外の世界で『MP3プレイヤー』と言われているものです」
その言葉に二人とも首をかしげる。
『えむぴーすりーぷれいやー?』
「はい、簡単に言えば…そうですね、いつでもどこでも自分の好きな音楽が聴ける機械みたいなものですかね」
「これがぁ?」
椛は信じられないという顔でまたもやソレを凝視する。
「まさかその中に音を奏でる妖怪や幽霊がいるわけではありません。音を何らかの形で“これ”に記憶させ、再生して聴く物ですよ」
「へぇ~、すごいですね。それでどうやって聴けるんですか?」
「わかりません」
霖之助はきっぱりと言った。
「へ?」
「操作方法はわからないと言っているのですよ。あれ?知りませんでしたか?」
「何が?」
椛は不思議そうな顔をしていたが、そこに文が割って入る。
「彼は見ただけでその名前と、用途はわかるけど使い道や修理方法はわからないのよ。だから、大体の外の流品はここに流れ着くけど、使い方が解らないからほったらかしになって、なおかつ彼は蒐集癖だからたまりに溜まってこんな風にぎゅうづめになっているのよ」
「まぁ、そんなところですかね」
文の言葉に隠れた嫌味を認めながら華麗にスルーする霖之助。
そして、面白くないという気持ちが思いっきり顔ににじみ出ている文。
「だったら文さん。ソレどうするんですか?使えないんでしょう?」
そしてその空気を全く読めてない椛。
文はまた溜め息をつき、この空気から脱出する意味を込めて話し始める。
「確かにそうですね~。霖之助さん、最低でもソレが壊れているか壊れていないかぐらいは解りませんか?」
「残念だけど解らないね」
そう言って首を横に振った。
「そうですか…、わかりました。だったらソレをここに売りたいのですが良いですか?私はそこまでして音楽を聴きたいわけではないですし、それに使い方も解らなかったら持っている意味がないですしね」
しかし、霖之助の返事は意外なものだった。
「本当にいいのかい?そんな大切なもの手放して。まぁ、こっちとしては儲かるからいいけど?」
「なんですって?」
文はその言葉がただ単にそのモノを指しているわけでない気がした。
霖之助は手を組み、テーブルに両肘を付けて手で口元を隠す。
「だからさっき『これはある意味すごい物』って言ったじゃないか。まぁ、物は試しだ。まず、それに触れて意識を集中するんだ。なにか引っかかりを感じるはずだ。その後、その引っかかりに心を寄せていくように、心を合わすように感じてごらん。だったらわかるはずだよ。高位の妖怪ならね」
「それは私への挑戦と受け取っていいかしら」
いつもの声音とは違う文の言葉に臆することなく飄々と霖之助は受け流す。
「冗談だよ。けど、それぞれ相性があるのは確かだけどね。まあ、やってみて」
「…」
霖之助の言葉に所々不可解な点があるが文は渋々従うことにした。
そして、椛が見守る中、ソレを手に取り、目を閉じて集中する。
すると、すぐになにかピリッと電流が走るような違和感を覚えた。これがその引っかかりなのだろう。
次に、言われた通り、真っ暗闇の中手探りでそれを探し当てるように、体をチューニングしてその物を受け入れるように心を合わせていく。
そして、その違和感の塊に手が触れようとした瞬間、
「っ!!!」
ガタン!
「文さん!」
一瞬、一瞬だ。頭の中に膨大な何かが走り抜けていった。そのときに何か見た気がするが今はもうわからない。
とにかく一瞬、“意識を乗っ取られた”気がした。
気づくと、ソレは自分の手から無くなっておりテーブルの上に転げ落ちていた。
しかし、何よりも、
自分の手が震えていた。
「大丈夫ですか!?」
椛が駆け寄ってくる。
「え、ええ、大丈夫よ。安心して」
そう言って、椛を椅子に座らせる。
そして、文は向かい側の椅子に座っている男を睨み付けた。
文の性格では考えられないくらい、並の妖怪だったらそれだけで死んでしまいそうな、視殺と呼べるくらいの凄みがあった。
「これはどういうこと?」
声も、のど元に刃を突きつけられたように鋭く冷たい。
今すぐ暴れださない方がおかしい位だ。
しかし、
「これは、お遊びが過ぎたようだ。すまない」
たしかに誤る気持ちはあるものの、やはり文の怒りなど全く気にしていないようで、霖之助は。頭を下げることはせず、さっきと同じように座っているだけだった。
「まぁ、さきほどのことは置いといて、それには“何か”が宿っているかわかったかい?」
文は霖之助に対して沸々とした怒りがまだあったが、わかっているのにそのまま黙ってまたからかわれるのも癪なのでで仕方なく答える。
「これは…人の念ね。それも、とても純粋で強力な」
「そう、人が長年大切に持ち続け、運気やその人の思いが移った物みたいだ。よほど長く使っていたのだろう」
「で、それがどうしたの?こんな人間の強い念なんて私たち妖怪にとっては毒でしかないわ」
文は怒気を孕んだ口調で言う。
「確かにそうだけどね。でも…」
「でも?なんなのよ」
霖之助は眼鏡を指で押し上げて、言葉を紡ぐ。
「妖怪と言うのは肉体的には頭を吹っ飛ばされても生きているぐらい強い。しかし精神面に関しては人間よりはるかに弱い。回りの気配、殺気、雰囲気すら敏感に感じ取って時には自我を失って狂気錯乱し、果てに自壊して簡単に消えてしまう。だが…」
「そんなこと妖怪なら誰でもわかっているわ!あなたは何が言いたいのよ!私にこんなことさせておいてふざけた答えだったらどうなるか分かっているでしょうね!!」
とうとう怒りを抑えれなくなったのか、声を荒げながらガンッ、と机を叩く。
「文さん…ちょっと」
いつになく怒っている文。よほどさっきの事に対して怒っているようだ。
椛がなだめるほどに。
しかし、妖怪とはいえ自分の命が脅かさせられたのだから怒っても仕方がないと思うのだが、霖之助は悪びれる様子もない。そこが文の怒りを長引かせる要因でもあった。
「まぁ、落ち着いて人の話を最後まで聞いて下さい。これはあなたにとってとても大切なことなのですよ?」
「…」
『あなたにとっても大切なこと』とまで言われたら怒っていた文も言い返すことができず黙りこくる。
そしてその無言を肯定と受け取ったのか霖之助はこの話の核心を話し始めた。
「だが、逆にその精神が狂気化し、自我を失って暴れだした時、その人間の強い念が自分を守ってくれる。相殺という形でね。例えば…」
「…毒蛇に噛まれた時、その毒を消すためにその蛇の毒から作った血清を使うように」
話しを横取りしてぶっきらぼうに話す文。
「よくお分かりで、流石は高位の妖怪さん」
「…ふんっ」
そういってそっぽを向く文。しかし、もう文から怒りは感じられなかった。邪悪な気配はいまだにあるが…。
「で、なぜ最初からその事を言わずにあのようなことさせたの?おかげで消えそうになったじゃない」
視線をそのナントカプレイヤーに向けて言う。
「簡単に言えば百聞は一見にしかず。ですかね」
にこりと柔らかな笑みでさらりと言う霖之助。
「…それは新聞屋に対しての嫌味かしら?」
「失礼、僕の趣味だ」
「それはそれで、また怒りが沸いてくるのですが」
とか言いながら、自分の拳はプルプルと振るえ、知らぬ間に臨戦態勢に入っていることに本人は全く気づいていない。
「冗談だよ、冗談」
そう言いながら手をひらひらとさせる霖之助
「それで、話しを大きく戻すが、そのMP3プレイヤーを売ってくれるのかい?」
「…そうね」
文は人差し指を唇に当ててうーん、と考える。
しかし、本当に考えているわけではない。
「やっぱりやめておくわ。あなたに売ると安値で買い叩かれそうだから」
「ご明察。よくわかってるね」
文の嫌味な言葉に霖之助はいやな顔一つしない。なにより顔が笑っていた。
霖之助もこれがふざけ合いと分かっているのだろう。
全く狡猾な半人半妖だ。
彼は人間臭さを残しておきながら妖怪のように頭が切れる。
まぁ、妖怪と人間のハーフだからそうといえばそうなのだが、やはり実際に相手をすると色々と面倒くさい。
彼は、霖之助は、ある意味イレギュラーな存在だ。
妖怪は妖怪。人間は人間。妖怪は人間を襲う者。人間はそれを退治する者。
そういった大昔から続く誰が決めたのかも分からない、意味のないルールの輪廻から脱した者。
どちら側にも属さないと言う事はどちらからも受け入れられず、つま弾きにされるということ。彼の人生も一筋縄ではいかなかったはずだ。
しかし、だからこそ、どちら側にも属さないからこそ、出来ることもあるのではないだろうか。
もしかしたら、彼や妖怪と人間の壁を全く気にしないとある巫女みたいな人物こそ、この歴史を、世界を、幻想郷を、妖怪と人間が仮初めの共存ではなく、スペルカードルールのような決闘をしなくても、本当に手を取り合って助け合うことのできる新しい時代を紡いでいってくれるのかもしれない。
私みたいな過去に固着した老いぼれ妖怪よりも。
そのような意味を持って、文は一時的な別れの挨拶をする。
「今日はいろんな意味でお世話になりました」
「いえいえ、珍しい物が見れてよかった」
「ではまた、『文々。新聞』をよろしくお願いします」
「こちらこそ、楽しみに待っているよ」
「さようなら」
「さようならです」
「お二人さん。さようなら。お元気で」
そう言って二人は霖之助に背を向け、店を出た。
「文さん。今日はなんだか疲れましたね」
「ええ。この一件がね…」
そういって、文はスカートのポケットの中にある物を取り出した。
椛がそのMP3プレイヤーを見て感嘆する。
「しかし、それってそんなすごい効果があったのですね~」
「私も驚きよ、こんな自我も持たない無機物の物体に殺されそうになったんだから」
それを手でくるくると弄びながら言う文。
「まぁ、紆余曲折あったけど、良いものが手に入ったということでよしとしましょう」
「確かにそうですね」
そういってニカリと椛が笑った。
「さて、文さん。帰りますか」
「そうね、わんこ。帰りましょう」
「…」
一瞬で椛の体が固まる。
「いっ、いまなんて言いました?」
聞き違いということを願いながら恐る恐る聞き返す。
「え?決まってるじゃない。わ・ん・こ」
顔にいたずらな笑みを浮かべ、含み笑いする文。完全にイジメモードだ。
「決まってなあァぁぁぁぁぁぁぁぁああああいっ!!!!」
本日二度目の絶叫をする椛。
「えー、勝負に負けたから罰ゲームとして『わんこ』って呼ぶって言ったじゃない」
「確かに言いましたが私は冗談と思ってましたよ!!それに私は犬ではありません!白狼です狼です!」
「そんなことわかっているわよ。とにかくこれから一年、『わんこ』でよろしく!」
「よろしくじゃねえェぇぇぇぇぇぇっ!!!」
と言って、椛は自分の得物である大太刀を抜き、盾を構えた。
「ほう、私とやるって言うの?いいでしょう。サシ(一対一)で弾幕ごっこでもしましょうか」
「よっしゃ!どっからでもかかって来へぶッ!!ちょっ、不意打ちはあきませんよちょっと待ってアアあああぁぁぁぁぁl!!!」
今日も天狗たちの日常は平和です………………たぶん?
MP3プレーヤーの謎について結局何も答えていないのが大きなマイナス
キャラが先行してしまって話の流れが自分で意識できていないのでは?
漢字の使い方がもおかしいですね、妙にひらがな混じりなのが気になりました
入団テストと息巻く前に自分の文章を冷静に見直してみましょう
簡単にではありますが、人物紹介がなされているのもいいですね。
全体を通して読みやすい工夫がなされていると思いますが、
基本的な小説のルールが守られていないのは少々気になりました。
具体的には「三点リーダーは二つセットで使う」「?の後にはスペースを入れる」など。
また、
>上半分は黒っぽいガラス板がはめ込まれていて、私の顔を映していた。
の「私」とは誰でしょうか? おそらく文なのでしょうが、この箇所だけ一人称になるのは少し変な感じがします。
後は、情景描写でしょうか。
情景描写はしかし多用するとテンポが悪くなりますので、使い所が難しいかもしれません。
後書きに書かれているご要望通り、軽く思いつく事を書いてみました。
私自身がへっぽこの腕前の上何年もSSを投稿していない立場なので、あまり参考にはならないかもしれませんが……
お役に立てば幸いです。