-前回までのあらすじ三行でまとめたら-
・眠りから目覚めた霊夢は、自身が幻想郷の外、現実の世界に来てしまったことに気づいた。
・霊やら何やらが”見える”少女、倉敷(くらしき)は繁華街で幽霊(自称:人食い妖怪)少女を拾った。
・倉敷は、彼女がルーミアに似てるんじゃね、って気づいた。
※詳しくは最初 http://coolier.sytes.net/sosowa/ssw_l/176/1354987119を見てくらさいm_ _m
◆2. 久しぶりに部活に行ってみた
倉敷 夢華(くらしき ゆめか)の姿は私立東京第一高校にあった。
時刻は夕暮れ。授業はとっくに終わっている時間帯である。
「おー……でっかい。これは、いったいなんなんだ?」
倉敷のとなりでぷかぷか浮いているのはルーミア。
不思議そうな表情をして、東京第一高校の校舎を見上げている。
「ここは学校よ」
「学校?」
倉敷は話しながらも、ずんずんと校舎に向かって歩く。
「知識や技術を習得する場所のことよ」
「寺子屋みたいなもんかー?」
「そうね。そう、寺子屋みたいなところ」
下足場につくと、倉敷は靴を履き替えた。
「でも、寺子屋は朝からやってたぞー?」
「う……きょ、今日は」
倉敷は痛いところを突かれたと顔をしかめ、靴箱にしまいかけた外履きを持ったまま固まった。
「たまたま、授業がなかったのよ」
「へーそーなのかー」
「そうよ」
彼女は短く返事をすると、ルーミアを視線から外し、無言で廊下を歩き始める。
「ちょっと、待ってよー!」
ルーミアが慌ててその後を追う。
/
「ファァアアンタスティィイイィイイイッッック!!!」
倉敷が部屋のドアを開け中に入ると、少年は即座に座っていた椅子を蹴り、倉敷の傍に駆け寄った。
奇天烈なセリフとともに。
倉敷の隣にいるルーミアは、目を点にしている。
「よく来たなー! 倉敷!」
少年は倉敷の両肩を、バンバンと音の出る勢いで叩く。
少年のメガネがその動作とともに、上下に揺れる。
「橋本落ち着いて」
「これが落ち着いてなんかいられるか! 部内一のツンデレ少女が自主的に部活に来るなん、グフッ」
「ツンデレとか言うの普通にセクハラよ。次言ったら殴るわ」
「そ、それ、腹パンする前に言うセリフだろ」
「失礼。噛みました」
「違う。わざとだ……つか、よくよく考えれば噛んでもねぇよ! お前は蝸牛の少女か? あぁ?」
「よく分かったわね。マイナーだから、分かってくれるとは思ってなかった」
倉敷は感心する。
「ま。オカ研部長としてそれぐらいは把握してるさ」
妙に偉そうに、橋本は胸を張った。
橋本 直之(はしもと なおゆき)。倉敷の友人であり、オカルト研究会、通称”オカ研”の部長である。
アニメや漫画等のホラー趣味が高じてオカルト好きになり、
今では二次元のオカルトもリアルの超常現象も愛してやまない、頭のネジの一本取れたメガネオタクとなっている。
ちなみに、顔はそこそこ良いのだが、言動だけで周りの人間を引かせてしまう残念なタイプの人間である。
そして、倉敷が”見える”人間だと知っている学校では唯一の人物だ。
「で、今日はどうしたんよ? また何かおもしろい漫画でも貸してほしいのか?」
「いや、それはまた今度でいい」
倉敷は、自分の背後で恐る恐る橋本を観察しているルーミアを指差す。
「これ。誰だかわかる?」
「……なんだ。久しぶりに顔出したと思ったら、そういうことね」
そう言うと、彼はメガネを外した。
目を細め、彼女の指差した場所を睨むように見つめる。
いつもは見せない真剣な表情で。
「人間。こいつ……なんだかこわい」
「我慢しなさい」
「……これは」
しばらくして、橋本は真剣な表情のまま倉敷に話しかける。
「倉敷。お前、何てものを連れてきたんだ」
「やっぱり、橋本にも見えるのね」
「何!? この人間にも、わたしが見えるのか!」
「ああ。これだけレベルの高い地縛霊は初めて見た」
橋本は倉敷が示した辺りをビシリと指差す。
「ずばり、これは交通事故で半身をなくした少年の霊!」
「違うって」
大外れの答えを叫んでしまった橋本は倉敷のツッコミを聞いて固まる。
倉敷は冷たい表情で、なにも言わない。
若干の沈黙。
その間、橋本は無表情で倉敷を見つめる。
「わ、わたしはおんなの子だ!」
これには先程まで怖がっていたルーミアもくってかかる。
橋本は学ランのポケットにしまったメガネを取り出して、かけた。
そして、自身が先ほど蹴り倒した椅子を元に戻し、座りなおす。
その動作は非常に落ち着いたものだった。
「……さて。説明してもらおうか」
「人間。こいつ……」
「そうね。⑨にも分かるよう、順を追って説明しないとね」
倉敷はもうひとつの椅子を持ってきて、座った。
そして橋本に順を追って説明し始める。
「という訳よ」
「つまり、お前はまた繁華街でよく分からん幽霊を拾ってきた訳だな」
「要約すればそういうことよ」
「それでその幽霊が、えっと『とうほう』? そのゲームのキャラに似てると」
「そう『東方project』。確か、紅魔郷の一面ボスのルーミア」
そして、倉敷は恐る恐る本題を切り出した。
「あんた、ファンブックみたいなの持ってたわよね? やたら名前の難しい「東方ぐもんなんちゃら」。あれ貸してくれないかしら?」
「ファンブック? んー……」
橋本は困惑した表情を浮かべた。
「すまん。そんなゲームのファンブック、俺は持ってないぞ」
「は?」
「つか、えっと、東方project? そもそも、それどこが出してるゲーム?」
「ちょっと!」
倉敷が勢いよく立ち上がる。
「あんたが貸してくれたんでしょ! これ面白いからやってみろって!」
「お前こそ、さっきから何勘違いしてんだ? 俺が前に貸したのは漫画だろ。『幽霊探偵0』ってやつ」
「いや、それもちょっと前に借りたけど……」
「あれもそろそろ読み返したいし、一旦俺に返せよ?」
(やっぱりそうだ……)
倉敷は力なく椅子に座った。
(みんな、東方のことを忘れてる……)
//
時刻は遡って、昨日の夜。
「あんた、本当にルーミアって名前なの?」
「うん。わたし、ルーミア」
「幻想郷に住んでる妖怪の?」
「うん」
「でも、それじゃあ何でこんなとこに居るのよ」
「わかんない」
ルーミアは首をかしげる。
「なんか、いきなりぎゅーっと押さえつけられて、気づいたらあそこに立ってた」
(何それ……というかこの子、本当にあのゲームのキャラなの?)
倉敷は「Gooble」という大手検索サイトを立ち上げる。
検索欄に「東方 ルーミア」と打ち込み検索。
「検索結果……9件」
(そんな……あんなにネットで有名なゲームのキャラが、検索数9件なんて)
名前を間違えているのかと、似たような名前で検索をかける。
それでも、結果は芳しくなかった。
倉敷は覚えている限りの名前を検索欄に打ち込む。
「東方 博麗霊夢」 「東方 マリサ」 「東方 橙」 「東方 えーりん」 「東方 十六夜咲夜」
どれも関係ないサイトばかりが検出される。
(そうだ。東方幻想板に行けば)
倉敷が検索欄に「東方幻想板」と打ち込む。
検索結果200件。
しかし、いくら探しても「東方幻想板」が見つからない。
「どういうことなの……」
///
時間は流れ、本日の朝。
倉敷の姿は秋葉原にあった。
「うわー人がいっぱいだー」
隣できょろきょろ辺りを見渡しているルーミアのことを気にかける余裕は、彼女になかった。
急いで向かった先は、アニメ・コミック・ゲーム関連商品販売チェーン店「アニメルト」。
平日の朝にも関わらず、店内は客で溢れかえっていた。
「ない……」
やはり、店内案内掲示板に「東方project」がない。
念のため、倉敷は店内を見て回ったが、それでも見つからない。
彼女は探索を諦め、店を移る。
同人誌販売店「うさぎの巣」、商業ビル「ラディオ館」。
どこにも東方を、東方の同人作品を、売っている店がない。
まるで、世界の記憶から「東方」という文字だけがすっかり抜け落ちてしまったかのように、
まったくどこにも「東方」が見当たらなかった。
「これは……いったいどういうことなの」
倉敷は秋葉原に立ち尽くした。
◆3.確認
霊夢は空から地上を見下ろす。
どうやら、博麗神社自体にはなにも異変がない。
変わっているのは周りの風景だった。
神社があるのは小高い山の上。
神社の裏は鬱蒼とした森に囲われている。
参道をまっすぐ行けば、幻想郷にあった時のように長い階段が。
ただ、その階段の下にあるものは、霊夢に理解できなかった。
(家みたいね。確か、霖之助に見せてもらった写真にあった……マンション?)
現代の住宅群は、彼女にはとても奇異なものとして映ったようだ。
それらを見渡し、彼女は改めて実感せざるを得なかった。
(やっぱり。ここは幻想郷じゃない)
その時、霊夢は背後に幾体もの気配を感じた。
振り返るまでもない。
いつもいつも退治してきた存在。
「外の世界にも、妖怪ってのはいるのね」
素早く霊夢を囲む、数体の影。
天狗や妖精。
いつもの”敵”だった。
「ま。外の世界で使えるかわかんないけど」
彼女は懐から札を取り出す。
「試してみるしかなさそうね」
彼女のその行為が引き金になったのか、影が一斉に彼女に襲いかかる。
………
……
…
結果から書けば、彼らの襲撃は実に呆気なく終わった。
御札も、おんみょう玉も、幻想郷に居た時のように正常に作動したし、スペルカードも使えた。
そんな万全な状態の彼女に勝てる訳もなく、戦闘はものの数秒でケリがついてしまった。
「あっけないわね……というか、あんた達。幻想郷に居た妖怪たちでしょ?」
しかし、ボコボコにされた彼らに答える気力はなく、仲良く神社の境内に伸びている。
「んー。でも、こいつらどうしたものか……」
その時。
「やっと見つけましたー」
参道へと続く階段から声が聞こえた。
霊夢は振り返る。
「こんなところに居たんですね。霊夢さん」
「美玲じゃない!」
緑の中国服に紅い髪。
そこに居たのは紅魔館の門番、紅美鈴だった。
<4につづく>
・眠りから目覚めた霊夢は、自身が幻想郷の外、現実の世界に来てしまったことに気づいた。
・霊やら何やらが”見える”少女、倉敷(くらしき)は繁華街で幽霊(自称:人食い妖怪)少女を拾った。
・倉敷は、彼女がルーミアに似てるんじゃね、って気づいた。
※詳しくは最初 http://coolier.sytes.net/sosowa/ssw_l/176/1354987119を見てくらさいm_ _m
◆2. 久しぶりに部活に行ってみた
倉敷 夢華(くらしき ゆめか)の姿は私立東京第一高校にあった。
時刻は夕暮れ。授業はとっくに終わっている時間帯である。
「おー……でっかい。これは、いったいなんなんだ?」
倉敷のとなりでぷかぷか浮いているのはルーミア。
不思議そうな表情をして、東京第一高校の校舎を見上げている。
「ここは学校よ」
「学校?」
倉敷は話しながらも、ずんずんと校舎に向かって歩く。
「知識や技術を習得する場所のことよ」
「寺子屋みたいなもんかー?」
「そうね。そう、寺子屋みたいなところ」
下足場につくと、倉敷は靴を履き替えた。
「でも、寺子屋は朝からやってたぞー?」
「う……きょ、今日は」
倉敷は痛いところを突かれたと顔をしかめ、靴箱にしまいかけた外履きを持ったまま固まった。
「たまたま、授業がなかったのよ」
「へーそーなのかー」
「そうよ」
彼女は短く返事をすると、ルーミアを視線から外し、無言で廊下を歩き始める。
「ちょっと、待ってよー!」
ルーミアが慌ててその後を追う。
/
「ファァアアンタスティィイイィイイイッッック!!!」
倉敷が部屋のドアを開け中に入ると、少年は即座に座っていた椅子を蹴り、倉敷の傍に駆け寄った。
奇天烈なセリフとともに。
倉敷の隣にいるルーミアは、目を点にしている。
「よく来たなー! 倉敷!」
少年は倉敷の両肩を、バンバンと音の出る勢いで叩く。
少年のメガネがその動作とともに、上下に揺れる。
「橋本落ち着いて」
「これが落ち着いてなんかいられるか! 部内一のツンデレ少女が自主的に部活に来るなん、グフッ」
「ツンデレとか言うの普通にセクハラよ。次言ったら殴るわ」
「そ、それ、腹パンする前に言うセリフだろ」
「失礼。噛みました」
「違う。わざとだ……つか、よくよく考えれば噛んでもねぇよ! お前は蝸牛の少女か? あぁ?」
「よく分かったわね。マイナーだから、分かってくれるとは思ってなかった」
倉敷は感心する。
「ま。オカ研部長としてそれぐらいは把握してるさ」
妙に偉そうに、橋本は胸を張った。
橋本 直之(はしもと なおゆき)。倉敷の友人であり、オカルト研究会、通称”オカ研”の部長である。
アニメや漫画等のホラー趣味が高じてオカルト好きになり、
今では二次元のオカルトもリアルの超常現象も愛してやまない、頭のネジの一本取れたメガネオタクとなっている。
ちなみに、顔はそこそこ良いのだが、言動だけで周りの人間を引かせてしまう残念なタイプの人間である。
そして、倉敷が”見える”人間だと知っている学校では唯一の人物だ。
「で、今日はどうしたんよ? また何かおもしろい漫画でも貸してほしいのか?」
「いや、それはまた今度でいい」
倉敷は、自分の背後で恐る恐る橋本を観察しているルーミアを指差す。
「これ。誰だかわかる?」
「……なんだ。久しぶりに顔出したと思ったら、そういうことね」
そう言うと、彼はメガネを外した。
目を細め、彼女の指差した場所を睨むように見つめる。
いつもは見せない真剣な表情で。
「人間。こいつ……なんだかこわい」
「我慢しなさい」
「……これは」
しばらくして、橋本は真剣な表情のまま倉敷に話しかける。
「倉敷。お前、何てものを連れてきたんだ」
「やっぱり、橋本にも見えるのね」
「何!? この人間にも、わたしが見えるのか!」
「ああ。これだけレベルの高い地縛霊は初めて見た」
橋本は倉敷が示した辺りをビシリと指差す。
「ずばり、これは交通事故で半身をなくした少年の霊!」
「違うって」
大外れの答えを叫んでしまった橋本は倉敷のツッコミを聞いて固まる。
倉敷は冷たい表情で、なにも言わない。
若干の沈黙。
その間、橋本は無表情で倉敷を見つめる。
「わ、わたしはおんなの子だ!」
これには先程まで怖がっていたルーミアもくってかかる。
橋本は学ランのポケットにしまったメガネを取り出して、かけた。
そして、自身が先ほど蹴り倒した椅子を元に戻し、座りなおす。
その動作は非常に落ち着いたものだった。
「……さて。説明してもらおうか」
「人間。こいつ……」
「そうね。⑨にも分かるよう、順を追って説明しないとね」
倉敷はもうひとつの椅子を持ってきて、座った。
そして橋本に順を追って説明し始める。
「という訳よ」
「つまり、お前はまた繁華街でよく分からん幽霊を拾ってきた訳だな」
「要約すればそういうことよ」
「それでその幽霊が、えっと『とうほう』? そのゲームのキャラに似てると」
「そう『東方project』。確か、紅魔郷の一面ボスのルーミア」
そして、倉敷は恐る恐る本題を切り出した。
「あんた、ファンブックみたいなの持ってたわよね? やたら名前の難しい「東方ぐもんなんちゃら」。あれ貸してくれないかしら?」
「ファンブック? んー……」
橋本は困惑した表情を浮かべた。
「すまん。そんなゲームのファンブック、俺は持ってないぞ」
「は?」
「つか、えっと、東方project? そもそも、それどこが出してるゲーム?」
「ちょっと!」
倉敷が勢いよく立ち上がる。
「あんたが貸してくれたんでしょ! これ面白いからやってみろって!」
「お前こそ、さっきから何勘違いしてんだ? 俺が前に貸したのは漫画だろ。『幽霊探偵0』ってやつ」
「いや、それもちょっと前に借りたけど……」
「あれもそろそろ読み返したいし、一旦俺に返せよ?」
(やっぱりそうだ……)
倉敷は力なく椅子に座った。
(みんな、東方のことを忘れてる……)
//
時刻は遡って、昨日の夜。
「あんた、本当にルーミアって名前なの?」
「うん。わたし、ルーミア」
「幻想郷に住んでる妖怪の?」
「うん」
「でも、それじゃあ何でこんなとこに居るのよ」
「わかんない」
ルーミアは首をかしげる。
「なんか、いきなりぎゅーっと押さえつけられて、気づいたらあそこに立ってた」
(何それ……というかこの子、本当にあのゲームのキャラなの?)
倉敷は「Gooble」という大手検索サイトを立ち上げる。
検索欄に「東方 ルーミア」と打ち込み検索。
「検索結果……9件」
(そんな……あんなにネットで有名なゲームのキャラが、検索数9件なんて)
名前を間違えているのかと、似たような名前で検索をかける。
それでも、結果は芳しくなかった。
倉敷は覚えている限りの名前を検索欄に打ち込む。
「東方 博麗霊夢」 「東方 マリサ」 「東方 橙」 「東方 えーりん」 「東方 十六夜咲夜」
どれも関係ないサイトばかりが検出される。
(そうだ。東方幻想板に行けば)
倉敷が検索欄に「東方幻想板」と打ち込む。
検索結果200件。
しかし、いくら探しても「東方幻想板」が見つからない。
「どういうことなの……」
///
時間は流れ、本日の朝。
倉敷の姿は秋葉原にあった。
「うわー人がいっぱいだー」
隣できょろきょろ辺りを見渡しているルーミアのことを気にかける余裕は、彼女になかった。
急いで向かった先は、アニメ・コミック・ゲーム関連商品販売チェーン店「アニメルト」。
平日の朝にも関わらず、店内は客で溢れかえっていた。
「ない……」
やはり、店内案内掲示板に「東方project」がない。
念のため、倉敷は店内を見て回ったが、それでも見つからない。
彼女は探索を諦め、店を移る。
同人誌販売店「うさぎの巣」、商業ビル「ラディオ館」。
どこにも東方を、東方の同人作品を、売っている店がない。
まるで、世界の記憶から「東方」という文字だけがすっかり抜け落ちてしまったかのように、
まったくどこにも「東方」が見当たらなかった。
「これは……いったいどういうことなの」
倉敷は秋葉原に立ち尽くした。
◆3.確認
霊夢は空から地上を見下ろす。
どうやら、博麗神社自体にはなにも異変がない。
変わっているのは周りの風景だった。
神社があるのは小高い山の上。
神社の裏は鬱蒼とした森に囲われている。
参道をまっすぐ行けば、幻想郷にあった時のように長い階段が。
ただ、その階段の下にあるものは、霊夢に理解できなかった。
(家みたいね。確か、霖之助に見せてもらった写真にあった……マンション?)
現代の住宅群は、彼女にはとても奇異なものとして映ったようだ。
それらを見渡し、彼女は改めて実感せざるを得なかった。
(やっぱり。ここは幻想郷じゃない)
その時、霊夢は背後に幾体もの気配を感じた。
振り返るまでもない。
いつもいつも退治してきた存在。
「外の世界にも、妖怪ってのはいるのね」
素早く霊夢を囲む、数体の影。
天狗や妖精。
いつもの”敵”だった。
「ま。外の世界で使えるかわかんないけど」
彼女は懐から札を取り出す。
「試してみるしかなさそうね」
彼女のその行為が引き金になったのか、影が一斉に彼女に襲いかかる。
………
……
…
結果から書けば、彼らの襲撃は実に呆気なく終わった。
御札も、おんみょう玉も、幻想郷に居た時のように正常に作動したし、スペルカードも使えた。
そんな万全な状態の彼女に勝てる訳もなく、戦闘はものの数秒でケリがついてしまった。
「あっけないわね……というか、あんた達。幻想郷に居た妖怪たちでしょ?」
しかし、ボコボコにされた彼らに答える気力はなく、仲良く神社の境内に伸びている。
「んー。でも、こいつらどうしたものか……」
その時。
「やっと見つけましたー」
参道へと続く階段から声が聞こえた。
霊夢は振り返る。
「こんなところに居たんですね。霊夢さん」
「美玲じゃない!」
緑の中国服に紅い髪。
そこに居たのは紅魔館の門番、紅美鈴だった。
<4につづく>