「縁側、借りるわね」
「へ?」
ふわりと私の目の前に降り立った霊夢さんは「私、何か変なこと言った?」とでもいうように小首を傾げる。不満そうに目を細めて「早苗?」と私の名前を呼んだ。急に頭の上に影が差したものだから、天狗が記事を捏造でもしにきたのかと思って危うく攻撃するところだった。そんなことを、もし、霊夢さん相手にしていたらどうなることか。
うん。
あと一歩で死ぬところだった。
「えーっと……霊夢さん? どうしてここに?」
「いちゃ悪いの?」
「いえ、そういうわけじゃないんですけど」
「じゃあ縁側を借りるわね」
「待ってください!」
じゃあ、の意味がわからないんですって!
霊夢さんは不服そうに腕を組んで、じぃっと私を睨んでくる。睥睨する。そんなに睨まれたってどうしようもない。というか、そんなに睨んでる暇があったら事情の説明とかしてください。
睨むことにつかれたのか、陽気に誘われたのか、霊夢さんは呑気に「……ふぁ」とあくびをした。この……もう、本当に自由で、気ままで、おまけに無闇に可愛くて困ってしまう。霊夢さんは神社が妖怪まみれで困っているみたいだけれど、いろいろ人たち(妖怪含み)からやたらに好かれるのも仕方ないと思う。
それにしても何だか、霊夢さんが守矢神社にいるのは不思議な感じがする。めんどくがりな霊夢さんは博麗神社から滅多に動かないから、基本的にこうしてどこかに行くこと自体も珍しいのだけど。
でもそうなると、なんで本当にこんなところに?
妖怪の山にあるこの神社はお世辞にも立地条件はよくない。空を飛べるにしたって、コンビニ感覚でほいほいっと来たわけではないだろう。あ、そうか。縁側か。縁側を借りるために来た――って、言っていたんだった。……縁側? 縁側って、あの縁側だろうか。お寿司のえんがわの可能性も否定しきれないけど、でもそれは流石にないはず。
「霊夢さん?」
「なに?」
「お寿司、好きですか?」
「……? 魚は好きだけど? 夕飯でもご馳走してくれるの?」
うん、寿司の方向の可能性はやっぱりなさそうだ。さり気にたかられそうになってるのは無視しよう。
でも、縁側で納得できるわけでもない。霊夢さん、縁側フェチとかそういう趣味でもあるんだろうか。実際、博麗神社に行くとだいたい霊夢さんは縁側でのんびりしてる。
ふむ。
そうなるとつまり、今日はこの守矢神社でのんびりしたいから「縁側、借りるわね」ということだろうか。普通に考えればそうなのだけど――「普通」というところがひっかかる。そう簡単な結論だろうか。いや、そんなはずがない。ここは幻想郷。絶対に、そんな安直な展開なわけがない!
「霊夢さん?」
「もう……何なのよ?」
「のんびり、したいですか?」
「だーから、最初からそう言ってるでしょこのミドリムシ」
……あれ? ほんとにのんびりしたいだけ? ついでに酷いこと言われた気もする。心が痛い。ずきずきする。顕微鏡がなくても私のことは見つけてください。あ、なんだか今のラブストーリー映画のタイトルで有りそう。「霊夢さん、顕微鏡がなくても私のことは見つけてください」。うん、これいい感じな気がする。いつか幻想郷に大学ができたら映画サークルをつくって撮ってみたい。
それはともかく。
でも、これは全部演技で、霊夢さんが縁側を求めてるのは、何か本当の目的のための布石だったりしないだろうか。
――もしかして。
真実は「縁側、借りるわね。べ、べつに、あんたに会いたくて来たわけじゃないんだからね!」ということもありうるんだろうか。ありえちゃったりするんだろうか。ありえちゃったら私はどうすればいいんだろうか。いや、大丈夫です。これでも私は正気で、こんな展開と霊夢さんのキャラはまずあり得ないのはわかってます。でも考えてもみてください。「のんびりしたいだけ」なんていうさっきの安直な結論よりは、こちらの方がずっと驚きに満ちているじゃありませんか! 霊夢さんがもしこんなキャラだったら、幻想郷が崩壊しかねません。それくらい驚きがあって、現実に囚われていない発想。そう、幻想郷で現実に囚われていると痛い目を見るから駄目なんです!
そう考えると、こっちが正解な気もしてきてしまうわけで。
でもそうなると霊夢さんは私に会いに来たということになってしまって、それはつまり霊夢さんは私のことが……あ、でも会いたい相手は神奈子様と諏訪子様の可能性もある。いけない。駄目だ駄目だ。全然駄目だ。こうやって早とちりしちゃいけない。漫画やドラマだとこういう早とちりからややこしいすれ違いとか仲違いが起きてしまうんだから、気をつけないと!
「ねぇ、ちょっと」
「は、はい!」
「な」少しひるんだように霊夢さんは目を丸めた。「そんな大きな声出さないでよ。吃驚するでしょ。黙り込んでぶつぶつ言い始めたと思ったら……ほんと、あんたよくわかんないわね。で、借りていいの?」
「縁側ですよね」
「まあ、駄目なら借りるのは諦めて」え、諦めてくれたりもする――「ぶんどるけど」わけがなかった。
特に表情を変化させる様子もなく、淡々と霊夢さんは言った。
本気です、この人。
「その、縁側を借りる理由とか、聞かせていただいてもよろしいでございましょうか……?」
「なんでそんな意味不明に下手なのよ」
胸に手を当てて、よく考えればいい気がする。
特大陰陽玉で守矢神社倒壊なんて事態を起こして、天狗の新聞に載るわけにはいかない。
「理由なんてないけど、別に」戯けるように霊夢さんは肩を竦めた。「ただ借りて、そこでのんびりさせてもらえれば、それでいいわよ。別にそこまで無理なこと言ってるつもりもなかったんだけど……今日は都合が悪かったりするの?」
「……え? えっと、本当にそれだけですか?」
「それだけだけど?」
きょとん、と霊夢さんは首を傾げた。大きめの紅いリボンがふらりと揺れる。何かよくわからないけどいい匂いでも薫ってきそうな雰囲気だ。さっきのあくびもそうだけど、この人はときどき無防備に可愛いから本当に困る。
「お茶くらいもらえたら嬉しいけどね」
「それくらいなら別に大丈夫ですよ」
「ほんと? じゃあお邪魔するわ。お茶と煎餅と羊羹よろしくね」
「はーい。ん、あれ、え?」
すいすいと霊夢さんは私の横を通り過ぎて母家の中へと入っていった。どうやら本当に縁側以外に興味はないらしい。呆気にとられる神奈子様と諏訪子様にも「こんちは」という感じに一瞥しただけで、真っ直ぐに縁側に向かってまっしぐらだ。巫女まっしぐら。「早苗? あれはどういうことなの? 何でここに博麗の巫女?」なんて私に聞かれても困る。私が答えを聞きたいくらいなので、しばらくおふたりは静かにしててください。
「へー、ほんと。あんたが言ってたとおり、いい感じに陽が差してるのね」
「え、私そんなこと言いましたっけ?」
「覚えてないの――ってそうか、あの時あんた酔っ払ってたかも。それじゃ駄目だわ」
少し気合いを入れて記憶を遡ってみると、確かにそんなことを霊夢さんに言ったような気がする。お酒の勢いで意地を張って、霊夢さんに向けて胸を張ってうちの縁側を自慢したような。そうだ。確かにその時、霊夢さんは感心したように「へー」と頷いていた。なるほど、それじゃあ霊夢さんの今日の訪問は、私の言葉を覚えてくれていてのことらしい。というか本人もそう言ってる。
あれ。
霊夢さんが、私の言葉を覚えていてくれた。
それだけなのに、別に私が褒められたわけでもないのに、不思議と嬉しい気がする。
少女がブランコに飛び乗るような仕草で、ぽっすりと霊夢さんは縁側に腰かけた。「それに、いい景色ね」と少し目を細めて、ふにゃりと床を撫でる。温かくて気持ちいいのかもしれない。外の世界にいた頃、野良猫がたまにやってきて同じように日向ぼっこをしていた。
にゃーん、とか言ってくれたりしないだろうか。
霊夢さんが陽だまりでごろごろしてにゃーんとか言ってる姿を想像していたら、いつのまにか現実の霊夢さんはこちらを向いていた。何だか目が怖い。大丈夫、心を読むことなんて地底にいる妖怪くらいにしか出来ない。胸を張って堂々としてれば問題なんて何にもない。
「にゃ、何でしょうか」
噛んだ。
私が「にゃ」とかいってどうする。
「お茶」
「は、はい?」
「だから、お茶、出してくれるんじゃないの?」
「あ、は、はい! ただいま!」
慌てて台所に向かって、お茶とその他諸々の準備をして縁側に戻った。
ありがと、と霊夢さんは言ってから、怪訝そうに首を傾げた。
「あんたの分は?」
「私はまだお掃除とか炊事とか、やることがありますし」
「別にそんなの後回しでいいんじゃない? 神奈子とか暇そうにしてたし、やらせておけば?」
この人は、他所の神社の神様をなんだと思っているんだろう。
神様か。
神様だけど、霊夢さんにとっては、ただ単にそれだけなんだろう。
「私がここにいたら、霊夢さんのんびりできないんじゃ」
「早苗なら別に構わないわよ。うちがいつもどんだけ騒がしいか、あんたも知ってるでしょ?」
「魔理沙さんとかですか?」
「あいつは筆頭。あとは妖怪が有象無象。神社を何だと思ってるのかしら」
「みなさん、神社が好きなんですよ」
その一言で、空気が少しだけ固まった気がした。
私、そんなにおかしなこと言っただろうか。
霊夢さんは少し驚いた風にして、ちょいちょいと私を近くに呼び寄せた。「顔もうちょっと近づけて」え、あ、近い。本当に近い。っていうか霊夢さんの睫が綺麗だ。本当に、すごく綺麗。化粧――なんてしてるわけない。すっぴんでこれなのだ。恐ろしい。瞼の縁に黒い花が咲いたみたいにすらりとした睫が並んでいる。一本くらい抜いても罰はあたらな――バチン。
「って痛ったぁ! 何するんですか!」
「でこぴん」
「見ればっていうかくらったからわかりますけど! なんでですか!」
「いや……なんとなく?」
「そんな疑問形で言われても!」
額がへこんでクレーターができてそうな気がする。それくらい痛かった。間違いなく指の形に赤くはなっているだろう。
私が痛みに悶えてることなんてお構いなしに、霊夢さんは逡巡してから口を開いた。
「そんな風に言うやつ初めてだったから、ちょっと吃驚したのよ」
「はい?」
「どいつこいつも声揃えて、私があちこちで好かれてるからいろいろ寄ってくるんだ――とか言うのよね。そんなわけないに決まってるってのに。でも……なるほどねぇ、神社か。あいつら、あの場所が好きなのね。里の寺にも妖怪が一杯いるし、神様とか妖怪ってそういう建物好きなのかしらね」
「さ、さあ、どうなんでしょう」
もちろん私の言葉には「みなさん、(霊夢さんがいる博麗)神社が好きなんですよ」という意味が含まれていたのだけど、今さらとても言い出せそうにない。
あはは、と調子を合わせておいて結局私もお茶を持ってきた。ぽんぽん、と霊夢さんが床を叩いたので隣にお邪魔させて貰う。ふたり分のお茶請けが乗ったお盆を挟んで、私と霊夢さんは縁側で足をぶらぶらとした。鹿威しの音のようにずずずっとお茶を啜る音が響く。
「ほんとに静かなのね」
「霊夢さん、実はひとりで静かにしてるの好きですよね」
どんなに騒がしい宴会の中にいても、霊夢さんは時々ひとりになる。騒がしさを嫌っているという風には見えないし、孤独を好んでいるような素振りがあるわけでもない。ただ飲んだり、脱いだり、歌ったり、吐いたり、撃ったり、落ちたり、そんな阿鼻叫喚で絢爛な終わらない宴を、つけっぱなしにした深夜ラジオにでもしてしまうみたいに、霊夢さんは騒々しさの中の静謐を楽しんでいる。楽しんでいると、思う。そうじゃなかったら、微かな笑窪を押し隠すように、ひとりで、お酒を呑んだりはしないだろう。
「実はも何も、私はいつもそんな感じのつもりだけどね」
「それもそうですね」
今日だって「静かにのんびりすることができるから」という理由で霊夢さんはこの場所に来たんだった。
「まあ、誰かが神社に来るのも楽しみなんだけどさ」
……え?
あれ? 霊夢さん?
霊夢さんがあまりにも素直にそんなことを言うものだから、私は返事すらも出来なかった。へえー、というか、ひえー、というか、やっぱりというか霊夢さんも本音はそうだったんだ。
動揺しながら無理矢理に「は、はあ」なんて妙に引っかかった反応を示してしまったせいだろう。霊夢さんも自分の言葉の意味に気がついたらしい。そうです。私の知ってる霊夢さんは、肩を竦めて何事もなく「興味ないもの」「面倒くさい」「お茶」みたいなことを言っても、あんな率直に「人が来るのが楽しみ」なんて言わない人です。
「早苗」
うわ、霊夢さん顔、真っ赤。
「あんた」顔は紅くて可愛らしいのに、何と冷たい笑顔だろう。「口は軽い方? その小さな唇に、結界を張らないと駄目だったりする? っていうか、問答無用にそうした方がよさそうよね? あんたお酒はいると何でもかんでも駄々漏れだものね? そうでしょ? そうよね?」
「いやいやいやいやいや、ちょっと待ってください! 今、私何にも悪くないですよね!?」
「そうなんだけどね」
そんなもんしったこっちゃない、っていう笑顔ですかそれ。あ、ちょ、やだ、霊夢さん、やだ、そんな異変解決する時みたいな据わった目怖いです。本当に怖いです。
追い詰められれば鼠だって猫相手に頑張るのだから、私だって縁側から跳ね上がるくらいのことはできる。
それくらいはできる。
できて、しまった。
でも窮地に追い込まれた人間が、逃げること以外のことを考えられるかというとそんなことはない。命を第一に優先して、他のことは全て思考の外へ。今は霊夢さんの間合いから少しでも離れることが先決であって、他のことに意識が及ぶわけもない。
だから、仕方がなかった。
「あ」「あ」
縁側から離れるというミッションは失敗していたけれど、霊夢さんの動きは止まっていた。もはや時間ごと全てが制止しているようにも感じる。冷や汗がこめかみの辺りにぶわっと出てきてるのがわかる。神経が剥き出しになったみたいに空気が痛い。
状況を端的に説明すると、私は手に持っていたお茶をこぼした。
というかぶっかけた。
霊夢さんの頭に。
「ご」ごごごごごとか意味不明なくらいに言い損ねた。焦って口が回らない。「ごめんなさい! 今拭くもの――っていうかそうじゃなくてその前に霊夢さん熱くないですか!? 火傷とかそういうのは!?」
霊夢さんは前髪からひたひたとお茶の粒を滴らせたまま動かない。やっぱり怖い。不動明王が目の前に顕現したらきっとこんな感じな気がする。
「早苗……もう……いいから。なんか、早く拭くのちょうだい」
「は、はい!」
ですよねやっぱりそうですよねひとっ走り行ってくるんでもうちょっとだけ待っててください、と胸の中で数回繰り返しながらタオルを取りに走った。奇跡でタオルが呼び寄せれたらいいのに。曲がり角を靴下ドリフトで減速することなく通り過ぎようとしたけれど、慣性の法則を無視する勢いで急停止した。
ばふんと、豊満な胸に抱きとめられる。
「早苗! ほら!」
「か、神奈子様に諏訪子様!?」
「早くそのタオルを持って戻りなさい、早苗」
「ほらほら、急いで急いでー」
神奈子様も諏訪子様も布教専用量産型神様スマイルだったので、思わず素直に「はいっ」だなんて返事をしてしまったけれど、ふたりは廊下の隅から私たちを覗き見していたんだろう。今はそんな暇がないから無理だけど、あとできっちり折檻して差し上げよう。そうしよう。具体的には夕飯で、神奈子様には蛇の蒲焼き、諏訪子様には蛙の薫製を特盛りにして出してあげようと思う。
「お待たせしました! タオルです! ――てうぇぇぇっ!?」
「何騒いでるのよ。早くそれちょうだい」
「いや、はい、でも、あれ?」
なんで霊夢さん半裸なんですか? サービスですか?
渡したタオルに霊夢さんはもふもふと顔を埋めた。小さな女の子が大きな白い犬にじゃれているのを眺めるような、幸福で眼福な光景ではあるのだけど、それでいて上半身が裸だとまた話が違う。ほんわかほんわかした空気の中に、そこはかとない扇状的な様子が現れて、これはこれで眼福なのだろうけれど――危ない。いろいろ危ない。霊夢さんの白い肌にさらしがくるくるとまとわりついていて、いっそのことひっぺがしてしまいたいような気分にさえなってくる。危ない。主に私が、危ない。
「はあ、ありがと」
私の心の中の暴風雨なんて何にも察することなく、使い終わったタオルを手渡された。お願いだからそのタオルを上半身に巻いててください。
「あの、霊夢さん? なんでその、服を脱いだんですか?」
「そりゃ」平然と霊夢さんは言った。「濡れちゃったから気持ち悪いし。よかったらなんか着るものかしてくれない?」
そうか、その手があった。
というかそれが真っ先に思い浮かばないのがおかしい。
「もちろんです! ついてきてください! あ、濡れた服は洗いますから!」
「え、そう?」少し考えるようにしてから、霊夢さんは手に取った巫女装束を私に渡した。「まあ、早苗なら大丈夫か」
「大丈夫?」
「いや、どっかのあほな妖怪に渡すと匂いかがれたりとかしそうだから」
その発想は忘れてた、とか思ってしまってすみません。
霊夢さんが覚り妖怪じゃなくて本当によかった。
さっきから、どうも、私が地味に霊夢さんから信頼されているような気がするのは不思議だけれど、たぶん理由なんてなくて、他の周りにいる妖怪やその他の人々に比べて、私が良識あるように見えるだけなんだと思う、きっと。霊夢さんの交友関係内での比較と差異の中でなら、私は十分、地に足がついている人間なんだろう。
洗濯物の隣に霊夢さんの巫女装束を置いてから、私の部屋へと案内する。一応この家には私、神奈子様、諏訪子様それぞれの部屋がある。いつもは汚く散らかっている四畳半が、今日は珍しく綺麗な日でよかった。素直な声音で「綺麗にしてんのねー」なんて言われると少し心苦しいけれど。
「霊夢さんだって綺麗にしてるじゃないですか」
「私は違うわよ。汚くなるほど物がないだけ」
「――あ」
そうなんですか、とは続けられなかった。
思わず、言葉を失ってしまった。
確か霊夢さんは私より幾つか年下だったと思う。飲み会のあいまいな記憶でそんなことを聞いたのを覚えてる。私が霊夢さんくらいだった頃ってどうだっただろう。言うほど歳の差はないとかそういう問題じゃない。霊夢さんはだいたいいつも巫女装束だ。私服というか、そういう概念自体無いのかもしれないけど、そんなものは一着だって持ってないだろう、きっと。
霊夢さんだって女の子だ。それを理解してない輩も多いけど、同じ巫女である私が言う。女の子だ。ばっちりきゅーとに、女の子だ。甘いものは好きだし、可愛い服は好きだし、身だしなみだって気になる。アリスさんのような人形みたいに綺麗な顔に憧れたりだってする。少なくとも私は。霊夢さんはわからないけど。
ごちゃごちゃ考えている内に、気がついたらクローゼットを開け放っていた。
「霊夢さん。好きなの、選んでください」
「いいわよ、別に。適当に選んでよ」
「あ、いいんですか? それじゃあ、失礼します」
私の気の済むまで。
それから私は春夏秋冬、あらゆる季節の服装を霊夢さんに着せてみた。結果は全部似合うという恐ろしい状況だった。中学のセーラー服と高校のブレザーを両方取っておいて正解だった。幻想郷広しといえども、霊夢さんの学生服姿を見た人は私以外にいないだろう。カメラがないのが憎い。霊夢さんがジーンズを穿いてる姿なんてレアすぎて永久保存だ。
「動きやすくていいわねー、これ」
とのことだったので、スカートではなくてパンツ系でコーディネイトすることにした。最終的にはショートパンツに長袖のカットソーと、七分丈のジャケットを合わせた。少しボーイッシュな感じになったけれど、有り余ってキュートだった。かわいい。めっちゃかわいい。正直に言って、私が着るよりも似合ってる。洋服たちも本望だと思う。間違いなく。
「霊夢さん、かわいいですね」
「ありがと」
「お世辞じゃないですよ」
「そういうの聞き慣れてるから、私」
そういいながらも少し耳が紅い。幾ら言われても慣れないのかもしれない。
かわいい。可愛すぎるくらい。
いろいろ服を試しているときは楽しくてしょうがなかった。
私だけじゃなく霊夢さんもまんざらじゃないようだった。
なんでだろう。
どっちも楽しかったはずなのに、なんで、どうして、私は勝手に落ち込んでいるんだろう。
「早苗?」
私は昔、石を投げられたことがある。背中に向かって、木の陰から投げられて、誰に投げられたかなんてわからなかった。痛かったし、最初は赤く、後になっては蒼い痣になった。神奈子様や諏訪子様と出会って、風祝としての力が自分にあると知ったばかりの頃だった。護符や結界なんて知らなかったから、身を守る術なんて何もなかった。
護符や結界だって完璧に身を守ってくれるわけじゃない。作るのだって一苦労する。自分自身の体を守るために、自己結界を展開するならなおさらだ。自分が外に放出する力を遮らないように強すぎず、かといって防護なんだから薄いものを展開しても意味がない。
だから結局、大きな傷は防いでくれるけれど、体が耐えれるくらいの傷は通す、そんな結界を作ることになる。大きな目の網で体を纏う感じだ。これで一応、死に直結するような事態は防ぐことができる。
小さな傷は、体に残る。
「ちょっと、早苗聞いてるの?」
聞いてます。
でも、ちょっと待ってもらえますか。
霊夢さんの肌は白い。私の知っている人だとアリスさんもすごく白くて、陶器のように滑らかな肌をしている。霊夢さん少し違う。抜けるような白さ。陶器ではなくて、たぶん雪。雪のような白さなんてよく聞く。よく聞いても現実に見ることなんて滅多にないだろう。ない方がいいのかもしれない。雪は綺麗だけど、汚れるとすぐわかる。踏めば跡が残るし、泥がかかればすぐ染まる。血が滴れば赤々と滲んでいくだろう。
霊夢さんの背中は、よく見ると傷だらけだった。
段幕勝負とかでできた傷じゃない。治りかけの打撲や、細かい切り傷がいくつも重なっている。背後から不意をついて命そのものを刈り取りにくる――そんな暴力を反射や勘で避けたけれど、完全に避けることはできなくて、痕になった。そういう傷だ。護符の結界を通り過ぎるほどの些細な傷だけれど、治りかけのものから新しいものまで幾つも、幾つもある。
――博麗の巫女という人間が実質的に幻想郷を牛耳ってるらしいよ、早苗。
幻想郷にきてすぐの私たちにも、そんな情報は入ってきた。幻想郷は理想郷ではない。妖怪は好き勝手に生きてるし、地下に排された妖怪たちもいる。天狗は山に縄張りを持ち、そんな高等な思考を持たない野良妖怪もいる。霊夢さんは妖怪を退治する。その行為が、幻想郷というコミュニティにとって、意味があることだとわかる妖怪もいる。わからない妖怪もいる。それだけのこと。それだけのこと、というしかないのかもしれない。
「さな――」
霊夢さんは途中で口をつぐんだ。私の顔色に出ていたのだと思う。きっと、私じゃない他の誰かからも、同じような顔を見せられたことがあるのだと思う。
せめてそれくらいのことは、あってほしいと思う。私みたいに表情を隠せない人ばかりでも困るけど、そんなことにも気がつけない人ばかりだったとは、思いたくない。
「大丈夫よ」
自分に言い聞かせるような言葉に、聞こえた。
「もう、慣れてるから」
早苗には見せたことなかったのね、そういえば。まあ、見せるものでもないから、それで普通なんだけど。そんなに驚かれるとちょっと困るわね。
そんな風なことを霊夢さんは言った。
霊夢さんがそういう傷を背負っているのは、たぶん当たり前のことなんだろう。博麗の巫女。大結界の要。みんなが知ってる。私だって知ってる。いつものんびりと縁側に座っている霊夢さんが、結界のある神社の中だからのんびりできることも、知ってる。静けさも安寧もない宴会の騒々しさの中に――ああして混沌としていいるからこそ安全な中に――一条の静謐を見つけるほどに。
つらくないですか。
大変ですよね。
痛くはないですか。
そんな言葉をかけることもできない。そんな言葉に意味がないとわかってるから、みんな口には出さずに博麗神社に寄りつくんだろう。言葉は誰も守ってくれないけれど、傍らで馬鹿騒ぎすることはできるから。傍にいることはできるから。
だから、何にも言えない。
霊夢さんだって何も言わない。
ほんのついさっきまで、あれを着たりこれを着たりで騒いでいたのに。
「……そろそろ帰るわ。張ってきた結界もそろそろきついと思うし。あんまり神社を空にすると紫に怒られるし」
霊夢さんが部屋を出ていく。足音がいやにゆっくりと聞こえる。一歩、二歩、三歩。何か言わないといけない気がする。でも何を言えるんだろう。霊夢さんの辛さを、私はきっと同じだったから、同じじゃないけど似てはいたから、わかる。わかるけど、わからない。頭が良ければ、それこそ今名前の出た八雲紫くらいに賢ければ、霊夢さんにかける言葉が出てくるんだろうか。
「お邪魔したわね」
「――その服!」
何言ってるんだろう、私。
頭が真っ白だ。何にも考えてない。たぶん、本当に私って馬鹿なんだろう。
「その服、あげます! あ、あの……お邪魔なんかじゃ、全然なかったですから! 私も楽しかったですし、その、もっといてもらったって全然構わないくらいです。いつ来てくれたっていいです。休みたくなったら、いつでも来てください。こんな縁側でよかった、いつだって、のんびりしに来てください」
痛くなったら頼る相手はもう他にいる。
寂しくなって愚痴る相手ももう他にいる。
だから、霊夢さんにとっての特別な何かに、私がなることはできないと思う。
私じゃたぶん、そういう相手にはなれない。私は霊夢さんのことを驚くほど知らない。解決した異変も、博麗の巫女として歩いてきた道も、私は何にも知らない。
でもせめて、ただのんびりしたくなったら、来てくれればいいと思う。
私は何にも知らないから。何も知らないでいることは、できるから。
霊夢さんの足音が止まって、こっちを向いた。驚いた風な顔をしているみたいにも見えるけれど、それは私がそう思いたいだけだろうか。そうかもしれない。そうだったらいい。そうであってほしい。
少し目を丸めたように見えた霊夢さんは、少ししてから微かに笑った。
踏み出した数と同じだけ、霊夢さんは私に近づいてきた。距離の詰め方をしらないような、不安そうな足取りに見えた。一度止まって、霊夢さんはまた一歩進んだ。さらにもう一歩。もう距離なんてない。ほとんど目の前に霊夢さんがいる。身長はほとんど変わらないから、もう一歩進めば鼻の頭がくっついてしまいそう。
霊夢さんは、もう一歩進んだ。
でも鼻の頭がくっつくことはなかった。
「また、来るわ」
抱きしめられるかと思うほどの近さで、霊夢さんはそう私に耳打ちした。
それだけだった。
すぐに身を翻して、霊夢さんは博麗神社に戻っていった。
いつもの紅白の姿ではなくて、外の世界にならどこにでもいそうな、とびっきりかわいい女の子な姿で。
「へ?」
ふわりと私の目の前に降り立った霊夢さんは「私、何か変なこと言った?」とでもいうように小首を傾げる。不満そうに目を細めて「早苗?」と私の名前を呼んだ。急に頭の上に影が差したものだから、天狗が記事を捏造でもしにきたのかと思って危うく攻撃するところだった。そんなことを、もし、霊夢さん相手にしていたらどうなることか。
うん。
あと一歩で死ぬところだった。
「えーっと……霊夢さん? どうしてここに?」
「いちゃ悪いの?」
「いえ、そういうわけじゃないんですけど」
「じゃあ縁側を借りるわね」
「待ってください!」
じゃあ、の意味がわからないんですって!
霊夢さんは不服そうに腕を組んで、じぃっと私を睨んでくる。睥睨する。そんなに睨まれたってどうしようもない。というか、そんなに睨んでる暇があったら事情の説明とかしてください。
睨むことにつかれたのか、陽気に誘われたのか、霊夢さんは呑気に「……ふぁ」とあくびをした。この……もう、本当に自由で、気ままで、おまけに無闇に可愛くて困ってしまう。霊夢さんは神社が妖怪まみれで困っているみたいだけれど、いろいろ人たち(妖怪含み)からやたらに好かれるのも仕方ないと思う。
それにしても何だか、霊夢さんが守矢神社にいるのは不思議な感じがする。めんどくがりな霊夢さんは博麗神社から滅多に動かないから、基本的にこうしてどこかに行くこと自体も珍しいのだけど。
でもそうなると、なんで本当にこんなところに?
妖怪の山にあるこの神社はお世辞にも立地条件はよくない。空を飛べるにしたって、コンビニ感覚でほいほいっと来たわけではないだろう。あ、そうか。縁側か。縁側を借りるために来た――って、言っていたんだった。……縁側? 縁側って、あの縁側だろうか。お寿司のえんがわの可能性も否定しきれないけど、でもそれは流石にないはず。
「霊夢さん?」
「なに?」
「お寿司、好きですか?」
「……? 魚は好きだけど? 夕飯でもご馳走してくれるの?」
うん、寿司の方向の可能性はやっぱりなさそうだ。さり気にたかられそうになってるのは無視しよう。
でも、縁側で納得できるわけでもない。霊夢さん、縁側フェチとかそういう趣味でもあるんだろうか。実際、博麗神社に行くとだいたい霊夢さんは縁側でのんびりしてる。
ふむ。
そうなるとつまり、今日はこの守矢神社でのんびりしたいから「縁側、借りるわね」ということだろうか。普通に考えればそうなのだけど――「普通」というところがひっかかる。そう簡単な結論だろうか。いや、そんなはずがない。ここは幻想郷。絶対に、そんな安直な展開なわけがない!
「霊夢さん?」
「もう……何なのよ?」
「のんびり、したいですか?」
「だーから、最初からそう言ってるでしょこのミドリムシ」
……あれ? ほんとにのんびりしたいだけ? ついでに酷いこと言われた気もする。心が痛い。ずきずきする。顕微鏡がなくても私のことは見つけてください。あ、なんだか今のラブストーリー映画のタイトルで有りそう。「霊夢さん、顕微鏡がなくても私のことは見つけてください」。うん、これいい感じな気がする。いつか幻想郷に大学ができたら映画サークルをつくって撮ってみたい。
それはともかく。
でも、これは全部演技で、霊夢さんが縁側を求めてるのは、何か本当の目的のための布石だったりしないだろうか。
――もしかして。
真実は「縁側、借りるわね。べ、べつに、あんたに会いたくて来たわけじゃないんだからね!」ということもありうるんだろうか。ありえちゃったりするんだろうか。ありえちゃったら私はどうすればいいんだろうか。いや、大丈夫です。これでも私は正気で、こんな展開と霊夢さんのキャラはまずあり得ないのはわかってます。でも考えてもみてください。「のんびりしたいだけ」なんていうさっきの安直な結論よりは、こちらの方がずっと驚きに満ちているじゃありませんか! 霊夢さんがもしこんなキャラだったら、幻想郷が崩壊しかねません。それくらい驚きがあって、現実に囚われていない発想。そう、幻想郷で現実に囚われていると痛い目を見るから駄目なんです!
そう考えると、こっちが正解な気もしてきてしまうわけで。
でもそうなると霊夢さんは私に会いに来たということになってしまって、それはつまり霊夢さんは私のことが……あ、でも会いたい相手は神奈子様と諏訪子様の可能性もある。いけない。駄目だ駄目だ。全然駄目だ。こうやって早とちりしちゃいけない。漫画やドラマだとこういう早とちりからややこしいすれ違いとか仲違いが起きてしまうんだから、気をつけないと!
「ねぇ、ちょっと」
「は、はい!」
「な」少しひるんだように霊夢さんは目を丸めた。「そんな大きな声出さないでよ。吃驚するでしょ。黙り込んでぶつぶつ言い始めたと思ったら……ほんと、あんたよくわかんないわね。で、借りていいの?」
「縁側ですよね」
「まあ、駄目なら借りるのは諦めて」え、諦めてくれたりもする――「ぶんどるけど」わけがなかった。
特に表情を変化させる様子もなく、淡々と霊夢さんは言った。
本気です、この人。
「その、縁側を借りる理由とか、聞かせていただいてもよろしいでございましょうか……?」
「なんでそんな意味不明に下手なのよ」
胸に手を当てて、よく考えればいい気がする。
特大陰陽玉で守矢神社倒壊なんて事態を起こして、天狗の新聞に載るわけにはいかない。
「理由なんてないけど、別に」戯けるように霊夢さんは肩を竦めた。「ただ借りて、そこでのんびりさせてもらえれば、それでいいわよ。別にそこまで無理なこと言ってるつもりもなかったんだけど……今日は都合が悪かったりするの?」
「……え? えっと、本当にそれだけですか?」
「それだけだけど?」
きょとん、と霊夢さんは首を傾げた。大きめの紅いリボンがふらりと揺れる。何かよくわからないけどいい匂いでも薫ってきそうな雰囲気だ。さっきのあくびもそうだけど、この人はときどき無防備に可愛いから本当に困る。
「お茶くらいもらえたら嬉しいけどね」
「それくらいなら別に大丈夫ですよ」
「ほんと? じゃあお邪魔するわ。お茶と煎餅と羊羹よろしくね」
「はーい。ん、あれ、え?」
すいすいと霊夢さんは私の横を通り過ぎて母家の中へと入っていった。どうやら本当に縁側以外に興味はないらしい。呆気にとられる神奈子様と諏訪子様にも「こんちは」という感じに一瞥しただけで、真っ直ぐに縁側に向かってまっしぐらだ。巫女まっしぐら。「早苗? あれはどういうことなの? 何でここに博麗の巫女?」なんて私に聞かれても困る。私が答えを聞きたいくらいなので、しばらくおふたりは静かにしててください。
「へー、ほんと。あんたが言ってたとおり、いい感じに陽が差してるのね」
「え、私そんなこと言いましたっけ?」
「覚えてないの――ってそうか、あの時あんた酔っ払ってたかも。それじゃ駄目だわ」
少し気合いを入れて記憶を遡ってみると、確かにそんなことを霊夢さんに言ったような気がする。お酒の勢いで意地を張って、霊夢さんに向けて胸を張ってうちの縁側を自慢したような。そうだ。確かにその時、霊夢さんは感心したように「へー」と頷いていた。なるほど、それじゃあ霊夢さんの今日の訪問は、私の言葉を覚えてくれていてのことらしい。というか本人もそう言ってる。
あれ。
霊夢さんが、私の言葉を覚えていてくれた。
それだけなのに、別に私が褒められたわけでもないのに、不思議と嬉しい気がする。
少女がブランコに飛び乗るような仕草で、ぽっすりと霊夢さんは縁側に腰かけた。「それに、いい景色ね」と少し目を細めて、ふにゃりと床を撫でる。温かくて気持ちいいのかもしれない。外の世界にいた頃、野良猫がたまにやってきて同じように日向ぼっこをしていた。
にゃーん、とか言ってくれたりしないだろうか。
霊夢さんが陽だまりでごろごろしてにゃーんとか言ってる姿を想像していたら、いつのまにか現実の霊夢さんはこちらを向いていた。何だか目が怖い。大丈夫、心を読むことなんて地底にいる妖怪くらいにしか出来ない。胸を張って堂々としてれば問題なんて何にもない。
「にゃ、何でしょうか」
噛んだ。
私が「にゃ」とかいってどうする。
「お茶」
「は、はい?」
「だから、お茶、出してくれるんじゃないの?」
「あ、は、はい! ただいま!」
慌てて台所に向かって、お茶とその他諸々の準備をして縁側に戻った。
ありがと、と霊夢さんは言ってから、怪訝そうに首を傾げた。
「あんたの分は?」
「私はまだお掃除とか炊事とか、やることがありますし」
「別にそんなの後回しでいいんじゃない? 神奈子とか暇そうにしてたし、やらせておけば?」
この人は、他所の神社の神様をなんだと思っているんだろう。
神様か。
神様だけど、霊夢さんにとっては、ただ単にそれだけなんだろう。
「私がここにいたら、霊夢さんのんびりできないんじゃ」
「早苗なら別に構わないわよ。うちがいつもどんだけ騒がしいか、あんたも知ってるでしょ?」
「魔理沙さんとかですか?」
「あいつは筆頭。あとは妖怪が有象無象。神社を何だと思ってるのかしら」
「みなさん、神社が好きなんですよ」
その一言で、空気が少しだけ固まった気がした。
私、そんなにおかしなこと言っただろうか。
霊夢さんは少し驚いた風にして、ちょいちょいと私を近くに呼び寄せた。「顔もうちょっと近づけて」え、あ、近い。本当に近い。っていうか霊夢さんの睫が綺麗だ。本当に、すごく綺麗。化粧――なんてしてるわけない。すっぴんでこれなのだ。恐ろしい。瞼の縁に黒い花が咲いたみたいにすらりとした睫が並んでいる。一本くらい抜いても罰はあたらな――バチン。
「って痛ったぁ! 何するんですか!」
「でこぴん」
「見ればっていうかくらったからわかりますけど! なんでですか!」
「いや……なんとなく?」
「そんな疑問形で言われても!」
額がへこんでクレーターができてそうな気がする。それくらい痛かった。間違いなく指の形に赤くはなっているだろう。
私が痛みに悶えてることなんてお構いなしに、霊夢さんは逡巡してから口を開いた。
「そんな風に言うやつ初めてだったから、ちょっと吃驚したのよ」
「はい?」
「どいつこいつも声揃えて、私があちこちで好かれてるからいろいろ寄ってくるんだ――とか言うのよね。そんなわけないに決まってるってのに。でも……なるほどねぇ、神社か。あいつら、あの場所が好きなのね。里の寺にも妖怪が一杯いるし、神様とか妖怪ってそういう建物好きなのかしらね」
「さ、さあ、どうなんでしょう」
もちろん私の言葉には「みなさん、(霊夢さんがいる博麗)神社が好きなんですよ」という意味が含まれていたのだけど、今さらとても言い出せそうにない。
あはは、と調子を合わせておいて結局私もお茶を持ってきた。ぽんぽん、と霊夢さんが床を叩いたので隣にお邪魔させて貰う。ふたり分のお茶請けが乗ったお盆を挟んで、私と霊夢さんは縁側で足をぶらぶらとした。鹿威しの音のようにずずずっとお茶を啜る音が響く。
「ほんとに静かなのね」
「霊夢さん、実はひとりで静かにしてるの好きですよね」
どんなに騒がしい宴会の中にいても、霊夢さんは時々ひとりになる。騒がしさを嫌っているという風には見えないし、孤独を好んでいるような素振りがあるわけでもない。ただ飲んだり、脱いだり、歌ったり、吐いたり、撃ったり、落ちたり、そんな阿鼻叫喚で絢爛な終わらない宴を、つけっぱなしにした深夜ラジオにでもしてしまうみたいに、霊夢さんは騒々しさの中の静謐を楽しんでいる。楽しんでいると、思う。そうじゃなかったら、微かな笑窪を押し隠すように、ひとりで、お酒を呑んだりはしないだろう。
「実はも何も、私はいつもそんな感じのつもりだけどね」
「それもそうですね」
今日だって「静かにのんびりすることができるから」という理由で霊夢さんはこの場所に来たんだった。
「まあ、誰かが神社に来るのも楽しみなんだけどさ」
……え?
あれ? 霊夢さん?
霊夢さんがあまりにも素直にそんなことを言うものだから、私は返事すらも出来なかった。へえー、というか、ひえー、というか、やっぱりというか霊夢さんも本音はそうだったんだ。
動揺しながら無理矢理に「は、はあ」なんて妙に引っかかった反応を示してしまったせいだろう。霊夢さんも自分の言葉の意味に気がついたらしい。そうです。私の知ってる霊夢さんは、肩を竦めて何事もなく「興味ないもの」「面倒くさい」「お茶」みたいなことを言っても、あんな率直に「人が来るのが楽しみ」なんて言わない人です。
「早苗」
うわ、霊夢さん顔、真っ赤。
「あんた」顔は紅くて可愛らしいのに、何と冷たい笑顔だろう。「口は軽い方? その小さな唇に、結界を張らないと駄目だったりする? っていうか、問答無用にそうした方がよさそうよね? あんたお酒はいると何でもかんでも駄々漏れだものね? そうでしょ? そうよね?」
「いやいやいやいやいや、ちょっと待ってください! 今、私何にも悪くないですよね!?」
「そうなんだけどね」
そんなもんしったこっちゃない、っていう笑顔ですかそれ。あ、ちょ、やだ、霊夢さん、やだ、そんな異変解決する時みたいな据わった目怖いです。本当に怖いです。
追い詰められれば鼠だって猫相手に頑張るのだから、私だって縁側から跳ね上がるくらいのことはできる。
それくらいはできる。
できて、しまった。
でも窮地に追い込まれた人間が、逃げること以外のことを考えられるかというとそんなことはない。命を第一に優先して、他のことは全て思考の外へ。今は霊夢さんの間合いから少しでも離れることが先決であって、他のことに意識が及ぶわけもない。
だから、仕方がなかった。
「あ」「あ」
縁側から離れるというミッションは失敗していたけれど、霊夢さんの動きは止まっていた。もはや時間ごと全てが制止しているようにも感じる。冷や汗がこめかみの辺りにぶわっと出てきてるのがわかる。神経が剥き出しになったみたいに空気が痛い。
状況を端的に説明すると、私は手に持っていたお茶をこぼした。
というかぶっかけた。
霊夢さんの頭に。
「ご」ごごごごごとか意味不明なくらいに言い損ねた。焦って口が回らない。「ごめんなさい! 今拭くもの――っていうかそうじゃなくてその前に霊夢さん熱くないですか!? 火傷とかそういうのは!?」
霊夢さんは前髪からひたひたとお茶の粒を滴らせたまま動かない。やっぱり怖い。不動明王が目の前に顕現したらきっとこんな感じな気がする。
「早苗……もう……いいから。なんか、早く拭くのちょうだい」
「は、はい!」
ですよねやっぱりそうですよねひとっ走り行ってくるんでもうちょっとだけ待っててください、と胸の中で数回繰り返しながらタオルを取りに走った。奇跡でタオルが呼び寄せれたらいいのに。曲がり角を靴下ドリフトで減速することなく通り過ぎようとしたけれど、慣性の法則を無視する勢いで急停止した。
ばふんと、豊満な胸に抱きとめられる。
「早苗! ほら!」
「か、神奈子様に諏訪子様!?」
「早くそのタオルを持って戻りなさい、早苗」
「ほらほら、急いで急いでー」
神奈子様も諏訪子様も布教専用量産型神様スマイルだったので、思わず素直に「はいっ」だなんて返事をしてしまったけれど、ふたりは廊下の隅から私たちを覗き見していたんだろう。今はそんな暇がないから無理だけど、あとできっちり折檻して差し上げよう。そうしよう。具体的には夕飯で、神奈子様には蛇の蒲焼き、諏訪子様には蛙の薫製を特盛りにして出してあげようと思う。
「お待たせしました! タオルです! ――てうぇぇぇっ!?」
「何騒いでるのよ。早くそれちょうだい」
「いや、はい、でも、あれ?」
なんで霊夢さん半裸なんですか? サービスですか?
渡したタオルに霊夢さんはもふもふと顔を埋めた。小さな女の子が大きな白い犬にじゃれているのを眺めるような、幸福で眼福な光景ではあるのだけど、それでいて上半身が裸だとまた話が違う。ほんわかほんわかした空気の中に、そこはかとない扇状的な様子が現れて、これはこれで眼福なのだろうけれど――危ない。いろいろ危ない。霊夢さんの白い肌にさらしがくるくるとまとわりついていて、いっそのことひっぺがしてしまいたいような気分にさえなってくる。危ない。主に私が、危ない。
「はあ、ありがと」
私の心の中の暴風雨なんて何にも察することなく、使い終わったタオルを手渡された。お願いだからそのタオルを上半身に巻いててください。
「あの、霊夢さん? なんでその、服を脱いだんですか?」
「そりゃ」平然と霊夢さんは言った。「濡れちゃったから気持ち悪いし。よかったらなんか着るものかしてくれない?」
そうか、その手があった。
というかそれが真っ先に思い浮かばないのがおかしい。
「もちろんです! ついてきてください! あ、濡れた服は洗いますから!」
「え、そう?」少し考えるようにしてから、霊夢さんは手に取った巫女装束を私に渡した。「まあ、早苗なら大丈夫か」
「大丈夫?」
「いや、どっかのあほな妖怪に渡すと匂いかがれたりとかしそうだから」
その発想は忘れてた、とか思ってしまってすみません。
霊夢さんが覚り妖怪じゃなくて本当によかった。
さっきから、どうも、私が地味に霊夢さんから信頼されているような気がするのは不思議だけれど、たぶん理由なんてなくて、他の周りにいる妖怪やその他の人々に比べて、私が良識あるように見えるだけなんだと思う、きっと。霊夢さんの交友関係内での比較と差異の中でなら、私は十分、地に足がついている人間なんだろう。
洗濯物の隣に霊夢さんの巫女装束を置いてから、私の部屋へと案内する。一応この家には私、神奈子様、諏訪子様それぞれの部屋がある。いつもは汚く散らかっている四畳半が、今日は珍しく綺麗な日でよかった。素直な声音で「綺麗にしてんのねー」なんて言われると少し心苦しいけれど。
「霊夢さんだって綺麗にしてるじゃないですか」
「私は違うわよ。汚くなるほど物がないだけ」
「――あ」
そうなんですか、とは続けられなかった。
思わず、言葉を失ってしまった。
確か霊夢さんは私より幾つか年下だったと思う。飲み会のあいまいな記憶でそんなことを聞いたのを覚えてる。私が霊夢さんくらいだった頃ってどうだっただろう。言うほど歳の差はないとかそういう問題じゃない。霊夢さんはだいたいいつも巫女装束だ。私服というか、そういう概念自体無いのかもしれないけど、そんなものは一着だって持ってないだろう、きっと。
霊夢さんだって女の子だ。それを理解してない輩も多いけど、同じ巫女である私が言う。女の子だ。ばっちりきゅーとに、女の子だ。甘いものは好きだし、可愛い服は好きだし、身だしなみだって気になる。アリスさんのような人形みたいに綺麗な顔に憧れたりだってする。少なくとも私は。霊夢さんはわからないけど。
ごちゃごちゃ考えている内に、気がついたらクローゼットを開け放っていた。
「霊夢さん。好きなの、選んでください」
「いいわよ、別に。適当に選んでよ」
「あ、いいんですか? それじゃあ、失礼します」
私の気の済むまで。
それから私は春夏秋冬、あらゆる季節の服装を霊夢さんに着せてみた。結果は全部似合うという恐ろしい状況だった。中学のセーラー服と高校のブレザーを両方取っておいて正解だった。幻想郷広しといえども、霊夢さんの学生服姿を見た人は私以外にいないだろう。カメラがないのが憎い。霊夢さんがジーンズを穿いてる姿なんてレアすぎて永久保存だ。
「動きやすくていいわねー、これ」
とのことだったので、スカートではなくてパンツ系でコーディネイトすることにした。最終的にはショートパンツに長袖のカットソーと、七分丈のジャケットを合わせた。少しボーイッシュな感じになったけれど、有り余ってキュートだった。かわいい。めっちゃかわいい。正直に言って、私が着るよりも似合ってる。洋服たちも本望だと思う。間違いなく。
「霊夢さん、かわいいですね」
「ありがと」
「お世辞じゃないですよ」
「そういうの聞き慣れてるから、私」
そういいながらも少し耳が紅い。幾ら言われても慣れないのかもしれない。
かわいい。可愛すぎるくらい。
いろいろ服を試しているときは楽しくてしょうがなかった。
私だけじゃなく霊夢さんもまんざらじゃないようだった。
なんでだろう。
どっちも楽しかったはずなのに、なんで、どうして、私は勝手に落ち込んでいるんだろう。
「早苗?」
私は昔、石を投げられたことがある。背中に向かって、木の陰から投げられて、誰に投げられたかなんてわからなかった。痛かったし、最初は赤く、後になっては蒼い痣になった。神奈子様や諏訪子様と出会って、風祝としての力が自分にあると知ったばかりの頃だった。護符や結界なんて知らなかったから、身を守る術なんて何もなかった。
護符や結界だって完璧に身を守ってくれるわけじゃない。作るのだって一苦労する。自分自身の体を守るために、自己結界を展開するならなおさらだ。自分が外に放出する力を遮らないように強すぎず、かといって防護なんだから薄いものを展開しても意味がない。
だから結局、大きな傷は防いでくれるけれど、体が耐えれるくらいの傷は通す、そんな結界を作ることになる。大きな目の網で体を纏う感じだ。これで一応、死に直結するような事態は防ぐことができる。
小さな傷は、体に残る。
「ちょっと、早苗聞いてるの?」
聞いてます。
でも、ちょっと待ってもらえますか。
霊夢さんの肌は白い。私の知っている人だとアリスさんもすごく白くて、陶器のように滑らかな肌をしている。霊夢さん少し違う。抜けるような白さ。陶器ではなくて、たぶん雪。雪のような白さなんてよく聞く。よく聞いても現実に見ることなんて滅多にないだろう。ない方がいいのかもしれない。雪は綺麗だけど、汚れるとすぐわかる。踏めば跡が残るし、泥がかかればすぐ染まる。血が滴れば赤々と滲んでいくだろう。
霊夢さんの背中は、よく見ると傷だらけだった。
段幕勝負とかでできた傷じゃない。治りかけの打撲や、細かい切り傷がいくつも重なっている。背後から不意をついて命そのものを刈り取りにくる――そんな暴力を反射や勘で避けたけれど、完全に避けることはできなくて、痕になった。そういう傷だ。護符の結界を通り過ぎるほどの些細な傷だけれど、治りかけのものから新しいものまで幾つも、幾つもある。
――博麗の巫女という人間が実質的に幻想郷を牛耳ってるらしいよ、早苗。
幻想郷にきてすぐの私たちにも、そんな情報は入ってきた。幻想郷は理想郷ではない。妖怪は好き勝手に生きてるし、地下に排された妖怪たちもいる。天狗は山に縄張りを持ち、そんな高等な思考を持たない野良妖怪もいる。霊夢さんは妖怪を退治する。その行為が、幻想郷というコミュニティにとって、意味があることだとわかる妖怪もいる。わからない妖怪もいる。それだけのこと。それだけのこと、というしかないのかもしれない。
「さな――」
霊夢さんは途中で口をつぐんだ。私の顔色に出ていたのだと思う。きっと、私じゃない他の誰かからも、同じような顔を見せられたことがあるのだと思う。
せめてそれくらいのことは、あってほしいと思う。私みたいに表情を隠せない人ばかりでも困るけど、そんなことにも気がつけない人ばかりだったとは、思いたくない。
「大丈夫よ」
自分に言い聞かせるような言葉に、聞こえた。
「もう、慣れてるから」
早苗には見せたことなかったのね、そういえば。まあ、見せるものでもないから、それで普通なんだけど。そんなに驚かれるとちょっと困るわね。
そんな風なことを霊夢さんは言った。
霊夢さんがそういう傷を背負っているのは、たぶん当たり前のことなんだろう。博麗の巫女。大結界の要。みんなが知ってる。私だって知ってる。いつものんびりと縁側に座っている霊夢さんが、結界のある神社の中だからのんびりできることも、知ってる。静けさも安寧もない宴会の騒々しさの中に――ああして混沌としていいるからこそ安全な中に――一条の静謐を見つけるほどに。
つらくないですか。
大変ですよね。
痛くはないですか。
そんな言葉をかけることもできない。そんな言葉に意味がないとわかってるから、みんな口には出さずに博麗神社に寄りつくんだろう。言葉は誰も守ってくれないけれど、傍らで馬鹿騒ぎすることはできるから。傍にいることはできるから。
だから、何にも言えない。
霊夢さんだって何も言わない。
ほんのついさっきまで、あれを着たりこれを着たりで騒いでいたのに。
「……そろそろ帰るわ。張ってきた結界もそろそろきついと思うし。あんまり神社を空にすると紫に怒られるし」
霊夢さんが部屋を出ていく。足音がいやにゆっくりと聞こえる。一歩、二歩、三歩。何か言わないといけない気がする。でも何を言えるんだろう。霊夢さんの辛さを、私はきっと同じだったから、同じじゃないけど似てはいたから、わかる。わかるけど、わからない。頭が良ければ、それこそ今名前の出た八雲紫くらいに賢ければ、霊夢さんにかける言葉が出てくるんだろうか。
「お邪魔したわね」
「――その服!」
何言ってるんだろう、私。
頭が真っ白だ。何にも考えてない。たぶん、本当に私って馬鹿なんだろう。
「その服、あげます! あ、あの……お邪魔なんかじゃ、全然なかったですから! 私も楽しかったですし、その、もっといてもらったって全然構わないくらいです。いつ来てくれたっていいです。休みたくなったら、いつでも来てください。こんな縁側でよかった、いつだって、のんびりしに来てください」
痛くなったら頼る相手はもう他にいる。
寂しくなって愚痴る相手ももう他にいる。
だから、霊夢さんにとっての特別な何かに、私がなることはできないと思う。
私じゃたぶん、そういう相手にはなれない。私は霊夢さんのことを驚くほど知らない。解決した異変も、博麗の巫女として歩いてきた道も、私は何にも知らない。
でもせめて、ただのんびりしたくなったら、来てくれればいいと思う。
私は何にも知らないから。何も知らないでいることは、できるから。
霊夢さんの足音が止まって、こっちを向いた。驚いた風な顔をしているみたいにも見えるけれど、それは私がそう思いたいだけだろうか。そうかもしれない。そうだったらいい。そうであってほしい。
少し目を丸めたように見えた霊夢さんは、少ししてから微かに笑った。
踏み出した数と同じだけ、霊夢さんは私に近づいてきた。距離の詰め方をしらないような、不安そうな足取りに見えた。一度止まって、霊夢さんはまた一歩進んだ。さらにもう一歩。もう距離なんてない。ほとんど目の前に霊夢さんがいる。身長はほとんど変わらないから、もう一歩進めば鼻の頭がくっついてしまいそう。
霊夢さんは、もう一歩進んだ。
でも鼻の頭がくっつくことはなかった。
「また、来るわ」
抱きしめられるかと思うほどの近さで、霊夢さんはそう私に耳打ちした。
それだけだった。
すぐに身を翻して、霊夢さんは博麗神社に戻っていった。
いつもの紅白の姿ではなくて、外の世界にならどこにでもいそうな、とびっきりかわいい女の子な姿で。
幻想郷がそこまで殺伐としているかは別だけど、博麗の巫女であることの重みってあるでしょうね。
早苗さんが思っているより霊夢は早苗を信用しているみたいなので、またのんびりしに来て二人で話すと良いと思います。
世界の真理ですね。
ほのぼのしててよかったですよ
もっとやってください!
霊夢さんかわかわですが、早苗さんもかわかわでした。
ただ脱字があちこちあるので
助詞力アップに期待してこの点で
神様にとんでもない料理を食べさせようとする早苗かわかわ
どんな服も似合っちゃう霊夢かわかわ
こういう庶民的で綺麗な感じの雰囲気が大好きです。作者さんの個性が出てるなあ
色々妄想する早苗かわかわ
早苗視点の霊夢に対する考察や観察や妄想混じりの観測が面白かったです