幻想郷に住む数多くの妖怪の中でも、飛び抜けて変則的な生活を送っている妖怪がいる。
四季の花を求めてふらふらと歩き回り、それを愛でてはまた当て所もなくまたふらり。
家はあるものの、自由気ままに生活をしている為、家にいることが少ない。
他人の家に泊まることもあれば、野宿することも多々ある。
阿求の纏めた求聞史紀にある、自己申告制の能力欄には、「花を操る程度の能力」と記載させるほど、花を愛でる妖怪。
そう、風見幽香である。
人間友好度最悪とされているものの、人間との関わりが嫌いではない彼女が何故、そのような評価を受けることになったのか。
求聞史紀は筆者の思いが込められる部分が強く、阿求は幽香の事が苦手だったのかもしれないし、はたまた違う理由があるのかもしれない。
今回、この幽香の一日の過ごし方を通して、少しでも謎の多い彼女の真相を暴ければ幸いである。
◆
とは言ったものの、冒頭にもある通り自由気ままな彼女をたった一日観察しただけで全てわかることはない。
なにせ、自由気ままな生活をしているからである。
幽香は現在、太陽の畑の一角にある小さな家に住んでいる。
昔は館に住んでいたと聞いたことがあるが、今はその館がどこにあるかもわからない。
一体その館がどこに消えたのかは全く持って謎である。
それはさておき、偶然にも家にいた日があり、観察をしていたのだが……。
カーテンの隙間から僅かに差し込む日の光が、幽香の家に朝の訪れを知らせる。
ごそごそと布団が動きだしたと思えば、幽香はゆっくりと半身を起こし、ぐっと背を伸ばす。
眠い目を擦り、カーテンを開きに行ったかと思えば。
「眠い」
カーテンの僅かな隙間までもしっかりと閉じ、日の光を遮断したのちにまた眠りについてしまったのである。
長生きしている妖怪は寝るのが好きなのだろうか。
特に、八雲紫などは冬眠までするくらいよく眠る。
それに、博麗の巫女が初めて幽香に会った時の姿はパジャマ姿だったという。
また、冬は雪が降り、咲く花の数も減るために行動することも少なくなるというのだ。
このことからも、幽香は紫同様、寝るのが好きなのかもしれない。
また、他にも幽香は紫と似ている部分が見られる。
それはまた別の観察にて。
◆
先ほど寝るのが好き、とは書いたが、基本幽香は早起きである。
早朝、太陽が昇り幻想郷に光が差し込む頃には、幽香はすでに活動を開始していることが多い。
花にとって、太陽はなくてはならない存在であり、幽香もまた、太陽が好きであった。
早朝の寒さに人間が身を縮めるのと同じように、花たちも花びらを窄め、太陽が来るのを今か今かと待ちわびているのだ。
そんな時間を共有するのが、花を愛する幽香の一つの楽しみでもあるのだ。
「ほら朝よ。顔を上げなさいな」
幻想郷の夜明けを見つめながら、ぐっと背を伸ばし、胸いっぱいに朝の空気を吸い込む。
まだ寝ぼけて俯いている花たちを振り向きざまに確認すると、クスリと笑顔を零すのであった。
◆
花達の世話を済ませた後は、朝食だ。
妖怪は食べるという行為がなくともある程度生きることができるので、人間のように三食しっかり食べるという習慣がない。
それでも、人間と行動を共にする妖怪達は必然的に三食摂ることになり、紅魔館や守矢神社ではそういう形態が取られている。
特に紅魔館などでは食費が馬鹿にならないとは思うのだが、それでも何とかやっていける辺り、紅魔館の力の大きさがわかる。
それはさておき、幽香も意外や意外、三食きっちり食べるのだ。
先ほど書いた通り、早朝に起きて花と一緒に夜明けを迎えた後、朝食を自分で作るのである。
自家製のパンや、自分の畑で採った野菜、人里で調達した肉や卵を使い、バランスも考えて作る辺り、そこらへんの人間よりも食事を大事にしているようだ。
それでも、時々作るのが億劫に感じる時は、前からの友達の家にお邪魔することがある。
主に魔法の森や博麗神社にお世話になることが多い。
しかも朝早いので、行く先の人は寝ていることが多く、事前に連絡する当てもない幻想郷なので、大変迷惑な話である。
静まり返った魔法の森に、ドアをノックする豪快な音が鳴り響く。
それと同時に家の中からガタゴトと騒がしい音が返ってきた。
それから間もなく、乱雑に開かれたドアからは、あちこち寝癖で髪がぼさぼさの魔理沙が姿を現した。
「ってぇー……。んだよこんな朝っぱらから」
「こんな時間に来る時の用事って言ったらわかるでしょう?」
「あぁ~今日はアリスのとこ行ってくれよぉ……人間は朝弱いし、最近寒いだろ? 解ってくれよ」
「妖怪には人間の心が解らないわ」
と、すっとぼけた態度を取りながらふふふと笑い、ずかずかと魔理沙の家へと勝手に上がり込んだ。
その間、魔理沙の必死の抗議は空しく、幽香の耳は右から左へとすり抜けて聞こうともしない。
それから何をするかと思えば、朝食が出来上がるまで魔理沙のベッドで寝るのである。
「じゃ、朝食出来たら起こしてね」
「え、あ、待てって。おいぃ」
あとは揺さぶろうが名前を呼ぼうが何をしても決して動くことがない。
まるで石像である。
当然、魔理沙は再度寝ることもできず、お腹も空いているのでしぶしぶ朝食を作らざるを得なくなるのだ。
人によって作る朝食というのは変わるもので、魔理沙はキノコを知り尽くしているだけあって、キノコ料理が多い。
また、根は努力家で真面目ということもあり、どうせ飯を作るなら美味い飯を食いたいというのが信念らしく、これまた意外にも料理が上手い。
次第に陽も昇り始め、朝食も出来上がる寸前になって、タイミングよく幽香は目を覚ます。
「そろそろ朝食ができる頃かしら?」
「お前起きてただろ」
「ふぁ~……今日の朝食は何かしら?」
魔理沙は、本やら紙やらで散らかる机の上を雑に払いのけて綺麗にすると、朝食を並べ始めた。
次第に並べられる朝食を椅子に座って大人しく待つ幽香。
「今日は、きのこと卵の雑炊に焼き舞茸、油揚げとなめこの味噌汁だぜ」
「前から思ってたんだけど、魔理沙ってパワーパワー言う割にはカロリー低いキノコばっかり食べてるわよね」
「なんなら食べなくてもいいんだぜ?」
「誰も食べないなんて言ってないわ。いただきます」
「おう、ゆっくり食えよ」
面倒なのは最初だけで、やり始めるとノリノリなのは前からの付き合いでよく知っていた。
料理を口に運んだ時、どういった感想が聞けるか期待しているのも、もちろん知っている。
自信はあるが、それでもやっぱり一抹の不安も残っているが故に、こっそりと幽香の表情を魔理沙は窺うのだ。
「何か感想を求めてるようにも見えるわね」
「べ、別に私は早く食ってどっか行ってくれれば楽だなって思ってるだけだぜ!」
「おいしいわよ」
「し、知るかよもう! さっさと食えよ!」
「はいはい、朝から怖いこと」
顔を真っ赤にしながら怒る魔理沙に、ホホホと甲高い声で笑って適当に往なす。
相手をおちょくるような、神経を逆なでするようなやり取りが幽香は大好きである。
話し好きで、おちょくるのも好きとくると、やはりあの紫を思い出してしまう。
長生きして、力もあり、寝るのが好きで、お話が好き。
紫のように幻想郷の賢者であり、結界を管理している点を除けば、紫と幽香は案外似ている。
「ほらほら、そんなにがっついたら喉詰まらせるわよ?」
「うるふぇ!」
ガツガツ朝食を食べる魔理沙を見て、優しく幽香は微笑む。
そんな魔理沙にぴしっと指をさして。
「ほら、ほっぺたにご飯粒くっ付いてるわ」
「え、あ……」
頬にくっついたご飯粒を幽香は指で掬い、口へと運ぶ。
恥ずかしそうにする魔理沙をしり目に、にっこりと笑って。
「うん、おいしいわ」
「あ、ありがと」
恥ずかしがる魔理沙を見て、今度は悪戯っぽく微笑むのであった。
◆
朝食を終わらせた後は、人里へふらふらと出かけることが多い。
朝は市をやっていることが多く、これによく顔を出している。
特に買うものを決めているわけではないのだが、興味が惹かれるものを買うようにしている。
いわゆる衝動買いだ。
「あら、素敵な大根。この時期ならおでんかしらね?」
「お、流石は幽香さんわかるかい! 冬は根野菜で身も心も温かく。里芋に馬鈴薯、人参! おでんや鍋、豚汁。あったまる料理にどうだい?」
「そうねー。全部入れるなら豚汁の方がいいかしらね。じゃあ、大根一本に人参二本。里芋と馬鈴薯を三つずつもらえるかしら?」
「まいどありぃ! ついでに牛蒡も一本つけとくよ!」
「あら、優しいのね。贔屓にしようかしら?」
「ぜひともお願いします~!」
また、他の出店をふらふらと覗いては買い、気になるものを見つけては買いを続けているうちに両手は荷物でいっぱいになる。
たくさん買ったならたくさん食べればいいし、別に一人じゃなくて誰かと一緒に食べればいいと考えており、後悔はしていないみたいだ。
買い物が終わった後はまた別の用事で人里へと出向く。
人間と共生していくにあたってお金がなければ生きていけない。
幽香は自身で野菜を栽培しているのにも関わらず人間から野菜を買うのは、人間との付き合いを大切にしているからである。
それなのになぜ人間友好度が最悪なのか。
当然、人間から野菜などを買うだけでは、一方的にお金を払ってるだけでそれではお金が手に入るわけがない。
そのため、自身で作った花や野菜の一部を売ってお金を稼いでいるのである。
花を操る能力を自称するだけあって、幽香の作る花は非常に美しく、季節を問わずに花を咲かせることが可能で、幻想郷ではお目にかかれない珍しいものまで咲かせることができる。
野菜はそこらの農家が作ったものよりも実は大きく、味も良い。
なので、より良いものを求める人間からは、幽香の作物は非常に重宝されている。
しかし、農家からしてみれば迷惑な話であり、自分で供給できるものをわざわざ付き合いのために買われるのはあまり良い気持ちではない。
だが、買ってもらえるが故に人間側も収益が出るわけであり、商売をやっている身分、頭をへこへこ下げざるを得ないのである。
おまけにいつもにこにこしていて何を考えているかわからず不気味だとも言われているようだ。
そんな人間の思いなど気にすることなく、自由気ままに生きるのが彼女である。
幻想郷で生きる以上、人間との関わりが必要だから仕方なく、という理由で力のない弱い人間と共に生きているにすぎないのだ。
「う~ん、芋金つばおいし」
人里の茶屋で一人暖かいお茶と共に芋金つばを頬張る幽香。
今日は物を売りに来たわけでなく、ただ単にお気に入りの茶屋で一息ついているようだ。
暖かいお茶を音も立てずにするりと上品に飲み干した。
「ご馳走様。おいしかったわ」
「ありがとうございました~」
柔らかな笑みと、一輪の花を残して店を後にする。
さてと、と一息ついて太陽の畑へと帰って行った。
◆
太陽の畑に帰ってからは大体お昼寝をすることが多い。
今日も今日とて、お昼寝をしようと思って帰路につく幽香の目先、太陽の畑にぽつんと一つの人影が映った。
様々な花を見ては首を傾げている小さな影だ。
「どうしたの、お嬢さん?」
「え、あ、その……お花が」
「ん?」
小さな女の子の目線に合わせて、幽香も身を屈める。
時々小さい子供が太陽の畑に来ることがあり、大体ここに来る理由は皆同じであった。
子供は悪さをしようと思ってきているわけではない。
そもそも、太陽の畑に幽香がいることは大人達からも聞いているはずであり、危険は百も承知で足を運んでいるのだ。
幽香は、怖がられないようにっこりと笑って少女に問いかける。
「誰かにお花でもあげるの?」
「お母さんにプレゼントしたくて、どの花がいいかなって来たの」
「あら、素敵ね。どんなお花がいいかしらねー?」
「赤いお花がいい」
「そう! それなら何がいいかしらね。バラ、チューリップ、カーネーション、椿なんかもいいし、ポインセチアとか」
花の話になるとついつい夢中になってしまう。
少女の事も忘れ、花の名前を羅列する幽香を困ったように見つめる幼い瞳。
それに気づいた幽香はおっと、と頬を掻いた。
「名前だけじゃわからないわね。じゃあ、ほら。これがダリア。こっちが椿ね。これがポインセチアで……」
「あ、これがいい」
「ポインセチアがいいのね? 時期もあってるし、花言葉もぴったりね」
「花言葉?」
子供は純真な瞳で問いかけた。
「そう、花言葉。花は人間みたいに喋ることができないでしょう? 何の理由もなく花は咲かないのよ」
「じゃあ、なんでお花は咲くの?」
「人が口では言えないけど、それでも伝えたい気持ち、太古の、言葉もろくに喋れない時代の人々の思い、人が見る夢から零れた、忘れられた言葉達を、花は代わりに教えてくれるの」
きっと少女にはまだ理解できないだろうと知りながらも、幽香は花に込められた願いを説く。
そして、優しく微笑んで少女の頭を撫でた。
「このポインセチアの花言葉は、祝福する。聖なる願い。清純。貴女の清純な願いでお母さんを祝福してあげなさい」
「うん! ありがとう」
少女は満面の笑みを浮かべて去っていく。
花が人を不幸にするなんてことはない。 必ずそこにはたくさんの思いがあるのだ。
おめでとう。 ありがとう。 頑張って。 愛してる。 お疲れ様。 お元気で。
「どれも素敵な言葉達。だけど、伝えるには難しすぎて。感情というものは常に付き纏って時に邪魔になるから。だから花は美しく、大きな花を咲かせるの」
小さくなる人影に、幽香は優しく呟いた。
きっとこれから起こるであろう、小さな幸せに思いを寄せながら。
◆
「こんにちは」
「うわっ」
「ひどい返事ね。こんにちはって言ったらこんにちはって返すのが常識じゃなかったかしら」
「はいはい、こんにちは」
暇があれば、日傘一本でふらふらと出歩く。
特に霊夢とは前からの知り合いであり、しょっちゅうからかいに行く。
時々、どこからともなく現れる悪霊と一緒になってからかうのが大好きらしい。
しかし、今日はその悪霊の姿は見えなかった。
「もうすぐ冬で紫もいなくなることだろうし、その分私が神社にいっぱい遊びに来てあげるわね」
「うっさい。来なくていい」
「ふ~ん。ほんとは寂しい癖に。……あら、焼き芋?」
すっかり木々も葉を落とし、丸裸になる季節である。
枯葉を集めては、おすそ分けともらったさつま芋を焼いているようであった。
寒い季節、パチパチ燃える枯葉に手をかざし、ホクホクの焼き芋で身も心も温まろうとでもいうのだろう。
幽香もしゃがみ込んで暖を取る。
「ねぇねぇ霊夢、さつま芋にも花言葉があるのよ? 知ってた? しかもその花言葉がこれまた意外で――」
「乙女の純情、でしょ? 魔理沙から聞いた」
「――つまんないわね。今日の霊夢つまんない」
そういって立ち上がると、神社の地面からさつま芋の花がメキメキと伸び始める。
「そんな霊夢見てるともっと苛めたくなっちゃう」
「はぁ~もう! めんどくさい! どうせやらなきゃ気が済まないってんでしょ?」
「そういうところは察しが良くて助かるわ」
悪戯っぽい笑みで顔を歪めて、日傘をくるりと回転させた。
何処からともなく匂う花の香り。
花柄の弾幕に香りまでつける辺りお洒落というか、変な場所にこだわるものである。
「スペルカードはいくらでもどうぞ」
「はいはい。言われなくてもそうしますっと」
幽香はスペルカードを使わない。
所持はしているが、異変の時に周りの妖怪たちに倣って作っただけで、スペルカードを用いての戦闘を好まない。
自身の力で、自由に好き勝手に弾幕を放つのが彼女のやり方であり、それが幽香の力の所以でもあるのだ。
霊夢は、裾に潜ませたスペルカードに手を伸ばす。
すっかりやる気になっている霊夢を見て、幽香はクスリと笑った。
「まんざらでもないのね。霊夢はそうやって私に付き合ってくれるから嬉しいわ」
「ただ早く終わらせたいだけよ。焼き芋が焦げないうちにね!」
私も焼き芋食べたいなぁと幽香は小さく呟く。
戦いを早く終わらせるべく、幽香は傘を振るい、寒空を駆けるのであった。
◆
お昼の三時になると、幽香は家に帰って幽雅にティータイムを楽しむ。
花や野菜を使って創作菓子を作るのが一つの楽しみであり、それを誰かに食べてもらうのも好きだった。
特に、お茶も好きでお菓子を作るのも好きだというアリスとは気が合うらしく、よく一緒にお茶をしている。
こういった創作菓子を人里の収穫祭でお店で出したこともあり、味には確かな自信があった。
また、レシピをわかりやすく教えてくれて評判だったそうだ。
「なになに、今日は蓮根使ってたみたいだけどこれドーナツ?」
「そうよ。肌に良いビタミンCを沢山含んでて女の子には必須の食材よ」
「まぁ、女の子っていう割には長生きしすぎてるけど」
「お互い様でしょう」
暖かいハーブティーと、アリスが家から持ってきたクッキー、そして蓮根のドーナツが机に並ぶ。
小さなティータイム、もとい女子会が始まった。
話す内容といえば、何の根拠もない噂話であったり、ちょっとした悩みだったり、なんとも人間味溢れるティータイムである。
「でね、ちょっと本気出したら焼き芋まで吹っ飛んじゃって。霊夢ったらカンカンに怒っちゃって大変だったのよ」
「大変ねぇ。その後どうしたの?」
「仕方ないから私がまた焼き芋作ってあげたら、焼き芋頬張りながら愚痴零してたわ」
「なんか容易にその光景が想像できて面白いわね」
薪ストーブがパチパチと音を立てる中、二人の笑い声は部屋に響き渡る。
美味しいお菓子と暖かいお茶で、贅沢で幽雅な時間。
すると、突如幽香が話を切り上げ立ち上がる。
「でしょ? あ、ちょっと失礼」
席から立ち上がったかと思えば、家の扉まで直進し、躊躇うことなく思い切り開いた。
すると、ゴツンと鈍い音が響き、一体何があったのかとアリスも立ち上がる。
そこには、頭を摩りながら座り込む文の姿があった。
「貴女、最近ずっと私の事つけてたでしょ?」
「へ!? い、いや、その。あ、あはは~」
「別に取って食おうってわけじゃないわ。貴女も一緒にどう? 烏天狗さん」
「い、いいんですか?」
「えぇ。ティータイムは賑やかな方が好きだし、外は寒いでしょう?」
「じゃ、じゃあお言葉に甘えて……」
身を縮め、へこへこ頭を下げながら文は家に入った。
どうやらここ数日つけていたのが、幽香にはばれていたらしい。
何をされるかわからずにビクビクしながらも、断るわけにもいかないため、覚悟を決めて席に着いた。
◆
覚悟を決めて入ったものの、特にこれと言ってお仕置きのようなこともされずに済んだのは奇跡だったのかもしれない。
この後、取材のような形でいろいろなことを聞き出すことができたが、これ以上つけるのはやめておこう。
直接口で言われてはいないが、あの不気味な笑顔はそう告げていた。
これ以上つけると痛い目に見ると。
そんな私の心を読み取るかのように。
「ここ数日は自由にできなくて大変だったわ」
要するに、私が邪魔だったということだ。
ここは大人しく引き下がり、彼女の断片的な一日を辿ることができただけでもよしとして、観察を今日で最後とした。
四季の花を求めてふらふらと歩き回り、それを愛でてはまた当て所もなくまたふらり。
家はあるものの、自由気ままに生活をしている為、家にいることが少ない。
他人の家に泊まることもあれば、野宿することも多々ある。
阿求の纏めた求聞史紀にある、自己申告制の能力欄には、「花を操る程度の能力」と記載させるほど、花を愛でる妖怪。
そう、風見幽香である。
人間友好度最悪とされているものの、人間との関わりが嫌いではない彼女が何故、そのような評価を受けることになったのか。
求聞史紀は筆者の思いが込められる部分が強く、阿求は幽香の事が苦手だったのかもしれないし、はたまた違う理由があるのかもしれない。
今回、この幽香の一日の過ごし方を通して、少しでも謎の多い彼女の真相を暴ければ幸いである。
◆
とは言ったものの、冒頭にもある通り自由気ままな彼女をたった一日観察しただけで全てわかることはない。
なにせ、自由気ままな生活をしているからである。
幽香は現在、太陽の畑の一角にある小さな家に住んでいる。
昔は館に住んでいたと聞いたことがあるが、今はその館がどこにあるかもわからない。
一体その館がどこに消えたのかは全く持って謎である。
それはさておき、偶然にも家にいた日があり、観察をしていたのだが……。
カーテンの隙間から僅かに差し込む日の光が、幽香の家に朝の訪れを知らせる。
ごそごそと布団が動きだしたと思えば、幽香はゆっくりと半身を起こし、ぐっと背を伸ばす。
眠い目を擦り、カーテンを開きに行ったかと思えば。
「眠い」
カーテンの僅かな隙間までもしっかりと閉じ、日の光を遮断したのちにまた眠りについてしまったのである。
長生きしている妖怪は寝るのが好きなのだろうか。
特に、八雲紫などは冬眠までするくらいよく眠る。
それに、博麗の巫女が初めて幽香に会った時の姿はパジャマ姿だったという。
また、冬は雪が降り、咲く花の数も減るために行動することも少なくなるというのだ。
このことからも、幽香は紫同様、寝るのが好きなのかもしれない。
また、他にも幽香は紫と似ている部分が見られる。
それはまた別の観察にて。
◆
先ほど寝るのが好き、とは書いたが、基本幽香は早起きである。
早朝、太陽が昇り幻想郷に光が差し込む頃には、幽香はすでに活動を開始していることが多い。
花にとって、太陽はなくてはならない存在であり、幽香もまた、太陽が好きであった。
早朝の寒さに人間が身を縮めるのと同じように、花たちも花びらを窄め、太陽が来るのを今か今かと待ちわびているのだ。
そんな時間を共有するのが、花を愛する幽香の一つの楽しみでもあるのだ。
「ほら朝よ。顔を上げなさいな」
幻想郷の夜明けを見つめながら、ぐっと背を伸ばし、胸いっぱいに朝の空気を吸い込む。
まだ寝ぼけて俯いている花たちを振り向きざまに確認すると、クスリと笑顔を零すのであった。
◆
花達の世話を済ませた後は、朝食だ。
妖怪は食べるという行為がなくともある程度生きることができるので、人間のように三食しっかり食べるという習慣がない。
それでも、人間と行動を共にする妖怪達は必然的に三食摂ることになり、紅魔館や守矢神社ではそういう形態が取られている。
特に紅魔館などでは食費が馬鹿にならないとは思うのだが、それでも何とかやっていける辺り、紅魔館の力の大きさがわかる。
それはさておき、幽香も意外や意外、三食きっちり食べるのだ。
先ほど書いた通り、早朝に起きて花と一緒に夜明けを迎えた後、朝食を自分で作るのである。
自家製のパンや、自分の畑で採った野菜、人里で調達した肉や卵を使い、バランスも考えて作る辺り、そこらへんの人間よりも食事を大事にしているようだ。
それでも、時々作るのが億劫に感じる時は、前からの友達の家にお邪魔することがある。
主に魔法の森や博麗神社にお世話になることが多い。
しかも朝早いので、行く先の人は寝ていることが多く、事前に連絡する当てもない幻想郷なので、大変迷惑な話である。
静まり返った魔法の森に、ドアをノックする豪快な音が鳴り響く。
それと同時に家の中からガタゴトと騒がしい音が返ってきた。
それから間もなく、乱雑に開かれたドアからは、あちこち寝癖で髪がぼさぼさの魔理沙が姿を現した。
「ってぇー……。んだよこんな朝っぱらから」
「こんな時間に来る時の用事って言ったらわかるでしょう?」
「あぁ~今日はアリスのとこ行ってくれよぉ……人間は朝弱いし、最近寒いだろ? 解ってくれよ」
「妖怪には人間の心が解らないわ」
と、すっとぼけた態度を取りながらふふふと笑い、ずかずかと魔理沙の家へと勝手に上がり込んだ。
その間、魔理沙の必死の抗議は空しく、幽香の耳は右から左へとすり抜けて聞こうともしない。
それから何をするかと思えば、朝食が出来上がるまで魔理沙のベッドで寝るのである。
「じゃ、朝食出来たら起こしてね」
「え、あ、待てって。おいぃ」
あとは揺さぶろうが名前を呼ぼうが何をしても決して動くことがない。
まるで石像である。
当然、魔理沙は再度寝ることもできず、お腹も空いているのでしぶしぶ朝食を作らざるを得なくなるのだ。
人によって作る朝食というのは変わるもので、魔理沙はキノコを知り尽くしているだけあって、キノコ料理が多い。
また、根は努力家で真面目ということもあり、どうせ飯を作るなら美味い飯を食いたいというのが信念らしく、これまた意外にも料理が上手い。
次第に陽も昇り始め、朝食も出来上がる寸前になって、タイミングよく幽香は目を覚ます。
「そろそろ朝食ができる頃かしら?」
「お前起きてただろ」
「ふぁ~……今日の朝食は何かしら?」
魔理沙は、本やら紙やらで散らかる机の上を雑に払いのけて綺麗にすると、朝食を並べ始めた。
次第に並べられる朝食を椅子に座って大人しく待つ幽香。
「今日は、きのこと卵の雑炊に焼き舞茸、油揚げとなめこの味噌汁だぜ」
「前から思ってたんだけど、魔理沙ってパワーパワー言う割にはカロリー低いキノコばっかり食べてるわよね」
「なんなら食べなくてもいいんだぜ?」
「誰も食べないなんて言ってないわ。いただきます」
「おう、ゆっくり食えよ」
面倒なのは最初だけで、やり始めるとノリノリなのは前からの付き合いでよく知っていた。
料理を口に運んだ時、どういった感想が聞けるか期待しているのも、もちろん知っている。
自信はあるが、それでもやっぱり一抹の不安も残っているが故に、こっそりと幽香の表情を魔理沙は窺うのだ。
「何か感想を求めてるようにも見えるわね」
「べ、別に私は早く食ってどっか行ってくれれば楽だなって思ってるだけだぜ!」
「おいしいわよ」
「し、知るかよもう! さっさと食えよ!」
「はいはい、朝から怖いこと」
顔を真っ赤にしながら怒る魔理沙に、ホホホと甲高い声で笑って適当に往なす。
相手をおちょくるような、神経を逆なでするようなやり取りが幽香は大好きである。
話し好きで、おちょくるのも好きとくると、やはりあの紫を思い出してしまう。
長生きして、力もあり、寝るのが好きで、お話が好き。
紫のように幻想郷の賢者であり、結界を管理している点を除けば、紫と幽香は案外似ている。
「ほらほら、そんなにがっついたら喉詰まらせるわよ?」
「うるふぇ!」
ガツガツ朝食を食べる魔理沙を見て、優しく幽香は微笑む。
そんな魔理沙にぴしっと指をさして。
「ほら、ほっぺたにご飯粒くっ付いてるわ」
「え、あ……」
頬にくっついたご飯粒を幽香は指で掬い、口へと運ぶ。
恥ずかしそうにする魔理沙をしり目に、にっこりと笑って。
「うん、おいしいわ」
「あ、ありがと」
恥ずかしがる魔理沙を見て、今度は悪戯っぽく微笑むのであった。
◆
朝食を終わらせた後は、人里へふらふらと出かけることが多い。
朝は市をやっていることが多く、これによく顔を出している。
特に買うものを決めているわけではないのだが、興味が惹かれるものを買うようにしている。
いわゆる衝動買いだ。
「あら、素敵な大根。この時期ならおでんかしらね?」
「お、流石は幽香さんわかるかい! 冬は根野菜で身も心も温かく。里芋に馬鈴薯、人参! おでんや鍋、豚汁。あったまる料理にどうだい?」
「そうねー。全部入れるなら豚汁の方がいいかしらね。じゃあ、大根一本に人参二本。里芋と馬鈴薯を三つずつもらえるかしら?」
「まいどありぃ! ついでに牛蒡も一本つけとくよ!」
「あら、優しいのね。贔屓にしようかしら?」
「ぜひともお願いします~!」
また、他の出店をふらふらと覗いては買い、気になるものを見つけては買いを続けているうちに両手は荷物でいっぱいになる。
たくさん買ったならたくさん食べればいいし、別に一人じゃなくて誰かと一緒に食べればいいと考えており、後悔はしていないみたいだ。
買い物が終わった後はまた別の用事で人里へと出向く。
人間と共生していくにあたってお金がなければ生きていけない。
幽香は自身で野菜を栽培しているのにも関わらず人間から野菜を買うのは、人間との付き合いを大切にしているからである。
それなのになぜ人間友好度が最悪なのか。
当然、人間から野菜などを買うだけでは、一方的にお金を払ってるだけでそれではお金が手に入るわけがない。
そのため、自身で作った花や野菜の一部を売ってお金を稼いでいるのである。
花を操る能力を自称するだけあって、幽香の作る花は非常に美しく、季節を問わずに花を咲かせることが可能で、幻想郷ではお目にかかれない珍しいものまで咲かせることができる。
野菜はそこらの農家が作ったものよりも実は大きく、味も良い。
なので、より良いものを求める人間からは、幽香の作物は非常に重宝されている。
しかし、農家からしてみれば迷惑な話であり、自分で供給できるものをわざわざ付き合いのために買われるのはあまり良い気持ちではない。
だが、買ってもらえるが故に人間側も収益が出るわけであり、商売をやっている身分、頭をへこへこ下げざるを得ないのである。
おまけにいつもにこにこしていて何を考えているかわからず不気味だとも言われているようだ。
そんな人間の思いなど気にすることなく、自由気ままに生きるのが彼女である。
幻想郷で生きる以上、人間との関わりが必要だから仕方なく、という理由で力のない弱い人間と共に生きているにすぎないのだ。
「う~ん、芋金つばおいし」
人里の茶屋で一人暖かいお茶と共に芋金つばを頬張る幽香。
今日は物を売りに来たわけでなく、ただ単にお気に入りの茶屋で一息ついているようだ。
暖かいお茶を音も立てずにするりと上品に飲み干した。
「ご馳走様。おいしかったわ」
「ありがとうございました~」
柔らかな笑みと、一輪の花を残して店を後にする。
さてと、と一息ついて太陽の畑へと帰って行った。
◆
太陽の畑に帰ってからは大体お昼寝をすることが多い。
今日も今日とて、お昼寝をしようと思って帰路につく幽香の目先、太陽の畑にぽつんと一つの人影が映った。
様々な花を見ては首を傾げている小さな影だ。
「どうしたの、お嬢さん?」
「え、あ、その……お花が」
「ん?」
小さな女の子の目線に合わせて、幽香も身を屈める。
時々小さい子供が太陽の畑に来ることがあり、大体ここに来る理由は皆同じであった。
子供は悪さをしようと思ってきているわけではない。
そもそも、太陽の畑に幽香がいることは大人達からも聞いているはずであり、危険は百も承知で足を運んでいるのだ。
幽香は、怖がられないようにっこりと笑って少女に問いかける。
「誰かにお花でもあげるの?」
「お母さんにプレゼントしたくて、どの花がいいかなって来たの」
「あら、素敵ね。どんなお花がいいかしらねー?」
「赤いお花がいい」
「そう! それなら何がいいかしらね。バラ、チューリップ、カーネーション、椿なんかもいいし、ポインセチアとか」
花の話になるとついつい夢中になってしまう。
少女の事も忘れ、花の名前を羅列する幽香を困ったように見つめる幼い瞳。
それに気づいた幽香はおっと、と頬を掻いた。
「名前だけじゃわからないわね。じゃあ、ほら。これがダリア。こっちが椿ね。これがポインセチアで……」
「あ、これがいい」
「ポインセチアがいいのね? 時期もあってるし、花言葉もぴったりね」
「花言葉?」
子供は純真な瞳で問いかけた。
「そう、花言葉。花は人間みたいに喋ることができないでしょう? 何の理由もなく花は咲かないのよ」
「じゃあ、なんでお花は咲くの?」
「人が口では言えないけど、それでも伝えたい気持ち、太古の、言葉もろくに喋れない時代の人々の思い、人が見る夢から零れた、忘れられた言葉達を、花は代わりに教えてくれるの」
きっと少女にはまだ理解できないだろうと知りながらも、幽香は花に込められた願いを説く。
そして、優しく微笑んで少女の頭を撫でた。
「このポインセチアの花言葉は、祝福する。聖なる願い。清純。貴女の清純な願いでお母さんを祝福してあげなさい」
「うん! ありがとう」
少女は満面の笑みを浮かべて去っていく。
花が人を不幸にするなんてことはない。 必ずそこにはたくさんの思いがあるのだ。
おめでとう。 ありがとう。 頑張って。 愛してる。 お疲れ様。 お元気で。
「どれも素敵な言葉達。だけど、伝えるには難しすぎて。感情というものは常に付き纏って時に邪魔になるから。だから花は美しく、大きな花を咲かせるの」
小さくなる人影に、幽香は優しく呟いた。
きっとこれから起こるであろう、小さな幸せに思いを寄せながら。
◆
「こんにちは」
「うわっ」
「ひどい返事ね。こんにちはって言ったらこんにちはって返すのが常識じゃなかったかしら」
「はいはい、こんにちは」
暇があれば、日傘一本でふらふらと出歩く。
特に霊夢とは前からの知り合いであり、しょっちゅうからかいに行く。
時々、どこからともなく現れる悪霊と一緒になってからかうのが大好きらしい。
しかし、今日はその悪霊の姿は見えなかった。
「もうすぐ冬で紫もいなくなることだろうし、その分私が神社にいっぱい遊びに来てあげるわね」
「うっさい。来なくていい」
「ふ~ん。ほんとは寂しい癖に。……あら、焼き芋?」
すっかり木々も葉を落とし、丸裸になる季節である。
枯葉を集めては、おすそ分けともらったさつま芋を焼いているようであった。
寒い季節、パチパチ燃える枯葉に手をかざし、ホクホクの焼き芋で身も心も温まろうとでもいうのだろう。
幽香もしゃがみ込んで暖を取る。
「ねぇねぇ霊夢、さつま芋にも花言葉があるのよ? 知ってた? しかもその花言葉がこれまた意外で――」
「乙女の純情、でしょ? 魔理沙から聞いた」
「――つまんないわね。今日の霊夢つまんない」
そういって立ち上がると、神社の地面からさつま芋の花がメキメキと伸び始める。
「そんな霊夢見てるともっと苛めたくなっちゃう」
「はぁ~もう! めんどくさい! どうせやらなきゃ気が済まないってんでしょ?」
「そういうところは察しが良くて助かるわ」
悪戯っぽい笑みで顔を歪めて、日傘をくるりと回転させた。
何処からともなく匂う花の香り。
花柄の弾幕に香りまでつける辺りお洒落というか、変な場所にこだわるものである。
「スペルカードはいくらでもどうぞ」
「はいはい。言われなくてもそうしますっと」
幽香はスペルカードを使わない。
所持はしているが、異変の時に周りの妖怪たちに倣って作っただけで、スペルカードを用いての戦闘を好まない。
自身の力で、自由に好き勝手に弾幕を放つのが彼女のやり方であり、それが幽香の力の所以でもあるのだ。
霊夢は、裾に潜ませたスペルカードに手を伸ばす。
すっかりやる気になっている霊夢を見て、幽香はクスリと笑った。
「まんざらでもないのね。霊夢はそうやって私に付き合ってくれるから嬉しいわ」
「ただ早く終わらせたいだけよ。焼き芋が焦げないうちにね!」
私も焼き芋食べたいなぁと幽香は小さく呟く。
戦いを早く終わらせるべく、幽香は傘を振るい、寒空を駆けるのであった。
◆
お昼の三時になると、幽香は家に帰って幽雅にティータイムを楽しむ。
花や野菜を使って創作菓子を作るのが一つの楽しみであり、それを誰かに食べてもらうのも好きだった。
特に、お茶も好きでお菓子を作るのも好きだというアリスとは気が合うらしく、よく一緒にお茶をしている。
こういった創作菓子を人里の収穫祭でお店で出したこともあり、味には確かな自信があった。
また、レシピをわかりやすく教えてくれて評判だったそうだ。
「なになに、今日は蓮根使ってたみたいだけどこれドーナツ?」
「そうよ。肌に良いビタミンCを沢山含んでて女の子には必須の食材よ」
「まぁ、女の子っていう割には長生きしすぎてるけど」
「お互い様でしょう」
暖かいハーブティーと、アリスが家から持ってきたクッキー、そして蓮根のドーナツが机に並ぶ。
小さなティータイム、もとい女子会が始まった。
話す内容といえば、何の根拠もない噂話であったり、ちょっとした悩みだったり、なんとも人間味溢れるティータイムである。
「でね、ちょっと本気出したら焼き芋まで吹っ飛んじゃって。霊夢ったらカンカンに怒っちゃって大変だったのよ」
「大変ねぇ。その後どうしたの?」
「仕方ないから私がまた焼き芋作ってあげたら、焼き芋頬張りながら愚痴零してたわ」
「なんか容易にその光景が想像できて面白いわね」
薪ストーブがパチパチと音を立てる中、二人の笑い声は部屋に響き渡る。
美味しいお菓子と暖かいお茶で、贅沢で幽雅な時間。
すると、突如幽香が話を切り上げ立ち上がる。
「でしょ? あ、ちょっと失礼」
席から立ち上がったかと思えば、家の扉まで直進し、躊躇うことなく思い切り開いた。
すると、ゴツンと鈍い音が響き、一体何があったのかとアリスも立ち上がる。
そこには、頭を摩りながら座り込む文の姿があった。
「貴女、最近ずっと私の事つけてたでしょ?」
「へ!? い、いや、その。あ、あはは~」
「別に取って食おうってわけじゃないわ。貴女も一緒にどう? 烏天狗さん」
「い、いいんですか?」
「えぇ。ティータイムは賑やかな方が好きだし、外は寒いでしょう?」
「じゃ、じゃあお言葉に甘えて……」
身を縮め、へこへこ頭を下げながら文は家に入った。
どうやらここ数日つけていたのが、幽香にはばれていたらしい。
何をされるかわからずにビクビクしながらも、断るわけにもいかないため、覚悟を決めて席に着いた。
◆
覚悟を決めて入ったものの、特にこれと言ってお仕置きのようなこともされずに済んだのは奇跡だったのかもしれない。
この後、取材のような形でいろいろなことを聞き出すことができたが、これ以上つけるのはやめておこう。
直接口で言われてはいないが、あの不気味な笑顔はそう告げていた。
これ以上つけると痛い目に見ると。
そんな私の心を読み取るかのように。
「ここ数日は自由にできなくて大変だったわ」
要するに、私が邪魔だったということだ。
ここは大人しく引き下がり、彼女の断片的な一日を辿ることができただけでもよしとして、観察を今日で最後とした。
色んな人妖と楽しく交流していて良かったです
あと、誤字報告です
>それはさておき、偶然にも家がいた日があり、観察をしていたのだが……。
家にいた日があり、 でしょうか。
>特に霊夢とは前からの知り合いであり、しょっちゅうからかうに行く。
からかいに行く でしょうか。
体重計が気に(ピチューン
特に幽香の弾幕戦スタイルの解釈はすとんと腑に落ちて気持ちいい
実際は特に触れてないのに、前半に紫との関連を匂わすような記述が複数あるのが難といえば難でしょうか