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「河童の里の冷やし中華と串きゅうり」(作品集174) 「迷いの竹林の焼き鳥と目玉親子丼」(作品集174) 「太陽の畑の五目あんかけ焼きそば」(作品集174) 「紅魔館のカレーライスとバーベキュー」(作品集174) 「天狗の里の醤油ラーメンとライス」(作品集175) 「天界の桃のタルトと天ぷら定食」(作品集175) 「守矢神社のソースカツ丼」(ここ) 「白玉楼のすき焼きと卵かけご飯」(作品集176) 「外の世界のけつねうどんとおにぎり」(作品集176) 「橙のねこまんまとイワナの塩焼き」(作品集176) | 「人間の里の豚カルビ丼と豚汁」(作品集162) 「命蓮寺のスープカレー」(作品集162) 「妖怪の山ふもとの焼き芋とスイートポテト」(作品集163) 「中有の道出店のモダン焼き」(作品集164) 「博麗神社の温泉卵かけご飯」(作品集164) 「魔法の森のキノコスパゲッティ弁当」(作品集164) 「旧地獄街道の一人焼肉」(作品集165) 「夜雀の屋台の串焼きとおでん」(作品集165) 「人間の里のきつねうどんといなり寿司」(作品集166) 「八雲紫の牛丼と焼き餃子」(作品集166) |
幻想郷を取り囲むように展開されている博麗大結界の補修なんぞをしていると、自然と幻想郷のあちこちに足を運ぶことになる。もはやこの八雲藍に、幻想郷で知らない場所はない――と言いたいところだが、幻想郷も狭いようで、行ったことのない場所というのは意外と存在するものだ。行き帰りの道で何度も目にしているのに入ったことのない店のように、存在を意識はしていても、足を踏み入れる機会のない場所というものは必ずある。
その、今まで機会の無かった場所のひとつ――守矢神社に、私は足を運んでいた。
「こんにちは。参拝ですか?」
境内の掃除をしていた風祝に、私はひとつ会釈をする。こんな山奥に参拝客などいるのだろうか、とは思うが、守矢神社は里のあちこちに小さな分社を作っているから、博麗神社と違ってそっちからの収入でやっていけているのかもしれない。いや、こいつらの場合はそれ以外にも色々とやっていそうだが――。
「八坂神奈子殿はいらっしゃるかな」
「神奈子様ですか? 今は湖の方にいると思いますけど」
「湖? そうか、ありがとう」
なんだ、神社にはいないのか。踵を返そうとすると、風祝がすっと私の前に回り込んだ。私が眉を寄せると、風祝はにっこり笑って、
「せっかくですので、ご参拝をどうぞ♪」
有無を言わさぬ笑みとはこのことである。博麗霊夢の悪影響を受けてないか、この風祝。私は苦笑して、賽銭箱の方に歩み寄った。
誰にも邪魔されず、気を遣わずにものを食べるという、孤高の行為。
この行為こそが、人と妖に平等に与えられた、最高の“癒し”と言えるのである。
狐独のグルメ Season 2
「守矢神社のソースカツ丼」
守矢神社から少し山道を下ったところには、湖が広がっている。外の世界から、神社と一緒にこの湖も幻想入りしてきたらしい。
湖の畔には、開けた土地が広がっている。そこに何本も屹立する巨大な御柱は、麓から見上げてもよく目立つ、守矢神社の目印である、のだが――。
「……なんの音だ?」
かきーん、という乾いた音と、それからいくつもの駆け回る足音。湖の近くで何かやっているのだろうか? 山道を歩いていた私は、その音を頼りに足を進める。と、
再び、かきーんという音。そして、がさがさと音を立てて頭上から何かが降ってきた。
「なんだなんだ?」
落ちてきた物体は、ぽとんと私の足元に落ちて転がった。直径七センチほどの白い球だった。革でできているようだが、随分と硬い。当たったら痛そうである。
弾幕ごっこの球――にしては変だな、と私がそれを手の上で弄んでいると、ぱたぱたとこちらに駆けてくる足音がした。顔を上げると、河童の少女がひとり、こちらを目を丸くして見つめている。見覚えの無い河童だ。白に緑の文字で《MORIYA Giants》と記された妙なユニフォームを着ている。左手には何か、革手袋……にしては随分と大きく変な形をした奇妙な物体をつけていた。
「あ、そ、そのボール」
「うん? これか」
少女が私の手にしていた球を指さして言う。私がそれを放ると、少女は左手にはめた変な形の手袋で球をキャッチし、ぺこりと頭を下げて踵を返した。私は首を傾げてそれを見送る。
ともかく、私の行き先もこの先だ。足を進めると、不意に視界が開けた。そして、はっきりと聞こえてくる歓声。何をやっているんだ? とそちらを振り返ると――。
「危ない!」
「え」
鋭い声。風を切って、何かが飛来する気配。
次の瞬間、白い何かが視界を埋め尽くし、ボコッ、と鈍い音をたて――私の意識は暗転した。
「うおーい、大丈夫かい?」
ばしゃん、と顔に水をぶっかけられて目が覚めた。
額が痛む。ついでに冷たい。首を振って、額をさすりながら身体を起こすと、何人もの河童に取り囲まれていた。そしてその中に、神が二柱。
「痛たた……何が起こったんだ」
「いや、すまないね。私の打球が当たったんだよ」
申し訳なさそうにそう声を上げたのは、守矢神社の祭神、八坂神奈子だった。その傍らには洩矢諏訪子が呆れたように肩を竦めている。――ふたりとも、さっきの河童と同じユニフォーム姿だった。よく見れば、他の河童も皆同じユニフォームを着て、あの革手袋もどきをつけている。神奈子はそれに加え、妙な形の木の棒を担いでいた。
……今度は何を企んでいるんだ、こいつらは?
「怪我は無いかい」
「あ……ああ」
額に手を当てる。軽くこぶになっているかもしれないが、別に致命的なダメージではない。
「諏訪子、ノッカー交替だ。ほらみんな、練習続けるよ!」
木の棒を諏訪子に預けて、神奈子はそう声を張り上げる。おー、と河童たちが応えて、湖の畔の開けた空間に散らばっていった。よく見れば、地面に何か白いラインが引かれ、その中に白く四角いものが置かれている。ラインはある一点から菱形に引かれ、さらにその二辺が伸ばされてV字を描いている。諏訪子がV字の交点に向かい、河童たちはそれぞれ白い四角い物体の近くや、菱形のラインの外に散らばっていく。
私はラインの外側に置かれたベンチに座らされた。神奈子が氷嚢を差し出してくれて、額にそれを当てながら息をつく。諏訪子が木の棒を振って、あの白い球をはじき飛ばした。球は高く舞いあがり、それを河童が追いかけていく。
「……何をやっているんだ?」
「知らんのかい? 野球だよ」
「やきゅう?」
「……やっぱり幻想郷だと、そもそも存在が知られてないんだねえ」
神奈子が溜息をつく。私は眉を寄せた。この神め、今度は何を外から持ち込んできたのだ。
「スポーツだよ。決められたルールの中で勝敗を競う、ま、外の世界の弾幕ごっこの一種みたいなもんさね。弾幕ごっこと違って、人数が必要だがね」
オーライオーライ、と河童が声を上げ、あの革手袋で飛んできた球をキャッチする。諏訪子が「おーし次、ライトいくよー」と木の棒を振った。かきーん。ああ、さっきの音はこれか。
「今度は何を企んでるんだ」
「いやいや、妖怪の賢者殿に睨まれるようなことを企んでるわけじゃないよ。ちょっとした息抜き、山の妖怪たちとのコミュニケーションだ」
「本当か?」
「本当だとも。何ならやってみるかい?」
木の棒を私に差し出して、神奈子はにやりと笑う。私は目をしばたたかせて、思わずそれを受け取ってしまった。「バットはこう持って、こう構える」と、神奈子が同じ木の棒を持って実演してみせる。見よう見まねで、私は同じ構えをとってみる。
「ほう! なかなか様になってるね。じゃあ次は振ってみようか。こう、ぐっと力を入れて、きゅっと脇を締めて――そうそう、そんな感じだ。そして、身体の回転を意識して、それにバットを載せるように、ぱーん、と振り抜く。肩を開かないで。おー、いいじゃないかいいじゃないか。センスがあるよ、お前さん」
私の身体にべたべたと触りながら、神奈子は何か指導モードに入ってしまった。いや、こんなことをしている場合ではないのだが――と頭では思っているものの、虚空にバットを振り抜いてみると、これが意外と気持ちいい。風を切る音が爽快だ。
そのまま何回かスイングさせられる。神奈子は何かやたらと満足げだった。
「よーしよし、次はピッチャーの球を打ってみようか」
「あ、いや、私は――」
「おーい諏訪子、ピッチャーやっとくれ。私がキャッチャーやるからさ」
「あいよー」
これを被りな、とヘルメットを手渡され、神奈子に促されるまま、私は菱形のラインの中に連れ込まれる。V字の交点には白い五角形の板が置かれ、その脇にふたつの長方形が描かれていた。私は長方形の中に立たされる。前を見ると、洩矢諏訪子が菱形の中心、少し土が盛り上がった上で、あの白い球を握ってこっちを見つめていた。
「……何をどうすればいいんだ?」
「今から諏訪子がこっちに向けてあのボールを投げるから、それをバットで打ってみな」
諏訪子から見て白い五角形の後ろ側に、神奈子がしゃがむ。あそこから諏訪子が私の方へ球を放るということは、神奈子はそれを捕る役目か。で、私はこのバットでその球を打ち返せばいいらしい。だが、あんな小さいボールにバットを当てられるものだろうか。
いや、その程度が出来ないようでは、九尾の妖狐の名が廃る。私はぐっとバットを握り直した。なんだかよく解らないが、挑まれた勝負なら受けて立とうではないか。ヘルメットの角度を直して、私はもう一度神奈子を振り返る。
「遠くへ飛ばせばいいのか?」
「まあ、大雑把に言えばそういうことだが――ファールラインの内側で、外野の居ないところに飛ばせばお前さんの勝ちってことにしよう」
「ふぁーるらいん?」
「左右に広がってる線だよ。その内側で、菱形の向こう、河童の居ないところに飛ばせばいい」
なるほど、解りやすい。「おーい、行くよー」と諏訪子が声を上げた。さあ来い、と私はさっきの恰好でバットを構える。諏訪子が振りかぶって、その小さな身体が大きく躍動し、手から白いボールが放られた。――速い。私が目を見開いているうちに、ボールはバシィ、といい音をたてて神奈子の分厚い革手袋の中に収まっていた。
「おいおい諏訪子、初心者相手に本気出しすぎじゃないかい」
「いや、なんか構えに威圧感あるからさあ」
神奈子がボールを投げ返し、諏訪子が受け取る。あのスピードの球を打ち返すのか。これはなかなか難題であるが、ふむ。私はバットを二回振って、今のボールのコースにバットのスイングを重ね合わせる。あとはタイミングの計算か。いけそうだ。
諏訪子が振りかぶって、二球目を投じた。同じコース。私はバットを振り抜く。かきーん、と乾いたいい音が響いて、白球が舞いあがった。お、と私はその軌跡を見上げる。――ボールはファールラインの外側へ飛んでいき、湖にぽちゃりと落ちた。
「ファールだね」
「……私の負けか」
「いやいや、これでツーストライクだ。あと一球」
神奈子が新しいボールを取り出して諏訪子に投げ返す。諏訪子はいくぶん険しい顔で、私を睨んできた。お、本気か? ならば受けて立とうじゃないか。
ヘルメットのずれを直して、私も構え直す。諏訪子が振りかぶる。ボールが放たれる。
かきーん。確かな手応え。私のバットが弾き返したボールは、まっすぐに諏訪子の頭上へ飛んでいく。気持ちのいい当たりだ。どうだ!
「とおりゃ!」
――次の瞬間、諏訪子が高く飛び上がり、その革手袋に私の弾き返したボールが収まっていた。背後で神奈子が「アウトー」と声を上げる。私は愕然と目を見開いた。
「あいつが捕ってもいいのか」
「ああ、いいんだよ。しかし今のは諏訪子の反応が良すぎたね。普通ならセンター前ヒットの当たりだ。教科書通りのセンター返しだ、素晴らしいよ」
ぽんぽん、と神奈子が私の肩を叩く。おそらく慰められているのだろうが、ぐぬぬ、納得がいかない。会心の当たりだったのだ。打った瞬間の気持ちの良い感触が、まだ手に残っている。
「もう一球! もう一球勝負だ!」
気付けば私はバットを諏訪子に向けて、そう叫んでいた。諏訪子が目を丸くし、神奈子が「はっはっは、結構結構。もう一打席いこうかい」と笑う。諏訪子は「あちゃー」とばかりに天を仰いでいた。
その後、三打席勝負して三打席目で見事私は外野の頭を越える打球を放った。いい気分でいたところに、今度はあの革手袋――グラブを渡され、そのまま守備練習につくことになった。外野でたまに飛んでくるフライを追いながら、内野で走り回る河童たちの姿を見ているうちに、なんとなくルールを把握する。ピッチャーの投げたボールをバッターが打ち、あの菱形の角に置かれた四角いもの(ベースというらしい)を反時計回りに走って、守備がボールを返すまでにどれだけ回れるか、というゲームらしい。
「九人対九人でないと試合ができないのがネックでねえ。今は河童たちに教えてなんとか試合のできる人数を確保しようとしてるんだが、なかなかね」
神奈子はそんなことをぼやいていた。随分とまた制約の多いゲームだなと思ったが、外の世界のゲームは何かと複雑なものなのかもしれない。
そんなこんなで、グラウンドを駆け回っているうちに、時間はあっという間に過ぎ――。
「神奈子様ー、諏訪子様ー、お昼ですよー」
「ああ、早苗。もうそんな時間かい」
風祝の声で、私は我に返った。はっ、私は今までいったい何をやっていたんだ。太陽はすっかり中天近くまで上っている。もう昼か。ああ――腹が、減った。
「よーし、じゃあ今日の練習はここまで! 次の練習は三日後、またここで。野球に興味のある河童が居たら、どんどん連れてきておくれよ。天狗でもいいからね」
おつかれさまでしたー、と河童たちが声をあげ、ユニフォームをその場で脱ぎ捨てると次々と湖に飛び込んでいった。そのまま川を下って河童の里まで戻るのだろう。ついでに汗も流せて気持ちよさそうだ。ついうっかり私も湖に飛び込みたくなったが、慌てて自重した。
「さなえー、お昼なにー?」
「おふたりにスタミナをつけていただこうと思いまして――あ、ええと、そちらも食べていかれます?」
風祝――東風谷早苗が、私を見やって言う。その手には蓋のされた丼。ぐう、と思わず腹が鳴って、私は赤面した。慣れない運動をしたせいで、お腹はぺこぺこ、ぺこちゃんである。
「お疲れ様です。お腹空いてますよね」
「ああ、いや――」
「すみません、神奈子様の趣味に付き合わせちゃいまして。どうぞ」
半ば押しつけられるように丼と箸を渡されてしまった。なんだか申し訳ないが、ここで突っ返すのも失礼だろう。観念していただくか。しかし、何の丼だろう?
蓋を開けて、私は思わず目を見開いた。
「カツ丼……か?」
目に入ったのは大ぶりのトンカツ。しかし、私のよく知る卵とじのカツ丼ではなかった。ご飯の上にキャベツが敷き詰められ、その上に衣がソース色に染まったトンカツがどんと載せられている。これはまた、ある意味ストレートなカツ丼と言うべきかもしれない。
「お、ソースカツ丼! 諏訪が懐かしいねえ」
諏訪子そんなことを言って、がいただきまーす、と声をあげる。
「……外の世界の食い物なのか?」
「うちらの地元信州の名物だよ」
だから、そうホイホイ外のものをこっちに持ち込まれても困るのだが。私は抗議の視線を向けたが、神奈子も諏訪子も既に地面にシートを敷いて、その上に腰を下ろして丼を食べ始めていた。私は溜息をついて、ベンチに腰を下ろす。
「いただきます」
ソース色に染まったカツを箸で持ち上げる。さて、どんなものか。あむ、とかぶりついてみると――おお、これは。こうきたか。ソースの味が衣によく染みているのに、べったりとせず、サクサク感が残っている。肉も硬すぎず柔らかすぎず、いい歯ごたえだ。いかにもトンカツってトンカツだ。
ああ、ソースのかかったトンカツがご飯に合わない道理があろうものか! 私はカツの下、シートのように敷き詰められたキャベツとともに、さらにその下に隠れたご飯をかきこむ。あむ、むぐ、もぐ、もぐ。うん、うん、トンカツにソース、白いご飯、そしてキャベツ。シンプルにして明瞭な美しい方程式を、全部まとめて丼に載せてしまおうというこの、コロンブスの卵的な発想。いいじゃないか、いいじゃないか。
「あ、お味噌汁もありますけど」
「いただきます」
おっと、ちょうど汁っけが欲しいと思っていたところだよ。お椀に注がれた味噌汁をありがたくいただく。よし、これで汁問題は解決だ。
味噌汁の中身は豆腐だった。油揚げでないのは少々残念だが、このダイレクトなソースカツ丼に油揚げはちょっと重たいかもしれない。豆腐の軽さが、ちょうどいい。
「ずずぅ。んむ、もぐ、もぐ、はふ、はふ」
おお、カツが美味い。ソースと脂っこさの重みと、キャベツのしゃきしゃき感とのコントラスト、そしてそれを丸ごと包んでしまうご飯の甘み。三段重ねの三重奏。ぐっと溜めて、きゅっと締めて、ぱーんと弾き返す。おお、快心の当たりだ。三塁回ってホームランだ。一番キャベツが塁に出て、二番ソースがヒットエンドラン、三番ご飯がタイムリー、四番トンカツホームラン。いいぞがんばれソースカツ丼、燃えよソースカツ丼。
そう、燃える、燃える。気分は野球蒸気機関車だ。ソースカツ丼という石炭を燃料に、私自身がしゅっしゅっぽっぽとエネルギーを生み出していくかのようだ。くべる! 燃やす! くべる! 燃やす! はふ、はふ。熱い、熱い、美味い、美味い。
「はふ、もぐ、もぐ、んむ、んぐ、ずずぅ――はあ、ふ」
あっという間に丼を空にしてしまって、私は晴天を見上げて大きく息をついた。秋口の爽やかな空の下、外で走り回っていい汗かいて、お昼を腹一杯食べて。ああ、なんという贅沢。
「ごちそうさまでした」
「あ、お粗末様でした」
私が丼とお椀を返しながら頭を下げると、早苗は満足げに笑って頷いていた。
神奈子と諏訪子はときおりご飯粒を飛ばして何か話しながら、美味そうにソースカツ丼を食べている。私もきっと、あんな顔で食べていたのだろう。それを隣で見ている早苗の表情は、はたしてどっちが保護者なのかよく解らなくなりそうだった。
「今度はユニフォームを用意しておくから、また来ておくれよ。できれば知り合いを連れてきてくれるとありがたいね」
「考えておくよ」
守矢神社の三人に見送られ、私は境内を後にする。野球をやってソースカツ丼をごちそうになって、何をしに来たのかよく解らないけれど、不思議と満足感で満たされていた。
境内に通じる階段を下りながら、御柱の並び立つ湖の畔を振り返る。
「野球、か」
スポーツにしろ食べ物にしろ、外の世界のものをこちら側にほいほい持ち込まれるのは、結界の管理者としてはあまりありがたい話ではない。だが――。
「スポーツにも、食い物にも、罪は無い、な」
野球をしているときの、神奈子や諏訪子や、河童たちの活き活きとした楽しそうな表情。私自身もひょっとしたら、同じような顔でボールを追いかけ回していたのかもしれない。その楽しさそれ自体には、きっと何の罪もない。
こちらにあるべきものなら、いずれ定着するだろう。まだこちらにあるべきでないなら、いずれそれは外へ還っていく。それが幻想郷の理ならば、今は結界の管理者という立場を忘れて、その楽しさを追いかけてしまってもいいのだろうか――。
と、そこまで考えたところで、私ははたと立ち止まった。
「あ」
違う。私は野球をしに来たのでも、ソースカツ丼を食べに来たのでもない。
紫様から命じられた用件で、この守矢神社を訪れたのだ。すっかり忘れていた!
慌てて境内へ上る階段を引き返す私の頭上で、カラスがカァ、と間抜けに鳴いていた。
てっきり発祥の地である福井限定のものかと。
次があるなら是非ローメンで
流れに逆らえない藍さま可愛い。
ちなみに我が地元福井県のソースカツ丼はキャベツすら乗っていないのが普通ですから、本作のは信州の作り方なんでしょう。早苗さんの心遣いですな!
やっぱりお腹減る
良い短編でした
それはともかく河童の野球は清清しくて素敵でした。えーのう。
浅木原さんの他の東方SS世界ともリンクしてるみたいでニヤニヤが止まりません
次回も楽しみにしてます
明○亭より茶そば○垣のソーカツが好きですw
あの揚げたてのカツを甘辛い醤油ベースのたれにくぐらせた新潟自慢の一品を藍様にご賞味いただきたい。無論、米は魚沼産コシヒカリ!
少し肉が薄めで好みじゃないのだが、しばらくすると食べたくなるんだよなぁ。
ちゃんと信州ネタだったんだ・……。
それにしても――腹が減った。
でもそこら辺も諏訪大社の影響を受けてますから、神様から見れば地元でしょう
地元民として、カツ丼といえばソースの方がスタンダードでした
サクッとした衣に独特の甘辛ソース…ああ腹が減ってきた…
そういえば卵とじカツ丼はそば屋さんが開発したものだそうです。最近知って驚きました
もしかしたら、県境を越えて現在の山梨県北杜市北部、白州あたりでもそうだったかもしれない………
このあたりのレシピはごはん+千切りキャベツ+カツレツ+ソースが標準で、
東京などでの卵とじカツ丼は別メニューで「煮カツ丼」と称されていました
あー、懐かしい