Coolier - 新生・東方創想話

SO-NANOKA-10

2012/11/19 00:38:03
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 チルノはドアを蹴り破るかのように開いた。
「お姉さまのばか!」
 チルノの聞いたフランの第一声だった。フランの怒声の対象であるレミリアは、真顔のままソファに座している。それが癇に障ったのだろう。レミリアの襟元めがけてフランが掴みかかった。
――まずい
 反射的にチルノは動いていた。レミリアの言い訳を象徴するトランクを投げ捨て、フランを羽交い絞めにする。チルノに負けず劣らず華奢なフランだが、猛獣のような力を持っていた。フラン愛用の帽子が落ちる。金髪がチルノの鼻を掠める。骨ばった肩が揺れる。
 レミリアに近づこうとするフランの足が地を叩いた。歯を食いしばって、チルノはそれを抑える。
 なにがフランを突き動かすのか。底知れない原動力。狂った歯車。
 しばらく均衡が続いた。フランの肩の力が抜ける。ようやくフランはあきらめたようだ。もう暴れないだろう。そう判断したチルノはフランから離れた。
「だから、もう遅いの。私は深いところまでもぐりすぎたわ」
 だらんとフランの頭が垂れる。
「そう、かもな」
 冷たく、無機質にレミリアは受け答えた。この冷徹の仮面の裏にある感情を知った今、その冷たさはむしろやさしさにも見える。そして、それを知りつつ見ている者としては張り裂けるように胸が痛むものだった。
 レミリアは自らを冷血に仕立て上げなければ行えないような決断をしており、実行しようとしている。
 自らの手で妹を裁くという――
「なら、もう良いじゃない。ほっといてよ!」
「残念ながら、私も私情を捨てきれない身でな」
 溜め息をつき、レミリアはチルノを見た。
「すまないな」
 仕事に私情を挟むな。
 レミリアがよく言っている言葉だ。私情を挟むな。確かにその通りかもしれない。けれど、レミリアは社員が私情を挟んだ判断で失敗しようとも責めたりすることはしなかった。チルノも何度それに慰められたことか。
 それにレミリアには感情的な判断を好む節すらある。社長の体面を保つ為だけに言っているのだ。それをチルノは、紅魔社員は理解していた。そんなレミリアを慕い、付いてきたのだ。
 だからさ……、だからもっと妹を大切にしてあげてよ。
 そう言って上げたかった。けれど結果としてその判断を迫ったのはチルノだ。知らないとはいえ、レミリアを追い詰めてしまったチルノに声をかける資格はないだろう。
 唇をかみ締め、チルノは言葉を飲んだ。飲んだ言葉の変わりに、緋色のカーペットに水滴のシミを作ることすら、今のチルノには許されない。
「もし、だ。幽々子の情報を使い、それでも失敗した場合、お前が私に買われていれば戻ってこれるだろう?」
 つかの間の安楽。レミリアはこれを買おうとしていたのだ。仮に、フランをEXから買収したあとに犯罪性を含む幽々子の情報でEXを潰したとしても、フランは罪から逃れられない。フランドール・スカーレットがEXの幹部だった。という跡は必ず残るのだから。
「ばっかじゃないの。そんなことを考えるなんて。それともなに? EXをわざと潰さないようにする気なの? だとしたら社長としては最低ね。仮にそうでなくても――」
 寂しくなるだけじゃない。
 フランの唇だけが描いた、本音だった。
 チルノの奥歯がきしむ。とんでもないことをしてしまった。この姉妹の仲をずたずたに引き裂いたのだ。このまま捻じれればどうなるか、見当もつかない。
 けどまだだ。まだなんとかなる。
 ルーミアが居る。悲劇の最中にいる二人の間に入るのはあまりにも不釣り合いな存在であることを知りながらチルノは踏み出した。
「ねぇフラン。EXが潰れたらさ、紅魔に戻ってくるんだよね?」
「そりゃそうよ。でもその前に刑務所に行くことになるでしょうけどね」
「良かった」
 そのチルノの安堵に、フランはあきらかな嫌悪を表す。下衆を見る表情でチルノを見下している。
「お姉様はとんでもない社員を抱えてるのね」
「ああ、知ってる」
 チルノの『良かった』は刑務所に行くというフランの言葉を無視したものだ。
「もし、もしもだよ。EXをきれいに……、というか正当な理由、うーん違うな。犯罪性をもってしてじゃなくって、やっぱり、きれいにでいいや。きれいに潰すことが出来るんならさ、どう?」
 フラン、そしてレミリアの瞳に、チルノが期待したような興味の色は浮かばなかった。
「どう、って。そんな手段があるなら最高ね」
 二人からはあきらめの色がにじみ出ている。チルノ自身も、本当はもう両手を挙げて逃げ出してしまいたい。が、それらもろもろの感情を押し殺して、チルノは言葉をつぐむ。
「だってあれだよ。うちにはルーミアが居るんだよ」
 論理的に語るのではなく、感情的に語る。感情を揺さぶれば論理観念を崩せるのを、チルノはなんとなくだが知っていた。この場で崩すべきは『EXを潰すことのできる道は一本しかない』という観念だ。
「だから?」
 求められる根拠。
「三日間るーみゃはEXに痛んだよ。なにか、EXの盲点を付くようなことを見つけてるはずだよ」
 推測。他人からすればチルノの推測の域を出ない言葉。が、チルノは確信を持って伝えていた。ルーミアならば手をうてる。なにかやってくれる。
 フランは拳を唇に当てる。
「ひっくり返せるよ」
 フランの目を見て伝える。チルノがルーミアを信じているという他人からすれば根拠にならない、千切れ紙のカードしかチルノの手札には残っていない。
「あきれたわ……」
 そんなチルノに頭を抱え、フランは溜め息をついた。
 やはりダメだろうか。感情論が通るレミリアはともかく、フランは怪しい。
「でもまぁ、悪くないわ」にやりと笑ったフランは、やわらかく光る金髪を掻き揚げる。
「え?」
「なに驚いてるのよ? チルノが言う、ルーミア頼みの作戦ならさ、私は外から見てれば良いでしょう」
 悪戯っぽい笑みの意味をチルノはようやく理解した。フランは安全なところから見ていられる。今までのチルノの言葉だとそういうことになる。
 チルノの意図していた計画。というより、ルーミアが計画を持っているとしても、まず大前提として本人が起きなければ意味がない。ルーミアは今、紫の言語トラップによって眠りについている。それを解除しなければいけないのだ。
 それにはフランの破壊の力が必要だった。
 こうも先手を打たれると、頼むに頼めない。
 唸るチルノを見て、楽しそうにフランは笑う。
「うそうそ。チルノはなにを私に求めてるの? 私とお姉様の喧嘩を止めるのに、わざわざルーミアならEXの死角を突けるかも、なんて話は出さないものね。他の手段だっていくらでもあるのに」
「喧嘩なんかしてないけどな」つっけんどんにレミリアは言い捨てた。
 やはり全てを見透かされてた。レミリアの妹であり、EXの幹部であるフランにこの程度の思惑はすぐに見抜かれてしまう。遠まわしに言おうかと思ったが、それも無駄だと悟り、チルノは直球勝負に出た。
「るーみゃを助けて欲しいの」
「へえ?」
 ここにきて、はじめてフランの瞳に興味の色が浮いた。
 ルーミアの髪に付けられているリボンは、ちょっとやそっとのことではほどけないようにできている。チルノがスペルカードを使い、破壊できれば良いのだが、リボンをピンポイントで破壊できるような小範囲スペカは持っていない。一般的な弾幕遊び用スペルカードは、広範囲攻撃のためにあるものだ。撃ったらルーミアに被害が及ぶのは必死だろう。
 それに比べ、フランの破壊の力はピンポイントで物を破壊できる。
「リボンを壊して欲しいんだ」
「あー、紫の拘束器具ね。やっぱりね。ノーリスクで事が済むわけないわよね」
 カーペットに落ちた帽子を拾い、フランは指でくるくると回す。
「まぁ、別にいいわよ」
 深めに帽子を被り、フランは告げた。ルーミアを助けると言うことは、紫を裏切ることになる。フランにルーミアを助けてもらう際に注意しなければいけないことが一つ。今回、EX潰しを失敗してしまえばフランがルーミアを助けた、この行動が今後のEXにおけるフランの活動を大いに制限することになるだろう。失敗は許されない。
 最終的に、助けるべき立場のチルノが助けられる立場であるはずのフランにはお世話になる形になった。喧嘩をしていたことなぞもうなかったかのように振舞ってくれているし、チルノが突然出した条件を飲んでくれた。それぞれの感謝をチルノは同時に伝えた。
「ありがとう」
 ぷいっと照れくさそうに、フランはうつむいてしまった。そんなフランを見て、ふてくされていたレミリアがフランに問う。
「なぁ、フラン。最後に一度だけ聞くが、今、EXを抜ける気はないのか?」
 レミリアの問いに、フランは首を振る。フランの赤い瞳には確かな決意が見て取れた。
「寂しくなるのもあるけどね、もう一つ理由があるの。EXには、こいしちゃん、ケロちゃん、ぬえちゃん……たくさんの友達がいるの。みんな私と同じ理由で帰れないんだよ? 私だけがこの問題から目を背けるなんて、絶対にしたくない」
 EXの幹部は皆、囚われた者で構成されている。皆、紫に縛られているのだ。フランがレミリアに対し、激怒していたのは、レミリアか、EXの仲間を裏切らなければならなかったからだろう。結果、フランはレミリアを裏切ることを選んでいた。
 私情のために社員に情報公開をせず、フランを助け出そうとしたレミリアとそれを裏切ったフラン。誰が悪いなどと、決めるわけじゃない。結果として、こういう構図になってしまったのだ。けれど、そのわだかまりは解けた。
「そうか……。話してくれてありがとう」ソファの背もたれに手をかけ、レミリアは立ち上がった。そしてフランの肩に両手を回す。「それじゃ、もう少し待っててくれ。お姉ちゃんも頑張るから」
 抱かれているフランには見えないが、チルノには見えた。冷血の仮面を外したレミリアの表情が。私情を大切にするフランの言葉に対する喜びと、フランが帰って来れないもどかしさ、その二つが混ざった表情を、レミリアはしていたのだった。
 






 地下一階と二階を繋ぐ踊り場。そこに置かれているソファでルーミアは横になり眠っていた。
「まったく、呑気なものだな」
 ルーミアの頬をつねり上げながらレミリアは言った。それでもなお、ルーミアは起きない。眠っているときのルーミアの顔は本来の容姿に相応しく、幼いものだ。会社のエースではなく、ただの女の子。こんなルーミアも良い。
 けれど、いつまでも幼い女の子で居てもらうわけにはいかなかった。
「フラン、お願い」
 チルノとレミリアの合間にフランが割って入った。
「寝ている間はみんな、全てを忘れられるのよね」
 つぶやき、フランは右手をきゅっと握った。ちょうど風船が割れるような音をたてて、リボンは弾けとんだ。
「るーみゃ、るーみゃ」
 ルーミアのほっそりとした肩をチルノは揺さぶった。チルノの視界の隅でぴくりとルーミアの指が動く。まぶたが開き、真っ黒な瞳が怠慢に辺りを見渡した。焦点が定まり、黒い鏡がチルノを映し出す。
「おはよう、るーみゃ」
 見ていた夢を振り払うようにぶんぶんと頭を振り、ルーミアははっきりと言った。
「おはよう。チルノ」
 今度こそは、ちゃんとルーミアが戻ってこれるのだ。ルーミアが一緒に居れなかった時間はそれほど長くはない。片手で事足りるほどの日にちだ。だが、何ヶ月も、何年も待ったかのような気分だった。黒く光る瞳に、チルノは見入る。
 足を地につけ、ルーミアは背伸びをした。それから、レミリア、フラン、最後にチルノの顔を見る。ルーミアと目が合う。それだけだが、チルノは無性に嬉しかった。
「さて、結局どうなったのかしら。無駄だと思うけど、私の耳元で周りに聞こえないように教えてちょうだい」
 耳元で、というのは紫の監視を警戒してのことだろうか。もしかしたら、というかおそらく、夜雀の屋台に居たときも、監視を受けていたのだろう。
「ええとね……」
 ルーミアの耳元で、周りには聞こえないように成り行きを伝えた。質問したいこともあっただろうが、ルーミアは一度も横槍を入れなかった。まもなくして情報の同期化が完了する。
「ふぅん。そうなったのね」満足気にルーミアは頷いた。「チルノもよく信じてくれたわね。ずっと監視されてるであろう私が策を用意してるなんて」
 チルノが小声で話した意味があるのか、と思える声量でルーミアは策を用意してることを宣言する。
「それ、じゃあ……」
 にやりとルーミアは食えない笑みを浮かべる。
「あるわよ。もちろん背負わなきゃいけないリスクはいっぱいあるけどね」
 立ち上がり、ルーミアは天井を仰いだ。
「最後に、少しだけ準備しなくちゃいけないわ」
「何の準備をするの?」
「ひ・み・つ」
 右、左と人差し指を揺らしながら、ルーミアは悪戯っぽく笑った。どうしてだろうか。チルノはこの瞬間に感じた。嫌な予感を。嫌な予感に限り、なかなか外れない。今回もその例に沿うのならば、一体なにが待つのだろうか。
「ねぇフラン。あれよあれ、ええと、そう、あなたのレアスペカ『雑務用フォーオブアカインド』をくれない?」
 ふいにスペルカードの話に切り替わった。
 フォーオブアカインド。フランの専売スペルカードだ。本来は三体の分身を作り出し、一緒に弾幕攻撃を行うというものだ。雑務用フォーオブアカインドは分身を攻撃目的ではなく、雑務のために分身を使ってしまおうというコンセプトのスペルカードだ。一見、とても便利そうなスペルカードだが、『レア』が付くほど生産数が少ない。プレミア物であるわけではなく、ただただ売れないのだ。一般人が使うには難しすぎるとか。どうして難しいかまでは、チルノは知らない。
 つまるとこ、ルーミアが言った『レアスペカ』とはたんに皮肉って言っているだけであった。
「販売用? 非売用?」
 顔をしかめながらフランは尋ねた。一般的に魔力を込めているのが販売用、込めていないのが非売用だ。魔力を込めといた方が良いんじゃないか? そう思うかも知れない。あらかじめ、スペルカードに魔力を込めてしまうと、使用者の魔力は使用できない。スペルカード一枚に込められる魔力の総量なんて高が知れてる。魔力を持つ者の十分の一にも満たないだろう。だから魔力を持つ、一種の才能を持つ者ならば自分の魔力を使った方が長く使えて良いのだ。もっとも、疲れるから嫌だ。との理由で魔力を持つ者の中でもあらかじめ魔力が込められたものを使う輩もいるが。
「両方。あるだけちょうだい」
「一枚ずつしかないわ」
「ならそれで良いわ」
「会計十二万円で」
「ツケといて」
「払う気ないでしょ……」
 ぶつくさ言いながらも、ルーミアが引かないのを知っているフランは懐からスペルカードを取り出し、ルーミアに渡した。
「でも、それ、使い方が難しいわよ。だから……」
「フォーオブアカインド!」
 フランのせめてもの説明もろくすっぽ聞かずに、ルーミアはスペルカードを唱える。すると、白煙が沸き立ち、その白煙の中から三人の『ルーミア』が現れた。ルーミア本体と、三体の『ルーミア』
「ちょっときついわね。魔力の消費量、もうちょっとどうにかならなかったの」
「……それでもがんばったほうよ」
 話を聞かないルーミアに対し、どこから突っ込んで良いか考えた挙句、フランは説明するのをあきらめたようだった。
「販売用じゃ五分が限界よ」
 そのフランの言葉を、一度飲み込み、噛み砕き、唾を吹きかけるかのようにルーミアは言った。
「まぁそんなもんでしょうね。こんなスペカを、魔力が込められていない状態で一般人が使ったらどうなるのかしらね」
「るーみゃ!」
 言って良い皮肉と悪い皮肉がある。チルノは声を上げずには居られなかった。
「まぁ、すぐ虚脱に陥るわね……」うつむき、フランは唇をかみ締めた。
「おい」顔を真っ赤にしたレミリアがルーミアの胸倉を掴んだ。「わざと言っただろう?」
「その通りよ」苦しそうに顔をしかめながらも、ルーミアの両手は胸倉を掴むレミリアの手を掴んでいた。「罪悪感を覚えるってことはさ。フラン、このスペカ、いつも紫に作ってもらってるの?」
「そうよ……」
「て、ことは地下でやっぱり地下で作ってるのね。型は紫の下にもある。フランの専売スペカでありながらそうじゃないわね。いつ一般に販売されてもおかしくない」
 フランの専売商品であるはずのフォーオブアカインドの型が紫の元にある。そして、それは何時販売されてもおかしくない。
 この事実を予想した上で、フランの素の反応を引き出し、確認したのだ。
 強引な手段だ。
 レミリアもそれに気付き、ルーミアの胸倉から手を離す。
「フランの作ったスペカの型って、まさかほとんど……」
「紫も持ってるわ……」
 絞り出すような声だった。
「他の幹部もこんな感じで縛ってるんでしょうね」
 自分のスペルカードが人を犯しているとなれば、幹部にはさらに大きな責任が降りかかる。法律を人を縛る道具として使っている紫。人情を排除できているという意味では真の商人だ。けれどやはり好きになれない。人情、私情に流されたり、揺さぶられたりするのも悪いものではないはずなのだ。それで得れる成功だってある。
 けど――。一つだけ、チルノはひっかかりを覚えた。
 紫には、本当に情がない?
 生きている限り、そんなはずはない。けれど、紫ならばあり得る。相反する意見がチルノの中でせめぎ合う。結局、天使と悪魔が喧嘩を終えることはなかった。
 代わりに、ルーミアが強引にチルノを現実世界に引き戻す。
「さぁ、下準備に行くわよ。チルノ」
「え?」
 それは唐突で何の説明もないままに、ルーミアはチルノの手を掴み走り出した。分身の『ルーミア』も、一人はレミリア、一人はフランの手を掴み、行動を始めていた。チルノとフランを連れたルーミアと『ルーミア』は階上へ、レミリアの手を持った『ルーミア』と一人ぼっちの『ルーミア』は階下へ走り出す。
 有無を言わせない力がチルノを引っ張る。
「る、るーみゃ、どこに行くの?」
「ルーミア、フランになにかしたらただじゃすまないからな!」
 チルノの問いは下から響いてきたレミリアの声に打ち消された。レミリアは『ルーミア』の力に逆らうこともままならないのだろう。
 ルーミアに手を引かれ、つんのめりながらチルノは階段を上る。フランのほうは、不満気ながらもルーミアにおとなしくついて行っていた。
 一階のエントランスに出ると、ルーミアはさらに二手に別れた。フランを連れた『ルーミア』は受付に走り、ルーミアは更に階上を目指す。受付で射命丸文が騒ぎ立てているのが、一瞬だけ見えた。流動的に進む物事に抗いつつ、チルノはなんとか脳の一部を回転させた。
 フランを向かわせたのは、文をEXに入れさせるため?
「るーみゃ……。さすがに幽々子の情報を使うなんて……」
「しっ。言わない」
 新聞記者を呼んだのはレミリアだ。その意図は、言うまでもなくEXの犯罪を暴き、広めるためだ。妹を裁かれることを前提とした策だ。しかし、フランを助けるという約束をした今では新聞記者は必要ないのではないか。
 流石に……流石に犯罪性を突いた潰し方なんてしないよね?
 一瞬の不安も、またすぐに消えた。考える余裕がなくなった。脳から、酸素が奪われたためだ。
 三階まで来ると、チルノの足は悲鳴を上げ始めた。呼気も不規則に乱れ、肺がパンクしそうだ。
「るーみゃ、社長室ってどこに……?」
「最上階」
 だいたい予想はしていたが、ルーミアの言葉にチルノは絶望した。最上階が何階かはわからないが、外見から推測するとかなりの階数がある。このままでは最上階に行く前に倒れてしまう。
「ね、ねえ、エレベーター使わない?」
「……うーん、そうしようかしらね」
 ルーミアの額には、一筋の汗が流れていた。ルーミアはEXの構造を完全に理解しているのだろう。迷うことなく、エレベーターを見つけ出し、乗り込んだ。そして、最上階の三十階のボタンを押した。
 四角い箱の中には、チルノが酸素をむさぼる音と、エレベーターのモーター音だけが響く。
 じょじょに戻ってくる意識で、チルノは今起きたできごとをどう解釈するべきか考えた。少し下準備をしなければならない、とルーミアは言っていた。その下準備において、二手に別れる必要があるのだろうか。
「さて、どっちがマークされるかしらね」
 ルーミアがこんなことを呟くからには、関係があるのは確かだった。実質、二手に別れたルーミアと『ルーミア』、そして紅魔社員。ルーミアのたくらみは知らないが、はたして紫は対処できるだろうか。二手に別れた紅魔社員、およびフラン文を潰せるのだろうか。地下の『ルーミア』組には社員を向かわせるとしても、地下工場の犯罪性を理解した警備員でしか即時対応できないはずだ。チルノが行き来した限りでは、地下には警備員どころか社員すら居なかった。警備はパーティーのときのみなのだろう。はたして、即座に対処できるものが一体何人居るか。そして、こちらに関しては事情の知らないEX社員がほとんどの上層部に居る。対応できるものは皆無だろう。
 ルーミアのたくらみは、どんな展開を望んでいるのか。別れた紅魔派閥にどう対処するのか。
「来た。地下のレミリアと私を止めに来たわ」
 視覚を地下を行く分身と共有しているのだろう。どこか遠くを見るような視点でルーミアは告げる。これはルーミアの計画に沿って進んでるか否か。
「……あ」
 ふいにルーミアが声を上げる。地下で起こった何らかの出来事に対して声を上げたのかと思ったが、どうやら違うようだ。
「止まってない? このエレベーター」
「あ、そういえば」
 いつのまにかモーター音が身を隠していた。それに、エレベーターが上下する際に感じる独特の浮遊感がない。
「止められた」
 舌打ちをし、ルーミアは地を蹴った。壁の電光板は『23』で止まっている。ルーミアが最初からエレベーターに乗ろうとしなかった理由は、まさかこれだったのか。だが、それにしても無茶苦茶だ。他の社員が乗っているかもしれないエレベーターを止めるなんて。
 しかし、これで紫は二手を同時に止めることに成功したことになる。
「ご、ごめん……」
「良いのよ。決めたのは私だから」
 少しも責められないと、逆に肩身が狭い。
「どうしよう……」
「勿論、脱出するしかないでしょ」
 けれど、四角い箱の中に、脱出できるような道があるわけはない。
「これ、使って」
 ルーミアは一枚のスペルカードをチルノに渡してきた。
「これって、フォーオブアカインド?」
「そうよ。商品版のね。これなら楽に使えるわ。てなわけで、よろしく」
 よろしく、と言われてもチルノは使うのをついついためらってしまう。なにせ、一枚六万もするスペルカードなのだ。ほいほい使える額ではない。
「チルノ、早く!」
 それでもルーミアの要求に背を押され、チルノはスペルを読む。
「フォーオブアカインド!」
 一瞬、めまいに似た感覚がチルノを襲った。めまいのような感覚が治まった後に目に入ったのは、いつのまにか現れていた三人の『チルノ』だった。そして、不思議なことにその『チルノ』が見ている視覚情報もチルノの元に入ってきている。視界がテレビゲームのように四つの画面にわかれている。言うのは簡単だが、感覚としては非常に変だ。こればっかりは使った者にしかわからない。
 興味本位でチルノは一体の『チルノ』に歩みよる。ごちん、と鈍い音と共にチルノの目から火花が散った。『チルノ』もチルノに向かって歩き出していたのだ。
「意識しなきゃ、『チルノ』もチルノと同じ動きするわよ」
 他二体の『チルノ』も、ルーミアの忠告どおり、チルノが動いた分だけ前進していた。
 操作が難しい。フォーオブアカインドが売れない理由の一つだ。体感してから、チルノもその真の意味を理解した。フランも操作が難しいと言っていたが、まさかここまで難しいとは思わなかった。分身を一人動かしている間、本体を含め、他の分身を動かすことは無理だろう。
 ちょっと待ってよ……。
「るーみゃはこれ、さっきから使ってるの?」
「ええ、当然よ」
 さらりと言い切るルーミア。もしかしたら使ったことがあるのかもしれないが、それでもこのスペルカードを顔色一つ変えず、しかも三人同時に操作するなんて、常人にはまずできない。一体どんな脳構造しているのだろう。
 自分の思考がずれはじめているのに気付き、チルノは修正する。
「……で、これでどうすれば?」
「悪いけど土台になってちょうだい」
「土台?」
「ちょうど組み体操を組むように、ね」
 目的がよくわからないが、チルノはゆっくり、確実に『チルノ』を操作し、台を築く。操作していて『チルノ』の力は常人の何倍も強いことがわかった。一段目の土台に、立たせたまま『チルノ』を向かい合わせにし、両手を互いの肩に置かせる。二段目はチルノと、あまった『チルノ』で一段目を同じように組んだ。一段目が崩れることはない。チルノの下に居る『チルノ』には根を深く張った大木を土台にしているかのような安定感があった。
「いいよ、るーみゃ」
 チルノの声を合図に、ルーミアは『チルノ』に体重を預け、器用に登っていく。
「ごめん、チルノ。肩踏むわよ」
 チルノの肩と『チルノ』の肩にルーミアは片足ずつ乗せる。
「なにす……」
 そういって上を向いたチルノだが、すぐに顔を下ろした。ルーミアのスカートの中が丸見えだ。ドロワーズを穿いていたとはいえ、見るのは忍びない。頬が紅潮していくのを感じながら、チルノは下を向いたままもう一度尋ねた。
「なにするの?」
 返答の変わりに、ルーミアの足から一際強い力がチルノに伝わってきた。腹筋に力をこめ、チルノはこらえる。チルノと『チルノ』の意識を無視した為に、目の前の『チルノ』は今、チルノがしているであろう、歯を食いしばる表情にかわった。
 べこっと何かが抜ける音が天井でした。
「やっぱり開いたわ」
 ほこりの塊が地に落ちるのを逆らうかのようにゆっくりと落ちる。
「よっと」
 掛け声と共に、ルーミアの体重がチルノの肩から消えさる。上を見ると、天井が五十センチ四方に抜けていた。ぽかんと開いたチルノの口にほこりが舞い込む。あわててペッとつばごとほこりを吐いた。それから改めて天井を見る。
「エレベーターの天井って抜けるものなの!?」
「抜けるやつは抜ける設計になってるわね」
 そんなものなのだろうか。
「チルノも上がってきて」
「う、うん」
 二段目の『チルノ』の体をよじ登り、チルノは肩に乗った。普通なら首が折れかねないような力をチルノは『チルノ』にかけているのだが、びくともしない。本当に木の幹のようだ。若干抵抗はあったが、チルノは自分とまったく同じ顔をした『チルノ』の頭に足をかけ、天井に向かって跳んだ。が、上半身しか天井裏に到達できず、上半身のみ天井裏に乗せたまま下半身を宙に泳がせる羽目になった。
「な、中見ないでよ」
 ばたばたと足を動かしながら、そもそもチルノ自身であるのを忘れ、チルノは下に居る『チルノ』に注意する。
 顔を真っ赤にして頑張ってもチルノの下半身は天井裏には上がらなかった。見かねたルーミアに助けてもらい、チルノは天井裏、エレベーターの上に乗ることが出来たのだった。
 エレベーターの上に乗るのは人生初だ。チルノはまじまじと辺りを観察する。
 ほこりっぽい。それに暗い。エレベーターを吊るす為に上から垂れているワイヤーが何本も目に入った。ワイヤーはチルノが思っていたよりずっと細い。エレベーターが落ちてしまわないか心配になってきた。さっさと抜け出してしまいたい。一応、フロアへと続く扉はある。が、貝のように閉じてしまっていた。
「力で開くものじゃないよね……」
「いや、案外開くわよ。チルノ、分身呼んで」
「上って来れないよ?」
「跳んでみなさい」
 二段目に残っていた『チルノ』の足にぐっと力を込める。すると、体が羽根でできているかのように『チルノ』は跳んだ。軽々とエレベーターの上に着地したのだった。
「すごい身体能力……」
「これくらいの能力がないと消費魔力と釣り合わないわ」
 『チルノ』を操作し、扉の隙間に指を入れ、力を込める。すると、きしんだ音と共に外の光が差し込んできた。
「開いた!」
 そこでちょうどスペルカードの魔力上限が訪れたのだろう。分身の『チルノ』は煙に包まれ、消えていった。チルノの視界が四つに割られると言う不快な現象も解消された。『チルノ』が消えてから気付いたことが一つ。チルノの脳が妙にクリアになったことだ。知らず知らずのうちに脳に負担を強いていたのだろう。
 外の明るみに出ようとチルノは一歩踏み出した。が、平衡感覚を失い、少しふらついてしまった。脳への負担は予想以上だ。売れないわけだ。再三、この便利なスペルカードが売れない訳に、チルノは一人頷いた。
「さぁ、これからまた階段ね」
 外の光がルーミアの横顔を照らす。チルノは息を呑まずには居られなかった。ルーミアの顔が蒼白になっている。目の焦点も合っていない。
「るーみゃ大丈夫なの!?」
「まだ、まだもつわ」
 脳にかかる負担だけでも相当きつい。その上、ルーミアは自分自身の魔力も使用している。魔力を抜かれる感覚は、体内から血液を抜くような、エネルギーを食いつぶされるかのようだ。もっとも、慣れればそんなに感じないのだが、長時間使用すると本人が持っている魔力の総量うんぬんに関係なく、体に疲労が蓄積する。このままでは、ルーミアがスペルカードに食いつぶされてしまう。
「ねえ、まだスペカを使ってないといけないの?」
「後、少しよ」
 チルノの心配をよそに、ルーミアは走り出した。あわててチルノは後を追う。小枝のように簡単に折れてしまいそうなルーミアの体を追うのは、容易かった。それ故に、チルノはルーミアを止めることができない。ルーミアがこんなになるまで、やろうとしていることなのだ。止めれば、ルーミアの作戦に影響が及ぶのは必死だろう。
 二人が階段に差し掛かったときだった。
「うッ」
 階段を数段上ったところで、ルーミアが腹を抱えてうずくまってしまった。
「紫のやつ、スペカの分身であるのを良いことにみぞおちに思いっきりパンチを入れやがったわ」
 階段に倒れこみ、苦しそうに咳き込むルーミア。胃液のつんとした匂いがチルノの鼻を突く。あわてて、チルノはルーミアのに駆け寄った。
「あたいのときは痛覚の共有なんてなかったよ!?」
「非売品には、そういう、制限が、かけられて、ないんでしょうね」
 苦しそうにえずくルーミアの背中をさすりながら、チルノはスペルカードの使用を止める覚悟した。
「スペルを解除して!」
「後、少しなの。でも紫が邪魔だわ。チルノ。社長室に行ってちょうだい。そしたら紫も戻らずには居られないはず」
「でも、紫が邪魔ってことは、きっちり本命を抑えられてるってことでしょ!?」
「よくよく考えて。紫は上が抑えれたんだから、下に行くのは当然。紫は上を抑えれたからとりあえず下を抑えてるってだけよ。私の目的には気付いてない。だから、チルノが社長室に向かっているというのに気付けば、紫は向かわざるを得ないの」
「でも、紫が気づかなかったり……」
「それは私の分身からわざと伝えるわ。だから、チルノ!」
「わ、わかったよ……」
 もう頷くしかなかった。小刻みに震えるルーミアの背中から、チルノは手を離す。そして階段と向き合い、駆け出した。
 冷たい空気が鼻に溜まっていた胃液の匂いを洗い流す。脳に行き渡る血流が冷めてから、再び温まった。減っていく酸素のせいで思考が落ちていく。そんな脳に、不安だけが浮いていた。
 紫の部屋に行くといっても、紫にとって脅威にならなければ意味がない。警備が付いていたり、鍵をかけていたりしたらチルノが行ったところでなんの脅威にもならないだろう。鍵ならば、この際、こじ開けてしまえば良い。けれど、警備が居たら。
 いや、普通の会社には居ないはずだ。鍵程度だ。が、ここはEX……。叩けば埃が舞う会社だ。警備を付けていると見て良いんじゃないのか。
 EX社内を駆ける紅魔社員、チルノは道中の妨害も気にしていたのだが、一度もEX社員に会わずに最上階に到達する。
 EXの社長室を見つけたとき、チルノの不安は一抹に吹き飛んだ。
 漆塗りの光沢を放つドア。そのすぐそばに貼られたプレートには、責任者『八雲紫』と書かれていた。紫の派手好きを考えれば、随分と飾り気がないドアだ。
 そのドアの前には警備は居なかった。
 流石に少しいぶかりながらも、ドアに歩み寄る。なにか罠でも……? 
 そんなこと考えても仕方がなかった。
 重厚な雰囲気を放つドアのノブを回す。ドアは抵抗なくまわる。ドアを手前に引っ張った。ドアは抵抗なく開いた。
 ひんやりとした空気が廊下に溢れてくる。暖房はかかっていない。一歩、チルノは社長室に踏み入れた。
「え?」
 部屋に入った途端、転倒するような違和感を覚えた。チルノの頭が原因を認識するまでに数秒を要す。世界が逆さまになったような感覚を覚えたのは、天井が鏡で作られているからだ。地に整然と並べられた家具が、宙に浮いているように見えた。これが原因だ。
 上下の境界をなくしたような部屋だ。
 つねにトップに立ち続けてきたEX社、そしてEX社のトップに立ち続けてきた紫に、上下の境界をなくした部屋は、似ても似つかわしくない部屋だ。
 チルノを見下ろす、鏡の中に居るもう一人のチルノはきょろきょろと部屋を見渡した。
 名前が紫、とだけあり、部屋の壁紙は薄めの紫でまとめられていた。紫自体、あまり目に映える色ではないが、統一されているため、妖艶な魅力を醸し出している。そして、奇妙なことに天井に電灯はなく、壁にのみ設置されていた。天井には鏡があるから否応なくそうなるのだろう。
 そのほかはどこの会社にもあるような机、棚などをグレードアップさせたものが数点、それにチルノにとって価値が理解できない絵、彫刻が数点あるのみだった。
 この鏡の部屋の最奥には大窓がある。大窓は幻想区が見渡せるようになっており、天井の鏡が幻想区を喰らっている。
「あ……」
 その、大窓の手前に隙間が開いた。開いた隙間の空間から、無数の目玉がチルノを覗いている。そこから、ぬっと紫が這い出てきた。大窓の前に着地すると、隙間を閉じた。
 夢のチルノを見たのか、現のチルノを見たのか。とにかくチルノを認識したであろう紫は息を吐き、「そろそろかしらね」と呟いた。
 紫がここに来た。それはルーミアの紫をおびき出す、という作戦の成功を意味する。その部分に関しては、チルノはほっと息をつく。けれど同時に妙だと思ったのも確かだ。紫にはまったく動揺していない。
「ねぇチルノ」
 ふいに紫がチルノに話しかけた。チルノの内臓がきゅっと縮こまる。
「ルーミアは何をもってEXを潰そうとしてると思う?」
「あたいには……わからないよ」
 実際、チルノにはルーミアが何をしようとしているのかわからなかった。
「射命丸文とかいう新聞記者をあの地下に連れ込もうとしていたわ」
 知っている。ルーミアはロビーでフランを文の元に向かわせていた。
「つまりるーみゃは幽々子がもたらした情報をもってEXを潰そうとしてる。紫はそう言いたいんだね?」
「ええ、そうよ」
 満足気に紫は微笑んだ。チルノも『幽々子の情報で紫を潰そうとしているのではないか』と思い、ルーミアに尋ねた。そんなチルノの問いををルーミアは『しっ』で制したのだ。そのことに一抹の不安があるのは確かだった。けれど、今はそれを表に出すべきではない。
 幽々子の情報でEXを潰したら、フランを含む囚われた幹部もろとも吹き飛ばしてしまう。そんなこと、ルーミアがするはずがない。
「というか、そんなこと言うってあれ? 人質を取ってるぞって脅しをかけたいわけ?」
「いや、そうじゃないわ」
 そう言ってから、紫はわずかに首をかしげた。
「やっぱり脅しと変わらなかったわ。ええ。でも関係ないわね。地下の五人には全員お帰りしてもらったから」
「え!?」
「隙間で送り返したから、こっちに帰ってきたのよ。そしたらちょうどあなたが来てねえ」
 だとしたら、チルノが紫をおびき寄せたのではない。仕事が終わったから戻ってきただけなのだ。ルーミアが何をやろうとしていたが知らないが、細工をするために地下から紫をおびき出したがっていたのだ。細工をするための人がいなくなっては、意味がないのではなかろうか。
「その様子だと、地下でなにかしようとしてたみたいね。だとしたら失敗――」
 言葉が途切れる。チルノの背後で軽やかな足音が鳴った。
「ふふ、失敗ねえ」
「あら……いらっしゃい。ルーミア」
 黒縁の眼鏡をなでながら、ルーミアはチルノの一歩前に歩み出た。地下への進入に失敗したにも関わらず、ルーミアは余裕の表情だ。
「失敗なんてしてないわよ。さぁ、商談をしましょうよ」
 そんなルーミアの態度に、紫の顔に曇りが訪れた。
「商品は何かしら」
「EXの最後」
 不敵にもルーミアは笑ったのだった。


読んで下さってありがとうございます。
なんとか書ききれそうです。
晴れ空
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コメント



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4.80名前が無い程度の能力削除
このシリーズも長いけどブレないな。もう終盤なのか。次回も楽しみです
6.100ルミ海苔削除
次は楽しい楽しい駆け引きの時間ですね。