Halloween in the land of fantasy
※注意 前の作品を見てないと分からないギャグが微粒子レベルで存在しません。 僕はホモは嫌いです。
ここは、平和で平和でマハトマ・ガンジーすら『俺より強いヤツを探してくる』と旅にでる幻想郷。
もっと簡単に言えば、平和で平和で呆れるのだ。
そんな幻想郷では、平和で平和で暇すぎる為、どんな些細な行事さえも見逃さない。
そして、今年のハロウィンも、その例外とはならないのである。
今日は、その一部を貴方に、ご覧頂こう。
■ケース1、博麗霊夢と伊吹萃香の場合
「萃香、今日が何の日だか分かる?」
神社では、珍しく霊夢が目を輝かせて活発になっていた。
「10月31日っていうと第三次小泉改造内閣発足の日かい?」
「違うわよ。 今の国民の求めている行動と政治家の行動くらい違うわよ」
「じゃあなんだって言うんだい?」
「ハロウィンよ萃香。 H e l l o w e e n よ!」
一文字ずつ丁寧に、ヘロウィンのスペルを言った。
「スペルはH a l l o w e e nだよ霊夢」
一文字ずつ丁寧に、ハロウィンのスペルを言った。
「いやもう細かい事とかいいから、とりあえず私の話を聞きなさい」
「えーじゃあノットヒヤーオアサケ!」
そういって酒が沢山入っている瓢箪を、たぷたぷと鳴らしながら左腕で突き出した。
「後払いになるけど酒なら沢山飲ませてあげる。 そう、私達はハロウィンに全てを賭けるわ!」
「要するに乞食に走るって事だよね霊夢」
正論である。
「……まぁ、その、何よ。 潔く死ぬか醜く足掻いて生き延びるなら、私は後者を選ぶのよっ!」
「芋虫みたいな人間だね」
「唯一巫女とか神主とか、そういう宗教でメシ食おうとしたら全身紫の衣装の気持ち悪いまでに長い髪の毛とヒゲを生やして、
『さぁ、一緒に解脱しよう』とか、『不浄淫の戒を禁ずる』とか言ったり、解脱と称して淫乱な行為を強要したり、
挙句の果てには捕まってネットでは『糞虫』とか罵られ続けるしかないのよ!」
オウムである。 紛う事なきオウムである。
「そうかそうか、霊夢は鳥がそんなに好きなのかい」
「吐き気を催すほど嫌いよ。 それでよ、私達乞食どもは人里に行って、『トリックオアトリート』なんて言わないわ。
そして薄い本よろしく『お菓子をくれなきゃいたずらしちゃうぞ! ブヒヒ』なんていう輩にあんな事やこんな事をされるような事もないわ」
「じゃあなんなんだい?」
「私達は人里で『キルオアマネー』と言うわ」
「金をくれなきゃぶっ殺すぞ。 うん、すごい巫女らしい言葉だね霊夢」
萃香はこれ以上ないくらいの棒読みで、そう言った。
「ええ、金をくれなきゃ八大地獄を引きずり回してやるわ」
ちなみに、八大地獄は仏教である。
「でも霊夢、なんだか足りなくないかい?」
「足りない? どういう事かしら?」
「殺すだけじゃあダメだよ霊夢。 だって相手が『誇りを捨てるくらいなら』ってなったらおしまいだよ」
「凄い潔いわね」
「つまり、確実性を求めるなら――」
「「身ぐるみ置くか金を渡すか、どっちか選びなだよ」ね」
「それとアシが付いてもヤバイからいつもの服装じゃないのを着るわよ」
「そうだね、じゃあこの前道具屋から借りてきた服でも着ようよ」
萃香はそう言うと、奥にある戸棚から黒ずくめのスーツを取ってきた。
早々とスーツを身に纏った二人。 その姿を鏡で確認すると、何か足りない事に気づいた。
「……萃香、私達の武器って、お払い某と、瓢箪だけよ」
「うーん、インパクトにかけるねぇ。 なんだか『あ、すいません私どもズンテンドウの者なのですが、先日の企画についてのご相談を――』とか言いそうだね」
「それにこの服装じゃあ『身ぐるみ置くか金を渡すか』って感じじゃないわねぇ……」
「やっぱりここはビシっとサングラスをキメるべきじゃないかい? それとお払い某じゃなくて、なんかゴッツイ物を持つべきだよ」
「そうねぇ……サングラスはあるけど、ゴッツイ物と言えば……」
霊夢は少し考え込んだ後、ある事に気が付いた。
「あるわ」
「お、じゃあ早速それを持ってきてよ!」
――少女着替え中…
黒ずくめのスーツにイカしたサングラス。 凍るような無表情の女二人は銀色に輝くロケットランチャーほどの大きさの銃を構えていた。
「なんかメンインブラ〇クみたいな感じになってるわね」
「というか霊夢、これどっから手に入れたんだい?」
「ああ、月にいた時、神降ろしを見世物小屋の如く見せまくってた時期に、ギャラみたいなのでオーナーみたいな怖すぎるお姉さんから貰ったのよ」
「神を見世物にするんじゃないよ霊夢」
「まぁとりあえず、この姿で『身ぐるみ』はねぇ……」
「じゃあ『天国でママのおっぱいしゃぶるか、ブツを出すか選びな』なんてどうかね?」
「よし、それがいいわね! 早速人里に――」
その瞬間だった。 鏡から確認できた。 『霊夢たちの後ろに電車一つ通れそうなスキマが開いた』のが。
「……え? ちょ、ちょっとこれ……」
「ま、マズいよ霊夢……」
慌てふためく二人の見つめる鏡の中から、見慣れた紫ずくめの妖怪がこちらを見つめている。
「霊夢、萃香……天国でママのおっぱいしゃぶるか、地べたに芋虫のように這い蹲るか、どっちがいい?」
「……生憎育ちがいいもんで、おっぱいじゃなくてミルク飲んで、芋虫も生涯見たことないんでね、ハハハ、なぁ萃香?」
「そ、そうでぇ! 俺たちゃ生まれてこの方お坊ちゃんだ! スラム街のクズどもと一緒にするんじゃねぇ!」
「じゃあ、今からどっちも味あわせてあげる」
「ま、待てよ! そんなに焦るな。 世界が今すぐ終わるわけじゃないんだ……なぁ、俺のオヤジは慌てたら深呼吸しろって――」
「じゃあかしいわこのテロリストどもッ!」
ハリウッド映画よろしく、神社は電車によって派手にぶっ壊れた。
■ケース2、八雲紫(24)と八雲藍の場合
「ハロウィンって何よ」
紫は、悩んでいた。
「いや、祭日ぐらい普通に楽しみましょうよ紫様」
「いいや、納得いかないわ。 元々ハロウィンって、古代ヨーロッパ、ケルト人が秋の収穫を祝う他、死んでしまった人々を思う神聖な行事だったのよ。
それが何よ、霊夢なんかなんなのあの格好。 完全にメンインブラ〇クじゃないの。 ハロウィンに何をしでかそうとしたのよ。 第三次大戦開くんじゃないわよ」
「ん? 秋の収穫を祝う? ああ、だからカボチャをかぶるんですか?」
「いいえ、そういう意味もあるかもしれないけど、それはジャックオーランタンっていう、妖怪? まぁ亡霊ね。 それが元になっているの」
「亡霊? 幽々子様のご友人だったりしません?」
「ジャックオーランタンは生前悪魔を騙しまくってたのよ。 そのツケで、天国にも地獄にもいけないで、この世とあの世を往復しつづけるハメになっているの。
暗い道だから、『石炭の明かりを灯したカブ』を持たされて、ね。 幽々子の友人だったら食べられちゃってるわよ」
「ああ……ってカブ? なんでカブなんですか? カボチャじゃないんじゃぁ……」
「この童話は、アイルランド人の童話なんだけどね、そのアイルランド人がアメリカに渡ったときに、より提灯として優秀な、『カボチャ』を見つけたのが始まりと言われてるわ」
「へぇ~、そんな話があるんですね。 で、なんで悩んでいるんですか?」
「元々のその神聖な行事をアメ公やジャップどもが「トリックオアトリート」ってなにやってんのよって話よ」
「アメ公はスルーするとして、ジャップって自虐じゃないですか」
「うっさいわねジャップもジャックもジャンプも週間少年ジ〇ンプも変わりないのよ友情努力勝利なんてクソくらえよ金暴力セ――」
「それ以上いけない!」
「あ、いや、か、仮装についてはわかるのよ。 元々魔除けとして行われたのが仮装なの。 で、なんでそれで『トリックオアトリート』なのよ」
「な、なるほど、トリックオアトリートが意味不明で気に食わないと」
「そうよ、なんでお菓子なのよ。 ふざけんじゃないわよ。 トリックオアパンプキンならまだ分かるわよ。 なんでそこお菓子なのよ」
「あの、カボチャキャンディとか……ですかね?」
「その理論だったらカボチャガムって……意外とおいしそうじゃないの」
「いやちょっと感覚を理解しかねます」
「とりあえずね、ハロウィンにおいて『トリックオアトリート』という言葉に意味は全くないわ! ダメダメ極まりないわよ!
10月31日は神聖な秋の収穫祭なのよ!?」
「いえ、第三次小泉改造内閣発足の日です」
「なんでそうなるのよ」
「逆にですよ紫様。 小泉内閣の発足とかけて考えてください。
『政治はパンとサーカス』。 この言葉は、『サーカスオアパン』に置き換えられる。 つまり、『トリックはサーカス、トリートはパン』と置き換え、
この神聖な行事を汚しているのは小泉元総理なんですよ!」
「……ッ!」
藍はこれ以上ないドヤ顔である。 もうドヤ顔の神様がドヤ顔で逃げ出すくらいドヤ顔である。 しかし――
「ないわー……」
「ですよねぇ……」
「唯一なんで小泉元総理がそんな事する必要あるのよ。 わけがわからないわよ」
「いやその……甘党……とか?」
「いや、普通にないわ」
「もう、どっかの子供が適当にお菓子欲しくて『トリックオアトリート』って言ったのが始まりでいいんじゃないですか?」
「なんか切ないわね……」
「空は黒く染まり、町は明かりに包まれる。 町の外れ、ボロ布を纏って体育座りでブルブルと震える少年と少女……
秋の収穫祭の暖かな人々の明かりすら彼らには届かない。 彼らは兄と妹であり、兄は妹を養う為にここ数日何も食べていない。
妹は言う。 『ねぇ、お兄ちゃん、私はいいから、何かを食べて』
兄は言う。 『俺はいい。 ただ、お前がそこで笑っていてくれるなら』
兄には分かりきっていた。 妹がもう笑顔を浮かべるほどの気力がない事は。
兄は町に一人で降り、町の人々に『お菓子を、妹の好きなお菓子をください』とねだる。
それは、たった一人の妹の――」
「やめて! 欝になるからやめて!」
「まぁ、そういう事です。 もうこういう事でいいじゃないですか」
「うん、分かったわ。 お願いだから一人にさせて。 小一時間人生について考えたいわ……」
紫のハロウィンは、これ以上なく暗い物になりつつあった。
■ケース3,西行寺幽々子と魂魄妖夢の場合
「妖夢、パンプキンスープ」
「はい」
幽々子の前に、黄色とも肌色ともいえぬ、甘い香りを漂わせたスープが出される。
そのスープに入れられた、海に浮かぶ小島のような生クリームに、セルフィールが飾られ、甘いだけではなく、ハーブのようななんともいえない香りが漂う。
その甘みは口に入れた瞬間、あっという間に口中に広がり、甘みと共になんともいえぬ旨みすら感じさせる。
喉を通る時、スープは体の芯から体を温め、心まで優しくなるような、そんな幸福感に包まれるのだ。
――というスープを一口で平らげる幽々子。
「妖夢、カボチャの煮物」
「はい」
幽々子の前に、緑の皮があえて付いているままの、角切りにされたカボチャが出される。
甘い香りは、わざわざ顔を近づけずとも鼻から脳に伝わってくる。 そして、口に入れると、崩れるように甘さが口中に広がり、
あえて残しておいた皮付近の実は、少し固く、十分に歯ごたえを感じさせる、極上の料理である。
――という煮物を一口で平らげる幽々子。
「妖夢、カボチャの皮きんぴら」
「はい」
細かく刻まれた、かぼちゃの皮のきんぴらが積まれ、その上から胡麻が振りかけられている料理が出される。
臭いは伝わらずとも、その甘さは見るだけで十分に共感覚の如く脳に伝わり、これから味わうであろう濃い、限りなく濃い甘さを感じさせる。
口に運んだ時、その甘さは現実となり、頬が落ちる程の甘さのなか、胡麻の旨みが濃すぎる甘さを中和し、正に胡麻とかぼちゃのハーモニーである。
――という料理を、一口で平らげる幽々子。
「妖夢、カボチャパイ」
「……はい」
幽々子の前に、四角い一口サイズのパイが並べられた皿が置かれる。
そのパイは口に入れた瞬間から、ほんのりと漂う甘い香りが味覚を刺激する。 そしてサクっと歯を入れた瞬間に、それは口中に広まるのだ。
サクサクとしたパイ特有の食感が口を楽しませる他、生地に練り込まれたカボチャ以外に、中にある固形のカボチャが時折、少し固めの食感と、
生地からは味わえない濃い甘さを楽しませてくれるのだ。
――というパイを、一口で平らげる幽々子。
「妖夢、カボチャの――」
■ケース4、森近霖之助(女の子)と霧雨魔理沙の場合
「トリックオアトリート! お菓子をくれないとイタズラしちゃうぜ?」
扉がマスタースパークでぶち破られた。 突然、なんの前触れもなく。
道具屋の主人、森近霖之助は唖然としてしまい、持っていたカラス天狗が配っていた新聞を手から滑らせた。
「ま、魔理沙……な、なんて事を……」
もう取り返しの付かないほどのトリックをしておきながらこの霧雨魔理沙はそれでもなお『トリックオアトリート』と半壊した道具屋に恐喝するのだ。
裁判になったら『ついカッとなってやった。 反省している』とか言いそうなまでに『私は何も悪くない』という顔をしながら。
「いいからなんかお菓子をよこせよ香霖!」
「……お菓子なんてあるわけないじゃないか!」
正論である。 というかあっても多分恋の魔法(物理)で蒸発しているのだから。
「オイオイそりゃないぜ香霖! じゃあもう何か価値のある物オアトリートでいいよ」
霖之助はもう何もいえなかった。 このままではトリック(物理的破壊)によって道具屋が経営不可能、起訴不可避になってしまう。
とりあえずここは何か適当に選ばせておこうと考えた。
「全く……じゃあ適当に好きな物選んでくれ」
「お、じゃあこのホコリまみれの剣を貰うとするぜ! ってなんか見覚えあるなこれ。 なんだっけ?」
霖之助は魔理沙の持っている剣を見る。 そして、その道具が何かを思い出した。
「ああ、それは草薙の剣――あ」
完全に口が滑った。 霧雨の剣と言うべきだった。 完全に今、『草薙の剣』と発声してしまった。
「ちちち、違うんだ魔理沙! こ、これは――」
「くさなぎのつよし?」
「その人の幻想入りはまだ早い!」
完全に聞こえていなかった。
「ええ? じゃあくさなぎのつよぽんか?」
「その人から離れろ魔理沙。 それは『霧雨の剣』だったろ?」
「え? そうか? 覚えていないんだぜ?」
「全く……自分で拾ってきた物くらいキチンと覚えておいた方がいいぞ?」
「まぁそれはどうでもいいとして、せっかくだから私はこの草薙のつよしを貰っていくぜ!」
「だから違う! それは草薙のつる……あ、いや違う」
「ん? 違うって事はこれは草薙のつよしで合っているって事なんだな?」
もうなんだか面倒になってしまった。
「もう草薙のつよしでいいから……もう持ってかえってくれ」
「待てよ香霖! 私が腑に落ちないんだぜ! 『いいから』ってなんなんだぜ?」
「いや、もういいからさ……」
「ハッキリと言うんだぜ! この剣の名前はなんなんだぜ!?」
「あーもー! それは草薙のつよしっていう剣だよ魔理沙!」
完全にヤケクソである。
「草薙のつよしでいいんだな!?」
「草薙のつよしでいいんだよ!」
「よぉしじゃあ私はこの草薙つ〇しを貰って――」
「『の』を抜いちゃダメだ! 呪われるから!」
「分かったぜ香霖! 私はこの草薙のつよしを貰っていくぜ!」
「よぉぉおし魔理沙! 僕はこの草薙のつよしを君に渡すからなッ!」
「おう! ありがとうよ香霖! 私はこの剣一本で満足なんだぜッ!」
「ああ! 草薙のつよし一本で満足なら草薙のつよしも喜ぶだろうッ!」
「よし! じゃあ私は帰るとするぜ! って香霖? 私の箒を知らないか?」
「……え? 魔理沙が持ってるんじゃないか?」
「いや、そういえばこっちに着いた時に、近くをうろついていたチルノがいたから、香霖堂のドアにホウキをかけておいて、チルノを案内してやった――」
「マスタースパークする時に箒をどかしたか?」
「……どかしてないんだぜ」
霖之助も、これには絶句である。
「……とりあえず今日の所は草薙のつよしを鞘に入れて、それに跨って帰ったらどうだ?」
「お、ナイスアイディアなんだぜ香霖! じゃあ今度こそ私はサラバなんだぜ!」
「うん、よかった。 じゃあもう早く帰ってくれ。 僕はこの道具屋の再建でこれから忙しくなるんだ」
「おう! 再建頑張れよ! では香霖、サラダバー!」
他人事のようにそういうと、魔理沙は草薙のつよしに跨って勢い良く空を飛んで行った。
「……とりあえず、木を切って材木を集めるとするか……」
霖之助の戦いは、これからである。
※注意 前の作品を見てないと分からないギャグが微粒子レベルで存在しません。 僕はホモは嫌いです。
ここは、平和で平和でマハトマ・ガンジーすら『俺より強いヤツを探してくる』と旅にでる幻想郷。
もっと簡単に言えば、平和で平和で呆れるのだ。
そんな幻想郷では、平和で平和で暇すぎる為、どんな些細な行事さえも見逃さない。
そして、今年のハロウィンも、その例外とはならないのである。
今日は、その一部を貴方に、ご覧頂こう。
■ケース1、博麗霊夢と伊吹萃香の場合
「萃香、今日が何の日だか分かる?」
神社では、珍しく霊夢が目を輝かせて活発になっていた。
「10月31日っていうと第三次小泉改造内閣発足の日かい?」
「違うわよ。 今の国民の求めている行動と政治家の行動くらい違うわよ」
「じゃあなんだって言うんだい?」
「ハロウィンよ萃香。 H e l l o w e e n よ!」
一文字ずつ丁寧に、ヘロウィンのスペルを言った。
「スペルはH a l l o w e e nだよ霊夢」
一文字ずつ丁寧に、ハロウィンのスペルを言った。
「いやもう細かい事とかいいから、とりあえず私の話を聞きなさい」
「えーじゃあノットヒヤーオアサケ!」
そういって酒が沢山入っている瓢箪を、たぷたぷと鳴らしながら左腕で突き出した。
「後払いになるけど酒なら沢山飲ませてあげる。 そう、私達はハロウィンに全てを賭けるわ!」
「要するに乞食に走るって事だよね霊夢」
正論である。
「……まぁ、その、何よ。 潔く死ぬか醜く足掻いて生き延びるなら、私は後者を選ぶのよっ!」
「芋虫みたいな人間だね」
「唯一巫女とか神主とか、そういう宗教でメシ食おうとしたら全身紫の衣装の気持ち悪いまでに長い髪の毛とヒゲを生やして、
『さぁ、一緒に解脱しよう』とか、『不浄淫の戒を禁ずる』とか言ったり、解脱と称して淫乱な行為を強要したり、
挙句の果てには捕まってネットでは『糞虫』とか罵られ続けるしかないのよ!」
オウムである。 紛う事なきオウムである。
「そうかそうか、霊夢は鳥がそんなに好きなのかい」
「吐き気を催すほど嫌いよ。 それでよ、私達乞食どもは人里に行って、『トリックオアトリート』なんて言わないわ。
そして薄い本よろしく『お菓子をくれなきゃいたずらしちゃうぞ! ブヒヒ』なんていう輩にあんな事やこんな事をされるような事もないわ」
「じゃあなんなんだい?」
「私達は人里で『キルオアマネー』と言うわ」
「金をくれなきゃぶっ殺すぞ。 うん、すごい巫女らしい言葉だね霊夢」
萃香はこれ以上ないくらいの棒読みで、そう言った。
「ええ、金をくれなきゃ八大地獄を引きずり回してやるわ」
ちなみに、八大地獄は仏教である。
「でも霊夢、なんだか足りなくないかい?」
「足りない? どういう事かしら?」
「殺すだけじゃあダメだよ霊夢。 だって相手が『誇りを捨てるくらいなら』ってなったらおしまいだよ」
「凄い潔いわね」
「つまり、確実性を求めるなら――」
「「身ぐるみ置くか金を渡すか、どっちか選びなだよ」ね」
「それとアシが付いてもヤバイからいつもの服装じゃないのを着るわよ」
「そうだね、じゃあこの前道具屋から借りてきた服でも着ようよ」
萃香はそう言うと、奥にある戸棚から黒ずくめのスーツを取ってきた。
早々とスーツを身に纏った二人。 その姿を鏡で確認すると、何か足りない事に気づいた。
「……萃香、私達の武器って、お払い某と、瓢箪だけよ」
「うーん、インパクトにかけるねぇ。 なんだか『あ、すいません私どもズンテンドウの者なのですが、先日の企画についてのご相談を――』とか言いそうだね」
「それにこの服装じゃあ『身ぐるみ置くか金を渡すか』って感じじゃないわねぇ……」
「やっぱりここはビシっとサングラスをキメるべきじゃないかい? それとお払い某じゃなくて、なんかゴッツイ物を持つべきだよ」
「そうねぇ……サングラスはあるけど、ゴッツイ物と言えば……」
霊夢は少し考え込んだ後、ある事に気が付いた。
「あるわ」
「お、じゃあ早速それを持ってきてよ!」
――少女着替え中…
黒ずくめのスーツにイカしたサングラス。 凍るような無表情の女二人は銀色に輝くロケットランチャーほどの大きさの銃を構えていた。
「なんかメンインブラ〇クみたいな感じになってるわね」
「というか霊夢、これどっから手に入れたんだい?」
「ああ、月にいた時、神降ろしを見世物小屋の如く見せまくってた時期に、ギャラみたいなのでオーナーみたいな怖すぎるお姉さんから貰ったのよ」
「神を見世物にするんじゃないよ霊夢」
「まぁとりあえず、この姿で『身ぐるみ』はねぇ……」
「じゃあ『天国でママのおっぱいしゃぶるか、ブツを出すか選びな』なんてどうかね?」
「よし、それがいいわね! 早速人里に――」
その瞬間だった。 鏡から確認できた。 『霊夢たちの後ろに電車一つ通れそうなスキマが開いた』のが。
「……え? ちょ、ちょっとこれ……」
「ま、マズいよ霊夢……」
慌てふためく二人の見つめる鏡の中から、見慣れた紫ずくめの妖怪がこちらを見つめている。
「霊夢、萃香……天国でママのおっぱいしゃぶるか、地べたに芋虫のように這い蹲るか、どっちがいい?」
「……生憎育ちがいいもんで、おっぱいじゃなくてミルク飲んで、芋虫も生涯見たことないんでね、ハハハ、なぁ萃香?」
「そ、そうでぇ! 俺たちゃ生まれてこの方お坊ちゃんだ! スラム街のクズどもと一緒にするんじゃねぇ!」
「じゃあ、今からどっちも味あわせてあげる」
「ま、待てよ! そんなに焦るな。 世界が今すぐ終わるわけじゃないんだ……なぁ、俺のオヤジは慌てたら深呼吸しろって――」
「じゃあかしいわこのテロリストどもッ!」
ハリウッド映画よろしく、神社は電車によって派手にぶっ壊れた。
■ケース2、八雲紫(24)と八雲藍の場合
「ハロウィンって何よ」
紫は、悩んでいた。
「いや、祭日ぐらい普通に楽しみましょうよ紫様」
「いいや、納得いかないわ。 元々ハロウィンって、古代ヨーロッパ、ケルト人が秋の収穫を祝う他、死んでしまった人々を思う神聖な行事だったのよ。
それが何よ、霊夢なんかなんなのあの格好。 完全にメンインブラ〇クじゃないの。 ハロウィンに何をしでかそうとしたのよ。 第三次大戦開くんじゃないわよ」
「ん? 秋の収穫を祝う? ああ、だからカボチャをかぶるんですか?」
「いいえ、そういう意味もあるかもしれないけど、それはジャックオーランタンっていう、妖怪? まぁ亡霊ね。 それが元になっているの」
「亡霊? 幽々子様のご友人だったりしません?」
「ジャックオーランタンは生前悪魔を騙しまくってたのよ。 そのツケで、天国にも地獄にもいけないで、この世とあの世を往復しつづけるハメになっているの。
暗い道だから、『石炭の明かりを灯したカブ』を持たされて、ね。 幽々子の友人だったら食べられちゃってるわよ」
「ああ……ってカブ? なんでカブなんですか? カボチャじゃないんじゃぁ……」
「この童話は、アイルランド人の童話なんだけどね、そのアイルランド人がアメリカに渡ったときに、より提灯として優秀な、『カボチャ』を見つけたのが始まりと言われてるわ」
「へぇ~、そんな話があるんですね。 で、なんで悩んでいるんですか?」
「元々のその神聖な行事をアメ公やジャップどもが「トリックオアトリート」ってなにやってんのよって話よ」
「アメ公はスルーするとして、ジャップって自虐じゃないですか」
「うっさいわねジャップもジャックもジャンプも週間少年ジ〇ンプも変わりないのよ友情努力勝利なんてクソくらえよ金暴力セ――」
「それ以上いけない!」
「あ、いや、か、仮装についてはわかるのよ。 元々魔除けとして行われたのが仮装なの。 で、なんでそれで『トリックオアトリート』なのよ」
「な、なるほど、トリックオアトリートが意味不明で気に食わないと」
「そうよ、なんでお菓子なのよ。 ふざけんじゃないわよ。 トリックオアパンプキンならまだ分かるわよ。 なんでそこお菓子なのよ」
「あの、カボチャキャンディとか……ですかね?」
「その理論だったらカボチャガムって……意外とおいしそうじゃないの」
「いやちょっと感覚を理解しかねます」
「とりあえずね、ハロウィンにおいて『トリックオアトリート』という言葉に意味は全くないわ! ダメダメ極まりないわよ!
10月31日は神聖な秋の収穫祭なのよ!?」
「いえ、第三次小泉改造内閣発足の日です」
「なんでそうなるのよ」
「逆にですよ紫様。 小泉内閣の発足とかけて考えてください。
『政治はパンとサーカス』。 この言葉は、『サーカスオアパン』に置き換えられる。 つまり、『トリックはサーカス、トリートはパン』と置き換え、
この神聖な行事を汚しているのは小泉元総理なんですよ!」
「……ッ!」
藍はこれ以上ないドヤ顔である。 もうドヤ顔の神様がドヤ顔で逃げ出すくらいドヤ顔である。 しかし――
「ないわー……」
「ですよねぇ……」
「唯一なんで小泉元総理がそんな事する必要あるのよ。 わけがわからないわよ」
「いやその……甘党……とか?」
「いや、普通にないわ」
「もう、どっかの子供が適当にお菓子欲しくて『トリックオアトリート』って言ったのが始まりでいいんじゃないですか?」
「なんか切ないわね……」
「空は黒く染まり、町は明かりに包まれる。 町の外れ、ボロ布を纏って体育座りでブルブルと震える少年と少女……
秋の収穫祭の暖かな人々の明かりすら彼らには届かない。 彼らは兄と妹であり、兄は妹を養う為にここ数日何も食べていない。
妹は言う。 『ねぇ、お兄ちゃん、私はいいから、何かを食べて』
兄は言う。 『俺はいい。 ただ、お前がそこで笑っていてくれるなら』
兄には分かりきっていた。 妹がもう笑顔を浮かべるほどの気力がない事は。
兄は町に一人で降り、町の人々に『お菓子を、妹の好きなお菓子をください』とねだる。
それは、たった一人の妹の――」
「やめて! 欝になるからやめて!」
「まぁ、そういう事です。 もうこういう事でいいじゃないですか」
「うん、分かったわ。 お願いだから一人にさせて。 小一時間人生について考えたいわ……」
紫のハロウィンは、これ以上なく暗い物になりつつあった。
■ケース3,西行寺幽々子と魂魄妖夢の場合
「妖夢、パンプキンスープ」
「はい」
幽々子の前に、黄色とも肌色ともいえぬ、甘い香りを漂わせたスープが出される。
そのスープに入れられた、海に浮かぶ小島のような生クリームに、セルフィールが飾られ、甘いだけではなく、ハーブのようななんともいえない香りが漂う。
その甘みは口に入れた瞬間、あっという間に口中に広がり、甘みと共になんともいえぬ旨みすら感じさせる。
喉を通る時、スープは体の芯から体を温め、心まで優しくなるような、そんな幸福感に包まれるのだ。
――というスープを一口で平らげる幽々子。
「妖夢、カボチャの煮物」
「はい」
幽々子の前に、緑の皮があえて付いているままの、角切りにされたカボチャが出される。
甘い香りは、わざわざ顔を近づけずとも鼻から脳に伝わってくる。 そして、口に入れると、崩れるように甘さが口中に広がり、
あえて残しておいた皮付近の実は、少し固く、十分に歯ごたえを感じさせる、極上の料理である。
――という煮物を一口で平らげる幽々子。
「妖夢、カボチャの皮きんぴら」
「はい」
細かく刻まれた、かぼちゃの皮のきんぴらが積まれ、その上から胡麻が振りかけられている料理が出される。
臭いは伝わらずとも、その甘さは見るだけで十分に共感覚の如く脳に伝わり、これから味わうであろう濃い、限りなく濃い甘さを感じさせる。
口に運んだ時、その甘さは現実となり、頬が落ちる程の甘さのなか、胡麻の旨みが濃すぎる甘さを中和し、正に胡麻とかぼちゃのハーモニーである。
――という料理を、一口で平らげる幽々子。
「妖夢、カボチャパイ」
「……はい」
幽々子の前に、四角い一口サイズのパイが並べられた皿が置かれる。
そのパイは口に入れた瞬間から、ほんのりと漂う甘い香りが味覚を刺激する。 そしてサクっと歯を入れた瞬間に、それは口中に広まるのだ。
サクサクとしたパイ特有の食感が口を楽しませる他、生地に練り込まれたカボチャ以外に、中にある固形のカボチャが時折、少し固めの食感と、
生地からは味わえない濃い甘さを楽しませてくれるのだ。
――というパイを、一口で平らげる幽々子。
「妖夢、カボチャの――」
■ケース4、森近霖之助(女の子)と霧雨魔理沙の場合
「トリックオアトリート! お菓子をくれないとイタズラしちゃうぜ?」
扉がマスタースパークでぶち破られた。 突然、なんの前触れもなく。
道具屋の主人、森近霖之助は唖然としてしまい、持っていたカラス天狗が配っていた新聞を手から滑らせた。
「ま、魔理沙……な、なんて事を……」
もう取り返しの付かないほどのトリックをしておきながらこの霧雨魔理沙はそれでもなお『トリックオアトリート』と半壊した道具屋に恐喝するのだ。
裁判になったら『ついカッとなってやった。 反省している』とか言いそうなまでに『私は何も悪くない』という顔をしながら。
「いいからなんかお菓子をよこせよ香霖!」
「……お菓子なんてあるわけないじゃないか!」
正論である。 というかあっても多分恋の魔法(物理)で蒸発しているのだから。
「オイオイそりゃないぜ香霖! じゃあもう何か価値のある物オアトリートでいいよ」
霖之助はもう何もいえなかった。 このままではトリック(物理的破壊)によって道具屋が経営不可能、起訴不可避になってしまう。
とりあえずここは何か適当に選ばせておこうと考えた。
「全く……じゃあ適当に好きな物選んでくれ」
「お、じゃあこのホコリまみれの剣を貰うとするぜ! ってなんか見覚えあるなこれ。 なんだっけ?」
霖之助は魔理沙の持っている剣を見る。 そして、その道具が何かを思い出した。
「ああ、それは草薙の剣――あ」
完全に口が滑った。 霧雨の剣と言うべきだった。 完全に今、『草薙の剣』と発声してしまった。
「ちちち、違うんだ魔理沙! こ、これは――」
「くさなぎのつよし?」
「その人の幻想入りはまだ早い!」
完全に聞こえていなかった。
「ええ? じゃあくさなぎのつよぽんか?」
「その人から離れろ魔理沙。 それは『霧雨の剣』だったろ?」
「え? そうか? 覚えていないんだぜ?」
「全く……自分で拾ってきた物くらいキチンと覚えておいた方がいいぞ?」
「まぁそれはどうでもいいとして、せっかくだから私はこの草薙のつよしを貰っていくぜ!」
「だから違う! それは草薙のつる……あ、いや違う」
「ん? 違うって事はこれは草薙のつよしで合っているって事なんだな?」
もうなんだか面倒になってしまった。
「もう草薙のつよしでいいから……もう持ってかえってくれ」
「待てよ香霖! 私が腑に落ちないんだぜ! 『いいから』ってなんなんだぜ?」
「いや、もういいからさ……」
「ハッキリと言うんだぜ! この剣の名前はなんなんだぜ!?」
「あーもー! それは草薙のつよしっていう剣だよ魔理沙!」
完全にヤケクソである。
「草薙のつよしでいいんだな!?」
「草薙のつよしでいいんだよ!」
「よぉしじゃあ私はこの草薙つ〇しを貰って――」
「『の』を抜いちゃダメだ! 呪われるから!」
「分かったぜ香霖! 私はこの草薙のつよしを貰っていくぜ!」
「よぉぉおし魔理沙! 僕はこの草薙のつよしを君に渡すからなッ!」
「おう! ありがとうよ香霖! 私はこの剣一本で満足なんだぜッ!」
「ああ! 草薙のつよし一本で満足なら草薙のつよしも喜ぶだろうッ!」
「よし! じゃあ私は帰るとするぜ! って香霖? 私の箒を知らないか?」
「……え? 魔理沙が持ってるんじゃないか?」
「いや、そういえばこっちに着いた時に、近くをうろついていたチルノがいたから、香霖堂のドアにホウキをかけておいて、チルノを案内してやった――」
「マスタースパークする時に箒をどかしたか?」
「……どかしてないんだぜ」
霖之助も、これには絶句である。
「……とりあえず今日の所は草薙のつよしを鞘に入れて、それに跨って帰ったらどうだ?」
「お、ナイスアイディアなんだぜ香霖! じゃあ今度こそ私はサラバなんだぜ!」
「うん、よかった。 じゃあもう早く帰ってくれ。 僕はこの道具屋の再建でこれから忙しくなるんだ」
「おう! 再建頑張れよ! では香霖、サラダバー!」
他人事のようにそういうと、魔理沙は草薙のつよしに跨って勢い良く空を飛んで行った。
「……とりあえず、木を切って材木を集めるとするか……」
霖之助の戦いは、これからである。