とてもとても気持ちよく晴れわたった、ある夏の日のことです。
湖の妖精であるチルノさんは、同じく湖の妖精である大妖精さんや他の数人のおともだちといっしょに、にんげんの里を訪れていました。
いつもだったら悪戯をするために来る場所だけれど、今日はちがいます。
たまたま湖の近くを通りがかった人間をおどかそうと思いきり冷たい風をびゅんびゅんと吹かせてやったら、
なぜだかそのおじさんにたいそう喜ばれてしまって、さらになんと、お小遣いまでもらってしまったのです。
それじゃあ、人間の里に、お菓子を買いに行こう!
怒られる心配なく堂々と里を歩きまわるだけだって、妖精のみんなには滅多にない大冒険。
お店に並ぶ可愛らしいお菓子たちも、甘い甘いその味も、もう何もかもが楽しすぎて、
とうとうはしゃぐこともできずに泣き出してしまうお友達までいたくらいでした。
そうしてチルノさんやお友達が最高のひとときを満喫していると、ふと通りの向こうから歩いてくる人影がありました。
桜色の羽衣をふわふわと身に纏わせた、龍宮の使いの衣玖さんです。
チルノさんたちのことに気がついた衣玖さんは、その珍しい光景に少しの間だけ不思議そうな顔をしましたが、
しかしみんなの楽しそうな様子を見て、にっこりと優しく微笑みました。
さっきまでお菓子に夢中になっていた大さんや妖精のお友達も、その羽衣の赤いフリルがたいそう美しかったものですから、
思わず、ほう、とため息をついて見とれてしまいます。
すると、みんなの視線を向けられた衣玖さんは、もっともっと優しい微笑みを浮かべると、
その場でくるりと一回転、キュピーンとポーズをきめました。
そのポーズもとても素敵で格好よかったので、大さんもお友達も、ぱちぱちと拍手をしておおよろこびです。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
しかし――そんな中、チルノさんだけはむっとした表情を見せていた。
なぜならチルノさんは、衣玖さんのあの一見軽やかなポーズから、数々の恐るべき攻撃が繰り出されることをよく知っていたからだ。
むむむ、油断のならない妖怪め。みんなのことは、あたいが守ってみせる。
強い使命感に駆られ、チルノさんは皆の前に飛び出した。
衣玖さんのそれに負けぬよう勢いをつけてくるくる回ると、一瞬で手の内に作り出した氷剣を天高く掲げる。
「こんな奴より、あたいの方がずっとカッコイイのよ!」
巻き起こる冷気が真夏の熱気を蹴り飛ばし、戦いの幕開けを宣言する。
最初にポーズを決めた瞬間からプロフェッショナルな澄まし顔になっていた衣玖さんの顔に、もう一度優しい微笑みが浮かんだ。
ふわり。チルノさんの横をさっと撫でぬけた風が、羽衣の周りに収束する。
大さんやお友達の皆があっと息を呑んだ、その目前で――
キュピンキュピーン。二連続の舞が、真っ直ぐに天上を指差した。
マーベラス。いつの間にか周囲に出来上がっていた人だかりから、驚きと賞賛の声が沸き起こる。
水を得た魚の如きその流麗な動きに、さしものチルノさんも「うぐぐ」と唸り声を上げるしかない。
しかし、それでも、チルノさんは負けるわけにはいかなかった。
この場で衣玖さんに対抗できる力を持っているのは、自分しかいない。
もし自分が負けたら、皆が――皆が、あの羽衣で手篭めにされてしまう。
「させるもんか……させるもんか!」
チルノさんは、回った。力の限り回転し、力の限り剣を掲げた。
身体に触れる空気中の水分がたちまち凍り、夏の日差しにきらめき輝く。
どうだ、参ったか。おまえの力では、こんな風にはきらきらできまい。
勝利を確信したチルノさんの顔に、不敵な笑みが浮かぶ。
だが次の瞬間、その大きな瞳は、驚愕とともに見開かれていた。
衣玖さんが――きらきらと、輝いている。
必殺の気合をもって繰り出されたはずの自らの輝きは、舞い狂う風に儚く飲まれ、
あろうことか、敵の姿を――その素敵ポーズを、より一層引き立ててしまっていた。
それだけではない。チルノさんには知る由もなかったが、
衣玖さんはこの時、周辺の気圧と空気の流れを全力で読んでいた。
自らが舞とともに巻き起こす風だけではなく、常人では気づかぬほどの細やかな気圧操作を広域に加えることで、
チルノさんから放たれる強力な冷気を的確に拡散させる。
完璧にコントロールされたその気流はたちまち周囲の家屋の隅々まで入り込み、
衣玖さんを中心とした半径およそ113メートル内の地表気温を、
平均にして24℃、湿度45%――エアコン要らずの快適空間に変貌させていた。
無論その間、舞い踊る衣玖さんの顔には欠片ほどの表情も現れていない。
そこにあるのは、ただ、プロフェッショナリズムの体現たる澄まし顔のみ。
キュッ…ピィィーン。
ひときわ軽やかに繰り出されたそれは、決着を示す一撃。
響き渡る大歓声が、勝利と敗者をはっきりと、残酷に隔て分ける。
荒ぶる龍宮の舞に、情け容赦の入り込む余地は、無かった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
からん。
冷たい音を立てて、氷の剣が地に落ちる。完敗、いや惨敗だった。
敵を上回るどころか、自らの繰り出した何もかもが、相手を引き立てる清涼剤にしかならなかった。
悔しさにぎゅっと拳を握りしめ、硬く目をつぶる。
泣くもんか。泣いたりだけは、するもんか。
決闘に禍根を残さぬのは、幻想郷に生きるものの責務だから。
「頑張りましたね」
いつの間にかキュピーンを終えていた衣玖さんが、目の前に立っている。
これで、勝ったと思うなよ。せめて一太刀、言葉だけでもと相手を睨みつけたチルノさんの身体が、ふわりと羽衣に抱かれた。
「御覧なさい? みんな、あんなに喜んで」
子ども扱い、するな。
そのまま抱き上げられるのに反抗しようとしたが、高くなった視点に飛び込んできたものに、それを忘れる。
「チルノちゃん!」 「いいぞー!」 「素敵だったよ!」 「見えた!」
大さんが、お友達の皆が、そして名前も知らぬ里の人々が――そこにいた全ての者たちが、チルノさんを祝福していた。
「これも、貴女の力です」
小さな身体がひょいと持ち上げられると、周囲から一層大きな歓声が上がる。
間近にある衣玖さんの顔は、本当に優しく微笑んでいた。
でも、まだ胸の中には悔しさが残っていたから、いつものように「あたいったらやっぱり最強!」とは言えなくて。
チルノさんは、衣玖さんの胸元に少しだけ顔をうずめて、小さく頷いた。
冷たく熱い氷精の周りは、今、涼やかで暖かい空気に包まれていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「そこまでです!」
だが、その空気は突然に失われた。
人だかりの後方から投げられた、若い女の声。
何事かとざわめく人垣をさっと飛び越え、声の主が二人の前に着地する。
「あら、貴女は……山の神社の巫女?」
「巫女ではなく風祝です! 守矢神社が一柱、東風谷の早苗ここに見参!」
ふふんと胸を張り、女は高らかに名乗りを上げる。
人間の基準ですらまだ子供の齢だと話に聞くが、それとは釣り合わぬ尊大な態度。
チルノさんも、この早苗さんなる巫女もどきのことは幾らか知っていた。
「この真夏の真昼間に妖怪クーラーで人々の信心を買おうとは、敵ながら見事な作戦です! すごい涼しかった!」
「……はい?」
何かにつけて信仰信仰と、神を押し売って回っている傍迷惑な女だ。
巫女らしいことを全くせずにただ狼藉を働くばかりの紅白巫女よりはまだ正しいのかも知れぬが、
どのみち人間以外には気まぐれに襲い掛かってくるのだから、区別はない。
「けども、この私が来たからには! その目論見もここまでね!」
どうせ此度も、怪しげな術で人々の歓心を引き、それを信仰だと嘯くのだ。
どこまでも得意気な顔の早苗さんをぐっと睨みつけ、チルノさんは舌噛みする。
ここが、人里の真ん中でなければ。そして自分が、一人でいたならば。
すぐにでも、この不遜な巫女もどきを叩き伏せてしまえるのに。
「貴女方の力を上回る奇跡で、皆さんを涼ませて差しあげましょう! そして信仰もまるっと頂戴致します!」
「……何の話……?」
しかし今、チルノさんの背後には、守るべき友がいる。
何事かと目を見張り、早苗さんの脅迫に怯え、身を寄せ合っている友らが。
いつ見境のない攻撃を仕掛けてくるか分からぬ相手に、迂闊な行動は取れない。
(どうする。先に仕掛けて皆を逃がすか?)
そう、何よりもまずは友の安全を確保せねばならぬ。
幸いにして今日は大さんが同行しているから、彼女に任せれば誘導に不安はあるまい。
ならば、自分のやるべきことは只一つ。
きん、と刃を手中に生み、一歩前へと歩み出る。
「おっと、やる気ですか? やはり図星だったようですね! ですが――」
「え、ちょっと……お止しなさい二人とも、こんな里中で」
変わらず尊大な早苗さんの有様に、蔑んだ半眼が上乗せされる。
いったいこの巫女もどきは、どこまで我等を小馬鹿にするのか。
はらわたが煮えくり溶けるような憤りを、しかし胸に押し留める。
熱くなるな。忌々しくも、彼奴の力は侮れぬのだ。
「――貴女で、及ぶかな?」
「ねえちょっと……聞いてます?」
挑発的に言い放ち、早苗さんが手に持つ御幣を胸元に構える。
すわ妖術か。身構えるチルノさんに対し、しかし早苗さんはそれ以上の言葉を発せず、
代わりに――くく、とその上体を右に倒し始めた。
(奴は、何をしている?)
警戒心が膨れ上がる。
まるで、身体を正面に向けたまま真横に対して会釈するかのような、不自然な動作。
その傾きは、やがて三十度ほどの角度に達したところで止まる。
そして早苗さんが――早苗さんが、にやりと不敵な笑みを浮かべた、その瞬間だった。
ぞわり。
チルノさんは、戦慄した。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
チルノさんは、妖精である。
祭事など微塵も解せぬし、さりとて人一倍に邪悪に敏感などということもない。
多くの同族がそうであるように、ただ気ままに、自由に日々を過ごして生きてきた。
だが、そんなチルノさんであっても、戦慄したのだ。
理解できずとも、看破できずとも、それを感じ取った。
この何かは――この、言い知れぬ程に冒涜的な何かは。
(許されてはならぬ)
先程まで煮えていた腹の内は、ぴたりと熱を捨てていた。
代わりに身体を駆け巡る、真冬の木枯らしの如き空虚な冷たさ。
それは悲しみとも、あるいは絶望と形容してもよいものだった。
(許されては、ならぬ――)
刃を強く手に握り、チルノさんは天を仰ぐ。
雲一つ無い、快晴の空。その吸い込まれそうな青色を仰ぎ、そして、呪った。
八坂の風神、洩矢の邪神よ。お前たちは、この娘に何を植え付けた。
妖怪であれば赤子扱いもされぬだろう、まだ無垢であったはずのこの娘に、何を植え付けた。
神は、人なくして在ることはできぬ。荒ぶり、恐れられ、施し、畏れられ。
その神が、ついには人に捨てられ、幻想に逃げ込んで。人の世より最も遠きこの地で、夢を見続けることを選んで。
その夢に、お前たちはこの年若い娘を取り込んだというのか。
あるいは、この娘自身が望んだ道やも知れぬ。
世を捨て、家族を捨て、人の身を捨て、それでも共に在らんと。
消えゆく者を見過ごせず、せめて一枝の支えとならんと、覚悟の末の選択であったのやも知れぬ。
だが――
(やんぬる哉)
事、最早ここに至っては。
「御免」
降り注ぐ陽光を七色に切り散らし、刃が横薙ぎに振るわれる。
真に必殺、一直線に獲物の首を狩らんとする剣勢である。
並の剣士では反応することも侭成らぬであろうその一閃を、しかし早苗さんは、その構えを微塵も崩さぬまま、避けた。
まるで、落ちる木の葉を木刀で打たんと試みたかのようだった。
(うぬめ、ホバーか)
心の中で悪態を飛ばし、だが間髪入れることなく次閃を放つ。
袈裟掛け、切り上げ、兜割り、燕返し、アイシクルソード。全て、あの姿勢のまま見切られる。
「ふふっ――そんな程度で、神徳を妨げようと?」
「ああもう……あっちの巫女が来ても知りませんよ……?」
不遜な笑みと半眼を保ったまま、早苗さんがせせら笑う。
おのれ、まだ言うか。怒りに任せもう一太刀打ち下ろすが、やはり躱される。
(埒が明かぬ――ならば)
思い切りよく決断し、チルノさんは刃を放り出した。
空手となった両掌をそれぞれ斜め前に突き出し、冷気を凝縮する。
ぎしりと空気の軋む音が鳴ると、そこには小石ほどの氷の礫が無数に出現していた。
「おやおや。チャンバラごっこは終いですか」
ぬかせ。ぎりりと敵を睨みつけ、しかし冷静に、生み出した礫を配してゆく。
先程から奴は、地べたをただ這いずり滑っているだけだ。
斬りかかって横へ後ろへと逃げられるなら、その逃げる先から塞いでしまえばいい。
(貴様の命運も、ここまでだ)
くわりと目を見開き、放つ。
左右の礫の塊から、まず早苗さんの後方に向けて一列ずつ。
そして残りの礫を斜め前方から浴びせかければ、最早逃れる場所は無い。
「……ふっ」
この期に及んでまだ消えぬその余裕面も、もう終いだ。
小賢しく足掻いたところで、蜂の巣になる運命は変えられぬ。
気合一破、散弾と化した礫が早苗さんに殺到する。
チルノさんは、揺るぎない勝利を確信した。
はずだった。
「!?」
しかし次の瞬間、チルノさんの目に映っていたのは、視界いっぱいの早苗さんのドヤ顔であった。
何が起こった。あまりの驚愕に、身が強張る。
そしてそのまま、チルノさんに反撃の機会が与えられることは、なかった。
身体を右に傾けている早苗さんの口は、自然とチルノさんの耳元にある。
まるでそよ風が撫でつけるように、優しく囁かれたその言葉は、
"So easy..."
呪詛であった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「が……ふッ……!?」
大砲で撃ち抜かれたような衝撃が、小さな体躯を蹂躙する。
辛うじて意識は保ったが、もう、立っていることはできなかった。
(何故だ。このような、不覚、など)
あの必殺の陣が、何故こうまで容易く破られる。
何も分からなかった。何もかもが、理解を超えていた。
ただ確かだったのは、既にこの身に、戦う力が残っていないことだけだ。
「チルノちゃん!?」 「いやああぁっ!」 「死んじゃダメぇ!」 「Easyでは……Easyではっ……!」
衝撃の余韻にぐわんぐわんと鳴る耳に、友の悲鳴が微かに届く。
それを聞いて、チルノさんはついに心までをも打ち砕かれた。
嗚呼――己は、この未熟者は、友を逃がすことすら忘れて逆上していたのか。
「勝負あったようですね。まあまあ頑張った方でしょう」
「もう……大人気の無い」
ぽたり。身体を支える手の甲に、雫が落ちる。
「ふっ、何を仰いますか……勝負を挑まれ、それに全力で応えたまでですよ!」
「そもそも貴女が変なこと言い出すからでしょうに」
ぽたり、ぽたり。
自らのあまりの不甲斐なさに、もう涙を堪える気さえ起こらない。
「おっとそうでした! 私が勝ったんだから、予告通り私が全取りさせていただきますね!」
「だあから……どうして信仰がどうたらとなるの……?」
嗚呼、大さんよ――我が友らよ、許せ。
この己は、このチルノさんは、何一つ約束を果たすことができなかった。
友を守れず、巫女もどきの狼藉を止められず、惨めに敗れ去ったのだ。
「悪足掻きしても無駄ですよ? もう私は止まらない!」
「……いや、うん、お好きになさい……風吹かせたくらいで信仰集まるのか知らないけど」
見よ。目前では、今まさに暴君がこの里を手中に収めんとしている。
この身が、未熟であった故に。力が足りなかった故に。
今この時より数百年、幻想郷は暗い時代を迎えることになるだろう。
「甘いですね、ただの風では妖怪クーラーに負けてるわ! 私は――雨を降らせて打ち水するのです! この里全体に!」
「……え」
無念。最早、皆に合わせる顔はない。
そして、彼奴が人々を陥れる様を、抗う術なく眺むることにも耐えられぬ。
「ちょ、ちょっと。それは駄目よ、今日はもう予報を――」
「おっと皆様、心配は御無用! 道行く人も洗濯物も華麗に避ける、前代未聞にスマートな雨を降らせてみせましょう!」
最後の力を振り絞り、チルノさんは掌に小さな刃を生んだ。
再び武器を手にしても、もう誰一人としてそれに注意を向ける者はいない。
それでいい。敗者は、ただ去りゆくのみ。
すっと上体を起こして姿勢を正し、ぐいと腹を前に突き出す。
きんと鳴る切っ先を臍に当て、喝と開いたその眼には、ついに一片の迷いも見られぬ。
「そういうことじゃなくて。今日はもう晴れだと予報を出したのだから、雨なんか降らせては――」
「それでは! 遠からん者は音に聞け、近くば寄って目にも見よ――守矢が神徳、今ここに現し示さん!」
大さんよ。輩よ。
湖よ、蛙よ、木々よ、草花よ。
何もかも愛おしい、この世界の全てよ。
「いざ、参ります――――!!」
「………………」
――さらば。
< < < 今 日 は 晴 れ だ と 言 っ て い ま す !! > > >
天雷、一閃。
天地を揺るがす轟音が、里の全てを震わせる。
ついに逆鱗、猛り奮ぜる龍の怒りが向かう先に、最早一切衆生の区別は無い。
隣家の吾平さん(62)の十年来歪んでいた腰椎は、衝撃の余波でごきりと整復した。
見物していた甘味処の鈴音さん(24)ほか女性客のお肌にはイオン化した水蒸気が隈なく吸着し、美肌となった。
茶屋にて想い人と同席するも勇気を出せずにいた静江さん(19)は思わずその胸に飛び込み、ついに結ばれた。
近場の屋根から人々を驚かす機会を伺っていた唐傘の化生(年齢不詳)は錐揉みに転落し、その目的を達した。
寺子屋で悪戯事を謀っていた小童どもはその企みを中断し、巡回の女教師(自称28)の石頭から逃れた。
茶請けの団子が喉に詰まり死の淵にあった御阿礼の子(13)は窮地を脱し、よって幻想郷史編纂の途絶を免れた。
朦朧から立ち直った群集が目にしたのは、
プロフェッショナルに天上を指す、衣玖さんの不動の姿。
そして、彼らは気付いた。
淀みなく美しく伸ばされた、その指先が意味するもの。
言葉もなく、表情もなく、ただ仰ぎ見よと衆生を諭す、その指先は。
是、即ち――天意であると。
人々は、導かれて天を仰ぐ。
咆哮止みたる蒼天には、今や見事な大輪の虹が架かっていた。
あの七色の示さんとするを知らぬ者は、この地には居らぬ。
『天統べる龍、ただ御名をして神と祀らるるのみに非ず』
常々と郷を見守り給うその加護の大いなるを確と目に受け、
幻想郷に生きる人妖は、龍神への畏怖をより深めたのである。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
のち、偶々にて事見たりと云ふ霧雨の魔女、鴉天狗の問ふに応へて曰く。
「その御作法如何に和を尊ぶ鑑なりとひろく聞こへ候へど、
彼奴めもまた妖にして理違ふ天界に仕へたる身と云ふなれば、
その生業に石投ずが如き所業まこと正気にては思い難く候ぜ」
<了>
まあ、早苗さんだから仕方ないか。
大仰な文体の割に、意外とあっさり読めたのが面白かったので、少し加点しておきますね。
特に最後の魔理沙、お前は曹操か。
しかし……寺子屋の女教師(28)か。ふむ。
キャーイクサーン
文体のせいで本文は短いのにクドく感じたけど、とりあえず
>女教師(自称28)
ここを評価したい。28を評価したい。
いや、テンポよく楽しく読めましたよ
まぁ面白かったからいいや
内容自体は悪くないから、普通に書けば面白そうなのに…一体何故こんな変な文章にしたのか疑問。