「はぁ...」
私はケーキをフォークでつつきながら柄にもなくため息を吐いていることに気が付いた。無論、お姉様が気づかないはずもなく、私に質問してくる。
「どうしたのフラン?何か悩み?」
「あ、うん別に」
そっけなく答えるが、その言葉の裏に私が悩みを抱えてるのは火を見るより明らかだった。
「フラン、悩みを隠すことをしてはいけないわ」
「わかってるわお姉様。だけど、あまりにもくだらない悩みだから」
そう。ここ最近考えていた悩み。それは他人からすればあまりにもくだらないであろう内容なのだ。それを明るみに出すことはどうも気が引けた。
「くだらない悩みでも、不安の種は蒔けばドンドン育つから早いうちに摘み取っておいた方がいいのよ」
「そうなの?」
「ええ。それを早く知っていたら、今頃...咲夜は」
「ああ...」
お姉様が遠い空を見つめる。私も少し目頭が熱くなるのを感じた。
「勝手に人を殺さないでもらえますかお嬢様」
「来たわね咲夜2号」
「1号ですわ。というより1号しかいませんが」
そう言って現れたのは咲夜十六夜さん。至って普通のメイド長、と思うじゃん?
「そうですわお嬢様。日中少々暑くなりましたので汗をかかれたでしょう?お着替えを準備しておりますので着替えませんか?というか着替えてください」
「...ちなみにその着替えと言うのは?」
「本日はスクール水着を準備したしました」
「おめぇはアホか?」
お姉様たちが紅霧異変を起こしてからずいぶんしばらくの時間がたった。咲夜もお姉様も外とのつながりができて、他の異変解決にも手を貸したって聞く。それまでは良かったの。
少し前から咲夜は異変解決を行わなくなった。それはお姉様が出動命令を出さなかったから。特に手を出す事もないからという事だったけれど、そこから咲夜は奇妙な行動を取るようになった。
まず、仕事が雑になった。だんだん自分で料理を作らなくなり、終いには里で買ってきたお惣菜で済ませるように。ベッドメイキングも明らかに手抜き感満載よ。ファ○リーズの匂いだけだもん。
そしてお姉様への態度が一変した。さっきの会話のように、お姉様にやたら性的な服を着せるようになった。スクール水着が性的か、ですって?そんなの知らないわ。そして着せた後の夜は咲夜の部屋から何か聞こえるの。息も絶え絶えの、何か、こう、自分で...慰め...。
お姉様はその豹変の原因は、異変解決に向かわせない事によるフラストレーションだと気づいた。でも、もう遅かったわ。
「とりあえず着ないから。フランの悩みを聞くからあなたは下がってなさい」
「嫌です。フランお嬢様の悩みを私も聞いて、解決の糸口を探りますわ」
「あんたが絡むと碌な事無いから言ってんのよ!」
「じゃあ下がりますからスクール水着着て下さい!」
「なんで選択権が咲夜にあるのよ!?」
くそっ、とお姉様は苦しみを持った声を吐きながら私を見てきた。2択でどちらも選ばなかったら強制施行されることは目に見えていた。
「咲夜がいても大丈夫だよお姉様」
「そ、そう」
お姉様は安心したようだった。私としても腐っても常識人の咲夜に意見を請いたい気分でもあったから。
「で、フラン。その悩みと言うのは?」
「えっとね、お姉様と咲夜の自分のアイデンティティーって何?」
「アイデンティティー?」
「うん」
「そうねぇ...吸血鬼であることかしら?あと紅魔館の主」
「私はメイド長であることですわ」
「そうそれ。2人とも自分の肩書きをしっかり持ってるじゃない?だけど、私の肩書きは『悪魔の妹』」
「もしかして、フランあなた私の妹であることが不満、なの...?」
うるっとお姉様の瞳に水分が溜まる。
「ち、違うわお姉様。私はお姉様の妹で不満な事は無いわ」
「そ、そう。良かったわ」
ほっと一安心して顔を紅潮させたお姉様を咲夜は光悦の表情で眺める。既に鼻にティッシュが2本刺さっているところを見ると、興奮したのだろう。
「妹であることに不満は無いけど、これってお姉様ありきの私って意味じゃない?やっぱり私も自分だけアイデンティティーの肩書きを欲しい」
「フラン...」
「いぼうとはま...」
2人がうるるっときているらしい。そんなに私を思ってくれているなんて、ちょっと嬉しい。
「でもどうやって自分の肩書きを取得できるか分からないの。それで」
「それで悩んでいたのね。フラン、あなたの悩みしかと受け取ったわ。大丈夫、私が...」
「話は聞かせてもらっ...うっ!ゲホッゲホッ!ゴハッ!」
「パチュリー様!!」
ドパーンと扉が開いて、自分の血で返り血を浴びている七曜の魔女が倒れた。いきなり瀕死状態である。次いで小悪魔がパチュリーに駆け寄ってくる。
「大丈夫、私がフランの新しい肩書きを考えてあげる」
「あれ?パチェはスルーなのお姉様?」
お姉様はちらっと扉の方を見て、ああうん、いつものことだからと言った。これが日常なんて嫌過ぎる。
「くっ、レミィ、折角私がアイデアを持ってきたというのに」
「ほう?それは?」
「これよ」
パチェは血まみれの震える手でスカートの中から何か取りだした。なぜそこから?それにしても致命傷を負ったパチェに酷過ぎるのではないか紅魔館。
「フリップボード?」
「ええそうよ。これにフランの肩書きをひとりひとり考えて提案するの」
「それは良い提案ですわね」
「悪くないわ。...じゃあ始めましょうか。第1回フランの肩書きを考える会を!」
「オオーー!!」
「ほら、フリップボードよ」
「うわ、生温かっ」
「ペンは?」
「私のパンツの中に」
「なんでそんなところに入れている!?...ちょ、汚っ!パチェ!こっちに投げるな!!って咲夜!?は、離しなさい!やめろ...やめろぉぉぉぉぉ!!!」
◇
というわけで私は上座に座らされた。フリップボードに新しく用意されたペンを走らせて真剣に考えている。私は凄く嬉しい気分になった。
しばらくしてお姉様が全員に声をかける。
「終わったかしら?」
「終わりましたわ」
「こっちも」
「私もです」
全員の確認が終わるとお嬢様はまず小悪魔に声をかけた。
「小悪魔、あなたから行きなさい」
「は、はい!」
恐れ多くも、という感じでフリップボードをくるりと私の方に向ける。
「私が提案するのはこれです」
“天使のような悪魔”
「...その心は?」
「妹様って天使のように可愛らしいじゃないですか。でも蓋を開ければ悪魔でした、というギャップを狙って」
悪くない。悪くはないし正直可愛いといわれて嬉しいと思う。だけれど全員感じているコレジャナイ感は一体。
「流行は小悪魔メイクですよ」
いやドヤ顔されても。自分の名前使われてるから?え、小悪魔って名前?種族名じゃなくて?
「...じゃあ次は咲夜」
「はい」
華麗に小悪魔の順番を流してお姉様は咲夜に順番を振った。
「私はこの肩書きを推します」
“合法ロリ ~全てのお兄ちゃんに捧げる夢”
「死ね。はい次、パチェ」
「大したのは思い浮かばなかったけれど」
“†緋色の堕天使†”
「アイタタタタ」
これには私もイタいと思わざるを得なかった。こういうのをなんて言うんだっけ。ちゅ、ちゅうにびょう?
お姉様がダンッとテーブルを大きく叩いた。
「あなたたち!フランのことをきちんと考えてるの!?」
久しぶりのぶち切レミリアである。前回はパチェにプリンを食べられたときに発動した。
「な、何よ!私はちゃんとフランのことを考えてるわ!」
「私もです!」
「恐縮ながら私もです!」
「ええそうね。咲夜を除いて2人はきちんとフランのことを考えてるわ。だけれど、それが素だから余計性質が悪いのよ!」
「お嬢様、私もきちんと素面で考えました」
「なお性質が悪いわ!この駄メイド!!」
「大丈夫です。これはお嬢様がお使いになられても問題ありません」
「何が大丈夫か原稿用紙500枚に書いてこい!」
いきなり露呈してしまった目の前3人のそれぞれの性格。
知識と日陰の少女、パチェはちゅうにびょうでした。
パチェの腰巾着の小悪魔はギャル。
完全で瀟洒な従者こと咲夜は...元からか。
みんな私のことを考えてくれているから嬉しいけど、どうにも私の新しい悩みが増えたようにしか思えない。そう、紅魔館住人に対する今後の接し方という悩みが。
「そんなこと言うレミィはどうなのよ!」
「私はきちんとまともな奴考えたわよ!」
くるっとフリップボードをひっくり返してお姉様の思いがこちらに向けられる。
“紅魔の素敵な悪魔”
「被ってる!パクリじゃない!」
「違うわ。これはオマージュよ」
「パクるやつは口を揃えてそう言うわ」
だんだんとそちら側4人だけで盛り上がって、私がスルーされている気がする。
そう言えば私はずっと地下にいたから、みんなと大して盛り上がれないのは必然だよね。そんな私が「肩書きを変えたい」っておこがましかったんだ。4人がこうなっちゃったのも当然の報い、か。
「みんな」
私は4人に声をかける。みんなケンカしているそのままの体勢でこちらを向いて、しんと静まった。
「時間取らせてごめんね。よく考えたら私の高望みだったんだよね。だから、もうケンカしないで」
「フラン...」
お嬢様がパチェの口に突っ込んでいた手を離した。パチェは音もなく崩れ落ちる。
「不甲斐ない姉でごめんなさい」
「ううん。こちらこそごめんなさい」
「こんなお嬢様で申し訳ありません妹様」
「同じくです」
「うんお前ら、灰すら残さないからな」
「ふふ」
ちょっとだけ笑える余裕が出てきたかも。...ううん。これは虚勢だね。やっぱり心の中ではまだ悔んでる私が居る。
「じゃあお開きにしよう、みんな」
私はそう言って自分の部屋に戻った。
◇
「あ、おはようございます妹様」
翌朝、私は美鈴と廊下で会った。
「聞きましたよ。肩書きで悩んでるんですよね」
「ううん。もう大丈夫だよ」
「あれ?そうなんですか?いいの思い浮かんだんですけど」
「どんなの?」
「“優しい悪魔”ですよ」
「優しい...?」
私はきょとんと美鈴を見た。優しいとはどういうことか。朝だから思考が追いつかないのか、それとも優しいなんて言葉を受け入れる自信がないからか、私の思考は止まってしまっていた。
「そうです。昨日の話聞きましたけど、私より空気の読める良い子じゃないですか」
「ちがうわ美鈴。私は肩書きが必要ないと思ったから会を切り上げただけで...」
「嘘ですね。本当は欲しくて仕方ない。だけど何かしらの理由で自分を否定してしまっている。だから早々に妹様は諦めてしまっているんです」
見透かされた。私の心の中を、全て。
「あーでもやっぱり自分に嘘をつく子は優しいなんて言えませんねー。チラッ」
「......」
美鈴のその目を見ると、心の中のつっかえていた物が全て目頭に集まってきた。
「あ、あれー?妹様?」
「美鈴」
「はい、何でしょう?」
「私、欲しい。自分を自分だって言える肩書きを...!」
「大丈夫です妹様。たった今、あなたは“優しい悪魔”となりましたから」
「うん...うんっ!」
数年後、フランの肩書きは「美鈴の妻」になりました。
[了]
私はケーキをフォークでつつきながら柄にもなくため息を吐いていることに気が付いた。無論、お姉様が気づかないはずもなく、私に質問してくる。
「どうしたのフラン?何か悩み?」
「あ、うん別に」
そっけなく答えるが、その言葉の裏に私が悩みを抱えてるのは火を見るより明らかだった。
「フラン、悩みを隠すことをしてはいけないわ」
「わかってるわお姉様。だけど、あまりにもくだらない悩みだから」
そう。ここ最近考えていた悩み。それは他人からすればあまりにもくだらないであろう内容なのだ。それを明るみに出すことはどうも気が引けた。
「くだらない悩みでも、不安の種は蒔けばドンドン育つから早いうちに摘み取っておいた方がいいのよ」
「そうなの?」
「ええ。それを早く知っていたら、今頃...咲夜は」
「ああ...」
お姉様が遠い空を見つめる。私も少し目頭が熱くなるのを感じた。
「勝手に人を殺さないでもらえますかお嬢様」
「来たわね咲夜2号」
「1号ですわ。というより1号しかいませんが」
そう言って現れたのは咲夜十六夜さん。至って普通のメイド長、と思うじゃん?
「そうですわお嬢様。日中少々暑くなりましたので汗をかかれたでしょう?お着替えを準備しておりますので着替えませんか?というか着替えてください」
「...ちなみにその着替えと言うのは?」
「本日はスクール水着を準備したしました」
「おめぇはアホか?」
お姉様たちが紅霧異変を起こしてからずいぶんしばらくの時間がたった。咲夜もお姉様も外とのつながりができて、他の異変解決にも手を貸したって聞く。それまでは良かったの。
少し前から咲夜は異変解決を行わなくなった。それはお姉様が出動命令を出さなかったから。特に手を出す事もないからという事だったけれど、そこから咲夜は奇妙な行動を取るようになった。
まず、仕事が雑になった。だんだん自分で料理を作らなくなり、終いには里で買ってきたお惣菜で済ませるように。ベッドメイキングも明らかに手抜き感満載よ。ファ○リーズの匂いだけだもん。
そしてお姉様への態度が一変した。さっきの会話のように、お姉様にやたら性的な服を着せるようになった。スクール水着が性的か、ですって?そんなの知らないわ。そして着せた後の夜は咲夜の部屋から何か聞こえるの。息も絶え絶えの、何か、こう、自分で...慰め...。
お姉様はその豹変の原因は、異変解決に向かわせない事によるフラストレーションだと気づいた。でも、もう遅かったわ。
「とりあえず着ないから。フランの悩みを聞くからあなたは下がってなさい」
「嫌です。フランお嬢様の悩みを私も聞いて、解決の糸口を探りますわ」
「あんたが絡むと碌な事無いから言ってんのよ!」
「じゃあ下がりますからスクール水着着て下さい!」
「なんで選択権が咲夜にあるのよ!?」
くそっ、とお姉様は苦しみを持った声を吐きながら私を見てきた。2択でどちらも選ばなかったら強制施行されることは目に見えていた。
「咲夜がいても大丈夫だよお姉様」
「そ、そう」
お姉様は安心したようだった。私としても腐っても常識人の咲夜に意見を請いたい気分でもあったから。
「で、フラン。その悩みと言うのは?」
「えっとね、お姉様と咲夜の自分のアイデンティティーって何?」
「アイデンティティー?」
「うん」
「そうねぇ...吸血鬼であることかしら?あと紅魔館の主」
「私はメイド長であることですわ」
「そうそれ。2人とも自分の肩書きをしっかり持ってるじゃない?だけど、私の肩書きは『悪魔の妹』」
「もしかして、フランあなた私の妹であることが不満、なの...?」
うるっとお姉様の瞳に水分が溜まる。
「ち、違うわお姉様。私はお姉様の妹で不満な事は無いわ」
「そ、そう。良かったわ」
ほっと一安心して顔を紅潮させたお姉様を咲夜は光悦の表情で眺める。既に鼻にティッシュが2本刺さっているところを見ると、興奮したのだろう。
「妹であることに不満は無いけど、これってお姉様ありきの私って意味じゃない?やっぱり私も自分だけアイデンティティーの肩書きを欲しい」
「フラン...」
「いぼうとはま...」
2人がうるるっときているらしい。そんなに私を思ってくれているなんて、ちょっと嬉しい。
「でもどうやって自分の肩書きを取得できるか分からないの。それで」
「それで悩んでいたのね。フラン、あなたの悩みしかと受け取ったわ。大丈夫、私が...」
「話は聞かせてもらっ...うっ!ゲホッゲホッ!ゴハッ!」
「パチュリー様!!」
ドパーンと扉が開いて、自分の血で返り血を浴びている七曜の魔女が倒れた。いきなり瀕死状態である。次いで小悪魔がパチュリーに駆け寄ってくる。
「大丈夫、私がフランの新しい肩書きを考えてあげる」
「あれ?パチェはスルーなのお姉様?」
お姉様はちらっと扉の方を見て、ああうん、いつものことだからと言った。これが日常なんて嫌過ぎる。
「くっ、レミィ、折角私がアイデアを持ってきたというのに」
「ほう?それは?」
「これよ」
パチェは血まみれの震える手でスカートの中から何か取りだした。なぜそこから?それにしても致命傷を負ったパチェに酷過ぎるのではないか紅魔館。
「フリップボード?」
「ええそうよ。これにフランの肩書きをひとりひとり考えて提案するの」
「それは良い提案ですわね」
「悪くないわ。...じゃあ始めましょうか。第1回フランの肩書きを考える会を!」
「オオーー!!」
「ほら、フリップボードよ」
「うわ、生温かっ」
「ペンは?」
「私のパンツの中に」
「なんでそんなところに入れている!?...ちょ、汚っ!パチェ!こっちに投げるな!!って咲夜!?は、離しなさい!やめろ...やめろぉぉぉぉぉ!!!」
◇
というわけで私は上座に座らされた。フリップボードに新しく用意されたペンを走らせて真剣に考えている。私は凄く嬉しい気分になった。
しばらくしてお姉様が全員に声をかける。
「終わったかしら?」
「終わりましたわ」
「こっちも」
「私もです」
全員の確認が終わるとお嬢様はまず小悪魔に声をかけた。
「小悪魔、あなたから行きなさい」
「は、はい!」
恐れ多くも、という感じでフリップボードをくるりと私の方に向ける。
「私が提案するのはこれです」
“天使のような悪魔”
「...その心は?」
「妹様って天使のように可愛らしいじゃないですか。でも蓋を開ければ悪魔でした、というギャップを狙って」
悪くない。悪くはないし正直可愛いといわれて嬉しいと思う。だけれど全員感じているコレジャナイ感は一体。
「流行は小悪魔メイクですよ」
いやドヤ顔されても。自分の名前使われてるから?え、小悪魔って名前?種族名じゃなくて?
「...じゃあ次は咲夜」
「はい」
華麗に小悪魔の順番を流してお姉様は咲夜に順番を振った。
「私はこの肩書きを推します」
“合法ロリ ~全てのお兄ちゃんに捧げる夢”
「死ね。はい次、パチェ」
「大したのは思い浮かばなかったけれど」
“†緋色の堕天使†”
「アイタタタタ」
これには私もイタいと思わざるを得なかった。こういうのをなんて言うんだっけ。ちゅ、ちゅうにびょう?
お姉様がダンッとテーブルを大きく叩いた。
「あなたたち!フランのことをきちんと考えてるの!?」
久しぶりのぶち切レミリアである。前回はパチェにプリンを食べられたときに発動した。
「な、何よ!私はちゃんとフランのことを考えてるわ!」
「私もです!」
「恐縮ながら私もです!」
「ええそうね。咲夜を除いて2人はきちんとフランのことを考えてるわ。だけれど、それが素だから余計性質が悪いのよ!」
「お嬢様、私もきちんと素面で考えました」
「なお性質が悪いわ!この駄メイド!!」
「大丈夫です。これはお嬢様がお使いになられても問題ありません」
「何が大丈夫か原稿用紙500枚に書いてこい!」
いきなり露呈してしまった目の前3人のそれぞれの性格。
知識と日陰の少女、パチェはちゅうにびょうでした。
パチェの腰巾着の小悪魔はギャル。
完全で瀟洒な従者こと咲夜は...元からか。
みんな私のことを考えてくれているから嬉しいけど、どうにも私の新しい悩みが増えたようにしか思えない。そう、紅魔館住人に対する今後の接し方という悩みが。
「そんなこと言うレミィはどうなのよ!」
「私はきちんとまともな奴考えたわよ!」
くるっとフリップボードをひっくり返してお姉様の思いがこちらに向けられる。
“紅魔の素敵な悪魔”
「被ってる!パクリじゃない!」
「違うわ。これはオマージュよ」
「パクるやつは口を揃えてそう言うわ」
だんだんとそちら側4人だけで盛り上がって、私がスルーされている気がする。
そう言えば私はずっと地下にいたから、みんなと大して盛り上がれないのは必然だよね。そんな私が「肩書きを変えたい」っておこがましかったんだ。4人がこうなっちゃったのも当然の報い、か。
「みんな」
私は4人に声をかける。みんなケンカしているそのままの体勢でこちらを向いて、しんと静まった。
「時間取らせてごめんね。よく考えたら私の高望みだったんだよね。だから、もうケンカしないで」
「フラン...」
お嬢様がパチェの口に突っ込んでいた手を離した。パチェは音もなく崩れ落ちる。
「不甲斐ない姉でごめんなさい」
「ううん。こちらこそごめんなさい」
「こんなお嬢様で申し訳ありません妹様」
「同じくです」
「うんお前ら、灰すら残さないからな」
「ふふ」
ちょっとだけ笑える余裕が出てきたかも。...ううん。これは虚勢だね。やっぱり心の中ではまだ悔んでる私が居る。
「じゃあお開きにしよう、みんな」
私はそう言って自分の部屋に戻った。
◇
「あ、おはようございます妹様」
翌朝、私は美鈴と廊下で会った。
「聞きましたよ。肩書きで悩んでるんですよね」
「ううん。もう大丈夫だよ」
「あれ?そうなんですか?いいの思い浮かんだんですけど」
「どんなの?」
「“優しい悪魔”ですよ」
「優しい...?」
私はきょとんと美鈴を見た。優しいとはどういうことか。朝だから思考が追いつかないのか、それとも優しいなんて言葉を受け入れる自信がないからか、私の思考は止まってしまっていた。
「そうです。昨日の話聞きましたけど、私より空気の読める良い子じゃないですか」
「ちがうわ美鈴。私は肩書きが必要ないと思ったから会を切り上げただけで...」
「嘘ですね。本当は欲しくて仕方ない。だけど何かしらの理由で自分を否定してしまっている。だから早々に妹様は諦めてしまっているんです」
見透かされた。私の心の中を、全て。
「あーでもやっぱり自分に嘘をつく子は優しいなんて言えませんねー。チラッ」
「......」
美鈴のその目を見ると、心の中のつっかえていた物が全て目頭に集まってきた。
「あ、あれー?妹様?」
「美鈴」
「はい、何でしょう?」
「私、欲しい。自分を自分だって言える肩書きを...!」
「大丈夫です妹様。たった今、あなたは“優しい悪魔”となりましたから」
「うん...うんっ!」
数年後、フランの肩書きは「美鈴の妻」になりました。
[了]
紅魔館は今日も平和ですね
後書きww
皆のやり取りが面白かったです
許せるっ!
ところで「美鈴の妻」だと名前自体も「ホン・フラン」になったりするんだろうか
私も人妻大好k(ry