Coolier - 新生・東方創想話

解離性チルノ

2012/10/14 22:04:04
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 地面に横たわって、空を見上げる。
 届かないんだ、絶対に。
 私の伸ばしたこの手が空に届くことはない。

 あの日の天気は晴れだったっけ。
 覚えていないけど、確か晴れていた気がする。
 今と同じ、雲ひとつない空。
 私を照らしつける太陽は、あの日も輝いていたのかな。

 あたい。
 私の一人称は、私。
 私はあたいじゃない。
 あたいの一人称は、あたい。
 あたいは私じゃない。
 違う私がそこにいる。なりたかった私がそこにいる。

 最強なんて陳腐な言葉。
 ただの妖精がそんなに強いはずがない。
 私は弱い。
 でも、あたいは。あたいなら。
 そんなものを全部吹き飛ばして、最強を掴める。
 私はあたいにすがっている。
 あたいは私をどう思っているのかな。

 地に伏して。
 空を見上げて。
 私はあの日を思い出す。
 そう、チルノという妖精が一回休みになった日の事を。


 アンタ、強いんでしょ?
 私が――いや、あたいが声をかけたのは、青髪の天人だった。
 黒い帽子に桃をつけたその少女は、こちらを一瞥して鼻を鳴らした。
 何だ、ただの妖精か。妖精風情が、何を言う。
 そう言って、すぐに天人は剣を振るった。
 あたいが体を切り裂かれたことに気付いたのは、上半身が地に伏してから。
 手を伸ばしたままあたいは消えて、そして私が現れる。
 あ、やっちゃった。悪かったわね。
 別段意に介さないといった口ぶりで、天人は剣を腰に据える。
 数秒私を見下ろしてから、そしてあたいに一声かけた。
 ま、身の程をわきまえなさい。
 言い残して、天人はそのままどこかへ行ってしまった。
 その言葉はあたいに言った言葉だろうけど。
 あたいに言っても、私に言っても。その言葉は、受け入れられない。


 私の体はあらかた治った。
 あたいももうすぐ復活する。
 そのままでいて。
 私はあたいに声をかけたい。
 あたいは強いんだ。
 弱いのは私だけでいいから、あたいそのままでいて。
 私の声は届かないけど。
 私+あたい。チルノの気持ちは分かるから。
 あたいは強くいて。
 それが、弱い私の願い。
 あたいは強くなくちゃいけないんだ。
 だから、あの空に。
 あたいの伸ばした手なら、あの空に届くはずだから。






 地面に横たわって、空を見上げる。
 馬鹿じゃないの。あたいは呟く。
 あたいが一回休みになったときにしか出てこない、あたいの弱さ。それが私。
 私は観測者じゃない。
 実は見られている側だって気付いていない。 
 私はあたいじゃない?
 私とあたいでチルノなのに。
 弱さがないと最強にはなれないのに。
 届かないのは、あたいの言葉。
 直接伝えることは諦めた。
 だから、せめて形で示すよ。

 あたいは、いや、チルノは起き上って、空を見上げる。
 晴れ渡った空。
 雲なんて言う邪魔者なんていやしない。
 天人は天界というところにいる。
 天界はどこだ。
 きっと、空の上だ。
 ならばとその空まで手を伸ばす。
 あたいはチルノとして最強なんだ。
 でも、最強は最強であり続けようとするから最強なんだ。
 あたいは頑張る。ただひたすら、チルノのために。
 チルノは地面を蹴って、空をめざして飛び上がる。
 空に伸ばした手を、空に届かせるために。
 大体空なんて曖昧なんだ。
 どこからが空なんて誰も決めてない。
 誰かに見上げられる存在が空なんだ。
 私がいつまで地面にいて、あたいを見上げているのかは分からない。
 多分、一生そこにいるんだと思う。

 直接伝えるのは諦めても、間接的には伝えられるかな。
 あたいが空に届けば、それはチルノが空に届いたってこと。
 チルノが空に届いたなら、私だって空に届くことになる。
 太陽がチルノを明るく照らす。
 あたいは、ひたすら空に向かう。
 さぁ、天界はどこだ!
 空の中で叫ぶあたいの声は、綺麗に澄んだまま、この空には広がっていった。
馬鹿馬鹿って言われ続ければ、強いストレスを受けると思うんですよ。
日常的にストレスを受ければ、それ相応の影響が出てくるものです。
沢田
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コメント



0.660簡易評価
1.無評価名前が無い程度の能力削除
この作品で何をあらわしたかったか、何をいいたかったか、それが知りたいです
2.無評価名前が無い程度の能力削除
なにこれ
3.無評価名前が無い程度の能力削除
うーんと…?
4.50名前が無い程度の能力削除
何回か読み直さないと上手く理解出来ませんでした。でもこういうチルノは個人的に有りです。
5.100葉月ヴァンホーテン削除
これは良いものですねー。
あたいを想う私の気持ち、私を想うあたいの気持ちが優しく伝わってきました。
一見矛盾しているように思える最強と弱さの同居は、もしかしたらそれはとても自然なことなのかもしれませんね。
短いながら楽しめました。
6.90名前が無い程度の能力削除
チルノというと単純な子というイメージが強いわけですが、この作品では上手く彼女の中にあるもう一人の彼女を、水底から見上げるような形で表していたと思います。
7.30名前が無い程度の能力削除
言いたい事は分かりました。面白くありませんでした。
9.100名前が無い程度の能力削除
短い中に内容が詰まっており、詩的ですらある。見事です
12.70名前が無い程度の能力削除
チルノが障害を患っている以上、素直に作品を褒めるのは些か気が引けますね…
というわけで点数だけ

14.100このは寿司削除
これは面白い! 面白いよ! よくわかった! あたいと私の関係にも納得した!
テンション上がってますが、掌編とは思えぬ読後感、満足感を味わうことができました。
お見事です。
17.10名前が無い程度の能力削除
いきなり斬るつけるとか、天子の性格悪くし過ぎぃ……。
書きたいもののために悪役を用意する必要があることはありますが、それでももうちょっとマイルドなやり方があると思います。こうまで無意味に性格悪いと、天子好きとしては不快感が強いです。
23.90名前が無い程度の能力削除
ふわふわとしてるけど優しい雰囲気がよかったです
28.30名前が無い程度の能力削除
チルノを解離性障害の患者にした言い訳臭い後書きで台無し
チルノの発病はありえないよ。
本文は割と爽やかだったし、味があった。
30.100名前が無い程度の能力削除
実際こーいう、表面上の人格と内心がひっくり返っちゃってるのはよくある。
チルノの性格をどう捉えるかによっては、面白い解釈かなぁと。