Coolier - 新生・東方創想話

Q:財宝が集まる程度の能力って? A:あぁ!

2012/10/14 14:36:20
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 新たな幻想郷縁起が発行されてから、暫く経ったある日の事。
 久しぶりに寺へ戻ってきたナズーリンは、響子の部屋に呼ばれていた。
「それで、聞きたい事とは一体なんだ?」
 適当な場所に腰を下ろすと、さっそく呼び出した理由を響子に尋ねる。
「あ、はい! 寅丸さんの事で気になった事があって…」
「…ご主人の? それなら、本人に聞けば良いじゃないか」
 ナズーリンの上司である寅丸 星の話と知って、何故本人に聞かないのか疑問に思う。
 普段は寺にいない相手に、わざわざ尋ねると言うのもおかしな話だからだ。
「いやまぁその…畏れ多いと言うか何と言うかー…」
 痛い所を突かれて、響子がしどろもどろになりながらそんな説明をする。
 つい最近寺に来たばかりの響子にとって、星は憧れの存在のようなものらしい。
 そんな感情もある為か、声を掛けるのすら緊張してしまうようだった。
「やれやれ…そんなに気にする事もないと思うが、無理もないか。
そういう事なら、私に答えられる範囲で答えよう」
 飽きれた素振りを見せつつも、後輩であり新しい家族である響子を放っておけず、
ナズーリンが質問に答える事を了承した。
 以前白蓮に言われた、自分たちが家族であるという事を意識しているのだろう。
「ありがとうございます、ナズりんさん!」
「…ちょっと待て、ナズりんってなんだ」
 ぱっ、と笑顔を輝かせながら、響子が礼を言いながら頭を下げる。
 だがナズーリンは、その言葉の中に聞き捨てならない単語が混じっていた為、少し驚きながら響子に尋ねた。
「え、だってそう呼ぶように、ぬえさんが言ってたので…」
「ぬえのヤツ、くだらない事を…後で文句を言ってやる」
 あっさりと犯人が分かり、後でぬえを問い詰めてやろうと心に決める。
 少し怒っているように感じた響子は、それを見て困った様子で耳を垂らしていた。

 それからすぐにナズーリンが気を取り直すと、改めて響子に用件を尋ねる。
「…すまない、話が逸れてしまったな。一体、ご主人の何が知りたいんだい?」
「えっと、寅丸さんって、財宝を集める事ができるんですよね?」
「ん、あぁ。まぁ、できるが…正確には集まってくる、だな」
 響子の質問したい事とは、星が自称している能力の事だった。
 つい最近発行された幻想郷縁起には、星の持つ能力が、
財宝が集まる程度の能力、と記載されている。
 恐らくそれを読んで、興味を持ったのだろうとナズーリンが推測した。
「ですよね。それなのに、どうして宝探しをナズりんさんに任せてるんですか?」
「…ふむ、そう来たか」
 確かに星の事ではあるが、ナズーリン自身の事も含まれている事を意外だと感じていた。
 響子の言うとおりで、財宝が勝手に集まってくるのなら、
わざわざナズーリンが幻想郷の各地で宝を探す必要はないと考えてもおかしくはないだろう。
「やっぱり、これには深い理由があったりするんでしょうかっ!?」
 興味津々なのか、耳と尻尾をぱたぱたと動かしながら響子が迫ってくる。
「残念ながら、君が期待しているような理由は一切ないよ」
 若干、勢いに気圧されながらナズーリンが申し訳無さそうに答えた。
 期待外れの答えだろうが、それは事実なのだから仕方がない。
「えっ、そうなんですか…では、その理由とは?」
 それを聞いて、やはり残念そうにしていたが、すぐに興味の対象を変えて理由を尋ねてくる。
「理由は二つだよ。一つは、ご主人の能力が君の思っているような物ではない、という事…
もう一つは、宝探しは単なる私の趣味だから、という事だ」
 特に隠す必要もない為、あっさりとナズーリンが質問に答えた。
 だが当然、この説明だけでは納得しないだろう、と言う事も予想している。
「寅丸さんの能力が…?」
「あぁ。昔、私も君と同じ事を思ったものさ。その時にご主人から聞いた話だ」
 やはり星の能力について気になるようで、不思議そうにナズーリンを見つめていた。
 予想通りの反応だと思いながら、自分も同じ事に疑問を持った事を明かす。
「その時の受け売りになるが…君は財宝と聞いて、何を思い浮かべる?」
 今度はナズーリンが、響子に尋ねた。
 その質問に少し頭を悩ませていた響子は、やがて諦めたのか素直に自分の考えを口にする。
「えっと…財宝って言ったら、やっぱり金とか銀とか宝石みたいな、お金になるもの…ですね」
「うん、一般的な答えだな。私自身もそう思っている…が、どうもご主人は金銭欲に欠けていてね。
ご主人にとって、それらの財宝と呼べる物の優先順位があまり高くないんだ」
 質問の答えを聞いて、そう考えるのが普通だろうとナズーリンも頷く。
 だがその後にナズーリンが続けた言葉は、ただ聞いただけでは良く分からないものだった。
「優先順位…ですか?」
「そう。ならご主人にとって一番の財宝とは何か、と言う疑問が浮かぶだろう。
その疑問に対する答えが、ここにある」
 ナズーリンが心中を言い当てながら、それに対する答えとして床を差し示した。

 もちろんこれは、床が財宝だという訳でも、床の下に財宝が眠っているという訳でもない。
「ここ、って…つまり、このお寺…?」
「もっと正確に言うなら、ここに住んでいる皆と、命蓮寺という事になるね。
そして人間から得られている信仰も、財宝に含まれると思っていい」
 それを聞いた響子が、ナズーリンの様子を探るように答えを返す。
 どうやら当たっていた様で、更に詳しく説明が付け加えられた。
「な、なるほど…さすが、白蓮様に次ぐお方です!
…あれ、でもそれだったら、どうして離れ離れになってしまったんですか?」
 その説明に感激していた響子が、ふと寺が建立するまでの経緯を思い出して更に尋ねる。
 ナズーリンの説明が正しいのなら、確かに一度離れ離れになってしまった事と辻褄が合わなくなってしまう。
「それについては私の憶測になるが…信仰に加えて、徳まで大きく失ってしまったからだろうね。
聖達が封印されるまでに至った経緯は、君も知っていると思うが…」
「はい、悪い人間達に騙されて、封印されてしまったんですよね」
「…若干、認識が違うんだが…まぁいいか。
その一件以降、ご主人のいた寺にも信仰が集まらなくなり、寺は荒れに荒れてしまったんだ」
 この疑問を抱く事も予想していたナズーリンが、そうなった理由を説明し始めた。
 今話している事については、少し調べれば分かる事なので大した補足は挟んでいない。
 響子自身が知識として知っているようなので、それでも問題はないようだった。
「それが大体、1000年ほど前の出来事で…その時点から今まで、ご主人がどうしていたと思う?」
「え、えっと…やっぱり、信仰を取り戻すための活動を…?」
 自分だけが話し続けても退屈だろうと、響子に尋ねる事も交えながら説明を続けて行く。
 急に質問された響子は、少し慌てながら思いついた事を答えとして返す。
「半分当たりで、半分外れだな。信仰ではなく、徳を積む為の修業を続けていたのさ。
あの頃は、信仰を集める事が困難だった事もあって、そうせざるを得なかったんだ」
「徳を積む修業…それを1000年も続けたんですか?」
 中々に良い所を突いてきた事に少し驚きながら、正しい答えをナズーリンが明かした。
 それが本当だとすれば、白蓮が封印されてから星はずっと、修業を続けてきたという事なのだろうか。
「そういう事になるね。もちろん、一切他の事をせずに、という訳ではないが…
そのお陰もあって、私たちは今、こうして過ごす事が出来ているんだ」
「どういう事ですか?」
 更に詳細に語るナズーリンの話に、響子が新たな疑問をぶつけた。
 いきなり話が飛んでしまった事もあり、そうなるのも当然といえば当然の事だ。
「地底で起こった異変の際に、村紗や一輪達の封印が解けただろう?
どうして揃いも揃って、同じタイミングで都合よく封印が解けたのか…それが答えだよ」
「…つまり、封印が解けたのも寅丸さんの能力のお陰…」
「ま、さすがに私も大袈裟だとは思うが…まったく無関係とは言い切れないのさ。
もちろん聖を復活させるという目的があり、無事に果たす事ができた事が、
今こうして過ごしていられる最大の要因ではあるんだが」
 少し大袈裟に話しすぎたか、と思いながら、ナズーリンがまとめに入る。
「つまり最初にも言ったとおり、ご主人の言う財宝が集まる能力というのは、
既に発揮されているという事だ…これで納得したかい?」
「はい! 家族が宝物という事なんですね、素敵です!」
 ナズーリンの説明に納得した響子が、目を輝かせて耳と尻尾をぱたぱたと振りながら頷いた。
「…もちろん、その家族の中には君も含まれている。それを忘れないようにね」
「ナズりんさん……」
「だから次からは、遠慮せず本人に…って、いい加減その呼び方は止めてくれ…」
「はい、ありがとうございます!」
 自分の呼び方を訂正しようとしたが、響子のお礼の声に掻き消されてしまう。
 それでも話の方は理解してもらえたようなので、ナズーリンは一先ずそれで良いか、と思うのだった。

 話も一段落して、二人がお茶を飲みながらくつろいでいると、そこに星がやって来た。
「ここにいたんですね、ナズーリン」
 どうやら探していたようで、星がナズーリンを見つけて声を掛ける。
「…どうかしたのか、ご主人?」
「何かあったんですか?」
 ナズーリンが尋ねると、気になった響子も不思議そうに尋ねた。
「先程、参拝に来られた方からお菓子を頂いたので、一緒にどうかと思ったのですが…」
「お菓子?」
 寺を訪れた参拝客からお布施として色々な物を貰う事が多いので、それ自体は気にならなかったのだが、
どうして自分に勧めてくるのかが分からず、不思議そうに尋ね返す。
「チーズを使った物なので、好きかと思って…」
「…なるほど、そういう事なら頂きましょう」
 チーズと聞かされたナズーリンが、いつもの調子を装いながら頷いた。
 後輩に当たる響子の前で、露骨に喜びを表すのが恥ずかしいのだろう。
「響子さんも一緒にいかがです?」
「えっ、私も!? い、いいんですか?」
「もちろんですよ」
「あ、ありがとうございます!」
 自分も誘われるとは思っていなかった響子は、驚きながら確認する。
 それを笑顔で肯定した星を見て、響子はまた耳と尻尾をぱたぱたと振りながら礼を言った。
「では、私はお茶の用意を…」
「いえっ、ここは私にさせてください!」
「そ、そうかい? じゃあ、頼むとしよう…」
 お茶を用意しに行こうとしたナズーリンを遮って、響子が手を挙げる。
 その迫力に少したじろぎながら、お茶の用意を任せる事にした。
「はい、すぐに用意しますね!」
 嬉しそうに言うと、響子が部屋を出てお茶の用意をしに行った。
「相変らず元気ですねぇ、響子さんは」
「…元気と言うよりやかましいだけの気もしますが」
 のほほん、と笑いながら後姿を見送っていた星の呟きに、ナズーリンが飽きれながら返事を返す。
 それから二人は、一足先にお菓子が置いてある星の部屋へと向かった。
「そういえば、どうしてナズーリンは響子さんの部屋に?」
「え、あぁ、まぁちょっと…大した事じゃないので、気にしないでください」
 部屋へ行く途中で、何をしていたのか気になった星がナズーリンに尋ねた。
 それを雑にはぐらかすと、ナズーリンが追求を避けるように早足になる。
「えぇっ、そんな事言われたら気になるじゃないですか」
「気になるなら本人に聞いてください、彼女の用事だったんですから」
 その後を追いかけながら、星が何とか話を聞こうとする。
 結局、響子がお茶を用意して戻ってくるまで、その問答は続いていたのだった。
寅丸の能力が命蓮寺を支えている、いわば縁の下の力持ち的な存在だったらいいなぁ、とか。
命蓮寺の面々は家族という要素が強いんじゃないかと個人的には思ってます。
秋阿鐘
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コメント



0.780簡易評価
12.60名前が無い程度の能力削除
あぁ! それって宝塔?
13.90名前が無い程度の能力削除
素敵やん星ちゃん…