Coolier - 新生・東方創想話

揉ませろこーりん!

2012/10/14 03:49:01
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 香霖堂の店内で、僕はイスに座り読書をたしなんでいた。が、問題が起きた。
 白く、細い腕が僕の両腋から生えたのだ。反射的に本を投げ捨て、僕はその細い腕をがっちりと捕まえた。
 首を限界までひねると、赤い瞳が僕の視界に映る。
「間違っていたら悪いから、先に謝っておくよ。君はレミリアの妹だね」
「そういうあなたは香霖堂の店主ね」
「で、君は何をしているんだい?」
「胸を揉もうとしてるの」
 何を言ってるのだろうか。この小娘は。
「僕は男だ」
「本では読んだことあるけど、男と女って結局どう違うのさ?」
 相当な箱入り娘と聞いていたが、まさかここまでとは……。
「お姉さんに聞けば良いじゃないか」
「私より胸があるのが女。それ未満が男。ってお姉さまが言ってたわ」
「たいした英才教育だ」
 レミリアの胸が基準では僕のように少しでも胸筋がある男はすべて女になってしまう。
「さて、そろそろ離してもらいましょうか。エロ親父さん」
「エロ親父って、君、男と女の区別は胸で決めるんじゃ……」
 ゴギャァッ! 
 いつの間にか手が組みかえられていた。フランが僕の腕を曲げてはいけない方向に90度曲げていた。どんな理不尽にも紳士は泣かないわめかない。
「で、当然用事があって来たんだろう?」
 もう腕に感覚はなかった。
「PADをもらいに来たの」
「ふん。お子様が何を言うんだ」
 ボギャアッ!
 僕の腕が180度ひん曲がった。僕の腕はいつから折りたたみ式になったんだろうね。
「そんな商品取り扱ってるわけないでしょう。ここは健全が売りですよお客様?」
「PADを売る為に咲夜のバスト計ったこと文屋にちくるわよ」
「全力で探させていただきます」
 とは言ったものの、僕はこの店の店主だ。在庫くらいは把握している。
「実は在庫が切れております。お客様」
「なめてるの? イスから一歩も動いてないじゃない」
「仕方ないじゃないか。事実なんだし」
「はぁ……どうして私の周りにはこう……、役立たずしか居ないのかしら」
 不満気にフランは溜め息をついた。なんという言い草だ。
「そもそも、なんでPADを欲しがるんだい?」
「女性の力は胸の大きさに比例する、って咲夜が言ってたの」
「それはまたたいした英才教育だ」
 PADの咲夜が何を言っているのだろうか。あと驚きなのは、フランに女という自覚があることだ。つまるところレミリアより胸が大きい。レミリアが少しかわいそうだ。
「まぁ、確かに胸の大きさに力は比例するかもね」
 大方、咲夜は魅力と言いたかったのだろう。確かに、胸が大きい、たとえば新聞記者の文ちゃんなんかは女の魅力に溢れている。
「まったく、PADが欲しいなら男の胸なんて揉もうとせずに、さっさと言ってくれればよかったのに」
「だ、だって、お姉さまより胸があったんだ……もん」
 フランの顔が真っ赤だ。男と女を間違えたことがそんなに恥ずかしいのだろうか。
「一応言っておくが、僕のは胸筋だ。それにな、お姉さまを馬鹿にしてばっかりだが、君も……」
「あ゛?」
「……雲山のように立派な胸を持ってるからね」
 ふぅ、脈絡としてはおかしいが、ごまかせ……ガギャアッ!
 腕が270度にまで折れ曲がった。骨の間接部分がおかしなことになっている。
「そいつ、雲でしょ♂でしょ」
 どうしてこの箱入り娘は雲山の存在を知っている!? ここは落ち着いて僕の主張を出しといた方がよさそうだ。
「でも、雲山は胸あるからね? 君の胸の例えとしてはもったいないくらいに」
 ボギャアッ! スポン
 僕の腕が一周まわって元に戻ったのだった。









「ふぅ、まったく。今日はサービスだよ。僕の護衛ってことで、PAD代はまけといてあげるよ」
 僕は妖怪の山のにとりに用があった。だが、妖怪の山は少々危険で、非戦闘要員の僕が護衛なしで歩くのは少々勇気がいることだった。そのため、フランに護衛を頼み、その報酬としてPADをくれてやる、ということで成立したのだ。しかも、都合が良いことににとりはPADも作ってくれる。
 妖怪の山のふもとまで来ると、関所が見えてきた。紅葉の中にたたずむ石造りの関所。なんだか趣がある。
 関所につく前に、日傘を差し、僕の隣を歩く吸血鬼に忠告をしておくことにした。
「襲ってこない妖怪に、手を出しちゃ駄目だよ」
「うん」
 素直でよろしい。
 関所に着くと、中からとてて、と犬走椛が出てきた。本来、護衛はいつも椛に頼むため、僕と椛は顔を見知った仲だ。
「こんにちは。椛さん」
「こんにちは。お久しぶりですね霖之助さガぎゃあ!?」
 フランのヘッドクラッチ。
「き、君!? だから手を出すなと言ったじゃないか!?」
「え? わたしごしゅじんさまのごえいだよ?」
 上目遣いで、ご丁寧に目を潤ませながらおっしゃりやがる。
「とにかく、その頭のクラッチを解くんだ!」
「はーい」
 ぽいっと、フランは椛を投げ捨てる。白目を剥き、もみじはびくんびくんと痙攣していた。ここで天狗に敵視されるのは非常にまずい。
「だ、大丈夫ですか椛さん!?」
「あ、あ……、見える――」
「!? それは多分三途の川だ! 渡っちゃだめ――」

「香霖堂で泥棒を働いている魔女の姿が……」

「魔理沙ァァアァあァアァッ!! 貴様、人が留守のときにィィイィいィィッ!!!!」
 椛は千里眼の持ち主だ。
 僕の体は、すでに店に向かって走り出していた。
 ガシィッ!
「どこ行くのよ」
「離せェェェエェェェ! フランッ! 漢には守らなければならない家族(商品)があぐばぁっ!?」
 フランのストレートが寸分たがわず僕のみぞおちを貫いた。
「行くわよ」
 動けなくなった僕を引きずり、フランは関所を堂々とくぐった。
 もう会えなくなるであろう家族(商品)の涙が、僕の目から零れ落ちていた。







 僕がなんとか歩けるまでに回復したのは、山の二合目に至ったころだった。
 妖怪の山の紅葉は歩いていようが引きずられていようが綺麗だ。見ていて楽しい。それは、フランも同じようで目を輝かせて辺りを見回している。
「わぁ、流石妖怪の山。あの赤くておいしそうなもの、全部人間の血でできたお菓子なんだよね」
 この子が言うと、本気かボケが判断できない。めんどくさいからもう突っ込まないことにした。楽しんでいるようで結構だ。
「妖怪の山を占領したら、あのお菓子全部私の物なんだよね」
「!? まてまてまてまて! あれはお菓子じゃなくて紅葉。植物だ! 食べてもまずい!」
 そんなくだらない理由で異変を起こされても困る。
「ちぇ~そうだんだ」
「そうだよ」
 危ういところだったが、異変が起こる前に解決できたようだ。
 しばらくのろのろと歩いていると、僕らは川に行き当たった。ここまで来たらにとりの家はすぐで、川に沿って山を登るだけでよい。
「あ、そこのお方はまさか!」
 川上に向けて足を踏み出したと同時に、僕等に声が投げかけられた。
 この声は……文ちゃん!
 蒼く空に、黒い天使がいた。まず目に入ったのが羽ばたく漆黒の翼。この世のどんな黒よりも美しく、力強い。それと同じくらいに美しい黒髪。二つの黒が儚く揺れると、同時に、音もなく黒い天使は地上に舞い降りた。着地の際に吹き上げた僅かな風が彼女のスカートを揺らす。それはこの世の物とは思えないなびき方をし、僕の目を引いた。が、それも霞んでしまう程に美しかったのが胸だ。大ぶりなりんごを胸に入れているのかと、思えるほどの胸。しかし、りんごのように固くはなく、着地と共にそれは身震いをした。白いシャツがはち切れんばかりの胸に、僕は釘付けになっ……以下略。
 女はああでなければ。久しぶりにまともな女の子が見れて、自然と僕の頬は緩んでいた。
「きゅ……どか……」
「ん?」
 フランが笑顔で右手を握った。
 どかーん、と文ちゃんが爆発した。
 僕は笑顔のままで固まった。
「き、み……、どうして?」
「胸が気に食わなかった」
 あ、もうこの子は信じれないや。胸だけで人妖の良し悪しを決めるなんて。
 黒こげになった文にフランはとててーっと歩み寄る。
「あ、この鴉もPADだ」
「僕はもう誰も信じない!」








 工場を小さくしたような家が、にとりの家だ。えんとつが数本建っており、それぞれ煙を吐いている。その家の前で、にとりは機械の塊をいじっていた。機械の塊は『コピー機』というものらしい。僕の識別眼がそう言っている。
「こんにちは。にとりさん」
「きゅ……」
 ガシッ
 笑顔をにとりに見せたまま、僕はフランの手を掴んだ。
「ちっ」
 ちっ、じゃない。
「やぁ、半分盟友! 今日はなんのようだい?」
 子供のようなはつらつさと、職人のようなかったつさを混ぜ合わせたような笑みをにとりは浮かべる。
「今日はPADと、銀のナイフを作ってもらいにきたんだ」
 銀のナイフは、僕の個人的な注文だ。そろそろかのPAD長が銀のナイフを買いにくる時期なので早めに仕入れておく。
「銀のナイフにPADねえ。またあの貧乳(咲夜)かい?」
「いや、銀のナイフはあの貧乳(咲夜)だが、PADはこの貧乳(フラン)だ」
「あっはっは! その貧乳(フラン)か! ただ、だ。半分盟友。残念ながらナイフもPADも素材が足りないよ……」
「ナイフに関してはいつものようにご心配なく。今、調達できましたから」
 いつの間にか僕の後頭部に生えていた銀のナイフを引き抜き、にとりに渡す。にとりと咲夜の貧乳話をすると、後頭部になぜか銀のナイフが生えるのだ。おかげで銀のナイフの元値ゼロ。ありがたい話だ。
「まぁ、足りない分はにとりさんの頭に生えた銀のナイフでどうにかしてください」
「承知した」
「PADの方は何が足りないんですか? 僕に出せるものでしたら、フランに店から取ってきてもらいますから」
 商売の話になると敬語になるのは、僕の癖だ。
 僕の言葉に、にとりはええと、と唸る。大抵の物なら僕の店にある。
「白狼天狗の尻尾」
「!? 待て、フラン。行かなくて良い!」
 間違いなく椛から尻尾をもぎ取ってくる。
「言われても行かないわよ。はい、にとり」
 白くてふわふわとした毛玉を取り出し、フランはにとりに渡した。
「ねえフラン、それ椛さんの尻尾じゃないよね? ねえ!?」
「おお、これは確かに白狼の尻尾だ。たいしたもの持ってるじゃないか!」
 ふわふわとした毛玉を、にとりは満足気にいじる。
 ……まぁ、目的のためだ。椛さんには悪いけど今回は目をつむろう。ただ――。
「後からちゃんと返しとくんだよ?」
 そうフランにささやいておいた。
「うん」
 素直でよろしい。
「じゃ、早速作るよ。そこの貧乳(フラン)のバストは?」
「え……、あ、あの……、私のは……」
 急にフランがもじもじしだした。らしくないこともあるものだ。
 フランはAAAカップだ。僕の識別眼がそう言っている。AAAカップなぞ、胸としてはないようなものだ。
「ちょ、ちょっとね、ちょっと恥ずかしいけど――」
「皆無だ」
 じれったいから僕がにとりに伝えることにした。
「ね、こーりんさん。あなたに乙女心を気遣う精神はないのかしら?」
 ああ、言い方が悪かったか。
「(Fカップ)-(Eカップ)-(Aカップ)+(AAAカップ)=皆無だ」
「あは、お兄ちゃんだーいすき!」
 鋭いアッパーが僕のあごを砕いたのだった。







 銀のナイフとPADを作ってもらい、山を降りた。香霖堂に戻ったのは、結局夕方になってからだ。
「これで私も胸を張って紅魔館を歩けるわ」
 手に持ったPADを高々と宙に掲げるフラン。
「それは良かったね。でも、いつまでもPADに頼っていてはだめだよ?」
「むぅ、ならどうすれば良いのよ」
 僕は愛用のイスにどっかりと腰掛けた。
「胸が小さくなる原因はね」
「うん」
「小食」
「うん」
「偏った食生活」
「うん」
「夜型の生活」
「うん」
「幼いながらにアルコールを摂取している」
「うん。よくわかったわ。あんた、吸血鬼を馬鹿にしてるのね?」
 PADを棚の上に置き、フランはぼきぼきと拳をならした。
「待て! 待つんだ! そんなつもりは一切ない!」
「なら、どうすれば大きくなるのよ」
「胸をもんだら血行が良くなって大きくなるらしい」
「も……揉んでくれる?」
「ない物はもめない」
「やっぱ殺すわ」
 こうなるのはもうわかっていたよ。
 今日何度目かわからないパンチを、僕は目をつぶり受け止めることにした。それが紳士と言うものだろう。
 が、衝撃は訪れなかった。かわりにフランがイスごと僕をぎゅっと抱きしめていたのだ。
「実はね、嘘なの」
「ん?」
 何がどうなってこうなったのかさっぱりわからなかった。
「あ、PADをもらいにきたってのはほんとよ。でも、胸を揉もうとした、なんて嘘。ごまかしよ」
 フランが言っているのは来店したときのことだと僕は理解した。
「なんかね、頼りがいのある匂いがしたから、ちょっとね、触れたくなったの」
 フランの声はどこか熱っぽかった。
「ねえ、私のこと、どう思う?」
 なんと返せば良いのだろうか。これは人間の里で噂の、告白フラグだろうか。いやいやいや、こんな陳腐なパターンがあって良いはずがない。 無難な答えを返しといた方がいいか。
「君の鎖骨は骨ばってて痛い」
「死になさい」
 僕は綺麗にジャーマンスープレックスを決められましたとさ。
読んで下さってありがとうございます。
貧乳ネタ、PADネタが貯まったのでざっくりと
晴れ空
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コメント



0.590簡易評価
1.20名前が無い程度の能力削除
うーん…。 ギャグとの事ですが、特に笑いどころがありませんでした。PADネタに飽き切っているのもあるかも知れませんが。
5.100名前が無い程度の能力削除
面白かったです。こうりんの腕が一定の数値ごとに曲がっていくのは反復を用いたギャグでしょうか。その理不尽さを、一人称で淡々と続けていく様が面白かったです。
レミリアによる男女観も、自己中心的(良い意味)な性格を表していて面白かったです。
にとりのセリフ、「半分盟友」も半分人間で、半分は妖怪であるこうりんにかけていたのでしょうか?面白かったです。
作者はセンスの塊。仮にお笑い芸人でなければ、相方に恵まれなかったのでしょうか。Mー1が終わってしまったことが残念ですが、Rー1はまだ続いています。今度は文字では無く、口頭で私達を笑わせて下さい。
9.10名前が無い程度の能力削除
全くセンスを感じない作品でした。特に面白味もないのに目立ってるだけですぐ消える一発屋芸人そのもの。
13.10名前が無い程度の能力削除
未だにこのネタを使う貴方の勇気に感服致しました (笑)
15.10名前が無い程度の能力削除
はい
16.40名前が無い程度の能力削除
PADネタは受け付けない方も平気な方もいらっしゃるのでなんとも言えませんが、
フランちゃんがいちいち暴力に走るのはギャグになってないような。
どつき漫才も度が過ぎると不快感になります。
20.80名前が無い程度の能力削除
おもしろかったです。ありがちなようで自分には出来ない発想が随所にあったので関心しながら読んでました。
あと静かな文体が心地好かったです。
22.100ルミ海苔削除
テンポが良く。面白かったです。成熟したPADネタだったせいか時を止めてナイフを投げる咲夜さんが容易に想像できましたw